『ONE PIECE』VS『SEED』!! 514氏_第01話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 04:09:59

 イースト・ブルーに浮かぶある島にフーシャ村という港町がある。特に有名なものがあるわけでもなく、そのおかげで海賊もめったにやってこない、大海賊時代の只中にあってなかなか平穏な田舎町である。
 その村の港の近くにある酒場が、最近、人々の話題になっていた。元々評判は良く夕暮れからは相応の賑わいを見せるこの店にある異変が起こったのだ。
 酒場という形態をとる以上、食事をとるにしてもお酒とセットになるため、どうしても客層は男に限られてくることになるのだが、最近は昼からの客、しかも女性客が一気に増え始めたのだ。勿論、それにはちゃんとした理由がある。
現在の時刻は午前11時。そろそろ最初のお客さんがやってこようかという時間で、店主のマキノは店の中で開店の準備を始めていた。
 するとそこに、二人の少年がやってきた。

「おっす、マキノ」

元気な声で挨拶をしたのは麦藁帽子がトレードマークの海賊王を目指す少年、モンキー・D・ルフィ。
 そしてもう一人は、

「・・・こんにちは」

 黒髪赤目の美少年。そう、皆さんご存知、我らがシン・アスカその人である。こちらはルフィに比べると明らかに元気が無い。

「こんにちは、二人とも」

 挨拶を返しながら、二人の様子の差にマキノは苦笑した。席に座った二人に水を差し出すと、ルフィはそれをゴクゴクと一気に飲み干したが、シンはテーブルにへばりついたままわずかに目を向けるだけである。

「ねえ、シン君、疲れてるならお昼は休んでていいのよ?」
「いえ・・・ご心配なく・・・・・・」
「なさけないぞ、おまえ。そんなんで海に出られと思ってんのかあ?」
「そっちが異常なんだよ・・・・・・バカ野郎・・・・・・」

 体の中に残ったなけなしの体力と気力をかき集めて水を飲み干すと、シンはゆっくりと立ち上がりフラフラしながら店の奥へと入っていった。

 仮にもザフトのエースだった男が情けない、とかつてのシンを知るものなら思うかもしれない。実際、彼自身もそう思って肩を落とすことが多々ある。しかし、彼が過ごしている一日のスケジュールを見れば誰もが納得するだろう。
 まずは太陽が昇るとともにやってくるルフィに叩き起こされ、一緒に朝食を食べ終わると、地獄の訓練が始まる。ルフィ曰く、海賊になるために必要な訓練だそうだが、シンからすれば海賊どころか怪物になってしまうようなハードワークである。
それを早朝から昼前までの朝錬と、昼過ぎから夕食の直前までの昼錬、合わせて一日二回行う。
 ルフィはこれで終わりだが、シンの場合はさらに、お昼時にはマキノの酒場でお手伝い(最近増えた女性客はもちろん皆シンがお目当てである)、夜は楽器の練習と海で必要な知識の習得に費やしている。これらがすべて終わるのが午後8時から9時までであり、10時には床に就き、また翌日、朝日とともに起こされて、を繰り返しているのだ。
 おそらくザフトの訓練生時代はおろか、ミネルバに乗って過ごした戦時中をもはるかに凌ぐ過密スケジュールであろう。彼が赤服ではなく普通のコーディネイターだったら一日でダウンしている。
 では、なぜこんなきついことをシンは毎日やっているのかというと、ちゃんとした理由がある。本来なら本人に回想でもやってもらいたいところではあるが、今の彼にはそんな余裕も無さそうなので、こちらでさっさと説明してしまうとこういうことになる。

 事の始めは今から約一ヶ月前、その日、朝の訓練を終えたルフィは、なんとなく寄った海岸でもうすぐ自分が旅に出ることになる大海原を待ち切れないという風に眺めていた。だが見慣れているはずのその景色の中に、おかしな物を発見した。
 海と空の青、砂浜と雲の白に埋め尽くされる筈の視界の中に、赤い何かが映っていたのだ。
 彼にとって赤とは理想の海賊『赤髪のシャンクス』を連想させる色。つられるように近づいてみれば、それは見たこともないような赤い服を着た男、すなわちシンが倒れていたのである。
 見た目の年は自分と同じくらいだがあきらかにあやしい服装の怪しい少年を、そんなことはお構いなしに、ルフィはなぜか病院ではなくマキノのところにその男を担ぎこんだのだった。おそらく、見たところ目立った怪我もないことから、きっと腹が減って気を失っているのだろう、なら飯屋に連れて行けばいい、とでも考えたに違いない。
 マキノとしては、いきなり行き倒れをつれてこられても困惑するばかりだが、店の奥に彼女が寝泊りしている部屋があるので、ひとまずそこに寝かせておくことにした。勿論あまり長く目を覚まさなかったら病院に連れて行くところだが、幸いシンはすぐに目を覚ました。
 大変なのはここからである。
 シンにしてみれば、自分は宇宙で爆死した筈。それが気づけば見知らぬ部屋で寝かされていたのだ。ここはどこだお前ら誰だ、天国か地獄か天使か悪魔かと混乱して騒ぐシンをルフィが実力行使で黙らせたり、そのせいで本当に病院行きになったりと、いろいろ騒ぎが起こったのだが、それ自体はあまり本筋とは関係ないので割愛させていただく。
 重要なのは、この世界においてシンとファーストコンタクトをとったのがモンキー・D・ルフィであるということである。
 それから数日、行き倒れていたこととルフィにぼこられたということで、医師の判断で入院させられていたシンは、その間に自分がどういう状況に置かれているかを把握し、すんなりとその事実を受け入れていた。やはり、一度死んだということが大きかったらしい。彼に残ったのはなぜか着ていたザフトレットの赤服のみ。
マユの携帯すらなかったが、それが余計にこの世界で生きていかなければという思いを喚起させた。
 退院した後は、身の振り方を決めるまでと言うことで、多少なりとも恩のあるマキノの手伝いをしようと考え、彼女も男手が増えることを歓迎した。これが酒場の看板娘ならぬ看板男子シン・アスカが生まれたいきさつである。

 では、未来の海賊王の仲間シン・アスカはどのように生まれたのか。
 シン・アスカと言う人間が、良く言えば純粋で直情的、悪く言えばガキっぽいということは周知の事実だが、簡単に言うと、そんな性格のゆえルフィに感化されてしまったのである。
 先に述べたようなこともあり、最初こそ二人の仲は険悪だったが、顔をあわせるうちに言葉を交わすようになり、一言二言が文になり、会話のキャッチボールが始まる頃にはすっかり意気投合していた。
 その頃にはこちらの世界の情勢をほとんど飲み込んでいたシンにとって、ルフィの海賊王になるという夢とそれを叶えるための覚悟はあまりにも衝撃的だった。自分は死の間際、己の不甲斐なさに悔恨さえ感じたというのに・・・。この思いが憧れや憧憬に変わるのにそう時間はかからなかった。
 今度こそ守れるものを守れるように、心から信頼しあえる仲間といられるように。
 ただ、仲間にして欲しいと言った後、じゃあお前は音楽家な、と返されたのはさすがに予想外だったが。
 この日から、シンの地獄のように過酷で今までにないくらい充実した日々が始まった。
 そして、さらに時は流れてシンがこちらにきてから一年がたった。

「やー、今日は船出日和だなー。なあ、シン」
「ろくに計画も立てずにこんな小船で海に出ることを船出と言っていいならな、ルフィ」
「そう言うなって。過ぎたモンはしかたがねえだろ。何とかなるって」
「ホンットお前ってそれしか言わないよな」

 ついに二人は船出の日を迎えたのである。ルフィはもちろん、一年でしっかりフーシャ村に馴染んだシンも村人達の声援を受け海へと旅立った。しかし、それが万全の船出かと言うと、まあ、二人の会話を聞いていただければ分かるだろう。

「そもそもお前は計画を立てなさすぎなんだよ。こんなんじゃ、イーストーブルーを抜けられるかも分かったもんじゃない」
「お、それは心外だぞ、お前。俺だって計画くらいあるさ」
「へえ、じゃあ言ってみろよ」
「まずはなあ・・・」

 ザバアアン!!

「グルルルル・・・」

 ルフィが喋り始めたのをさえぎるように、人間なんて簡単に飲み込んでしまえそうなほど巨大な魚が顔を出した。いかにも肉食ですといった顔をしている。普通なら出会ったことが即死につながるような怪物であろう。
 しかし、

「出たか近海の主!」
「知ってる相手か」
「ああ、こいつには借りがあるんだ。手は出さなくていいぞ」
「了解、キャプテン」

 二人の会話に緊迫感は一切ない。シンは昔だったらこれも十分命の危機だったろうな、などと考えながら、ルフィの相手をするはめになった魚に哀れみさえ感じていた。
 事実、次の瞬間、

「ゴムゴムの銃!!」

 ルフィの必殺技が見事に決まり、一撃で主は海底へと沈んでいった。

「思い知ったか、魚め」

 台詞も決まっている。

「おい、そんなことよりさっきの続きを話せよ」
「ん? さっきの続き?」
「だから、お前の計画だよっ」
「ああ、その話か。まずは仲間集めだ。俺とお前と、そうだなあ10人は欲しいなあ!
そして海賊旗だ!!」
「ハア・・・そんなんだろうと思ったよ」

 ため息をつくシン。ルフィが言っているのはせいぜいが希望であって、計画といえるようなものではない。彼らの前途は多難なようだ。ここはちゃんと先の見通しを気にするようになったシンの成長だけでも喜ぶことにしよう。

「海賊王に俺はなる!!」

 一人盛り上がっているルフィにもう一度ため息をつく。しかし、その夢にのっかているのは自分も同じ。元の世界では感じたこともないような興奮が湧き上がってくるのを感じつつ、シンはルフィと同じ方向を見つめた。先に待つは偉大なる航路『グランドライン』、ひとつなぎの大秘宝『ワンピース』。
 今まさに大冒険の火蓋がきって下ろされたのである。

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