「連合兵戦記(仮)」2章 5

Last-modified: 2014-09-27 (土) 21:45:19

部下が突然の同僚の死の衝撃と戦闘の恐怖に何とか対処しようとしていたのと同じ頃、
バルクは、モニターに映された外の情景を凝視していた。

 

敵が機甲歩兵主体である以上、都市のどこに敵が潜んでいてもおかしくないと彼は判断していた。

 

モニターに映し出された光景・・・・・・・4月1日以来、放置され痛々しくひび割れたコンクリートの壁を曝す建造物、
道路は、アスファルトやコンクリートが捲れ上がり、街路樹は燃料にする為に残らず引き抜かれていた。

 

道路上には、放置された車両が幾つも放棄されていた。中でも暴徒の襲撃を受けたのであろうパトカーは無残にも横倒しにされ、ドアや窓ガラスが破損していた。
開戦前は、商品に溢れていたであろう商店の列は、混乱の中略奪され、無残な姿に変換されていた。
特に食料品店は、中で爆弾が炸裂したのかと思う程荒らされ、アイスや冷凍食品が保管されていた
アイスケースは店の外に転がっている。

 

衣料品店のショーウインドは軒並みガラスをたたき割られ、
中にはガラス片とゴミに塗れた惨死体の様にバラバラの白いマネキンが転がっていた。
マネキンが着用していたであろう衣類は引き裂かれ、劣化し、色紙の屑や原始人の服さながらに変貌して付着していた。

 

それはゴーストタウンといった表現ですら生易しく、人類が産業革命以来創り上げてきた大量消費社会という名の
華やかなる文化文明の生態系が、流通という川の流れを失えば、瞬時に死滅してしまうということを
見る者すべてに対して雄弁に教えていた。

 
 

「酷いものだ…」思わず、彼は呟いた。
彼が、ザフト兵として地球に降下する直前の説明やプラント最高評議会議員達の演説では、

 

地球に未曾有のエネルギー危機と通信・交通障害と死者を齎し、
現在進行形で被害を与え続けている装置 ニュートロンジャマーは、
地球連合が野蛮にも核を撃ち込んだのと反対に自ら核を使用することを封じたコーディネイターの崇高な英断である。とされていた。
バルクも多くのザフト兵同様、その言葉を信じていた。

 
 

そして彼が初陣を迎えた北アフリカ戦線で、その常識…いや妄想は、粉々に打ち砕かれた。

 

そこで彼が見たものは、NJ災害と敗走する地球連合軍の焦土作戦で起こった食糧不足によって餓死していく人々、
医薬品不足によって薬局で安価に手に入る薬品で治療可能な程度の病気で死ぬ子供達、
わずかな生活物資を巡り、村落間で殺し合う地獄絵図・・・・・・この事態に対して新たに統治者となった北アフリカ共同体も、
ザフト軍も重要な拠点である都市と周辺部以外なんら対策を取ることはなかった。

 

ザフト軍の中には、愚かなナチュラルは、効率の良い遺伝子組み換え作物を用いていない
(地球では再構築戦争期に一部の国家やテロ組織が行ったバイオテロ、飢餓作戦の記憶から遺伝子組み換え作物に対しての規制が敷かれていた。)
からこのような事態を招いたのだ。等という暴論を吐くものさえいた。

 

これらの情景を見たバルクには、NJ投下が反文明的な行為以外の何物でもないと考えていた。
この戦争がどんな終わり方を迎えるにせよ、西暦でのソビエト連邦の飢餓輸出やナチスドイツのアウシュヴィッツ収容所の
様に語り継がれることは間違いないだろう・・・だが、プラントの勝利で終われば後世に悪名を残す程度ので済むだろうが、
敗北すれば、文字通り抹殺される事すら不思議ではない。

 
 

地球連合が宣戦布告の数日後に宇宙移民の生活の根本であるスペースコロニーに対して
核兵器を撃ち込んだという事実だけで、地球連合がプラントのコーディネイターを交渉相手以前に、
同じ人間として見成していないことの証であるとバルクを含むザフト兵やプラント住民の間では考えられていた。
「家族の為にも、生き延びねばな」
バルクの心に秘めた思いが、不意に音声化されてコックピットに響いた。

 
 

かつてブルーコスモスのテロが頻発していたユーラシア連邦領の故郷から逃れてプラントに移住し、
プラント建設に労働者として従事することに人生の半分を奉げてきた彼は、
プラントの未来の為、同胞であるコーディネイターの為、そして家族の為に命を捨てる覚悟を持っていた。

 

やがて2機のジンは、公園とそれを囲む住宅群にたどり着いた。

 

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