クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第068話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:17:27

第六十八話 『一緒に築きたくて』
 
 
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デュランダルはスーツ姿でサザビーネグザスに乗り込んだ
コクピットを作動させる。モニタが起動し、逃げようとするフリーダムとヴァサーゴが映った

「どこに逃げようというのかね、ラクス・クライン
  防衛隊は港の封鎖に回れ。市民は避難させておけよ
  くれぐれもプラント内で戦闘はするな。相手が発砲してきても、耐えるんだ」

プラントの民が何人死のうが構わないが、それでラクスに大義を与えるのもつまらなかった
サザビーのブースターがうなりをあげ、並のMSより巨大な真紅は人工の空を飛ぶ
レイのレジェンドも続いてきた

頭を、ざらりとした感触が通り過ぎていく

(ニュータイプ、か)

原因はフリーダムのパイロットと、ラクスだろう。面白いものだった
彼らは自分が新たな人類であることを知らない。この世界には、そういう概念がないのだ

『議長。攻撃を仕掛けるのですか?』
「まさかね。プラント内でやりあえば、市民に被害が出る。港まで追い込むよ、レイ」
『わかりました』

レジェンドがサザビーの前に出る。健気なものだった。自分を護ろうというのだろう

ラクスの手の内は漏れていた。彼女たちがこちらに人をもぐりこませているように、
こちらもクライン派に人を入れているのだ。動きが筒抜けというほどでもないが、ある程度は読める
今回のことも、奇襲のつもりでやったのだろう

眼下では、警官隊と民衆の激突が起きていた。デュランダルはそこから目をそらす
苦々しいことだった。ラクスの魅力は、ほとんど理不尽なものだ
そこにいるだけで彼女は人をひき付ける

居住区を抜け、港に出た。フリーダムとヴァサーゴは母艦を必要としないMSなのだろう
そのまま宇宙まで出る気のようだ。その前に、ザフトの防衛隊が立ちふさがる
避難は完了しているようで、人気はない

「む・・・・・!?」

いきなり防衛隊のザクが方向を変え、こちらにビームを放ってきた
サザビーは十分の余裕を持ってシールドで受け止めたが、防衛隊はフリーダム、ヴァサーゴを逃がし、立ちふさがる

『議長!?』

レイの悲痛な叫び。彼はわけがわからず、サザビーの前に立ってビームシールドを広げている

「ふむ。君たち、所属と姓名を名乗りたまえ」

すぐさまデュランダルは、防衛隊に通信を入れる

『・・・・・・・どうかラクス様を見逃してください、議長!』
「プラントを攻撃してきたテロリストを見逃せ、と?」
『あの方は希望の星なのです』
「君たちはプラントへの反逆を表明した。そう取ればいいのかね?」
『・・・・・・・・』
「あくまで立ちふさがるか。しょうがないね」

防衛隊はクライン派で無いはずだ。しかしそんな人間でさえ、ラクスに付く
デュランダルはさしたる感興もなく、サザビーの腰をゆっくりと下げた

「ザクが2にゲイツが5か。下がっていたまえ、レイ」
『議長?』
「行け、ファンネル」

シュン・・・・! いくつものファンネルが、獲物を求めてサザビーの背から飛び立つ
防衛隊のザクはそれを回避しようとしたが、先を読み、ファンネルは次々と腕や足を飛ばしていった
数秒後に防衛隊は、ダルマになって無力化する

『う・・・・強い・・・・』
「そこでそうしていたまえ。後で軍法会議にかける。君たちは反逆者だ。バカなことをしたよ」

サザビーネグザスは敗者を見下ろすと、さらに追撃に移った
この様子だと、ザフトからも裏切者が出ると考えた方がいい
これがラクスの恐ろしさだ。彼女は無から有を生み出す能力を持っている
もしもラクスが、その力を十二分に活用していたら、彼女は今ごろ世界の支配者だろう
まぁ、ラクスはそんなものになりたいとも思っていないだろうが

デュランダルはそんなことを考えつつ、管制の方へ通信を開いた
こうなると包囲をさらに重厚な物へ変える必要がある

「アプリリウス管制、聞こえるか。こちらサザビーネグザスだ」
『はっ、デュランダル議長』
「アプリリウスの外に待機している艦隊を、さらに二艦隊増やせ」
『了解しました』
「プラントの外におかしな動きはないか、よく見張っておけよ。なにかあってからでは遅いからな」

同時に、思いついたことがある。専用回線を開き、極秘で通信を入れ、簡単な指令を出した

やがて港の出口が見えてくる。瞬間、見慣れないMSがこちらにやってきた
心なしかガンダムダブルエックスに似ている気がするが、こちらはスマートな感じだ

『よう、デュランダルのおっさん。へへっ、大変そうだな』
「君は、ガロード・ランか。いつプラントに戻ってきた? まぁいい。ちょうど良かった、追撃に加わるといい」
『あいよ。GXの力を見せてやらぁ!』

GXというMSが追従してくる。これはDXのプロトタイプなのだろうか
なにはともあれ、サザビーネグザス、レジェンド、GXがラクスを追って宇宙に飛び出した

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ムウは嫌な感じが続いていた
防衛隊が道をふさいでくれたので、その隙にラクスをフリーダムのコクピットに収納したが、それで追撃が終わったわけではない

「どーするんだよ、クソッタレ!」
「大丈夫ですわ、ムウさん」
「大丈夫なわけねーだろ! ラクス、おまえさんなんでそんなに落ち着いてんだよ!」
「道は開けますから」

フリーダムとヴァサーゴが港を抜ける。ラクスが言うと同時に、閉まっていた宇宙への隔壁が開いた
クライン派の協力か。ムウはちょっとだけほっとする

しかし。背後から迫る、プレッシャーが尋常ではない。感じる。かつてラウ・ル・クルーゼも同じような感覚を持っていた
だがクルーゼのものと比べ、はるかにプレッシャーは強い。それは、サザビーネグザスから放たれるものだ

まともにやりあえば確実に負ける。理屈ではないなにかが、ムウにそう教えてくれていた

「げ・・・・!」

フリーダムはプラントの外に出て、急停止した。なんと外ではザフトの艦隊が待ち構えていたのだ
ザクやグフ、ゲイツなどがこちらに銃口を向けている

『オーブ軍、貴様たちはすでに包囲されている。おとなしく投降せよ!
  さもなくば撃墜する! 繰り返す』
「あーあ、どうすんのよ、コレ」

ムウは息を吐いた。いくらフリーダムとはいえ、これだけの敵を振り切るのは無茶である

「ムウさん。回線を開いてください」
「回線を開いてくれって・・・・」
「包囲しているザフトに対して、です。お願いします」
「・・・・わかった」

ムウは国際救難チャンネルを開き、こちらを包囲しているザフト軍に対して通信を開く
開きながら、思う

(こんなこと、いつまで続ければ・・・・)

思いかけて、頭を振った。まただ。またクルーゼの亡霊が背中にまとわりついてくる
迷いが起こるたび、クルーゼの笑い声が聞こえてくるような気がした

回線を開くと、ラクスは目を閉じ、開ける。彼女の雰囲気がいきなり変わった。種が割れたというのだろうか

「こちらはフリーダム、ラクス・クラインです。人には未来があります
  ザフト軍兵士に通告いたします。どんなカタチであれ、あなたたちは、デュランダル議長のために戦ってはなりません
  人の未来を、夢を奪う人に、人は従ってはならないのです
  願わくば私たちと共に来てください。勇敢なる、ザフト兵よ」

ラクスの言葉に力が込められる。この声を聞いていると、ムウの中から迷いが消えていくような気がした
ラクスの言葉を聞き、包囲していた艦隊の動きがおかしくなっていく
やがてザクやグフが、ヴァサーゴやフリーダムに合流してきた

「ウヒョー、いつもながらすごいな嬢ちゃん!」
「スピードが勝負です。ムウさん、シャギア、わたくしたちと合流したザフト艦隊と共に、逃げましょう」

ラクスははぁっと息を吐く。少しだけ話しただけのはずだが、彼女は汗をびっしょりとかいていた
ザフト艦隊が寝返ってくる。フリーダムの周囲に配置される

(しかし・・・・なんだ、これは?)

また、ムウの頭を違和感が走る。なぜこうもたやすく艦隊がこちらにつくのか
これほどの能力があるのなら、なぜ最初からプラントに戻り、正当な方法で政治家に・・・

「やめろ、ムウ・ラ・フラガ!」

いきなり大声を出して、自分を鼓舞する。すでにサイは投げられているのだ

瞬間、一筋の閃光が放たれた。それも、フリーダムのすぐ隣からである
閃光は高出力ビームであり、それが一基のプラントに穴を開ける

(な……に……?)

ムウは何事かと思って、横を見た。ほんの少しだけ、ガンダムらしきものが、浮かんで消えた
それをつかもうとしたが、フリーダムの手はすり抜ける

『ザフト兵士よ、目を覚ませ!』

声が響く。プラントから三機のMS、サザビーネグザス、レジェンド、そしてDXに似た不明機が出てきた
声はギルバート・デュランダルのものだ

「なんだ、今のビームは?」
『見たであろう、諸君も。私も確かに見た。ラクス・クラインはたった今、プラントを攻撃したのだ』

瞬間、なにが起こったのかムウは理解した。ようするにはめられたのである

「ムウさん、今のビームは、いったい!?」
「さぁな! だがやられたよ。少なくとも周囲の人間には、フリーダムがプラントに対して発砲したように見えただろうな!」
「どこまで卑劣なのでしょうか、あの方は!」
「プラントに穴を開けるとは……ン?」

ムウは目をこらした。プラントの穴。そこに一機のMSが向かっている。黒いMSだが、ところどころ金色が見えた
それはラクスにも、デュランダルにも目をくれず、一直線にプラントの傷に向かっていくのだった
サザビーネグザスに追従していたDXに似ている謎の機体も、こちらを無視して穴に向かっていく

(穴をふさぐのか……?)

ぽぅっと、黒いMSになにかが浮かんだ。シン・アスカの幻が見える

—————もうこんなことで人を殺しちゃいけないだろッ!

そう叫ぶシンの声。なぜか、ムウの耳に届いた

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アメノミハシラ。港では、人々が忙しく動き回っていた

「ヤタガラス発進準備、急げ!」

アスランは叫び、MSの搬入を急がせる
ミネルバにあったインパルスの予備パーツで復活した、デスティニーインパルスが積み込まれていく
艦載戦力は、インフィニットジャスティス、ガイア、Dインパルス、エアマスターバースト、テンメイアカツキ、というところか

「アスラン、ヤタガラスは出るの?」

オーブの白服、ミネルバ艦長、タリア・グラディウスが複雑そうな顔をしてこちらにやってきていた

「はい。プラントで今、いざこざが起こっているようですので、ひとまずそちらに
  それにロード・ジブリールもプラントのために討たねばなりません
  俺たちはユウナ代表の命令で、レクイエム発射を阻止します」
「そう……」
「タリア艦長。ミネルバも加わるわけにはいきませんか?
  ヤタガラスの艦載能力もそろそろ限界です。それにヤタガラスの足についてこれるのは、ミネルバだけでしょうし
  作戦の幅が広がり、戦力も大きくアップします」
「わかるけどね。まだミネルバのクルーすべてが、今回のことに納得しているわけじゃないわ
  それに私も、プラントに残してきた息子のことが気になってるのよ」

それで思い出す。確か、タリアは子供がいたはずだった。一児の母ならば、当然子供のことも気になっているだろう
もっとも、うわさではあまり夫と上手くいってないらしいが

「そうですね。偽者は手段を選ばない男です。人質という心配もありますし、おいそれとは……」
「軍人がそうであってはならないと、わかってるけどね。私も母親だから」
「気に病まないで下さい。俺たちはこういう戦いばかりをやってきましたから。それに……」

デスティニーインパルスに続き、もう一機の巨人が運ばれてくる
かつて『ユニウスの悪魔』と呼ばれ、敵味方へ絶大な影響を与えたそのMS
それが、ヤタガラスへと運ばれていく

「切り札も戻ってきました。ヤタガラスは再び、最強の戦艦です」

タリアはそれで、少しだけ安心したようにうなずいた
アスランはタリアと別れると、ヤタガラスに乗り込もうとする。その時、呼び止められた

「少し待て、アスラン・ザラ」
「ロンド・ミナ・サハク。なにか用ですか?」

アスランが立ち止まると、はるかに背の高い彼女はこちらにやってきて、耳打ちしてくる

「ミネルバのことは任せておけ」
「え?」
「手は打っておいた。今は果報を待つのだ。だがこれからが忙しいぞ
  すでにザフト地上軍はオーブ本土への侵攻を開始したらしい」
「……ついに、ですか」

するとミナはアスランの耳元から離れ、うなずく

「今は小競り合いだが、戦力が違いすぎる。早晩、オーブ本土は制圧されるだろう」
「…………」
「だが焦るなよ。反撃の機は近いのだ。ただでさえおまえは、身を削っている
  そういう愚直さ、嫌いではないが、自分の体をもう少し大事にしろ」
「はい」

言ったが、アスランはミナの忠告を聞く気は無かった
働きすぎている働きすぎていると周囲は言うが、ぐっすりと眠るには疲れきるしかないのだ
そうでなければ、睡眠薬に頼って無理矢理眠ることになる
それならば働いた方がはるかにマシだ

「それとだな、アスラン。これを連れて行け」

言って、ミナは通路の物陰からなにか引っ張り出した
なにかと思えば、ティファである。どういうわけなのか、前に着ていた地味な服ではなく、青色のゴスロリ服を着ている
その格好が恥ずかしいのか、彼女は頬を染めてうつむいていた

「ティファ・アディール。その格好はどうしたんだ.」
「私の趣味だ。ティファはもう少しおしゃれをした方がいいだろう?
  フフッ、清純な少女でありながら、どうだ。衣装を変えるだけで引き立つそこはかとないエロス。いいだろう?」
「そんなマニアックな感想は求めてません、ロンド・ミナ。だいたいどこからこんな服を……」
「昔、バカな男が私にしつこくプレゼントしてきたのでな。ククク、有効活用というわけだ
  喜べティファ。これでガロード・ランもイチコロ(死語)だぞ?」

ミナがティファの頭をなでている
ティファもまんざらではないのか、頬を染めてうなずいていた

「はい……」
「ククク、後はそうだな。さりげなく下着の一つも見せてみるのも有効だぞ
  ただでさえその衣装は扇情的だ。できれば二人っきりの時にキメるといい
  ガロードはああ見えて、ひどく恋愛には臆病そうだからな。女の方からOKサインを出さねば
  おっと、だがおまえたちはナチュラル。計画はきちんとせねばな。ほら、選別だ、持って行け」

なぜかミナの懐から、コン○ームが出てくる。ティファは困ったようにそれを見つめている
アスランは顔を引きつらせながら、ミナの肩を叩いた

「ロンド・ミナ」
「なんだ、アスラン?」

「 太 ・ 陽 ・ 拳 ! 」

「ぐぉ!?」

アスランが前髪をあげる。瞬間、光が世界を覆い、ミナはよろめいた
その隙を突いて、ミナの手からコン○ームを没収する

「純情な少女を、よこしまな道に引きずり込まないで下さい。まったく!」
「おまえに言われたくないのは気のせいか? 
  しかし油断した……。よもや太陽拳を会得していたとはな、アスラン・ザラ」
「ザラ家代々の秘伝です。それにしてもイメージとは違いすぎますよ、ロンド・ミナ
  あなたはオーブの軍神でしょう?」
「フッ。私は己の信念を貫く者には、支援を惜しまないのだ」
「あ・な・た・が・楽しんでるだけでしょうが!」
「うお、まぶしい! やめろアスラン、太陽拳はやめろ! 前が見えん!」

一通りミナにおしおきをした後、アスランはティファを見た

確かに青いゴスロリ服が良く似合っている

「うーむ、しかしその服で戦艦はな。いや、一人、軍服をピンクのミニスカに改造しているアホ毛がいるから大丈夫か」
「…………」
「ティファ、それよりもなぜ君はヤタガラスに?」

ティファと話していて、かすかに緊張する自分をアスランは感じた
かすかではあるが、彼女は予知能力の他に、ある程度人の心を読めるのだという
眉唾ものの話だが、アスランは心のどこかでそれを信じているのかもしれない

「未来は、あなたの勝利に終わるはずでした」
「え?」

いきなりわけのわからないことを言われる。いったい、どういう意味なのか

「でも私たちが来てしまったことで、未来が変わってしまった。それは私たちにも責任のあることです
  だからよりよい未来を、私はあなたたちと一緒に築きたくて……」
「力を貸してくれるということか?」
「はい。よろしくお願いします」

どこまで戦力になるかはわからないが、引き止める理由もないと思った
特に邪魔となることもないので、アスランはティファの乗艦を許可する
そして、どことなくティファは、ラクスに似ていると思った

それからアスランはブリッジに向かい、ヤタガラスの発進を告げた