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なのはクロスSEED_番外編

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:05:21

ジェイル・スカリエッティ事件が終わりを告げ、世界は平穏な日々を迎えていた。
事件に多大な貢献をした機動六課の面々は日々平和の為に活動していた。

 

そして、これは事件が終わって数ヵ月後のある日の出来事。

 
 
 
 

『White, silent, Holy night……』

 
 
 
 

――12月24日、PM9:24

 

「……そういえば、今日はクリスマスイブか……」
それはデスクワークを終わらせ、ふとカレンダーの日付を見たシン・アスカの一言だった。
「って言っても、こっちにはクリスマスとか関係ないしな……」
そう、ミッドチルダにはクリスマスという概念はない。

 

以前、フォワード陣にも聞いてみたが、全員?マークを浮かべていた。

 

「ま、どうでもいいか……ん?」
シンの前方に見える人影。
それはキョロキョロと周りを気にしながら物音を立てずに忍び足で歩いていた。
そんなどう見てもあからさまに怪しい行動をしているのは……。

 

「……何してるんですか? はやて部隊長」
怪しい人影へと近付き、名前を呼ぶ。
「うひゃぁっ!!?」
心底驚いた声を上げながら尻餅をつくはやて。
声をかけたシン自身も少し固まっていた。
「……って、シン?」
先にこちらへと視線を向けたはやてが気付く。
「す、すいません、そんなに驚くとは思ってなかったんで……」
ほんの軽い気持ちで声をかけたのだが、まさかそんなにオーバーリアクションするとは思ってなかったのだ。
「それで、何してるんですか?」
「あ、いやその……」
怪しい。明らかに視線を逸らそうとしている。
「……ん?」
シンの視線の先に映ったのは、先程はやてが落とした紙袋。
その中にあるのは、一本のビンと思わしきモノ。
「……酒、ですか」
「あ、いや、それは、その……」
視線を合わせようとしないその姿からして、シンの考えは間違っていないと断定された。
「……で、これ部隊長室まで運べばいいんですか?」
だが、シンはそれに関して何も触れることなく紙袋を持ち上げる。
「シ、シン!?」
「別に誰にも話したりしませんよ、その代わり……」
「?」
「俺にも一杯下さい」

 
 
 

――機動六課・部隊長室。

 

誰にも見られることなく隊長室へと辿り着く二人
戸棚からグラスを持ってきて、袋からビンを取り出す。
「シャンパン……ですか?」
「そや。シンは飲んだ事あるんか?」
「いや、飲んだ事はないですけど……」
小さい頃、まだオーブにいた頃に父親が飲んでいたのを思い出す。
「そういえば、今日みたいなクリスマスに母さんと一緒に飲んでたっけ……」
蘇る楽しかった記憶。笑い会う家族。
「……でも、なんでまたシャンパンなんか……」
今日がクリスマスだから、という理由だけではない。
そんな気がしていた。
「……まぁ、私にとっては特別な日やから、かな……」
「特別な日……ですか?」
「……ま、ほな開けてグラスに注ごか」
シャンパンのコルクを開け、並べられたグラスへと注がれていく。
「……あれ?」
そこで疑問に思ったシン。
目の前のテーブルに並べられたグラスの数は"3つ"。
「……はやて部隊長、まだ誰か来るんですか?」
今この場にいるのはシンとはやての二人だけ。
どう考えてもグラスが一つ多い。
だからてっきり自分達以外の客人がいるのだろうと思って、その質問を投げかけるが、
「いや、誰もこーへんよ」
返答はあまりにも以外だった。
「え?だって、グラス……」
「ええんよ、それで」
はやての言葉に納得いかなかったシンだったが、次の言葉を紡ぐのを止めた。
なぜなら、そういったはやての表情が、

 
 

――とても、悲しいような瞳をしていたから。

 
 

そして注ぎ終わったビンを置き、グラスを持つはやて。
それにつられて同じくグラスを持つシン。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
チィン。と小さく響くグラスの交差する音。
そして、グラスを口につけ、シャンパンを口へと運ぶ。
何度か口にしたアルコールの部類だったが、これはそんなに度が強い部類に入らないんだろう。
そんな感想を抱いて、口に含んだ後味をかみ締める。
ふと、はやての方へと視線を向けると、
彼女はグラスを持ったまま、部隊長机へと歩いていき、引き出しを開ける。
そこから取り出したのは、彼女のデバイス、シュベルトクロイツ。
それを手に持ち、誰も触れていない三つ目のグラスの前へ置く。
持っているグラスを三つ目のグラスと交わし、さっきと同じような響音が部屋の中へと伝わる。

 
 

「……メリークリスマス、リイン……」

 
 
 

――リイン?

 

その言葉を聞いて不思議に思うシン。
彼はその言葉を聞いたことがあった。いやむしろ充分という程に知っていた。
その名前から連想されるのは、リインフォース・ツヴァイ曹長の事。
だが、彼女はここにはいない。
今日はデバイスメンテの事とかで、本局へと言っているはずだった。
今日帰ってこれないから、一緒に祝えないから……?

 

――違う。

 

その考えを振り払うシン。
なぜなら、今の言葉とさっきの言葉を発した時のあの表情の理由が納得いかないからだ。
だったら、一体……。
そんな感じでシンが思案の海へと潜っていると、
「シン?」
突如はやてから声を掛けられる。
「……え?」
「どしたんや?ボーッとして……」
「あ、いや、その……」
だが、無意識に視線は三つ目のグラスへと向いてしまう。
「……そっか、シンは知らんかったんやな」
「?」
「……あのグラスの持ち主は、"初代"リインフォース……」
「……初代?」

 

そして、はやての口から語られる10年前の過去。
闇の書の覚醒、守護騎士達の出会い、なのはやフェイト達の出会い。
そして……その事件の中での、唯一の、一番の被害者でもある夜天の書の管制人格。
リインフォース。

 

「……これが、10年前の起こった出来事や」
「……」
「そんで、毎年クリスマスが来ると、どうしても思ってまうんや……」
「?」

 

「……あの時、私にもっと力があったら、リインを助けてやれたんやないかって……」

 

「!!」
似ている、昔の自分と。
家族を失った、あの瞬間。過去幾度思った事か。

 
 

"力が、あれば"

 
 

「……なぁ、リイン……私、あれから少しは強くなったかなぁ……」
グラスとシュベルトクロイツを見ながら、本音を吐き出すはやて。
「……もう、誰も失わんで済むかなぁ……」
そういったはやての瞳から流れ落ちる、一粒の雫。
頬を伝って流れていく、本当の気持ち。
「……あかんなぁ……あはは、ごめんなシン、みっともない所見せて……」
そういいながら涙を拭い気丈に振舞おうとするはやての姿は、

 

機動六課の隊長、ではなく……ただの一人の女性にしか見えなかった。

 

そんな彼女へと、シンは自然に言葉を発していた。

 
 

「……泣いたって、いいんじゃないですか」

 
 

「…………え?」

 

「だって、誰かを悲しんで涙を流すのは……みっともない事じゃないと思うから……」

 

昔は自分もよく泣いていた。
家族を失った瞬間を、大事な人達が一瞬にして失われるあの瞬間を思い出したら、
自然と涙が流れていた。
でも、ザフトに入ってからは、涙を流す事も少なくなった。
涙を流すのはカッコ悪いとか、そんなくだらないプライドがあったのかもしれない。
友にも「それは弱さだ。それでは誰も護れない」と言われたこともあった。
けど、それは弱さなんかじゃないと思うんだ。
誰かを想う気持ちは、きっと大事な事なんだと思うから。

 

だから、

 
 

「その涙を、みっともないと思わないで下さい」

 
 

その言葉を聞いて、ポロポロと零れる涙。
先程までせき止めていたダムが崩壊するように、溢れてくる涙。
「う……うう……」
「……はやて部隊ちょ……!?」
シンが名前を呼び終わる前に言葉を止める。
いや、正確には止まってしまったと言った方が正しいだろう。

 

なぜなら、シンは今、はやてに抱きつかれているのだから。

 

「うわぁぁぁぁぁ…………!!」

 

突然の事に驚いたシンだったが、このまま引き剥がすことも出来ずにそのままの状態でいた。

 
 
 

数分後。

 

思いっきり泣いてスッキリしたのか、恥ずかしげにシンから離れていくはやて。
「ご、ごめんな、シン……」
「あ、い、いえ……俺は別に……」
急に気恥ずかしくなる二人。沈黙がまた雰囲気を引き立てる。
「あ……」
言葉を発したはやての視線の先には、先程抱きついた時にこぼれたシャンパンの中身と空のグラス。
立ち上がってグラスを拾い上げるはやて。その横を通り過ぎるシン。
「?」
そしてシンは三つ目のグラスに自分のグラスを交わす。

 
 

チィン……。

 
 

「メリークリスマス、リインフォース……」

 
 

そう言ってシンはグラスの中のシャンパンを飲み干す。
「……ふぅ、はやて部隊長」
「?」

 

「もう一杯、もらってもいいですか?」
空になったグラスを掲げ、微笑むシン。
それに返すように笑顔で答えるはやて。
「……ええよ」

 

そしてお互いのグラスの注ぎ、ソファーに座り向かい合って、
もう一度グラスを交える。

 
 

チィン……。

 
 

「「メリー・クリスマス……!」」

 
 

――こうして、二人だけの聖夜は過ぎていく……。

 

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