クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第041話

Last-modified: 2022-08-17 (水) 16:55:14

第四十一話 『お初にお目にかかりますってな!』
 
 
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雪原に舞い降りる、三機のMS―ーストライクノワール、ブルデュエル、ヴェルデバスター。
それを追撃せんと、ウインダム達がやって来る

「チッ、追ってきたか! 連合にしちゃなかなか速い…!」

ハイネはストライクノワールのコクピットでにやりと笑った。

(久しぶりだ。今までは退屈な護衛任務ばかりだったが、昔はこういう修羅場に身を置いていた)

強奪した機体で、敵と戦う―ーその事にハイネの中の蛮性が、獣となって咆哮をあげる。
肌がひりつくような爽快感があった

『ハイネ、連携を仕掛けましょう! この三機は、そういう運用を想定されています!』
「よし、イザーク! ディアッカもだ。まずは一斉砲撃、行くぞ!」

ストライクノワールの羽を起動させ、翼に内蔵された2連装リニアガンの発射形態を取る
同時に両手へ二丁拳銃、ビームライフルショーティーを構えた

ブルデュエルも盾に内蔵された機動レールガンを構えている
ヴェルデバスターも二本のライフルを連結させ、さらに両肩のランチャーを敵に向けていた

迫る、ウインダムの編隊。唇をなめ、ハイネはまた笑う

「行けッ!」

ドォォォン!

放たれる、三機からの一斉砲撃。瞬時にウインダム隊は撃滅した

『グゥレイトォ! さっすがバスターの弟だぜ! すっげぇ火力!』
『このデュエルは・・・・近接戦闘に特化しながら、砲戦もできるのか!』
「二人とも、驚いている場合じゃない! アレを破壊するぞ!」

ハイネは叫び、視線を地面へ移した。『対空掃討砲ニーベルング』。この妖怪を排除せねば、
勝利は決定しない

『敵の増援です! ウインダム、20! ザムザザー、2!』
 
シホの叫び声が聞こえる

「なるほどなぁ! やすやすと切り札をやらせちゃくれないってわけか! ディアッカ! 
  おまえ一機でニーベルングをやれ! バスターなら、ニーベルングの射角を外れても砲撃できるだろ!」
『ちぇっ! 気楽に言ってくれますねぇ! じゃあ、増援部隊は頼みましたよ!』

ヴェルデバスターが射線を取るべく、小高い丘に移動する。やや遅れて、吹雪の空からMSとMAの影が見えた

ストライクノワールの対艦刀、フラガラッハを引き抜く。対艦刀にしては珍しく二本あり、二刀流が使える
同じくデュエルも、二本のビームサーベルを抜いた

「心配するなぁ、ディアッカ! ちゃんと守ってやるよ! さぁ、派手に踊ろうぜ!」
『了解ッ! シホ、しっかりつかまっていろ!』

ストライクノワールとブルデュエルが、剣を構え、跳ね飛ぶ。ブルデュエルには純然たる飛行能力は無いが、
かなりスラスターが強化されてるらしく、空中戦が可能なようだった

ザシュゥ!

やってきたウインダムに、二本の対艦刀を叩き込み、三枚におろす
瞬時に方向を変え、かかとに内蔵されたアンカーを射出、ウインダムを拾い上げ、斬り捨てる

「いいねぇ、俺との相性抜群だぜ、ノワール!」

こちらへ砲撃せんとしたザムザザーをあざわらうかのようにブーストをかけ、後方へ回ると、
翼のリニアガンを放った。こうなれば陽電子リフレクターも間に合わない。ザムザザーが爆散する

ドォォォン! ドォォォォン!

ヴェルデバスターがニーベルングへ砲撃をかけている。ウインダムはそちらへ攻撃せんとするが、

『フン! この程度かぁ!』

ウインダムのビームを、ブルデュエルがシールドで受け止める。ストライクノワールが対艦刀で叩き落す
この二機は不落の壁となり、ウインダムへ立ちふさがっていた

ザシュゥゥ!

最後のウインダムを、ストライクノワールが斬り捨てる。同時に、ニーベルングも爆発した

『グゥレイトォ! 任務完了!』

ディアッカの上機嫌な声が聞こえる。ふっとハイネは笑って、ストライクノワールで着地した

「よかったなイザーク。失態を取り返せて」
『いえ・・・・今回のことでは世話に・・・・ン、なんだシホ・・・・? これは・・・・?』

イザークの声色が変わった

「どうした?」
『いや・・・・・アンノウン一機確認・・・・これは・・・・・ニコル・・・・? デスティニーです!』
「・・・・・!」

デスティニーはヤタガラスを襲撃してきた、所属不明の敵性機体である
詳細なスペックは謎に包まれており、しかも能力はかなり高いと聞く
しかも乗っているのは、ユニウスセブンを落とそうとし、カガリを暗殺したニコルだという

『・・・・・どうしますか!?』

シホが叫ぶ。ハイネは一瞬、迷った。デスティニーのスペックはわからないが、
レジェンドと共にDXを破壊したほどの猛者なのだ。ならば・・・・

「シホ、レジェンドの機影は見えるか?」
『いえ・・・・・。レーダーに映っているのは、デスティニーだけです!』
「・・・・・イザーク、ディアッカ、意見を言え」
『はっ! イザーク・ジュールは、攻撃すべきと考えます。ヤツはユニウスセブンを落とそうとしました
  いかに元ザフトとはいえ、敵です!』
『同じく、ディアッカ・エルスマン。相手のスペックもわからず、こっちも機体のすべてをつかんでいません
  孫子にいわく、敵を知らず己も知らざれば、必ず敗れる。撤退すべきと考えますが?』

ハイネは少し考えた。ニーベルング破壊と、三機のガンダム強奪ですでに戦功は得ている
これ以上、戦うのは蛇足だろう。しかしどうしてもニコルが気になった
彼が起こしてきた一連の事件は、誰の利益になっているのかさっぱりわからない
おぼろげに、黒幕はロゴスかも知れないと思っているが、確証は無いのだ

「・・・・・討とう、デスティニーを」
『『・・・・・・・』』
「デスティニーの存在は、世界に不幸をまき散らす。ザフトは関係なく、あれは倒さなければならない敵だ
  放っておけばまたデスティニーは、世界に不幸を生み出す。・・・・・全機続け!」
『『了解!』』

ストライクノワールが地面すれすれを飛ぶ。ヴェルデバスター、ブルデュエルが続く
雪のせいで視界が悪く、目の前が見えない
だが、ブースターを噴かしていると、やがて翼を持った一機のMSが見えてきた

すぐにストライクノワールは、高エネルギービームライフルを構え、放つ

ドォン!

命中した、と思ったが、デスティニーはすんでのところでシールドを展開し、防御していた
奇襲の失敗を確認したハイネは、国際救難チャンネルを開く。同時に、イザークとディアッカにも指令を出した

「イザーク、ディアッカ! 
  俺が国際救難チャンネルで呼びかけるが、隙が出たら攻撃しろ! 卑怯だと思うな!
  ・・・・・こちらザフト艦ミネルバ所属、ハイネ・ヴェステンフルスだ。デスティニー、所属と姓名を名乗れ!」

するとデスティニーは、ゆっくりとした動作でこちらを向いてきた

『チィッ・・・・。ネズミさんが、集まってうじゃうじゃと・・・! ・・・・・クッ!』

瞬間、ブルデュエルがビームサーベルで、デスティニーに斬りかかっていた。

(仕掛けが早いぞ、イザーク・・・!)

少しハイネは心中で舌打ちする。イザークは優秀だが、血の気が多すぎるのが問題だと思った

ストライクノワールは二本の対艦刀、フラガラッハを引き抜き、構えた。こうなれば力押しで圧倒するしかない

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イザークの頭に、どこかで裏切られたという想いがあった
正直に言えば、生前のニコルを自分はバカにしていた。軍人として軟弱だと思っていたのだ
それでも心のどこかで、認めていたのだ、ニコル・アマルフィを

ブルデュエルのビームサーベルが、デスティニーのビームシールドと押し合う

「ニコル・・・・! なぜおまえは・・・・おまえはザフトを裏切った・・・・!」
『イザークですかぁ!? あはははは、おかしなことを言いますねぇ! 
  アスランだってザフトを裏切ってるじゃないですか! よりにもよって、ジャスティスなんていう切り札と一緒にねぇ!?』
「それは・・・・・! くっ!」

ビームシールドで押し切られた。出力はデスティニーの方が上だ

『伏せろ、イザーク!』

ディアッカの声。ブルデュエルが身をかがめると、その上をビームが通過していく
しかしそれも、デスティニーのビームシールドで受け止められた

『シールドを無力化するしかないかッ!』

ストライクノワールが飛び、フラガラッハを叩き込む。なんとそれも受け止められた
デスティニーはとんでもないことに、左右両方の腕にビームシールドを装備しているらしい

ドォン! そのままデスティニーの体当たりを受け、ストライクノワールがひっくり返る

『あはははは! デスティニーを、運命を、なめるんじゃないですよッ!
  くつがえせないから、変えられないから、絶対だから『運命』なんですってばぁ!』

瞬時にデスティニーが方向転換する。死神の目線。隣のシホが、激しく呼吸するのが聞こえた
同時に、イザークも自分の息が荒くなっていることに気づく。しかし、恐怖を噛み潰した

「死神にでもなったつもりか、ニコルッ!」

ブルデュエルがシールドに内蔵されたレールガンを構え、放つ!

ドォン!

しかし命中はしたが、ほとんどダメージを受けていないようだ

(VPS装甲・・・・? ザフトの技術?)

一瞬、イザークの中に戸惑いが生まれた。デスティニーはザフト製なのか。ロゴスのMSではないのか

『はははは、まったく・・・・・ちょっと数をそろえたら、僕に勝てるとでも思いましたかァ!?』

デスティニーが疾風の機動でブルデュエルに肉薄し、右肩のシールドをつかむ。そう思った瞬間、デスティニーの手が光った

ドォン!

「なっ・・・・!?」

デスティニーにつかまれたシールドが、一瞬で粉々になった。半壊したレールガンが傷跡をさらす
なにが起こったのか、イザークには理解できなかった

『お聞きしましょうか、イザーク! 本当に、裏切ったのは誰なんですかねぇ! 
  本当に許せない人間って、誰なんですかねぇ!? 覚えておいてくださいよ!
  人間は勝利者になったら、嘘も裏切りも、そして人殺しもすべて許されるんですよ・・・・!』
「・・・・チッ! ユニウスセブンを落とそうとしたヤツが・・・・偉そうにッ!」

倒れそうになるブルデュエルはかろうじて踏みとどまり、
両腕に内蔵されたビームハンドガンを構え、デスティニーに放つ

ドォン、ドォン!

至近距離だったため命中したが、いかんせん威力が抑えられたビームのためか、
ほとんどデスティニーはダメージを受けていない

ヒュン・・・・・・。瞬間、デスティニーの体にいくつものワイヤーが巻きついた

『調子に乗るなよ、ゴースト!』

デスティニーの後方、ストライクノワールが、両手から数本の特殊ワイヤーを放っている

『・・・・・よし、イザーク、デスティニーはこれで動けない・・・・砲撃するぜ!』
「任せろ!」

ヴェルデバスターが両肩にキャノンを乗せ、両腕に大型ビームライフルを持っている
ブルデュエルも両腕のビームハンドガンを構え、連射体勢を取った

『うふふふ・・・・あまぁい・・・・・!』

ドォォォォ!

ヴェルデバスターとブルデュエルが攻撃する。数条のビーム砲。しかしそれは、あっけなくかわされた

「なっ・・・・!?」

なんとデスティニーは、ワイヤーを巻きつけたまま空中に移動したのだ
ストライクノワールはそれに引きずられるように、宙へ浮いている。とんでもない出力だった

『邪魔ですよぉ・・・・・! それっ!』

デスティニーが両腕のビームシールドを開放する。それで、あっけなくワイヤーは切れた
ストライクノワールが無様に雪原へ叩きつけられる

それからデスティニーは、巨大な対艦刀、アロンダイトを引き抜き、構えた
イザークは思わず息を呑む。あれをまともに食らえば、即死だろう

「ニコル・・・・・!」
『あはははは・・・・・。まぁ、イザークもディアッカも、僕の復讐ランキングの中では割と優先順位が低いので・・・・
  せいぜい苦しませずに殺して差し上げましょうか? よかったですねぇ?』
「復讐だと・・・・・! なんのためにそんなことを・・・!」
『馬鹿ですねぇ・・・・・。あなたたちに・・・・・あなたたちに僕の気持ちが・・・・・わかってたまりますかぁ!!
  世界を・・・・・あの日ね、あの日ね、キラに殺された僕はねぇ・・・・! 地獄に落ちたんですよぉぉぉおぉ!!』
「クッ!」

やはり風のような機動で、デスティニーは迫ってくる。攻撃力と機動性、防御力を両立させた機体
運命の名を借る、死神。イザークは死を覚悟し、思わず目を閉じた。シホを付き合わせたのが、心残りだった

ドシュゥゥゥン! シュン、シュン、シュン!

瞬間、何十発ものビームが、ブルデュエルの後方、空から、デスティニーめがけて放たれた
即座にデスティニーは急ブレーキをかけ、ビームシールドでそれを受け止める

『誰ですかぁ!?』

ニコルの叫び。イザークも後ろを振り向いた

青い、本当に蒼い戦闘機だった。いや、戦闘機ではない。それは空中で静止すると、変形し、MSになった
                エ ア マ ス タ ー
『誰ですか・・・・って? 空 の 王 者 だよ。お初にお目にかかりますってな!』

空の王者と名乗った、その青いMSは、静かに戦場へ舞い降りた