クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第074話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:24:12

第七十四話『反撃の声を』
 
 
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ネオ・ロアノークのことは、よく知らない
ただ、彼はステラとシンの恩人だった。そしてネオを殺したのはシャギア・フロストだった
ガロードにはそれだけで十分だった

「この・・・・野郎ッ!」

DXが闇雲にバスターライフルを乱射する。ヴァサーゴ。肩部に命中する

『チッ・・・・!』
「シャギア! てめーは、いっつもどこでも、やるこたぁ一緒だな!? ええッ!?
  人を殺して、不幸にして、事態をとことん引っ掻き回す! おまえだけは許しちゃおけねーんだよッ!」

DXはブレストランチャーを開放。ヴァサーゴに降り注ぐ、弾丸の雨。機体の装甲に傷を作っていく

テンメイアカツキとSフリーダムは動いていない。オーブ艦隊も静止している
まるで時が止まっているかのような空間で、DXとヴァサーゴは戦っている

『調子に乗るなよ、ガロード・ラン!』

強引に弾丸の雨を潜り抜け、ヴァサーゴがクロービームを放つ
DXのバスターライフルがそれで吹き飛んだ。さすがに強い

「ケッ! 一人っきりのてめーなんざ怖くねーんだよッ!」

シャギアが強いのは、弟のオルバ・フロストと一緒だったからである
単体のヴァサーゴは手強い相手だが、ガロードとDXほどではない

ヴァサーゴを蹴り飛ばし、DXがハイパービームソードに手をかける。その勢いのまま、居合い抜き
ヴァサーゴの胸部をかすめ、悪魔のような胸に傷がつく

「シン! なにやってんだ! 動け! 動かなきゃ死んじまうぞ!」

静止しているアカツキに呼びかける。逃げるにしろ攻撃するにしろ、今がチャンスなのだ
恩人の死でショックを受けているのはわかるが、自分が死んでは話にならない
アカツキは、ビーム以外への防御力が低い。レールガンがコクピットに直撃すれば、それで終わる

『・・・・まだ戦争がしたいのか、あんたたちは?』

シンの声。なにかを搾り出すような、想いを吐き出すような声
それでいて人の心を揺り動かす声。そういえばシンは、想いを声に乗せるようになった。いい声を、し始めた
ガロードは、そう思う

ヤタガラスから少し離れた場所に、民間船が静止している。それは小型の船で、当然非武装である
ところがどういうわけか、民間船に隠れるように一機のMSがじっと戦域を見つめていた
そのMSは大型の、武器らしきものを肩に背負っている

いや、それは武器ではない。なんとMS用の高性能望遠カメラである
もう片方の手には大型のパラボラアンテナを構え、通信を傍受していた
それは、専用回線にすら割り込み、声を拾っている

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プラントは大混乱だった
レクイエムの傷は大きく、また再発射がいつになるかわからないとあって、住人は避難を始めたのだ。
プラント最高評議会はすぐにザフト宇宙軍の月基地派遣を決定し、その中核には新設されたバレル隊が当たることになった

そんな折である。マスコミ各社へ、デュランダルから要請があった
要請とあるが、デュランダルの権力を考えればそれは事実上の命令である。
内容は、とあるフリージャーナリストの中継する映像を、生のままプラント各市へ流せというものだった
奇妙な要請だったが、使われた回線はデュランダルしか知らぬ専用のものである
マスコミ各社は要請に従い、中継を行った

街頭テレビ、電気屋のテレビ、各家庭のテレビ、ネットテレビ、それらが一斉に映像を流す

まず映ったのは、髪の一部を金色に染めた、ラフな青年ジャーナリストである
彼はコクピットの中でマイクを握っており、カメラがモニタしている映像を映し出した

『お邪魔します、プラント市民の皆様。この映像はギルバート・デュランダル議長が提供する、生放送です
  突然ではありますが、いまカメラに映し出されているのはプラントの近くで起こっている現実の話です
  私は今日、ここに皆様へ真実をお届けにあがりました』

アプリリウス、中央の街頭テレビで人々が足を止める
ラクスの扇動によって行われた暴動の痕跡はまだ残っているそこで、人々は息を呑んだ

「あれ・・・・ラクス様のエターナルじゃないのか?」
「アークエンジェル・・・・それにオーブ軍・・・・ザフトもいる」

人々がざわめく
映し出されるのは、オーブ軍と対峙するヤタガラス
そこから次々とMSが出撃し、オーブ軍の前に立つ

「ダブルエックスだ! ザフトのガンダムダブルエックスだ!」

映像を見て、誰かが叫ぶ。人々のざわめきが広がる

「どうしてダブルエックスが、ラクス様に・・・・・?」
「ヤタガラスってオーブ軍じゃないのか? どうなってるんだ?」

オーブ軍の前に立った、ガンダムDXがサテライトキャノンを展開し、構えるとさらにざわめきが広がった

『全オーブ艦隊に告げる。こちらはプラント最高評議会、特命親善大使シン・アスカ
  ただちにプラントへ向かうのをやめ、引き返されたし』

その言葉が響いたとき、市民は驚きを見せた
誰もがモニタに釘づけとなる。ラクスがなんのために軍を引き連れてプラントにやってくるのか
なぜダブルエックスはオーブ軍に立ちふさがっているのか。誰もが口々に疑問を口にして、あちこちで口論が始まる

それは、正しく一つの事件だった

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「そうか、無事に安全なところへ移せたか。ご苦労だったな。報酬は後で支払おう」

アメノミハシラの執務室で、ロンド・ミナ・サハクは電話を切った
それから控えている、タカマガハラの馬場一尉を呼び、ミネルバへ吉報を伝えさせた

一仕事を終えたミナは、使用人に紅茶とショートケーキを運ばせた
それからテレビをつける。プラントの放送だ

(マスコミ。武器を持たぬ戦争、か)

こういう時に、デュランダルの凄みが見える。彼は大きくその力を失っている状態でも、反撃の手を休めない
コーディネイターにしては異質なほどの不屈さだった
なるほど、こういう男だからこそ、前大戦で深刻なダメージを受けたプラントを立て直せたのだろう

顔見知りのジャーナリストが、ヤタガラスにこっそり随行したいと言った
その話を聞いたデュランダルは、なんとジャーナリストに議長権限を与えたのだ
具体的に言えば、プラントで放送を行う権利である

今、それを使ってプラントでは生放送が行われている
ヤタガラスは小競り合いをしながら、シンがラクスと交渉している
親善大使の名の下に、プラントへの攻撃をやめろと、粘り強く交渉している

ミナは放送を見つめながら、ショートケーキを口にした。それから紅茶を流し込む
MS戦は徐々に激化し、ついに一機のMSが撃墜された。フリーダムである
ハンカチで口元をぬぐうと、ミナは黄金に輝くMSと、エターナルを見つめる

「ラクス・クライン。もしもあなたが奪ったのがオーブでなければ、私はあなたを応援していただろうな
  だがオーブを奪ったという一事、どうしても許せぬ。あなたは異常な魅力を持つ
  多くの人々は、あなたを愛しているだろう。・・・・・だが」

シンとラクスの会話。専用回線で行われているが、すべて筒抜けである
プラント市民の多くが、二人の会話を聞いている。ラクスはプラントを『解放』するつもりなのだろう
だが、シンはラクスが『レクイエムによって撃たれたプラントを攻撃』すると言った
ラクスはこの件に関してまともな反論をしていない。これは致命的な失策だ

ミナは自分の体をソファに預けて、微笑を浮かべた

「傲慢であったな。あるいは自分の魅力に、自信がありすぎたのか
  ラクスよ、あなたはオーブ生まれの少年によってつまずくのだ。
  プラントを討つ者と、プラントを守る者
  こうもわかりやすい図を見せられて、人はどちらを支持するのだろうな?」

『・・・・まだ戦争がしたいのか、あんたたちは?』

シンが言葉をしぼり出している。いいぞ、やれ。自分を抑えるな
完璧な理屈や論理、それが人の心を揺り動かすこともあろう。だが本当に人を動かすのは、魂のこもった叫びだ

「さぁ、シン。反撃の声を。おまえが歴史の表舞台に出る時が来たのだ。ステージは用意された
  おそらく、今日のこの日は、歴史に記される。シン・アスカを、多くの人に知ってもらうがいい
  これからが辛いぞ。知られるということは、それだけで人の憎しみを受ける理由になる
  だがおまえが望んだ道だ。迷わずまっすぐに行けよ?」

ミナは執務室の天井を見つめながら、満足そうに笑った

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バルトフェルドは専用のクラウダでアークエンジェルに移動していた
彼がブリッジにあがると同時に見た光景は、メガソニック砲で吹き飛ばされるフリーダムだった

「な・・・・? どういうことだい、これは!?」

バルトフェルドも思わず叫んだ。自分はほとんど状況を把握できていない
アークエンジェルがローエングリンで狙われたことを知って、手を打ったぐらいなのだ
だから急いでアークエンジェルのブリッジまでやってきた

「ムウさんが、亡くなられました」

ラクスが奥歯をかみ締めて、一言だけそう告げる。それでバルトフェルドは、ムウ・ラ・フラガの死を悟った
反射的に、艦長席へ座るマリュー・ラミアスを見る。彼女は声を失ってそこにいた
瞳は大きく見開かれ、呆然としている

「ラクス。全軍に転進を命じてくれ。ヤタガラスとぶつかったところで得るものはほとんど無い」

ムウの死にショックが無いわけではない
ヴァサーゴに殺されたというのも気になるところだが、今はそういう場合でもなかった

「ば、バルトフェルドさん!」

オペレーターのミリアリアが声をあげる。即座に反応して、通信士の席を見た
そこに映し出されているのは、一人のジャーナリストと、この宙域だった

「なんだこりゃ?」
「この宙域での戦闘が、プラントで生放送されているそうです」
「なんだって・・・・?」

バルトフェルドは頭を抱えたくなった。つまりもうプラントへの奇襲はできなくなったということだ
誰がそんなことを。デュランダルか。いや、もしも軍部が動きを把握していなければ、まだ奇襲はきく
だがプラントで生放送している時点で、ザフトはすでにオーブ軍の動きをつかんでいるのではないか

「とにかく、シャギア、ロアビィ、キラを戻してアークエンジェルにつかせてくれ
  ここでの交戦は無意味だ」

焦燥がバルトフェルドの胸を焼く。『砂漠の虎』の名折れどころではない
こうまで失態が続いては、最低でも責任を取って少将の地位を降りなければならないところだ
だが自分以外に作戦の立案、指揮が出来る人間がいない

『・・・・まだ戦争がしたいのか、あんたたちは?』

誰かの声が聞こえる。少年の声だった。バルトフェルドが顔をあげる
黄金色に輝くMSがそこにいる。なにを言っているのだ。声を無視する
それに今はそういう場合ではない。すぐに艦隊の動揺を沈めて、プラントに・・・

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頭の中に怒りがある。真っ白な怒り。激情は冷静な判断を狂わせる。それゆえ、できる限り抑えるようにしていた
だが感情がすべてを押し流していく。シンはアカツキのコクピットで、かっと目を見開いた

目前にはアークエンジェル。オーブを奪い去り、今またプラントを攻め落とそうとする『歌姫の騎士団』
それがネオを殺した。そう、死んだ。ネオは二度も死んだのだ

まだ戦争がしたいのか。もう一度つぶやく。つぶやきが大きくなって、声になる

「なにが平和の歌姫だ。なにが前大戦の英雄だ。なにがラクス・クラインだ・・・・・
  自分の命を軽く扱って、他人の命も軽くして、それで戦争をしたがっているだけじゃないか」

激情がシンを埋め尽くす。喪失感。それと同等の怒り
分かり合えない。そんなことなど最初からわかっていたはずだ

『誰が戦争を望むというのですか? これほどの悲劇を生み出すものを
  また一人、人が死にました。わたくしたちにとってもかけがえのない人が
  シン・アスカ。あなたはなにを望むのでしょうか? なんのために戦っているのでしょうか?
  『天命』と名乗るその機体は、本当にそのような天命をあなたに与えたのですか?』

ラクスがつぶやくようにそう告げる。

「黙れ! ネオはあんたを否定したんだぞ。ムウ・ラ・フラガはあんたにとってもかけがえの無い仲間だったはずだ
  なのに命がけで、あんたのプラント行きを阻止しようとした! 裏切者の汚名を背負ってまで!
  なにが、なにがかけがえのない人だ!
  あんたはぜんぜん平気じゃないか! ネオが死んでもまだプラントを討とうとしているッ!」
『討ちたいわけではありません。人々の自由な未来を・・・・』

『・・・・死んだらおしめぇだろうが! 自由もクソもねぇッ!』やって来る。ガンダムDX。ガロードの声『だいたい、
  自由のために戦争っつーのがおかしいんだよ! 俺は頭悪いからよくわかんねぇんだけど、
  具体的に、自由を奪われるようなことなんかされたのかよ? どこに戦争やる必要があったんだ?』
『いいえ、危機を未然に防ぐことが重要なのです。あなたのガンダムDXもそうでしょう
  その大量破壊兵器は、人にとって不要な物。ならば、』
『ヘッ、歌姫さんよぉ。本当にDXは必要ねぇのか?
  俺がサテライトキャノン撃たなきゃ、ユニウスセブンは地球に落ちてたわけですが。
  その件に関してどうお考えか、聞きてぇもんだぜ』
『それは・・・・・』

ラクスが言葉に詰まった。シンはDXを見る。そこにいるガロードが、ぐっと親指を立てたような気がした
デュランダルに教えられた宿題。考え続けてきたこと
なぜ、ラクス・クラインに頼らないと、プラントを立て直した男は言ったのか。シンは口を開く

「ダブルエックスは危険だと言う。だから、ストライクフリーダムやクラウダを建造する
  人々の未来を奪うからデスティニープランはいけない。だからオーブを乗っ取って、プラントを討つ
  戦争はいけないから平和にしなくちゃいけない、だから戦争をする・・・・」
『・・・・・・・』
「口にする言葉は美辞麗句。耳障りのいい言葉ばかり
  そのくせ、武力解決以外の方法を決してやらない。政治的な交渉などやったこともない
  必ず戦争を行って、我を通す。戦争をしたら多くの人が泣くことなど理解していない」

突如、アカツキらを包囲していたグフが、シンの言葉をさえぎらんとスレイヤーウィップを放ってくる

ドォン! しかしそれはビームライフルの攻撃を受け、鞭がはじけ飛ぶ
振り返るとインフィニットジャスティスがビームライフルを構えていた

『シン。続けろ! 舞台は整っている・・・・ただのパイロットが世界を変えて見せろ!』

アスランの声。インフィニットジャスティスが、エアマスターが、ガイアが、Dインパルスが。アカツキの護衛につく
舞台が整ったとはどういうことか。しかしそんな疑問はどうでもよく、次から次に言葉がわく

今は、仲間たちに、ただ感謝する

「どうしてそんなにも戦争をするんだラクス・クライン!
  あんたは、Dプランに反対する前にプラント最高評議会議長を目指すべきだった
  それなら誰も死なない、戦争なんて起こらない。そんなことぐらい、わからないとは言わせない!」
『わたくしがプラントに戻ることができません。今なお、わたくしを殺そうと思う人は多いのですから』
「じゃあ、今、こうして戦争をしているのはどういうわけだ!?
  戦争をするより、最高評議会の議長を目指す方がはるかに安全だろう!?」

ラクスと理屈を戦わせながら、シンは思い出す。論破に、意味は無い。論破はただ相手をいらだたせるだけ
だがそれはあくまでも、一対一の対話であった場合のみ
もしも大勢の人がその話を聞いていれば、論破はまた別の意味を持つ
 
『いいえ。それに関しては言ったはずです。キラが、前大戦で深い傷を負いました
  それを癒すためには時が必要だったのです』
「じゃあ、どうしてまたキラ・ヤマトを戦争に引っ張り出したんだ?」
『それは、わたくしの命が狙われたせいです。そのためにキラはやむなく剣を取り、戦いました
  そしてわたくしの命を狙ったのはギルバート・デュランダル議長・・・・・』

『残念だが、それは偽者だ』

艦隊に響く声。議長と呼ばれた男の声。すさまじい勢いでやってくる、一隻の戦艦
戦艦、ミネルバ

「議長!」

思わずシンは叫んだ。ミネルバから発せられたのは、間違いなくデュランダルの声である

『よっしゃあ! ようやくとっつあんが出てきたぜ! ざまぁみやがれ!』

ウィッツが手を叩いて、喜ぶ声が聞こえる
シンは、ほっと息を吐いた

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突然の声に、アークエンジェルのブリッジは混乱した

「ハッキングです! オーブ軍のMS、戦艦のサブモニタに介入されています!」

ミリアリアが叫ぶ。モニタが強制的に切り替わり、顔半分を包帯で巻いた男が登場する
クルーが息を呑む。包帯で覆われているとはいえ、それは確かにギルバート・デュランダルだった

かたわらに立っているのは、戦艦ミネルバ艦長のタリアである。彼女は口を開いた

『プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの名において告げる
  ラクス・クライン、ならびにオーブ軍。ただちに戦闘を停止せよ
  デスティニープランは、ギルバート・デュランダルの名において下された政策ではない
  ゆえに、あなたがたに戦う理由は無く、ラクス・クラインはテロリストである
  ただちに戦闘を停止せよ。また、プラントはキラ・ヤマトのオーブ元首就任を認めない』

バルトフェルドは事態の推移に呆然とした。誰が信じられるだろうか
討とうとした敵が、いきなり偽者だと告げられ、そして本物だと名乗る男が現れたのだ
いい加減、頭がおかしくなりそうである

「キラはなにをやっている!」

叫んだ。ロアビィとシャギアは、すでにアークエンジェルの守備についている
だがSフリーダムだけが一向に動く気配が無い。ミリアリアに、Sフリーダムへ呼びかけるよう言った

オーブ軍の、特に元ザフトのMSや戦艦が目に見えて動揺している
バルトフェルドは舌打ちしたくなった。自分は稀代の戦下手として歴史に名を残すのか

瞬間、ブリッジのサブモニタが切り替わった。Sフリーダムのコクピットが映し出される

『僕・・・・は・・・・誰を討ったらいいの・・・・?』

バルトフェルドが息を呑む
キラ・ヤマト。彼は呆然とした表情で操縦桿から手を離し、ただ涙を流していた
キラの流した涙は無重力であるがゆえに浮き、ヘルメットの中をただよっている
そこにいたのは『少年』である。どうしようもなく傷ついて傷ついておかしくなり、ついには心が壊れたただの『少年』だった

「キラ!」
                          ・ ・ ・ ・ ・ ・
ラクスが血相を変えた。珍しい。ラクスが、血相を変えたのだ
バルトフェルドは、いまも彼女の声がプラントに筒抜けであることを思い出す
急いで近寄り、小声で告げる

「ラクス。シンでも、デュランダルでもいい・・・とにかく反論しろ。プラントの人間が聞いてるんだ」
「キラが・・・・キラが・・・・。ロアビィさん! シャギアさん! キラを回収して・・・・
  これでは二年前とまったく同じ・・・・。いいえ、わたくしのせいですわ。わたくしがキラを・・・・・」

ラクスが動揺している。いや、それどころではない。なんとラクスは取り乱している
どういうことなのだ。人の死に心を動かすことはあっても、動揺などすることはなかったラクスが・・・・

バルトフェルドは周囲を見回した。マリューも、ラクスも、キラも正気を失っている
そして目の前にあるのは、想定外の事態である

(負けか)

小声でつぶやく。それから、指揮をとれぬ皆に代わってオーブ軍の退却を告げた

しかし、どこに逃げるというのか