クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第069話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:18:30

第六十九話 『やっぱ死んでりゃよかったよ』
 
 
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シンは思う
かつて、MSは作業用のモノだった。それが戦闘に使われるようになったのは、いったいなぜなのか
                 アマツ
アストレイゴールドフレーム 天 ミナ。ロンド・ミナ・サハクの乗機であり、前大戦で造られたMSだ
型遅れのMSといえるが、度重なる改修により、セカンドシリーズにも匹敵する能力を持つ

プラントに穴を開けるビームを放ったのは、フリーダムのように見えた
しかしシンは、ネオがそんなことをするとは思えなかった
ラクスがやったかどうかも、怪しい。理由は簡単で、プラントを攻撃するなんのメリットもないことだった

しかし今はそんなことを考えている場合ではなかった。プラントに穴が開いたのである
空気が漏れ出し、ゴミが宇宙へと舞い散っている

(どうする?)

穴をどうやってふさぐのか。穴は決して小さくない、MS一機なら余裕でくぐることのできる大きさである

『・・・・・おい!』

通信が入る。GXがこちらに向かってくる。同時に、二つに分かれたザフト艦隊が小競り合いを始めていた

「あ・・・・ガロード」
『穴をふさぐんだろ? でもおまえは死人だ、あまりザフト軍に近づくなよ。レイも来ている』
「レイが・・・・」
『回収したレジェンドに乗ってんだとよ。ケッ、デスティニーが偽モンの味方だってのは、こっちも先刻承知だけどよ
  まぁいいや。今はこの穴だな』

言って、GXが穴の前に出た

「どうする、ガロード」
『少しだけ、補修用のトリモチがGXの中にある。プラントの中から出ているゴミを集めてくれ
  そいつとトリモチを混ぜて、応急処置用の壁を作ってみる』
「わかった」
『にしても、誰もこっちに来やしねぇ。どうなってんだ?』

工作隊の発進は遅れているのだろうか。プラントの防衛隊は同士討ちを始めている
ラクスを守るもの、ラクスを討とうとするものに分かれ、戦いを行っていた

誰もこっちに来ないのは、自分たちが補修に当たっているからだろうか
それでもなにか釈然としない。皆、ラクスに心を奪われてしまっている

ゴールドフレームがゴミをかき集める。GXがそれに少しずつトリモチを混ぜて、徐々に大きなものにしていく
幸い、まだ人が飛ばされてくるということは無い
ある程度穴をふさげる大きさのモノにしたら、二機のMSはプラントの中に入り、内側から応急処置を施した

「これで大丈夫かな。完全に密封はされてないだろうけど、工作隊が来るまではどうにか・・・・」
『おい、シン。こりゃどうなってんだ?』
「え?」
『なんか火の手があがってるぜ』

GXが指差した先に、プラントの居住区がある。そこのビルが一つ、火事になっていた

「なっ・・・!? プラントで火事?」

プラントで空気は大切なものだ。だから空気を汚す火事には敏感で、万全な防火態勢が整えられているはずである
だから火事はすぐに消火されるのだが、ゴールドフレームのカメラがとらえた映像は、暴徒と化した民衆の姿だった
彼らは口々になにかを叫び、警官隊とぶつかり合っている
誰が火をつけたのかは知らないが、暴徒のせいで消防隊が動けないのだ

『コロニーに穴が開いたっつーのに・・・・なにやってんだよ、こいつら! クソッ!』

GXがブーストを吹かし、火事の起こっているビルに向かう。シンは一瞬、迷った
ゴールドフレームはザフトの機体ではない。だから派手に動くのはあまりいいことではない
その時、ゴールドフレームの特性を思い出す。ミラージュコロイド
姿を消して動けば、問題はないはずだ。ミラージュコロイドを起動させ、姿を消す

「・・・・・!?」

瞬間、なにかが空間から姿を見せた。デスティニー。それが巨大なビームライフルを構え、放つ

ドォン! 強大なビームが放たれ、シンたちが苦労してふさいだ穴を吹き飛ばす
同時にまた空気が巻き上がり、穴から宇宙へとゴミが投げ出されていく
いや、ゴミだけではない。木々や土なども、巻き上げられていった

(まさか、フリーダムじゃなくてあいつがやったのか!?)

赤い翼を持つ、禍々しい機体をシンは見つめた。奥歯を噛み締める
民間人がいくら死んでもいい。そのMSは、そう言っているようだった

「野郎・・・・!」

コクピットで吐き捨て、ミラージュコロイドを展開したまま、そろりとオツキノカガミを構える
オツキノカガミはビームシールドだが、出力を変えることでビームソードにもなる
テンメイアカツキのツムガリはこれを参考にして造られたのだ

じわり、とゴールドフレームは近づいた。瞬間、デスティニーが強大なビームライフルをこちらに向ける

『ミラージュコロイドですか? ククク、気配の消し方がなってませんねぇ・・・・』
「なっ・・・!」

ドシュゥゥゥ! 高出力のビームが放たれ、とっさにシンはミラージュコロイドを解いてビームシールドを展開する
寸前で防御したが、あまりの出力にゴールドフレームは吹っ飛ばされ、無様に地面へ叩きつけられる

『一つレクチャーしてあげましょうか? ミラージュコロイドを使う場合は、移動は物音を立てぬよう、慎重を期すること
  また、事前に姿を消すところを見せないこと
  そして長く展開すればするほど、気づかれる可能性は高いので、奇襲は手早く行うこと
  わかりましたか?』
「貴様ッ! プラント内でビーム撃つなんて、正気かよ!」
『さて、正気じゃないかもしれませんねぇ? だったらこういうのはどうですかぁ!? あははははは!』

耳障りな高笑いが聞こえると、デスティニーは長射程ビーム砲を背中に収納し、通常のビームライフルを引き抜く
同時に、なんとそれをあたり構わず乱射し始めた

ドォン、ドォン、ドォン! ビームは散乱し、プラントを傷つける。その一つが居住区に放たれ、暴徒たちが吹き飛んだ
シンがカメラをアップする。そこにあったのは・・・・・血まみれの死体・・・・・・・・死体・・・した・・・

なにかが、シンの頭にフラッシュバックする。思い出す。家族、両親、妹
こうやって流れ弾に当たって死んだ。死んだ。死んだ。

「あ・・・・ああ・・・・・あんたは・・・・あんたはぁ・・・・あんたって人はァァァッ!」

ぱぁぁぁん

シンの頭で『種』がはじける
同時にゴールドフレームが起動、オツキノカガミを全身に展開し、デスティニーに特攻する

『あはははは、虫けらを殺しただけじゃないですか! なにが気に入らないんですかぁ?
  気に入らないんですかぁ? あはははははッ!』

デスティニーがビームライフルを次々と放ってくる。オキツノカガミがそれを防ぐ
後、数歩。その瞬間、デスティニーが翼を広げ、逆にこっちへ間合いを詰める

「・・・・な!?」

数瞬。気づけば、ゴールドフレームの頭部はデスティニーの右手に握られていた

『性能差、忘れちゃったんですねぇ? ざ・ん・ね・ん・・・・アヒャヒャヒャヒャッ!』
「う・・・・ぁ・・・・」

ドォン! デスティニーの右手が光り、ゴールドフレームの頭部が吹き飛ぶ
そのままの勢いで、ゴールドフレームが地面へ叩きつけられる
同時にコクピットのメインモニタが死んだ

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「どうなってんだよ、こりゃあ!?」

ガロードは目前の光景に戸惑っていた。ガロードにとって、暴動というのを見るのは初めてである
しかしプラントに穴が開いているにも関わらず、なにをやっているのか
穴が遠くて気づかないのかもしれないが、ならなぜ火事になっているビルを放っているのか

民衆は口々になにかを叫び、警官隊に石を投げつけたりしている
GXを人気のない居住区に降り立たせ、ガロードはスピーカーをオンにして叫ぶ

「やめろおまえら! このコロニーには穴が開いてんだぞ! 
  応急処置だっていつまでももたねぇ! 外じゃ戦闘が始まってんだ、こんなことしてる場合じゃねぇ!」

すると一瞬、民衆が足を止めた。ガロードはすぐさまGXのビームソードを引き抜き、頭上で振り回す

「暴動をやめろ! そんなことしてる場合じゃねぇ! 俺は『FAITH』のガロード・ランだ!」

もうやめたけど。語尾にこっそりそうつけて、ガロードは叫ぶ
ビームソードを頭上で振り回しながらGXをゆっくりと進ませ、警官隊と民衆の間に入る

「早く避難しろ! 死んじまうぞ!」

とにかく力ずくでも暴動を止めさせてやる。そう思いながらGXは、暴徒たちと対峙する
その瞬間だった。遠方からビームが飛んできて、民衆を吹き飛ばしたのは

(攻撃!? どこから・・・・・!?)

とっさにGXは旋回し、ビームが飛んできた方向を見る。いた
デスティニーと呼ばれるMSが、シンのゴールドフレームと対峙している
そう思った瞬間、デスティニーがゴールドフレームの頭をつかみ、吹き飛ばした

とっさにガロードはシンの救援に向かわんと、GXを起動させようとした

その時だった

始めにやってきたのは振動だった。攻撃を受けたのかと思ったが、それにしては振動が長い
何事かと思い、計器をチェックする。異常はない。ふと眼下を見下ろした時、民衆や警官隊がバランスを崩して転倒していた

(地震・・・・・?)

ようやくその時、大地が震えているのだと気づいた

ドショォォォォッ!

そしてガロードは見た。プラントを貫く巨大な閃光、レクイエムを

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月アルザッヘル基地
大西洋連邦ジョゼフ・コープランドは、アカイ大佐からの報告を受けて血相を変えた

「レクイエムが発射されただと!? いつだ!」
「ついさっきです。プラントに向けて、ぶちかまされやした」
「ジブリール・・・?! あの戦争屋め、どうでもコーディネイターを滅ぼさねば気が済まんのか!
  和平を弱腰と考えるような夢遊病者と、手を組んだのがそもそもの間違いか
  わかった、アカイ大佐。ニレンセイ中佐と共に月の軍をしっかり掌握しておいてくれ」
「へぇ、わかりやしたが、どうしてですかい?」
「ブルーコスモスへの同調者が我が軍には多い。それにラクス・クラインの崇拝者もな
  そういう人間を裏切らせるな。それにしてもジブリールめ、撃てば撃たれるということがわからんのか!」
「了解しやした。軍を引き締めなおしやす」

アカイが敬礼し、大統領室から出て行く。それを見届けるとジョゼフはすぐに秘書に命じて、回線を開いた
相手先は同じ月にあるダイダロス基地、ロード・ジブリールである

巨大なモニタが切り替わり、冷酷な顔をした青年が登場する

「これはこれは大統領。祝辞でも送ってくれるのですか?」
「大西洋連邦に対して、無断での大量破壊兵器の使用。ご説明願えるのでしょうな、ジブリール?」
「心外ですね? コーディネイターを殺すのに、許可が必要だとは思いませんでしたよ」
「あちらはジェネシスを持っているのですよ。レクイエムの報復でそれが地球に撃たれたら、
  いったいどう責任を取るおつもりなのですか!」

ドンッと、大統領が机をこぶしで叩く。しかしジブリールは酷薄な笑みを浮かべたままだ

「大丈夫ですよ。デュランダルはラクスとの戦争で手一杯です。報復する余裕などありません
  今回のレクイエム発射、不幸にも偏向基がザフト軍の襲撃を受けたため、わずかに照準がずれましたが、
  なーに・・・・次はアプリリウスをきちんと落として差し上げますよ」
「・・・・プラント側の被害は?」
「ヤヌアリウスを含めて、わずか六基。たった150万しか殺せませんでした」
「・・・・・・・」

ジョゼフは秘書に、回線を切れとうながした。現実の見えないバカに付き合ってられなかった
今、プラントを攻撃することがどういうことなのか、まったくわかっていない。しかも民間人の大量虐殺である
選挙の時はロゴスに世話となったが、これ以上付き合えば、自分は史上最低の大統領となるだけだ
ジョゼフはこの時、ロゴスとの断交を腹で固めた

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サザビーネグザスは動かなかった。指揮に専念しているのか、それともなにか事件でも起こったのか
ラクスの演説により、ザフトの同士討ちが始まったのでムウはすぐに逃げようとしたが、レジェンドが追撃してくる

『ギルの邪魔をするな、ラクスッ!』
「うッ、なんだよこの不愉快な感覚は!?」

次々と放たれてくるドラグーン。まるで、クルーゼと戦っているような錯覚を覚える
戦ってる時ぐらい、妄想もいい加減にしろとムウは言いたかったが、クルーゼの感触がレジェンドから消えない

『フリーダムのパイロット・・・なんだこの感覚は!』
「ええい、しつこいんだよおまえ!」

ムウは相手が、空間認識能力者であることを悟った。アーモリーワンで出会ったこともあるような気がした
そんなことを考えながらビームを撃ち合っていた時だ

ドシュゥゥゥゥッ!!

突如、巨大なビームがどこからかやってきて、六基のプラントを貫いた
それは貫いたというより、ビームがなぎ払ったという感じで、六基のプラントは粉々になる

「な、なんだこりゃあ!?」
「これは・・・・」

ムウは目を丸くする。なにが起こったのか、さっぱり理解できない
ラクスも同じで、呆然となぎ払われ、崩壊し、チリになるプラントを見つめていた
同士討ちをしていたザフトも、戦う手を止め、静止している

『ムウ』

唐突にシャギアから通信が入ってくる

「な、なんだ?」
『今が機だ、逃げるぞ』
「あ・・・・あ、ああ」

思考がうまくまとまらない。なにが起こったのか、正直なところさっぱりわからない
ただなんとなくフリーダムを動かして、プラントから全速力で離脱する

「わたくしに追従してください」

ラクスがとっさに、寝返ったザフト艦に告げる。するとそれらもフリーダムやヴァサーゴに追従してくる
それに気づいたザフト艦が数隻、追撃をかけてきたが、ヴァサーゴがメガソニック砲を放ってなぎ払った

そうして戦線から離脱したところだ。アークエンジェルから通信が入ってくる
クーデターに失敗したと同時に、こちらに進路を取っていたのだろう
ムウはほっと息を吐いて、アークエンジェルのカタパルトに向かった

「やーれやれ。とりあえず生き延びたか」
「・・・・・・・」

わざと気楽そうに言って、着艦する。その時ムウは、コクピットの中でラクスがなにか考え事をしているのに気づいた
落ち込んでいるのではない、考え事をしているのである
なにを考えているのか、少しだけ気になったが、ああいうことがあったので聞きづらかった

ムウはフリーダムをハンガーに固定すると、ほっと息を吐いた
それから考える。いったい、あの巨大なビームはなんだったのだろうと
プラントが六基、壊滅した。一基あたりの人口がだいたい25万だから、150万ほどが一瞬で死んだことになる
いったい、なんだったのか。あまりに一瞬の出来事だったため、目の前で人が一人死ぬより、ずっと現実感が薄い

「シャギアさん、ムウさん、ブリッジに参りましょう」

ラクスはフリーダムから降りると同時に、そう言った。ムウとシャギアはうなずき、彼女に追従する
先ほどまで考え事をしていたようだが、今の彼女はいつもどおり決然としていた

ブリッジに向かうと、キラが待っていた。彼はほっとした顔で、ラクスを抱きしめる

「ラクス! よかった・・・・」
「ええ、キラ・・・・。心配かけて申し訳ありません」
「こうして君がここにいる。それが本当に嬉しい」
「わたくしもですわ、キラ」

言って、二人は抱擁を終えた。ムウはブリッジを見回す
艦長であるマリューの他は、ドムトルーパーのパイロットがいるだけで、他のメンバーは見当たらない

「おいマリュー。虎やロアビィはどうした?」
「まだコロニーメンデルで待機しているわ
  ストライクフリーダムの修理は終わったけどね、他の戦艦もまだ動けないし・・・
  私たちは、ちょっとミネルバといざこざがあった、ヒルダさんたちを拾って、すぐにこっちへ来たの」
「そうか。しかしなにが起こったのかねぇ? いきなりどこからかビームが飛んできたんだもん」

するとシャギアが、ゆっくりと首を振って口を開く

「なにが起こったのか、具体的にはわからんが、誰がやったのかはわかる」
「シャギア?」
「月のロード・ジブリールだろう。プラントを無差別に破壊しようなどと考える男は、彼しかいない
  またそれだけの力を持っているのも、な」
「ロゴスか・・・・」

ムウは憂鬱な気分になる。記憶が無かったとはいえ、かつての自分はロゴスのために働いていたのだ
そういうことを考えると、ひどい後悔が自分を包んできた

そういえば、シャギアも記憶がないのだという。今のところ彼は自身の立場に疑問を感じていないようだが、
もしも記憶を取り戻せば、自分のように後悔したりするのだろうか

「・・・・・申し訳ありません、ラミアス艦長。至急、メンデルへ通信を開いてはいただけませんか?」
「ラクスさん? ええ、わかったわ」

マリューはミリアリアに言って、メンデルへの通信を開かせる
メインモニタが切り替わり、出てきたのはアンドリュー・バルトフェルドだった

『失敗だったか、ラクス?』
「ええ。わたくしたちの味方をしてくださる議員の方も、逮捕されてしまいました」
『・・・・すまん。俺のミスだ。情けないが俺の立てた作戦は、すべて失敗している
  砂漠の虎の名が泣くよ、まったく』

バルトフェルドはいらだっているようだった
前大戦では戦術家として名をはせた彼だが、こと今回の戦いに関しては後手後手に回っている
ただ、無理もないとムウは思った。バルトフェルドの得意はゲリラ戦である
大軍を率いての作戦展開は、不慣れなはずだ

「皆さん、聞いていただけますか?」
「ラクス?」

いきなり口を開いたラクスに、キラが首をかしげている

「わたくしはこれより、全オーブ軍をもって、プラントに攻め込むことを提案いたします」
「え・・・・?」
「なっ・・・・!?」

キラとムウはほとんど同時に驚いた。バルトフェルドもマリューも、ぽかんと口をあけている
シャギアだけが、腕を組んでじっとラクスを見つめていた

「議長もこのタイミングで、まさかこちらが攻め込んでくるなどと考えてはいないでしょう
  疾風の勢いでわたくしたちはプラントを制圧し、それからすぐに月へ向かいます」
「月へ?」
「ええ、キラ。諜報によれば、おそらくあれはロゴスの新兵器レクイエム。
 月へ向かい、そのレクイエムを破壊するのです
  デスティニープランも、レクイエムも、この世にあってはならないものなのですから
  いかがですか、バルトフェルド隊長?」

ラクスがモニタを見上げると、バルトフェルドが沈思する。ややして、手を打った

『ラクス。それ、いけるかもしれんな。確かに戦機はここしかない
  今、メンデルから全軍を全速で発すれば、奇襲になる』
「ええ。それに、ザフト軍の皆さんも協力してくれていますわ
  戦力は、以前よりも増えています」
『だが問題は、サザビーネグザスがどれほどのMSかわからんということか。キラ』
「なんでしょう?」

呼ばれ、キラがモニタのバルトフェルドと視線をかわす

『サザビーネグザスは、デュランダルの切り札と考えていい。ストライクフリーダムが頼りだ
  おまえに任せていいか?』
「・・・・はい。大丈夫です。僕はもう、誰にも負けたりしませんから」
「わたくしからもお願いしますわ、キラ。あなただけが、頼りなのです」
「うん。任せて、ラクス?」

するとバルトフェルドが景気よく両手を叩き、こぶしを握り締めた

『よし、こうしちゃいられん。すぐにエターナルを始めとする艦をメンデルから出す
  忙しくなるぞ! 最終決戦だ、おまえら気合を入れろ!』

するとアークエンジェルのブリッジで歓声があがった。ドムのパイロットたちも、両手をたたきあっている
戦場におもむく兵士たちの、陽気な開戦宣言のように見え・・・・

(なんだ、これは?)

急速に、ムウの中で熱が冷めていく。おかしい。これはどう考えてもおかしい

「待てよ!」

気がつくとムウは叫んでいた
すると、歓声をあげていたブリッジクルーたちが、はしゃぐのをやめていっせいにムウの方へ視線を送ってくる

「ムウさん?」
「キラ、おまえおかしいと思わないのか?」
「おかしいって・・・・わたくしたちのなにがおかしいのでしょうか?」

ラクスとキラがきょとんとした顔で、ムウを見つめてきた

「おかしいに決まってんだろ! おまえら、なにがあったのかわかってんのか?
  プラントで大量虐殺が起こったんだぞ!?」
「その通りですわ。だからわたくしたちは、レクイエムをいち早く破壊しなければならないのです」
「違う! だから、なんで大量虐殺に襲われたところへ、奇襲なんかかけるんだよ!
  せめて被災者の収容や、対策とかがきちんとされてから・・・!」
『おい、ムウ・ラ・フラガ。そんな悠長なことができるか。被災者のきちんとした対策なんか待っていたら、数年はかかるぞ?』
「せめて一ヶ月ぐらい待てよ! 今、攻め込んだら、プラントは無茶苦茶になるぞ!」
「落ち着いてください、ムウさん」

なだめるように、キラが肩を叩いてくる。ムウはとっさにそれを払いのけた

「坊主! おまえはなにも思わないのか?
  おまえたちのやろうとしてることは、たくさんの被害が出たプラントへ、さらに追い討ちをかけるような行為なんだぞ!?」
「でも、これ以上デュランダル議長を放っておくわけにはいきません」
「俺たちがプラントを攻撃したら、一番ひどい目にあうのは市民だろうが!」

するとラクスがムウの正面に立ってくる

「ムウさん、落ち着いてください。どうか冷静になってください・・・・」
「ラクス。おまえらこそ落ち着け! 攻撃が成功すりゃまだマシだが、オーブ軍の攻撃が失敗してみろ・・・・
  疲弊したプラントに対して、それこそジブリールがなにやらかすかわかりゃしねぇ!」
「ムウさん。心配することはありませんわ。わたくしは、ムウさんがロゴスのために働いていたことなど気にしておりません
  仲間でしょう? だから、過去になにをやっていたのかはどうでも良いことです」
「おい、そりゃどういう意味だラクス!」

頭に血がのぼる。反射的に、ラクスの胸倉をつかみ上げた
瞬間、キラが飛び、ムウの頬に裏拳を叩き込んできた

「ぐっ・・・!」
「やめてくださいよ、ムウさん!」

キラがラクスをかばう。よろめいたムウは、誰かにつかまえられた。ドムのパイロット、ヒルダだ
そう思った瞬間、他のドムパイロットに腹を思いっきり殴られた。一瞬、呼吸が止まる

「ぐほっ!」
「ラクス様につかみかかるなんて、いい度胸してるじゃないか!」

バキッ、ドコッ!

ドムのパイロットたちに、顔や腹を殴られる。コーディネイターである。ナチュラルのものとは比べ物にならない威力だ
ムウはとっさにこぶしを放って反撃したが、それもあっさり受け止められる

「おやめなさい!」

しかしラクスが間に入ってきた。それでどうにか、ムウはリンチから解放される
よろめきそうになるムウを、とっさにマリューが支えた

「どうしたんだ、おまえらしくない」

シャギアがなにか言っている。しかしそれを最後に、ムウの意識は途絶えた

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次にムウが目覚めたのは、アークエンジェルの営倉だった
薄暗い部屋で、自分の体には毛布がかけられている
身を起こすと、体のあちこちが痛んだ

「起きたか?」
「シャギア?」

扉の向こう側で、オールバックの男が腕を組んでいる
いくらか憂鬱そうな顔だった。そういえば、頭痛があるとか言っていたか

「三日間の営倉入りだ。ラクスにつかみかかったのはまずかったな
  それと、発言するのはいいが、時と場所をわきまえろ」
「チッ・・・・言ってくれるぜ」
「マリュー・ラミアスを呼んできてやる」
「すまん」
「いいさ」

シャギアが去ると、しばらくしてマリューが姿を見せた
彼女は営倉の扉を開けて、中に入ってくる。手には救急箱が握られていた

「じっとしててね」
「ああ・・・・」

マリューが打ち身になったところへ、塗り薬をぬってくる
薬がしみて、ムウは顔をしかめた

「どうしてあんなこと言ったの、ムウ?」
「俺はおかしなこと言ったか、マリュー?」
「え・・・・? そうね。大きく間違ったこと、言っているとは思わないけど、ラクスさんの意見の方が正しいと思うわ」
「そうか・・・・。じゃあ、俺がおかしいのかな」

言って、ムウは治療するマリューの手を払いのけた
拒絶されたマリューが、困惑の表情を浮かべている
それを無視して、ムウは毛布へくるまった

「ムウ、どうしたのよ? すねるなんてあなたらしくないわ」
「うるせぇ! ほっといてくれよ!」
「ムウ?」
「一人にしてくれ、マリュー」
「ちょっと、なに怒ってるのよ。最近のあなた、少しおかしいわ」

マリューが、ムウがくるまっている毛布をゆする
しかしその手を払いのけた

「いいから出てけ、マリュー!」
「あ・・・ごめん、なさい・・・・」

マリューが救急箱をしまい、営倉から出て行く。それから鍵がかけられる音がした
しばらくして、ムウはひどい自己嫌悪に襲われた
いったい自分はなにをやっているのか

「これが・・・・『エンデュミオンの鷹』の、成れの果てかよ・・・・・」

泣きたくなった。ぼこぼこに殴られ、営倉にぶちこまれ、恋人に八つ当たりする
そして毛布にくるまり、現実から逃げているのだ。自分が情けなくてしょうがない

目を閉じる。なぜか、シンの顔が思い浮かんだ
あいつはまだ戦っているのだろうか。まだステラを幸せにしようとしているのだろうか
まだ戦争を終わるなどと、バカなことを言っているのだろうか

「シン・・・・。俺にはできない。なにも止められない、なにも変えられない
  なぁ、俺、なんのために生き延びたのかな・・・・なんのために、こんな無様・・・・」

寝そべったまま力なく右こぶしを振り上げ、地面に叩きつける
情けない男だと、暗闇の中で自嘲する

「俺、やっぱ死んでりゃよかったよ」

ムウのつぶやきは、薄暗い営倉の中へ消えた