クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第025話

Last-modified: 2016-02-15 (月) 23:27:13

第二十五話 『そんなのクソ食らえだ!』
 
 
==========================

アカツキが大空を行く

眠っているステラが、シンのひざにいる。こうやってあっさりと再会できたのが、少し信じられない

「ヤタガラス、こちらアカツキ。帰艦する。ドクターをすぐに呼んでくれ」

それだけ通信すると、ヤタガラスがの漆黒の船体が見えてきた。あらためて外から見ると、
本当に黒い。黒一色に徹底して統一されているので、ある意味ではよく目立つ
その代わり、夜だとさっぱり見えないだろう

ガシャン

アカツキがカタパルトデッキに着艦し、MSデッキに入っていく
すぐに機体をハンガーへ固定すると、ステラを抱きかかえて降りた

テクスがすでに準備してきている。担架も用意されていた

「シン。いったいこれは・・・」

さすがのテクスも、ステラを見て驚いた

「ステラです。これが、カルテと、薬品類だそうです」

シンはステラを担架に寝かせると、テクスにネオから渡されたバックを渡す
ヤタガラスのクルーたちもなにごとかと、集まってきていた

「シン。アスラン艦長が、すぐにブリッジへ来いってさ」

ルナマリアが言ってくる。シンはうなずいた。しょうがないことだ

「わかった。ドクター、ステラをよろしくお願いします」
「ああ」

そのままMSデッキを抜け、ブリッジに向かう
気が重かったが、しょうがなかった。ただ命令違反をおかしたわけでもないので、
きつくとがめられることはないはずだ

「シン。アカツキの通信データをよこせ」

ところが、アスランに言われたのはそんなことだった

「え・・・・?」
「とりあえず、ネオとかいう男の声がわかればいい。早くしろ!」
「は、はい。メイリン、今日の日付の、アカツキの通信ログと、地中海戦のログをあげてくれ」
「う、うん」

シンはメイリンに言って、直接アカツキのデータをアップさせた
いくつかの音声データを確認し、艦長席に座っているアスランを見上げる

「ネオの音声データは・・・これだな」

メイリンの肩越しに、端末を入力してネオの声を再生させる

『チッ、戦場でなにか用かい、金ピカ君!』
『そうか。君がステラに変なことを吹き込み、連れまわした少年かい!』
『彼女は兵士だ・・・・。戦場に還したに決まってるだろう!』

ネオの音声データが再生される。艦長席にいるアスランは、なぜか難しい顔で腕を組んでいた
しばらくブリッジに沈黙が流れる

「シン。そのネオと、会って来たんだな?」
「はい・・・・・」

一瞬、その行動が問題なのかと思った。どういう理由であれ、敵と接触したのである
スパイ疑惑をかけられるのかと、シンは思ったりもした

「ネオという男の顔は見たか? 地球連合軍の公式データだと、仮面をかぶっていたが」
「え・・・・・あ、はい。見ましたよ、仮面を脱いだ顔」
「その男の顔は、こういう顔じゃなかったか? メイリン、地球連合軍の公式戦死者データから、
  ムゥ・ラ・フラガ少佐を出してくれ。写真だけでいい」

アスランの指示にメイリンがうなずき、端末が叩かれる。しばらく検索が行われ、
モニタに一人の男の顔が映し出された

「あ・・・・・こ、こいつです。髪はもっと長くて、顔に傷がありましたけど、そっくりです」

シンが言うと、アスランは頬杖をついたままため息をついた

「どう解釈すればいいんだ、これは・・・・・。ムゥ・ラ・フラガ少佐が生きていただと・・・・?
  しかも大佐で、連合艦隊の司令官か・・・・。あの人は、連合軍からすれば軍法会議ものの人だ
  なのになぜこうもたやすく復帰している? あの仮面はなんだ? どうしてアークエンジェルクルーに
  その生存を伝えていない・・・? よく似た別人なのか・・・・?」

アスランがぶつぶつとつぶやいている。ああやって考えをまとめているのか、時々天井をにらんでいた

「あの・・・・艦長?」
「ムゥさんが・・・いや、ネオ大佐がステラをおまえに渡した。そういうことなんだな?」

多分、アカツキの通信を聞いたりしていたのだろう。アスランはだいたいの事情を把握しているようだ

「はい。ステラを幸せにしてやれって・・・・俺のことはもういいんだって・・・・言ってました」
「ムゥさんらしいな・・・・。わかった、もういい。シン、戻って休め 
  ステラはヤタガラスのゲストとして、俺の方で処理しておく」
「すみません、艦長」
「ステラは救ったが、ロドニアには行くぞ。いつ戦いになるかはわからない。覚悟はしておけ」

シンは敬礼すると、すぐに医務室へ足を向けた

==========================

丸二日、ガロードは眠っていた。起きると医務室で、自分がヤタガラスに帰艦した途端、
気を失ったことを思い出す。目を覚ますとキッドがやってきて、
さんざんDXのことについて愚痴られた。損耗はかなりひどかったが、かろうじて修復できたそうだ

(戦いには勝ったけど・・・・完敗だ・・・・・)

ガロードは、医務室のベッドで思い出す。フリーダムとの戦いを。DXの装甲がなければ、
今頃自分はベッドではなくカンオケに寝転んでいただろう

もしもキラ・ヤマトが乗っていたのがDXと互角のMSだったらと思うと、ぞっとする
予備知識としてキラがこの世界最強のパイロットというのは知っていたが、
実際に向かい合うと、完全に圧倒されるしかなかった

そんなことを考えていると、不意に医務室があわただしくなり、
担架に乗せられた金髪の少女が運ばれてきた

「ステラ・・・・?」

ガロードは見覚えがあった少女の出現に、少なからず驚いた。テクスがやや遅れて入ってくる

「ああ。シンが連れてきた。なにがあったのかはよくわからないが、救出成功だな」

テクスはそう言うと、すぐにステラの衣服を脱がせ始めた
思わずぎょっとして、ガロードは目をそらす
テクスは冷静にステラの体を瞳孔や喉、心音を調べ、服をステラに着せると、書類へ目を通し始めていた

少しして、シンが医務室にやってくる。なにかテクスと話をしているようだ

「じゃあ、余命が一年って、やっぱり本当なんですか?」
「ああ。薬物と強制的な記憶操作でかなり脳がやられている。極端な彼女の幼児性も、それと無関係ではない
  確かにこのままでは、ステラは一年しかもたん・・・・」
「・・・・・・・・・・・手は、手はないんですか!」
「とにかく、カルテに目を通してみる。ロドニアを制圧すれば、どんな研究だったかもわかるだろう
  結論を焦るな、シン。絶望にはまだ早い」
「・・・・・・・・・・・」

シンが泣きそうな顔で、こちらにやってくる。それが痛々しくて、ガロードは目をそらした

「ステラ・・・・やっと会えたのに・・・・・」

シンがベットで眠っているステラを見つめている。ガロードは目を閉じて、寝ているフリをした
とても見てられなかった

==========================

地中海を抜けて、ヤタガラスは黒海にたどり着く
ロドニアはもう目と鼻の先である

そこに連合軍艦隊が集結中との連絡が入った
その気構えからして、決戦の意志があると考えていい

アスランが全クルーを前にして、作戦を伝える

「この戦い、勝ちを優先しない。勝ち方に重点を置く
  はっきり言うが、連合軍はヤタガラスに執着しすぎている
  我々に大軍を向けるより、ザフトの拠点を攻略した方が戦略的にも意義があるはずだ
  なのにそれをしないということは、ヤタガラスをそれほど恐れているということでもある」

アスランが言いながら、モニタに映った地図をなぞる。そこには敵艦の配置などが描かれていた

「勝ち方に重点を置くって、どういうことだよ?」

ガロードがアスランに聞く。怪我は癒え、DXもどうにか修復されていた

アスランは地図に示された敵艦隊を、指でぐるりと囲んだ

「相手が我々を恐れているのなら、それを逆手に取る。この戦い、第一波の攻撃が相手を仕掛けてきたら、
  MS隊は一切手加減するな。殲滅しろ」
「「「「「え・・・・・?」」」」

アスランらしからぬ峻烈な言葉に、クルー一同は目を合わせた
そしてアスランはさらに一言、付け加える

「それが、結局は人死にを減らす」

==========================

ヤタガラスが見えてくる。全身を黒で統一したその戦艦は、敵でありながら一種の優美さを持っている
まるで飛べないアヒルが、白鳥をうらやむように、集結した連合艦隊はその戦艦を見上げていた

ネオもその一人だった

「イアン」
「はい」

副官のイアンを呼ぶ。ネオはじっとヤタガラスを見据えたまま、告げた

「すまんが生きてくれ」
「は・・・・・?」
「すまんが、生きてくれ・・・・・命令だ」
「・・・・聞けません、その命令は」

イアンがかたくなに首を振る

「駄目だ、イアン。おまえは生きろ。死ぬのはバカだけでいい。おまえまで付き合うな」
「どういうことですか?」
「俺をロゴスのために死なせるな。俺は俺のために死ぬ。だからそれを証明したい、わかるな?」
「・・・・・まさか、ネオ大佐」

イアンが目を見開き、じっとネオを見つめる。それなりに長く、副官をやってきたのだ
もうお互いの考えは、言葉をかわさずともある程度は理解できる

「俺は死にたいやつだけを引き連れて出る。そいつら全員死ねば、世界も納得するだろう。『後は』任せた」
「・・・・・・・・・・むごいですな、大佐。死に場所を間違えた軍人は、どう生きればいいのです?」
「イアン。おまえは俺の無茶によくついてきてくれた。無茶ついでだ。最後にこの命令を、頼む」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

イアンは無言で、こぶしを握り締めている。ネオはその横を通り過ぎて、ブリッジを出た

志願者だけがMSデッキに参集している。ネオは出撃を告げた
ただ、いけにえを作るための戦いだ。それだけにこの戦いは、激しいものとなるだろう

志願者たちがMSに乗り込んでいく。全員にウインダムを与えてあった
どうせなら、少しでもいい性能のMSで、華々しく散りたいと思っているだろうからだ

ネオはひときわ大きなMSの前に立った。完成型デストロイガンダム。オーブ戦のものより小さいが、
それでも並のMSの三倍近い大きさがあり、火力も桁違いだ
単純な火力なら、DXを除いて勝てるMSはないはずだった

「やれやれ、これが俺の花道かぁ・・・・」

カラン・・・・

ネオは苦笑して、仮面を脱いで地面に転がした。仮面はジブリールの命令で、常にしているよう言われたものだ
なぜそんな命令をされたのかはわからない。死人がうろついていてはいろいろ不都合だからな
そんなジブリールの独り言を聞いたことがあるぐらいで、意味はわからなかった

ただ、最後ぐらいは素顔のままでいたかった。コクピットに乗り込み、計器のチェックをする
ステラ用のOSだったが、もうネオ用に書き換えられていた

デストロイのコクピットから、カオス、ガイアが見える。乗り手のいなくなったあれは、どうなるのか
ふとそんなことを考えたが、すぐにどうでもよくなった

「ネオ・ロアノーク! デストロイ! 出るぞ!」

==========================

今回はアスランも最初から出るらしい。それどころか、全機スクランブルの体勢だった

「シン・アスカ! アカツキ! 行きます!」

アカツキは最後の発進だった
すでに空中では、インフィニットジャスティス、ガンダムDX、フォースインパルス、グフイグナイテッドが待機している
五機がそろうと、さすがに壮観で、連合がヤタガラスを異常に恐れるのも無理はないとシンは思った

作戦が開始される。インフィニットジャスティスが国際救難チャンネルとスピーカーを使って、敵艦隊へ呼びかけた

『連合艦隊へ勧告する・・・・。私はタカマガハラ第一部隊ヤタガラス艦長、アスラン・ザラである
  残念ながら、すでに彼我の戦力差は明らかであり、勝敗は決している。すみやかに降伏されたし
  降伏された場合、オーブとザフトがその身柄を保証する。戦争犯罪者として扱うつもりはない』

ヤタガラスというわずか一隻の戦艦が、大艦隊に降伏を勧めるのはおかしな話だった

しかしこの戦場にいる者たちは、誰もその事実に笑いもしなければ、疑いもしないだろう
それほどヤタガラスと連合艦隊の戦力差は開きがある

『こちらは地球連合軍『ファントムペイン』隊長ネオ・ロアノーク大佐だ。ヤタガラス、丁重な申し入れを感謝する
  しかしこちらとて軍人、戦わぬままおめおめと降伏はできない。決着をつけようか』

「ね・・・・ネオ?」

シンはアカツキのコクピットでうなった。間違いなく、ステラを返してくれた男の声である
いや、戦場での再会があることは理解していた。それでも、本当に戦うとはどこかで思ってなかった
しかもこんなに早く

『ネオ大佐・・・・いえ、ムゥ・ラ・フラガ少佐・・・・・アスラン・ザラです。本当に降伏してはいただけないのですか?』
『・・・・・死ぬ時に死ねなかった人間は、ただ無様だ。俺は無様でありたくない』
『ムゥさん。・・・・・いけにえになるつもりですか?』    シカバネ
『俺はネオだ。ムゥなど知らん。ただ誰かが生きるのに、屍は必要だろうさ! さぁ、決着をつけようか、ヤタガラスッ!』

ゴォォォォォォ・・・・!

敵艦隊からMSが次々と発進をしてくる。その中央に、デストロイの姿が見えた
シンはすぐにそれへ誰が乗っているのかわかった

『・・・・やはりこういう成り行きか・・・! ヤタガラス所属MS各機散開
  アカツキ、インパルス、グフはヤタガラスの守備につけ! 俺とガロードが先陣を切る!』

アスランが当初の予定通りの、作戦を告げる。しかしそれは微妙に違っていた。

「アスラン艦長! アカツキは・・・・俺も斬り込むんじゃないんですか!?」

最初に発表された作戦では、ヤタガラスの守備につくのはインパルスとグフだけだった
その配置がいきなり崩されている

『シン、デストロイが出てきたのは予定にないことだ。デストロイのビームは、
  ヤタガラスの新型ラミネート装甲でもダメージを受ける。完全に無効化できるのは、アカツキだけだ
  おまえは母艦を守れ』
「・・・・・・でも!」
『やめろ! おまえにネオが討てるのか! それに、俺を・・・・部下に恩人を討てと命令する男にする気か!?』
「うっ・・・・・」

シンは戸惑った。確かに、なんの迷いもなくネオと戦えるかと聞かれれば、正直自信が無い

『シン・・・・いいだろ、後は俺に任せとけよ』

ガロードが通信を入れてくる

「・・・・・くそッ・・・・なんで・・・・なんで俺たちは戦争なんかしてるんだ!」

シンは自分の唇を噛んだ。鉄の味がする。血が、流れ出していた

無数のウインダムと、その中央にあるデストロイへ、DXとインフィニットジャスティスが突っ込んでいく
殲滅せよ。その言葉どおり、容赦のない動きで二機はMSを撃墜していく

アカツキはそれから背を向けて、ヤタガラスの守備についた

==========================

「畜生・・・・嫌な戦いだぜ・・・・くそぉぉぉぉッ!」

ザシュゥゥゥ!

DXが、ハイパービームソードでウインダムを切り下げる。それが爆発するのを確認する間もなく、
すぐにバスターライフルで迫り来るウインダムを撃ち落した

敵は死兵である。アスランは第一陣でやってくるのが決死隊であることを予想していて、
そしてこの第一陣こそが戦いのすべてになると言っていた

死兵とは死ぬ覚悟をした兵ではない。すでに死んだ兵だ。死人に恐れもない、迷いもない
ただ敵を討つべく、その身を剣とするだけだ。だから敵に回すとこれほど厄介なものはない
DXに対し、敵は恐れのかけらも見せていなかった

「わかってるさ・・・・こういう敵は、死なせてやるのが礼儀なんだろ・・・・・!
  でもよ・・・・俺は戦士でもなけりゃ、軍人でもないんだ・・・!
  こんなことやらせるんじゃねぇよ!」

ドォォォン!

バスターライフルでコクピットを撃ち抜かれ、またウインダムが爆散する。敵は多くない
しかし、敵はこれまでにないほど手強い

不思議なことに、デストロイは沈黙していた。砲撃をかけてくるのかと思ったが、そんなことをしてこない
ただ、この乱戦でデストロイが暴れると、味方ごと巻き込む恐れはある
しかしそういう場合ではないはずだ。むしろ同士討ちを覚悟してこちらを攻撃してこなければ、
敵は確実に負ける。ウインダムの数はこうしている間にもどんどん減っているのだ

「クソッタレ・・・! さっさと降参しろよ、おまえら!」

アスランの言葉を思い出す

敵を降伏させるには、犠牲が必要だ。例えば、戦争前に降伏する国はほとんどない
たいていは、戦争というもので多くの犠牲を出してから降伏する
例え戦争前に戦力差があって、敗北を予感させるものだとしても、きちんと負けないと人は降伏しない

だからこの大艦隊も、犠牲を作って敗北を自覚しないと、ヤタガラスに降伏してくれない

そのために、こんな凄惨な戦いをしてるのだった

==========================

初めて出会った時を思い出す

「スティング、ステラ、アウルねぇ・・・・おまえさんたちが?」

強化人間と紹介された三人は、どこにでもいる普通の少年少女に見えた
しかし話してみるとどこかおかしくて、ゆがんでいるように思えた

兵士だから仕方ない。情を移すとつらい。割り切ってください

研究者たちが知った風にそんなことを言う。ネオはなぜかそれに腹が立った

「おい、おまえら! 海を見たことあるか・・・? なに、ない? よし、今すぐ行こうか!」

そう言うと、三人はどう反応したらいいのかわからないような顔をしていた
ネオは構わず、無理矢理車に乗せて海へ連れ出した

「おい、ほら! どうした! 海だぞ・・・どうだ、すげぇだろ!!」

砂浜につく。小さなビーチサイドだった
三人は初めて見ただろう海に、それほど反応を示さない。またなぜか腹が立ったので、
ネオは思いっきり三人を海へ突き飛ばした

「うわ、なにするんだよあんた!」
「へっ、やっと人並みの反応しやがったな、アウル! くらえ! スティングもだ!」

ネオも海へ入り、そいつらに水をかけた。最初は鈍い反応だったが、
やっているうちにスティングもむきになり、やり返してくるようになる

「へっへっへ! おー、ステラの姫さんは海が嫌いか!?」

一人だけステラはずぶぬれのまま、砂浜へあがった。そのままステラは座り込み、いじいじと砂浜を触っている

「・・・・・・・・・。」
「ステラ。どうだ、海はいいだろう? 俺たちは皆、ここから生まれたんだ」
「・・・・・うまれた・・・?」
「そうだ。みんな始めは海にいたんだ。仲良しだった
  なのにどうして、こんな風になっちまったんだろうな。・・・・ま、そんなことはいいか。これとっとけ」

ネオは拾ったピンクの貝殻をステラに渡す

「ネオ・・・?」
「海に来た記念品だ。取っとけ」それからネオは、三人を見回す「おい、いいか三人とも!
  おまえらが強化人間だろうがなんだろうが、今日、ここで楽しく遊んだ! それは事実だ!
  それだけは覚えとけ!」

遠い夏の日の話だった。
本当に遠い日の話だ。あれからどれぐらいの時がたったのだろうか。あの海は今も綺麗だろうか

ステラから、ネオの記憶を完全に抹消した。洗脳操作の中には、ネオに対する強制的な依存もある
ステラはもう、ネオ・ロアノークなしで生きていかなければならない。だからネオの記憶など、不要なだけだ

「楽しかったぜ・・・・・短かったけどな・・・・。どいつもこいつもクソ生意気でなぁ・・・・・」

ネオは笑う。もう仮面はない。だから表情も隠せない

DXとインフィニットジャスティスが、次々とウインダムを撃墜していく
それらがすべて落とされたとき、動こうと思っていた。死戦とはいえ、味方を巻き込む戦い方はしたくない

この期におよんでそんなことにこだわる自分は、こっけいだろうか。ネオは少し考えて、やめた
今はこの戦いに集中する

ウインダムの数が減る。あと、5機

4・・・・・3・・・・・・・・・・・・・2・・・・・・・・・・・・・1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0

「行きますか・・・・」

ネオは笑った。その瞬間、デストロイの視界に金色の機体が飛び込んできた

==========================

ステラは目が覚めた。そのとき、自分がなにかを忘れているような気がした

「やっと起きたかね、眠り姫。今は戦闘中なので、安静にしているといい」
「・・・・・・テクス?」

医者が微笑んでくる。ステラはその顔に見覚えがあった
なのにまだなにか忘れてる気がする

「おお、私を覚えててくれたか。さて、シンに知らせてやりたいが、そうもいかんか・・・」
「シン・・・・いるの・・・?」

思い出す。大切なひと。支えてくれるひと。守ってくれるひと。シン・アスカ

なのにまた、なにかを忘れている気がする。思い出せない

「今は寝ているといい。大丈夫だ、怖いことはなにもない」

テクスが言う。ステラはおとなしく眠ろうとして、服のポケットになにかが入っていることに気づいた

ピンクの貝殻。シンと分けた、大切な『たからもの』

でもどうして大切だったんだろう・・・・思い出せない

思い出せない・・・・なにか、ひどく大切なことを思い出せない

==========================

『シン! なぜ来た!』

アスランの声が聞こえる。シンは首を振った

「命令違反の罰は後で受けます! ・・・・・でも、俺が戦います!」
『なんでだよ、シン! 無理すんじゃねぇ!』

ガロードの声も聞こえる。だいたいの事情は、みんな知っていた

「ガロード・・・・俺、なんで戦争なんかしなきゃいけないのか、いまだにわからない。俺、ネオのこと好きだ。
  でも戦わなきゃいけない。なんでだろうな・・・・・」
『シン・・・・?』
「なんでだろうな・・・・・。あの人、ステラを助けてくれたのに・・・・・なんでだろうな
  なんで俺たちは戦争してるんだろうな・・・・。」
『よせよ! 俺がやる!』

シンは大きく息を吸った

「ダメだ! それでもこれは俺の戦いなんだ! よくわかんないけど、
  それでもネオが死ぬのを黙って見ていたら、俺・・・・・
  きっとまた大事なことわかんないまま戦わなきゃならなくなる!」
『シン・・・・・』
『わかった、シン。デストロイの相手はおまえに任せる。ただやるからには勝て。命令だ』
「すいません、艦長!」

DXとインフィニットジャスティスが、離脱してヤタガラスの守りにつく

アカツキはじっとデストロイと対峙した

「ネオ・・・・聞こえるか?」

デストロイに通信を入れる

『シン、もう問答の段階じゃないぞ』
「わかってる・・・・。ただ・・・なんで俺たちは戦うんだろうな・・・・。それだけを言いたかったんだ」
『さぁ・・・・な。いろいろ都合があるから、な・・・・』
「・・・・都合か。そんなんで殺し合いするのか・・・・それでステラも死ぬのかよ・・・・・・・」
『シン、理不尽だよな、腹の立つ世の中だよな・・・・でもこれが現実だ!』

「そんなのクソ食らえだ!」

シンは叫んだ。思わずそう叫んでいた

『へぇ・・・? なら・・・・どうする』
「俺が戦争を終わらせてやる! この戦争、シン・アスカが終わらせてやる!
  世界を平和にだってしてやるよ! 絶対に、第二のステラなんか出すもんか!
  無謀だって笑えば笑えよ、俺はただのパイロットだ・・・・でも戦争を終わらせてやる!』
『・・・・・・いいねぇ・・・・無謀は若者の特権だ。なら、貫けよ。無謀を貫いたヤツだけが、
  起こす資格があるんだ、奇跡ってやつは。さぁ・・・・・来いよ。
  これが平和への第一歩になるか、まずは俺がおまえを試してやる』

「・・・・・シン・アスカ! アカツキ! 行きます!」

『来い!』

アカツキのビームサーベルを二本抜き放ち、連結させる。

デストロイもゆっくりと両腕を回した

お互い、ビームがきかない機体だ。ならば接近しての一撃が勝負になる
アカツキは連結ビームサーベルで。デストロイはそのカウンターを狙っての、パンチ

海がざわめく。鳴る。

ぱぁぁぁん

シンの頭で『種』が割れる

集中力が研ぎ澄まされる。もっとだ。まだ足りない。もっと深化する。アカツキに同化する
シンはアカツキに。アカツキはシンに。聞こえる

波のざわめき、風のゆらめき、艦隊のきしみ

今だ

——————————!

一瞬で交差した。次の瞬間には、アカツキとデストロイの位置は入れ替わっていた

『すげぇな、坊主』
「・・・・・・・・・。」

ドォン!

アカツキの左腕が吹っ飛んだ。それとほぼ同時に、デストロイがぱちぱちと音を立ててショートする
アカツキの両腕には、すでに連結ビームサーベルがない
連結ビームサーベルは、デストロイのほぼど真ん中に突き刺さっていた

『シン。おまえは、本当に終わらせるんだな?』

どぉん・・・・どぉん・・・・・。デストロイが崩壊していく

「ああ・・・・・終わらせる。決めたんだ」
『結構、結構。最後にいい夢が見れた・・・・。いいねぇ、若いってのは・・・・』
「・・・・・・・・」
『そうそう、ステラを頼むぜ。結構泣き虫なんだ、あいつ。知ってるか?
  俺がくれてやったピンクの貝殻、大事にしたりしてさ・・・・・』

どぉん・・・・デストロイの背中が吹っ飛んだ

「脱出してくれ、ネオ」

言っていた。聞いてくれないとわかっていながら、思わず言っていた

『よせよぉ、シン・・・・。今、俺はいい気分なんだ。水を差すんじゃねぇよ・・・・』
「・・・・やだよ、俺。やっぱりあんたに死んで欲しくないよ・・・・」

シンは泣いていた。情けないとわかっていながら、泣いていた

『だったら俺のこと、忘れないでくれや? な? それと、連合艦隊はオーブに降伏する
  後は頼んだぜ・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・ネオ・・・・・・」
『じゃあな、シン・・・・・・・・・・見てるぜ・・・おまえが作る・・・・平和な、世界を・・・・』

ドォン・・・・・・・バシュゥゥゥン!!!

不意に、シンは『なにか』を感じた。次の瞬間にはアカツキをデストロイの真上に移動させた

ドォォォォォ!

凄まじい光の奔流。それがデストロイめがけて放たれている
瞬時にアカツキのシールドを展開し、それをどうにか受け止めた

「誰だ・・・・おまえ・・・・誰だッ! ・・・・・ネオを静かに死なせる・・・・・邪魔するなッ!」

『あーあ。くだらない三文芝居をさっさと終わらせてあげようと思ったんですけどねぇ・・・・。
  ま、いいですかね。アハハ、ほら、死んだ』

ドォォォォン!!

眼下でデストロイが爆発する

あれは、男の死だった。それが『これ』のおかげで、汚された。そう思った

「おまえぇ・・・・・!」

シンが見上げる。視線の先に、翼を持ったMSが空から降りてきていた

『さぁて・・・・皆さん、おまたせしました
  ディスティニーの初登場ですよ? 楽しみましょうね・・・・あはははは・・・・!』