クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第024話

Last-modified: 2016-02-15 (月) 23:26:16

第二十四話 『まぶしかったのかもな』
 
 
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アスランはじっと、翼をもがれ、腕も足もなくしたフリーダムを見つめた

「キラ、聞こえるな」

フリーダムへの回線を開く

『アスラン・・・! どうして・・・・どうしてアークエンジェルを・・・・!』

フリーダムが動きを止める。キラの泣きそうな声が聞こえた

「どうして、か・・・・。なら、聞き返そうか。なぜおまえたちはヤタガラスを攻撃した?」
『それは・・・・君たちを止めたかったからじゃないか・・・!』
「陽電子砲をぶつけられて、ヤタガラスが無事だと思うのか? 誰も死なないと?」
『ちゃんと砲門だけを狙った! 誰も死なないはずだ!』
「そんな風にして、カガリの結婚式にも乱入したんだな。誰も死なないはずだと」
『あ・・・・アスラン?』

不意に、アスランの目に涙が浮かんだ

「どうしておまえたちは、カガリに対してごめんの一つも言わないんだ・・・・?
  ラクスもおまえも、カガリの死を簡単に乗り越えて・・・・正義を唱えて
  どうしてそんなに、自分たちが正しいことをやってるって信じられるんだ?
  俺はそんなおまえたちの方が信じられない・・・!」

なにか、言いようのない怒りがアスランの体を貫いていく
やりきれない。本当に、やりきれない。なぜかはわからない。ただ、やりきれない

インフィニットジャスティスの全ビームサーベルを起動させる
両手。両足。そしてシールド。そなえつけられた五本のサーベルが実体化する

アスランの頬を涙が流れていく。つらかった

「くっ・・・・・終わりにしようか、キラ。大好きだったよ、おまえのことは」
『アスラン! やめてくれ! 僕は君と戦うつもりは・・・!』
「友だった。だからさよならだ。キラ」

五本のビームサーベルを露出させたまま、フリーダムに斬りかかる

ガシィィィン! 

瞬間、体当たりを受けた。犯人はDXだった

『もうやめろよ、アスラン』

「なにをする、ガロード・・・・」

振り返る。ボロボロのDXが、そこにあった

『シンのやったことに、けちをつける気かよ。それに今のあんた、見ててつれぇよ』
「・・・・・・・・・・・。」

アスランはなにも言わなかった。言えなかった

シンの活躍で連合艦隊はもういない。いつの間にか陽が沈んでいき、地中海を赤く染めていた

「これより、ヤタガラスに帰艦する」

アスランは告げた。両手両足を失ったフリーダムが煙を噴き出し、よろよろになりながら飛んでいく
どこへ飛んでいくのか、翼を失った自由は

アスランはそれを、あえて見ないフリをした

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ヤタガラスは無事に敵艦隊を突破し、三機のMSが帰艦してくる

ルナマリアはそれをMSデッキで出迎えた

「ほんっと、信じられないわね。DXも、ジャスティスもアカツキって新型も
  どれもこれもインチキ臭い強さのMSだわ」

同じようにMSデッキにいるレイへ話しかける

「そうだな。性能差を生かし、さらに不意打ちをしかけたとはいえ、
  あのアークエンジェルとフリーダムをやったのだからな」

まず、ジャスティスがカタパルトへ飛び込んでくる。損傷はほとんどない
アスランは身軽な動きで、コクピットから降りてきた

「レイ、ルナ。今日の被弾は気にするな。相手はフリーダムだった」
「「はい」」

レイとルナマリアは同時に敬礼する

「二人ともよく休んでおけよ。あと、シンとガロードを見てやってくれ」

そう言い残し、すぐにアスランはブリッジへ向かう。本当に、休む暇なく働いているという感じだ

ガシャン、ガシャン!

DXとアカツキは同時に飛び込んできた。二機ともかなり損傷を受けており、
フリーダムがいかに強敵だったかを物語っている

「急げよ! テクスも呼んできてくれ! すぐに修理にとりかかるぞ!」

キッドがメカマンたちを引き連れて、特に損耗がひどいDXに群がっていく
アカツキもDXも、コクピットが開いた

「シン!」

ルナマリアはアカツキの方へ駆け寄った。シンが降りてくる

「ルナ・・・・・」
「凄いじゃない、フリーダム撃墜!」
「いや・・・・おっと!」

ヘルメットを脱いだシンが、なにかにつまずいたようによろめいた。とっさにルナマリアはそれを受け止める

「大丈夫なの、あんた?」
「ははっ・・・・悪い・・・ちょっと無理しすぎた・・・。宇宙の方でも、アカツキの調整でろくに眠ってなくてさ・・・・」
「はー・・・そんな状態でよくあれだけ戦えたわね? そんなにステラって子が大事なの?」
「だって約束は・・・・まもら・・・・な・・・・きゃ・・・・」

それだけ言い残すと、ルナマリアの腕の中でシンは眠りに落ちた。少しゆすってみるが、
起きる気配はない

「まったく・・・・どうすんのよ・・・・?」
「部屋に連れて行ってやれ。みんな、ガロードの方で手一杯みたいだからな」

レイが言う。ルナマリアがDXの方を見ると、気を失ったガロードが担架に乗せられていた
軍医のテクスがなにか処置をしている

「ど、どうしちゃったのガロード?」
「フリーダムにかなりやられたからな。機体もそうだが、パイロットのダメージもかなりあるようだ
  こっちは俺たちに任せて、シンを連れて行ってやってくれ」
「うん・・・・・」

ルナマリアはシンを肩にかつぐと、そのまま廊下に向かった。女とはいえ、
コーディネイターで軍人なので、シンを運ぶぐらいはなんていうことはない

シンの部屋を開け、中に入る。ミネルバでシンはレイと相部屋だったが、
ヤタガラスでは専用の個室が用意されていた。ただ、ずっとシンは宇宙にいたので、
荷物は開けられておらず、部屋は殺風景だった

「よいしょっと・・・! はー、重かった!」

シンをベッドに寝かせる。その隣でルナマリアは、やれやれと腰を下ろした
それからじっとシンの顔を見つめる。ひどくあどけない顔で、
さっきまで激しい戦いを行っていた人間とは思えない

「・・・・・あんたはどんどん強くなるのね」

寝息を立てているシンを見る

シンは出会ったときから、どこか幼かった。学生時代から教官にはよく反抗していたし、
他の生徒と殴り合いになることもしばしばあった。ただ、パイロット能力は高かったので、
士官学校卒業後はすぐにインパルスのパイロットに選ばれた

それでも幼さは残っていて、カガリという要人相手に暴言を吐いたり、
タリアやアスランにつっかかったりもした。軍人としてあるまじき振る舞いだったろう

ところがいつからか、シンは成長していくようになった
オーブに戻ったあたりからだろうか。徐々に周囲の人間を認め、支えられることを自覚し、
それと同じようにパイロットとしての能力も跳ね上がっていった

もう、同じMSなら自分は十回やって一回も勝てないかもしれない。そう思う

「でもこいつの寝顔、意外とかわいい。うりうり・・・」

そっとシンの頭をなでてやる。かすかに熱く、汗もかいていた
立ち上がると持っていたハンカチを濡らして、その頭にのせてやる

しばらルナマリアはその寝顔を見ていた

「あ・・・・ルナ・・・・?」
「ありゃ、起きちゃったの? どんなにゆすっても起きなかったのに」
「ああ・・・俺の部屋か・・・・。悪い、手間かけたな・・・・」

シンが起き上がろうとするのを、とめる

「今は寝てなさい。かなり消耗してるんでしょ? あのフリーダム倒しちゃったんだもんねぇ・・・」
「半分、ガロードのおかげだよ。後の半分はアカツキのおかげだ・・・・」
「らしくないわね。もっと偉そうにしてなさいよ。俺様が一人でフリーダム落としたんだってぐらいにね
  あんたはそれぐらいでちょうどいいのよ?」
「そうか・・・? ははっ・・・らしくないのかぁ、俺・・・・」
「いいから、大丈夫、寝てなさい」

ルナマリアがもう一度言うと、シンはちょっと笑って、また眠りについた

(私、いつかこいつに置いてかれるのかな・・・・。いつまでも私が先を歩いていると思ってたけど・・・・)

少女は少年より先に成長する。それでも、成長を必要とした少年は、時として奇跡的な速度で成長する

また、ルナマリアはシンの頭をなでた。さっきよりは、少しだけ熱がひいていた

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陽が沈み、静かな地中海の夜が訪れる。敵影がないのを確認するとクルーに半舷休息を命じ、
アスランはブリッジから艦長室に戻った

激しい戦闘の後でも、やることは山積している。必要な書類に目を通し、それからオーブへの回線を開いた
代表であるユウナへの直通回線だ

「代表、夜分遅くすみません」
『ああ・・・・そちらも激しい戦闘だったみたいだな。報告には目を通した」

画面に映るユウナは少しやつれていた。無理もない。これまでさほど要職になかった男が、
いきなり困難に直面した国家の代表になっているのだ。心労も仕事量も並ではないだろう

「いえ。シンのアカツキ、受領を完了しました。連合艦隊も退けています。ヤタガラスは進路を変更せず、
  そのままロドニアへ向かいたいと思います」
『ああ、早めにロドニアを落としてくれ。ロドニアをヤタガラスが落とせば、
  ザフトへの借りはひとまず返したことになる。それにしてもアークエンジェルか・・・・・』

ユウナが腕を組んで、なにか考えていた

「フリーダム、アークエンジェル、共に無力化しています。さほど問題はないかと・・・・・」
『いや、気になる情報があってね。プラントでクライン派の活動が活発化しているみたいなんだ
  ラクス・クラインというボスが汚されたせいで、彼らも焦っているのかな?』
「活発化、ですか? 具体的になにか行動を?」
『オーブも確たる情報をつかんではいない。ただ、うわさのレベルだが、住民の扇動や、
  秘密工場でのMS製造などが行われているらしい。真実なら、穏やかじゃないな』
「・・・・・ラクス・・・・キラ・・・・」
『その二人の指示かどうかは、わからないがな。しかしデュランダルという男はタヌキだよ
  腹の中になにをしまっているのかわからない。気を抜くと、呑み込まれそうだ』

ユウナが苦笑している。その目尻にしわがあったので、アスランははっとした

「デュランダル議長が、なにか言ってきたのですか?」
『ああ。地球連合の諸悪の根源として、ロゴスの糾弾を考えているらしい。聞いたことはあるか?』
「ロゴス、ですか・・・・。反コーディネイターグループブルーコスモスの母体であり、
  軍産企業トップの集まり、ということぐらいしか・・・・」
『議長によれば今回の戦争は、ロゴスがごり押しして始めたのだそうだ。戦争の利益のためにな
  しかし少し強引な理論だ。ロゴスには穏健派もいるし、オーブやザフトもロゴスから武器を買っている』
「さて・・・・・・・・判断するには情報が少なすぎます」
『ただ、ロゴスの一部メンバーに過激な反コーディネイター思想を持つ者がいて、
  彼らがごり押ししているのは間違いないようだ。停戦交渉もそれらに邪魔をされているらしい』
「そうですか。なら、デュランダル議長は彼らを討ち、和平を行いたいと?」
『幸い戦局はザフトに優勢だ。ここで決め手と大義が欲しいんだろう。ロゴスを悪役にすれば、
  ナチュラルの支持も得られる。それにロゴスに一人、非人道的な手段を好むバカがいるから、
  議長のプロパガンダは成功するだろうな』

アスランは少し考えた。ユウナの言うとおり、デュランダルの策が成功すれば、確かに戦争は終わる

「オーブにとって問題はその後ですね、代表。地球連合との和平後が、厳しい」
『そうだ。プラントが影響力を持ちすぎれば、オーブは友好国と言う名の属国にされかねない
  それにデュランダルという男、平和主義者だが、独裁を好むところがあるな』
「ええ。戦後は特にうまく立ち回らなければなりません。国の独立は、難しいものです」
『理解している。そのためには、ヤタガラスの戦力をそのままオーブのものにしたいな
  ジャスティスに加え、DXやアカツキをオーブの下に置けば、プラントも簡単には手を出せない』
「難しいところです。あくまでDXとガロード、シンはザフトですから。アカツキはオーブのものですが・・・」
『まぁ、ひとまずはこの戦いをどうにかしたいな。ただ、アスランも少しは休めよ』
「いえ、代表の方こそ休まれるべきです。それが無理なら、女でも作られてはいかがですか?」

するとユウナは苦笑いを浮かべた

『まぁ、そんな暇はないな。僕を楽させたいなら、早く帰ってきてくれ』

それで通信は打ち切られた。アスランは椅子から立ち上がり、地図を広げて進路の確認などを行う
信頼できる副官がいなかった。正確には、アスランほどの視野を持つ人間がいない
だからこうまで働いているのだと、アスランは思う。

しばらく仕事をこなしていると、時計が深夜の零時を回った

「艦長、起きているか?」

不意に扉が開き、白衣の男が入ってきた。軍医のテクスだ

「テクスさん・・・・。そうですね、まだ眠れません。いや、それよりガロードの容態はどうです?」
「打撲と疲労だ。寝ていれば治る。それよりも私は、艦長の体が心配なんだがね
  激しいMS戦の後、休みなく働いているのだろう?」

言って、テクスは水と錠剤を渡してきた

「栄養剤ですか・・・・」
「あまりなんでも自分でやろうとするのはよくない、アスラン」
「俺もいい副官がいれば、と思います。ただそれまでは自分でやらなきゃいけませんから」

アスランは栄養剤を口に放り込み、水で流し込んだ。

「こういうとき、ジャミルがいればな。まだ18だろう、アスランは?」
「年は関係ありません。若いからって、敵も味方も世界も許してはくれませんから」
「友を討ったと、聞いた」

テクスがいきなり言ったので、アスランは口をつぐんだ

確かに友だったアークエンジェルも、キラ・ヤマトも

「敵味方に分かれれば、それもあることです。戦争ですから」
「いや、無理をして欲しくないだけだ、いろいろと
  つらければ、誰かの胸で泣くのも、ストレスを消す効果がある」
「ミーアでも呼ぶんですか?」

アスランは少し笑った。自分がユウナに言ったのと同じようなことを、自分も言われている

「さてな。通信士のメイリンなども、君に好意をよせているようだが」
「・・・・そうだったんですか」
「気づいていなかったのか。まぁ、艦長はいろいろと他にやらねばならぬことが多いからな
  さて、私はもう行くよ。早めに睡眠は取ってくれよ、この艦のためにもな」

言って、テクスが背中を向ける

「いや、俺はにぶいようです。メイリンが俺に・・・・」
「そうだな。普通は彼女が、ヤタガラスに志願した時に気づくものだよ」

言い残し、テクスが艦長室から出て行く。アスランは立ち上がり、自分で茶を入れた
オーブで手に入れた緑茶で、紅茶などよりアスランはこっちの方が好きだった

睡眠を勧められたが、正直に言えば眠るのが怖い。カガリの悪夢を、見たりするからだ
ただ疲れきってしまえば、夢を見なくなる。だからこんなことをしているのかと、ふと思った

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ネオは旗艦JPジョーンズのブリッジで危うく怒鳴りそうになった

「すぐにも再攻撃をかける・・・・?」
『そうだ。なんのために艦隊を集めたと思ってるんだ。ヤタガラスを今すぐ討て』

モニタの向こう側で、一人の男が笑っている。ひざの黒猫を飽きもせずなでていた
男の名をロード・ジブリール。ロゴスメンバーの一人であり、実質的なネオの上官だった

「映像をごらんになられたのですか、ジブリール」

ネオは撤退すると同時にすぐ、地中海戦の映像をロゴスに届けていた

『見たよ。だからどうした? ステラのデストロイを投入しろ。あれなら勝てる』

ジブリールが皮肉な笑みを浮かべている。嫌な笑みだと、ネオは思った

「本当に映像を見たのですか? デストロイじゃ、DX、アカツキ、インフィニットジャスティス・・・・
  どれ一つとして歯がたちませんよ。いや、デストロイ十機集めてもかなうかどうか・・・・」
『ネオ、その大艦隊はなんのためにある! 三機を足止めして、デストロイでヤタガラスをなぎ払うんだよ!』

いきなりジブリールが怒鳴った。ネオは怒鳴りたいのはこっちだと思った

「・・・・・母艦をつぶせば、MSが動けなくなるというのは正論ですがね
  そんな甘い相手じゃありませんよ。絶対に負けます、断言していい」
『ネオ。これ以上の失態、許すほどロゴスは甘くないぞ』
「・・・・・・・・・・・・」
『いいな、負けるなど二度というな。勝て。命令だ』

ジブリールはそう言い残すと、一方的に通信を打ち切った
ネオは艦長席にもたれかかると、ため息をつく。バカバカしくなってきた

「イアン、賽の河原って知ってるか?」
「は・・・・?」

隣にいた副官のイアンに話しかける

「旧世紀の日本に伝わる話で、地獄にも天国にもいけなかった子供たちが、
  親のために石を集めて積み上げるんだと。でも鬼がやってきて、必ずその石は崩される
  それでもずっと子供たちは石を積み、いつか救われる日を信じて待つんだとさ」
「・・・・・・・・・・。」
「賽の河原だな、これは。俺は石を積み上げて、どうしようってのかね
  鬼が来て崩されるのに、救われる日を信じるのかね」
「なにがあろうと、ネオ大佐。私はあなたの副官です。私に言えるのはそれだけです」

イアンが言って、笑いかけてくる。男らしい、いい笑いだった

「すまんな、イアン。どうやら死ぬことになりそうだ
  こんなことにつき合わせちまって。俺はいい上司じゃなかったみたいだ」
「そうですな。あなたの下にいたときは、気苦労ばかりでした」
「言ってくれるぜ」

ネオは苦笑して、立ち上がった。それからブリッジから出て行く

「ネオ大佐、どちらへ?」
「一つぐらいは、いいことをしにいくのさ」

言い残し、ネオは廊下に出た

ジブリールの命令は、死ねというのと同じ命令である。始末が悪いのは、
それをジブリール本人がわかってないことだった
おそらく艦隊は地中海の泡となり、消えるだろう。ヤタガラスはそういう敵だ

ネオは自分が不幸だとは思わなかった。ただ、人を死なせすぎた
だからそろそろ自分の出番だろうと、思うだけだ

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JPジョーンズにある医務室。複数の研究者が倒れていた
彼らはすべて強化人間の専門家で、ステラ、スティング、アウルの洗脳にも当たっている

「ネオ・・・・大佐・・・・本気ですか?」

鼻血をたらしている男を、ネオはしめあげる。強化人間の責任者だ
がたがた言うので、一発ぶん殴ってやった

「やらなきゃ殺す。やれ!」
「わかり・・・・ました・・・・」

責任者は『ゆりかご』の電源を入れた。ゆりかごとは強化人間の記憶を操作する特殊なベッドで、
今はそこにステラが眠っている

「おい、後はありったけの薬をよこせ。ステラのカルテもだ」
「なんでこんなことを・・・・。ロゴスに逆らうつもりですか?」
「死ぬ人間に逆らうもクソもないんだよ」

ゆりかごが音を放ち、その動いている
ベッドの中でステラがうめいていて、ネオはその姿を苦々しく見つめていた

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突如、アカツキに通信が入った。しかもパイロットしか見れない、特殊メールである
アカツキの調整をしていてそれに気づいたシンは、送ってきた相手を見てさらに驚いた

「キッド、アカツキは出られるのか!?」

シンはコクピットから身を乗り出し、整備を指示しているキッドに聞く

「は・・・・? お、おう・・・・。出られるけどよ。敵でもいたのか?」
「すぐにアカツキは偵察に出る! アスラン艦長、いいですね!」

ブリッジに通信を切り替える。アスランが呆れたような顔でモニタに映っていた

『いきなりなんだ、シン? ロドニアはまだだぞ』
「後で詳しいことは報告します。偵察の許可を!」
『・・・・・わかった、俺はおまえを信頼している。ただ説明はしろよ
  トニヤ、ハッチを開けてやれ』
「すみません!」

シンは頭を下げ、すぐにアカツキの武装を確認した。背中にブースターであるオオワシパックが換装される
それからカタパルトに移動して、すぐに足をはめ込んだ

「シン・アスカ! アカツキ、行きます!」

アカツキが大空へと飛び立つ

すぐに指定のポイントに来られたし。眠り姫が待っている。恋する少年へ。ネオ・ロアノーク

それが意味するのがどういうことなのか、シンにはすぐにわかった
指定された先は軍事的にもなんら意味のない場所で、罠の確率も低い
ただ、まさかとも思う。なぜそんなことをしたのか、とも思う

指定されたポイントは、人気のない岬である。がけっぷちには波が押し寄せていた
高台には一機のMSが見える。カオスだった

「来たぞ! ネオ・ロアノーク! シン・アスカだ!」
『いい子だ。そのまま降りてこい』

アカツキが岬に降り立つ。レーダーを確認したが、敵機がひそんでいる気配はない

先にカオスから降りてくる、仮面をかぶった男の姿が見える。金髪の少女を抱き上げていた

(間違いない・・・・!)

シンも急ぎ、アカツキから降りる。岬は波が寄せては返し、砕け散っていた
歩く。急ぐ
足元は岩場でごたごたしていて、ひどく歩きにくい

「ネオ・・・・・」
「おら、おまえの姫さんだ。持ってけ」

ネオはそう言って、眠っているステラを渡してきた。シンはそれを受け取り、抱き上げる
ステラだった

「ステラ・・・・本当にステラだ・・・・」
「おい、シン。寿命は一年だ」

ネオがいきなりそんなことを言う。意味がよくわからなかった

「え・・・?」
「ステラの寿命は、どうあがいてもあと一年だ。これが安定させるための薬と、それからステラのカルテ
  まぁ、処置がよければさらに数ヶ月は生き延びられるかもな」
「・・・・・そんな・・・・そんなに短いのかよ・・・・・」

呆然となった。一年である。こんなにあったかくて、こんなに生きてるのに、ステラは一年しか生きられない

ネオが大きなバッグに入れた、薬品を押し付けてくる

「シン。それでも、諦めないんだろ、おまえは。ならステラを幸せにしてやってくれ」
「・・・・・・・わかった」

ステラを抱き上げたまま、シンはうなずいた

「はー、やれやれ。やっと肩の荷が下りた」

ネオがとんとんと、自分の肩を叩いている

「ネオ、なんでこんなことを?」

シンが聞く。するとネオは仮面を脱いだ。金髪の男が、笑っている。顔には大きな傷があった

「やれやれ・・・・仮面をしてると暑くていけねぇ。・・・・・さてなぁ・・・・。
  おまえさんがまぶしかったのかもな。約束を守るなんて、必死で言えるおまえさんが」

金髪の男が笑う。いい男だと、シンは思った

「・・・・・その、戻れないんじゃないのか、こんなことしたら!
  あんた・・・・なんで・・・・・本当になんでこんなこと・・・・・!」

するとネオが笑って、こちらに歩いてくる。シンの目の前にくると、ぽんぽんと肩を叩いてきた

「いいんだ」
「え・・・?」
「もういいんだよ。なぁ、シン。・・・・せめてステラには平和な世界を見せてやりたいなぁ・・・・」
「・・・・・うん」
「それじゃあな、少年。一応、俺とおまえは敵同士なんでな」

ネオはそう言って、背を向ける。

「ネオ!」
「なんだ?」
「その・・・・・ありがとうございましたッ!! 俺、絶対にステラを守ります!」

シンは思いっきり頭を下げた。それしかできなかった

「おう。まっすぐに生きろよ、シン・アスカ!」

ネオはそう言い残すと、カオスに乗り込んで飛び立って行った
シンはステラを抱き上げたまま、しばらく頭をさげていた