クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第021話

Last-modified: 2022-12-15 (木) 17:27:54

第二十一話 『ヤタガラス、発進!』
 
 
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ミネルバの自室である。シンは立ちすくんでいた

じっと割れた貝殻を見つめる。そのたびにステラの顔が思い浮かぶ

「クソッ・・・・!」

シンは貝殻をポケットにしまった

ステラがさらわれた
なぜミネルバはガイアを出撃させたのか。なぜテクスは、ステラを医務室から出したのか
そんな風に他人を責めたりする。しかし最後は結局、守れなかった自分が許せなくなる

シンはオーブ防衛戦が終わったあと、MSムラサメを借りて敵艦隊を追ってみたが
ついに動力が続かず、オーブに引き返すはめになる
愛機インパルスはコア以外全壊しており、今回の首脳会談でやってきたデュランダルのシャトルで、
ようやくインパルスのパーツが届いた

しかしすべてはもう遅いのかもしれない。時々、シンは絶望的な想いにとらわれる

テクスは、ステラが薬物や精神的な洗脳で無理に戦わされているのだと言った
それなら、ガイアごとステラを連れ帰った連合は、またステラを洗脳して戦わせているのかもしれない

今、この瞬間も

「シン、いるー?」

不意に扉が開き、ルナマリアが顔を見せた。

「ルナかよ。なんだ?」
「今回の首脳会談の結果はもう聞いたの?」
「いや・・・知らないけど?」
「あのさ、オーブが新しく軍を創設するんだって。タカマガハラっていう遊軍らしいんだけど、
  その第一部隊の隊長として、アスランさんが任命されたらしいのよ」
「・・・・・あの人が」
「で、話はそれだけじゃなくて、その部隊に参加しないかって、アスランさんが
  ミネルバのクルーを誘ってるのよ」
「・・・・・・・・・・・」
「ったく、暗いなぁ、もう!」

バシン!

ルナマリアが思いっきりシンの背中を叩いた

「いてッ!? なにすんだよ!」
「別にあの子がさらわれたのは、あんたのせいじゃないでしょ! いいえ、誰のせいでもない!
  なのにいつまでなにうじうじしてんのよ!」

ルナマリアが指を突きつけてくる
 
「うるさい! 俺が・・・俺が・・・・せめてインパルスが無事だったら!」
「ええ、あの時、インパルスが身代わりにならなかったら、
  デストロイのビーム砲は防げず、ミネルバもろともあの子は死んでたでしょうね!」
「・・・・・ッ!」
「いーい? シン。シンはちゃんとできることをやったのよ。それ、わかってる?」
「・・・・・・・・・・・」
「この際言っとくけどね、あんたはキラ・ヤマトでもなければ、アスラン・ザラでもないのよ?
  そりゃ半壊したインパルスでフリーダムとやりあったのは凄かったけど、
  あんたはスーパーマンでもなんでもない、ただの・・・・・パイロットなんだから」
「・・・・・・わかってるよ。でも仕方ないだろ・・・・」

するとルナマリアはふぅっとため息をついた。それから一枚の紙を渡してくる

「シン、これ。目を通しといて」
「なんだ・・・・タカマガハラ、アスラン・ザラ隊への転属指令・・・?」
「ガロードの推薦なんだって。黒海を抜けて、ロドニアへ向かうらしいわ」
「・・・・どういうことだ? 俺、ミネルバを降りるのか?」
「そういうことね。アークエンジェル級新型艦、『ヤタガラス』への配属になるわ
  直接の上官はアスラン・ザラに変更。あと、インパルスは私が乗るから」
「なっ・・・・ちょ、待てよ! 俺のインパルスだろ!」
「知らないわよ。詳しいことはアスランさんにでも聞いてみれば?」
「ふざけんな! くそったれ!」

シンは顔色を変えて飛び出していく
ルナマリアは少しため息をついて、その背中を見送った

「まったく、手がかかるんだから・・・」

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軍本部でアスランの居場所を聞き、シンはジープを借りてそれに飛び乗った
やがて港近くにあるドックが見えてくる

衛兵にさえぎられたので、アスランへの面会を求めた
そのままドックの中へ案内される

「これは・・・・・」

シンがドックに入ったとき、嫌でも目に入ったものがある

真っ黒な巨体だった。漆黒と言っていい。それはドックの中でうずくまり、
今にも飛び立ちそうな威容を誇っている。言い知れぬ威圧感があった

「来ると思ったよ」

シンに気づいたのか、アスランが数名の人物に囲まれながらこちらにやってくる

「アスランさん・・・・」
「これの感想はどうだ?」

アスランが黒い巨体を見上げる。それでようやく、シンはそれが新造艦なのだということに気づいた

「これが・・・新しいオーブの戦艦ですか?」
「そうだ。アークエンジェル級3番艦、『ヤタガラス』。黒光りするボディが、なかなかいいだろう?
  もちろん見た目だけでもなく、中身も高性能だ」
「・・・・・なんか、凄い、ですね。・・・・じゃなくて! 俺がタカマガハラに配属とか、
  インパルスがルナのものになるとか、どういうことなんですか!」

シンが一気にまくしたてると、アスランはそれを受け流すように笑ってくる
なんとなくそれを見て、この人は変わったのだと、シンは思った

「シン。ちょうどいい、紹介しよう。オーブ代表、ユウナ・ロマ・アスハ氏だ」
アスランが言うと、スーツを着た文官風の男が出てきて、握手を求めてくる

「ユウナ・ロマ・アスハだ。君がシン・アスカが。アスランから話は聞いている
  結婚式ではあのフリーダムと、半壊した機体で渡り合ったそうだね?」

差し伸べられた手を、握り返す。さすがにオーブの代表ということで、緊張した
同じ代表といっても、カガリとは違い、ユウナからははっきりと政治家のにおいがする

「いや、あの時は仲間が支援してくれましたし・・・・。
  それに、結局警護の役目は果たせませんでした。すいません」
「謝ることはない。それにオーブ防衛戦でも大活躍だったそうじゃないか
  君の故郷はオーブと聞いているが、そういう人間がいてくれて、僕も嬉しい」
「・・・・どうも」

ほめられてくすぐったい気持ちになるが、悪い気分ではなかった

「さて、シン。君はオーブ出身であり、ザフト軍人である。これは、新設されたタカマガハラにとって
  面白い存在なんだよ。だからこそ、たくしたいものがある」
「たくしたいもの・・・?」
「ただ、受け取るかどうかは君次第だ。このままシン・アスカがザフト軍人として生きていくのなら、
  僕にそれを強制する資格はない」

ユウナが言い、じっとこちらを見てくる。試されているのだと、シンは思った

「ユウナ代表の言われるとおりだ、シン。俺は確かにザフトへ働きかけ、転属命令を出してもらったが、
  決めるのはおまえ自身だ。このままミネルバに残るか、それともこのヤタガラスに乗るか
  ミネルバに残るのなら、インパルスはおまえの愛機のままだ」

言って、アスランがまた漆黒の戦艦を見上げる
なるほど、確かにこの戦艦はカラスのようだ

「俺は・・・・・」

目を閉じる。今でもたやすく思い出せる
一発の爆弾が落ちてきて、死んだ妹と両親。ちぎれた腕。まき散らされた血
あれから一途にオーブを憎んだ。くだらない理想のために家族を殺した、オーブを憎んだ

しかしどうあがいても、どう憎んでも、オーブは故郷などだと自分は思い始めている
それは先のオーブ防衛戦で、感じ始めていたことだった

「正直、自分自身がオーブの人間かどうかはわかりません
  今は、ザフトの軍人でありますし・・・・。オーブで、俺の家族は死にましたから、
  ここは思い出したくないことの方が多いです」
「・・・・・・・・・」
「でも、そんなのは、俺一人で十分です。だからオーブが戦火に見舞われるのは、
  正直なところ見たくないです。それに、守りたい人もできました」
「そうか・・・・・。アスラン」

ユウナが目配せをした。アスランがうなづく

「シン、ヤタガラスはロドニアに向かう。そこにステラ・ルーシェがいるらしい」
「なんだって! 本当ですか! ・・・・どうしてそれを早く言ってくれないんです」
「それを言えば、おまえは間違いなくヤタガラスに乗るからな」

するとユウナが笑った

「僕が頼んで、君を試したのさ。オーブの切り札を、託せるかどうか知りたかったからね
  完全に君がザフトの軍人になり切っていて、オーブの血が流れていない人間だったら、
  渡せないものだからな、『アレ』は」
「『アレ』?」

するとアスランがIDカードを渡してくる。

タカマガハラ第一部隊ヤタガラス所属 シン・アスカ

そう書いてある

「シン。それを持って宇宙に上がれ」
「え・・・・? でも、俺、ヤタガラスに乗るんじゃ・・・・」
「オーブ宇宙ステーション、アメノミハシラで一機のMSが製造されている 
  それがオーブの切り札であり、おまえのMSだ。それを受け取ったら、直接大気圏から降りて来い
  俺たちがロドニアにたどり着くまで間に合えよ」
「は・・・・はい!」

シンは頭を下げた。かすかに希望が見えた。そんな気がした

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「三ヶ月だって。ちょっとおかしいよな。お腹のなかに、赤ちゃんがいるってさ」

カガリがそう言って、腹のあたりをなでている。アスランはそっと、そこへと手をのばした

「そうだな・・・・・女の子かな、男の子かな?」
「アスランはどっちがいい?」
「どっちでもいいさ。元気に育ってくれれば・・・・。あ、でも最初は女の子がいいかもな」
「なら、きっと私に似て美人になるぞ」
「君に似るなら、手がかかりそうだな」
「アスラン!」

幸せな時間が続いていく。いつまでもこうしていられたらいいのに
英雄などではなく、ただの平凡な男と女で、生きていけたらよかったのに

「あははははは! それは無理でしたねぇ、アスラァァンッ!」

いきなり場面が切り替わった。暗闇の中、全身を包帯で包んだ男がカガリを組み敷き、
その腹にメスをあてている

「アスラン・・・! たすけて・・・・アスラン・・・」
「やめろ、ニコル・・・・やめろ・・・!」
「愛の結晶がここにいるんですってね? あははは、その結晶を僕も見たいですねぇ
  取り出してあげましょうかぁぁ!!??」

ニコルが、カガリの腹を切り裂かんと、メスを振り上げる

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「きゃっ?」

がばりとアスランははね起きた。あたりを見回す。夜のオーブ宮殿、自分にあてがわれた
部屋の中だった。

(また・・・こんな夢を・・・)

荒い自分の息遣いを整えた。寝汗がひどい。不意に、ぬれたタオルがアスランの首をなでた

「君は・・・ミーア?」

見上げると、ピンク色の髪をした女性が、ぬれたタオルを手にしてこちらを見つめている
ネグリジェ姿だった。豊満な彼女の胸が、誘うようにゆれている

「あ、その・・・・凄いうなされてたから」

言いながら、ミーアがアスランの寝汗をふいてくる。ぬれたタオルが、ほてった肌に心地よかった

「一つ聞いていいか?」
「なに、アスラン?」
「なぜ君がここにいるんだ?」
「それは、婚約者が一緒の部屋で寝るのは、普通でしょ?」

ミーアがきょとんとした顔で言う。邪気のない顔で、本当にそう信じているのは間違いなさそうだった
その間も、かいがいしく汗をふいてくれる

「ミーア、君はラクスじゃない。もうその必要はないんだ。議長も了承された」
「え・・・・?」
「影武者計画はもう終わりだ。最初から無理があったんだ、この計画は」

言いながら、アスランは汗をふくミーアの手を取り、無理に唇を奪った

「ん・・・・!?」

ミーアがかすかに目を見開く

「・・・・・・わかってくれるね、ミーア?」

唇を離し、アスランはミーアをじっと見つめる

「どうして・・・いきなりキスなんか・・・・」
まだ戸惑ったように、ミーアは自分の唇をなでていた
「俺は、ラクスにキスなんかしない。ミーアだからキスをしたんだ
  これで君は、ラクスからミーアに戻った。君はそのことを公表するんだ」
「そんなこと・・・・急に言われても・・・・・私・・・・いままでラクス様になることが、
  みんなのためになるって言われて、がんばってきたのに・・・私・・・・」

ミーアが泣きそうになっている。無理もない。かなり理不尽な申し出なことは、
最初からわかっていた

「君はミーアでいい。それに一つ言っておく、ラクス・クラインはある意味では危険な存在なんだ
  君が考えているほど、彼女は優しくない」
「それは・・・・私が殺されたりすることも、あるってこと?」

ミーアがおびえた顔になる。こういうところは、年相応だとアスランは思った

「ああ。君は知らないだろうが、ラクスはいざとなると手段を選ばない
  ラクスは仲間だった、カガリさえも殺した。君を殺すぐらい、なんてことはないさ」

アスランは言いながら、自分はこんなに嘘が上手かったのかと、考える
ラクスは確かに手段を選ばないところがあるが、カガリを殺したというのは間違いなく嘘だった

「そんな・・・・」
「でも大丈夫だ。君は俺が守る。だから君はミーアに戻るんだ。
  きっと、ザフトやプラントもわかってくれる。次は、ミーアとなって平和のために歌い続けてくれ」
「・・・・・・うん」
「いい子だ、ミーア。なにか俺にして欲しいことはあるか?」
「・・・・もう一回、キスして。初めてだったから」
「わかった」

アスランはもう一度ミーアを引き寄せ、今度は落ち着いたキスをした

そのまま少し強引に、押し倒す。最初はミーアもあらがうそぶりを見せたが、すぐにおとなしくなった
不意にそのとき、ミーアの顔がカガリと重なって、戸惑った

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ガロードはDXをミネルバから出して、オーブにある一番大きな広場へと移動させた
今日はカガリ・ユラ・アスハ国葬の日である
広場でかなり大規模な式が行われるらしい

「なんか、派手な葬式ってのも、おかしな話だよなぁ」

DXが広場に降り立つと、集まった市民から歓声があがる
いまやDXとガロード・ランは立派なオーブの英雄だった

ガロードはいったんDXから降りた。式場の中央には、巨大なカガリの写真と、
数千はあろうかという花が飾られている。式の開始までにはまだ時間があったが、
すでに多くの人が広場には詰め掛けていた。カガリはやはり、オーブに愛されていたらしい

「ごくろうさん、ガロード」
シンがこちらにやってくる
「おう、シン。だいぶ元気が戻ったみてぇだな」
「いつまでも落ち込んでられないからな。ヤタガラスでは一緒だ、またよろしくな」
「ああ・・・・。えっと、その前におまえ、宇宙にあがるんだって?」
「新しいMS受け取らなきゃいけないからな。インパルスは愛着あったけど、
  インフィニットジャスティスやDXには負ける機体だし、俺もパワーアップしないと」
「そか。ええと、ヤタガラスにはミネルバからだれが来るんだっけ?」

事前の調整で、ザフトからタカマガハラへ人員が送られることになった
それでアスランは、ミネルバクルーから人を何人か集めたらしい
それらはすべて、ヤタガラスに乗り込むことになる

「確か、ルナに、メイリン、レイ、それと俺がヤタガラス行きだ
  代わりにミネルバには『FAITH』のハイネ・ヴェステンフルス、
  ジュール隊のイザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマンなどが乗り込むんだってさ」
「へぇ」
「と言っても、ルナとメイリンは自分からヤタガラスに乗り込みたいって言い出したらしいけどな
  それにしてもオルバが行方不明になったのが・・・どういうことなのか・・・」
「さぁな。あいつ、よくわかんねぇところあるし」
「ええと、確か、ヤタガラスのチーフメカニックと操舵士、それから管制官はおまえが推薦したんだろ?」
「ああ。キッドやシンゴ、トニヤは、腕は確かだよ」
「この国葬が終わったら、出航だな。俺はいったん宇宙へあがるけど、これからは新しい戦いになる
  そんな気がする」

シンはそう言い残し、立ち去っていく。その後ろ姿からも、立ち直ったのがよくわかった

ガロードは特にすることもないので、DXの前でぼんやりしていた
時々オーブの市民がこちらに手を振ってくるので、ぎこちなく愛想笑いを浮かべたりする
そんなときだ

「キャー。始めまして、ガロード・ランさんですね!」

いきなり黄色い声が飛び込んできて、ピンク色の髪をした派手な衣装の少女がこちらにやってくる
ガロードはその顔に見覚えがあった

「げっ・・・・あ、あんた! ラクスとかいう・・・・こ、今度は誘惑されねぇぞ!」
「? なに言ってるんですか?」
「なに言ってるって・・・あんた、俺にオーブ防衛戦でわけのわからないことを・・・!」
「えーっと、あたしはラクス・クラインでしたけどぉ・・・・。ミーア・キャンベルに戻ることにしました
  よろしくおねがいしますねー」

言って、ミーアがガロードの手を取ってくる。胸元が強調された衣装で、谷間が見える
ガロードは思わず顔を赤くした

「わ、わかった。わかったよ・・・! とりあえずあんたが別人だってことはわかった!」
「そうですか、よかったです。あたしもザフトの英雄、ガロード・ランに出会えて光栄ですよー」

なんだかものすごいバカっぽいしゃべり方をしている
しかしすさまじい胸だった。ティファとは・・・いや、なんでもない

「とにかく、俺は英雄なんかじゃねぇってば! で、なんか用か?」
「あ、今日の国葬で、あたしが歌うことになりました。カガリさんを送る歌を」
「そうか・・・・」
「で、DXの上で歌うことになるって、聞いてますか?」
「は? DXで歌う?」
「ええ。DXの手の上で、あたしが歌うんです。だから挨拶だけでもって、思って」
「ったく、俺の知らねぇところで勝手に・・・・。まぁいいや。よろしく頼むぜ」
「はい。ガロードさんもこれからがんばってくださいね、平和のために!」

勝手なことを言うだけ言うと、ミーアはそのまま立ち去っていった
後ろ姿を見ても、凄い衣装である。かなりきわどい

(あんなんで葬式出るの、不謹慎じゃねぇのかなぁ?)

ふと、そんなことを思った

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国葬が始まった。ガロードはメインゲストの席に、アスランやデュランダルと一緒に座らされる

ユウナが代表として、弔問を読み上げる

なぜカガリは死んだのか。なぜ死なねばならなかったのか
今でも疑問だと、わからないと。平和を愛した彼女になんの罪があったのかと
しかしそんな彼女が死なねばならないのが、この世界の現実ならば、
我々オーブは全力でその理不尽と戦うと

しんと、席が静まり返っている。ユウナは泣いているようで、時折声を詰まらせていた
横を見ると、デュランダルは目を閉じて黙祷しており、
アスランは目を見開いてじっとユウナを見つめていた

それから式が進んでいく。要人たちが一本一本、花を捧げ、ガロードも捧げた
黄色い花だ。『菊』と言うらしい
カガリの巨大な写真を目にして、ふと、宇宙で出会ったときのことを思い出す
そう自分と年の変わらなかった彼女が、国家の代表として背負い続けた荷物の重さは、
どれほどのものだったのだろうか

「ガロード様。そろそろDXへ」

オーブの軍人がやってきて、ガロードに耳打ちする
それでわかった。ミーアが歌うのだろう

ガロードは式場で立っている、DXに乗り込み、Gコンをはめ込んで起動させた
今でも用心のため、Gコンは肌身離さず持ち歩くようにしている

ミーアがDXの足元にやってくる。先ほどの派手な衣装とは違い、彼女は真っ白な服を着ていた
それは『着物』というもので、死者を送る場合は白い着物を着るのが慣例だそうだ

白装束を着たミーアへ、DXの手を差し伸べる。ミーアがその上に乗ったのを確認すると、
ガロードはDXの手を顔のあたりまであげた

ミーアが歌い始める。悲しい調子であり、しかし胸をかきむしるような歌だった

今は亡き人よ。残された人はあなたになにをしてやれるのか
せめて忘れないように。あなたのぬくもりを、笑顔を、悲しみを

ミーアが歌い続けている。誰も声をあげない。嗚咽を漏らしている人もいた
市民たちは歌を聞き、涙にぬれる瞳をぬぐっている

(カガリさん、見えるかよ。あんた、こんなに愛されてるぜ・・・・)

ガロードは天国のカガリに話しかけた。しかし、返ってくる声は無かった

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それから式典が終わると、デュランダルはラクス・クラインの糾弾を行った
カガリの暗殺にラクスの影があると、正式に声明を発表したのだ

それからミーア・キャンベルがラクス・クラインでないことを告げ、
それはラクス・クラインがプラントを混乱させるために行ったことだと発表する
ただ、ミーアはラクスの行いについていけず、勇気を持ってそれを告白したのだと
最後に付け加えた

すべてはアスランの筋書きだった。悪いのはラクスであり、ミーアではないということだ

(キラ、ラクス、おまえたちは俺を恨むか?)

アスランは心の中で、かつての友に話しかける。これでお互いの衝突はさけられなくなった

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国葬から三日後、ヤタガラスはあわただしく出発の準備を整えていた
MSの搬入を行い、物資の補給もやる
デュランダルはすでにプラントへ戻り、シンもMSを受け取るために宇宙へ行った

「おー、結構似合ってんじゃん。シンゴもトニヤも」
ガロードが声をあげる。目の前には、オーブの軍服を着たシンゴとトニヤがいた

「うーん、でもちょっと軍服ってきついのよね。動きにくくはないんだけどさ
  堅苦しい感じがして・・・・」
「しかしこれで俺も軍人かぁ。ま、臨時雇いだから、気楽なもんだけどさ」

トニヤとシンゴがそんなことを言っている。それから三人でヤタガラスのブリッジへ向かった
ブリッジに行くと、すでにアスランやメイリンなどは配置についている

「ガロード。そろそろ出航だぞ。準備はいいか?」

艦長席に座っているアスランが、こちらを見てくる

「おう、いつでもいいぜ」

アスランはうなずくと、シンゴとトニヤに視線を向ける

「優秀なクルーだと聞いた。期待している、シンゴ・モリ。トニヤ・マーム」
「「はい!」」

シンゴとトニヤが敬礼する。あまりなれてないせいで、ぴしっと決まってはいなかった

「マニュアルを読めば、どんな艦でも動かして見せますよ
  艦長、進路はどっちへ?」

シンゴが操舵に入る

「進路、黒海。目標はロドニアだ。途中、ザフト軍基地で補給を行いながら向かう
  シン・アスカとの合流も頭に入れておいてくれ」
「了解! ヤタガラス、発進!」

シンゴが言うと、ヤタガラスはその漆黒の体をゆっくりと動かし始めた
ドックから出て、港を進む。やがてヤタガラスは推力を得て、その自慢の翼を披露し始めた