やがみけ_05話

Last-modified: 2008-04-17 (木) 08:48:07

「暑いな……」
とキラ。
今回の闇の書の蒐集活動はキラとアスラン、それからシンと今までにない三人での同時活動となった。
キラとアスランは同じ世界へ、シンは他の世界で蒐集活動をしている。
一面砂と青空が支配する世界。
そんな世界の上空を飛び、いつまでも変わらない風景にうんざりしてきた頃、キラはようやく蒐集対象を見つけた。

 

午前10時、八神家。
「あれ? 皆はぁ?」
「シンは近所に出来た友達と、キラとアスランは本屋に行きましたよ」
「レイはまたお留守番か? 偉いなぁ。ところで今日な、友達の所からお泊まりの誘いが来とるんやけど、行ってええかな?」
レイは掃除機のスイッチを切り、はやてに向き直る。
「そう言えば最近新しいお友達が出来たと言ってましたね。
確か月村……」
「すずかちゃんや」
「そこへお泊まりにいかれるのですね?」
申し訳なさそうに頷くはやて。
「わかりました。ではキラたちが帰ってきたときに伝えておきましょう」
「行ってええんか?」
「えぇ、私たちのことは心配せず、どうか楽しんできてください」
微笑んでレイが言うと、パッと顔を輝かせて、はやては早速携帯電話でメールを打ち、連絡を取り始めた。

 

「あと一撃も入れれば、蒐集可能になるかな……」
そんなことを呟きながら、キラは蒐集対象を見下ろす。
長い触手が特徴的な魔物とでも言うべきか。
キラは蒼き刃を天にむけ掲げた。
『サンダーブレイド』
「ッ!?」
「ブレイク!!」
折角の蒐集対象が目の前で弾け、死んだ。
キラの視線の先には死神の風体を思わせる彼女の姿。
「確か、テスタロッサだっけ?」
「覚えていてくれたんですか? キラ」
フェイトの新しい武装に少し警戒しつつ、キラは銃口から伸びる魔力刃を構えた。
「折角の蒐集対象を潰されてね……。正直、今は機嫌がよくないんだ。
退いてくれるならその方がいいけど……」
キョトンとした表情で今しがた自分が爆砕した魔物を一瞥し
「まぁ、私はあなたの敵ですから……邪魔するのは当然といいますか……」
フェイトは平然と言ってのける。
「そうだね。君と僕は敵……だったね」
最もだと笑うキラ。
「行きます。手加減はできません」
バルディッシュを構えるフェイト。
一陣の風が吹き、砂塵を巻き上げ、日の光を反射し、金色に輝く。
やがて風の力は衰え、そして止んだ。

 

刹那。
両者の立っていた場所の砂が宙を舞う。
フリーダムとバルディッシュ、蒼と金の魔力の尾が二人の周囲を音を立てて走った。
すれ違い様の攻防。
二人は背を向けたまま砂地に着地。
キラはそのまま相手の方を振り向き、迎え撃とうとするが
(後ろ!?)
既にフェイトの姿はなく、背後に殺気。
キラはバックステップし、何とか回避。
しかし
『ロードカートリッジ・ハーケンフォーム』
バルディシュのリボルバーが炸裂し魔力の刃を形成。
「ハーケンセイバー!!」
一閃されたバルディッシュから放たれる高速回転しながら飛来する魔力の刃。
「ちっ!!」
今しがたステップ後の着地をしたキラは収縮した足の力をそのままに、宙に飛ぶ。
『ブリッツラッシュ』
「はぁぁぁ!!」
雨のようなフェイトの連撃。キラの目前にまで迫るフェイトの姿。
「フリーダム!!」
『HighMAT Mode』
飛躍的に上がるキラのスピード。
『ハーケンスラッシュ』
フェイトの魔力がハーケンセイバーに集中する。
鎌を地と平行に構え、横薙一閃。
瞬間、キラの姿が視界から消えた。
背中に走る衝撃。
蹴られたと分かったのはその一瞬後。
地面に向かって落ちながら、フェイトはプラズマランサーを単発でキラにむけ放ち、それと同時に反動を利用して体勢を建て直す。
プラズマランサーの軌道を見きったキラは紙一重で避け、まるで滑車の様に入れ違いでフェイトへ向かう。
フェイトの着地に数瞬の遅れで繰り出される縦一閃。
無論、フェイトは着地後すぐにバックステップに入ったため、キラによる一閃は地を叩いた。
巻き上がる砂の陰に、フェイトはカートリッジが消費される音を聞いた。
距離は五メートルと離れていない。
砂塵を巻き上げるようにして刃の軌跡は下から上へ。
「ヴァーティカル!!」
フェイトの周囲を舞う濃い砂塵が視界を奪い、狭範囲で発生する電光がフェイトの動きを鈍らせる。
振り上げられた刃に巻き付く蒼電と紫電。
「エアレイド!!」
サーベルが振り下ろされると共に発生する落雷が小規模爆破を発生させ、砂塵ごとフェイトを吹き飛ばす。
「く、外した」
歯噛みするキラと、直撃を避けたことに安堵するフェイト。
それも束の間一瞬にして緊張の糸ははち切れそうな程に貼りつめる。
「バルディッシュ!!」
リボルバーが炸裂音とともに回転。
フェイトの左手にはリングと青電を帯た金色の光球。
対するキラは前後でフリーダムを連結させていた。

 

「あんたも主につかえるものならさ、ご主人様の間違いをたださなくていいのかよ」
アルフの拳は蹴りによって弾かれ、軌道を変えた。
「闇の書の蒐集は俺たちが勝手にやっていることだ。
主は蒐集については何もしらない」
「じゃあ何で?」
てっきり主による命で動いているものだと思っていたアルフの顔が動揺の色に染まる。
「例え主が望まなくても、それが主のためと知れば、当然のことだ。
分かったら退くんだ。
でなきゃ俺は……君を討たなきゃ行けなくなる」
『ロードカートリッジ』
ジャスティスが一度、哭いた。
ジャスティスの先端から、右手の装甲部から、両足の装甲部から朱色の魔力刃が発生。
「全身凶器かよ」
アルフは背中にかく嫌な汗を感じつつ、構えをとった。

 

「(何? キラとアスランが!?)」
キラとアスランのいる砂だらけの世界とはうってかわって、緑とすんだ空気に溢れる世界。
その上空を飛ぶ、シン。闇の書を左の小脇に抱え、右手には連結エクスカリバー。
「(えぇ、二人とも交戦状態に入りました。アスランのほうは相手が相手なので万に一つも敗けはありませんが、問題は……)」
「(キラか……)」
「(えぇ、特に最近はキラの魔力の減少が著しい。傷の治りも目に見えて遅くなっていましたし)」
「(わかった。俺が助太刀に……て)」
先ほどからシンの視界に写っていた白い点。
それが近付くにつれいったいなんなのか、正体が割れてきた。
「(悪い、レイ。通信切るぞ、もう片方が出てきた)」
「(もう片方?)」
「(あの白い方)高町なのは!!」
シンは強制的に念話を切り、なのはをおもいっきりにらみつける。
「わぁ覚えててくれたんだ。シンくん」
にっこり笑うなのはとずっこけるシン。
「敵に名前と顔を覚えられて何で嬉しいんだよ!」
「だって、距離が縮まった感じがするでしょ?」
らちが開かないとシン。
「で、丸腰で一体何しに来たんだよ?」
うん、となのはは頷き、表情が一変。真剣なものとなる。
「やっぱり、お話聞かせてもらうことは出来ないかな?」
「誰が管理局の言うことなんか……」
「私、管理局員じゃないよ? 民間協力者」
腕を広げ、微笑み、信頼をアピールする。
一瞬、その笑顔がはやてとだぶったが、シンはかぶりを振ってその幻想を振り払う。
時は迫っている。
はやてに残された猶予はもうないかもしれない。
管理局に投降して、事情を話して、一体何をしてくれる?
いくつの法を破ったか自分には知れない。
管理局がこちらの要求を飲むとは限らない。
優先すべきははやて。邪魔をする者は排除するだけだ。

 

『エクストリームブラスト』
感情に比例してか、シンの翼がいつもよりも大きさを増す。
「デスティニー」
『Load cartridge, Unti-Ship Form』
連結されたエクスカリバーが一刀の長剣、アロンダイトへと姿を変える。
増大する魔力と殺気。
なのははレイジングハートを起動、臨戦態勢にはいる。
話し合いどころではなかった。
これほどの殺気を浴びたのは初めてだった。
アロンダイトの鋭い切っ先がなのはへと向けられる。
シンの背後の空は殺気と相反し、美しいまでに鮮やかな色に染められていた。
距離を測り間違えばやられる。
なのはがそう思った刹那、シンが動いた。
瞬間的になのはがシンの数を捕えたのは八人。
だが、それが飛翔魔法の補助効果、残像だと言うことになのはが気付くまでにそう時間はかからなかった。
なのはの視界を塞ぐ陰、シンだ。
判断した時にはアクセルフィンが発動、距離をとる。
そして、シンを捕えたのは二重の桜色のバインド。
「何ッ!?」
『ディバインバスターエクステンション』
十分すぎる程の距離を取ってなのははシンをレイジングハート第二形態、バスターモードで狙いをつける。
距離をとったのはシンの爆発的加速力を警戒したためである。
「この……!!」
一段目のバインドが切れた。
「ディバイン・バスタァァー!!」
二段目のバインドを引き千切るシン。その際、アロンダイトから2発、薬莢が弾けとんだ。
刀身を包む業火。
やがてそれは温度の上昇に従い、青白い輝きを放つ炎へと変わる。
『エクスカリバーget set』
「焔火(ほむらび)一閃、エクスカリバァーァア!!」
シンの魔力光は緋。
しかし、シンの持つ炎熱変換能力により魔力は炎へと変換され、青白く輝くのは温度の高さ故である。
膨大な熱波と共に放たれた光線はディバインバスターに直撃。
なのはの周囲の温度が一気に上昇する。
地上の森はシンとなのはを繋ぐ一直線上に炎がやどり、黒煙をあげた。
さらにディバインバスターとエクスカリバーの相殺効果の爆風によって火は次々に燃えうつり、広範囲の森林を焦土へと変えた。
「ディバイーン……」
レイジングハートから噴き出す蒸気とともに準備されるニ射目。
「くそ、あっちの方が早いか」
アロンダイトから勢い良く排出される蒸気。
エクスカリバーを使ったのは失敗だった……。
とシンは障壁と転移の準備を急いで進める。
ふと、シンの視界を影が覆った。

 

「行くといい」
仮面の男だった。
長い金髪が風にゆれ、仮面から露出している口元は笑っていた。
「何で?」
「理由などどうでもいいだろう?」
男はカード三枚から術を解き放った。
『マスター!!』
レイジングハートが警告する。
周囲を囲む濁った紫色の輝き放つ光弾。
それは不規則な軌道を描き、なのはを撃ち落とさんとばかりに光線を放つ。
アクセルシューターに似ているが、その性質を全く異にする魔法だ。
全方囲の障壁で難は逃れたものの、すでにシンの姿も男の姿もなかった。

 

『プラズマスマッシャー』
『バラエーナプラズマバスター』
金色と蒼色の雷撃の炸裂。相殺の衝撃で巻き上がった砂が雨のように降り注ぐ。
二人とも呼吸が乱れ、切傷、擦り傷を負っていた。
砂地に落ちた血が、砂を赤黒く染めた。
それでも両者地を蹴り、戦闘を開始する。
円を基本に立ち回り、フリーダムから放たれる魔力による光線から逃れるフェイト。
『プラズマランサー』
『クスィフィアス』
同時に放たれた同じ数の光弾は相手に届く事なく相殺されてしまう。
再び地に足をつける。
何やら思案顔の二人。
(早さは互角、パワーは僕が上だけど……これ以上の接近戦はキツイな。
苦手なのを気付かれる前にフルバーストで決めちゃいたいけど……あの娘、早いから……。
あてられるかな)
(ロングレンジ、ミドルレンジ、クロスレンジ……圧倒されっぱなしだ。
今は早さでごまかしてるだけ……やるしかないかな、ソニックフォーム)
沈黙が続く。
風が運ぶ砂塵が汗ばんだ二人の顔や腕、足にまとわりつくが今の二人には気にしている余裕がなかった。
額に浮かび上がった汗が頬を伝い、顎を伝い、砂地に落ちた。
刹那
『ハーケンスラッシュ』
「はぁぁぁ!!」
『ヴァーティカル・エアレイド』
「うぁぁああ!!」
同時に消費されるカートリッジと砂地に落ちる薬莢。
フェイトは横から、キラは下から刃を相手に走らせるために構える。
「ッ!?」
しかし、キラは途中で足を止め、フェイトはその場で驚愕に目を見開いている。
自分の胸から生える左手。そして、そこには自分のリンカーコアが握られていた。
気を失うフェイト。
「あなたは……」
キラは茫然と仮面の男を見つめるだけだった。
「リンカーコアいらないのかな? 坊主君」
信じていいのか、いけないのか、キラは悩んだが結局、蒐集し、八神家に帰還した。

 

PM 6:13
八神家に帰宅したキラ、アスラン、シン。
「戻りましたか、何ページ集まりました?」
「僕とアスラン、シンを合わせても5ページだよ」
「途中で邪魔が入ったからな」
げんなりした様子でキラとアスラン。
「俺もだ」
バフッとソファに寝そべるシン。
「あと115ページ、間に合うか……」
思案顔で悩むレイにキョロキョロと何かを探しているアスラン。
「どうしたんです?」
「はやては?」
「それなら最近出来た友達のところへ泊まりにいってますよ?」
「いいのかよ?」
慌てた様子でシンが体を起こす。
「幸い、はやての魔力資質はほとんど闇の書の中だ。
詳しく検査でもされない限りわからないだろう」
アスランが言う。
「どっちかっていうと、僕らと一緒にいる方が危険だからね。見付かるという意味では……、それより、気になるのは仮面の男なんだけど……」
「あぁ、俺もそれは気になった。味方なのか?」
キラとシンの前に現れた仮面の男。
「敵、味方はっきりしていれば怖くないんだがな。
正体不明なのが厄介だ。一応、用心するにこしたことはないだろう。
レイ、明日はやてが帰ってきたら家のセキュリティ強化とはやての身辺警護を頼む。
明日からは俺もシンも蒐集活動になるからな」
「わかりました、ところで夕食なんですが、主はやてが作って行かれましたので、皆で食べましょう」
四人の緊張した表情が和らぎ、食卓について皆で食事にありついた。

 

翌日、午前7時過ぎにはやては帰宅した。
帰ってきたのを見届け、アスランとシンは外出。
キラとレイははやてを定期検診のため病院に連れて行った。
担当医の石田から告げられた診断結果は無情なものだった。
はやての麻痺はさらに進んでいるとのことで、このままではいつ発作が起きてもおかしくないらしい。
ある程度は覚悟していたことなのでキラもレイも表情には出さなかった。
夜、はやてが寝るのを見計らい、四人で相談の末、蒐集活動は午前二人、午後一人に調整。
なるだけはやての側にいる人数を増やすためだ。
ここからはレイも参加することになった。
加速する蒐集活動と闇の書の浸食。
騎士たちは運命に逆らおうと必死にもがいていた。

 

クリスマス・イブ、闇の書完成を目前にして二人の男が立ちはだかる。
レイが倒れ
「シン……キラを呼べ……」
『Explosion』
アスランが倒れ
「なんなんだよ!!! あんたたちはぁ!!!」
シンが倒れる。
「あなたは、あなたたちだけは!!!!」
そしてキラ、捨て身の一撃を持って二人の男に挑むが……。

 

次回
第6章 白銀の聖夜、涙と悲鳴は闇を呼び…

 

「主は願いました。騎士たちを奪ったこの世界が夢であって欲しいと……
幻であって欲しいと……
ならば私も今一度詠いましょう。主の願いを叶えるために……」