クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第038話

Last-modified: 2016-02-16 (火) 00:00:44

第三十八話 『褒めてください、ギル・・・・・』
 
 
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プラントのザフト軍基地で、ミネルバは補給を受けていた
大規模な作戦のため、地球に降りることとなったのだ

イザークは不機嫌そうに、MSデッキで頬杖をついている
その先に、ミネルバへ搬入される一機の巨大なMSがある

(サザビーネグザス、か・・・・・)

セカンドシリーズの、ザクやドムを大きく発展させたと言われる真紅のMSは、
デュランダルの専用機だと言われている。デュランダルがMSの操縦ができると聞いたことはないが、
なんでもOSを大幅に改良することで、素人にも扱えるようにしたらしい

「そう簡単にMSが扱われてたまるか」

イザークの中に、功名心がある。同期のアスランが華々しい活躍をしているのに対して、
自分は地味なデュランダルの護衛任務である。前線に行きたいと思うことはしばしばあった

「不機嫌そうだな、イザーク。まぁこれでも飲めよ」

ぽんっと肩を叩かれた。それから缶コーヒーを差し出される

「ディアッカ・・・・」
「グゥレイトォ。さすがはザフトのウルトラ新型MS、『サザビーネグザス』だな
  でかいでかい。ザクやグフとは、見た目からして違うぜ。あれなら素人が出ても勝てそうだ」
「フッ・・・・・」

ディアッカがわざと悪態をついている。デュランダルがMSを扱うことに反発する、
イザークの心中を知ってのことだろう。おかげで少し、不機嫌がおさまった

缶コーヒーを開けて、飲む。少し甘みが足りない気がした

「とはいえ、ヘブンズベース攻略作戦が決定されたし、俺たちジュール隊も実戦が近いよな
  なぁ、隊長さん?」
「フン。どうせ退屈な仕事だろう。議長が最前線に出られるわけがない
  俺たちは後方待機で、また護衛任務だ。・・・これでは戦功を立てる機会など・・・・」

「護衛は退屈かね」

不意に、後ろから声がかかる。思わずイザークは背中がびくっとなった
ディアッカも、あちゃあという感じで頭を押さえている。振り返ると、デュランダルがいた

「あ・・・・議長・・・・。いえいえいえいえ! そんなことは・・・・」
「フッ、顔に書いてあるぞ、イザーク・ジュール」
「・・・・ならば、ご無礼を承知で申し上げます。次のヘブンズベース戦では、
  どうか戦功をあげる機会をジュール隊にいただけませんか?」
「わかった。考えておこう」
「ありがとうございます、議長」

イザークが敬礼すると、デュランダルは片手をあげてそれに応え、去って行った

「なんかねぇ・・・・。みっともないぜ、隊長さん。軍人ってのは任務どおり動くのが役目でしょ?」
「クッ・・・・仕方ないだろう、ディアッカ」
「アスランへのライバル意識も、それぐらいにしておいた方がいいんじゃないか
  イザーク、おまえが一兵士なら俺もこんなこと言わないけど、隊長なんだぜ?」
「別にアスランなどどうでもいい・・・・!」
「ま、いいさ。説教臭いのは俺の趣味じゃない。にしても本気で議長、戦場に出るのかねぇ・・・・
  ハイネの旦那もいるし、大丈夫だろうけど」
「さぁな・・・・・。確かに議長が戦場にいれば、士気が上がるのは確かだが・・・・・
  万が一のことがあっては、な」

イザークはまた、サザビーネグザスを見つめた。真紅のシルエットを持ち、並のMSよりはるかに巨大なそれは、
見た目からして強そうだった

それにしても気になることがある。なぜ、いきなりデュランダルはMSに乗るなんて言いだしたのか
議長専用機としてサザビーが完成したせいだろうか。しかし、ミネルバで前線を慰問していた頃は、
一度もMSに乗りたいなどとは言い出さなかった

それだけが、イザークにとっての違和感だった

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ヤタガラスはオーブのドックで補修を受けていた
目立った外傷はないが、数度の激戦を潜り抜けてきている
目に見えないところも、あちこち痛んでいるのだそうだ

ヤタガラスのMSも総点検を受けている。DXだけが積荷の扱いで、ドックの片隅に放置されていた
DXの残骸にかけられた白い布が、痛々しい

「で、もう一つアカツキにはパックがあるわけか?」

キッドがシンに聞いてくる。アカツキも今、補修を受けているところだ

「ああ。アカツキは大気圏用のオオワシパックのほかに、宇宙戦用のシラヌイパックがある」
「でもよ、シン。このシラヌイパックって、ドラグーンシステムを採用してるじゃねぇか
  おまえニュータイプ能力・・・・じゃねぇや、空間認識能力がねぇから、使えないんじゃないか?」
「まぁな。でも、アカツキのドラグーンは、レジェンドやストライクフリーダムみたいに大気圏で使えるように改良されてないけど、
  オオワシは宇宙でも使える。別に問題はないよ。まぁ、無理矢理OSを改良すれば、
  空間認識できなくても使えるらしいけど・・・・・俺の性には合わないな」
「うーん。じゃあ、シラヌイパックは没だな。パイロットが使えない上に宇宙専用じゃ、しょうがねぇや」
「でもストライクフリーダムには劣るよなぁ・・・・アカツキ。
  アカツキもフォースインパルスとかと比べて、頭三つぐらい抜けてるMSだけどさ・・・・・」

シンはアカツキを見上げた。基本設計は二年前に行われたMSだが、その能力はセカンドシリーズを大きく上回っている
しかしコストがバカ高いため、結局この一機しかアカツキは造られなかった

「元々、守りのMSだからな、アカツキは。しかしストライクフリーダムに性能で負けてるのは確かだなぁ・・・・
  ちょっとそれが気にいらねぇや」
「そういえば、DXの修理はまだメドが立たないのか?」

シンが気になっていることを聞く。捕獲したレオパルドとヴァサーゴはDXと同じ世界のMSなので、
装甲を流用すれば修理できるはずだった

「いや、壊れてるヴァサーゴの装甲引き剥がす許可が降りねぇからな。ちょっとぐらいパクッてもばれないとは思うけど、
  DXはちょっとのルナチタニウムじゃどうにもなんねーし」
「じゃあ、ヘブンズベースはDX抜きでか・・・・」

大西洋北部アイスランドにある、ヘブンズベース基地の攻略作戦が発令された
ヤタガラスにも参戦要請が来ていて、シンもそちらに向かうこととなっている
ただ、かなりの兵力がヘブンズベースにあるらしく、ちょっとやそっとでは攻略できないだろう

DXのサテライトキャノンがあればだいぶ楽になるが、仕方なかった
それにガロードはあまりサテライトキャノンを撃ちたがらない

シンは、周囲を見回した。Dインパルスや、グフなども補修を受けている
その横にはカオスとガイアがハンガーに固定されていた
連合艦隊にあったものを、オーブは接収したらしい

ガシャン

「は?」

一瞬、シンは目が点になった。なんとガイアが動き出したのである
わーわーと、整備員が右往左往している

『うぇーい』

ガイアのスピーカーから不吉な声が聞こえた。シンは頭痛を感じて、頭を押さえる

「アカツキ使うぞ!」

吐き捨て、急いでアカツキのコクピットにシンは乗り込む。チェックをいくつかはぶいて、
大急ぎでMSを起動させた。それからドックを壊さぬように慎重にアカツキを動かして、ガイアを捕まえる

「バカステラ! なにやってるんだ!」
『うぇーい・・・・・』
「うぇーいじゃない! 問題を起こすなよ! ステラがヤタガラスにいるのだって、
  本当はいけないことなんだぞ!」
『・・・・・・シン。だって、ステラも・・・・・シンを守りたい・・・・・』
「ステラ! ・・・・・・」

少しシンは言葉に詰まった。悪気があってやったわけじゃない。それはわかる
しかし立場上は民間人であるステラが、勝手にMSを動かしていいわけではない

「痴話喧嘩はそれぐらいにしろ、シン」

不意に拡声器を通した声が聞こえた。シンがアカツキのコクピットから地面を見ると、
拡声器を手にしたアスランがいる

「艦長・・・・・」
「シン、ひとまず降りて来い。ステラ、ガイアは勝手に動かすな、元に戻せ」
『うぇい・・・・・』

アスランがたしなめると、ガイアはおとなしく元いた場所に戻っていった
シンはそれを見届けると、アカツキのコクピットから降りてアスランの前に立つ

「かわいいものじゃないか。おまえのことを守りたいなんて」
「・・・・・ありがた迷惑ですよ。こんな勝手なことして・・・。それに、ステラを戦場に出せるわけないじゃないですか」
「それはどうかな」

アスランは笑う。しかし、シンの血相は変わった

「まさか、ステラを戦場に出せって言うんですか! 冗談じゃないですよ!」
「同じことだろう。ヤタガラスに乗っている以上、ステラにも死の危険はつきまとっている」
「・・・・・それは詭弁ですよ! 艦長、まさか本気でステラをMSに乗せる気ですか!?」
「俺は軍人で、指揮官だからな。戦力が多い方がいいと考える。それだけさ」
「そんなバカな!」
「強制はしない。書類上は民間人のステラに、命令なんかできないからな
  ただ、シン。ステラの意見も尊重してやれ。一方的な愛情の押し付けが、本人のためになるとは限らない
  ステラの、おまえを守りたいという想いは、本物だろうさ」

言い残して、アスランは去って行く。やがて、アスランは、カオスのそばにいる軍人らしい男と話し始めた
顔を見たことがある。イアンとかいう、降伏した連合軍人で、ネオの副官だった男だ
立場上、イアンは捕虜のはずだが、見たところ拘束などはされていないようだ

ガイアから、ステラが降りてくる。いつの間に着替えたのか、パイロットスーツ姿だった
いたずらを母親に咎められた子供のように、しょんぼりしていた

「シン・・・・・」
「ダメだろ、あんな勝手なことしちゃ! 怪我人とか出なかったからよかったものの・・・・
  一つ間違えたら大惨事だぞ!」
「う・・・・」

ステラがじわっと、大きな瞳に涙をためている。なんだか自分がひどく悪いようなことをしている気分に、
シンはなった。愛娘をしかる父親も、同じ気分なのだろうか

「・・・・・ガイアに乗りたいのか?」

できるだけ声を荒立てないように、ステラへたずねる

「・・・・・うん」
「ドクターと相談して、GOサインが出たら、いいよ」
「ほんと・・・・?」
「でも、約束してくれ。絶対に無茶するな。それから絶対に死ぬな。いいね?」
「死ぬ・・・・あ・・・・・。・・・・・・まもる・・・・。うん・・・・・わかった。約束、する」

死ぬとつぶやいた時、少しステラがおかしくなりそうな気がしたが、
シンがじっと見つめるとその気配も消えた

「ああ。俺も、ステラを守るって、約束してる。その約束を守るから、ステラもいいね?」
「うん・・・・げんまん」

すっと、ステラが小指を差し出してきた。シンは、それで思い出す
初めてステラと出会った時、初めてステラと話した時。夜のガルナハンで、交わした指切り

「覚えて・・・・たのか」
「うん。約束。シンは、ステラをまもる・・・・。だから、ステラも、シンをまもる・・・・」
「大丈夫。俺は強いよ、ステラ。だから約束だよ、君は死なないで」

言って、シンはステラと小指をからませた。

「ゆびきりげんまん」
「うそついたらハリセンボンのーます」
「ゆびきった・・・・」

シンが指を離すと、ステラはじっと自分の小指を見ていた
それから小指をさも大事なもののように、きゅっと抱きしめている
その仕草がなぜかひどく色っぽく感じられて、思わずシンはどきりとした

「おいこら。二人の世界を作るのはいいけど、動かしたアカツキ、さっさとハンガーに戻せよ。みんな見てんぞ」
「うっ・・・・」

キッドがシンの尻を軽く蹴る。顔を赤くして、シンはアカツキに乗り込んだ

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オーブ軍の演習場を、地響きたてながら白いザクが走っている

『ほらほら、もう一周! ペースが落ちてるわよ!』
『・・・・しかし凄い適応力だな・・・・』

空中ではDインパルスとグフが、浮遊している。ルナマリアとレイは、ガロードの教官だった
とにかく手っ取り早くザクに慣れようと、ガロードのブレイズザクファントムは体育会系のように、
演習場を走っているのだった

「たー、クソッ! 走るだけってのも結構疲れるな・・・・!」

ガロードがザクのコクピットでぼやく。とにかく早いうちにザクを自分のものにしないと、
命の危険さえあった。最悪、ザクでレジェンドとやりあう可能性だってあるのだ

『じゃあ、行くわよ。あたしたちは攻撃するから、避けなさい!』
『行くぞ、ガロード』

Dインパルスとグフがペイント弾を構えていた
ザクはあわてて方向転換する

「なっ、いきなりかよ!」
『敵は待っちゃくれないわよ!』

そしてグフとDインパルスは散開し、ザクを空中から挟み撃ちしてくる
さすがに二人とも歴戦のパイロットだけあって、動きに無駄がなかった

「なろっ!」

ペイント弾が降り注いでくる。あわててザクを動かし、前方へ飛び込みながら一回転、それを避けた

『うわ・・・・。私、前転するザクって、始めて見た・・・・』
「なめんな、このッ!」

前転するとすばやく起き上がり、ザクはペイント弾を空中のDインパルスに放つ
しかしビームシールドであっさりと受け止められた

瞬時に、ザクが身を沈める。その頭の上を、演習用のビームサーベルが通過した

『・・・・やるな、ガロード』
「ヘッ・・・・!」

いつの間にか接近してきていた、グフがビームサーベルを構えている
ザクはそれを確認する間もなく、思いっきり地面を蹴り上げて、土をグフの顔にかけた

『くっ・・・・・』

これでメインカメラはつぶした。即座にグフに足払いをしかける

ガキン!

しかし、ザクの足が跳ね返された。グフを転ばせるには、パワー不足なのだ

パン・・・・ビー!

空中からDインパルスの狙撃を受け、ザクの演習用アプリケーションが敗北を伝えてくる
背中をビームライフルで貫かれ、死亡というところか・・・・

『残念でした。ザフトの赤服二人相手に、格下のMSで勝とうなんて甘いわよ』
「あー、畜生! DX乗ってた時のクセが抜けねぇや・・・・。ザクの出力、頭に入れねぇと・・・・」
『でもはっきり言って無茶よ? いくらなんでもザクで、私のDインパルスとレイのグフに勝てるわけないじゃない』
「いや・・・・・これぐらいやらねぇとな」

その気になったレジェンドは、はっきり言ってレイやルナマリアを同時に相手するよりずっと強い
キラ・ヤマトの乗ったストライクフリーダムと同等と、見ておいていいだろう
それを、あくまでもコクピットを破壊せずに倒さなければならない。至難だが、文句を言っていられなかった

ただ、いざとなったらレジェンドとは、レオパルドで戦おうと思っていた
アスランはクライン派を気にして、エターナルに触れることを嫌がっているが、ティファの命にはかえられない

グフ、Dインパルス、そしてザクがオーブのドックへ帰還する。もう夕陽が沈んでいた
そろそろ夕食の時間だ

ガロードがブレイズザクファントムのコクピットから降りる。怪我もだいぶよくなってきていて、包帯は外していた

そのまま足を食堂に向けようとする。しかし、レイだけが進行方向が反対だった

「おい、レイ。メシはいらねぇのか?」
「ああ・・・・・。ちょっと食欲がなくてな」
「食える時に食わねぇと、後がつれぇぞ? ・・・・っと、ここはAW世界とは違うんだったな」
「いや、正論だ。俺たちはあまり、食べ物をありがたいとは思わないからな・・・・」

レイはそう言ったものの、足を食堂に向けることはなく、ドックから出て行く
なんとなくその足取りに影があると、ガロードは思った

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ユウナが閣僚を抑えているのか、一向に裁判が行われる気配がない
正直なところ、ユウナを甘く見ていたのかもしれない
プラントの息がかかった閣僚の意見は、ことごとくユウナに抑えられていた
こうなれば、強硬手段だろう

レイは軍事施設の地図を確認した。一般兵はエターナルクルーがどこに閉じ込められているのかわからないが、
ヤタガラスのクルーは知っている。アスランが教えたからだ
おそらく、アスランはエターナルクルーをどうこうしようとする人間が、ヤタガラスにいるとは考えていないのだろう
それは信頼ではなく甘さだと思ったが、理由もある。隔壁が何重にも降りていて、
これは一部の人間しか通れないようになっているのだ。当然、レイは隔壁のパスワードを知らない

だが、食事は一日三回、専用エレベーターで配給される。そこには無論、隔壁はない
狙うのはそこで、夕食時の今が最大のチャンスだろう

レイは毒殺を考えていた。ラクスの部屋は監視カメラがガードしていて、それはバスやトイレも例外ではないだろう
ラクスのプライバシーは完全に剥奪されているが、同時にこうやって危険も遠ざけられている
ならば直接潜入しての殺害は論外で、食べ物に毒を混ぜるしかない

ただ、問題はどうやって毒を入れるかだった。まず、レイ自身が疑われることを避けなければならず、
加えて確実にラクスだけを殺さねばならない。間違って別の誰かを毒殺したら、以後、毒に対する警戒は厳しくなるだろう

(手は一つ、か)

確実にラクスの飲食物を知る方法。それは、ラクス自身に自分が夕食を届ければいいのである
要するに、食べ物をレイ自身が専用エレベーターに送ればいいのだ

問題は一連の作業を、いかに見つからずやるか、だ

レイは髪の毛を束ね、用意していた女性用のオーブ軍服に着替える
それから胸にパットを入れ、薄く化粧をして、女に化けた
顔が女と見間違うほど整っている、レイだからこそできる芸当だった

売店で、ハンバーガーを買う。それから注射器を取り出し、毒を食べ物に注入する
それを持って、施設に向かった。偽造した身分証を胸からぶら下げる

「・・・・・・・・・」

地下にラクスが閉じ込められている施設には、何人かのオーブ兵がいたが、だらけきっていた
ラクスがここにいると知らない者たちばかりなのだろう。情報の封鎖は、こういう弊害も生む

レイはかすかにうつむいたまま、専用のエレベータに向かった
やはりラクスがここにいることを隠すため、専用エレベータはロックをかけられていない
しかし、ラクスの階層へのボタンが、エレベータには見当たらない
さすがに、無警戒というわけではなかった

レイはかすかに迷った。エレベータを調べている時間もないし、そんなことをすれば怪しまれる

(ここは思い切るか)

レイは周囲を見回す。情報封鎖しているとはいえ、ラクスがここにいることを知っている人間が、
必ずいるはずだ。そしておそらくそいつが、ラクスへ食事を配給している

いた。一人、あくびをしているが、目は油断なく、そしてなにかを待っているオーブ兵がいる
思い切ってレイはそいつに近づき、耳元でささやく

「代理です。ラクス様へ」

それだけを言うと、オーブ兵は驚いたように目を見開いた

「いつものヤツは・・・・?」
「怪我をしました。私が代わりに」
「そうか。今、開ける」

怪我をしたという嘘を確認もせず、兵士がエレベータのパネルを叩く
終戦が近いのでどこかがたるんでいるのか、信じられない甘さだとレイは思った
いざという時は誘惑してこの場を離れさせ、しめあげて、エレベータを開ける方法を聞こうと思っていたのだ

レイはエレベータに毒入りのハンバーガーを入れた

「質素だな?」
「たまにはラクス様も、こういうのが食べたいでしょう?」

声色を使って、レイは笑う。完璧に女を演じている自分が恥でもあるが、
こういうことができるのは自分だけだとも、思った

エレベーターが閉じる。レイはオーブ兵に礼を言うと、すぐにその場を離れた
施設を出て、早足でドックに戻る。それからトイレに飛び込み、女装をやめた

ウー、ウー、ウー

緊急を告げるサイレンが鳴る。成功を確信して、レイはほっと息を吐いた

「やりました。褒めてください、ギル・・・・・」

デュランダルに、よくやったと頭をなでられる自分を想像して、レイはぽぉっと頬を紅潮させた