クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第059話

Last-modified: 2016-02-18 (木) 00:00:10

第五十九話 『情けない男にしないでくれ』
 
 
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ハイネは舌打ちした。ネオジェネシスの完成は極秘に進められていたようだ
今なお、一般のザフト兵はその存在すら知らない
自分は『FAITH』であり、デュランダルの側近であるから、いくらか早く情報を仕入れることができたが・・・

(危なかった)

安堵しながら、自分のうかつさに苦虫を噛み潰す
今回は良かったものの、もう少し情報の入手が遅れていれば、ヤタガラスは宇宙の塵になっていたところだ

ヤタガラスへの極秘通信を終え、ミネルバの通路に出る
その窓から、要塞メサイアに取り付けられた、ネオジェネシスが見えた
エネルギーの充電がなされているのか、時折光っている

どうやら、あのデュランダルにとってヤタガラスは邪魔なようだ
ヤタガラスの援護は、デュランダルの下にも情報として届いていたはずである
にも関わらず、形としては友軍のヤタガラスを、ネオジェネシスで吹き飛ばそうとした

「まったく、疲れるな」

ハイネはぼやいた。一口にスパイだの、諜報員だのと言うが、その苦労は並大抵のものではないのだろう
前線で暴れまわっていればいい自分たちとは、違うのだ。今度から、情報は大切にしようとハイネは思った

(・・・・ジュール隊?)

ハイネは、イザーク、ディアッカ、シホが通信室から出てくるのを見た
反射的に、ハイネは身を隠す。彼らは周囲をさりげなく見回すと、通信室から離れていった

ハイネは心中でまた、舌打ちする。ジュール隊のいなくなった通信室に入り、通信ログを確認する

「抹消されているか」

イザークのことを思い出す。彼は士官学校の情報処理を、二位の成績で終えたはずだ
それにシホは元々、技術者出身である。通信設備を誰にも悟られぬよう、使うことなどたやすいことのはずだ

だが、ハイネにはジュール隊がどこに連絡を取ったのか、すぐにわかった

「ラクス・クライン、か・・・・・・」

ハイネは、うんざりするような気分だった

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戦争がこんなにも怖いものだとは、思わなかった
最初は、飛び交う光点が殺し合いをしているものだとは思えなくて、現実感がなかった
しかし目の前でデスティニーがエターナルを切り裂いた時、ミーアは始めて恐怖らしきものを感じた

エターナルは中破している。クルーに勧められて、ミーアは一般用のノーマルスーツを装着した
これを着て座る艦長席は、ひどく居心地が悪い気がする

(あたしががんばらないと・・・・)

ラクスが、倒れた。やはりあの体で、前線に立つことなど無理だったのだ
艦長席で青い顔をして座っていた時は、見ているこっちの息が詰まりそうだった
倒れて、今はアークエンジェルの医務室に移っている

影武者になると言い出したのは、ミーアからだった
膝が震えているが、今でもその選択を後悔していない
憧れだったのだ、ラクス・クラインが。それをアスランのためにとはいえ裏切ってしまったのだから、
これぐらいの罰はちょうどいいと、ミーアは思った

「緊急入電だとぉ?」

エターナルのブリッジで、実質的に艦隊指揮を行っている、バルトフェルドが声をあげた
すぐにミーアは反応する。ラクスの声、ラクスの仕草で
バルトフェルドはともかく、一般兵は自分がラクスだと思っているのだ

「どうしたのですか、バルトフェルド隊長」
「ミネルバから・・・? ・・・・・! まさか・・・・いや、デュランダルならやりかねんか!
  エターナル! デスティニーによる損傷、報告しろ!」

瞬間、エターナルの近くで、キラのストライクフリーダムが、金色のMS、アカツキに両腕を落とされた

「キラ・・・・・?」
「キラがやられただと・・・・・! ったく! キラはアークエンジェルに下がれ!」
「キラ・・・・」

ミーアはラクスの気分になって、つぶやく
バルトフェルドが苦虫を噛み潰した。冷静さを失わぬよう、彼はヒゲを一本、抜いてつぶやく

「ヤタガラスが来てるのか・・・・。つくづく因縁だねぇ。それとも、僕の作戦が甘かったのかな
  キラあっての作戦だ。キラがやられちゃ、話にならんよ・・・・・」
「どうするのですか、バルトフェルド隊長?」
「オーブまで撤退するにしろ、このまま戦うにしろ、艦隊を動かすしかない
  幸い、エターナルは動く。射線をずらし、最低限の損害に抑えるしかないか・・・・・
  デュランダルの方が上手であること、認めねばならんのかね」

また、バルトフェルドがヒゲを引き抜く。冷静さを装っているものの、腹を立てているのはわかった
ミーアには戦争のことなどわからないが、戦況が不利であるというのは理解できる

瞬間、エターナルのモニタに、MSの手を引きながらやってきたインフィニットジャスティスが映った
ミーアの胸が詰まる。アスランだった。身を焦がすような、あの一夜の残り火が、ミーアの胸を焼いた

「アスラン・・・・・」

つぶやく。それを伝えるすべは、ミーアにはなかった

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こうなれば一刻も早く、逃げるしかない。アスランはそう思った
ネオジェネシスの威力がどれほどのものかはわからないが、仮にも地球を滅ぼすとまで言われたジェネシスの後継である
並大抵の威力ではないだろう。艦隊一つ、吹き飛ばすのはわけないはずだった

(ニコルは・・・・・)

デスティニーとアビスが、パイロットのいないレジェンドを確保して撤退していく
あれほどのMSなら、パーツだけでも欲しかったが、贅沢は言ってられなかった
それよりも、ニコルの黒幕が今日、はっきりとわかった
あの偽者だ。今回は明らかに、ニコルはザフトのために動いた。そしてまさか、ニコルがザフトであるわけがない
ザフトであって、ザフトでないもの。そうなれば残るのは一つしかない

デスティニーに切り裂かれた、エターナルが見える。なぜデスティニーは、最後までエターナルを切り裂かなかったのか
もう数メートル、進むだけでラクスを殺せたはずである

「殺しておくか・・・・?」

アスランはつぶやいた。ここでラクスがいなくなるのは悪いことではない
キラ政権の崩壊を、早めることになるだろう。だが今、わずかでも時間をかければ、こっちが死ぬ
撃沈するかどうかはともかく、ビームを数発撃って、撤退するか
そう思ってインフィニットジャスティスの銃口を、エターナルに向けた

『アスラン、待て!』

いきなりガロードから通信が入った

「なんだ、ガロード」
『ミーアだ、あそこにいるのは!』
「なん・・・・だと! どうしてわかる!?」
『ティファにはわかるんだよ、それが』
「・・・・ニュータイプ、か?」

アスランは正直、ニュータイプというものなど信じてはいなかった
人類の革新たる存在であり、エスパーのような能力を持つ。いくらか、バカげた夢物語のような気がするのだ

(だが・・・・)

ネオジェネシス発射まで、あと八分。ガロードの言うことが真実なら、ニコルがエターナルを両断しなかった理由もわかる
アスランはカガリのヴェールに触れた。心の痛みが、胸にある

「シン、ガロード、ステラ、先にヤタガラスへ戻れ! 俺もすぐに追いつく!」
『え・・・・・』
「早くしろ!」

アスランの言葉を受け、テンメイアカツキ、ガイア、GXがこの場を離れていく
アスランは時計を確認した。八分なら、残り三分。少なくとも五分の猶予でここを離れなければ、ネオジェネシスを食らう
クライン派もネオジェネシスの情報をつかんだのか、オーブ軍は撤退の動きを見せていた
ただ、インフィニットジャスティスをけん制せんと、クラウダが三機、こっちをにらんでいる

「エターナル、聞こえるか!」

慣れ親しんだ、かつての母艦エターナル。そこへ通信を入れる。時間との戦い

『アスランか! いまさらなんの用だね』

バルトフェルドが声を返してくる

「ミーアを出せ!」
『知らんな、そんなヤツは!』
「影武者だということを、すでにこっちは知っている!
  変に意地をはれば、俺は死ぬ覚悟でアークエンジェルを落としに行くぞ!」

少なくともアークエンジェルにキラはいる。一応、国家元首を名乗っているキラを殺せば、オーブは混乱するだろう
しかしそれはアスランの命と引き換えになる行為だった

『・・・・・アスラン?』
「ミーア!」

通信が切り替わった。モニタが、エターナルのブリッジを映し出す
すでにブリッジクルーは全員、ノーマルスーツに着替えていた
ラクスと同じ格好をしている、ミーア・キャンベルが、少し戸惑った顔でそこにいた

『どうして・・・・・? いまさら、あたしなんか』
「心配だからに決まってるだろ、そんなもの!」
『嘘よ! あたしがいるって知ってるのに、アークエンジェルへローエングリン撃ったじゃない!
  あたしのことなんかもうどうでもいいんでしょ!』
「好きで撃ったと思ってるのか、このバカ! だいたい、そんなこと言うなら最初から敵艦に乗り込むなこのバカ!
  頭に行く分の栄養が、全部胸に行ってるんじゃないかこのバカ!」
『な・・・・なによ、バカバカって! アスランこそバカでしょ! なんでラクス様の敵になるのよッ!
  仲間だったんでしょ! 婚約者だったんでしょ! ラクス様は正しいことをしてるのに、どうして・・・!』
「絶対に正しいことなんか、この世にあるか! だから俺たちは、正義をぶつけ合って戦争なんかしてるんだろうが!」
『でも・・・・ラクス様は!』
「聞け、ミーア! キラやラクスの言うことは確かに正しく心地よく聞こえるかもしれない!
  だが彼等の言葉は、やがて世界のすべてを殺す!
  よく目を開けて見てみろ、二人がこれまでやってきたことを・・・・ッ!」

瞬間、エターナルから主砲が放たれてきた。インフィニットジャスティス。ビームシールドをとっさに展開する
受け止めることができた。さすが、と思う。今までのノーマルシールドでは吹き飛んでいたかもしれない

『アスラン・・・・!? や、やめて! やめてよバルトフェルドさん!
  アスランは味方だって、ラクス様も言ってたじゃない!』
『これ以上、この宙域にとどまれば、こっちが危うい・・・・・。アスランにこだわっている暇はないんだよ』
「ミーア! ・・・・リミットか!」

残り時間が四分になっている。これ以上の説得は無理だった
次々と放たれてくるクラウダのビームや、エターナルの主砲をかわしつつ、アスランは無念だった

(ガロードのようにはいかないか・・・・)

自嘲する。それからエターナルを見つめて、口を開いた

「ミーア! 聞こえるか・・・・・」
『アスラン・・・・あたし・・・・・』
「俺を、女を二度も守れないような、情けない男にしないでくれ。・・・・頼む」

言うと、インフィニットジャスティスは変形し、一気に宙域から離脱した
交換した新しいリフター、ファトゥム01の出力は素晴らしく、以前の変形状態より、ずっと出力は上がっていた

振り返る。エターナルは巡航能力に問題はないのか、ネオジェネシスの射程圏からは離脱できたようだ
少しだけほっとする

出力向上のおかげで、二分ほどでヤタガラスに戻ることができた。着艦すると、すぐにブリッジに上がる
ブリッジのモニタが、ネオジェネシスから逃げ出そうとしているオーブ軍を映していた

瞬間、遠くになにか、光が見えた

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デュランダルはメサイアの司令部で、憂鬱だった
プレッシャーのようなものを感じる。それがかすかに不快だった

「ネオジェネシス、充電、完了いたしました」
「発射しろ。目標、オーブ艦隊」
「了解!」

デュランダルが言うと、メサイアに取り付けられたネオジェネシスが光を放ち・・・・

ドギョォォォォッ!

ガンマ線レーザーが、巨大なエネルギーとなって発射される
メサイアがその衝撃で、かすかに震える
メサイアのメインモニタに映し出された、オーブ艦隊がなぎ払われていく
まさに大量破壊兵器と言うにふさわしい威力だった

「エターナル、アークエンジェルはどうだ?」

デュランダルの関心はそれだった。ラクスは途方もない
極端な話、オーブ国民が全滅しようと、ラクスとキラさえ生き残っていれば、
彼女はまた平然と巨大な軍を起こすだろう

「どうやら、二つの艦は無事のようです。しかしオーブ艦隊の30%は消滅しました!」
「そうか。上等な戦果と、言うべきかな」

クライン派から、あっちへ情報が漏れるのは予想がついていた
それを考えれば、艦隊の三割が消滅したというのは大戦果だろう
それにこちらからも、オーブやクライン派に人は送り込んでいる
前のデュランダルが送り込んだ、親プラントの閣僚は、まだオーブに残っていたりするのだ

「ギル・・・・いえ、議長。どうなさいますか?」

近侍していた、レイ・ザ・バレルが秀麗な顔を向けてくる

「思案のしどころだね。一気に叩くか、この勝利を切り札に、降伏を迫るか
  ラクスやキラが、降伏などするはずもないが、国民はそうでもないだろう
  それに・・・ラクスは怖いが、月をいつまでも野放しにしておくわけにもいくまい・・・・」

ネオジェネシスを撃った感慨は、特になかった。ラクスを殺せなかった以上、
オーブ国民やクライン派を何千何万殺そうと、無駄だろう

ヤタガラスのことも、いくらか気になっていた。もっと言えば、DXの存在である
単純な破壊力で考えるなら、あれ以上の攻撃力を持つMSはない
しかしデスティニーによる破壊工作は、失敗している

「しかし、相手はキラです、議長」
「私にはサザビーがあるのだよ、レイ。・・・・・いや、サザビーを出すまでもないか」
「お考えが?」
「降伏に応じぬ場合、直接、オーブを制圧した方がいいかもしれないな
  そうすればラクスもキラも、戦いどころではなくなる」

これで一度、ラクスの勢いは止まった
ラクスにしてみれば計算外のはずだ。まさか初戦で、進軍を止められるとは思わなかっただろう

これで勝ちとは言わないものの、ザフト有利の展開になる
オーブ本土にある防衛戦力は、ほとんどないのだ。ラクスたちを足止めした状態で、
ザフトが攻撃をかければ、オーブはあっけなく落ちるだろう
後はプラントに潜伏しているクライン派をあぶりだせば、戦況は決定的になるか

しかし、まだ足りないような気がした。相手は、ラクス・クラインである