クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第006話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:16:04

第六話 『嵐が、来るのですね』
 
 
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DXからのほとんど一方的とも言える通信が打ち切られたとき、
にわかにミネルバのブリッジは騒然となった

ガロードの要求はそれほど無茶で、異様で、そのくせどこかこっけいだった

「艦長、どうしますか?」
通信士メイリンが切羽詰った顔で、艦長のタリアを見つめる
モニタに映ったユニウスセブンは大気圏への突入が近い
MSの活動も限界に差し掛かるころだった

タリアは少し頭を押さえた。すでに破砕作業は無理になってきている
謎のジン部隊だけならまだしも、ブリッツの出現で工作隊はほとんど壊滅
自由に動けるのがDX一機だけとあっては、破砕作業は失敗したも同然だ
「議長・・・・。説明はいただけるんでしょうね?」
タリアは振り返り、後方で悠然と待機しているデュランダルを見つめた
この男の狼狽するところを、タリアは見たことが無い
「説明、とはどういうことだね?」
「DXとアシュタロンは私ですらよく知らない、きわめて特殊なMSです
  しかしこの二機が議長の直属である以上、議長はこのMSについて
  情報をお持ちなのでしょう? ガロード・ランの言葉、どういうことでしょうか?」
「ふむ・・・・。タリア、今はなにも言わず、ガロードの言うとおりにしてくれないか?」
「しかしエネルギーを・・・・それも艦隊を動かせるほどの、莫大なエネルギーを、
  急にDXに用意しろと言われても、できるものではありません」
「わずかずつでもいい。周辺のザフト艦にも要請して、とにかくかき集めるだけかき集めよう
  それにユニウスセブン内にも、生きたエネルギーが残ってるかもしれない」
「わかりました・・・・・」

タリアは憂い顔のまま、メイリンに視線を移す
「ありったけのバッテリーを出せって、ジュール隊に支援を要請して頂戴
  それから、ルナマリア機とレイ機にユニウスセブンの動力炉を調査させ、
  エネルギーが残っていたらDXにまわさせるのよ。後、シンのインパルスをDXに合流させなさい
  活動限界高度まで時間が無いわ、急いで」
「はい!」
メイリンが緊急回線を開き、支援を要請する。

それを見届けるとタリアは、デュランダルとその隣に座っているカガリとを交互に見た
「議長、なんであれこの作戦は緊急のもので、時間もほとんどありません
  おそらく、大気圏ぎりぎりまで行われるでしょう。そうなればMSは地球の引力に負け、危険な状態となります
  ミネルバは所属のMSを回収するため、このまま大気圏へ突入します」

ざわっ・・・・。
ブリッジがまたざわついた。アーモリーワンから緊急発進して、
いきなり実戦をやっていることだけでも大変なことなのに、この上地球に降りるとまでは
考えていない人間が大半だったのだ。それに大気圏突入をからめた作戦は、危険がつきまとうのが常だった
「それゆえこんな状況下に申し訳ありませんが、
  議長方はボルテールにお移りし、この艦より脱出していただけませんか?」
「タリア・・・・」
「なんであれ、四機のガンダムを失うわけにはいきません。それに・・・これでも私は運の強い女です
  お任せください」
「わかった、すまないタリア。ありがとう」
「いえ。デュランダル議長もお急ぎ下さい」
「ではカガリ代表も・・・・・」
デュランダルが席を立ち、カガリに同行をうながした

「私はここに残る」
「「え?」」
カガリのその声に、デュランダルもタリアも驚いた
「アスランがまだ戻らない。それに、ユニウスセブンの結末を、私もこの眼で見届けねばらない!」
「代表がそうお望みでしたらお止めはしませんよ。頼む、タリア」
「はぁ・・・・。わかりました議長」
タリアは少しあいまいにうなづいた。それを見届けたデュランダルは、ブリッジを降りていく

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謎のジン部隊をあらかた撃破したルナマリアとレイのザクは、
地球へ徐々に引かれていくユニウスセブンの大地を飛んでいた

「ったく! 生きてるエネルギーを見つけろって言われたって・・・!」
コクピットの中でルナマリアが苛立ちを言葉にする
『仕方ない。ぎりぎりまで探すぞ』
なだめるようなレイの声が、通信で入った
「レイ、仮にエネルギー見つけたとしても、バッテリーはどうすんのよ」
『ジュール隊もこちらにありったけのバッテリーを持って急行している。それにまわせば問題ない
  それより破砕作業をどうするか、それが気になる』
「工作隊がほとんどやられたって本当なの?」
『・・・・・・確認はしてないが、急な命令変更を考えると、事実だろうな』
「まったく、ガンダム四機も投入して・・・・なんて無様!」
『よせ。新型のザクに乗っていながら、ジンに苦戦した俺たちも悪い』

そんなやり取りをしながら、
二機のザクはかつてユニウスセブンへエネルギー供給を行っていた場所にたどり着く
操作パネルの存在を確認すると、ルナマリアだけが地上に降り立ち、
パネルを叩いて反応を調べた

「あ・・・・・、これ、ちょっとだけど生きてるみたい。レイ、ジュール隊に連絡とってよ!」
『わかった。それにしてもこれだけのエネルギー、なんに使うのだろうな』

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時間を稼ぐとか、援軍を期待するとか、そういう半端な気持ちで勝てる相手ではないことは、
対峙した瞬間にわかった

ガロード・ランは十五才であるが、
くぐり抜けてきた修羅場の凄まじさは並の軍人と比べられるレベルではない
その経験が、目の前のブリッツを尋常ではない強敵と認めていた

『ガロード、なぜ戻ってきた! ガロード!』
アスランから通信が入ってくる。アビスはすでに半壊状態だが、通信は生きているようだ
「だからって、ほっとけねぇだろうが!」
『ユニウスセブンをそのまま落とす気か!』
「心配いらねぇ、なんとかならぁ!!」
『なッ・・・・真面目に答え・・・・』
「あんたちょっと黙ってろ!」
ガロードは一方的に通信を打ち切ると、ブリッツを見据えた

『やれやれ、確認しただけで合計6機の新型ガンダムとは、ザフトも相変わらず戦争が好きですねぇ』
また、耳障りなミイラ男の声が、通信で入ってくる
「ザフトだかアフロだか知らねぇ・・・・あんたに昔、なにがあったかも興味はねぇ・・・・
  でもこれだけは確かだ。無敵のガンダムDXは負けねぇ! さぁ、妖怪退治だこの野郎ッ!」

フィン・・・・・また、ブリッツが姿を消す。ガロードはすぐさまDXの胸部にある、ブレストランチャーを開放した

ドドドドドドドッ!

実弾の雨。フェイズシフトという存在を理解したガロードが、ダメージを与えるためにそれを発射したわけではない
位置特定のためだ

「そこっ・・・・!」

何も無い場所での、実弾の不自然な屈折確認。ハンマーを構え、投げる。手ごたえなし

『遅すぎますよ、DXとやらぁッ!』

ドゴォ! 

突如右側に出現したブリッツ。不意を突かれたDXはサーベルの一撃を側面から受け、思いっきり吹っ飛ぶ

「う・・・・ッ!」
ガロードは衝撃でコクピットシートに叩きつけられながら、ブリッツをにらんだ
(俺が宇宙に慣れてないこと差し引いても、速い・・・! でも・・・・・!)
即座に損害をチェックしたが、ビームサーベルを至近距離から受けたにしてはダメージが少ない
機動性とステルスに特化して攻撃力を削った機体であると、ガロードは考えた

ガロードは知らない。驚いたのはニコルの方である。今のは必殺だった

この世界の装甲は、純然たる装甲としては貧弱だった
だからVPSやフェイズシフトといった装甲の特殊技術が発達したのだ
ブリッツの攻撃力がないのではなく、DXの装甲『ルナ・チタニウム』が、
この世界では異端の能力を持っているがゆえに、
必殺の間合いにもかかわらず軽傷で済んだことを、まだガロードは理解できていなかった

ドカッ、ガキッ!

二撃、さらにまともにビームサーベルを受けた。軽傷だがブリッツがまた姿を消し、気配も消す
「クソッ、攻撃力が低いのはともかく、このまんまじゃなぶり殺しだぜ・・・・うっ!」

バキッ!

姿を消し、またも唐突に上空に現れたブリッツが、DXの顔をサーベルで打つ。
そしてまた、姿を消す。ハンマーを振り回すが、スカをくうだけだ

「こうなりゃ、これでどうだぁ!」

ぐぉん・・・・ぐぉんぐぉんぐぉんぐぉん・・・・

DXが頭上でGハンマーを振り回し、大きく回転させる
『ひひひひひひ、アホが乗ってるみたいですねぇ、この新型はッ!』
これによって確かにDXに頭上から攻撃はかけられないが、当然、側面はがらあきになった

『なぶり殺しだぁアアハハハハハ!』

ドゥン、ドゥン!

姿を見せたブリッツが、ぎりぎりの距離からレーザーを二発見舞った
直撃したが、DXの装甲は持ちこたえている
そしてまたブリッツは姿を消す

「DX! 俺、おまえを信じてるぜ! Gハンマー、オート追尾機能停止! バーニア最大出力!」

DXの頭上で回転するGハンマーが、バーニアを噴射し、まるで竜巻でも作り上げんばかりにうなりをあげる

ぎゅぅぅぅぅぅぉおおおおおおおおお!!

その回転が人の目に映らなくなるほどになった瞬間!

「おらぁぁぁッ!! ビーム全開ッ! いっけぇぇーーーッ」

DXは、ビームで包んだ鉄球を地面にたたきつけた。

ドゴォ! バゴォ! ドガッ!

凄まじい勢いでバーニアを吹かしているせいで、鉄球は叩きつけても勢いを失うことなく回転を止めない
そのまま何度もハンマーを床に叩きつける。ゆえに、DXの周辺はたちまち土くれや岩が凄い勢いで崩れ、
とびあがり、霧のようにたちこめ、目の前さえ満足に見えないほどになった

そこで、岩の雨とと土煙の中、不自然にゆがむ空間が見える

「そこだッ! 食らえ! 大回転Gハンマぁぁぁーッ!」
回転の勢いを止めず、DXは跳ね、凄まじい勢いのハンマーを空間へと叩き込んだッ!

バキィッ!

空間の歪みが消える。同時に、胴から離れるブリッツの頭部、姿を見せる黒い機体
見事にGハンマーは、ブリッツの顔面を吹っ飛ばしていた
「これでメインカメラはもう使えねぇ! チェックメイトだ、ミイラ野郎!」
『うぐっ・・・・こんな戦い方にぃ・・・・ッ! ・・・・フッ、まぁいいでしょう・・・・
  ユニウスセブンの破砕を阻止したことで、ひとまず僕の役目は果たしてますからね』
「へっ・・・負け惜しみィ!」
『ガロードとか呼ばれてましたね。覚えておきますよォ・・・その名前・・・・・」

フッ・・・・ブリッツがその姿を消した。
「あっ、くそ! 逃げたぁ!?」
うかつだった。どうやら頭部を失っても、姿は消せるようだ

(さて、大仕事だぜ・・・・)

ガロードは乾いた唇をちろりとなめた

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アスランは開いた口がふさがらなかった。ガロードの戦法はそれほど無茶苦茶だった
(本当にコーディネイターなのか、あの少年?)
思わずそう思ったほどだ
(そういえば最初に会ったとき、おかしなことを言ってたな・・・・ザフトではないと・・・・)

コーディネイターはその優秀さゆえに、戦い方はほとんど正攻法だった
正攻法が一番強く、効果的とはよく言われる言葉である
コーディネイターはそれを体現し、それゆえ先の大戦では数に勝る連合相手に、
正攻法の強さで互角以上の戦いを行うことができたのだ

そしてキラ・ヤマトもアスラン・ザラも、単純な正攻法で戦い、
そのやり方は連合やザフトを圧倒するほど、極端に強かった

だがガロードのやり方は明らかに違う
勝つために考え、工夫し、新たな戦法をその場で生み出すという戦い方である
それは到底、コーディネイターのやり方ではなかった

「戦いは終わったが・・・・機体の出力は低下し、危険な状態だ。それでもおまえは、アビスが欲しいのか?」
「うるせぇ・・・・! さっさと出ろよ!」
アスランの後ろで、アウルがわめく。銃はこめかみに突きつけたままだ。
コクピットはショートを繰り返し、煙がかすかに吹き出ている。かなり危険な状態だった
「で、なぜ俺を撃たない?」
「はぁ? 死にたいのかよ、アンタ」
「単純にアビスのコクピットを奪いたいのなら、俺を脅すよりも、さっさと死体にした方が効果的だ
  なのにおまえは、俺を脅すだけ・・・・・大方、脱走したとき手に入れた銃が、弾なしだったんだろう?」
「う・・・・・・ッ!」
アウルがひるんだ。そう思った瞬間、アスランは肘撃ちを腹へと叩き込む!

「こっ・・・!」
「ふんっ! せいっ!」

バキ、ズッ!

続いて裏拳を鼻に、手刀を喉へ。鼻血を噴き出し、アウルは気を失った

「さて・・・」アスランは気絶したアウルをそのままに、コクピットハッチを開ける「議長には
  恩を仇で返すことになるかな・・・。この新型は、もうダメだ」
ブリッツによるアビスのダメージは深刻で、このままでは爆発の可能性が大きい
仮に爆発しなくても、地球へと落下するユニウスセブンに放置しては、回収することもできない

「ニコル・・・・。おまえは、俺を助けてくれたのに・・・・・あんな・・・・。
  ・・・・・・・俺のせいなんだろうか・・・俺が・・・・・でも生きていた・・・。生きていたんだ、ニコルは」

アスランが見回すと、一機の赤いザクがこちらに向かって来た
アスランは非常灯で円を描き、存在を知らせる

アビスの前でザクのコクピットが開き、ルナマリアがこちらに来るよう手招きしている

「アビスをダメにしちゃったんですか?
  久しぶりの実戦なのに、いいとこナシでしたね。ミネルバに帰艦します」
コクピットにある非常用の椅子に座ったアスランへ、ルナマリアがからかうように声をかけてくる
「言い訳はしないさ・・・・・。いろんな人に、合わせる顔がないけどな」
「まぁ、かなり強いMS相手でしたから、それほどとがめられはしないと思いますけど・・・・
  ジュール隊も生存者はほとんど救出されました。ディアッカ、イザーク、両名も無事です
  アスランさんの戦友・・・・・でしたよね?」
「ああ、かけがえの無い戦友だ。でも戦場を生き延びた人間は、
  生きていればそれでいいって、思えるものでもないのかもな」
「はい?」
「いや、なんでもない。それより、ユニウスセブンはどうなる? 
  こうなれば地球からのミサイル攻撃で破砕するしか手段はないと思うんだが」
「それがですね・・・・・。なんか、ガロードがおかしなこと言い出して・・・・」

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ザザーン・・・・・ザザーン・・・・・

静かな海だった。夕焼けに染まるその海は、砂浜に寄せては返し、
落ち着いた景色を作り出している

遠くには子供たちの声
世界が終わろうとしていることなどしるよしもない

そして、青年は海を見つめている
恋人はその姿を見つめている

ラジオはユニウスセブンの落下が近づいていることを報せ、
しきりにシェルターへの避難を勧めていた

「キラ・・・・・嵐が、来るのですね」
「うん、わかってる。ラクス・・・・」

また、静かな時が流れていく
砂浜は平穏そのもので、迫り来る危機とは無縁のように思えた

「キラ、ラクス、ここにいたのか・・・・」
足音が近づいてきて、やがて長身の男性が二人の前に姿を見せた
「もう動き回ってよろしいのですか? 傷は?」
ラクスが男性に声をかける
「もともと傷はたいしたことなかった。MSの中で記憶を失って、名前ぐらいしか思い出せないのが不安だが・・・
  いや、そんなことはいい。早く二人ともシェルターに入れ
  特にラクスに万一のことがあったら、私が困るのだ。
  ラクスのはげましや優しさは、なにも知らぬ私に、生きる希望をくれたのだからな」
「そんなこと、大げさに考えることはありませんわ。苦しんでいる人を助けるのは当然です、シャギア・フロスト」