「連合兵戦記(仮)」4

Last-modified: 2014-03-14 (金) 12:38:17

5月3日にアフリカ北岸に上陸したザフト軍は、モラシム艦隊を初めとするボズゴロフ級潜水空母艦隊の
航空支援を受けつつ北アフリカ侵攻を開始した。

 

北アフリカ各地でアフリカ共同体支持のゲリラが決起していたことに
による地球連合側の混乱、距離的にアフリカに最も戦力を投入可能なユーラシア連邦
が、ザフト軍のジブラルタル基地制圧を嚆矢とするヨーロッパ侵攻に対応するのに限界であった
ことに起因する増援部隊の少なさ(ユーラシア連邦軍の一部は、混乱状態にあった汎ムスリム会議領
ルートで進軍)もあって無人の野を進むかの如き迅速さで北アフリカを制圧していった。

 

対するユーラシア連邦軍とアフリカ連合を中核とする地球連合軍は、初戦で敗北し、各地で焦土作戦を行いつつ撤退を繰り返すばかりであった。

 

しかし5月30日 エジプト州北部 エル・アラメインで両軍は本格的に衝突した。

 

エル・アラメイン…西暦時代、ドイツの名将 エルウィン・ロンメルと
彼の指揮下で連戦連勝を重ねた精鋭のドイツアフリカ軍団(DAK)が潤沢な
補給を受けた米英連合軍に敗北を喫した激戦地は、再び砲声と爆音、兵士の悲鳴が木霊する地となったのであった。

 

エル・アラメイン会戦は、沿岸より上陸したザフト軍の陸戦MS TFA-2 ザウートを中核とする部隊
があらかじめ待ち伏せていた地球連合軍側大戦車軍団の衝突から始まった。

 

この時、地球連合軍の大戦車部隊を率いていたのは、陸軍大国のユーラシア連邦軍でも
有数の戦車指揮官 モーガン・シュバリエ大尉であった。
彼は、夜間作戦に優れていたことと時折常人には無謀に見える優れた作戦を立案する
ことから「月下の狂犬」と綽名されていた。

 

ザフト軍は、これまでのニュートロンジャマーによる通信障害によって連携の取れなくなった自軍を遥かに上回る地球連合軍を粉砕してきたことで油断があった。

 

しかし、モーガン・シュバリエ率いる戦車師団は、ニュートロンジャマーによる
通信障害を逆手に取り、予め工兵により埋められていた地雷を初めとするトラップと
信号弾、訓練を重ねた練達の戦車兵同士の技量のみで無線通信使用時とほぼ変わらない
レベルの高度なフォーメーションを可能にしていた。

 

対するザフト軍は、多数のザウートと少数のジンの砂漠戦仕様 ジン・オーカーで編成されていた。
ザウートは、装甲と火力では、リニアガンタンクを優越していたが、機動性では、MSの上半身と重い火砲を備えていたこと
もあって遥かに劣っていた。
更にジン・オーカーに機動性で劣るため、双方の部隊は、互いに連携が取れず孤立してしまうこととなった。

 

本来後方支援に徹するべき、ザウートは、リニアガンタンク部隊に単独で交戦してしまうこととなった。

 

シュバリエ大尉は、少数のジン・オーカーをアフリカ統一機構軍に任せると自身の部隊をザウート部隊に突撃させた。
本来、接近戦は、モビルスーツの独壇場のはずであったが、この場合は、違っていた。

 

シュバリエ大尉旗下のリニアガンタンク部隊を先頭に地球連合戦車軍団は、数で劣る鈍重なザウート部隊を押し包むよう
に接近するとフォーメーションを駆使してザウートをかく乱しつつ、次々と履帯を狙って砲撃した。

 

火力と装甲で上回るはずのザウートは、同士討ちを恐れて反撃できず、次々と履帯を撃ち抜かれて擱座していた。
さらに行動不能に陥ったザウートには、リニアガンタンク部隊に随伴していたユーラシア連邦機甲兵部隊の肉薄攻撃と
上空のヘリ部隊が止めを刺した。

 

この時、機甲兵部隊が着用していたパワードスーツは、グティの砂漠戦仕様 フェダーインであった。

 

シュバリエ大尉旗下の部隊他一部優良部隊にのみ配備されていた配備されたばかりの
フジヤマ社製熱紋誘導ミサイルも猛威を振るった。

 

この兵器は本来、質量ともにユーラシア連邦機甲軍団に劣る東アジア共和国戦車部隊の戦力強化のために
開発されていたもので、
仮想敵のユーラシア連邦の精鋭戦車部隊が運用しているという皮肉な光景であった。

 

また履帯の面でもザウートは、リニアガンタンクに劣っていた。リニアガンタンクの履帯は、砂漠や寒冷地、
湿地といった過酷な自然環境に対応可能な耐久性能を備えていた上、ゲリラの仕掛け爆弾等の攻撃により、
履帯が破損した場合に備えて、車輪には、高性能モーターが内蔵されていた。

 

コロニーや都市の舗装された地面での運用が前提である作業用重機を転用したに過ぎない
ザウートの履帯とは、雲泥の差であった。

 

またアフリカ統一機構軍も機甲兵力ではユーラシア連邦に劣っていたが、対戦車火器やトラップを有効活用し、
先行し過ぎていたジン・オーカー部隊に大打撃を与えた。
地球連合軍戦車部隊は、ザウート主体のザフト軍を圧倒し、
一時は、ザウート部隊を率いていた指揮官 マーチン・ダコスタの乗機を撃破する寸前まで迫った。

 

その時、増援として上陸地点より駆けつけたアンドリュー・バルドフェルドを指揮官とする
新型陸戦モビルスーツ バクゥ部隊がザウート部隊と入れ替わる様にしてそれまで
優位に立っていた地球連合軍戦車部隊の前に立ちふさがった。

 

バクゥは、ザウートやディンと同様にプラントが全世界に対して行った放送で
新型MSとして発表され、既に実戦投入されていたが、四足歩行という特殊な形状から他の機種よりも生産
が少なく、この戦いが事実上の本格的な実戦であった。

 

バルドフェルドは、バクゥを分散させず集中運用することで地球連合側戦車部隊を分断すべく突撃した。

 

バクゥは、大火力と肉食獣の如き運動性でリニアガンタンク部隊を圧倒し、次々と鉄の棺桶に変えていった。
さらに後退した残存のザウート部隊が後方から砲撃による支援を開始、
更に洋上のボズゴロフ級潜水空母より発艦したディン部隊によってヘリ部隊が壊滅させられたことで
地球連合側の敗北は決定的となった。

 

この戦いで在アフリカ地球連合軍が誇る戦車師団は、壊滅し、多くの優秀な戦車兵が失われた。
指揮官のモーガン・シュバリエは、撤退戦の際も優れた力量を発揮し、
多くの部隊が指揮官戦死、7割壊滅という悲惨な状況下で損害を3割に局限し撤退した。
彼がバクゥ部隊の突撃とディン部隊の航空攻撃で混乱の渦中にある中で後退できたのは、彼が優秀な将校
であったというだけでなく、彼のある能力も作用していたのであったが、本人を含めそれに気づいた者は
居なかった。

 

勝利の立役者となったバクゥ部隊の中核を成したバルドフェルド中隊 指揮官 アンドリュー・バルドフェルドは、
後日オレンジとブラックのツートンカラーに乗機を塗装していたことと相まって「砂漠の虎」
とプラントの最高評議会の意を受けた宣伝機関(母体となったのは、プラント有数の広告代理店であった。)
によって大いに宣伝された。

 

その後、エジプト州に孤立した地球連合軍の一部は、アレクサンドリアとカイロに無防備都市宣言を出す
と海路でユーラシア連邦領 トルコ、ギリシャに撤退した。

 

以後、ザフト軍は、かつて彼らが地球連合軍の前に敗戦を喫したビクトリア宇宙基地制圧
を目的として南下した。

 

翌日 ザフト軍の力とニュートロンジャマーによる混乱によって北アフリカの主要な地域
を制圧したアフリカ共同体は、アフリカ共同体の建国を正式に宣言
オセアニアの大洋州連合に次ぐ地球上二番目の親プラント国家の誕生であった。