なのはクロスSEED_エピローグ

Last-modified: 2012-01-29 (日) 21:58:30

プレシア・テスタロッサが引き起こした通称ジュエルシード事件はこうして終わりを迎えた。
暴走していた駆動炉は完全に機能を停止し、ジュエルシードも全て封印されていた。しかし、
時の庭園内を何度探しても、どれだけ捜しても、

 

キラ・ヤマトとアスラン・ザラの両名だけは発見される事はなかった――。

 
 

魔法少女リリカルなのはクロスSEED

 
 

エピローグ「そして……それぞれの始まる物語。なの」

 
 
 

――プラント。

 
 

「……う…………ん………」
混濁する意識の中、ゆっくりと重い瞼を開くキラ。
「気がつかれましたか?」
耳に聞こえる女性の声。声の方向へ顔を向けるとそこには、
桃色の長髪の女性――というにはまだ幼さが残るあどけない少女。
以前、宇宙で出逢ったプラントの歌姫――ラクス・クラインがそこにいた。
「こ、こ、は…………?」
「ここは、私の家ですわ」
なぜ自分がこんな所にいるのか、その答えを探そうと朧気な記憶を辿っていく。
そこに描かれたのは、親友との死闘。
互いの大事な友を、互いに奪われ、憎しみのままにただ戦ったあの記憶。
そして、そし、て――――?
「…………」
何だろう、この感覚は
まだ、何かあった筈なのに
思い、出せない。
「僕、は……」
込み上げてくる感情の波に流されて両の瞳から流れ出る涙。
「アスランと、戦って……」
戦って、それで……どう、したんだろう……
何度思い出そうとしても思い出せない。

 

何か、とても大事なことを忘れているような――。

 
 

――同時刻、オーブ近海。

 

「キラを、知っているのか?」
オーブ艦隊に収容されたアスラン。
意識を取り戻し、目に映るのは少しばかりの馴染みのある人。
カガリ・ユラ・アスハはそんなアスラン・ザラに幾つかの質問を投げかけていた。
どうしてあんな処にいたのか。
ストライクを討ったのはおまえか。
キラを知らないか。
最後の質問に反応を返すアスランに投げかけた返答。
「ああ、よく知ってるよ……」
そうだ、俺はあいつの昔からの友達で
「泣き虫で甘ったれで、優秀なのにいい加減な奴で……」
それなのに、あいつは俺の……
「でも、次に逢った時は……敵だった」
何度も、戦って
「戦って、仲間を、ニコルを殺した!」
「だから、キラを殺したのか……」
「敵なんだ!今のあいつはもう……!」
"今"のあいつは……?
「俺の……て、き……」
俺の"敵"、あいつは……キラは……

 

敵、だったんだ――――。

 
 

――アースラ・艦内

 

事件から数日が経過――。
未だ捜索が続けられているが、一向に進展が見られず二人の捜索は絶望的なものになっていた。
事件が終わりを告げたが、全員の中に暗い影を残したまま時間だけが過ぎていく。
そんな中――

 

「今回の事件解決について大きな功績があったものとして、
 ここに略式ではありますがその功績を讃え表彰します」
緊張していますといわんばかりの顔で賞状を読むリンディを見るなのは。
「高町なのはさん、ユーノ・スクライア君……キラ・ヤマト君」
最後に呼ばれたのは、ここにはいない者の名前。
だが、それでもなのはは嬉しかった。
ちゃんと彼の事も自分達と同じようにしてくれた事が。
「ありがとう」
拍手の中、賞状を受け取るなのは。
その表情は、自然と笑みが浮かんでいた。

 

そして、アースラから自宅へ戻ることになったなのはとユーノ。
アースラの面々と別れを告げ、臨海公園へと転送された二人は帰路へついた。
だが、帰る足取りは決して軽くはなかった

 
 

――高町家

 

(キラ君の事、どうやって説明しよう……)
玄関の前で入ることを躊躇っていたなのははずっと考えていた。
消えてしまった彼の事をどうやって家族に言うべきか、と
(……記憶が戻って、自分の家に帰ったって言えばいいんじゃないかな)
無難な返答を返すユーノ。
(うん、そうなんだけど……)
だが、その言葉をちゃんと言えるのか。
嘘だって気づかれないだろうか。
(……悩んでてても仕方ないよね)
まずは、笑顔で帰ろう。
そして、笑顔のまま伝えればいいんだ。
決心がついたなのはは扉を開け、笑顔を浮かべ

 

「ただいまー」

 

暖かく出迎えてくれる家族。
笑顔のまま自然に振舞おうとしてた中、
「そういえば、キラ君は?」
母・桃子の当然くるであろうと予測できた質問。
そして予習してきた通りに

 

「キラ君、記憶が戻って、自分の処へ帰っちゃったんだ」

 

その言語に驚く面々、だが彼は元々記憶喪失の居候。
記憶が戻って帰っていくは当然の事なのだから。
「それで、キラ君どこへ帰っていったの?」
「ふぇっ!?」
次の質問に驚いて声をあげたなのは。
「そ、それは……その……」
(ど、どうしようユーノ君……)
(う、うーん……)
まさかの質問にしどろもどろするなのは。

 

「まぁ、いいじゃないか。無事に記憶も戻ったんならそれで」

 

そんななのはの助け舟を出したのは意外にも父・士郎だった。
「それに、キラにはキラの帰るべき場所があるって事なんだよ」
それに続くのは兄・恭也。
二人の言葉を受け、桃子と姉・美由希は納得した様子だった。

 

(な、なんとかなったね……)
(そ、そうだね……)

 

ほっと胸を撫で下ろす二人であった。

 
 

――夜。

 

月明かりが照らす中、一人道場の中へと入っていくなのは。
そして扉の前に立ち、扉にかかってあったプレートを見る。
『キラくんのお部屋』
それはなのはがキラの為に作ってあげたものだった。

 

――はい、キラ君これ!
――これって……もしかして僕のために?
――うん!だってこれがないとキラ君の部屋だってちゃんとわかるようにしないとね!
――ありがとう、なのはちゃん。

 

ポケットの中から取り出したのは、一本の鍵。
それはこの部屋の合鍵、以前に士郎から預かったものだった。
掛かっていた鍵を開け、ゆっくりと扉を開く。

 

――なのはちゃん。

 

いつもなら、この部屋の住人がいて
いつもなら、扉をあけたなのはの名前をよんでくれるのに――
今は、そこにはもう誰もいなかった。
急激に襲ってくる感情に押しつぶされそうになるが、グッとこらえる。
(キラ、君……)
あの時、なのはには確かにキラの声が聞こえた。
「さよなら」と、
周りの皆に聞いてみても誰もそんな声は聞こえなかったという。
ならば、あれはやはり幻聴だったんだろうか。
もし、本当にキラがなのはに言ったんだとしたらどうして"さよなら"なんだろうか?
本当になのはが聞きたかった言葉は、そんな言葉じゃないのに……
「どう、して……」
彼は別れの言葉を残して消えてしまったのか。
思えば思うほどに切なくなり、いつの間にかなのはの目には涙で一杯になっていた。
そして溜まり続けた涙は許容量を超え、瞳から流れ出し――

 

「うっ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん…………!!」

 

涙と共に溢れ出る感情。
それはずっと我慢してきた少女の悲しみ。
受け入れられなかった現実を受け止めた瞬間、
なのはは、涙を止めることが出来ず、ただ想いのままに泣いていた。
そして、なのはの後ろに着いてきていたユーノ。
彼もまたなのは同様に瞳に涙を浮かべていた。

 

『(なのはちゃんの事、頼んだよ!)』

 

時の庭園の中でキラがユーノに託した言葉。
脳裏に響くその願いが今のユーノに重くのしかかる。
(今の僕には、なのはの涙を止めることは出来ない……
 止められるのは、あなただけなんですよ……キラさん)
自分の無力さを歯痒く噛み締めるユーノはただ、自分も泣かないように必死にこらえていた。
目の前で泣く少女を、これ以上悲しませない為にも、今はただ――。

 
 

――プラント・クライン邸。

 

「僕は、行くよ……」

 

それはラクス・クラインへ向けたキラ・ヤマトの言葉。
もう大分身体の傷は癒えたとはいえ、彼はまだ安静にしていなければならない人間だった。
降りしきる雨の中、庭で立つ彼はこちらを振り向くと涙を流し、そういった。
「どちらへ行かれますの?」
努めて冷静にラクスは聞いてくる。
そんなラクスを見据えて、キラは真っ直ぐに答える。

 

「地球へ……戻らなきゃ……」
「何故?貴方お一人戻ったところで、戦いは終わりませんわ」
確かにその通りだろう。
先程、クライン邸に入った連絡ではザフトは地球軍の本拠地であるアラスカを攻めるとの事だった。
キラがその連絡を受け気掛かりだったアークエンジェルの事を思い返した。
もし戦いが始まってしまってはもうどうしようも出来ない。
だけど、自分一人では何も出来ないことなど分かりきっていた筈、でも――
「でも、ここでただ見ていることも、もう出来ない」
確かにここに入れば少なくとも今は安全だろう。だけど、

 

「何も出来ないって言って、何もしなかったら、もっと何も出来ない。
 何も変わらない――何も終わらないから。それに、諦めたく、ないんだ……」

 

それは、このクライン邸の中でキラはずっと心に引っかかっていた事。
何度思い出そうとしても思い出せないが、たった一つだけ、朧気ではあるが、
心に残っているモノがあった。

 

『――――諦めないで』

 

それは誰の言葉だったのか。
まるで遠い記憶の様に言葉を発しているその人物の姿も名前も思い出せない。
だけど、その言葉だけは思い出せた。
はっきりとしたその言葉にまるで背中を後押しされたように、キラは決心した。
「また、ザフトと戦われるのですか?」
違う、僕は
「では地球軍と?」
"そういう"のと、戦うのじゃなくて――
「僕達は、何と戦わなきゃならないのか、少し、解った気がするから」
それが、キラ・ヤマトの出した答えだった。
その答えに驚いた顔をするラクスだったが、すぐに表情を戻し、

 

「……解りました。では私も、ラクス・クラインも平和の歌を歌いましょう――」

 

同時に、ラクス・クラインも"動く"ことを決意した――。

 
 

――プラント・廃墟と化した劇場。

 

プラントに戻ったアスランを出迎えたのは信じられない報告だった。
オペレーション・スピットブレイクの失敗。
秘密裏に制作されていた新型モビルスーツの奪取。
そしてそれにラクス・クラインが関与していた事――。
父・ザラ議長閣下による新たなる任務、
奪取されたモビルスーツ・フリーダムの奪還とそれに関与する全ての破壊――。
その後、クライン邸を訪れたアスランが発見したのは、自らがプレゼントしたピンクハロだった。
それを追いかけた先にある花をヒントに、アスランは以前ラクスが語った劇場へと足を運んだ。
そして、その劇場からは紛れもない彼女の歌声が聞こえてきた――。

 

「……ラクス」
『(殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に最後は平和になるのかよ!)』
脳裏に蘇るカガリの言葉。
わからなくなっていた。自分がどうすればいいのか。
何を信じ、何の為に戦っているのか――アスランは混迷の中をさまよい続けていた。
「マイド!マイド!」
抱えていたハロが飛び出し、跳ねていった先には――
「ラクス~」
「あら~ピンクちゃん!やはり貴方が連れてきて下さいましたわね、ありがとうございます」
反射的に銃口を向けるアスラン。
その先にはかつての婚約者――ラクス・クラインがいた。
「ラクス!」
「はい?」
「……どういうことですか、これは」
置かれている状況がわかっていないのか?
まるで普通に返答する彼女に真相を問いただしてみなければ――
「お聞きになったから、ここにいらしたのではないのですか?」
「では本当なのですか!?スパイを手引きしたというのは!何故そんなことを!?」
「スパイの手引きなどしてはおりません」
「!?」
なら、やはりラクスは無実――だが、一体どういう
「キラにお渡ししただけですわ。新しい剣を」
「キ、ラ……!?」
キラ……だって?
「今のキラに必要で、キラが持つのが相応しいものだから」
「キラ……?何を、言ってるんです!」
キラは……あいつは……

 

「貴方が殺しましたか?」

 

「!?」
そうだ、あいつは敵で、俺が……俺が……
「大丈夫です。キラは生きています」
あいつが……生きて……?
「う、嘘だ!一体どういう企みなんです!ラクス・クライン!
 そんなバカな話を……あいつは……あいつが生きてるはずがない!!」
ストライクに組み付いて、イージスを自爆させて……
「キラも貴方と戦ったと、言っていましたわ」
「!!」
キラ、が……
「言葉は信じませんか?ではご自分で御覧になったものは?
 戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、何も御覧になりませんでしたか?」
「……」
自分で見てきたモノが、全てを物語る。そう言われているような言葉だった。

 

「アスランが信じて戦うものは何ですか?戴いた勲章ですか?お父様の命令ですか?」
「……お、れは……」

 

――あなたは、あなたの為に生きてください――アスラン。

 

「!!」
脳裏に流れる誰かの声。
何故だろう、声の主が誰かわからないのに、何故か――懐かしい。
母の言葉、ではない。母の声を忘れるわけはない。
無論、目の前の少女からでもない。
「……もしそうであるなら、キラは再び貴方の敵となるかもしれません。そして、私も」
「……」
「敵だというのなら、私を討ちますか?ザフトのアスラン・ザラ」
俺は……俺の為に……生きる……。
この手にある銃を撃つことが、俺の本当に願った事なのか……?
俺の、本当の願いは――。
「……では、私はそろそろ行きます」
「ラクス!」
「キラは地球です」
地球……シャトルからみたフリーダムの行き先は確かに地球だった。
ラクスの言った通り、フリーダムに乗っているのがキラなら間違いないだろう。
「お話してみてはいかがですか?」
「……」

 

……キラと、話……か…………。

 
 

――海鳴臨海公園。

 

「フェイトちゃーん!!」

 

橋の上で待つ三人に向かっていくなのはとユーノ。
数日前の連絡で、フェイトは本局へと移動になり、その前にフェイト自身がなのはに逢いたいと。
そして、今日はその約束の日。
待ち合わせ場所は、幾度の思い出の場所になりつつある臨海公園。
晴れ渡る青空の下で、少女達は再会した。

 

「……なんだかいっぱい話したいことあったのに、変だね。フェイトちゃんの顔みたら、忘れちゃった」
「私は……そうだね。私もうまく言葉に出来ない……だけど嬉しかった」
「え?」
「まっすぐ向きあってくれて」
「うん、友達になれたらいいなって思ったの。
 でも……今日はもうこれから出かけちゃうんだよね」
悲しい表情を浮かべ、うつむく二人。
事件は解決しても、まだ終わりではないのだから。
「……そうだね、少し長い旅になる」
「また、逢えるんだよね?」
微笑みを浮かべ、フェイトが首を縦にふる
「少し悲しいけど、やっと本当の自分を始められるから……来てもらったのは、返事をする為」
「え?」
「……君が言ってくれた言葉、『友達になりたい』って」
「うん!うん!」
「私に出来るなら、私でいいならって、だけど私どうしていいかわからない……
 だから教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれるのか……」
友達になる。ということがわからないフェイトにとってはどうすればいいのか。
ここに到るまでにずっと抱いていた疑問。
解決できそうにない問題を抱え、フェイトは不安な表情でなのはに問う。

 

「簡単だよ」「え?」
「友達になるの、すごく簡単」

 

「なまえをよんで」

 

「初めはそれだけでいいの、君とかあなたとかそういうのじゃなくって、
 ちゃんと相手の目をみて、はっきり相手の名前を呼ぶの」
「……」
「キラ君も、アスラン君もお互いにちゃんと名前で呼び合ってたでしょ?」
「……そう、だね」
思い返す記憶の中で、彼らは確かに互いの名前を呼び合っていた。
「私、高町なのは、なのはだよ!」
「なのは……」
「うんっ!そう!」
ぎこちない呼び方だけど、
「なの、は……」
「うんっ」
フェイトは精一杯なのはに答えようとし、
「なのは……!」
「うん……!!」
彼女の名前(なのは)を言葉に紡ぐ。
その一生懸命な気持ちが痛いほどに伝わったのか、
やっと、友達としての始まれたのが嬉しかったのか。
なのははフェイトの手を自分の両手で包み込むように握った。
「ありがとう、なのは」
「……うん」
「なのは……」
「……うんっ!」
「君の手は暖かいね、なのは……」
それはきっと、フェイトの感じたまっすぐな感情。
友達として、向きあって、ようやく掴んだ暖かいモノ。
「少しわかったことがある……友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ……」
「……フェイトちゃぁんっ!!」
その言語が、ようやく始まった二人の友達として最初に得たもの。
衝動的になのはフェイトへと抱きついていった。
「……ありがとう、なのは……今は離れてしまうけど……きっとまた逢える……
 そうしたら、また君の名前を呼んでもいい……?」
「うん……うんっ……!」
止まらない涙を流しつつ、二人は互いを見据えて、言葉を紡いでいく。
「逢いたくなったら、きっと名前を呼ぶ……だから、なのはも私を呼んで……
 なのはに困ったことがあったら、今度はきっと私がなのはを助けるから……
 ……キラが、アスランを止めてくれた時みたいに……」
死して全てを取り戻そうしていたアスランを、友達を死なせたくないというキラの気持ちが
今のフェイトには痛いほどに伝わっているのだろう。
初めて出来た、かけがえのない、なのはという友達の大切さが――。

 

「……時間だ、そろそろいいか」
クロノの言葉に首を縦にふるフェイト。
「フェイトちゃん……」
そして、なのはは自分のリボンをほどき、フェイトへと差し出した。
「思い出に出来る物……こんなものしかないけど……」
「じゃあ、私も……」
フェイトも同じように自分のリボンをほどき、互いに差し出した手を取り合う。
「ありがとう、なのは……」
「うん……フェイトちゃん……」
「きっとまた……」
「うん、きっとまた……!」
二人の手が解かれ、それぞれのリボンを交換し大切に握りしめた。
「……僕も最後に二人に渡しておきたい物がある」
「「……これ!?」」
そういってクロノがポケットから出したものは、二人にとっては思い出深い、大切な――

 

「ストライク……」「イージス……」

 

大切な人たちの相棒(デバイス)――待機モードのキラのストライクとアスランのイージスだった。
「……あれから、見つかったのがこの二つだけだったんだ……
 まだ、二人は見つかっていないけど……でも、まだ希望はある」
「うん、うんっ!!」
止まりかけていた涙はさらに流れ続けていた。
諦めかけていた二人の行方に新たなる希望が生まれた。
「本当は重要証拠物件なんだけど……これは君達の手にある方がいいと思ったんだ」
「……ありがとう、クロノ君」
「……ありがとう」
なのははストライクを、フェイトはイージスを受け取る。
「二人にも、きっとまた逢えるよね……」
「……うん、きっと……」

 

そして、彼女達は別れ、それぞれの道を歩んでいった。
いつかまた、出逢える日を夢見て、その手に希望を持ち、前へと進む――。

 
 

――オーブ。

 

日が傾き、夕焼けの空の下。
相対するように降り立つ蒼と紅のモビルスーツ、フリーダムとジャスティス。
そして、同様にモビルスーツから降り立つ二人のパイロット。
キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。
互いを見据え、一歩も動かない両者。
周りにいた皆もそれに対し、静止したように見つめる。
まるで役者と観客のように――。
そしてどちらからでもなく、あるいはほぼ同時に歩み始め、互いに距離を詰めていく二人。
それに伴い、アスランへと銃口を向けるオーブ兵達。
それに対し、アスランは気に止めることもなく歩み続ける。
だが、キラは歩み続けながら手を挙げ、

 

「彼は敵じゃない!」

 

互いを見据え、互いの瞳から視線を離すことなく歩み続ける二人。
思い返される二人の思い出は、幼少児の離別から突然の再会。
友なのに、戦争だから、戦って、そして互いに大事なものを奪われ、殺しあった。
そして、そして――――。
なぜだろうか、それで終わりな筈なのに、まだ今に至るまでの物語がまだ続いているような錯覚を、
二人は感じていた。
表情に出すこともなく、二人は互いに手の届くところまで接近し、歩みを止めた。

 

「やぁ……アスラン」

 

ぎこちないような、笑みを浮かべて名前を呼ぶキラ。
そして、拳を握るアスラン。だが――

 

「……キラ」

 

握られた拳は解かれ、同様に笑みを浮かべ、名前を呼ぶアスラン。
何を話すべきなのか、何を聞くべきなのか。
脳内で渦巻いていた疑問は、全て解かれた。
だが、二人の中ではすでに清々しい気持ちになっていたのだった。
まるでもう、話し合ったような、そんな感じがしていた――。

 
 

――夜。

 

テラスから夜の海を眺めていたアスランは思いふけっていた。
(何なんだろう……この不思議な感覚は……)
結局、あれからキラと話をしたといっても互いの状況等といったことぐらいだった。
というよりは言葉が出てこなかったのだ。
(……何か、大切な何かを忘れているような……)
だが、いくら思い出そうとしても思い出せない。
そんな中、後ろから物音が聞こえ、反射的に背後を振り向く。
「……アスラン?」
「……キラ」
物音の正体がわかったアスランは再度前を向き、その横にキラが並ぶように立つ。
「……どうしたの?こんな時間に」
「……お前こそ」
「……ちょっと、ね」
そういったキラの右手には小瓶が握られていた。
そしてその中には紙のようなモノが入っていた。
「……手紙、か?」
「……うん、まぁ、ね」
昔の本か何かで読んだことはある。
手紙をビンに入れて海の向こうの人へと贈るという昔話を。
だが、今の現代でそれをする意味がまったくわからない。
「……一体誰に送るんだ?」
「……わからない」
「は?」
思いも寄らないキラの返答に素で返すアスラン。
「この手紙を誰に出せばいいのか、本当にわからないんだ」
「……どういうことだ?」
手に握る小瓶を見つめ、ふとキラが微笑みを浮かべる。
「今の僕の背中を押してくれた言葉……それをくれた人に今の僕を伝えたくてこの手紙を書いたんだ……」
「……背中を押してくれた、か」
それについてはアスラン自身にとっても心当たりがあった。
脳内に響いてきた不思議な声、その声の主が誰なのか。
だから、自然とキラの言っていることを信じることが出来た。
「しかし、お前が手紙とはな……」
「あ、らしくないなって思ったでしょ?」
「ああ、お前がそんなマメな事今まで一度もしたことないだろ?」
「う……」
やっぱり、変わってないな。昔から……
「……でも」
「?」
「いいんじゃないか、そういうのも」
「……だね」
そして、持っていた小瓶を海へと振りかぶって投げる。
夜の海へと消えていった小瓶の姿はもう目視では確認出来ないほどに夜の闇へと溶けていった。

 

(……僕は、もう諦めない。諦めたくない。
 だから、きっとこんな戦争を、一日でも早く終わらせるんだ……)

 

「……そろそろ眠るか、明日もまた連合が攻めてくるだろうしな」
「……うん」

 

戦火の渦は未だ消えること無く燃え続けている。
けれども、少年たちは歩み続ける。
己が心に宿る不屈の心を持って、今はただ真っ直ぐに、前へ進んでいく――

 
 

――海鳴臨海公園。

 

フェイト達との離別から数日。
なのはは学校の帰りに再びこの場所を訪れていた。
開かれた右の掌には、レイジングハートとストライク。
マスターであるキラがいない為、ストライクはあれから一度も会話が出来なかった。
クロノの話によると、修復はしたそうだが、ストライクのメインコア自体が反応しないそうだ。
きっと、主の帰りを待ち続けているのだろう。
そして、それはここにいる少女も同様に……

 

(キラ君……きっと、きっとまた……ううん、絶対に逢えるよね……)

 

水平線の遙か向こうへと視線を向け、思いを馳せるなのは。
そんななのはの視線の入った一つの光。
近くの砂浜に一つ輝く何かを発見したなのはは階段を降りてそれを確認しようとし、そして

 

一つの、小瓶を拾い上げる。

 

中には一枚の紙が入っているようだった。

 

蓋を開け、中の紙を広げてみる。

 
 
 

  ――――この世界のどこかにいる君へ、

 
 

  今もまだ続く戦争という行為は、世界中に広がり続ける一方です。

 

  終わりのないこの行為を止めるには……想いだけでも、力だけでも……駄目なんだって。

 

  僕達は……何と、どう戦っていけばいいのか……少しだけ、わかったような気がします。

 

  だから僕は、もう一度行こうと思います。

 

  この悲しみの連鎖を止める為に。

 

  こんな僕に、もう一度踏み出す勇気をくれたのは……君の言葉。

 
 

       「諦めないで」

 
 

  名前も、顔も、何も覚えていない僕の心にある君の一言が

 

  今の僕を支えてくれていて、新しい始まりの一歩を踏み出すきっかけになりました。

 

  きっとこの先、苦しい事や悲しい事がまだ沢山あると思います。

 

  でも、それでも僕は……諦めずに、前へ進もうと思います。

 

  いつか……この青い空の下で、もう一度君に出逢えたら……。

 

  その時は、君に伝えたい言葉があります。

 
 

  最後に……僕の名前を記しておきます。

 
 
 

  ――――――僕の、名前は――――――

 
 
 
 

                魔法少女リリカルなのはクロスSEED……Fin.