やがみけ_04話

Last-modified: 2008-04-15 (火) 22:57:03

午後13時
「おはよう」
酷い寝癖と寝惚け眼のまま居間に入ってきたのはキラだった。
「おはようて、もうお昼やで、キラ」
洗濯物をたたみながら苦笑するはやて。
「やっぱランニングが堪えたんかなぁ?」
「……そうみたい」
「お昼ご飯ラップしてあるから自分で温めて食べるんやで?」
「うん」
目を擦りながら、キラは冷蔵庫へ。お茶を取りだし、専用のコップに注ぐとテーブルに置いてあった昼食を温めなおし、一人もそもそごきゅごきゅ、飲み食いを始めた。
さすがに昼食を食べ終えた頃にはきちんと目が冴えたのか
「あれ、レイは?」
今更ながらに本来いるべき者がいないことに気付く。
「お夕飯の買い出しに行ったよ。ほんとはうちも行く言うたんやけど、病み上がりやから駄目やぁ~って」
「そっか……」
アスランとシンは今頃収集活動にいそしんでいることだろう。
「キラはどっかでかけるんか?」
「いや、僕は家にいるよ。はやての側に」
キラは席を立ち、食器を台所に運んで洗い物を始めた。
「おぉ、キラが食器を洗っとる」
「ひょっとして……はやてちゃんは僕が一番何もできないなんて思ってないよね」
「違うんか?」
もういいです。と言わんばかりに肩を落とすキラ。
「冗談や、冗談」
ケタケタ笑うはやてに背中を軽くこづかれながら、食器を洗いあげていった。
時間は過ぎて15時。
キラは雑誌を広げ、はやてはテレビを観ているとレイが両手に買い物袋を抱え、居間へと入ってきた。
それからは三人で会話し、夕飯の相談をし、18時を回ったころ三人で夕飯づくりを開始した。
今日は煮物と焼き魚を中心に数品作ることにした。
レイは切る係だ。
はやてに包丁の扱い方の手解きを受けながらぎこちないながらも綺麗にカットしていく。
ちなみにキラは食材を洗ったり、皿にもったり、皿を洗ったり、雑用をこなしていた。
「後はアスランとシンが帰ってくる頃合いを見計らって魚を焼けば完成や」
「そうだね」
「そうですね」
満足げな表情のキラとレイとは反対にはやては何だか浮かない表情をしていた。
「しかし、二人とも帰り遅いなぁ」
「何処をほっつき歩いてるんでしょうね(キラ、ここから数十キロ離れた場所で我々とは違う方式で結界が張られてます)」
「まぁ二人とも子どもじゃないんだし……大丈夫でしょ? シンにはアスランもついてるし(あの二人なら大丈夫だとは思うんだけど……。早く連れ戻すなら僕が行った方がいいかな。でも……)」

 

「しまった(カートリッジを使わなければならないでしょ?)」
「どうしたん? レイ」
「アスランに頼まれていた雑誌を買うのを忘れていました(使ってもいいです。消費した分はまたつくればいい)」
「なら僕が買いに行こうか? 今日は一歩も家からでてないし、運動がてらにさ(わかった。今回ばかりは僕もカートリッジの精製手伝うよ)」
「気をつけて行ってきぃや。キラ」
「うん、行ってきます」
キラは居間を出ると直ぐ様騎士甲冑を装着。
玄関のドアを開けると魔法陣を展開した。

 

数分前、海鳴市上空。
「囲まれたか……」
「あぁ……」
アスランの呟きにシンは溜め息まじりに答える。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」
それもつかの間、上空から雨のように降り注ぐ青い閃光の刃。
「ジャスティス!!」
『マジック・キャリーシールド』
左腕の盾から勢いよく波状に展開される障壁。スティンガーブレイドは刺突し、青く発光しながら破裂した。
「サンキュー、アスラン」
「こんなことで礼を言うな」
アスランは自分よりも上空にいるクロノを見上げた。
「成程、さっきのあれで多量に魔力を消費したわけか」
肩で息をするクロノを見て判断する。
「ちっ、また邪魔が入ったみたいだ。アスラン」
シンの言葉に振り向きみれば、天に登る桜色と金色の閃光。
「あいつら……また!!」
「熱くなるなシン。それにどうやら前回のようにすんなりいかせてはくれなさそうだぞ」
アスランの言葉の意味を理解したシンは音がするほど強く、歯を悔い縛った。
「なるほど……目には目を、歯には歯をベルカ式カートリッジシステムには、ベルカ式カートリッジシステムを……か。
デスティニー」
『エクスカリバー・アンビテクストラス・ハルバート』
両手に握っているエクスカリバーの柄尻同士を連結。シンはハルバート形体のエクスカリバーの切っ先をなのはに向けた。
「今日は戦いに来たんじゃないの!」
「話し合いをしにきたんだ」
となのはとフェイト。
「話し合い? 完全部装したあんたたちと?
誰が騙されるかよ!」
「和平を望むならそれ相応の格好を見繕ってくるんだな。
残念だが、君達のそれは話し合いを求めるものの姿には見えないな」
端からシンもアスランも話し合う気などなかった。自分達がやっていることが法に引っ掛かっていることも分かっていた。
闇の書の収集を開始したその瞬間から後には退けないことなど承知済みだ。

 

故に、シンとアスランの行動は決まっていた。
相手が戦闘体勢だと判断したなのはとフェイトも臨戦態勢に臨む。
なのははユーノとクロノに手を出すなと、フェイトはアルフに手を出すなと。
一対一でねじふせて、話を聞かせるつもりだ。
正直、アルフはアスランに用があったのだが、主が言うのであればと戦局を見守ることにした。
「結局戦うのかよ?」
「勝ったらお話聞いてもらうからね?」
なのはの挑発ともとれるその言葉がシンの逆鱗に触れる。
「やれるもんなら、やってみろよ!!」
連結エクスカリバーを巧みに振り回し、暴力的なまでの一撃がなのはを襲う。
『Protection Poward』
なのはを球状に包むようにして発生した障壁がシンの斬撃を拒んだ。
「かてぇ……」
以前はすんなり障壁を破壊したが、今回はそうは行かなかった。
内心なのはもびっくりしつつ、距離をとる算段をはかる。
『バリアバースト』
障壁を爆破することで相手の視界を奪い、爆風にのってなのはは距離をとる。
「こいつ!!」
「レイジングハート」
『アクセルシューター』
薬莢が排出され、レイジングハートの尖端から12発の光弾が放たれる。
『CIWS』
放たれると同時にシンは迎撃魔法を準備、正面から向かってくるアクセルシューター数発を相殺。
『フラッシュエッジ』
残りをかわし、防ぎながらエクスカリバーの片割れをなのはへと投剣した。

 

「あなたの相手は私です」
バルディッシュ・アサルトを正面に構え、フェイトはアスランを見据える。
「確か……フェイト・テスタロッサとか言ったか……」
「キラから聞いたんですか?」
「あぁ……。だが俺はあいつのように甘くはないぞ?」
「行きます。バルディッシュ!!」
『プラズマランサー』
計八発、発射体つきの魔力槍が形成される。
「ファイア」
アスランを射ぬかんと襲い来るプラズマランサーを前にアスランは障壁を展開。防御に徹する。
一度障壁によって四散したプラズマランサーは方向を変え、再びアスランに向かって行く。
「厄介な……ジャスティス」
『シュペールラケルタ』
上昇しながら魔法構成を編みあげ、プラズマランサー八発にシュペールラケルタ八発をぶつけ相殺する。
『ブリッツラッシュ』
『グリフォン』
背後からのフェイトによる一閃をアスランは脚部に発生する魔力刃を受け止めた。

 

反発する魔力刃。
二色の魔力の尾が周辺空域に走る。
やがて一際大きい音とともにアスランとフェイトは間合いをとる。
『ハーケンセイバー』
『シャイニングエッジ』
フェイトはバルデイッシュの魔力刃を、アスランはジャスティスから魔力刃を放つ。
二つの刃が衝突し衝ずる爆煙。
『ファトゥム01』
「なっ!?」
アスランの空戦高速機動補助魔法と思われた背部ウィングが分離。
フェイトへと砲撃を放ちながら向かってくる。
射線軸から逃れるも
「誘導型!?」
フェイトを追って旋回。
挟み撃ちするかのごとく、アスランも迫ってきていた。

 

「彼処か……」
結界を見つけたキラ。
「(恐らくはあなたのフルバーストモードで結界は破壊できるでしょう)」
「(了解)」
ビルの一角からキラは結界を狙う。
「フリーダム、フルバーストモード」
左右のフリーダムを前後で連結する。銃口から発生する蒼色の魔法陣と、それを囲む4つの魔法陣。
カートリッジを前後で一発ずつ消費。
収束し、肥大化する蒼き閃光。
「距離算出、(アスラン、シン一点集中で結界を破壊する。巻き込まれないでよ!)」
「(あぁ、わかった)」
「(了解)」
「そこまでだ」
キラの背後で声がした。
「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いであなたを逮捕します。
抵抗しなければ弁護の機会がある同意するなら武装の解除を」
まずい……。
キラはそう思った。
発射態勢に入っている以上身動きはとれないし、発射解除後、別の魔法に切り替えても今背後にいるクロノによって取り押さえられてしまうだろう。
キラの頬を冷や汗が伝い、顎を伝って落ちた。
(くそっ!!
どうする。
連結フリーダムを分離して振り向き様に一閃。
フルバースト暴発の危険性はあるけど……これしかない!)
気配がした。
もう一人仲間がいたのかと、キラが視線だけを背後に向けるとクロノが何者かに襲撃を受けていた。
「なっ?」
驚きを隠せないクロノとキラ。
向かい側のビルのフェンスまで吹き飛ばされ、クロノとキラ、そして仮面の男の距離が大きく離れた。
「……あなたは?」
「……使え」
キラの問いに仮面の男は無機質な声で返した。
顔上部を覆う仮面で表情はわからない。
口元は露出していたが、やはり笑ってはいないようだった。
「早く結界を破壊しろ。このまま見ていては仲間がやられてしまうぞ?」
風に揺れる仮面の男の金髪。
なぜ自分達の味方をしてくれるのかはわからない。しかし、今のキラに考えている暇などなかった。

 

「(シン、アスラン、今から結界の破壊をするよ。巻き込まれないように注意して!)」
「(了解した)」
「(二回いわなくてもわかってる!)」
アスランはともかくシンの返事にムッとしながらキラはフルバーストの準備を進めていく。
「お前も彼等の仲間か?」
S2Uを構えつつ、仮面の男に問う。
しかし、男は無言で構えをとるだけだった。

 

「行けぇ!!」
『HightMAT Full Burst』
強烈な電光を伴い、尾を散らつかせ放たれた五の奔流が結界に突き刺さる。
「悪いが今日はここまでだ。巻き込まれないように注意した方がいい」
「逃がすか!!」
執拗に鍔競り合いを仕掛けてくるフェイトを蹴りで突き放し、アスランは撤退を開始。

 

それと同じくしてシンも撤退を開始する。
「待って、あなたのお名前は?
私は高町なのは」
おかしな事を聞くなと思いながらもシンはなのはを振り返り
「シンだ」
それだけいって飛び去った。
瞬間、結界の亀裂から中へとほとばしる電流。
それに気付いたユーノが障壁の準備に取り掛かる。
自分を含め、なのはとフェイト、アルフを障壁で包んだ瞬間。
二撃目が結界を粉砕して的確に四人を狙い撃つ。
下手をうてば障壁の上からでも容易く相手を行動不能に追い込むであろう砲撃は、ユーノとアルフによる多重障壁のお陰でしのぐことができた。

 

「助かった、キラ」
緊張が和らいだのか柔和な笑みでアスラン。
それはシンも同様で先程までとは違い、険の取れた表情をしている。
「さぁ、早く帰ってはやてと一緒にご飯を食べよう」
「あぁ」
「おぅ」
三人は幾度か次元転移を繰り返し、管理局の追跡を振り切ってから帰路についた。
八神家
時刻は八時を過ぎたころである。
「遅いなぁ、シンもアスランも、雑誌を買いにいったキラもや」
「キラは雑誌を買いにいったついでにアスランとシンを拾っているのでは?」
「ならええんやけど……、事故とかに巻き込まれてないか心配でなぁ」
それにしても、とはやてが続ける。
「皆家にいつかんなってしもうたな」
どこか寂しそうにポツリと呟いた。
「主……」
レイがそんなはやてを複雑な表情で黙って見守っていると
「えと、私は平気やから別にええんよ?
元々一人やったし、そう言うのには慣れて――」
「皆、あなたの元を離れはしません。
今は少し自分達を囲む周囲の新しい環境に惹かれているだけです。
私たちの帰る場所は主はやての下だけだ。
これから未来(さき)、あなたが成長し、老いて幸せな最後を迎えるときまで許されるのなら我々はあなたの側に……」
はやての小さい両手を包みこむように握り、レイが言った。

 

「レイ……」
あまりに真剣な表情と言葉に、はやては胸の奥がツンッと熱くなった。
「……ありがとう。それからごめんなさい」
目尻に少しだけ涙をためてはやては言った。
「いえ」
レイはそっとはやての小さな肩を抱く。
「あなたはもう一人ではない」
「……うん」
ぐしゅっと鼻を煤る音がした。
はやての背中を撫でさすっていると
「ただいま~」
玄関から三人の陽気な声が聞こえてきた。
「さぁ、涙を拭いて、夕飯にしましょう」
とりあえずティッシュをはやてに渡すと鼻をかんで涙を拭き、にこりと微笑むと帰ってきた三人を出迎えた。
「おかえり、皆手ぇあらったら夕飯にするよ」
いつもより心なしか明るいはやてに少し驚きつつ、三人は手を洗い、食卓に着く。
いつもの賑やかな夕飯が始まったのだった。