アム種_134_040話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:46:42

第四十話 戦いのあとに残るもの



『──ン!!シン!!もう、やめろ!!彼らに戦闘力はない!!』

「!?」



 通信機のスピーカーから届くアスランの声に、シンは我へと返った。

 ここは!?俺は一体何をしていた!?

 戦闘中に我を忘れていたということに気付き、敵の影を警戒しシンは身を硬くする。



「な……?」



 視界は一面、火の海だった。インパルスの両腕には地面から引き抜かれた鋼製のフェンスがぐにゃりと曲がった無惨な姿を晒している。



「……あ……!!」



 そうだ。

 これは、自分がやったのだ。

 例の艦隊と遭遇、戦闘に入り。ガイアとの交戦中にこの基地を発見した。

 そして労働に従事させられ、脱走を図り射殺される人たちを見て。

 逆上し、この基地を破壊した。



「っ……そうだ、働かされてた人たちは!?」



 アスランへ返事も返さず、モニターを切り替え続け自分が解放したはずの人々の姿を探す。

 幸いにしてほどなく、それは見つかった。

 赤々と炎に照らし出される、何組もの家族がフェンスのあった場所から基地を見下ろしていた。



「え?」



──どこか、苦々しげで悲しい目で。

 そこに喜ぶ様子は……他の連中はもっていたのかもしれないが、

 シンの目に映った家族からは一切、感じることはできなかった。



『シン!!戻るぞ、奴らが撤退する!!』

「あ……はい!!」



 何故。どうして。

 そのことに思考が傾いてしまっているシンは、アスランの声にわずかに含まれる怒気に気付くことができなかった。







 ぱあん、と乾いた音が格納庫に響き渡った。

 左頬に痛みを感じ、シンはようやく、自分が頬を打たれたのだとわかった。



「な……んで?」



 二人の男が立ち並んでいた。

 ハイネ・ヴェステンフルスと、本来の母艦のアークエンジェルではなくミネルバにセイバーを着艦させた、アスラン・ザラ。彼を打ったのは、アスランのほうだ。



「自分が何をしたか、わかっているのか」

「なにって……俺はあそこにいた人たちを……」

「助けるつもりだったのか。だがなっ!!」

「ッ……!!」



 再度、今度は反対の頬を打たれシンは呆然とする。

 たまらず見ていたルナマリアが割り込んできて、彼をかばう。



「ま、待ってください!!そりゃシンは勝手な行動したかもしれません!!

 けどあの基地の人たちだって、シンのおかげで助かって……!!」

「戦争はヒーローごっこじゃない!!」



 アスランからぴしゃりと言われ、ルナマリアはびくりと肩をすくませた。

 シンも彼が自分の行為を評した言葉に、目を瞬かせ硬直する。



「ヒーロー……ご、っこ?」

「力を持つ者なら、その力を自覚しろ!!状況も、立場も!!自分ひとりで判断するな!!」

「まあまあ。そう熱くなるなって」



 気圧されるばかりのシンたちに対し、アスランをなだめるようにハイネが肩を叩く。

 けれどやはり彼の顔も笑ってはいない。



「……俺も、アスランとは同意見だ。シン、独断先行やスタンドプレーはあまり好ましくないな」

「……」

「あの基地、見るに完成は間近だったようだ。放っておいてももうすぐあの人たちは解放されたろう」

「そんな、でも!!あいつら、銃で……」

「お前の行為による民間人の犠牲が全くなかった、とでも言う気か?」

「そ、それは」

「基地内に残っていた民間人も多かったはずだ。それをお前はきちんと選別して撃っていたのか?俺にはできない芸当だがな」

「でも……!!」

「やつらが撃った銃とお前が撃った銃、何が違う?」



 民間人の犠牲を出したという点においては、なにひとつ変わらない。

 ハイネに言われ、シンの脳裏にあの「解放を喜ばない」家族たちの姿がよぎる。

 そして、家族を失った二年前の自分の過去の情景も。

 自分がやったことは──すなわち、自分から家族を奪っていったフリーダムと変わらないのだ、と。

 キラがやっていたことと、同じなのだと認識させられる。

 真っ向から否定したくても、できはしない。



「なんにせよ、お前の勝手な行動で艦の危機や他の皆の負担が無用に増えた。それはわかるな」

「……はい」

「よし。ならいい。営倉に入れとは言わないから、次の戦闘まで自室で謹慎してろ。いいな」

「はい」

「シン!!」



 なおもハイネとアスランにすがろうとするルナマリアの背中を叩き、もういいと簡単に目で示す。



「サンキュ。かばってくれてありがとな」

「……」



 そういえば、出航前に喧嘩して以来、碌に話もしていなかったんだっけ。

 それでもかばってくれて、嬉しかった。

 けれど今は、一人でいたい。



「シン・アスカ。自室で謹慎に入ります」







「くっそォォっ!!あのストライクもどきがァ!!」



 壁の向こうの通路から、スティングの叫ぶ声と壁を殴りつける音が聞こえてくる。

 ネオはちらと聞こえてきたほうを振り返ると、小さく溜息をついて通信機のほうへ向き直る。



『ふむ?ではキミは現地徴用ではなく、ファントムペイン正規の部隊をまわしてくれと。そう言うのかね?』



 さっきからそう言っているだろう。

 人を完全に見下した言い様に、上司だとわかっていてもネオはむかむかしてくる。

 先程の戦闘で毎度のように自分の前に立ちはだかってくる黄色いムラサメを墜とせなかったのと、

 宇宙で出会った白いザクまでもがいたことも少なからず彼の苛立ちを増幅させる。



「ええ。急造の部隊ではやはり、錬度も士気も劣ってきます。できればきちんとした部隊を」

『そう言うだろうと思ってね、つい先程、完成したばかりの新兵器の部隊を送るよう仕向けたところだ』

「ハッ?」



 いやね。だからこっちが欲しいのは新兵器じゃなくて、兵士。

 別に機体は旧式でもいいから錬度の高い兵士なわけよ。わかってんのこのオカマもどき上司。

 思わずネオは心底呆れた思いを抱く。これだから前線を知らない人間は。

 そりゃフリーダムやジャスティスは役に立ってるけどさぁ。

 パイロットの顔だって、未だに見たことないわけよ?指揮官なのに俺。

 もし心の声が聞こえれば、一発で首が飛びそうなことをぽんぽん内心でぶちまけていくネオ。



『まあ……見てくれたまえ』

「?」

「ほう」



 切り替わった画面に映る図面に、

 今まで二人のやりとりを不機嫌そうに見ているだけだったディグラーズが立ち上がる。



『ガングリッド・ディグラーズ。キミの持っていたデータと遜色ない出来に仕上がっているはずだ』

「ふん……悪くない」

『これはその第一号になる……のかな。機体として一番汎用性が高そうなコレが最も開発がスムーズにいったそうだ』

「せいぜい、使わせてもらう」

『ひとまず、十機。動力こそ、バッテリーだが……十分だろう』



 そこには、一つ目の奇怪な姿の機体と。ステルス戦闘機を模したような戦闘機が、

機体の詳細とともに表示されていた。



『ロアノーク』

「はっ」

『キミの要望にも、近々応えられるだろう。オーブ軍に出兵を求めているところだ』

「オーブ?ですか?」

『セイランのぼうやも頑張っているようだが……時間の問題だよ』



 ネオの困惑をよそに、高笑いをはじめるジブリール。

 歪んだその笑いが、室内を嫌な空気に染め上げていく。


 
 

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