クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第034話

Last-modified: 2016-02-15 (月) 23:52:12

第三十四話 『わけわかんねー!?』
 
 
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アスランはエターナルとの通信を切ると、すぐに戦闘態勢を取った

「主砲ゴットフリート、全砲門開けッ! 大気圏用ミサイルウォンバット装填! 照準、エターナル!」
「了解、ウォンバット装填完了・・・・照準終わりました!」
「よし、撃てーッ!」

ドォォォン、ドォォン! バシュバシュシュゥゥン!

二門のゴットフリートがうなりをあげ、そしてミサイルが次々とエターナルに向かって放たれていく!

「チッ! 避けられたか!」

アスランは歯噛みした。エターナルはゴットフリートを、船体を傾けることでかわし、ミサイルは全弾撃墜された

「大気圏内であの動き・・・・! 艦長! 敵の操舵士はアークエンジェルのヤツですか!?」

急にシンゴがこちらを振り向き、尋ねてくる

「ああ。おそらく、アークエンジェルのアーノルド・ノイマンが操舵をしているんだろう」
「寒気がしましたよ、俺。地中海でアークエンジェルが奇襲してきた時
  海の中から浮上すると同時に、ローエングリンの照準を定めてたんですからね
  並の操舵士にできることじゃない。俺たちの世界にもいるかどうか・・・・」
「シンゴ、ノイマン操舵士に勝てるか?」
「やってみせますよ! 俺だってシンゴ・モリです!」

アスランはそれから、エターナルを見つめた。一機のMSが飛び出してきている
ミサイルを撃ち落したのは、おそらくそれが原因だろう

「フリーダム、か・・・・。改修したのか、新型か・・・わからないが、
  そうでもなければこんなことはやらないか・・・・・」

フリーダムとほとんど同じシルエットを、そのMSは持っている。
ならば特性もほとんどフリーダムと同じはずだ。フリーダムが得意とするのは、
アカツキ同様多対一の戦闘である
ならば、接近戦に強いインフィニットジャスティスが天敵になるが・・・・

(この状況で、軍の指揮を放り出すわけにはいかないか・・・)

アスランはひたいにしわを寄せた。まだヤタガラス一隻だけなら、パイロットとして出撃できる
しかし一個師団を預かる人間が、そんなことをするわけにはいかない

「俺に代わって軍の指揮ができる人間がいたらな・・・・・
  メイリン、シンに伝令だ。レイ、ルナマリアと連携し、フリーダムらしきMSの攻撃を封じろ、と
  他のロドニア軍はその隙に、エターナルを包囲しろ。密かにな」
「はい!」
「それにしてもなにを考えてるんだ・・・まったく・・・・・・」

考える。ラクス・クラインは前大戦以後、初めて表舞台に顔を出したと言っていい
なぜそんなことをしたのか。いったいなにが目的なのか
プラントに戻り、ギルバート・デュランダルの真意を確かめたいと言ったが、
そんなことができるわけない。プラントにラクスが行けば、問答無用で拘束されるだろう

(待てよ・・・・・・)

一つの考えをアスランの頭がよぎった。ラクスが、プラントに戻ればどうなるか、である
間違いなくその場合、プラントは内戦になるだろう
彼女自身にその意思はないかもしれない。本当にデュランダルと話し合うつもりで行くのかもしれない
だが、彼女がプラントに『本当の意味で』戻るには、武力行使を行うしかない
クライン派はアスランやデュランダルの工作でダメージを受け、地下にもぐったが、
その力は侮れない強さを持っている。また、プラントの民はいまなおラクスを平和の歌姫と称えている

そして彼女の手にある最強のジョーカー『キラ・ヤマト』。これだけのカードがあれば、
ラクスによるプラントの制圧もまったくの夢物語ではなくなってくる

「ラクス・・・・・! わかっているのか、それとも知らないのか・・・・君の決断はッ!
  絶対にエターナルを宇宙に上げるな! もう戦争の火種を生むんじゃないッ!」

アスランが叫んだ。次の瞬間、フリーダムが火を噴いた

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ドシュゥゥゥゥ!!

ストライクフリーダムから放たれる、13の火線
両手にビームライフル、腹部の大出力ビーム砲、両腰のレール砲、
そして本機の特徴である『スーパードラグーン』。
それらすべてを同時に放ったフルバーストは、一撃で13のMSを撃墜していた
無論、コクピットは撃ち抜いていない

「下がれ・・・下がってくれ! これ以上の戦いは無意味だ!」

キラは周囲を見回す。フルバーストの一撃で、ロドニア軍はひるんでいる
エターナルは、徐々に打ち上げ場に近づいていた

『あんたは・・・・あんたは一体なんなんだぁーッ!』

叫び声が聞こえる。聞き覚えのある声だ
同時にキラの眼前へ出現する、アカツキ、フォースインパルス、グフの三機

「アカツキ・・・・・!」
『せっかく殺さないでやったのに、なんで・・・・なんでまた出てくる!
  どうしても死にたいのか、キラ・ヤマト!』
「それでもやらなくちゃいけないことがあるんだッ!
  だから僕はもう・・・・負けるわけにはいかないッ!」

キラはスーパードラグーンを展開させた。本来なら空間認識能力を持つ人間にしか扱えない武器だが、
インターフェースの改良と、キラ自身の情報処理能力の凄まじさで操作を可能にした

砲塔が放たれ、展開していく。キラの能力が、その一つ一つの砲塔へ意識を吹き込む

ドゥンドゥン! ドゥン!

次々と三機へ放たれる、八門のビーム砲。しかしすべてかわされた

(やる・・・・!)

『あんたはぁぁぁッ!』

アカツキがビームサーベルを連結させ、斬りかかってくる。ビームシールドで受け止めた
同時に、フォースインパルスとグフがビームライフルを構えているのが見えた

バシュン、バシュン、バシュゥゥン!

「そう何度も同じ手を!」

アカツキごとビームで狙う戦法。ビームを無効化するアカツキのみが可能とする戦い方だった
しかしストライクフリーダムはアカツキをすぐに蹴飛ばし、ビームをよける
アカツキに当たったビームは、あらぬ方向へ飛んでいた

『なろッ! 新型だからって!』
「世界がゆがんでいるって、少しずつおかしい方向に向かってるって、なんで気づかないんだ君たちはーッ!」

ドラグーンを戻し、もう一度、フルバースト

ドシュゥゥゥゥ!!

グフと、インパルスの両腕を打ち抜いた。これで二機は戦闘不能
ビームに耐性のあるアカツキは最初から狙っていない

『レイ!? ルナ!? おまえッ!』
「殺しちゃいない! 殺しはしない!」
『そういう問題じゃないだろうがッ!』

バシュゥゥゥゥ!

アカツキが両腰の収束ビームを放ってくる。ビームシールドでそれを受け止め、
ストライクフリーダムは二本のビームサーベルを引き抜いた
アカツキにビームはきかない。なら、ドラグーンも無意味ということだ

「僕はもう負けない! 君を倒すよ・・・!」
『DXがいなくったって!』

一気に間合いを詰め、アカツキに向かってサーベルを振り下ろす
受け止める、アカツキ。フェイント。ドラグーン、一基だけ、後ろに回す
サーベル、叩きつける。アカツキ、つばぜり合い。ドラグーン、アカツキの真後ろへ

「行けッ!」
『うっ!?』

ドォン!

ドラグーンを、アカツキの背中へそのまま叩きつけた。ドラグーンの自爆攻撃
ビームがきかなくてもこれはきく。同時に、体勢を崩すアカツキ

ザシュゥ! ザシュゥ!

アカツキの両腕を切り落とし、首をはねる。これでもうアカツキは戦闘能力をなくしたはずだ

「ごめん、僕は行かなくちゃいけないんだ!」
『な・・・・くっ! アカツキが・・・・!?』
「だから君も考えて! 本当は誰が悪くて、なにがいけないのか、誰が正しいのか!」

アカツキに語りかけ、キラはエターナルへ戻ろうとした

『ヘッ・・・・・ばーか。俺の勝ちだよ』

アカツキのパイロットがそんなことを言う。同時に、キラは見た
エターナルを、ロドニア軍のMSが遠巻きに包囲している
完全な包囲は完了していないが、もうビームが届く距離になっていた

「あ・・・・・」
『残念でした、キラ・ヤマト。俺たちの目的は最初から、あんたを母艦から引き離すことだったんだよ』
「ラクス・・・・!」
『あんたの負けだよ、キラ。これ以上抵抗すれば、ロドニア軍は容赦なくエターナルを撃墜する
  さ、武装解除して投降しろ。艦長も待ってる』
「・・・・・・・・・」

エターナルの包囲が完了していく。エターナル自身も、包囲に気づいたが、下手な抵抗はできないようだ
完全にやられたと、キラは思った

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エターナルが飛行場に着陸する。そのかたわらでは、ストライクフリーダムが追従していた
周囲を、ロドニア軍のMSが厳重に囲んでいる

その包囲網の中に、ガロードはいた。乗っているのは、レイが使っていた白いブレイズザクファントムである
DXが破壊された時、キッドはひそかに改造していて、AW世界の操縦機構に限りなく近づけてあった
キッドは、なんとかあがいてみた結果がこれだと、少し自慢げに話していた

(・・・・なんとかなる、かな・・・・)

それがガロードの感想である。DXなどと完全に同じわけではないが、
それでもジンなどに比べると格段に扱いやすい
訓練代わりに、包囲完了したロドニアのMS隊に混じってみたが、どうにか戦闘もできそうだった

ロドニア軍の歩兵が銃を持ち、着陸したエターナルの搭乗口に集結する

『エターナルに告ぐ。乗組員は、三分以内に退艦せよ。もしもMSに乗ったり、抵抗したり
  あるいは三分経って出てきた場合、容赦なく射殺する』

ヤタガラスから、アスランの声が聞こえる。どうもガロードは、こういうのは苦手だが、
無駄に戦闘するよりはずっといいと思った

ザクファントムも、エターナルの近くまで移動した。ラクス・クラインは見たことあるが、
キラ・ヤマトはよく見たことがない。この機会に拝んでおこうと思ったのだ

「よっと」

ガロードはザクファントムのコクピットハッチを開き、地上に降りた
ほとんど同時にエターナルの搭乗口も開く
周囲では歩兵たちが緊張した面持ちで、銃を構えていた

やがてエターナルから人が出てくる。先頭は、顔に傷のある軍人らしい男だった
それから巨乳、オペレータらしき人、など全員がホールドアップの体勢を取っていた・・・が・・・・・

「ろ・・・・・・ロアビィ!?」

出てきた長髪の男を見たとき、思わずガロードはひっくり返りそうになった
かつてのフリーデンの仲間であり、ガンダムレオパルドのパイロット、ロアビィ・ロイがいたからだ

「あちゃー、ガロード。なんつーか、カッコ悪い再会になっちゃったな」
「な、なにやってんだよおまえ!」
「いやー、俺は止めたんだぜ? こんなの自殺行為だってね。なのに歌姫さん聞いてくれないんだもん」
「そういう問題じゃねぇって!」
「ま、話は後にしましょ。とりあえず、俺が死刑になりそうだったら止めてくれよ
  俺、雇われただけだし。頼むぜ?」
「あのなぁ・・・・・」

ガロードは頭を押さえた。しかしロアビィの次に出てきたのは、さらに驚くべき人物だった

「む・・・・・?」
「しゃ、しゃ、しゃ、しゃ、しゃ・・・・・・!」
「ガロード・ランか・・・・・。ザフトのエース・・・・」
「シャギアぁッ!? ちょ、いや、結婚式に乱入してたからいるんだろうが・・・・あー、わけわかんねー!?」

卒倒しそうになるガロードへ、ロアビィが声を投げてくる

「コイツ、記憶がないんだとさ。本当かどうかは知らないけど」

さらにわけのわからないことを言われた。ガロードのCPUはそろそろオーバーヒートを起こしそうだ

(あ・・・・だからオルバの様子がおかしかったのか・・・)

ガロードの頭で、一つの考えがひらめく。結婚式以後、オルバがおかしくなっていたが、
その原因は多分、シャギアの記憶喪失なのだろう

最後にラクス・クラインが姿を見せた。彼女は無言で、銃を構えている歩兵を見回している
凛とした眼光で、一瞬、歩兵たちは目を伏せた

エターナルのクルーが、歩兵に囲まれて司令部に連行されていく
ストライクフリーダムだけが残された。そのコクピットハッチが開き、一つの影が降りてくる

「・・・・・・・・・」

降りてきたキラ・ヤマトは優男だった。どちらかと言えば、軟弱な印象を受ける
ガロードより年上だろうが、少年のような、壊れやすそうな印象があった

歩兵たちが一斉に銃を構え、キラを包囲する。ガロードはそちらに向かった

「ヤタガラスのガロードだ。ごめん、ちょっとどいて」

名乗ると、歩兵が道を開けた。その先にキラがいる。ヘルメットを脱ぎ、じっと、こちらを見つめていた

「こうやって話すのは・・・・初めてだね。僕がキラ・ヤマトだ」
「ガロード・ランだよ。地中海じゃ世話になったな。天才パイロットさんよ」
「・・・・・みんなを殺さないでやって」
「そりゃ、俺が決めることじゃねぇって。だいたいそんなこと言うなら、最初から喧嘩売ってくるんじゃねぇよ」
「・・・・・・・・・・・・」

キラは少しうなだれて、歩兵にうながされ、連行されていく
やはりその姿は、鬼神のように恐れられたフリーダムのパイロットとは思えない
ただのはかなげな少年の姿だった

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両腕と頭を失ったが、どうにかアカツキはヤタガラスに帰艦する

「ったく、インチキクセーほど強いな、キラは!」

そんなことを叫びながら、シンはアカツキから降りる。本当にキラは強い。
なぜか彼は、パイロットをできるだけ殺さないようにしているので生きているが、
まともに殺しあえば今頃シンは死んでいた

「ハァハァ・・・・あ、シン。艦長から伝言」
走ってきたのか、MSデッキにメイリンが顔を見せていた。手には小さなメモ用紙を握っている
「ん、なんだよメイリン?」
「ふぅ・・・・エターナルにネオって人がいるから、伝えておけって」
「え・・・・・?」
「でも昏睡状態で、どうにか生きてはいるみたいだけど・・・・
  いつ目覚めるかはわからないみたい」

シンは一瞬、なにを言われたのかよくわからなかった

—————・・・・・死ぬ時に死ねなかった人間は、ただ無様だ。俺は無様でありたくない

そう叫んだ男の声が、よみがえる。なにかがひどく汚された、そんな気がした