俺とカガリはバルトフェルドの車に乗せられバルトフェルドの屋敷へ連れて行かれた。
しかし基地という程の防御施設は特に見当たらない、これを落せない明けの砂漠は
相当やる気が無いのか、アフォなのかのどちらかだろう。敷地内に入ると格納庫があった。
その一帯だけは一応軍事施設だけあり、警備兵や対空機銃などが配備されていた。
ジンやバクゥがずらりと並んでいる、そしてその中に見覚えのある機体、ストライクも
陳列されていた。どこか懐かしさを感じる。待ってろ、すぐに助け出してやるからな。
しかしあまりキョロキョロしていると怪しまれる、今はなるべく目立つ行動は控え
慎重に・・・。フト横のチリソース塗れのカガリを見ると、真っ青な顔をしている。
「おいゴリラ、どうした?ビビッてんのか?」
「・・・・・少し、気分が悪いだけだ・・・」
カガリは腹部を押さえていた、どうやら下剤が効いてきたみたいだな。でももう
屋敷に着くし、トイレ貸して貰え、そこで存分に出して来い・・。
車が止まり、俺達は降りる様に命じられた。包帯男が自分と来いと言っているので
俺とカガリはその後に着いて行った。包帯男バルトフェルドはフラフラしながら
屋敷の中に入っていく。まるで酒が入っている様な感じの歩き方だ・・。
廊下を歩いていると、水商売風の女が話しかけてきた。
「コノコデスノ?アンディ?」
前から思ってたんだが、この女をどこの東南アジアから買ってきたんだテメーは?
羨ましいじゃねーかコラ。
「ああああああ。かっかかか、彼女をどうにににかしてやってくれれれれ。チリリリRソースと
ヨーググッググルトソースとおぉおお茶を被っちまったんだだばばば」
「アラアラケバブネ~ダイジョウブヨスグスムワアンディートイッショニマテテ」
アイシャはそう言ってカガリの手を引き、どこかへ連れて行った。すると一人残された俺に
包帯男が至近距離からブンブン両手を振りながら話しかけてきた。
「おーいいいいいい!きっきききっきみはこここっちだだだっだ」
俺は屋敷の一室、恐らく応接間だろう、テーブルとソファーしかない部屋へ通された。
俺がソファーに腰掛けると、包帯男が両手にマグカップを二つ持って現れた。
「ぼぼぼっぼぼくはコーヒヒヒヒーには、いささささささか自信があっあっああってねぇ」
こんな奴が淹れたコーヒーなど飲みたくも無い、ホントにちゃんと豆ドリップしたんだろうな?
目の前に指し出せれたカップを見て俺は言葉を失った、カップには重油が入っていた。
これを飲めと・・・?見るとバルトフェルドはそれをゴクゴクと上手そうに飲んでいる。
おい、ちょっと待てよ、死んじゃうぞ・・・。バルトフェルドは重油を一気に半分くらい
飲み干すと黒い煙を吐き出し、カクカクと体を上下に揺すり始めた。大丈夫かこいつ・・?
「どどどどどう?コーヒーのののの方はぁ?」
「いや、これコーヒーじゃ無いから・・・」
俺達が話していると、部屋のドアが開きアイシャが入ってきた。アイシャは何も言わず
バルトフェルドと俺からマグカップを奪うとそれを部屋の外に居た兵士に手渡した。
そして改めて何事も無かったかの様に、アンディ~と言いながら部屋へ入ってきた。
アイシャは部屋の外に居たカガリを引っ張ってきた。カガリは緑色のドレス姿だった。
恥ずかしいのか、少しうつむき照れている。俺はカガリと目が合ったので何も言わず
「プッ」と鼻で笑ってみた。
「くっ・・・・テメェ!!」
カガリは拳を握り予想通りの反応をしてくれた、しかしその直後、ビクッとすると急に
大人しくなり、腹部を押さえ始めた。何だ、お前まだ便所行って無いのかよ・・・。
「ドドドドレスもよくっくくく似合うねぇ。といういう言うか、そういう姿も
じじじ実にいいいいたに付いてるかっ感じだっだだだ」
「勝手に言ってろ!」
「しゃ、しゃしゃししSしゃべらなきゃキャキャキャ完璧」
いや、むしろお前は喋るな・・・。
「そう言うお前こそ、ほんとに砂漠の虎か?何で人にこんなドレスを着せたりする?
これも毎度のお遊びの一つか?」
「ドレレレRレレスを選んだだだだっだのはアイシャだしししぃぃぃ、毎どっどどのお遊びとは?
いいいいいいい目だねぇ。真っ直ぐで、じじじつにいいいいいいいいい目だ」
「くっ!ふざけるな!」
そう叫んだ、着後カガリはビクッとして大人しくなった。強気な態度とは裏腹にカガリの顔は
真っ青だった、そして額には汗を滲ませている。どうやら、腹痛が本格的に便意に変わった様だ。
あんまり力むと漏らすぞ?俺はカガリの耳元で囁いた。
「おい、何でさっきトイレ行かなかったんだよ?」
俺の突然の問いかけにカガリは驚きながら顔を赤らめた。
「な・・・何でだよ・・・?」
「いや、うんこしたそうな顔してるから」
「・・・・・したくない・・・」
カガリの答えはいたって冷静だった、肛門に全エネルギーを集結させているカガリにとって
キャンキャン吼えるだけの余力などもう無い。俺達がヒソヒソ話していると、一人蚊帳の外の
バルトフェルドがいきなり言葉を発した。
「き、きききも死んんんだ方がっがががマシなクチチチチかね?」
仲間外れで面白くないからってそれは酷いんじゃないの?最もちゃんと喋れて無いから
その言葉も効果半減だけどな。当のカガリはバルトフェルドの問いかけを無視している
と言うより答える余裕は無い。バルトフェルドは今度は俺へ対して問いかけてくる。
「そそそそそっちっちっちちのかっ彼、君はははははどう思もももってんの?」
「誰かさんがうんこを我慢してる件についてか?」
「どどどうなっなっなななたらこのののの戦争は終わわわると思う?モビビビビルスーツの
パッパパパパイロットとしては」
カガリは何も言わず俯いている、もう目の前の包帯男の言葉などカガリの耳には届いて
いないのだろう。俺はカガリの胸を揉んでみた、カガリは俺の手を軽く払うだけで一切反撃してこない。
「はっはっはっは。あああああまり真っまっ直ぐぐぐぐすぎるのもももももんもん問題だぞぞぞ
せせ戦争にはははは制限時間も得くく点もないいいい。スポーツのしし試合のよううううなねぇ
ならどうやややっやって勝ちかちかち負けをををを決めるるる?」
バルトフェルドは一人で話を進めながら立ち上がると、近くにあった戸棚から拳銃を出した。
「てっててて敵であるるる、ももものを全てほろろろぼして・・・かっかね?」
カガリは拳銃を向けられても全く無反応でそのままソファーに座っている。俺は立ち上がり
カガリの手を引き、部屋の隅へ移動した。
「やややっ止めた方うううが賢けけけけ明だなぁ。いくららららら君がバーバーバーサーカーでも
あああっ暴れて無事にこここここから脱出でききききるもんか」
「いや、お前が相手なら簡単に出れると思うぞ?」
「こここここに居るののののはみんんな君ととっとと同じ、コーディディディネーター
なんだっだからなねぇ」
「コーディディディネーターなんてここには一人も居ませんが・・・・・」
カガリはバルトフェルドが何を言おうと無反応、足をモジモジさせながらひたすら人間の限界に
挑戦していた。俺は話しながら、時計を見た。街で作戦開始の合図を出してから28分32秒経過している。
もうじきトロイの木馬が来る頃だな、そろそろお遊びも終わりにしますか。俺がそう考えていると
部屋にダコスタが入ってきた。
「失礼します。隊長、レセップス搭載機が二機、こちらへ帰還してきます・・・
一時はシグナルロストしたバクゥですが・・・・どうなさいますか?」
「うふふふふふ、ややややっぱり、どっどどどちちちらかががががが滅びなななっななくては
なららららんのかねぇ」
「・・・・隊長!」
「何だだだだだ、ダコスタくんくん?」
「だからバクゥが・・・」
「かっかかか帰りたまえ。はっははは話せて楽しかったよ。よかよかよかったかどどどどうかは
分からんんんがねぇ。またたたた戦場でな」
ダコスタを無視して喋るバルトフェルドに連動して、部屋の隅に居たアイシャが入り口のドアを開けた
しかしここで帰る訳にはいかないんだよね。俺は再びソファーに腰掛けた。カガリはもう無闇に動きたく
無いのかその場に立ったままモジモジしている。
「帰る前にさ、俺の機体返してくれよ?」
「なっななんの事かかかかね?」
「空から降ってきた地球軍の新型、Gってコードネームが付いてるやつだよ。お前らの
呼び名はストライクか?」
それを聞いたダコスタはいきなり腰の拳銃を抜き、それを俺に向けた。
「お、お前!あの機体のパイロットか!?」
「それを知ってて俺をここに招いたんじゃ無かったのかよ?」
ダコスタはバルトフェルドを見た。アイシャは知ってか知らずか表情を変えないでいる。
バルトフェルドが口を開いた。
「かっかかか帰りたまえ。はっははは話せて楽しかったよ。よかよかよかったかどどどどうかは
分からんんんがねぇ。またたたた戦場でな」
再度同じ言葉を繰り返す所にこいつの知性の無さを感じる・・・。重油の飲みすぎで頭が
オーバーヒートしてるんじゃないか?その時、静かな室内に俺の時計がピーピーと鳴り響いた。
時間か。俺は立ち上がり、ポケットに手を入れた。ダコスタはその動きを逃さず、銃を向ける。
「動くな!ポケットから武器を出して手を上げろ!!」
「別に武器じゃ無いんだけどね・・」
俺が取り出したのは5㎝程のキーホルダーだ、ダコスタは俺が取り出したものが武器では無い事を
確認しつつも、外に居た警備兵を部屋へ呼び寄せた。それ際も銃の照準は俺から外さない、
外で待機していた兵士が数名、部屋へぞろぞろと入ってきた。しかし、基地外虎に比べてこいつは
かなり優秀だな。砂漠の虎が名将なのはこいつの補佐があっての事なんじゃないのか?俺達は部屋の隅に
追いやられ、壁を向いて跪くように言われた。今のカガリにそんな事出来るわけ無いだろ?出ちゃうぞ?
カガリからすれば前門の虎、肛門のうんこといった所で、最大にピンチ状態だ。一方、空気の
読めない虎はまだ一人で明後日の方向に「帰りたまえ」と言っていた。俺はカガリに耳元で俺が肘で
突付いたら、耳を塞いで目をつぶれと言った。カガリは俺がこの場を打開する方法があるのだろうと
一応理解出来たのか、青ざめた顔で頷いている。
「おい、喋るな!早く跪け着け!!」
ダコスタが叫ぶ、しかしお前は兵士としては優秀だ、判断も的確だしな。もしかしたらザフトで
一番優秀かもしれん。だけど、所詮は種キャラだな、詰めが甘い。俺からキーホルダー奪わなきゃ駄目ジャン。
その時、屋敷の外で爆発音が鳴り響き、それと同時に自動小銃のフルオート射撃音が聞こえてきた。
部屋の兵士達がその音に気を奪われている隙に、俺はカガリを肘で突っついた。カガリが目を閉じ耳を塞ぐ。
俺はキーホルダーの金具部分を思いっきり引っ張り、それをダコスタ達へ投げつけ、目を閉じ両手で
しっかりと耳を塞いだ。それと同時に、激しい光と爆音が室内を包み込む。俺が投げつけたのは
キーホルダーに似せた小型スタングレネード、作戦前にレジスタンスから貰った物だ。振り返り部屋を
見渡すと、全員芋虫の様に背中を丸め倒れている、小型でもスゲェ威力だぜ。すぐに外の警備兵が
室内に入ってきた。俺は素早く床の自動小銃を拾い、警備兵を始末した。ドアから顔を出し、廊下の
様子を見を見てみる。誰も居ない、俺はポケットに詰めれるだけマガジンを詰め、倒れているアイシャを
背負い、カガリの手を取り部屋を出た。しかしカガリの足取りはとても重い。
「なぁ、後ろ向いててやるからそこでうんこしていけよ?」
「・・・・・む、無理だ・・・出来無い・・・」
「でも、出そうだろ?」
「・・・・私に・・・構うな・・・」
「そうはいかねーよ、じゃあさっさと屋敷を出ようぜ?そうすればトイレ行けるし」
「・・・あぁ・・・分かった・・・・」
カガリは声を振り絞り答えると、ゆっくりだが走り出した。俺がカガリの手を引っ張り、何とか
屋敷の外に出た。外ではレジスタンスが警備兵と銃撃戦を繰り広げている。どうやら作戦は上手くいった
様だな。俺は近くに居るバクゥを見上げた。このバクゥは俺が前に倒した奴だ。AAで改修し、俺が
ナチュラルOSに書き換えた、弾薬庫を空にしてそこにレジスタンスの武装メンバーとサイ、ミリアリアを
詰め込めるだけ詰め込み、ザフトの識別コードで敷地内に入り込んで、対空兵器と格納庫を制圧
それと同時に俺はストライクを確保、兄貴のスカイグラスパーが運んでくるソードストライカーを
換装し、基地内で暴れまわる。その後、増援のサイーブ率いる車両チームとアークエンジェルが
残存兵力を掃討し、ゲームセット。紀元前に考えられた作戦がここでは普通に通用する、全く笑える
話だ。しかし完璧とも思えた事が何かの拍子で脆くも崩れ去る事はよくある。俺はこの時
想像もしなかった。もう二度とストライクのコクピットに座る事が出来なくなるなどとは。
○つづく