クルーゼ生存_第27話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 02:29:05

「オーブからの返答が変わりました。『オーブの守りを考えると、先日のカーペンタリア
攻防戦での被害で戦力が減ったオーブ軍を太平洋から一艦でも戦力をだすことは辛いが、
同盟国の大西洋連合のためなら、インド洋艦隊にオーブからの艦船を派遣することはでき
るが、地中海は遠すぎて無理だ』ということです」
 ゴンザレス補佐官の報告に、コープランド大統領は頷いた。
 オーブにもっと戦力を供出させようというのは、ブルーコスモスの案なのだが、それは
どう見てもオーブが同盟国であるからというより、コーディネーターの国内居住の権利を
認めている国だからとしか思えない。政治はいじめではない。同盟を結んだからには誠意
を見せると、先日のカーペンタリア戦でオーブ艦隊が奮戦し、戦死者も多く出た。もしザ
フトがオーブを連邦の同盟国で、モルゲンレーテで作った武器を世界中にばら撒くことに
よってザフトに被害をもたらしているなどと理由をつけてオーブを攻めることになったら、
大西洋連邦は同盟国の義務としてオーブを守らなければならないのに、ナチュラルとコー
ディネーターというふたつのポイントでしかものを見ないブルーコスモスは、そういう政
治を理解しない。しかしこの国で、圧倒的にブルーコスモス思想に人気がある以上、ブル
ーコスモスに反対することは大統領の椅子から追われることなのだ。
 コープランドは執務室の机の上で、ひじをついてため息を吐いた。
「まあ、オーブの国家元首カガリ・ユラ・アスハは世間知らずの娘だが、夫のユウナ・ロ
マ・セイランとその父のウナト・エマ・セイランは少しずつ譲歩して、落としどころを見
つけるつもりなのだろうな」
「はい。セイラン氏は長年駐大西洋連邦大使を勤めてらしたので、この国の事情に明るい
し、人脈もおありのようで。そして息子のユウナ氏は、高校から大学院まで大西洋連邦育
ち。イェール大学ではスカル&ボーンズのメンバーだったそうですから」
 地方で神童と言われて育ち、アイビーリーグでもオールAの優等生で通して弁護士になり、
そこから政治家へと順風満帆な人生を送ってきたコープランドだが、妻を通じて繋がって
いるロゴスをはじめとする特権階級とはまだなじめない。しかしユウナ・ロマ・セイラン
はオーブという国を守るために知恵を絞る政治家であっても、ボーンズマンとして、この
国の特権階級に個人的な同胞としての繋がりを持っているということだ。
 しかし7億人の国民の支持を得るには『自由と平等』という題目が一番大事だった。

 
 

「マルキオ導師、よくいらっしゃいました」
 彼の盲いた体を案じて、杖の上に温かい手が乗せられた。会うのは初めてだが、何年も
連絡を取り合ってきた、ウィーンの支部のアペレス師に迎えられた。部屋にはマルキオ導
師来維を聞いて駆けつけた信者たちの熱気が満ちていた。彼を支持する人には、裕福なイ
ンテリが多い。
 ブレイク・ザ・ワールドで島が津波に呑まれたので、引き取っていた孤児たちはアスハ
家に頼み、彼本人は一番思想的に乱れている西ユーラシアを回っているのだ。
 マルキオは右手を上げて祝福し、信者に応える。
「我々人類はデミウルゴスに作られた罪深い存在です。それは肉体も、霊魂もです。しか
しSEEDを持つものが生まれてきています。彼らは人類をデミウルゴスの檻から解き放つ進
化の可能性を秘めています。人類がささいなことで争い、肉欲にとらわれたデミウルゴス
に支配された時代はもう終わります。SEEDを持つものたちが、増えていけば、罪人とされ
てきたゴイムでさえ救われるのです。皆さん、戦乱の続く世の中ですが、そのあとの未来
を信じましょう」
 彼の言葉に感激したすすり泣きが、部屋のあちこちから聞こえた。

 

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