アム種_134_090話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 16:08:35

第九十話 ファイティング・タイム



「キラ?どうした?」



ルナマリアもラグナも、大分まともな動きになってきた。

訓練が一段落ついたところで、アスランはストライクフリーダムが先程から

ぼんやりと半ば漂うような形で停止しているのに気付く。



機体のメインカメラは、自分たちの艦のあるドック、その向こうの

コペルニクスそのものに向けられているようであった。



「キラ?」

『あ……ああ。ごめん。まかせっきりにしちゃって』

「いや、それはいいんだが……」



やはり、前回の戦闘のことが尾を引いているのだろうか。



死んだはずの、ムウ・ラ・フラガが自分たちに襲い掛かってきたこと。

そのことに思い悩んでいるのだろう。



(やっぱり……伝えるべきじゃないな)



レイから地上で聞いたことは、嘘ではなかった。

ストライクフリーダムの通信記録にも残っていたし、

なによりキラやマリューの前に彼は現れたのだから。



戻ってきたレイと二人で話し合い、バルドフェルドの死の一件については彼らには話してはいない。



ただでさえ衝撃を受けているのだ、報せるのは賢明な判断ではない。



『アスラン?』

「……ん?シンか?早かったな、もう戻ったのか?」



ミネルバから──もっと正確に言えば、デスティニーからの通信。



まだ帰還を命じられた時間には随分とあるはずだが。



『いえ、ジェナスのやつが戻るぞって』

「ジェナスが?」

『はい、それでアムジャケット着込むなりどっか出かけちゃって』



一応、報告しておいたほうがいいだろうと、デスティニーから繋いだわけだ。



「……」



アムジャケットを着ていったというのが、アスランとしてもひっかかる。

通信を切り替えて、艦長たちがこの時間なら集まっているであろう、エターナルのブリッジに呼びかける。



「エターナル。こちらインフィニットジャスティス、聞こえるかイザーク」

『どうした、アスラン』

「シンに発進許可を。すぐじゃなくていい、なにかあったときに」

『了解した。それと、お前達はそろそろ帰還しろ』

「?」

『演習らしい。“ガン・ザルディの”ザフト艦隊が近づいている』



 ****



場所が、悪かった。



雑然としたジャンクの山は足場が悪くまた、まだ生きている可燃性の燃料を積んだ機材やMSの残骸なども数多い。

下手にフルパワーを出せば、誘爆の恐れもある。

この月面都市そのものに被害が及ぶ可能性もあるのだ。



もちろん相手はそのようなこと、気にするような人間ではない。

周囲に気を配り、力をセーブして戦わねばならないジェナスは当然のごとく追い込まれていく。



「どうした!!全力でこい、ジェナス・ディラ!!貴様の力、そんなものではあるまいぃっ!!」

「ぐあっ……!!」



ジャンクの山をいくつも蹴散らし、崩壊させてジェナスは壁面へとつっこむ。

アムジャケットを身に着けているとはいえ、激痛に息が詰まる。



(くそ……せめて、もう少し自由に戦える場所なら……!!)



身を起こしたところに、唸りを上げたハンマーが回転し、飛んでくる。

転がるようにして避け飛びのいた彼のもといた場所は、ハンマーの破壊力に粉砕される。



「温い!!この程度かァッ!!」

「くそ……っ」



距離をとりつつ、考える。考えつつ、避ける。



そして目に入るのは、月面都市の最外周、その外壁に位置する壁面の、ひとつのエア・ロック。



──あれだ。あれしかない。



その様子を認めたジェナスは即座に行動に移す。

大振りのスイングを身を屈めてかわし、ディグラーズの背後に回る。



「ぬ!?」

「もっと……迷惑にならないとこにいくぞ!!」



抱きついて、がっちりとその身体を押さえ込む。



「はあああああっ!!」



全力で向かう先は、件のエアロック。

けっしてスピードも、両腕にかける力も下げることなく、激突せんばかりの勢いで二人壁面に飛び込んでいく。



否、激突するのが目的なのだ。



「ぬうううううっ!?」



弾丸と化した二人の身体は、鋼鉄製のエアロックの扉を破り、貫いて。

宇宙空間へと飛び出していく。



「ジェナス、貴様!!」



そう、これこそがジェナスの狙い。

これで、対等な条件で戦うことができる。



これで──……。



「「!?」」



だが、安心は束の間でしかなかった。

戦い続けることは、二人には許されない。



一筋のビームの光がジェナスとディグラーズ、相対する二人の間を切り裂くように飛来し。



無粋にも、一騎討ちに割り込んでくる。



「MS!?こんなところで!?」



ビームを放ったのは、数機のザクを付き従えた、三機の黒いMSの一機だった。



 ****



「ガングリッド・ディグラーズだな?こちらザフト軍『フェイス』所属、ヒルダ・ハーケン。脱走兵討伐のため、貴君を支援する」



ヘルベルトとマーズ。

二人の部下、そして護衛のザクの部隊を従えたヒルダは、ほくそえんでいた。

新型MS──“ドム”の完熟飛行を行うタイミングは、最高だったというわけだ。

なんと格好の状況に出くわしたことか。

生憎とギガランチャーに実弾は入っておらずビームのみしか使えないが、この戦力差なら十分だろう。



『断る。邪魔をするな』

「……なに?」



もともとは、こちらについたムウ・ラ・フラガ──この際、ムウが本人かどうかは関係ない──と、同じ部隊にいたと聞く。

だから、ヒルダは当然ディグラーズのことも抱きこめると思っていた。



しかし彼女のその認識が甘かったことを教えるがごとく、男の声は敵意と不快感に満ち溢れていた。



『失せろと言っている、馬鹿が』

「な……目的が同じならば手を組むのが道理というものだろう?」

『知るか。これを俺の戦いだ』



ディグラーズはジェナスとの戦いを中断し、ハンマーの先端がこちらに向けられていた。

手を出してみろ、ただでは済まない。

それだけで、言外に告げていた。



『どうする、ヒルダ』

『取り込めるなら、取り込んだほうがいいんだがな』



マーズやヘルベルトが、口々に問う。



付き従う立場の自分たちにはどうなろうと責任が降りかからないからといって、いい気なものだ。

それを負うのは隊長の任を任されている、自分なのだから。



「……かまわないさ、二人まとめてやっちまうよ」



味方にならないのならば、敵。

どの道自分たちに賛同しない者を野放しにはしておけない。

ならば今のうちに叩き潰しておくというのが道理というもの。



その極端な考えを、ヒルダは疑わなかった。

彼女の指示に従い、MS隊の銃口が、二つの小さな反応へと一斉に向く。



的が小さい分、やっかいではあるが。



ここで、叩き落す。




 
 

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