クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第016話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:34:48

第十六話 『みんなを守ってみせるから』
 
 
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大艦隊が海を行く。それは壮観な光景で、見ているとこの大軍に勝てる軍はないと思ってしまうほどだ

地球連合軍特殊部隊『ファントムペイン』隊長、ネオ・ロアノークは旗艦であるJPジョーンズのブリッジにいる
JPジョーンズは戦艦空母で、MS収納量と、戦闘力を併せ持つ大型艦だった

「それにしても、このところ失態続きだね、俺も
  そもそも『ユニウスの悪魔』なんてのが出てきてから、どうもよくない」

ネオは椅子に座った格好で、一人つぶやいた。仮面のせいで表情はわからない
近くにいた副官のイアンが、ネオを見てくる

「ネオ大佐。失態とは、アーモリーワンの強奪のことでしょうか?
  それでしたら、不問にされたのでは?」
「だな。建造されたのは新型ガンダム3機と思ってたのに、それが6機もいたんだからな
  俺のせいじゃなくて、こりゃどう考えても諜報部の責任だ
  ええと、名前は・・・カオス、ガイア、アビス、インパルス、ダブルエックス、アシュタロン・・・だったっけ?」
「ザフトの通信を傍受したところ、その呼称で呼ばれてましたから、間違いないと思われます」
「ま、名前なんぞどうでもいいか。問題はガイアもアビスも手元にないってことだ。・・・それに、
  ステラが行方不明で、アウルが捕まったってのが、な・・・・。」
「ネオ大佐、情を移されたのですか? ああいう強化人間に情を移すと、つらいと思いますが」
「おいおい、俺だって人間さ。まぁ、ロゴスの飼い犬だがね・・・・。
  ま、暗い話はこれぐらいにして、オーブをさっさと降伏させるか」

この大艦隊の目的は、オーブ首長国連邦を降伏させることにある
オーブの軍事力は低くないが、空母20に、戦艦50、MS600の大部隊に立ち向かえるほどではない

「で、オーブの代表は暗殺されたんだって?」
ネオが思い出したように口を開く。副官のイアンはうなずいた
「はい。カガリ・ユラ・アスハ・・・・でしたか。結婚式の最中に、MSが乱入して暗殺されたそうで」
「いったい、どういうことかねぇ・・・・。カガリってのは、18の小娘だろ?
  お飾りにすぎない政治家だと思うが・・・・」
「いえ、カガリは、それなりに国内で人気があったそうです。邪魔だったのでは?
  ただ・・・・結婚式に乱入したのは、前大戦で名をはせた、フリーダムだったらしいですが」
「へぇ・・・・・。前大戦の英雄がねぇ・・・。おっと、俺がこんなこと言っちゃいかんか
  ま、小娘でも国のトップがいなくなって混乱してるわけだし、俺たちとしちゃ仕事はやりやすいか
  カガリさんはオーブがどこと同盟するのも嫌がっていたって言うしな」
「そうですね。さっさと降伏してくれると楽です。これだけの大部隊、
  兵站も費用も楽ではありませんから」

イアンの言うとおりだった。できればすみやかに動き、すみやかにオーブを連合に引き寄せるのが、
最上の戦果である

「イアン、孫子とかいうのはいいこというね。直接ドンパチやって戦うのはバカのやることだとさ
  俺も願わくば、そうありたいものだね」
「・・・・・ネオ大佐、それはローエングリンゲートのことを考えてらっしゃるので?」
「ま、それもあるな。DXは悪魔とか呼ばれちゃいるが、一切死人を出さずに、
  あの要塞を陥落させた。敵ながらあっぱれだな
  俺もできたら戦いなんぞせず、敵を倒したいもんだよ」
「大丈夫でしょう。オーブは、親連合派のセイラン家が実権を握ったと聞きますし
  すぐに使者がやってくると思いますよ」
「だといいがねぇ・・・・。にしても、天気悪いな・・・・こりゃ、荒れるかな」

ネオはブリッジから、空を見つめた。オーブへと続く海は薄暗く、空は雲に覆われていた

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オーブの宮殿では、ミネルバのクルーやアスラン、
それにオーブの軍人やユウナを集めて作戦会議が行われていた

地球連合との開戦に関してはまだ厳重な緘口令がしかれている
それはアスランが考えた作戦のためだった

「そもそもこの大軍、オーブの戦力でまともにぶつかれば、間違いなく負けます
  ですが逆を言えば、その大軍こそが油断を生むのです
  敵は我々が降伏してくるものと思い込むでしょう
  ですのでまず奇襲を行うべきです」

アスランがオーブ近海の地図を、指で示す

「しかしアスラン、奇襲と言うが、障害物がなにもない海でそれは難しいんじゃないか?」
ユウナが聞く。主席の椅子に座っているが、それに異を唱えるものはいない
「いえ、なにも姿を隠すことだけが奇襲ではありません
  武装のない高速艦を一隻だけ派遣するのです
  一隻だけなら、敵はそれを同盟の使者と考えるでしょう
  その時点で我々は、地球連合に対して宣戦を布告
  同時に高速艦一隻で攻撃を仕掛けます
  これならば虚をつくのに十分です」

一瞬、会議室がしんとなった。かなり危険な任務であり、高速艦は決死隊になる

「その役目、私にお任せを!」

オーブ軍人の一人が進み出る。しかしアスランは首を振った

「いえ、高速艦は宣戦布告と同時に、放棄します
  そして離脱のことも考えれば、高機動MSが必要でしょう
  ここは私のセイバーガンダムが隊長をつとめ、先陣を切ります
  オーブの最新鋭機ムラサメもいくらか貸していただけますか?
  それならば思う存分、やってみせましょう」

アスランは決然とした調子で言う。セイバーもムラサメも可変機構を持つ高機動MSだが、
その奇襲はかなり危険な賭けでもあった

「おまえがやるのか、アスラン。死ぬ気じゃないだろうな。勝手に死ぬのは許さないぞ」
ユウナが聞く
「私は前大戦の英雄ですよ、ユウナ代表。甘く見てもらっては困ります
  それにこの奇襲など、作戦のおまけにしか過ぎません。問題は・・・・」

アスランはさらにオーブのオノゴロ島を指差した
そこはオーブの軍事拠点であり、二年前も戦火に見舞われた場所である

「今回においても、やはり二年前と同じく、オノゴロ島の攻防になるでしょう
  決戦の場はほぼ間違いなくオノゴロ島です。そしてこのオノゴロ島の中心に・・・・」
アスランが顔を横に向ける。そこにはガロードが、少し退屈そうな顔で立っていた
「ん? なんだよ、アスラン?」
「ガロード。DXをオノゴロ島の中心に配置する」
「え? 俺、戦闘に参加しねぇの? 海戦になるんだろ?」
「おまえには、それ以上に大事な任務があるんだ。・・・・シン、おまえ、この作戦で大事なことはなにかわかるか?」

アスランは作戦室に集った面々を見回し、その中で立っているザフトの赤服、シン・アスカに視線を向けた

「え・・・・あ・・・・。敵を倒すこと、ですか?」
急に質問され、シンはあわてて答える
「はずれだ。皆も聞いてください。はっきり言いますが、
  この大艦隊とまともに戦うのは、オーブの戦力では不可能です
  そのため我々の最終目的は、あくまでも敵連合艦隊の撤退です
  ですので敵の目にも見やすいよう、DXをオノゴロ島の中心部に配置します」

「サテライトキャノンでけん制するのか?」

ガロードがアスランを見つめた。

「そうだ。DXのサテライトキャノンがこちらにあり、その上砲身を向けられているとあっては、
  連合の大艦隊もそれが気になってまともにオノゴロ島へ向かうことができなくなる
  我々はそれを利用し、オノゴロ島で防衛ラインを引く
  こうすれば大艦隊はうかつにオノゴロ島へ近づくこともできず、
  大遠征のため補給が続かなくなり、撤退せざるをえなくなります」

「少し待ってちょうだい。もしも敵が攻め寄せてきたらどうするの?」

ミネルバ艦長、タリアが声をあげる。
アスランは少し沈黙すると、再びガロードを見た

「応戦します。可能な限り。ザフトの援軍も期待できますし・・・・。ただし、
  もしも敗色濃厚になった場合は・・・・」アスランは再びガロードを見た「サテライトキャノン、撃てるか?」

その言葉には意味がある。サテライトキャノンを『撃て』とは、アスランは言わない
あくまでも『撃てるか?』とガロードに聞いたのである
DXがどういう兵器であるのか、アスランには十分にわかっているということだ

「・・・・・・・十分なバッテリーと、エネルギーさえあれば、できるけどよ・・・・・。
  アスラン、撃つかどうかの判断は、全部俺に任せてくれねぇか?」
「わかった。ただ、あくまでも撃たないのが我々オーブの基本方針だ」

アスランは、我々オーブと言った。プラントにあがり、『FAITH』に任命されているため、
立場上はザフト軍人だが、心はすでにオーブの軍人であると宣言したようなものである

「アスランの言うとおりである」ユウナが立ち上がり、周囲を見回す「この戦い、血を流すためでもなければ、
  敵を倒すためでもない。あくまでもオーブは独立のために戦うのだ。
  例え偽善と呼ばれようと、理想論と呼ばれようと、流す血は少なければ少ないほどよい
  各員、それを肝に命じ、戦闘に当たれ」

ユウナの言葉を受け、会議室にいた全員が敬礼する。ガロードだけが、少し遅れた

「作戦は以上である。連合艦隊がオーブまで半日の距離まで近づいた時、作戦開始だ
  以上、解散!」

アスランの声が、作戦室に響き渡り、各員は配置につくべく解散していった

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オーブ周辺の偵察を終えたシンのフォースインパルスは、
ミネルバの許可を得て、オノゴロ島に立ち寄った

着陸したのは、港が見える丘の上だった。コクピットハッチを開き、降りる
ステラも一緒だった。彼女は花束を持っている。
同行させたのは、定時の偵察なのでそれほどの危険もないと判断したからだ

「シン、どこ行くの?」
丘へと続く道で、花束を持ったステラが聞いてくる
「父さんと母さん、そして妹のマユのところだよ」

シンは歩いていく。少しだけ、目を閉じた

二年前、この道をあわてて下っていった
オーブは連合軍の攻撃を受け、悲惨な状態となり、シンの家族は避難することになる

しかし避難の最中、シンと少しだけ離れた家族へ、落ちてきた一つの爆弾が、家族の運命を変えた
シンを残し、父も母も妹も死んだ。しかし戦闘中のため、その遺骸を葬ることさえできず、
シンは宇宙へ避難することとなった

そしてシンは軍人になった。あの日、守れなかった自分の無力さが許せなかったから

家族が亡くなった場所につく。焼け焦げた木々はそのままで、しかし新芽がところどころ芽吹いていた

「ステラ、花束を」
「うん」
ステラが花束を渡してくる。シンは静かにそれをささげると、また目を閉じた
「父さん。母さん。マユ・・・・・俺、オーブに帰ってきたよ
  ザフトの軍人になったから、父さんや母さんは怒るかもしれないけど・・・・
  でも、もう誰も守れないのは嫌なんだ。だから許してくれるよね?」

ふっと、シンは微笑みを浮かべる。それからまた口を開いた

「オーブはまた、独立を守るために戦争をするんだ
  それは馬鹿げたことだと思うけど・・・・また、人が死ぬかもしれないけど・・・・・
  俺、父さんや母さん、マユを殺したオーブの理念を憎んだりしたけど・・・・・
  でも、みんなを殺したのはオーブじゃないんだって、時々思ったりもするんだ
  ・・・・・・今は、なにが正しいのか、ひどくわかりにくい世の中だけど・・・・
  でも、これ以上、シン・アスカを増やさないために」

シンは焼け焦げた木々に触れた。かすかに熱い気がした
ステラはじっと、こちらを見つめてくる

「俺は戦う。手に入れた力で、オーブを、みんなを守ってみせるから・・・・
  だから、見守っててよ。俺が正しい道を進めるように
  もう二度と、あんな悲劇は繰り返させはしないから」

想いを吐き出す。海風が鳴っている。あの日は昨日のようであり、
しかし遠い昔のようだった。ただ、戦いの足音は近づいている

シンは無意識にステラを抱き寄せた
そのぬくもりがなにより愛しく、そして悲しかった

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アスランは軍服の右袖に、ベールを巻きつけた
カガリの花嫁衣裳に使われていたものである

(カガリ、俺を守ってくれ)

その想いをこめる。戦いはこれまでにないほど大規模で、
一つ間違えれば悲惨なことになりかねない

ただ幸いなのは相手が大艦隊のため移動が遅く、入念な準備ができることだ
今、急ピッチでエネルギーが集められ、サテライトキャノンの調整がオノゴロ島では行われている

「アスラン」

セイバーガンダムでオノゴロ島に舞い降りたアスランを、ユウナが出迎えた

「ユウナ代表。なにか御用で?」
敬礼し、地上に降り立つ。ユウナはうなづいた
「いや、僕も詳しいことはよくわからない。ただ、前大戦のストライクやイージスなどは、
  我々オーブが開発に関わったことは知っているね?」

ユウナとアスランが、基地の中を歩いていく。周囲は護衛で固められていた
正式な発表はまだだが、すでにユウナはこの国の代表だった

「ええ。イージスは俺が使っていましたから」
「まぁ、つまり我らオーブはMS開発に関してはエキスパートだ
  そこで僕も最近知ったんだが、前大戦の最中や直後に、いろいろMSの開発が行われてたらしい
  とりあえず、ここだ」

ユウナが案内したところは、一つのかなり大きなMS工場だった。中では作業員が忙しく動いており、
あちこちにMSのものであろう、赤いパーツが見える
「ユウナ代表、ここは?」
「アスラン、君自身で奇襲作戦を行うと言ったが、危険であることには変わりない
  ならばせめて、MSの能力を底上げした方がいいんじゃないか?」

ユウナが笑う。アスランにはよくわからないことだった

「どういうことでしょう?」
「セイバーガンダムの改修を行うのさ。幸い、我々はザフトのノウハウも持っている
  それに大艦隊がやってくるまで猶予もある。特に問題はない」
「それは・・・・・・」
「断るなよ。それに本音を言えば、私怨だって、わかってるけど・・・・オーブの血が流れているMSで、
  カガリの仇は取って欲しい・・・・・」

ユウナがそう告げると、アスランは頭をぺこりと下げた

「いや、そうかしこまるな。僕はMSを動かせないから、君を代わりに戦わせようというんだ
  これぐらいは当然さ。・・・・そうだ、ところで改修後のMSの名前はどうする?」
「名前・・・・ですか」

アスランは足下で忙しく作業している光景を見つめた。赤いMSのパーツ。
ふと、思い浮かんだ名前がある

「インフィニットジャスティス」

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オノゴロ島の高台に、大型のバッテリーが集められていく
ガロードはDXをそこで固定すると、他のオーブ軍人たちと一緒に調整をしていた
まだ大艦隊がやってくるまでは猶予があるが、準備が早く終わるにこしたことはない

「我々がDXの警護につきます」

オーブの軍人五名が、ガロードに敬礼してくる。基本的にDXは固定されたままなので、
ムラサメという可変MSが警護につくらしい

「おう。ま、よろしく頼むぜ」
「はい! かの有名な『ユニウスの悪魔』と戦えるとは、光栄であります」
「あー、もう! 悪魔はやめろっつーの!」
ガロードは苦笑しながら、チェックを続けていった

そんな折、ふと奇妙な人影を見た。オルバがふらふらと歩いているのだ

「おい、オルバ! もう落ち込むのはやめたのかよ?」
「ガロードか・・・・」

オルバの顔色は悪く、まるで病人のようだったが、思ったより声はしっかりとしていた

「なにがあったかしらねぇけどよ。今度の戦いは、一大決戦なんだ
  役にたたねぇなら、ミネルバを降りたほうがいいぞ」
「いや、戦うさ。・・・・もう決めたんだ」
「決めた?」
「簡単なことだよ。気づいたんだ。要するにあの女だ・・・・あの魔女が兄さんを狂わせたんだ
  あいつさえいなければ・・・・あいつさえいなければ・・・・・・兄さんは・・・・」

またぶつぶつとつぶやきながら、オルバは歩いていく
あまりにも奇妙なその姿に、ガロードはそれ以上声をかけることができなかった

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十日後
オーブ近海へ、連合艦隊が到着したと報告が入る
ついに作戦が開始される時が来たのだ

ミネルバのMSデッキにも緊張感が走る。かなり大規模な戦いになるのは間違いなかった

「おい、シン。本当に奇襲部隊に参加する気か? 無理はしなくてもいいんだぞ」
アスランがシンに声をかける
「俺のフォースインパルスなら、機動力はムラサメにも負けませんし・・・
  それにあなたにだけいい格好はさせませんよ」
「そうか。まぁ、覚悟してるなら俺はなにも言わないさ。先に船で待ってる」

アスランはそう告げると、MSデッキから去って行った。彼のMSは別の場所にあるらしい
オーブで大改修を受けたのだと、シンは聞いていた

「あの人も、なんかずいぶん雰囲気変わったわねー」
アスランが去ったのを見て、ルナマリアが声をかけてくる
「それだけ大事な人だったんだろう。カガリ・ユラ・アスハはさ
  肩に巻きつけてるベールは、あの人の花嫁衣裳だったっていうし」
「そういうシンはどうなのよ。カガリって人のこと、嫌いだったんでしょ?
  それにオーブも嫌いだったのに、危険な奇襲部隊に参加するなんてどういう風の吹き回し?」
「・・・・・死んだ人間に文句言うほど、俺も馬鹿じゃないよ
  それに、一応、オーブは俺の故郷だから」

言いつつ、シンはMSデッキを見回した。アシュタロンにオルバが乗り込んでいる
どういう理由かはわからないが、再び戦う気になったようだ

「私もガイアが使えたらいいんだけどね・・・・。
  ザクよりも性能がいいって言うし」

ルナマリアはシンの隣で、ハンガーにあるガイアを見つめていた

「ガイアはクセのある機体だからな。それにルナは砲撃戦の方が得意だろ?」
「まぁね。それにしてもシン、少し雰囲気変わった?」
「ん?」
「なんか柔らかくなったっていうか、大人になったっていうか・・・・。まぁ、前までが最悪だったけど」
「おい、最悪はないだろ」
シンが苦笑する。するとMSデッキを走ってくる足音が聞こえた

「シン!」
ステラだった。相変わらず無邪気な感じで、抱きついてくる
「ステラ?」
「行くんでしょ? ステラも行く!」
「行くって・・・・無茶言うなよ。戦場は危ないんだぞ」
「ガイアで行く!」

シンはかすかに頭痛がした。もしもステラがガイアを乗り回してみせれば、
ミネルバの人間から怪しまれるのは必須である

「こら、ステラ。シンが困ってるじゃないか。君はお留守番だ」
どこからかやってきたのか、テクスがステラの肩を叩き、シンから引きはがす
「すいません、ドクター。後はお願いします」
「ああ・・・・。君も死なないようにな。君が死ねば、ステラも死ぬ
  比喩でもなんでもなく事実だ。これだけは覚えておいてくれ」
「は・・・・はい」

テクスはそれだけ告げると、ぐずるステラの首根っこをつかまえ、ずるずると引きずっていく
意外と容赦ない

「らぶらぶねぇ。相変わらず」
ルナマリアが冷えた声をあげた
「だから彼女じゃないって・・・!」
「あーあ、私も彼氏ぐらい作ろうかな。アスランさんなんかチャンスかなぁ・・・」

ルナマリアはそんなことを言うと、さっさと自分の赤いザクへ乗り込んでいく
シンは大きくため息をついた

「まったく・・・・」

シンはMSデッキとは別の、専用発進口へ向かう
そこではインパルスの核である戦闘機、コアスプレンダーが待機していた

コクピットに乗り込み、計器をチェックする。問題ない
今日も整備士に感謝だった

「シン・アスカ! コアスプレンダー! 出ます
  ミネルバはフォースシルエット射出を」
『了解。コアスプレンダー、発進!』

メイリンの声がする。同時にゲートが開き、コアスプレンダーは大空へと飛び立った

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ネオ・ロアノークは違和感を感じていた
すでに連合の大艦隊はオーブ近海までやってきている
とっくにオーブからなんらかのリアクションがあってもおかしくない頃だった

「どういうことでしょうか、ネオ大佐」

副官のイアンが聞いてくる。ネオは肩をすくめた

「常識で考えれば、代表が死んだんでオーブが混乱してるってとこだが・・・
  なーんか嫌な予感がするんだよな。・・・・ほら、予想通り天気も荒れてきた」

確かにブリッジの外で、ぽつぽつと雨が降り始め、ほとんど間をおかず、
それは豪雨となった

ザーッと、雨が艦を叩きつけてくる

「レーダーに反応! 非武装の高速船のようです!」
通信士が告げる。イアンはうなずいた

「ようやく、オーブが重い腰をあげましたか」
「・・・・・しかし、このタイミング・・・・少し気になるな・・・・」
「は?」

ネオがブリッジの外を見た。やってきたのは中型の高速船で、武装はまったくない
しかしそれがどこか禍々しいもののように思えた
雨のせいだろうか。しかしそれにしてはおかしい・・・・なぜ速度を落とさないのか

「まずい! 取り舵一杯! 回避っ!」

ネオが叫んだ。ほとんど同時に、艦隊の中央で高速船は自爆した

ドォォォォン!

中からMSが数機、さっと散開する。それからひときわ目立つ赤いMSから、
旗艦JPジョーンズへ通信が入った

『こちらはインフィニットジャスティスパイロット、アスラン・ザラである! 
  オーブ代表、ユウナ・ロマ・アスハの代理として勧告する!
  貴官らはオーブの領海を侵犯している
  撤収せぬ場合、これを敵対行為とし、オーブ軍はこれを討つ!』

「なっ・・・・!」
思わぬ通信に、イアンがあんぐりと口をあける
「やられた・・・・・。MS隊を発進させろ・・・!
  ったく、だからやな予感がするって言ったんだ!」

ネオが叫ぶ。それが戦闘開始の合図だった

雨はひどくなり、嵐が近づいてきていた