明日の朝、あと何時間かもすれば俺とルフィは大海原へと出発する。
俺がこの村にやってきて三年、ルフィに誘われて海賊になる事を決めたのがそれから半年と少したったくらいか。なんにせよ早いもんだ。
あの村は、俺のようなどこからやって来たかもわからない男を村のみんなは温かく迎えてくれた、まさに第二の故郷である。そこから離れて、しかも二度と帰ってこることができないのかもしれないのだから、寂しくないといえば嘘になる。
しかし、それは出発を明日と決めたルフィだって同じだろう。
いつもはなにを考えているかわからないが、さすがにこの数日は、ふとした瞬間に、寂しさを感じさせるような雰囲気をわずかながらも――気づいたのは俺とマキノさんくらいか、もしかしたら村長も――出していた。
もちろん、寂しそうとは言ったものの、それ以上に早く海に出たい! という気持ちはそれ以上に全身で表現していた。海賊になるのはあいつにとって十年来の夢だったのだからテンションが上がるのも当然か。もちろん、最終的には海賊王になることを掲げている以上、これでようやくスタートラインにたったに過ぎないわけだし、こんなことで喜んでいられないのだが、たとえそれがどんなに小さな一歩や些細な出来事だろうとそれが海賊王への道程だという確信さえあれば全力を傾けることができる、その辺のひたむきさというか能天気さがルフィのルフィたる由縁なんだろう。
かく言う俺も、これからの冒険のことを考えると興奮してくる。自分が少々子供っぽいことは自覚していたが、それでも冒険という言葉にこれほどひきつけられるとは思っていなかった。ルフィがあまりにも楽しそうにしていたから、それに感化されたのだろうか。
船長が海賊王を目指している以上、俺もそれに付き合わなければならない。あいつ自身は実にあっけらかんと、それこそ口癖のように言ってのけるのだが、しかし、本来なら口に出すどころか心に思うことさえためらってしまうようなことだ。大海賊時代にあってそれがどのような意味をもつかは、それこそ「部外者」である俺にだってすぐに理解することができた。
海と空の間に広がる水平線の中を、気の知れた仲間たちと一緒に漂うのは楽しそうだが、同じように危険なことだって山のようにある。海軍はもちろん、名が知られるようになれば同業者や賞金稼ぎに狙われるようになる。
海賊王だなんだという以前に、そもそもグランドラインにすら入ることができずに命を落とすことだってあるかもしれない。
……が。
それがいったいなんだっていうんだ。
殺し合いなら散々やってきた。それが少し前までの俺の仕事だった。この命も本当なら三年前に消えているはずのもの。今更死ぬのが怖いとは思わないし、思えない。思えるわけがない。
俺みたいなやつの最期には野垂れ死にがお似合いだろう。それどころか、あの真っ暗で冷え切った宇宙ではなく、生命溢れる大海原を死に場所にできるというのなら勿体ないくらいだ。
もちろん無駄死にする気はない。
手に入れてやろうじゃないか、ワンピース。
あっちじゃアスハやら連合やらアークエンジェルやらフリーダムに振り回されっぱなしだった。ザフトと議長にもだいぶお世話になった。今更恨みはしないが、せっかく仕切りなおす機会をもらったんだ。こっちじゃあ、せいぜい自由にやらせてもらおう。
これからは、改めて自分のデスティニーを楽しむことにする。