なのはクロスSEED_第09話中編

Last-modified: 2008-08-15 (金) 15:18:02

湖。

 

上空から『スキュラ』を湖へと叩き込むアスラン。
だが、正確には湖の奥深くに眠っているジュエルシードに向かって。
「……フェイトの言った通りだったな」

 

昨晩。

 

「……あとジュエルシードが眠っているとするならば、海ぐらいか」
今日も管理局に隠れながら探してはいたが、何も成果は得られなかった。
地上は粗方探し回った。あと残るとするならば海ぐらいである。
「そうだねぇ……」
「……いや、まだもう一つある」
「!!」
「どこだ?」
アルフが驚き、アスランがフェイトの言葉に疑問をぶつける。
「……今日の集合場所の湖」
「あそこか……だが、あそこからは何の反応も感じられなかったぞ?」
それにうんうんとうなずくアルフ。
「……海の中にあって反応がないのなら、湖の奥深くに眠っているのなら多分同じように感知できないはずだから。
 それに、海鳴市に湖はあそこしかない」
フェイトの言葉は確かに的を得ていた。
「……だけど、多分向こうも海を調べると思う」
こっちと同じ様に捜索しているのだから消去法的に海を散策するのは時間の問題だろう。
「だったら、朝一で海へと行こう!」
「うん……」
アルフの言葉に返事を返すフェイトだったが、その表情はまだ何かあるようだった。
「……なら、俺は一人で湖へと向かう」
「!!」「アスラン!?」
二人の表情が一変する。
「調べてない場所が二つあって、そのどちらにどれだけあるかはわからないからな。なら、二つとも同時に当たれば済む話だ」
「でも、一人でなんて……」
「向こうより先に見つけるには同時に動いたほうが効率がいい。それに湖に何もなかったらすぐに俺も海へと向かう。
 それでいいだろう?」
「……」
確かにアスランの言っている事も一理ある。
可能性が二つあって、そのどちらにどれだけあるかは当たってみないと分からない。
「……わかりました。じゃアスランは湖をお願いします」
「わかった。アルフはフェイトについてやってくれ」
「あいよ」

 

そして数分前。

 

昨日と同じ様に反応は感じられなかったが、湖の水に触れてみるとかすかに魔力反応があった。
フェイトの読みは当たっていた。ということだ。

 

「さて、どれだけ出てくる……?」
スキュラを叩き込まれた湖は大きくうねりを上げる。
そして湖の底から出てくる光の柱。その数…2。
「2つか……というと海に眠っているのが4つか……」
だとすると、向こうの方が不利だ。早く封印して向かうとしよう。
ライフルを構えるアスラン。だが、次の瞬間。
光の柱は消えた。
「!!」
揺れが激しくなる水面。
地鳴りのような音が響き、水面が突如割れる。
「なっ!?」
水面から現れたソレを見て思わず声を上げたアスラン。
目の前にあるソレは、空想でしかみたことのない龍のような形をしていた。それも、二つの首を持つ。
「……これは、一筋縄ではいかなさそうだ」
すると、向こうと視線が合う。
そして、こちらへと飛んでくる双龍。
「行くぞっ!!」

 
 

アースラ・ブリッジ

 

目の前のディスプレイの行われている二つの戦闘。
「まさか、湖の中にあったとは……」
「……僕、行きます!」
キラは振り返り、転送ポートへと向かう。
「待つんだ、まだ出て行くべきじゃない」
「えっ?」
クロノの声で制止するキラ。
「戦闘が終わる前に転送し、彼を叩けばいい。何も僕達が戦闘する必要はない」
「でも、それじゃ……」
「私達は、常に最善の選択をしないといけないの。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実……」
「だけど!!」
クロノとリンディの言葉は確かに間違ってはいない。
それは最善の選択なのだろう。

 

ただし、管理局にとって、は。

 
 

"……そんな卑怯者と共に戦うのが!お前の正義かっ!?キラ!"

 
 

ふと、脳裏に思い出されるアスランの言葉。
自分のしていることがどれだけ卑怯なことか。

 

――僕はまた、同じことを繰り返しているのか――

 

悔しさをかみ締めるキラ。その握られた拳が震えている。

 

(二人共、行って!!)
((!!))

 

突如聞こえた念話。二人が振り返った先にはユーノ・スクライアがいた。
(なのは、キラさん、行って、僕がゲートを開く。行って、二人を)
(でもユーノ君! 私があの子と、フェイトちゃんと話をしたいのは、ユーノ君とは!)
(僕も、アスランとの事は僕の……)
(関係ないかもしれない。だけど僕は、二人が困っているのなら、力になりたい……二人が僕にしてくれたみたいに)
その念話の直後、ユーノの後ろの転送ポートが輝き出す。
「「!!」」
「君は!」
クロノの言葉よりも早く駆け出す二人、一直線に転送ポートへと駆け込む。
「「!!」」
転送ポートの前に立ちはだかるユーノ。邪魔はさせないとも言わんばかりに。
「ごめんなさい、高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取ります!」
「同じく、キラ・ヤマト、命令を無視し、行きます!」
パッパッパッと手を交差させ、魔法を組み上げるユーノ。
「二人を結界内へ、転送!!」
転送ポートに輝く魔方陣、二人は粒子の様に消えていった。

 
 

空。

 
 

地上へと落ちていく桜色と蒼色の光。
目を閉じたまま降下していくなのはとキラ。
「行くよ、レイジングハート。風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に――不屈の心はこの胸に!」
「行くよ、ストライク。エールジャケット!」

 

「「セーット・アーップ!!」」
『『Stand by ready setup』』

 

各々のバリアジャケットへと身を包み、デバイスを手にする。
「僕は湖へ!なのはちゃんはあの子を!!」
「うん!気をつけてね、キラ君」
「なのはちゃんも!ストライク、飛ばすよ!!」
『Boost, Full Power』
そして、キラはフルスピードで空を駆けていく。

 
 

湖。

 

「ガァァァァァァァァァッ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
右手に形成された魔力刃を龍に叩き込むアスラン。だが、
「なっ!!」
全力で打ち込んだにも関わらず、龍に傷一つつかなかった。
「!!」
その一瞬の油断を付かれ、龍のもう一つに首に体当たりを食らわされる。
「がはぁっ!!」
吹っ飛ばされた体は、そのまま近くの樹木へとぶつかり、ようやく停止する。
「く……」
なんて威力だ。ただの体当たりがここまで響くとは。
幸いバリアジャケットのおかげで骨が折れてるとかはないみたいだが、あんなのを何発を食らってるとこっちの身が持たない。
「やはり……やっかいなシロモノだな。ジュエルシードは」
そのジュエルシードが作り出した龍を見上げると、二つの首の中心に炎の塊のようなものが発生していた。
その塊は徐々にだが、大きくなっていく。
まずい、あれを食らうわけにはいかない。
そう感じたアスランは即座にその場を動こうとするが、体がやけに重く感じる。
(くそっ、さっきの衝撃がまだ抜けきってないか!)
回避は無理と判断したアスラン。すぐさま右手を掲げ、
「イージス!」
『スキュラ、展開』
かざした右手の前に発生する紅い魔法陣。その中心に魔力が集まる。
(これでどうにか相殺するしか……!!)
目を閉じ、右手に魔力を集中させる。
「「ガァァァァッ!!!」」
二つの首から発せられた声と共に発射された炎。
「イージス!!」
『スキュラ、バースト』
それに反応し、すぐさま右手の魔力は放射するアスラン。
ぶつかりあう二つの魔力。
「ぐ……! なんて、魔力だ……!!」
気を抜くと、一気に押されこまれてしまう!
地面に立っている両足がじりじりと後方へと下がっていく。
「く……!!」
出力は完全に向こうの方が上だ。なら、わざと押し勝たせてこの場を回避するか?
だが、あの大きさの炎を回避するのは難しい。
「……イージス、後、どのくらい保てる!?」
『およそ、30秒ほどです』
後30秒。
それまでにフェイト達が援護に来てくれることは絶望的に無理だろう。
何せ向こうはこちらの倍の数のジュエルシードを相手にしているのだから。

 
 

「……何を考えているんだ、俺は」

 

フェイト達が助けに来てくれる?
俺は、フェイト達を護るんじゃなかったのか?
その俺が、助けられる?

 

「…………ふ、ざ、ける、なぁっ!!」

 

どこまで馬鹿なんだ、俺は。
俺は"あの時"約束したじゃないか!
俺があの子を、フェイトを護るんだと!!
その俺が、

 

「……こんなところで、負ける訳にはいかないんだっ!!!」

 
 

刹那。

 

アスランの中のSEEDが弾けた。

 
 

右手を支えていた左手を離す。
「イージス!詠唱多重起動!!」
『OK』
パッと開いた左手。その手に浮かび上がる魔法陣。そしてその中心に集まる魔力。
掲げる左手。それは右手と同じ高さに、そして二つの魔法陣が融合し、一つの魔法陣へと変化する。

 

『デュアル・スキュラ』

 

「バーストォォォォォォッ!!!」

 

先程まで押されていたアスランの魔力が突如大きくなり、龍の炎を食らい尽くすように飲み込んでいく。
龍自身は先程までは自身の勝利を確信していたのだろうが、残酷にも結果は反転し、己が放った炎は紅く巨大な魔力に飲み込まれ、
そして自身へと直撃する。
「「グァァァァァァァァッ!!!!」」
断末魔の悲鳴を上げるように吹き飛ばされていく龍。
空中から地上へと堕とされ、無残にも衝撃で地面をえぐるように滑っていく。
そしてその勢いが止まるころにはすでに龍は虫の息であった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
慣れない多重起動のおかげでかなり魔力を消費してしまったらしい。
重い上半身を支えきれずに肩膝を地に着けるアスラン。
「でも、何とか、倒せた、な……」
アスランの目に光が戻ってくる。極限状態を回避した為SEEDが解除されたのだろう。
そして、龍が飛んでいった方向へと視線を向ける。すると、
「……!!」
驚愕の表情を浮かべるアスラン。
その視線の先には、先程の龍が立ち上がっていた。
だが、見ると龍もかなりの体力を消耗しているようだった。身体もおぼつかない感じで、立っているのもやっとという仕草であった。

 

「……イージス、残り魔力残量はどれくらいだ?」
『およそ9%です』
「使えるのは、ライフルとサーベルだけか……」
『はい。それにライフルもあまり弾数はありません』
だが、向こうもあと少しで倒せる事には違いない。
「……行くぞ、イージス」
『OK』
接近して、サーベルで叩く!!
そう考え地面を蹴り一気に近付こうとした、瞬間。
「なっ!!?」
地面を蹴ることなくその場に留まるアスラン。
その眼前に広がる光景は彼の予想は超えたものとなっていた。
龍の前に集まる魔力。先程の炎が形成される。
だが、先程と違ってそんなに巨大な炎ではないが、それでも今のアスランにあれを受け止める事はかなり厳しいだろう。
多分、龍にとって最後の力を振り絞っての炎。だが、それに付き合ってやるほどのお人好しではない。
すぐさまその場から離れるアスラン。だが、向こうのロックはされたままだ。
動いている内は向こうも無闇に最後の一発を撃つ事はないと思い、結界内を走り続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
だが、アスランの体力もかなり限界に来ていた。早めに決着を着けないとこちらがマズイ。
と、その時。
アスランの視界に入ったもの、それは一匹のウサギであった。
戦闘が始まる前に結界内に最初からいたのか、はたまた迷い込んだのか、
それを知るよりもまずアスランは体をそちらへと動かしていた。
ウサギは怯えているのか、震えたまま動こうとはしなかった。
自分でもわからなかった。なぜあのウサギを助けようとしたのか。
だが、そのウサギを追いかけたのは、この戦闘では致命的だった。
身体が反応する。背中に、後ろに近付いてくる魔力。
振り返ると、近付いてくる炎。
今ならまだ回避できる。いや、できた筈だった。
だが、できなかった。"そうしようとはしなかった。"
「……イージス、受けきれると思うか?」
『……数値の上では不可能です』
「そうか」
覚悟を決めたのか、左手のシールドを構える。
目を瞑り、来るべき衝撃に備える。

 
 

その時、一つの風が吹いた。

 
 

アスランの後方より流れてきた風は、まるで背中を撫でるように感じられた。
何かイージスが喋ったのが聞こえたが、風の音と炎の感覚でそれも聞こえなかった。
そして、来るべき筈の炎の衝撃が来ない。
だが、炎の魔力は感知できる。でも、それは目の前で止まっているように感じた。
そして感じる、もう一つの魔力。
ゆっくりと目を開き、シールドの向こうの光景を見つめる。
すると、炎は自分の数メートル手前で止まっていた。
そして、アスランと炎の間にある紅と白の影。
その影、いや後姿は見間違うはずもない。

 
 

「…………キ、ラ?」

 
 

アスラン・ザラの瞳に映る光景、それは、キラ・ヤマトが龍の炎を受け止めているという、

 

予想を遥かに超えた光景だった。