クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第044話

Last-modified: 2016-02-16 (火) 00:08:19

第四十四話 『カガリは今、泣いているんだ』
 
 
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デスティニープランを提示されたとき、ユウナは胃が痛くなった
デュランダルは狂ったのかと、本気で思った。国民全員に遺伝子解析をして、
あらためて職業を斡旋するなど、途方もない大作業である
かかるコストは尋常ではない。国家予算を大幅に使うこととなる上に、、経済も混乱する

それに最大の問題がある。オーブはコーディネイターとナチュラルが共存している
もしも能力別に職業をふりわけたりしたら、ナチュラルの待遇が悪くなるのは確実だった
正式にデスティニープランを導入したら、オーブは常に暴動の火種を抱えるのと同じである

バカげた話だった。しかし真っ向からプラントにものが言えるほど、オーブの軍事力は高くない
それにまだ、戦争が終わったわけでもなかった。形だけでも、もうしばらくはプラントに従わねばならないだろう

「ふーむ、異世界か・・・・。しかし凄い話だねぇ・・・・。正直、現実味がないと言うか・・・・」

昼食である。ユウナはフォークでステーキを切りながら、口に運んでいた

「まぁ、信じてもらえるとは思ってねぇけどよ。うわ、この肉、すげぇやわらけーな!」

ガロードが目の前で、不器用な仕草のままステーキを食べている
フォークとナイフの使い方は、MSの扱いほどうまくないようだ

ガロードから異世界の話を聞いてみた。荒廃した世界、滅びかけた人類
想像のつかない話だが、事実だとアスランからも聞いていた
ガンダムダブルエックスという途方もない兵器が、その証拠だ

「DXの修理はできないのかい?」
「ん? あー、代表さんからもアスランに言ってくれよ。ほら、エターナルって戦艦捕まえただろ?
  そこに、ぶっ壊れたガンダムヴァサーゴってMSがあるんだけど、そいつの装甲引き剥がしたら、 
  DXの修理ができるんだよ」
「ふーむ・・・・・」

少しユウナは腕を組んだ。正直に言えば、DXは魅力的である。それがもしもオーブのものになれば、
プラントの圧力もかわしやすくなるだろう。なにしろ、DXは一個師団をたやすく殲滅できるMSなのだ

下手にエターナルへ手を出せば、クライン派を刺激することになるかもしれないと思ってるが、
取引のやりようはあるかもしれない。ラクスはもう、目を覚ましたのだ

(ラクス・クラインと会うか・・・・・)

ラクスと話し合い、ガンダムヴァサーゴの装甲となにかを取引する。できない話ではない
それに、囚人と国家元首の取引なら、どっちが有利かは明白だ

「なぁ、代表さん?」
「ああ。わかった。なんとか、ラクスと交渉してみよう。僕としてもDXをそのままにしておくのはもったいない・・・・」
「よっしゃ! さすがは代表さん、話がわかるぜ!」
「ティファって子を、助けたいんだって?」

ユウナが食事をする手を止めて聞くと、ガロードは少し戸惑ったようにうなずいた

「ああ。俺は、ティファを助けてぇ。悪いけど、それしか考えられねぇんだ」
「フッ・・・・。素直だなぁ、君は。こういう時は、オーブに恩返しの一つもするって、言うものだけどね」
「悪ィな。そこまで頭がまわんねぇんだ、今・・・・」
「そうか。しかしうらやましいなぁ。好きな子のために、すべてを投げ出して戦うのか、ガロードは・・・・・」
「え? あ・・・・うらやましいかぁ?」

ガロードは複雑な顔つきで、ほおをぽりぽりかいている

「ああ。僕もそう在りたいと思ったことがあるんだよ。好きな子のために、英雄になる
  僕にはそれが、とても魅力的なことに思える・・・・・」 
「そう・・・・かな・・・・? 俺はいま、それどころじゃねぇけどよ・・・・」

昼食を終え、ユウナはガロードと別れた。それから溜まった仕事を片付ける
午後の会議が二時からあり、それまでに一通りのことを済ませておきたかった
亡命者の問題が課題で、今、仮設住宅を作っているが、間に合わない
オーブ軍を出動させて、キャンプを設置させるのが精一杯だった

(ひどい赤字になりそうだなぁ・・・・)

ユウナは予算表を見てため息をつく。とにかく戦争は金がかかる
オーブ防衛戦や、タカマガハラの創設には莫大な金がかかっていた
それに加えて、今回の亡命者対策である。デスティニープランどころではなかった

(デュランダルへの言い訳はこれにするか)

予算表を机の上に置く。資金がなく、デスティニープランの早期導入は難しい
この返事で、プラントからの圧力をかわすしかなかった。時間を稼げば、状況も変わるだろう
とにかくバカげた話なのだ、デスティニープランは

「ここでしたか」

不意に、代表室へ父のウナトが入ってきた

「父上」
「父上などと、呼ばないでください。あなたはアスハ代表です」

ウナトがそんなことを言う。それは父なりのけじめ、なのだろう。プライベートではこんな言葉遣いはしないが、
公けの場では、ウナトはユウナに敬語を使っていた

「・・・・ウナト、どうした?」
「ネズミがまぎれこんでいますな。閣僚や、軍のあちこちに・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

諜報部から報告はあがっていた。どうも、オーブの国内には不信な影がある
ただ民間にそういう影があるのなら、警察を張り付かせておけばいい話だが、
厄介なのは軍や閣僚の内部にそれがあることだった

「ネズミ退治は、老人がします」

ウナトがはっきりと言う。それは、手を汚すということだろう
こういう諜報戦は、おおむね陰惨なことになりやすい

「・・・・・プラントや、クライン派を刺激しない程度に、お願いします」

言外に、ネズミを見つけても処刑などはせず、追放にとどめておけとユウナは言ったつもりだった
ウナトはうなずくと、代表室から出て行った

早めに執務を終わらせ、ユウナは代表室から出る。車を用意させた
午後の会議までに、ラクスと会っておきたかった。早めに、DXを修理したい

病院にたどり着く。MSの周辺警備は続けられていた
ラクス暗殺犯の行方は相変わらず、まったくわかっていない
護衛を引き連れ、建物の中へユウナは入っていく。軍関係の病院で、一般の患者はいないが、
それでもユウナが姿を見せるとあたりはざわついた

それから、医者に案内され、病室に入った。ラクスの体調は悪いが、話すことはできるし、意識もはっきりしているらしい
それは彼女が毒に耐性を持っていたこともある。少し、そういう風に遺伝子をいじられていたらしい

「初めまして。オーブ連合首長国代表首長、ユウナ・ロマ・アスハです」
「・・・・・・ラクス・クラインですわ」

意識を失っているラクスは見たが、こうやって起きて話すラクスと会うのは初めてだった
彼女は上半身を起こし、顔をこちらに向けている。表情には凛としたものがあり、引き込まれそうだった

(なるほど、救国の歌姫か)

こうやって病床についていてなお、ラクスはカリスマを感じさせる。それは、ユウナにないものだった
自分は、地道に仕事をして、国民に嫌われるぐらいしかできない

「かなり顔色はよくなられたようですね。一時期は、本当に死人のようで、心配しておりました」
「なんの御用ですの、『セイラン』代表?」

思わず、ユウナはかっとしそうになった。すでに公式的にもユウナは、アスハ家を継いでいる
しかしわざわざセイランの名を出すというところに、露骨な悪意を感じた
つまり彼女は、ユウナのアスハ家継承を認めていないということだ

「・・・・エターナルのMSを一機、オーブにいただけませんか?」

不機嫌をかみ殺し、ユウナは告げる。怒ったりすれば、ラクスのペースに巻き込まれるだろう

「ええ、構いませんわ」
「助かります」

意外にあっさりと返事が来たので、ユウナはほっとするより逆に警戒した
当たり前だが、いきなりMSをよこせと言われて、素直によこす馬鹿はいないだろう
だからユウナも、あらかじめいくつかの交換条件を用意していたのだ

「MSは、いくらでもお使いください、セイラン代表。エターナルもお使いになられて構いません」
「・・・・・・・・・」
「プラントから、デスティニープランというものが、提案されたそうですわね?」

いきなり、なにを言いだすのだとユウナは思った。そして、誰がそんなことを教えたのだ
この監視された病院で、ラクスは情報を得ることなどできないはずだ。いや、ネズミがいるのだろう、病院にも
ユウナは腹立たしくなった

「ラクス氏には関係のないことです。今は、ゆっくりと体を治してください」
「関係ない、などとどうしておっしゃることができるのです? 大問題ではありませんか? 
  デスティニープランとは、人の未来を奪う計画です」
「とにかく、ヴァサーゴを引き取らせていただきます。では、午後の会議がありますので・・・・」

雲行きが怪しくなってきたので、ユウナは帰ろうとした
それにあまりラクスに時間を割けないのも事実だった
その時、だ

「お待ちください」

ラクスの声が、ユウナの背中にぶつかる。それだけだった。それだけで、ユウナの足は止まってしまった
まるで声が見えない手になり、ユウナの足にからみついたかのようだった

(これが・・・・ラクス・クライン・・・・・)

ユウナは、額に汗が流れるのを感じた。覚悟を決めて、ラクスの方へと振り返る

「なんでしょうか?」
「セイラン代表。なぜ、おわかりにならないのですか? 今、世界は未曾有の危機に襲われているのです
  もしもデュランダル議長がデスティニープランを導入すれば、人々の未来は失われてしまうでしょう
  オーブはなぜ、それを阻止しようとなさらないのですか?」
「なにを・・・・」

ユウナは反論したいのだが、うまく言葉が出ない。頭がぽぉっとなって、思考がまとまらない

「人には未来があります。自分で選び、つかみ取る自由な未来が 
  その自由を、デュランダル議長は奪おうとしているのですよ? オーブはそれを許してよいのですか?
  ヴァサーゴを接収するのは構いません。エターナルもストライクフリーダムも、必要ならば差し上げましょう
  ですが、あなたは正義のために戦われるべきです」
「あ・・・・・」
「よろしいですか? つい先ほど、スカンジナビア王国がザフトによって制圧されたそうです
  デスティニープランの導入を拒否したがゆえに、です。これは暴虐以外のなにものでもありません
  このようなことを、許しておいてよろしいでしょうか? 従わぬ者は討つ
  そういう傲慢をわたくしたちは放っておいてもよろしいのでしょうか?」
「う・・・・・・・・」

ラクスの声が、頭に入り込んでくる。スカンジナビアの制圧は初耳だった。
真実なら、確かに、デュランダルのやっていることは許せるものではない
ならばそれと戦うのが、人の道、正しい道、なのだろうか・・・・・だが・・・・・

「どうか、人々の未来のため、立ち上がってください、セイラン代表
  あなたは自由を奪う者と戦われるべき方なのです。カガリさんもそれを望んでいます」

カガリ・・・・カガリだと・・・・・?

ユウナの頭が、少しだけはっきりした。そして軽く息を吸い込み、吐き出す

「知ったことではありませんね。世界の未来など」
「え・・・・?」
「僕にとって、守るべきものはオーブしかない。オーブ国民が一人も死ななければ、他国の民が何万死のうと、
  どうでもいい。いいですか、勘違いしないでください、ラクス・クライン
  国は僕のおもちゃじゃない。そして、オーブは正義の味方でもなんでもない」
「あなたは・・・・よくそんなことを平気で・・・・」
「ただし!」

ユウナは、ラクスをにらみつけた。そうしなければ、心が折れてしまいそうだった

「・・・・・・・・」
「例え他国の民だろうと、オーブを頼って逃げ込んできたなら、僕はそれを守ります
  なんとしても、守ります。それがオーブという国の存在意義であり、僕の仕事なのです
  ラクス・クライン。オーブの理念を一つ、お教えしましょう

 他国を侵略しない

 これは、絶対の基本事項です」
「侵略などと言っている場合ではありません・・・・。現に、スカンジナビア王国は制圧されたのですよ」
「失礼、時間です。どうか妄言はそれぐらいにして、お休みください、ラクス・クライン」

言い残し、ユウナはラクスの病室から出た

扉が閉じる。ユウナは、その瞬間、倒れそうになった。あわてて護衛たちが支えてくる
ひどく神経がすり減ったのを感じた

(とんでもないな・・・・・ラクスって・・・・・)

はっきりと反論できた自分が、嘘のように思える。もう一回ラクスに同じことをやれと言われても、もう無理だろう
ただ、カガリという言葉を聞いた時、少し力がわいた

「もしかして、守ってくれてるのかい、カガリ?」

ユウナはつぶやいてみる。返ってくる言葉は、なかった

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夜の病院。再び、キラはラクスに会っていた。ラクスの顔にはかげりがある
もちろん、体調のせいで顔色は悪いが、理由は別にあった

「ラクス、あまり落ち込まないで」
「ですが、キラ・・・・・。オーブが動いてくれなければ、世界は・・・・・
  デュランダル議長は、デスティニープランのために、世界を自分たちのものにするつもりです
  このままではいずれオーブも、スカンジナビア王国と同じように滅ぶでしょう
  なぜ、ユウナ代表はそれがお分かりにならないのでしょうか・・・・」
「うん。困ったね・・・・・。かといって、ロゴスを応援するわけには、いかないしね・・・・」

キラは、じっと自分の手を見つめた。その奥で、流れている血。それを想う
手は、一つだけ残されている。だが、非常の手段だった

「キラ。わたくしたちにしか、デュランダル議長は止められませんわ」
「・・・・・・・・・・」
「なら、きっとわたくしたちが戦うしかないのでしょう。デスティニープラン、成就させるわけにはいきません
  そうですわね、ミーアさん?」

ラクスが言うと、そのかたわらに座っていたミーアがうなずく

「はい、ラクス様。ラクス様の言うとおり、議長は恐ろしい人です
  私も、このままじゃいけないって思います・・・・・」
「わたくし、ミーアさんには感謝していますわ。ミーアさんが教えてくださらなければ、
  デスティニープランのことはよくわからなかったですもの」
「そんな・・・・! 私、悪いことしちゃいましたから。ラクスさんや、キラさんに・・・・・」

するとラクスは、ゆっくりとミーアの頭に手を伸ばし、なでた。それだけの仕草でもラクスは辛そうだが、
誰も止めることはできない

「ミーアさん。アスランのこと、好きなんですね?」
「・・・・・・はい」
「大丈夫ですわ。大丈夫。アスランは、仲間ですもの。今は少し、道を見失っているだけ
  いいですか、ミーアさん。アスランは優しくて、仲間想いで、とてもいい人ですわ
  あなたはいい人を好きになりましたの・・・・・。だから、とても幸せですわ」
「ラクス様・・・・・」

そう告げるラクスを見て、キラの決意は固まった

「そうだね、僕たちが戦うしかないんだ。残されたのが、僕たちだけなら、ここで逃げるわけにはいかない」
「キラ・・・・・」
「ラクス、君の立つ場所は僕が作る。人々の未来のため、僕は戦う
  カガリも、きっとそれを望んでいると思う」

キラは決然と告げる。もう、迷いはなかった。いつか、シンという少年に言われた場所
自分が、キラ・ヤマトが本当に働ける場所。それがここだと、ようやく気づいた

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ガロードはほくほく顔で、エターナルから運び出されるヴァサーゴを見つめていた
これでようやく、DXの修理ができるのである

(待ってろよ、ティファ!)

気分が引き締まる。今度は、絶対にレジェンドには負けない。その覚悟があった

「代表さん、サンキュな!」

同じく、エターナルからの搬出に立ち会っているユウナに、ガロードは告げる
ユウナは肩をすくめて、首を振った

「ま、礼はいいから、機会があったらオーブを守ってくれよ、ガロード?」
「おう、このガロード・ラン様にどんと任せとけって! MSが何百機攻めてこようと、
  DXと俺とで追い返してみせるぜ!」

言って、ガロードは振り返る。こうなれば一刻も早く、DXを修理したい
だから港にあるガロードの高速船へ、DXを積み込んでいた
あとはヴァサーゴのパーツを積み込み、アイスランドにいるヤタガラスと合流したかった
修復は、キッドにしかできない

「さて、はえぇとこヴァサーゴを船に運びこまねぇと・・・・」

ガロードはつぶやきつつ、ザクに乗り込もうとした。その時、ユウナの側近がやってきて、こそこそと耳打ちしている

「大気圏を降下してくるMS? なんだそれは? オーブに向かってきてる・・・・?」

ユウナの顔色が変わっていく。ガロードの鼻が、異常の匂いをかぎつけた
なにかがくさい。港は平和そのものだが、戦いのにおいがする

不意に、ムラサメが一機、こちらにやってくる・・・・ビームライフルを構えていた

(・・・・・・・・!)

瞬間、ガロードは素早くコクピットに滑り込み、ブレイズザクファントムを起動させた

「俺の勘違いだったら後で謝るけどよぉッ!」

がしゃぁぁぁん!

同時に、思いっきりムラサメめがけて体当たりをかました。ムラサメは体勢を崩し、ビームをあらぬ方向に発射する
ユウナがへなっと、その場に崩れ落ちた。すばやくガロードはそれを拾い上げ、コクピットに導く

「う、撃った・・・? オーブのMSが、僕を攻撃してきた・・・? ど、どうなってるんだ・・・・?」

かたかたと震えながら、ユウナはザクのコクピットシートにしがみつく

「なんかおかしいぜ、コレ・・・・・。なぁ、ユウナさん! オーブはどこか一番安全だ?」

言いながら、ガロードは周囲を確認した。M1アストレイが三機、新しくこっちに向かってきている
目標はユウナ、と考えた方がいいだろう
DXならどうということはない相手だが、ガロードが乗っているのはザクだった
一機だけならまだしも、三機が相手となると撃墜される恐れがある

「オーブ宮殿に向かおう・・・・・。あそこの近くにはオーブ軍が常駐している。急いでくれ!」
「ああ! 畜生! ヴァサーゴを運び込んでねぇってのに・・・・ッ!」

ガロードのザクはM1アストレイに背を向け、走り出した。道路を一直線に突っ切り、オーブ宮殿へ向かう
ルナマリアやレイに、さんざんザクで走らされた成果がここで出た。人生、なにが役に立つかわからない

「どうなって・・・・なにが起こってるんだ、オーブに・・・・・」

呆然とした面持ちで、ユウナがつぶやく。すでに、あちこちで戦闘が始まっており、
M1アストレイやムラサメが、戦っていた。しかし、どちらも同じオーブ軍である

「なにか思い当たることねぇのかよ!? このやろッ!」

しつこく追いすがるM1アストレイめがけて、闇雲にミサイルを放つ。当たりはしなかったが、けん制にはなった

「僕に対するクーデター、か・・・・・? いや、でもいったい誰が・・・・。僕に不満を持つことはできても、
  僕に代わるような政治家は、父上しかいないはず・・・・・」
「ヘッ。あのラクスとかいう人じゃねぇのか!」

ガロードが言う。冗談のつもりだった。しかし、ユウナの顔色がさらに悪くなる

「そうか・・・・・。ラクス・クライン・・・・・いや、キラ・ヤマトだ・・・・」

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ザクは無事、オーブ宮殿にたどり着いた。幸い、ここはオーブ正規軍で固められていて、反乱軍を寄せ付けていない
戦況も有利なようだ。ほっとして、ユウナは宮殿の中へ入った。ガロードにもついてくるように言ったが、断られた
なにか、やることがあるらしい

急いでユウナは地下の作戦室に向かった。ここは緊急の指令所兼、シェルターになっている

中に入ると、タケミカズチ艦長のトダカ一佐や、父のウナトがすでにいた

「トダカ、状況は?」
「はい。おそらく、現政権に対するクーデターと思われます。首謀者は不明ですが・・・・・」
「とにかく、今は鎮圧が先だ。トダカ、タケミカズチを出せるか?」
「はい」
「出してくれ。それと、ありったけのMSも。相手は多分、キラ・ヤマトだ・・・・」

ユウナが言うと、トダカの顔色が変わった

「なんですと?」
「僕に不満を持つ奴は多いけどね。僕に取って代わろう、なんて考えるのは一人だけだよ
  先日、ラクスと僕は話したけど、彼女はオーブ軍でザフトと戦えと言ってきた
  もちろん、断ったけど・・・・彼女は本気だったね
  首謀者は多分、ラクス・クラインだ。そして旗印は、カガリの弟、キラ・ヤマトだよ」
「なんと・・・・! 急ぎます。全オーブ軍に対し、スクランブルをかけます」
「トダカ。アスランに連絡はしたか?」
「はい。アイスランドから全速力で向かい、あと三時間ほどで、こちらに着くそうです」
「三時間か・・・・・。わかった、行け!」

ユウナが言うと、トダカは敬礼して去って行く。それからすぐに戦況を確認した
予想通り、反乱を起こしているのは諜報部がクライン派と判断した将校たちである
幸い、さほど数は多くなく、このままなら制圧できるだろう

だが、それはあくまでも現状ならば、だ。大気圏を降下してくるMSというのも気になる
目の前の敵がすべてと思わないほうがいいだろう

ただ、ヤタガラスさえ帰ってくればこちらのものだった。DX抜きとはいえ、あれに勝てる軍は、まずない

作戦室のモニタには、外の状況が映し出されている。戦局は正規軍有利で、少しユウナは安心した
しかし街中で戦っているのである。民が死なない、というわけにはいかないだろう
それを考えると、ユウナの胸は張り裂けそうになった。とてもカガリに顔向けできない

「すみません、代表。私の失策です」

いきなり、ウナトがそう言って頭を下げた

「ちちう・・・・いえ、ウナト。なにを?」
「ネズミをあぶりだすつもりが、追い詰めてしまったようです。私も老いました・・・・・」
「いえ、今がネズミをあぶりだす、いい機会です。そう考えましょう。それに、ラクスが反乱に失敗すれば、
  クライン派の名誉は地に落ちます。うまく立ち回れば、オーブはクライン派の力を吸収できるかもしれません」
「・・・・・不屈ですなぁ、代表は」

ふと、ウナトの声が濡れているように聞こえた

ドォン! ドォン!

「・・・・・・!?」

不意に、宮殿が揺れた。何事かと思い、モニタを見つめる。MSが、オーブの空から降下してきていた
しかも見たこともないMSだ。白色で、全体的に丸みを帯びている。そのMSが、オーブ宮殿へ攻撃を加えていた

オーブ正規軍が、降下部隊へ応戦する。幸い、降下部隊の数はそれほどでもない
数の有利で押し切れるとユウナが思った矢先、とんでもないことが起こった

(・・・・・・え?)

なんと、ムラサメが放ったビームが白いMSに直撃したのだが、MSは平気な顔で降下してくる
見間違いかと思ってユウナはよく目をこらしたが、間違いない
次々とビームが命中しているが、白いMSにはろくなダメージを与えられていないようだ

「クラウダ」

ウナトがつぶやく。ユウナは、怪訝そうな顔をしてそちらを見た

「クラウダ?」
「クライン派が極秘に製造していたMSです。量産機ですが、破格の性能を持っていると、
  諜報部ではつかんでいました。が、詳細まではわからず・・・・・。おそらく、これがそうなのでしょう」
「クラウダ・・・・・」

クラウダという白いMSが、次々とオーブの大地に着地する。ひどく国が汚された気分に、ユウナはなった
だが、その想いとは裏腹に、クラウダの列は進む。オーブ正規軍も応戦するが、破壊されていった
同時に流れ弾を受け、市街にも被害が出ている。モニタに、逃げ惑う市民たちが映っていた

ドンッ

ユウナは思いっきり、机を叩いた

「なにをしているんだ、オーブ軍! それでも栄光あるオーブ軍かッ! 民を護れッ!
  オーブを護れッ!」

しかしその叫びもむなしく、次々とムラサメやM1アストレイはクラウダによって撃破されていく
無残な屍をさらす、オーブのMSたち。ユウナは、見ていられなかった
ここに立っているだけでも辛かった。そしてこの現実が、信じられなかった

そして現実は、一機のMSが登場することで、さらに痛みを増した

「ストライク・・・・・フリーダム・・・・・。奪取、されたのか・・・・」

ゆっくりと、ストライクフリーダムは大地に舞い降りる。翼を広げたその姿は、見るものをぞっとさせる
そして次の瞬間、ストライクフリーダムは起動し、ビームライフルやサーベルで、オーブ正規軍を破壊していった
コクピットへの直撃は避けられているが、頭や腕を飛ばされたMSの残骸は、かえって痛々しい

「お逃げください、代表」

父のウナトが、ユウナの肩を叩く。一瞬、なにを言われたのかわからなかった

「逃げる・・・・? 逃げるって?」
「我々の負けです」
「ま・・・・け・・・・・?」

信じられなかった。つい数時間前まで、オーブは平穏だったのである。それがどうすれば、こうなってしまうのか
いや、そもそも逃げるとはなんなのか。ユウナ・ロマ・アスハが生きる場所はオーブではないのか

「代表、お逃げください。戦況はすでに決定しております。それゆえ、
  港に出航した、タケミカズチまでひとまず。それから、他国に亡命なさってください」
「亡命だって・・・・・? どうして・・・・・そんな・・・・・オーブを見捨てて・・・・・
  もうすぐ・・・・もうすぐアスランが来るのに・・・・」

呆然としながらユウナがつぶやく。その肩をばしっとウナトが叩いてきた
なぜか、これが父の手だと、ユウナは思った

「いいですか、代表。あなたがおられる限り、オーブはそこにあるのです
  あなたがいる限り、オーブはオーブでいられるのです」
「僕は・・・・・・」

するとこちらをじっと見ていた、ウナトの顔が優しくなった。そう思った瞬間、父の目から涙が噴き出した

「なぁ・・・・・。大きくなって、立派になったなぁ、ユウナ」
「父上・・・・・」
「おまえの将来だけが、心配だったんだ。いつまでたっても甘ったれで、カガリと結婚するって言っても、
  へらへらとした性格が抜けなくて・・・・。でも、本当に立派になったなぁ・・・! なぁ、おい!
  ユウナ・・・・ユウナ・・・・」

ぶるぶると震える手で、ウナトはユウナの肩をゆさぶる。その両目から、ただ涙が流れている
そうか。別れなのだ。ここで、自分は父と別れるのだ。なぜかそれだけが、はっきりとわかった

「父上・・・・・」
「ユウナ・・・・・。おまえの顔をよく見せてくれ。ああ、息子だ。おまえは、確かに私の・・・自慢の、息子だ」

言いながら、ウナトはユウナを抱きしめた。自分が、父より背が高くなったのはいつ頃だろうか
思い出せない。気づくと、ユウナも泣いていた

「も・・・・申し訳ありません・・・・父上・・・・。僕は、僕は自慢の息子なんかじゃ・・・・・
  オーブを・・・・・オーブを戦火に巻き込んで・・・・民を殺して・・・・あ・・・・うっ・・・・うぐっ・・・・・」
「そんなことはない。ユウナ。おまえは、シーゲル・クラインや、パトリック・ザラ、
  あるいはウズミ・ナラ・アスハやギルバート・デュランダルなど比べ物にならぬほど、立派な政治家になれる」
「あ・・・・? うっ・・・・ひっく・・・・・そんな・・・・無理、無理です・・・・。僕には・・・・・」
「大丈夫だ。なぜなら、ユウナ。おまえは凡人だからだ。凡人だからこそ、おまえは誰よりも努力した
  この戦乱の世で、オーブは平和だった。それはユウナ、おまえがやったことだ
  おまえという天才でもなんでもない、ただのナチュラルが、平和を作ったのだ
  努力して努力して、誰よりも努力してな。それを誇れ、ユウナ。私の自慢の息子よ」

言って、とんとユウナの体を押し、ウナトは離れた。もう父は泣いていない
ただ、厳しく優しい父が、そこにいるだけだった

「さぁ、もう行け、ユウナ」
「父上も一緒に・・・・・!」
「ならん! ラクス・クラインや、キラ・ヤマトがオーブを奪ったということを、私は民に教えねばならんのだ
  誰かが、この反乱を非難せねばならん。それは老人の役割だ・・・・」
「父上・・・・!」
「さらばだ、ユウナ。達者でな・・・・・。連れ出してくれ」

ウナトが言うと、ユウナの体にオーブ兵がまとわりつく。そして無理矢理、ユウナは作戦室から連れ出された

「この・・・・ッ! 一人で歩けるッ!」

乱暴にユウナは涙をぬぐって、オーブ兵の手から逃れると、走り出した。そして宮殿の裏にまわる

「急いでくれ! この白いMS、やたらと硬ぇッ!」

ガロードの乗っているのは、赤色のMSだった。ザクではない。それが、ユウナへ手を差し伸べていた

外ではオーブ正規軍が、必死に反乱軍やストライクフリーダムと戦っている。しかし絶望的な戦いだった
もう、時間稼ぎでしかない。

ガロードに導かれ、コクピットにユウナは乗り込む。それから、ついてきたオーブ兵に顔を向けた

「おまえたちも早く逃げろ!」

しかしオーブ兵は、ユウナを見て、満足そうに笑っただけで、宮殿へと引き返していく

「そんな・・・・・。死ぬ気・・・・か・・・?」
「ユウナさん! しっかりつかまっててくれよ! ロックを外して、エターナルからかっぱらってきたのはいいけどよ!
  俺、このレオパルドを動かしたことねぇんだッ! ちょっと荒っぽいことになるぜ!」
「クッ・・・・・! つっ・・・・・クソッ! クソッ!」
「早く! 俺はどこへ行けばいいんだ!?」
「港へ・・・・港へ向かってくれッ! タケミカズチと合流するッ!」
「わかった!」

ユウナが叫ぶと、ガロードはレオパルドを急発進させた
空を飛べないMSだが、かかとにローラーがついてるらしくかなり早い。みるみる道路を突っ切っていく

『降伏してください! オーブ兵、降伏してください! どうか、死なないでください!
  これ以上の抵抗は無意味です! 命を無駄にしないでください! 僕は、キラ・ヤマト・・・・・
  カガリ・ユラ・アスハの弟です! カガリの弟として、不当な手段でオーブの首長となったユウナ氏を糾弾し、
  正当なオーブの後継者を主張するものです・・・・!』
 
キラ・ヤマトがストライクフリーダムから、国際救難チャンネルで呼びかけている
ユウナは怒りと、情けなさで頭がどうにかなりそうだった

「悔しいのは、俺も同じだよ、代表さん」

ガロードがつぶやく。はっと、ユウナは顔をあげた

「・・・・・・・・・・」
「俺、頭悪いから、うまくいえねぇ。でも、キラはきっとやっちゃいけねぇことをしたんだ
  一線を越えちまった。・・・・・でも、今は勝てねぇ」
「わかってる。だから、僕はなんとしても生き延びる」
「よし、上等ォ! どけぇぇぇぇッ!」

レオパルドが、立ちふさがるM1アストレイめがけてビームの雨を降らせる
それを受け、M1アストレイは爆発した

なぜ、味方同士で戦っているのか。今は、その疑問すら遠い。とにかく、生き延びることだった

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オーブ宮殿の外、銃声や爆発が止んだ。オーブ正規軍が完膚なきまで敗北したのだ
しかし、ユウナを乗せたMSは、無事に逃げ延びたようだ

ウナトは静かに作戦室の扉を開けた。胸に、一丁の拳銃をしのばせる
オーブ宮殿のあちこちに、負傷したり、あるいは戦死したオーブ兵の姿が見える
誰も、こんなことは予想していなかっただろう。今日、反乱を起こした者たち以外は

「よい天気だな・・・・まったく」

ウナトは笑って、外に出た。宮殿の外では、クラウダやムラサメが整列している
その中央で、兵士に守られながら、一人の女性が座っていた。ラクス・クラインである

オーブ兵たちはウナトの姿を見つけると、一斉にこちらへ銃を向けてきた
しかしそれを、ラクスが腕をあげて制する

「ウナトさん。勝敗は決しました。降伏してください」
「くっくっく・・・・・降伏? 小娘、よく聞こえなかったが?」
「降伏してください。これ以上、血を流す必要はありません
  わたくしたちの目的は、カガリの弟であるキラを、オーブの代表に戻したいだけなのです
  それが正しい道なのですから・・・・。そして、デュランダル議長の野望を止めるため、
  共に戦いましょう。ですから、降伏してください・・・・・」

ラクスは凛とした瞳でこちらを射抜いてくる。しかしウナトは、大笑いに笑ってやった

「はははは、はっはっは! 笑わせるなよ、小娘! そしてよく聞け、オーブを裏切り、
  この小娘についた愚か者たちよ! 私はオーブ国宰相、ウナト・エマ・セイラン!
  盗賊に許しをこうほど腐ってはおらぬわ!」

一気に言うと、ウナトは拳銃を引き抜いた。次の瞬間、反乱兵たちが銃を構え、一斉に放ってくる
ウナトの体を、何度も何度も、銃弾が貫いた。血が、全身から流れ出る
しかし思ったより、意識ははっきりしていた

「なぜ、わかってくださらないのですか、あなたたちは・・・・・。共に手を取り合い、生きる未来もあるというのに・・・
  世界に危機が訪れているのに、なぜ自分たちのことしか考えないのですか?」

ラクスの声が聞こえる。また、ウナトは笑った。しかし笑い声は出てこなかった

「貴様は人を殺し、破壊し、国を盗んだ盗賊だ。ラクス、貴様は薄汚い盗賊なのだ。
  どれほどの理想を掲げようと、どれほど美しい世界を目指そうと、貴様が盗賊であるという事実は消えん・・・・
  そして、オーブは盗賊などに負けはせんのだ。
  覚えておれ。いつか、貴様は、オーブに倒される・・・・・ククク・・・
  貴様の父、シーゲルもあの世で嘆いてるだろうな!」

再び、ウナトは拳銃を構えようとする。しかしうまく腕が動かない
そう思った瞬間、体が倒れていた。せめて一太刀。このテロリストに、一太刀
だが、どれだけ念じても体は動かなかった

(ユウナ・・・・・・・・)

ふと、思い出した。そうだ、ユウナが自分の背を追い越したのは、16の時だ

「子供が育つのは・・・・早い・・・・ものだな」

かすれた声でつぶやく。しかし、それが声になったのかどうか、ウナトにはわからなかった

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ガロードはレオパルドで港までくると、すぐにドックに隠しておいた高速船へ飛び移った
降りて、船の操縦席に行く余裕はない。レオパルドで高速船の上に乗ったまま、遠隔操作するしかなかった

「クソッ! 追ってきやがったか!」

高速船が海に出る。レオパルドはそれに乗ったままだ。その後方から、ムラサメが三機、こちらにやってくる
それを見ると、ユウナは苦虫を噛み潰した顔になっていた

「ガロード、回線を開いてくれ。あのムラサメに、だ」
「ん、あ・・・・おう」

ガロードが通信を開くと、すぐにユウナはマイクを取った

「聞こえるか、ムラサメ隊! イケヤ、ニシザワ、ゴウ! 僕はユウナ・ロマ・アスハだ!」
『・・・・・・・・・・』
「聞こえてるんだろう! なぜカガリの親衛隊だったおまえたちが、僕に銃を向けている!?
  まさか、キラ・ヤマトを本気でオーブの首長にするつもりなのか!?」
『・・・・・・・・・・』
「聞こえないのか、ムラサメ隊! なぜオーブをこんな・・・・こんなことにした!
  オーブの理念を忘れたのか、貴様たちは!」
『・・・・オーブには、オーブを正しく導いてくださる方が必要なのです
  それはあなたではありません、ユウナ・ロマ・『セイラン』・・・・・』

そう言われたとき、ユウナは言葉を失っていた

「僕が・・・・僕がオーブを間違った方向に導いているってことか・・・・・・?」
「おい、しっかりしろ! あんた、オーブで一番偉い人だろうが!」
「うっ・・・・。わかってる、ガロード!」
「邪魔すんなら、ぶっ飛ばすぜ、この野郎ォォォォッ!」

レオパルドが高速船の上で方向転換し、両腕にツインビームシリンダーをはめ込んで、ムラサメを攻撃する
しかしちょこまかと逃げ回り、なかなか捕捉できない

ドシュゥゥン、ドシュゥゥン!

次々とムラサメ隊から、ビームが放たれてくる。かろうじて高速船を操作することでかわしたが・・・・

「DXをぶっ壊させるわけにもいかねぇし・・・・厄介だぜ・・・・!」

高速船にはDXのパーツが積んである。これはなんとしても守り抜かなければならないものだった
しかし、慣れないレオパルドでこの三機の猛攻をどうかわすのか

ドシュゥゥン!

一発のビームが放たれ、レオパルドが被弾する。たいしたダメージではないが、危うく海へ落ちそうになった

「しゃあねぇか・・・・・」

この手だけは使いたくなかったが、他に手はない。レオパルドのパネルを叩き、すべての武器のセーフティを解除する
それから、ムラサメが一定の空間に集まるのを確認すると、武装を開放した

ドドドドドドド、ドォン、ドォン、バシュゥゥン!

一斉射撃。桁外れの重武装を誇るレオパルドが、すべての武器を開放する
これならば機動性もクソも無い。一定範囲にいる敵は、攻撃をくらうしかないのだ

それは三機のムラサメとて例外ではない。ビームを、ミサイルを、ガトリングを食らって、ムラサメは爆発した

「クッ・・・・・イケヤ、ニシザワ、ゴウ・・・・・バカが・・・・」
「・・・・・急ぐぜ。これでレオパルドの武器はカラになっちまった・・・・。次になにか来たら、アウトだ」

高速船を走らせる。やがて、別のムラサメが見えてきた。それはレオパルドに対して攻撃してくることはなく、
ガロードたちに追従してくる。タケミカズチ所属のムラサメだった

高速船が、空母タケミカズチと合流する。ガロードはレオパルドを着艦させた
着艦と同時に整備士を集めて、レオパルドに細工をしてもらう
それからユウナと共に、タケミカズチのブリッジへ向かった

「ユウナ様、よくぞご無事で・・・・!」
「トダカ。オーブ軍はこれだけ・・・・なのか?」

ユウナが言う。ガロードも、タケミカズチの周囲にはもっと艦船がいるものだと思っていたが、影も形も見えない

「残念ながら・・・・・。すでに、タケミカズチ一隻のみです。後は、反乱軍に降伏したり、賛同したり
  ・・・・あるいは破壊されたりしました」
「クッ・・・・・! こんな・・・・こんなことが許されるのか・・・・!」
「クライン派というのは、想像以上の数でしたな。いや、クライン派でない人間もいるのかも知れません
  しかし、ラクス・クラインには、そういう人間を味方にする力がある・・・・・」
「冗談じゃない! 侵略者をオーブが支持するものか!」
「ユウナ様。オーブの民は、おそらくキラとラクスを支持するでしょう・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「カガリ様の弟ということを差し引いても、あの二人は、そういう人間なのです
  前大戦の英雄と、救国の歌姫。プラントからの圧力に不満だった国民は、彼らを熱狂して迎えるでしょう
  ユウナ様とは違うのです、あの二人は」
「・・・・・言うな、トダカ。僕は・・・・・僕の無力さと、平凡さを、よく知っているよ
  確かに僕には、あんなカリスマはない・・・・」
「いえ。ただ、ユウナ様。オーブに必要なのは、キラでもなければ、ラクスでもありません
  あなたなのです」
「僕にそれほどの価値はないよ・・・・・。クーデターも見抜けなかった、バカな男だ・・・・」

不意にその時だった。ブリッジの前方から、MS群がやってくる
ガロードは思わず身構えた。やたらと堅牢な装甲を持つ、クラウダというMSが十機、こちらに向かってきている

『はいはいはいはいー。命まで取らないから、降伏してちょうだいね、タケミカズチ!』
「ロアビィ!?」

通信が入ってくる。ロアビィからだった。ガロードは、振り返ってトダカとユウナの反応を見る

「空母の足では、逃げ切れません。ユウナ様、脱出を・・・・」
「なッ・・・・・! また、逃げる・・・・・?」

しかしガロードは、首を振った

「待ってくれよ、ユウナさん。ロアビィならなんとかなるかもしれねぇ。
  トダカさん、あの隊長格のMSと、通信をつなげてくんな!」

ガロードが言うと、トダカはうなずき、通信士に命じて回線を開かせる
そしてマイクが回ってきた。それをつかんで、ガロードは叫ぶ

「おい、ロアビィ! 聞こえるか、ガロードだ!」
『あら、ガロード。おひさしぶりぃ』
「・・・・・おまえな! 自分がなにやってるのかわかってるのか! ラクスはとんでもないことをやったんだぞ!」
『おいおい、ガロード。勘違いするなって。俺は正義の味方でもなんでもないぜ? もらった金の分だけ働く、
  ただの傭兵さ。それに・・・・・言っちゃ悪いが、オーブの国民も、歌姫さんやキラを歓迎しているみたいだけど?』
「このッ・・・・・! ・・・・・・ロアビィ、撤退してくれ」
『はぁ? バカ言うなって。それより、さっさと降伏しろよ。命までは取らないからさ?」
「レオパルドが交換条件だ」
『・・・・・・・・』

交渉に使える、手持ちのカードはこれだけである。ロアビィはあくまでも傭兵である
傭兵であるなら、自分の商売道具であるガンダムレオパルドデストロイを取り戻したいはずだ
ガロードはそこに賭けた

「断るなら、俺はレオパルドと一緒にトンズラするぜ?」
『おいおい、逃げ切れると思ってんの?』
「やってみなけりゃわかんねぇよ。それに、俺は今、はらわた煮えくり返ってんだ!
  ・・・・・なにするかわかんねぇぜ?」
『・・・・・・やれやれ、わかったよ。俺もレオパルドは手元に置いときたいしね』

交渉が成立するとすぐに、ガロードはブリッジを出てMSデッキへ向かった
それからレオパルドに乗り込み、起動させ、MSデッキからタケミカズチの甲板に出た
外では、クラウダたちがじっとタケミカズチを見つめている

「ロアビィ。一機だけで、タケミカズチの甲板に来い」
『はいはい』

クラウダの群れから、隊長機の印であるアンテナをつけたMSが、こちらにやってくる
それはタケミカズチの甲板に着地すると、コクピットをあけた。中から、ロアビィが降りてくる
ガロードもレオパルドから降りた

「ロアビィ、約束は守れよ」
「まぁ、別に俺はいいんだけどね。ただ、タケミカズチ追いかけてるのは俺だけじゃないぜ?
  ああ、そうそうガロード。レオパルドに仕込んだ爆弾のスイッチ、よこせよ」

ロアビィに言われて、ガロードは歯噛みした。もしもの時のためにと仕込かけた爆弾だが、
たやすく見抜かれていたようだ

「チッ・・・・」

舌打ちをして、起動スイッチをロアビィに渡す。同時に、ロアビィに殴りかかった

「危ないじゃないの・・・・!」

しかしロアビィにはたやすく受け止められ、逆に蹴りを腹に受けて、ガロードは膝をつく

「ぐっ・・・・・。なんで・・・・こんなことすんだよ、ロアビィ!」
「さぁな。ただ、あの歌姫さんは面白いよ。じゃな、ガロード。クラウダはやるよ。AWの操縦機構だから、
  俺以外、ろくに扱えないからね」

ロアビィはそう告げて、レオパルドに乗り込む。クラウダが二機やってきて、レオパルドの肩を支え、飛び立っていく
ガロードはため息をつき、その後ろ姿を見つめた

(ロアビィ・・・・・)

ガロードはロアビィの好意を感じた。証拠は、この置いていかれたクラウダである
つまり、完全なガロードの敵ではないと、ロアビィは言外に言っているのだ

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ガロードの交渉が成功したのか、敵の第一波は撤退して行った
ユウナはそれを見つめて、少しほっとする。しかし、危機に変わりはない

「ユウナ様。ヤタガラスがもう少しでこちらにつきます。合流すれば、ヤタガラスに乗り移りください」
「トダカ。わかった・・・・」
「敵影を確認! MS数40! 反乱軍です! ・・・・・クラウダ、10! ムラサメ、15、M1アストレイ、15!」

瞬間、通信士の声が響き渡る。トダカは少しさびしげに、首を振った

「もう、オーブ軍はほとんど投降したようですな・・・・。それを加えても、
  こうもたやすくオーブ軍がキラの下につくとは・・・・・」
「トダカ・・・・・。僕は、僕は間違っていたのか? 僕がオーブのためによかれとやっていたことは、
  すべて間違いだったのか・・・・・・?」

ユウナが、胸の中にある重い感情を吐き出す。しかしトダカは、柔らかく微笑んだ

「私はあなたが嫌いでした、ユウナ様。父の威光をかさに着て、無能なくせに政治へ口に出す、
  バカ息子と思っていました」
「・・・・・・・・・・・その通りだよ」
「ですが、今は、私はあなたのために命を捨ててもよいと思っています」
「トダカ・・・・・?」
「あなたが、オーブを守るため、オーブの理念を守るため、どれだけ戦ってきたのかを、私は知っています
  ユウナ様、あなたはオーブそのものでした。私はあなたを、
  ウズミ・ナラ・アスハより素晴らしい代表だと思っています。国民はまだ、あなたを知らないだけなのです」
「・・・・・・・・」

「「「「「我々も同じ想いです、ユウナ様!」」」」」

声がした。ユウナが振り返る。オーブ兵たちが整列して、こちらに笑いかけてくる
タケミカズチのブリッジクルーも、ユウナを見て笑っていた

「僕は・・・・・・」
「ユウナ様。どうか胸を張ってください。ここに、あなたをオーブの代表と信じている者たちがいるのです
  あなたの命は、すでにあなた一人のものではない・・・・・。ムラサメ、M1アストレイ、全機発進!」

「「「「「はっ!」」」」」

トダカが号令すると、オーブ兵がブリッジを出て行く。ユウナは呆然とそれを見送った
両目からは、涙がとめどなくあふれてくる。無駄じゃなかった
自分が、オーブ代表として戦ってきた日々を、理解してくれる人はここにいた

次々と、MSがタケミカズチから出撃していく。それは、反乱軍と交戦を始めた

「ユウナ様。ガロードが乗ってきた高速船にお移りください。イアン、ユウナ様を頼む」
「はい」

ユウナの肩を、一人の軍人が叩く。降伏してきた連合軍人、イアン・リーだ

「高速で接近するMSを確認・・・・! これは・・・・アカツキです!」
通信士が叫ぶ。同時に、ブリッジのモニタが切り替わり、一人の少年が顔を見せた

「タカマガハラ第一部隊ヤタガラス所属、アカツキパイロット、シン・アスカです!
  先行してきました・・・・! ヤタガラスは、300キロ先の海上でこちらに向かってきています」
「シンか・・・・・。ユウナ様はタケミカズチより脱出される。ガロードと共に、その護衛についてくれ」
「トダカ一佐・・・・・! ・・・・・・・わかりました・・・・・。ユウナ代表、早く脱出を!」

ユウナは、じっとトダカの顔を見つめた

「死ぬ気か・・・・・。トダカ・・・・?」
「あなたを生かすことは、オーブのためになります。私は幸せでしょう、オーブのために死ねるのですから」
「降伏しよう! 降伏しよう、トダカ・・・・・。僕一人が降伏すれば、みんなは助かる!」

しかしトダカは、やはり首をゆっくりと振った

「お行きください。ユウナ代表。そして生き延び、必ずオーブを取り戻してください
  あなたしかいないのです。いつかオーブが夢見た姿に、オーブを変えてくれる方は」
「さぁ、ユウナ様」

イアンが、ユウナの肩を引っ張る。ユウナは自分で自分の頬を叩いて、トダカから背を向けた
それからブリッジを出て、タケミカズチに収納された高速船に乗り込む。操縦席には、イアンがついた

高速船が飛び出す。ガロードのクラウダと、シンのアカツキが護衛につく
遠くに、反乱軍と交戦するオーブ軍が見える。ムラサメが一機、クラウダに特攻した
そして、クラウダが爆発する。名も知らぬオーブのパイロットが一人、自分のために死んだ

ユウナは自分の両手で、顔を押さえた。嗚咽が漏れる。情けない
こんな状況下で自分は、泣くことしかできない。なんて無様な男だ

「感謝しております、ユウナ様」

不意に、操舵していたイアンが、つぶやく

「・・・・・・・え?」
「あなたは、オーブに降伏した我らを、かくまってくださいました。プラントから引き渡せと言われたにも関わらず
  私は、それを忘れるほど恩知らずではありません。他国人の私が言うのもなんですが、
  あなたは、『この人のためなら死んでもいい』。そう思わせてくれる政治家です
  トダカ一佐の言うとおり、胸を張ってください。」

そんなことはないと、ユウナは思った。ただ、自分は必死でオーブの代表をやってきただけなのだ
こうまで慕われる理由は、どこにもないと思った。現に、オーブ国民は、キラやラクスを慕っている

タケミカズチが、遠くに見えた。彼らは、その身を盾にして、反乱軍を足止めしていた

==========================

タケミカズチのMSは一つ減り、二つ減り、撃墜されていく。静かに、トダカはそれを見つめていた
高速船が遠くなっていく。アカツキと、クラウダがその警護についている

「すまんな、おまえたち。付き合わせてしまって」

トダカが言うと、ブリッジのクルーは笑みを返してきた

「いえ! オーブのために死ねるなら、さほど悪い死に様ではありません
  ユウナ様を我々も、信じております!」
「うむ・・・・・・」

ドォン・・・・ドォン・・・・。タケミカズチが被弾する。船体はすでに傾きかけていた

『降伏してください! 降伏してください! タケミカズチ、退艦を!』

不意に、ストライクフリーダムがあらわれた。キラ・ヤマト。オーブの代表を名乗る男
トダカは、通信を開いた

「聞け、キラ! オーブは負けぬ! オーブは屈せぬ!
  他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない!
  ただ一つ、それがオーブの道である!」
『すでに勝敗は決しました! オーブの閣僚も、国民も、僕のオーブ代表就任を認めています!
  これは代表命令です・・・・・降伏してください、トダカ一佐ッ!』
「キラ! 私にとっての代表は、ただユウナ・ロマ・アスハお一人のみだ!
  貴様のような偽者を、オーブは認めぬッ!」

叫び、タケミカズチを前進させる。目の前にある、ストライクフリーダム。かなうはずもない
だが、足止めをしなければならない。未来の、オーブのため

『トダカ一佐ッ!』
「タケミカズチ、全砲門開けッ! 目標、ストライクフリーダムッ!」

ドォン・・・・ドォン・・・・ドォン!

しかし、クラウダが一斉砲撃をかけてきた。タケミカズチは被弾する。攻撃管制が無力化する
やがて一機のクラウダが、ストライクフリーダムの前に立ち、ブリッジへビームライフルを向けてきた

トダカはそれに背を向け、ユウナが去った方向へ敬礼する
ふと、思い出した。『アカツキ』とは、旧世紀の日本語で、『夜明け』という意味だった

「ユウナ様。後はよろしく、お頼みします。どうか、オーブの夜明けを・・・・」

敬礼したまま、トダカがつぶやく。そして、クラウダのビームはタケミカズチのブリッジを貫いた

==========================

ユウナはヤタガラスに収納された。イアンにうながされ、ブリッジに向かう

「ご無事でしたか、代表!」

アスランが叫ぶ。不意に、ユウナはがっくりと膝をついた

「・・・・・アスラン」
「代表・・・・・」
「カガリは今、泣いているんだ・・・・」

つぶやく。その声が、どこか遠かった