クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第040話

Last-modified: 2016-02-16 (火) 00:02:56

第四十話 『グゥレイトォ、懐かしいぜ』
 
 
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デストロイからビーム砲が次々と放たれてくる
横に平行移動することで、それを避けた
同時にファンネルをコントロールし、無防備なデストロイの足下にビームを集中させる

ドォォン!

足を破壊され、デストロイが尻餅をつく。即座にサザビーネグザスは飛び跳ね、
盾からマイクロミサイルの雨を降らせた。デストロイのコクピットが、爆発する

(反応は悪くない・・・・)

デュランダルはかすかに、息があがる自分を感じた。シュミレーターはあきるほど繰り返したが、
本格的な実戦は始めてである。いきなりデストロイ五機と戦うことに不安はあったが、
これぐらい倒せなくて、という気持ちもあった

OSを改良して、素人でも扱えるようにしている、というのは嘘である
しかしサザビーは自分の手足のように動いてくれていた

残るデストロイはあと二機である。ファンネルに意識を集中させ、トリッキーな動きをさせる
陽電子リフレクターが展開される前に突っ切れば、デストロイは無力化する

「行け、ファンネル」

シュンッ!

ファンネルが二方向にわかれ、デストロイのリフレクターを突破する
同時にビームが放たれ、一気にデストロイの二機は爆発した

(初陣にしては、上々か・・・・)

デュランダルはデストロイの破壊を終えると、戦場から背を向ける
後は制圧戦が残っているだけだった

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ヘブンズベースは寒い。アイスランドという地名もうなずけるような寒さだった

「ぶぇっくしょい! うー・・・・寒い・・・・」

ハイネは派手にくしゃみをした。震える肩を抱きながら、とぼとぼ雪原を歩いていく
吹雪がすごい。その後ろを、イザーク、ディアッカ、シホがついてきている

「畜生・・・・なぜ俺がこんな目にあわねばならんのだ・・・・」
「へーへー。ザクの暖房壊したの隊長さんでしょ」
「うぐっ・・・・」
「隊長・・・・どうか気にしないでください。私は寒いのは平気で・・・・クシュン!」

後方で、シホがくしゃみをしている。無理もないとハイネは思った
ここにいる全員が、温度調節されたプラント育ちなのである
コーディネイターはナチュラルに比べて体が強いと言われるが、育った環境は温室だった

気温は氷点下だろう。それもマイナス10度以上はあるかもしれない
MSに備え付けられた携帯カイロを体に入れているが、
本格的に友軍と合流しないと、まずい

サザビーネグザスによってデストロイは撃破されたため戦況は変わったが、
まだ激しい戦闘が繰り広げられている。そこへ生身飛び込めば、死にに行くようなものだ

「あー! 『FAITH』が北のへき地で野垂れ死になんて、シャレにならねー!」

ハイネは一度、思いっきり叫んだ。そうでもしなければ凍えそうだ

「その・・・・すいません・・・・。俺が突出しなければ・・・・」

しょんぼりした感じで、イザークが謝ってくる

「そうだ、イザーク。おまえなにか芸をしろ。少しは暖かくなるかもしれん」
「は・・・? ゲイ、ですかハイネ・・・?」
「字が違う!」

※ヤタガラスのMSデッキ

「ハックション!」
「ん? レイ、風邪か? アイスランド冷えるからなぁ。それにしても・・・アカツキ出なくていいのか?」

するとディアッカが、イザークの肩に抱きつく

「無理ですぜ、上官殿。イザークに芸なんかできるわけがねー」
「ええ。私も隊長のそういうところ、見たことありません」

ジュール隊の二人が言う。なら、多分できないのだろう

「な、バカにするな! 俺だって芸の一つや二つ!」
「じゃあやってみてくれよ、イザーク」

ハイネが意地悪く笑うと、イザークはかすかに顔を紅潮させた
しかし覚悟を決めたように深呼吸し、右手をぴしっと伸ばして、口元まで持ってくる

「あ、アイーン・・・・・」
「「「・・・・・・・・・・・」」」

ビョォォォォ・・・・・吹き付ける吹雪が激しくなる

「これは旧世紀の芸人、ケン・シムラが得意とした一発芸でですね・・・」
「あー、その、イザーク。うん、おまえはよくやったよ」

ぽんぽんと、ハイネがイザークの肩を叩いた、その時だった

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・!

不意に地鳴りがした。気のせいではない。地面が大きく動いている
かと思った次の瞬間、いきなり地面が急斜面に変わった

「うっ!?」
「なっ!」
「うぉっ!?」
「きゃっ!?」

「「「「なぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!??」」」」

ごろごろごろごろ・・・・・四人は束になって、雪の斜面を転がっていく

「と、止まった・・・・。おーい、おまえら無事かー?」

雪だるま一歩手前の状態で、ハイネは起き上がった。幸い、三人とは離れていない

「あいたたた・・・・いったなにが起こったんですか・・・?」

腰をさすりながら、シホが起き上がっている。イザークは、雪の中へ頭から突っ込んでいた
それをディアッカが引きずり出している

「ん? 友軍の降下部隊か・・・?」

ハイネが空を見上げた。大気圏を突破してきたザクたちが、編隊を作って降りてきている
ちょうど、ハイネたちがいるところへだ

「グゥレイトォ、助かったぜ! おーい!」
「おい、ちゃんと最後まで引き抜けディアッカ・・・!」

雪に埋もれたままのイザークを放置して、ディアッカが空のザクへ手を振っている

しかしハイネは、空ではなく地上を見た。地面が動いた場所を、である

「これは・・・・!」

なんと雪原の中から、巨大な施設が顔を見せている。それは超巨大なパラボラアンテナのようで、
無数のミラーが配置されていた

(対空掃討砲ニーベルング・・・・!)

ザフト諜報部がつかんだ、ヘブンズベースに配置されているはずの兵器である
ただ、どこに配置されているのかまではつかめなかった。無理も無い
地面の下に、隠れていたのだ。威力は凄まじく、軽く一個中隊を破壊するという

「赤の信号弾だ、誰か持ってないか!?」
「わ、私が・・・・」
「貸せ!」

危険を報せるための赤の信号弾を、ハイネはシホからひったくる。すぐさまそれを空へと放った

ひゅるるる・・・・パン

間抜けな音をたてて、赤い花火があがる。それを確認した降下部隊のザクは、少し戸惑ったが、
横へ大きく逃げ出していた

ドシュゥゥゥゥ!!

次の瞬間、ニーベルングから凄まじいエネルギーが放たれる

「伏せろ!」

ハイネは、シホとディアッカの足をひっかけて転ばせ、すぐに自分も身を伏せた
イザークはすでに雪にうもれているので心配は無い

衝撃で暴風が起こり、吹き飛ばされそうになる。雪が、体を守ってくれているが、
それでも気を抜くと魂まで飛んでいきそうだった

少しして、ようやく暴風がおさまった。ハイネは体から雪を払って起き上がった
幸い、降下部隊のザクはやられなかったようだ

「いやぁ、ハイネ殿。見事な判断ですけどねぇ・・・・俺たちの救援、どうなるんですか?」
「ディアッカ。友軍がやられるよりマシだろう・・・・ぶぇっくしょい! 
  ええい、もうこうなったら自力でどうにかするしかないか!」

「隊長・・・・大丈夫でしょうか?」
「すまん、シホ。ええい、クソッ・・・・・」

シホに雪の中から引きずり出され、イザークが起き上がる。顔が真っ赤だった
しかし体に異常はないようだ

「すぐに移動するぞ。信号弾使ったからな、警備の兵が・・・・・ん?」

ハイネがつぶやくと同時に、少し離れた場所の丘が動いた。同時にそこから警備兵が四人、出てくる

(隠し扉か・・・・)

どうやらヘブンズベースは全体的にカモフラージュされているようだと、ハイネは身を隠しながら思った
ジュール隊も続いてくる。少し小高い丘に移動して、足下で警戒に当たっている警備兵を見つめた

「あの警備兵の服、奪えませんかね?」

イザークが、ハイネの横に移動してくる

「俺もそう考えていた・・・・。しかし、できればあの基地にも潜入したいな
  うまくいけばダガーの一機も奪えるかもしれん・・・・」
「そうですね・・・・。ここまで来たら、手土産の一つも欲しい・・・・」
「よし、シホ。行け」

いきなり振り返り、ハイネが告げる。シホはきょとんとした顔をしていた

「私・・・・ですか?」
「男より女の方が油断するんだ。一回、あいつらに捕まえられてくれ
  そうしたら、あいつらも引き上げるだろう
  俺たちはその後をつけて、基地の扉が開いた瞬間、あいつらを倒す」
「しかし・・・・・」
「俺からも頼む、シホ」

イザークが言うと、シホは仕方ない、という感じでうなずいた

「早く助けてくださいね」

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基地の隠し扉が開いた瞬間、ハイネ、ディアッカ、イザークは襲い掛かった
無論、周囲に人がいないことを確認しての蛮行である

「あー、臭いなこれ・・・・。こいつら風呂入ってるのか?」

気絶した警備兵を物陰に隠し、着替えながらハイネはぼやく

「入ってないんじゃないですか。・・・・ちょっと大きいかな。よしっと」

ディアッカが真っ先に着替え終わる。イザークとシホが、躊躇していた
体臭がきついせいだろうか

「なにやってるんだ、早くしろ」

ハイネが急かすと、二人は覚悟を決めて着替えだした。四人とも、メットを深くかぶる
ようやくそれで変装が終わった

ただ、変装しているといっても、できるだけ人目には触れない方がいいだろう
四人はうつむき加減に銃を背負い、基地の中へ入っていく

基地の中は格納庫のようで、ウインダムが多かった。ザムザザーといったMAも見える
ただ、デストロイは見当たらない。あの五機ですべてだったのだろうか
格納庫はあわただしく、兵士たちはせっせと働いていた。誰もハイネたちを気にしない

(議長・・・・)

ハイネはふと、考える。ほとんど数分で、サザビーネグザスはデストロイ五機を撃破した
途方も無い強さである。おそらく、機体性能のおかげだろう。
あれなら、戦場に出ようと思うのも仕方ない・・・・・が、やはり釈然としない
MSに乗って暴れまわるというのは、断じてギルバート・デュランダルの流儀ではないと思うからだ

それにもう一つ、気になることがある
『ファンネル』、である。確かに、OSを改良することで空間認識能力を持たない人間も、
ドラグーンシステムを使えるようになった。しかしOS操作のドラグーンは単調な動きしかできないはずだ
ところがファンネルは、意識を持ったように動く。サザビーのOSとはそれを可能にするほど、優れているのだろうか

「奪っていくとしたら、ウインダムですかね?」

ディアッカがやってきて、ハイネの耳元でささやく

「そうだな。俺はMAを実戦で動かしたことがないからな・・・・ザムザザーとかは無理だろ」
「OSの書き換えとか、面倒ですけどね。まぁ、任せてください」
「前大戦でバスターガンダムを奪ったんだったな?」

ハイネが言うと、ディアッカはにやりと笑った。こういうことには慣れていると言わんばかりだった
それから、全員の携帯端末を確認して、すぐにでもザフトのOSをダウンロードできるようにする
そんな時だった

「おい、おまえたち!」
「はっ!」

整備の主任らしき人間から、声がかかる。ハイネは動揺を押し隠して、敬礼した。他の三人もそれに習う

「地下の、切り札の発進を急がせるよう、言ってきてくれ! デストロイがやられた以上、あれを出すしかない!」
「・・・・・はっ!」

ハイネは敬礼し、足を回す。三人もついてくる。思わず笑みがこぼれそうになった

階段を下りていく。急に人が少なくなった。それでもハイネは警戒しつつ、小声で三人に告げる

「地下についたら、分かれるぞ。各個にMSを奪取、OSをクイックでインストしたら、
  すぐに識別信号をミネルバ所属に変えろ。まずは、外に出る」

言いつつ、地下につく。扉を開けると、人はかなり少なかった

「これは・・・・・」

思わず、ハイネは息を呑んだ。四機のMSがそこには存在している
どれも美しく、そして見るからに素晴らしいMSだった。隣を見ると、イザークとディアッカも目を丸くしていた

「まさか、ここで再会するとは・・・・」
「グゥレイトォ、懐かしいぜ」

タッ!

しかし無駄話をしている場合ではなかった。すぐに四人は分かれ、おのおの目標のMSに向かう
ハイネは、大型のブースターを背負った黒いMSに向かった

「あ・・・・どうした?」
「ご苦労さん・・・・フンッ!」

ハイネはコクピットを整備している兵士の腹を殴りつけ、一瞬で気絶させる
それからMSへ乗り込み、すぐにOSの書き換えを行った。電源は入っており、いつでも動ける
OSを書き終えると、コクピットハッチを閉め、ミネルバの識別信号を入力した

「へぇ・・・・・。確か、地上でザフトとやりあったこともあるMSだよな、これ・・・・
  そいつがここにやってきたのか、それとも二番機か・・・・。わからないけど、いただいてくぜ!」

ハイネは一連の作業を終えると、MSを起動させる。同時に、他の二機も起動した
いきなりのことに、連合兵は叫び声をあげ、逃げ惑っている

「そっちはどうだ! イザーク、ディアッカ、シホ!」
『イザーク・ジュール! 問題ありません!』
『ディアッカ・エルスマン! オッケーですぜ! 早く試してみたいねぇ!』
『シホ・ハーネンフース・・・・ダメです! これ、非武装の上に、自動操縦です!』 

シホが叫ぶと、すぐにイザーク機が動き、シホへと手を差し伸べた

『こっちに移れ!』
『すいません、隊長!』

イザーク機が、シホをコクピットに収納する。それを確かめると、ハイネはもみ手をして、操縦桿を握った
コクピットのパネルに、MSの名前が走る

(さぁ、行こうか、マイハニー!)

一方的なな求愛宣言をして、ハイネはMSを歩かせる。それから逃げ惑う連合兵を尻目に、
ビームライフルを引き抜き、格納庫の出口へ放った

ドォォン!

扉が爆発し、地下の格納庫から、雪で埋もれた銀世界が見える。ハイネは大きく息を吸い込んだ

「ハイネ・ヴェステンフルス、ストライクノワール! 出るぜ!」

『イザーク・ジュール、ブルデュエル! これはいただいていくぞ!』

『ディアッカ・エルスマン、ヴェルデバスター! 同じくもらってくぜ!』

そして強奪された三機は、吹雪舞うアイスランドへ飛び出した