クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第022話

Last-modified: 2016-02-15 (月) 23:23:53

第二十二話 『ふざけんな!』
 
 
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戦艦アークエンジェルは、その身を海底の奥深くに隠していた
潜水能力、航空能力、航宙能力をそなえたその身は
まさに万能艦と呼ぶににふさわしい適応能力である

アークエンジェルのクルーは、ブリッジに集まって、
モニタに映し出されるデュランダルの演説をじっと見つめていた

「こりゃ、どういうことかねぇ。今、俺たちを悪者にしてどうしようってんだか・・・」

バルトフェルドがあごひげをなでている

「ラクスはザフトやプラントに影響力を持っている。それを嫌ったのかもしれん」

シャギアがつぶやいた。確かに、今、考えられる理由はそれしかない

「それでも僕たちが・・・・僕たちがカガリを殺したなんて・・・ひどすぎる」

キラは歯噛みした。確かにフリーダムで乱入して、結果としてカガリは暗殺されたが、
アークエンジェルにそんなつもりはない。ただ、カガリの馬鹿げた結婚を見たくはなかっただけだ

「なら・・・・・聞いてみるしかありませんわ」
ラクスはキラのそばにやってきて、その手を取った
「聞いて・・・みる?」
「アスランに、会いに行きましょう」
「・・・・・アスランか」

正直言って、気が重かった。結婚式での、アスランの怒りは途方もないもので、
冷たい殺意すらキラは感じていた。それは激情に任せた殺意ではなく、
ただ必要だから殺す。害虫のように殺す。そんな殺意だった

「辛いのはわかりますわ。でも、会いに行くべきときには、会いに行かねばなりません
  アスランは、アスランでしょう? なら、きっと話し合うことはできるはずです」
「そうだね。動かなきゃ、なにも始まらない。それにいつまでもこんな戦争、続けてちゃいけないんだ」

するとバルトフェルドがにぃっと笑った

「決まりだな。アークエンジェルの弟、ヤタガラスの顔を見に行くか」
「ああ。私のヴァサーゴと、フリーダム、それとバルトフェルドのムラサメなら、
  少々の障害があってもなんとかできるだろう」
「そういえばシャギア。おまえさんの弟って名乗ったあいつ、どうしたっけ?」

バルトフェルドが、コーヒーを口に運びながら、シャギアにそんなことを聞いている

オーブ防衛戦でDXの説得をしていた最中、突然MSが乱入してきた
交戦の意思はなかったので、キラはフリーダムで撤退したが、
あまりにしつこく追いかけてくるので、交戦する羽目になったのだ

なかなか手強かったが、最後は相手のMSを格闘で地に叩きつけ、そのまま逃げたのだった

「わからんな・・・。本当に弟なら、一度話し合いをしたい。私の記憶の手がかりになるかもしれんしな
  ただ、彼がなぜフリーダムに戦いを挑んだのか、それがわかるまではうかつに接触できん」
「別にわたくしは気にしていませんわ。シャギア、あなたが彼と分かり合える日が来ることを、
  わたくしも望んでいます」
「そうだな」

シャギアが、ラクスに笑いかけている

「じゃあ、アークエンジェルは移動するわね。とりあえず敵のレーダー網をかいくぐって、
  ヤタガラスに追いつかないと・・・・。これはなかなか骨が折れるわ・・・」

艦長席に座った、マリューがつぶやく。確かにそうで、アークエンジェル級2番艦ドミニオンなどは、
ほとんどアークエンジェルと性能が変わらなかったが、ヤタガラスはそうもいかないだろう
艦の速度がアークエンジェルより向上していることは、ほぼ間違いない

それにアークエンジェルは、連合はともかく、ザフトとオーブからは明確な敵とされてしまった
余計な交戦はさけたいが、発見されればまず攻撃を受ける

「それでも行きましょう。僕は、オーブやアスランになにがあったか、知らなきゃいけない
  DXっていう危険な兵器がなぜ存在しているのかも、カガリがなぜ死ななきゃいけなかったのかも」

キラが決然と言うと、マリューはうなずいた

「アークエンジェル発進。進路は、黒海へ」

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スエズにある連合軍基地である。戦艦がそこへ、続々と終結していた

ネオ・ロアノークは旗艦JPジョーンズのブリッジでため息をついた

「オーブ新設軍、タカマガハラ、ねぇ・・・・。こいつが戦っている限りは、
  オーブは戦ってませんってか。アホらし。そんな回りくどいことせずに、
  素直に戦争すりゃいいんじゃねぇか?」

すると隣にいた副官のイアンが、首を振る

「オーブは前の戦いで、だいぶ戦力が低下したようですからな
  こうでもしてごまかさなければならんのでしょう」
「ま、前の戦いでコテンパンにやられた俺たちが言うこっちゃないがな
  スティングも結局、死んじまったし・・・。オーブの海へ花の一つも、捧げてやりたかったな」
「ネオ大佐・・・・」
「わかってるって。強化人間に情を移すなってんだろ。でも俺は兵士を捨て駒にするような男には
  なりたくないんだよ。それが強化人間だろうとな。だいたいイアン、俺がそんな非情な男なら、
  おまえも捨て駒にするってことなんだぞ」
「別にそれは構いません。私は軍人です。戦場の死は望むところです」
「意味のある死ならな。俺は、正直なところ、ロゴスの飼い犬で死にたくはないね」

するとイアンが、少し怖い顔をしてにらんできた

「あまり危険なことを言うものではありませんぞ、ネオ大佐。どこに耳があるか」
「はいはい。わかってますよ。で、なんだ問題はそのタカマガハラの・・・・
  新造艦ヤタガラスを討てってか。たった一隻の船に、こんな艦隊集めて、ご苦労なこった」
「『ユニウスの悪魔』や、インフィニットジャスティスなど、途方もない性能のMSを積んでいるのです
  正直量産型で立ち向かえるかどうか・・・・」
「ま、いざとなりゃ俺もカオスで出るさ。ただ、こんなやり方で倒せるかな?」
「他によい方法があるのですか?」
「手強い敵に真正面からぶつかってどうするんだよ。そんなことやってりゃ、
  たとえ勝っても損害がでかい。他にやりようがあるだろうさ。補給を止めたり、
  相手のパイロット寝返らせたりとか。なんならヤタガラスごと寝返らせる方法を考えてみたらどうだ?
  一発でこの戦争、カタがつくぞ」
「無茶をおっしゃいますな」
「やってみる価値はあると思うがね、俺は。ま、そんな作戦、司令部が取るわけもないか
  じゃ、一兵士の俺たちは今日もがんばって戦争しますか」

言って、ネオは地図を見つめた。相手は中東を抜けながら、進路を黒海に取っている
ならば、こちらは地中海で迎え撃つことになるだろう

ネオは前の戦いで負けたものの、評価を落としてはいなかった
事前に撤退を具申したからである。それにオーブの敵対も、誰もが予想せぬ出来事だった
だから今もなお、こうして艦隊を任されている

(とはいえ、そろそろ戦功立てなきゃまずいな)

アーモリーワンでも失敗しているし、結果としてオーブ攻めも失敗している
軍の中ではうまく立ち回っている方だと思うが、結局それはロゴスに忠実だと思われているからだろう

ロゴス。地球連合の実権を握る、幹部たちの集まりのことである
正体は軍需産業の経営者たちであり、死の商人だった。だからこの戦争も、
ロゴスが利益のため、強引に仕掛けたものであることを、ネオは知っている

ネオはロゴスの意を受けて動いている。だから、大佐という身分を超越した実権を手にしているのだ

だから結局、ステラを捕獲し、ロドニアのラボに送った
ネオ個人としてそれは、忍びない行為だったが、ロゴスはそれほど甘くない
ステラは数少ない完成された強化人間であり、その戦力を個人の感傷でどうこうすることはできなかった

(勝利の女神に嫌われそうだな。こんなことやってりゃ)

ネオは腕を組んで、ため息をついた。艦隊は依然として、集結を続けていた

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ローエングリンゲート陥落後、中東はザフトの勢力下である
だから中東を抜ける時は特に問題はなかったが、地中海以降が怖い

(どうする?)

アスランは、ザフトに援軍を要請するかどうか迷った
シンからの連絡はまだなく、新型のMSも届いていない

DXやインフィニットジャスティスだけでもかなりの戦力だが、
不安はある。しかし援軍を要請すれば、ヤタガラスはその機動力を生かせなくなる
進軍は、もっとも遅い艦に合わせて行われるからだ

「単独で抜けるか」

アスランは決めた。ザフトにはなるべく借りを作らない方がいい
それに不安はあるものの、単独で抜ける自信もあった
神鳥の名を冠する艦の機動力は、伊達じゃない

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ガロードは特にすることもないので、MSデッキでぼんやりしていた
シンからの連絡が遅れているのが気がかりだが、それ以外は順調な船旅だ

「えー!? 戦闘中は、インパルスの換装ができないのー!?」
「仕方ねぇだろ! ヤタガラスはインパルスの換装システムに対応してねぇんだ!
  あらかじめ戦うときは、どのシルエットで出るかちゃんと決めておけよな」

ルナマリアとキッドがなにか言い合いをしている。どうやらヤタガラスでは、
インパルスの換装ができないようだ

「あーあ。こんなことなら、私もレイみたいにグフをまわしてもらえばよかった・・・
  がっかりだわ。インパルスの魅力半減じゃない」
「ったく、しょうがねぇなぁ。今すぐは無理だけど、なんとかしてやるよ、ルナ」
「え? ほんと? さっすが天才メカニック! ・・・・・でも、どうするの?」
「要するにさ、フォースインパルスの高機動を維持しつつ、
  ブラストの砲戦能力と、ソードの格闘能力を両立させりゃいいんだろ?
  全部積み込んじまえばいいんだよ」
「そりゃあ・・・・それができるのが理想だけど・・・・」
「ま、このキッド様に任せときなって」

なんかとんでもないことを、キッドは引き受けていた。ルナマリアは単純に喜んでいる
ただ、キッドならやってしまうかもしれないと、ガロードは思った

(ティファ・・・・)

ロドニアが近づくにつれ、気になってくる。なぜティファがロドニアへ行けと言ったのかが
本当にステラを助けるためだけなのか。あるいは、それ以外のなにかとんでもないものが、
待ち受けたりしてるのだろうか

「ガロード、どうした? 元気がないじゃないか」

不意に後ろから声がかかる。振り返ると、軍服姿のレイがいた。ザフト所属の人間は服装もそのままで、
ルナマリアもレイも、ガロード自身も赤服のままだ

「いんや・・・ちょっと考え事しててよ」
「そうか。まぁ、この状況だ。不安なのはわかるがな。悩みすぎるのもよくない」
「別に悩んじゃいねぇさ。ただ、気持ち悪くてよ」
「気持ち悪い?」

ガロードはレイとさほど話したことがなかったが、なぜか今日は話してみようという気分になった

「いや、俺、なんか英雄扱いだろ。それが正直、気持ち悪くてよ」
「そうか・・・・。ただ、おまえの戦功は凄まじい。英雄にするな、という方が無理だな」
「なぁ、レイ。俺がいきなりDXごと逃げ出したら、どうする?」
「・・・・・逃げ出したいのか?」
「逃げ出すかはわかんねぇけど、いつかは、船を降りると思う」

少し考えた。ティファを助ければ、どうするか。元の世界に戻る方法を考えるのか
それともこの世界で生きていくのか。この世界は戦争中で、荒廃した都市などもあるが、
それでもAW世界よりずっと豊かで栄えていた。だから生きていくのも困らない

(でも、そりゃなんか違うんだよな)

軍人をやっていると、時々息が詰まりそうになる。理由はわからないが、肌が合わないとかいうことだろうか

「それは、俺たちは誰もがいつか船を降りるものだろう?」
「そういうこと、言ってんじゃねぇよ・・・」

『コンディションレッド発令。敵連合艦隊、地中海沿岸に集結中
  パイロットは、各MSにて発進スタンバイ』

不意に警報が鳴り響く。敵襲だ

「来たか、クソッ!」

ガロードは走り、DXの方へ駆け寄る。キッドが声をかけてきた

「よぅ、ガロード。DXはばっちり整備しといたぜ。この世界の人間じゃ、こうはいかねぇ」
「サンキュ、キッド!」
「ただ気をつけろよ。この世界には、ルナチタニウムがねぇんだ。少々の損傷ならなんとかなるけど、
  ぼろぼろにされたらDXは直せねぇぞ」
「わかった。気をつける」
「サテライトキャノン、いつでも撃てるようにしときてぇけどな」
「いっつも撃つもんじゃねぇよ、あれは。とにかくDXで行くぜ」

Gコンをはめ込み、DXを起動させる。
各部のチェックを行った。確かに、以前よりも反応がよくなっている
DXの知識がないミネルバのクルーでは、こうはいかなかっただろう

『ガロード』

いきなり通信が入ってくる。軍医として同行しているテクスからだ

「なんだ、テクス?」
『いや、私らしくないことを言うが、嫌な予感がする。無理はするな。それだけを言いたかった』
「へっ、わかったよ」

それで通信が打ち切られた。

同様に、ルナのフォースインパルスやレイのグフが起動する
カタパルトに移動し、DXの足をはめ込んだ。手にはGハンマーをぶら下げる

「ガロード・ラン、ガンダムDX! 出るぜ!」

『ルナマリア・ホーク、インパルス! 行くわよ!』

『レイ・ザ・バレル、グフ! 発進する!』

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地中海に出た途端、敵の艦隊に待ち伏せをされていた
アスランはMSの出撃を命じると、それをにらみ据える

「全MS、発進を完了しました。アスラン艦長、グフイグナイテッド、フォースインパルス、DX、
  すべて空中戦が可能ですが、どうしますか?」

通信士のメイリンが聞いてくる。アスランは首を振った

「まだだ。三機とも、ヤタガラスの甲板で待機させろ。トニヤ、敵艦隊へローエングリン照準
  シンゴ、面舵10で射線を取れ。ヤタガラスの三本足を見せてやる」

「了解、ローエングリン照準、展開します!」
「了解、面舵10!」

トニヤとシンゴが復唱する。ガロードの推薦どおり、二人ともかなり優秀なクルーで、アスランはその能力に満足していた

「ローエングリン、撃てッー!」

ヤタガラスの三本足が起動する。旧式のアークエンジェルは、両足に陽電子砲ローエングリンを装備していたが、
ヤタガラスはさらに艦首中央へも装備し、合計三門の陽電子砲を持っている
その火力はサテライトキャノンほどではないが、かなりのものだ

ドシュゥゥゥゥン!

三門のローエングリン砲が放たれる。それは敵艦を三つ、沈めた

「よし。三機とも展開させろ。ただしMS隊はあまりヤタガラスから離れるな
  こちらはあくまでも迎撃に専念するんだ。主砲のゴットフリートとイーゲルシュテルン起動。
  トニヤ、ゴットフリートは艦船だけを狙え、整備班、ジャスティスはいつでも出せるようにしておけよ
  繰り返すが、あくまでもこちらの目的は殲滅でなく、敵艦隊を振り切ることだ」

矢継ぎ早に命令を下す。正直、アスランとしてはジャスティスを出すほどでもないと思っているが、
どう戦局が転ぶかはわからない

敵艦が砲撃を繰り返してくる。シンゴはなにも言わずとも、操舵でそれを振り切っていた
かなりの能力だと思いながら、アスランは、地中海の海を見つめた

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DXのレーダーが、迫り来る敵機映し出す。だいたい30と言ったところか

「あーあ。いつもながら、壮大なご歓迎で・・・・」

ガロードはDXのコクピットでため息をついた。また多数対少数である
いかにMSの性能はこちらが上回っているとはいえ、うんざりする数だった

『ガロード! わかってるわね? こっちはあくまで三機だけよ
  オルバもシンもいないんだからね!』

インパルスのルナマリアから通信が入る

「わかってら!」
『DXがそこにいるだけで、敵は怖いんだから、それも頭に入れて戦うのよ!』
「オーケー! 来る!」

ガロードはGハンマーのセーフティを解除し、バーニアと鉄球部分のビームを展開させた

迫り来る。二機のウィンダム。パーソナルカラーなのか、赤く塗装されていた

『ふはははは! 見つけたぞDX! いや、『ユニウスの悪魔』! ここが貴様の墓場だ!』
『この異世界に飛ばされ、真のニュータイプとして覚醒した我ら『赤い二連星』! その力を今こそ・・・!』

なにかわけのわからないことを叫び、二機のウインダムが停止している。どうでもいいが、スキだらけだ

「いっけぇぇぇ、Gハンマーッ!」

ガシャァァァァン!

Gハンマーが、二機の赤いウインダムをまとめて吹き飛ばす。

『あーれー!』
『いやーん!』

きりもみ回転しながら、ウインダムが海面に落ちていく。動力を失ったのか、ぷかぷか浮かんでいた

「なんだったんだ、あいつら? 通信の雑音多くて、よく聞こえなかったけど・・・・。まいっか
  それより、今は!」

敵MSの攻撃が、レイのグフとルナマリアのインパルスに集中している
ガロードはDXのGハンマーを振り回し、そちらへと突撃していった

「おらおら、ガロード・ラン様のお通りだぜ!」

頭上でハンマーを振り回すDXが姿を見せると、敵は蜘蛛の子を散らすように逃げていく
それは戦術的な撤退ではなく、本当に逃げ回っている感じだ

『うわぁぁぁ! 連合のスーパーエース、『赤い二連星』があっさりやられたぁぁ!?』
『やっぱりあいつは悪魔だぁぁぁ!!』
『や、やめてぇぇぇぇぇ!! こないでぇぇぇぇ!!』
『ママーン、怖いよママーン!』
『俺、この戦いが終わったら、結婚するんだ・・・』

なんかわけのわからない悲鳴が、敵の回線で飛び回っている
ガロードは真面目に戦ってるのがバカらしくなってきた

バカらしくなったので、国際救難チャンネルを開いて、敵に呼びかける

「アホらし・・・・。あー、こちらDXのガロード・ラン。おい、おまえら、戦う気がねぇんならとっとと帰れよ
  こっちも別におまえらと戦う気はねぇんだからよ! レイとルナも手を出すなよ」

そう言うと、本当に敵MSの動きが止まった。戦場に奇妙な間ができる
その時だった

バシュゥゥゥン! バシュゥゥゥン!

突如海中から、一機のMSが浮上してくる。それが放ったビームライフルは、
敵MSのウインダムやダガーLの腕や頭を吹き飛ばし、戦闘不能に追い込んだ

「あれ・・・・フリーダムとかいう・・・・なにしに来やがったんだ!?」

一瞬、敵か味方か判断がつかなかった

『やめろ。こんな戦い、もうやめろ!』

フリーダムのパイロットから通信が入ってくる。その間も次々と、
フリーダムは連合のMSを戦闘不能に追い込んでいた。凄まじい機動だ
ただ、MSの武器やバーニアを吹き飛ばすだけで、誰一人として殺してはいない

バシュゥゥン、バシュゥゥン!

『うっ・・・!』
『くっ!』

インパルスとグフがフリーダムの攻撃を受け、あっさりと武器を吹き飛ばされている
ルナマリアとレイの技量を考えると、それは少し信じられないことだった

「ルナ! レイ! 大丈夫かよ・・・・くそッ、やめろこのやろぉぉぉぉッ!!」

Gハンマーを振り回し、フリーダムめがけて放つ。かわされる。右。
フリーダム、ビームサーベルを抜き、ハンマーのチェーンを斬りおとした

『僕はアスランと話し合いをしに来たんだ! どいてくれ!』
「話し合いだって!? ふざけんな! 銃を乱射しながらやる話し合いがどこにあるんだよッ!」

DXはハンマーを放棄した。ハイパービームソード、引き抜く。フリーダム。叩きつける。交差。
瞬間、相手のサーベルはDXの右肩に直撃していた

ガシィ! ・・・・バシャアアン!

衝撃でDXが、海面に叩きつけられる。すぐにバーニアを吹かして上昇したが、
ガロードは嫌なものを感じた

(こいつ・・・・つぇぇ! なんか、今までのやつと違うぜ・・・)

背中を汗が流れていく。うまく言葉に言い表せないが、なんというか、神に愛された強さとでも言おうか
そんなものをガロードは感じていた

『サーベルの直撃を受けてほとんど無傷だなんて・・・・。やっぱりとんでもないMSだ・・・・』
「なんだよてめぇは! いきなりやってきて、わけのわかんねぇこと言って、敵も味方も巻き込んで!」
『なぜラクスを悪者にしたんだ! 彼女はなにもしていない!』
「知るかよ! 俺が知ってんのは、カガリさんをあんたたちが殺したってことだけだ!」

DXの両手に、ハイパービームソードを握らせる。二刀流がきく相手かわからないが、
まともにやりあって勝てる相手でもなさそうだった

ゴォォォ!

フリーダムが斬りかかってくる。かろうじてハイパービームソードでそれを受け止めた

『僕たちはカガリを殺しちゃいない! 僕らはブリッツと無関係なんだ!』
「どっちにしろ一緒だろうが! 結婚式にMSで乱入してきたのはてめーらだろ!」
『人を殺すことが僕らの目的じゃない!』
「人が大勢いるところへ、MSで乱入しといて、戦闘始めて! ふざけんな!
  そういうことをやる自分が、正しいとか思ってるのかぁぁぁーッ!」

思いっきりバーニアを噴射し、フリーダムを押し切る
パイロットの腕はともかく、出力と装甲はこちらが上だ

フリーダムが一旦距離を取り、ビームサーベルをしまってライフルを構える
DXもハイパービームソードを収納し、バスターライフルを引き抜く

『・・・・正しいかどうかはわからないけど・・・僕は、君を倒して行く』
「へ! 来やがれクソ野郎!」

ガロードはDXのコクピットで舌を出した。ただ、背中をつたう嫌な汗は止まらない

強い。相手は、途方もなく強い。それだけが嫌というほどわかった

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アスランはフリーダムの出現を確認すると、すぐに艦長席から立ち上がった

「トニヤ、艦長代行は君に頼む。俺はインフィニットジャスティスで出る!」
「あ・・・は、はい!」

そう告げた時だ。突如、海面から一隻の船が出てくる
真っ白な船。ヤタガラスと似た影。思わずアスランは大きく目を見開いた

「アークエンジェル!」

叫んだ瞬間、アスランはMSデッキへ駆け出していた
アークエンジェルは陽電子砲ローエングリンを構えていたのである

「じょ、上空から降下してくるMS確認! これは・・・!」

不意にメイリンが叫ぶ。アスランはそれを聞き逃した

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アークエンジェルが海面から浮上すると同時に、艦長のマリューは叫んだ

「ローエングリン照準! 目標、ヤタガラス・・・・ブリッジは狙わないで・・・
  戦闘不能に追い込めるよう、敵のローエングリンだけを破壊するのよ!」
ローエングリンが起動し、エネルギーが装填される。同時にマリューは叫んだ
「撃てーッ!」

赤いエネルギーが放たれる。不意をつかれたヤタガラスはそれを回避できない・・・はずだった

ドォォォン! 

突如、空中から『なにか』がやってきた。

「・・・な、なに!?」

シュゥゥゥゥ・・・!

次の瞬間、見えたのは、拡散していく陽電子砲である。『なにか』が陽電子砲を受け止めている・・・・!?

「・・・ろ、ローエングリン砲を・・・・MSが、受け止めてます・・・・」
「なんですって!?」

マリューは信じられない面持ちで、ヤタガラスを見た
そこには見たこともない金色のMSが、盾を構えて、悠然と姿を見せていた

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「ふぅ・・・・。間に合った・・・・」

シンは冷や汗をかいた。理論ではわかっていたが、
本当に陽電子砲を受け止められるかどうかは、正直半信半疑だったのだ

「ヤタガラス、聞こえるな! こちらシン・アスカ、遅れてすまない!」
『MSが、陽電子砲受け止めたぁ・・・・!? え・・・シン・・・・? た、助かったぁ・・・・』

メイリンが安堵の息を吐いている

『シン! 遅い!』
「悪い、ルナ。パーティに主役は、遅れてくるものだからさ!」
『まったく、あんたは、おいしいとこばっかりもってくのね?』
「ああ。この戦いは、俺の戦いだからな。じゃ、インパルスはヤタガラスに引っ込んでろよ」
『言うようになったわね。わかったわ、後はお願い』

小破したインパルスと、レイの白いグフがヤタガラスに帰艦する

シンはそれを見届けると、周囲を見回す。どういうわけか、DXとフリーダムが向かい合っていた
連合艦隊からも新たにMSが発進されてくる

インフィニットジャスティスがヤタガラスから発進し、近くにやってきた

『シン。遅かったが、間に合ったな。それにしても金色とは、派手なMSだ』
「ええ。これがオーブの最新鋭機です。見せてやりますよ、この性能。ちょっと驚きますよ?
  ちょうどお披露目の舞台も整ってますしね!」

金色の機体が、陽光を受けてきらめく。無数に迫る連合のMSと、
フリーダム、アークエンジェル。新型の腕試しには不足のない相手だ

「大気圏降下による影響チェック! 損傷なし! 全武器のセーフティ解除!
  オオワシパック、大気圏への適応良好! ヤタノカガミ装甲、オールグリーン!」

双刀型ビームサーベルを二本引き抜き、インパルスのエクスカリバーのように連結させる
それからシンは、大きく息を吸い込んだ。パーティの準備はこれでいい

「シン・アスカ! 『アカツキ』! 行きます!」

バーニアを吹かす。インパルスとは比べ物にならない、出力だった