なのはクロスSEED_第09話後編

Last-modified: 2007-11-18 (日) 16:29:12

「大丈夫、アスラン?」

 

振り返り、こちらへと視線を向けるキラ。
よく見るとシールドで炎を受け止め、炎の進行を阻んでいた。
「何で……お前が……?」
目の前の状況に頭がついていってないけれど、ようやく振り絞った言葉がそれだった。
「話は、あれを倒した後にしよう」
正面を向き直すキラ。
「アスランはどこかに非難してて」
「……」
なぜだ? なぜお前は俺を助ける?
俺はお前の"敵"じゃないのか? お前にとって、俺は"敵"じゃないのか?
頭の中で自問自答を繰り返す、けどその答えが出ることはない。
「アスラン?」
もう一度名前を呼ばれてようやく自問自答の螺旋から現実へと帰って来る。
「……すまない!」
後ろにいる震えたウサギを抱きかかえ、走っていくアスラン。
「よし、行くよ、ストライク!」
『OK』
シールドを構えたまま、後方へと飛ぶキラ。
段々と距離をとり、炎の勢いが弱まった瞬間。
即座に上昇し、炎の奔流から回避する。
流れる炎の奔流に沿うように龍へと接近する。
ある程度まで近付くと、ライフルを構え、トリガーを引く。
銃口から発射された数発の魔力弾は龍の体へと命中する。だが、
「!! 効いてない……」
弾は確かに命中したが、弾かれたように消滅した。
当たった龍も表情一つ変わっていなかった。
「だったら!」
ライフルを腰にマウントし、肩からサーベルを引き抜く。
そして一気に接近し、体へとサーベルを叩き込む、が。
サーベルは龍の体を切り裂くことなく触れたままで止まっていた。
「か、硬い……!!」
どれだけ力を込めてもその先へとサーベルは進まなかった。
これ以上は無理と判断したキラは即座に回避行動を取り、上空へと逃げる。
「どうすれば……」
ソードジャケットに換装してシュベルトゲベールで切り込むか?
それともランチャージャケットに換装してアグニで叩き込むか?
思考を巡らすキラ。

 

(首を……狙え)

 

「!!」
突然脳内に響く声。
間違いない、これは念話だ。しかも今の声は……。

 

(アスラン?)
かすかな魔力の反応を感知し、アスランのいる方向へと視線を向ける。
(奴は首にダメージを負っている……狙うなら、そこしかない)
(……わかった、ありがとう、アスラン!)
「ストライク!ソードジャケット!!」
『OK. Change, Sword Jacket.』
紅いジャケットが蒼のカラーリングへと変色し、換装する。
背中の大剣、『シュベルトゲベール』を振り下ろし、自身の前方に構える。
二つの首がこちらに向かって突っ込んでくる。
それをギリギリのところで回避し、
「うおおおおおおおおっ!!!!」
キラの咆哮と共に振り下ろされるシュベルトゲベール。
それは先程のサーベルとは違い、龍の片方の首を切り落とす。
「ガァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
やれる!!そう確信したキラは残るもう一つの首を狙おうとした。
が、振り返るとすでに龍のもう一つの首が目と鼻の先の距離まで近付いていた。
まずい、この距離は回避できない。
体当たりを受ける為に左手のシールドを前に突き出す。
その瞬間、目の前の龍の顔が大きく揺れた。
どうやら何かが顔にぶつかり、その衝撃で揺れたようだ。
そして、もう一度揺れる。
その時、キラは揺れた方向とは反対側から紅い弾が飛んできたのが見えた。
その方向を見ると、こちらに向かってライフルを構えているアスランの姿があった。
それに連られて龍の方もアスランへと視線を向け、表情が険しくなる。

 

「……イージス、あと何発撃てる?」
『後5発です』
今の俺にはもう奴を倒せるだけの魔力はない。
だから、俺は……。
ライフルを構え直すアスラン。そして、連続でトリガーを引く。

 

そして、偶然にも発射された弾の一つが龍の目に当たり、悲鳴を上げながら暴れまわる龍。
(今だキラ!)
(うん!)
「ストライク!」
『パンツァーアイゼン』
左手から発射されるワイヤークローが龍の首へと巻きつく。
そしてそれを巻き取る形で一気に接近し、
上空へと舞い上がり、シュベルトゲベールを振り上げる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
縦一閃。
胴体から切断された首が地面にうなりをあげるように落下する。
そして、龍はその原型が崩れ落ちていく。
それを確認したキラは、アスランの元へと駆け寄る。
「大丈夫? アスラン」
「……ああ、大丈夫だ」
絶対に嘘だ。見ると立ち上がるだけでやっとのことのように見えるが、
大丈夫?って聞かれると、絶対大丈夫としか答えないところ。
アスランの昔からの癖であることはキラは知っていた。

 

――本当、変わってないなぁ……――

 

「えっ?」
鉛のように重い体が急に軽くなる。
いつの間にか隣にいたキラがアスランの腕を自分の肩に回していたのだ。
「お前……」
「そういうところ、昔と全然変わってないよね」
「……」
その気になれば、振り払う事も出来たのだろうが、そうしようとはしなかった。
「……キラ」
「何?」
「……なぜ、俺を助けた?」
今の自分達は敵同士のはずなのに。先程と同じ質問をぶつけるアスラン。

 

「……理由が、いるのかな」

 

「え?」

 

「友達を助けるのに、理由って必要なのかな……?」

 

「ばっ、馬鹿かお前は! 俺達は敵同士なんだぞ!!」
まさかの思いも寄らない返答に驚くアスラン。
「確かに、向こうの世界にいた時は僕は地球軍で、君はザフトで、それで仕方なく戦ってたけど、
 今の僕達って軍人じゃないでしょ?」
「た、確かにそうだが……」
「それに、アスランだって他に何か理由があってあの子と一緒にいるんじゃないの?」
「それは……」
押し黙るアスラン。何か理由があるのは間違いないみたいだけど、よっぽど話せない事情のようだ。
それに事情だけじゃない、二人の今までを考えると、はいそうですかと手を取り合える事も難しいだろう。
そして、キラは決意を胸に口を開く。
「……僕は、君の仲間、友達を殺した」
「!!」
脳裏に蘇るブリッツの最後、ニコルとの記憶。
「でも……僕は、彼を知らない。殺したかったわけでもない」
「……」
「そして君も……僕の友達を、殺した」
「!!!」
キラの脳裏にフラッシュバックするスカイグラスパーの最後、トールとの記憶。
「でも……君も、彼のことを知らない。殺したかったわけでもないでしょ?」
「それは……だが、俺は……お前を殺そうとした……」
ニコルを殺された悲しみと憎しみをぶつけるように殺そうとした自分を思い返す。
「……僕もだ……」
トールを殺された瞬間、アスランの事を本気で殺そうとした自分がいた。

 
 

「……それでも、僕は……今でも君の事を、友達だと思っている」

 
 

「……キラ」

 
 

"昔……友達に……大事な友達に貰った、大事な物なんだ……"

 
 

オーブで再会した時のキラの言葉が蘇る。
その気持ちは確かに嬉しかった。
軍の命令に従って敵を討つ。だが、目の前の敵は、かつての自分の親友だった。
それもナチュラルではなく、コーディネイターの、自分達の同士であるはずの、
アスランにとって、大事な友達である、キラを。
苦悩した、困惑した。誰にも言えず、ただ一人で迷い続けた。
そして本気で殺しあったキラに今でも友達だと言われ、
アスランは心の迷いが少し晴れた気がした。
だが、

 

「……すまない」

 

「……そっか」

 

アスランの意思は固いようだ。
もうこれ以上何も言っても無駄だろう。
きっとアスランが自分自身の意思で決めた事なんだろうから。
それでも、二人の間にある壁は少し薄くなった気がした。

 
 

「僕達……また戦うのかな……」

 

「…………」

 
 

その言葉を最後に、二人の会話は終わりを告げたように止まってしまった。

 

そして二人は龍のいたところまで着く。しかし、

 

「な、無い!ジュエルシードが!」

 

確かにその場所は龍は倒れていた場所に違いなかった。
だが、あるのは無残に抉られた痛々しい地面のみだ。
「ストライク、ジュエルシードの反応は?」
『……ありません』
「そんな……馬鹿な……」
呆然とする二人。
「……一体誰が……」
ほんの少し目を離した瞬間に誰かが持ち去ったのだろうか。
答えの出ない問いに悩む二人。
「……とりあえず、ここを離れよう。行ける?アスラン」
「……何とか大丈夫だ」
先程移動の際にイージスへストライクを介して魔力を少し分け与えたので、
アスランの空に等しい魔力が少しは回復したようだった。
「僕は海へ向かうけど、君はどうする?」
「……行き先は同じのようだな」
ふっ。と微笑み合う二人。

 

そして、空の向こうへと輝く蒼と紅の光。

 

並んで輝くその姿は、雲の色を裂くように美しく映ったという。

 
 

海。

 

荒れ狂う海の元凶、ジュエルシードを互いに協力し合って封印したなのはとフェイト。
空を覆っていた雲が裂け、太陽の光が差し込む。

 

(ああ、そうだ。やっとわかった……私、この子と分け合いたいんだ……)

 

なのはは自分の胸に手を置き、ようやく出たその答えを口にする。

 

「友達に……なりたいんだ」

 

「!!」

 

目の前の少女を不思議な表情で見つめるフェイト。
二人の間にある4つのジュエルシードがお互いの姿を映し合う。

 

刹那。

 

雲の向こうより響く轟音。紫色の稲妻が海へと突き刺さる。

 

「!! 母さん……」
空を見上げ、不安げな表情で呟くフェイト。
そしてすぐさま次の稲妻の音が鳴り、フェイトへと目掛けて落ちてくる。
「!!」
間に合わない。とっさに事に頭と体がついていってないフェイトは思わず目を瞑る。
だが、次の瞬間、
「ぐああああああああああっ!!!!」
上がる悲鳴。来る筈の痛みは耳にのみ聞こえるその声だけだった。
そして目を開けると、

 

アスランが落雷の直撃を受けていた。

 

「フェイトちゃ……!!」
駆け寄ろうとするなのは、だが、次の稲妻がすぐさま落ちてくる。
「!!」
思わず目を瞑るなのは。
だが、その身に来る筈の痛みは来なかった。
おそるおそる目を開けると、自分の前に立つ、紅と白の影。

 

エールジャケットを身に纏ったキラがシールドで稲妻を防いでいた。

 

「大丈夫!? なのはちゃん!」
「キラ君!!」
そして程なく稲妻は消滅する。

 

「アスラン!!」
ぐったりとしたアスランを抱きかかえるフェイト。
稲妻のショックで気を失っているのか、返事が無い。
二人に駆け寄るアルフ。
「引くよ! フェイト!」
アスランを抱えたフェイトごとつかみ、雲の向こうへと飛んでいくアルフ。

 

それをただ見つめるしか出来なかったキラとなのはとユーノ。
そして程なくしてクロノが転移してくる。
そこで気付く、あったはずのジュエルシードが消えている事に。
先程の稲妻が降り注ぐまでは確かにあったはずなのに。

 
 

そして謎は解けぬまま、疑問だけが全員の頭に残ることになった。