クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第080話

Last-modified: 2016-02-22 (月) 23:47:00

第八十話 『俺は一人、か……』
 
 
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ザフトの、ゲイツRである。前大戦の主戦機だったゲイツのマイナーチェンジだった
ただ傑作機ともいえるザクとグフの配備により、ゲイツRは徐々に主戦から外れつつある
「前方のザフト機に告げる。貴殿らはダイダロス基地防衛ラインに接近しつつある
 それ以上の接近は許されない。ただちに退かれたし」
イザークはブルデュエルの中から、チャンネルを開いて告げた。
偵察隊だったのだろうか。目の前に展開していたゲイツRたちは、大人しく退いていく
ひとまずザフトと戦わずに済んで、イザークはほっと息を吐いた
「ったく。なんで俺が……」振り返る。後方には、イザークに追従したダガーLたちがいる「連邦の軍と、
 くつわを並べなければならんのだ!」
『不満か、イザーク?』
ヴェルデバスターが横からやってくる。緑を基調とした、砲撃用MS
ディアッカがいつもの気楽な口調で声をかけてきたのだ
「不満は不満だ。つい先日までプラントとやりあっていた大西洋連邦だぞ?」
デュランダルは、ナチュラルとコーディネイターの融和を考えている
それはかつて彼がオーブ来訪時に語ったものと同じで、
かつてシーゲル・クラインが目指したものをより現実的な政策として行うことだ
ナチュラルとコーディネイターがお互いをかけがえのないものとし、協力し、支えあうこと
それがギルバート・デュランダルのデスティニープラン
こうやってコーディネイターの自分と、ナチュラル大西洋連邦軍と警備に出ていることにも、意味がある
『いやなら逃げるか? ラクス・クラインのところへでもさ』
「ディアッカ」
『俺はいいぜ、どっちでも。おまえがやることにならたいていのことは付き合ってやるよ』
「おまえな」
『いや、前大戦で俺はおまえを裏切ったも同然だからな
 わがままは聞いてやるつもりなんだよ俺は』
「ハン。お人好しだなおまえは。だが聞いているぞ
 ザフトに復隊して俺の副官になったせいで、女と別れたんだろうが」
少し照れくさくなったイザークが、悪態をつく
マイクごしにため息をつくディアッカがいた
『そりゃ関係ないって。あれは性格の不一致。ま、俺が一方的にフラレたんだけどさ
 この件に関してはあまりつっこまないでくれよ。これで結構傷ついてるんだぜ?』
「ナチュラルの女だったか?」
『しつこいねおまえも。そーだよ』
「議長の融和政策は、そういう風にしてやっていくのだろうかな
 男と女なら、ナチュラルがどうこう、ということもないのかもしれん。そういうものの積み重ねか」
『ン?』
「いや。しかし大西洋連邦か」
イザークの腹には不満がくすぶっている
ロゴスの本拠地ダイダロスを落としたのはミネルバとヤタガラスだ。断じて大西洋連邦ではない
なのにダイダロスを大西洋連邦が接収したのは不満だった
二隻に制圧能力がなかったのは事実だが、ジョゼフ・コープランドにうまく立ち回られたという印象が強い
ジョゼフは、ジブリールという邪魔者を始末してもらった上に、重要な軍事拠点をただ同然で手に入れたのだ
その返礼というわけではあるまいが、
ブルデュエル、ヴェルデバスター、ストライクノワールを正式にミネルバが接収した
情勢は複雑化しているが、プラントは思ったより動揺していないらしい
「全機これよりダイダロス基地に帰投するぞ!」
命じながら目の奥で、イザークが思うこと。ラクス・クラインがいまなにを考えているのか
ナチュラルの兵と共にいることより、そちらの方が気になった
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MSから降りた時、最初に感じたのは世界の揺れだった。
体が浮いたようになって、頭から血が引いた。月の重力が原因かと思いながら、意識を失った
それから、ダイダロスにある医療室のベッドで目が覚めた
丸一日眠っていたのだと後で聞かされた
アスランはすぐに退院すると言い張ったが、軍医のテクスはしばらく眠っていろの一点張りだった
おかげで医療室に閉じ込められたまま、もう五日が過ぎた
体はなんともないと思うが、とにかくよく眠っている。夢もほとんど見なかった
「いい休暇になっていると思うのだが」
そんな時、ジャミルが見舞いにやってきた。サングラスのせいで表情はわからない
アスランは上半身をベットから起こして、苦笑した
「休暇なんてとんでもないですよ。今が一番大変な時でしょう、ジャミルさん」
「いや、ダイダロス基地の接収はとどこおりなく行われた。ザフトも偵察を少し送ってくるぐらいだ
 それにヤタガラス、ミネルバ、共に傷は深い。君のインフィニットジャスティスも、修理にもうしばらくかかるだろう」
「でも、些細な傷でした。あれは奇跡と言っていい戦果です」
振り返ると、アスランはぞっとする。ロゴス最後の本拠地を、わずか二隻の戦艦で落としたのだ
やっている時は無我夢中だったが、わずかでも作戦が狂えばあっという間に全滅していただろう
バレル隊や大西洋連邦の参戦がなければ、こうしてベッドに寝ていることさえできなかったかもしれない
「そうだな。作戦を立てたのは私だが、よくうまくいったと思う。崖の上を一気に走り抜けたようなものだった
 しかし連邦も含めて、連合の兵はあまり練度が高くないな。一人のエースに、やられてしまうところがある」
「その」
アスランは聞きにくいことを、聞こうとしていた。聞いていいものかと思いながら、ジャミルの顔を見た
やはりサングラスのせいで表情はわからない
「うむ?」
「俺たちの世界は、あなたたちの世界と、同じような過ちを繰り返そうとしているのでしょうか
 あなたたちの地球が荒廃する前も、こんな風に、バカな戦争をやってたんですか?」
言うと、ジャミルはかすかにうつむいた。沈黙が医務室に広がる
それにアスランが耐えられなくなった時、彼は口を開いた
「……そうだな。よく似ている。宇宙に住む者と、地球に在る者。それらが憎しみあって、お互いを人ではないとののしり、
 そして戦争をして世界を滅ぼす。私たちの世界はそうだった。世界を滅ぼしてしまうほど、我々は愚かだった」
「そうですか……」
アスランは暗澹とした気持ちになった。やはり世界は、滅びに向かっているのだろうか
「だが。大きな違いがある」
「違い、ですか?」
「この世界は、まだ滅びてはいないということだ。まだ取り返しがつく。ならばそのうちに、戦えばいい
 アスラン。君は幸いにして、我々の世界を知ることができた。ならばどうすれば滅びを避けられるかも、わかるはずだ」
「わかります。でも、俺は自分が情けない。結局今回のことも、ガロードに頼ってしまった
 サテライトキャノンを撃たせてしまったんです、この世界とは関係のない人間に
 本当なら、そんなことは俺たちの役目です。戦争を終わらせるのも、止めるのも」
「アスラン。こんなことを借りと思わないでくれ
 私はデュランダル議長に雇われているが、本当に嫌なら君たちと共に戦ってはいない
 異邦人だが、仲間と思ってくれ」
そうジャミルは言ってくれるが、やはりアスランは自分が情けなかった
そもそも、あの時ニコルに構ってしまう自分とはなんなのだと思う
本当なら、さっさとコントロールルームを破壊して出て行けばよかっただけの話ではないのか
一歩間違えれば、シンやガロードを殺すことになった
「俺は、力が足らない。これで前大戦の英雄とは、情けない……」
「それを言うなら、私も十五年前英雄だった」
言われ、はっとしてアスランはジャミルの顔を見た。驚いたのは言葉にではない
その悲しげな、語り口にである
「ジャミルさん」
「私は、君が想像もつかないほどの人を殺した、大罪人だ。力がありすぎたがゆえに、それは……
 いいか、私に与えられたサテライトキャノンの砲門は13門だ
 サテライトキャノンを搭載したGXと、12機のビットMS。それが私に与えられた力だった」
ジャミルが語る。だがコロニーを一瞬で壊滅させてしまうその力がゆえに、かえって宇宙革命軍は恐怖した
ゆえにコロニー落とし作戦を強行。それによって双方は壊滅的な打撃を受け、世界は一度滅んだ
「では、あなたが……」
「そうだ。私が世界を滅ぼした。……情けない話だ。ニュータイプだ、人類の革新だ、そうもてはやされて、結果はこれだ
 戦争を終わらせるのは、力ではない。滅びゆく地球を見つめながら、やっと私はそれがわかった」
「……」
「少し喋りすぎたかな。とにかく今は、ゆっくり体を休めてくれ」
ジャミルはそう言い残し、医務室から去って行った
アスランは少し呆然として天井を見つめた。とんでもない話を聞いてしまったと思った
世界を滅ぼす引き金になった男は、どういう気分でこの世界を見つめているのだろうか
「焦らず、余計なことを考えず、ゆっくりと体を休めろ。ジャミルはそう言っているのさ」
机に座っていたテクスが、コーヒーを持ってこちらにやってくる
カップを一つ、アスランに手渡してきた
「ドクターテクス」
「君は自分を追い込みすぎるクセがある。責任感があるのはいいことだが、たまには周囲に頼ってみればいい」
「……」
コーヒーに口をつけた。薄い、アメリカンコーヒーだった
飲むというよりも、においを楽しむ感じで、アスランは口に運んでいく
「無理にでも休ませたのは、放っておくと君はまた働きかねないと思ったからさ
 ヤタガラスはいま、補修を受けている。君が休むのにもいい頃合だろう」
「体はなんともありませんよ」
「君が気づいていないだけだ。MSから降りた時、君が感じた立ちくらみは危険なものだったのだ
 たまには医者の言うことも聞いてくれよ?」
「……」
アスランは答えず、またコーヒーに口をつけた
気になることはいくらでもある。なにしろ、報告をなにも受けていないのだ
デュランダルやユウナがどうしているのか、MSがどうなったのか、プラントは、ラクスは
気になることはいくらでもあった
「そういえば、あれを読んでみたんだがね」
テクスが机の上にある、一冊の本を指差した。『ジョージ・グレン自伝』
ファーストコーディネイターである、ジョージ・グレンがみずからの人生を振り返って書いたものだ
「ジョージ・グレン、ですか」
「うむ。二つ、彼に関して気になることがあるのだが」
「なんです、ドクター?」
「一つ。なぜ彼は『コーディネイター』という言葉を作ったのかね?」
「え?」                                                      コーディネイター
「いや、遺伝子をいじった者をコーディネイターと言う。そして、新しき人類と旧人類の架け橋として 調 整 者 と言う
 その理屈はわかる。だが彼がみずからをコーディネイターと告白したことで、世界を混乱におとしいれたのも事実だ
 現に彼の登場後、コーディネイターが爆発的に増え、ナチュラルとの対立を産んだ
 乱暴な言い方をすれば、コーディネイターという概念を作った彼が、戦争の原因と言えなくも無い」
考えたことも無いことだった。だが、一理ある。ジョージ・グレンの存在が無ければ、確実に今日は無かった
「つまり、ドクターはなにを考えているのです?」
「いや、大したことではないよ。
 ただジョージ自身が、自分を旧人類と差別するような言い方をしなければ、
 ナチュラルとコーディネイターの対立は無かったかもしれないと考えてね」
「それは、やはり、新しい人類の存在を彼は確信したからでしょう?」
ジョージ・グレンは新しい人類と旧人類の架け橋として、コーディネイターがあると唱えた
そのことをアスランは思い出した
「そう。最大の疑問はそこだ」
テクスが、ずれかけた己のメガネを直す
「?」
「どうやって彼は、『新しい人類』の存在を知ったんだ?」
「それは……」
アスランはふと、ジョージ・グレンの生涯を思い出した
彼は木星探査に向かう前にみずからが遺伝子操作された人間と告白し、その製法を公開した
だが、新しい人類との架け橋がコーディネイターであるという彼の説は、あまり知られていない
コーディネイター自身ですら、その説を知らない人間が多いのだ
「仮説だが、彼はどこかで知ったのではないかと思う。『新しい人類』をね」
「そうですね。でも、ただジョージ自身がニュータイプの存在を唱えたわけではありませんし」
「ま、ただの仮説だ。ちょっとした話の種になるかと思ってな」
「でも、あまり考えなかったことですね。ジョージ・グレンがなぜそんなことを唱えたのかは」
言ったが、アスランの思考は別の場所に飛んでいた。今はジョージ・グレンどころではないのだ
飲み干したコーヒーを置いて、じっとテクスを見る
「俺の退院はいつになるんです?」
「まだもう少し先だ」
「そんな悠長なことは言ってられません。もう一週間近く休んでるんです
 戦時の艦長職にある人間が、休暇というわけでもないのに、そんなに休めるわけないでしょう
 ましてやこの情勢」
「だからこそだ。休めるうちに、休んでおくべきだよ君は」
あくまでも平静な口調でテクスは言ってくる。それが、少しだけアスランのかんに触った
「なら、せめてメイリンを呼んでください。状況の把握ぐらいしておかないと……」
「それも駄目だ。ま、たまには部下に仕事を任せてみるんだな
 君は楽の仕方を覚えた方がいい。案外、根を詰めなくともどうにかなるものさ、物事は」
気楽に言ってくれると、テクスを恨んだ。とてものんびりしていられる気分ではない
それはわかっているが、ベッドに横たわるとあっという間に眠ってしまう
やはり自分では気づかないだけで、ひどくこの体は疲れているのだろうか
いつの間にか、悪夢を見る回数が減っていた。代わりに、カガリが夢に出てくる回数も、減っていた
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ガロードはユウナに呼び出された
ユウナ自身、修理中のヤタガラスで寝起きしており、ダイダロスに降りることはあまりないようだ
それもそうで、正直なところヤタガラスやミネルバはあまり連邦に歓迎されてない
(そりゃそうだけどよ)
ヤタガラスはさんざん連合軍相手に暴れまわってきたのだ
しかもユウナはまだしも、コーディネイターの頭領とも言うべきデュランダルがいる
これもまた大西洋連邦軍に歓迎されない一因だった
だが、ヤタガラスを受け入れただけでも大きな一歩だと、デュランダルは笑っていた
そういう対立が、くだらないとは思う。ガロードは差別という思想とは無縁である
ナチュラルもコーディネイターも同じ人間だという気持ちが確かにあった。肌の色と同じだ、白もいれば黒もいる
だが大方の人間が、そう割り切れないのもまた、事実なのだろう
それが、どうも気に入らない
「おい、来たぜー」
ガロードが部屋に入ると、ユウナはパソコンをいじっていた。彼は目を白黒させている
ユウナ以外は特に誰もいないようだ
「あー、ガロード。ごめんよ、ちょっと座ってて」
ユウナにうながされ、ガロードはソファに腰掛ける
「なにやってんだよ代表さん?」
「いや、家計簿つけててね。まー、しかしどうしてアカツキの装甲はこんなバカ高いのかなぁ……
 しかし参ったね、こりゃ。金がなくなってきたよ」
ユウナが頬杖をついて、パソコンを見つめる。悲嘆に暮れた顔だった
「金がねぇのか?」
「まーね。セイランの資産は莫大だけど、国家予算に比べればちっぽけだからねぇ
 それに収入が無いし、前大戦からのオーブ復興でだいぶセイランも金を使ったし……
 ましてGファルコンを新しく建造したり、ミネルバやヤタガラス、その他高性能MSを修理したりしてるんだ
 アメノミハシラではいくつかムラサメも作ったし、部隊の維持費だって尋常じゃない
 そりゃ金がなくなるよ。いやー、議長がお金持ってればいいんだけどね。あいにく彼はそこまでお金持ってないし」
「金がねぇなら、かっぱらってくりゃいいじゃねぇか」
ガロードが言うと、ユウナはきょとんとした顔になった
それから、吹き出して腹を抱えて笑う。なぜか馬鹿にされたような気分にガロードはなった
「いやー、ガロード。君は簡単でいいね。金がないなら、かっぱらってくればいいか」
「できないことじゃねぇぜ? あのジブリールっておっさん、しこたま溜め込んでたんだろ?
 ならまだその金が、この基地のどっかに残ってるはずなんだよ。そいつをかっぱらってこようぜ」
「悪くないアイディアだけどね。ま、それは置いといて」
ユウナが言うと同時に、ノックがあった。扉が開く。顔を見せたのはシンだった
「あれ、ガロード。おまえも呼び出されてたのか?」
「おまえもって、シンもか?」
「オーケー、役者がそろったね」
ユウナがぱんと手を叩き、パソコンを閉じた。ガロードもシンもわけがわからず、お互いに顔を見合わせる
「なんだよ、代表さん?」
「君たちには今から、テレビインタビューを受けてもらうよ
 もちらんバリバリの生中継ね。これ、今から全世界に発進されるからちゃんとやるんだよ」
「「は……?」」
ガロードは、再びシンと視線を合わせた。どういうことかさっぱりわからない
「驚くことはないさ。君たちは今や世界のトップスターだ
 スターがテレビに出るのは当然だろう?」
「ちょ、待ってくれって」
「まぁまぁ」ユウナが、シンとガロードの肩を押して部屋の外へ押し出す「化粧とかは大丈夫かい?
 衣装はこちらで用意するよ。別に特別なことをする必要はないからね
 ま、失言だけはナシで頼むよ」
それから勝手に、やや派手な軍服を着せられ、薄く化粧もほどこされた
化粧である。軍であるにも関わらず、どこからそんな人間を連れてきたのか
身にまとった軍服はザフトのもので、赤色だったが、勲章がいくつかついていて、
他にも金糸など細かな装飾が施されている
それからダイダロスの一室に案内された。本格的なテレビカメラが数台用意され、
反射板や照明の配置がなされていた。部屋はテーブルと椅子が三つ。それだけのシンプルな構成だ
「マジでやんのかよ?」
ガロードはシンを見た
「こういうのも必要なんだろ」
思ったよりシンは嫌がっていないようだ。それでもガロードは気が重い
ザフトの英雄扱いされた時も、微妙な気分だったのだ
やがて、髪の一部を金髪に染めたラフな青年が出てきた
なんでも彼が一連の戦闘を収録したりして、プラントに流していたらしい
今回のインタビュアーを務めるそうだ。にこやかに手を差し出し、握手を求めてきた
ガロードはあいまいな表情で手を握り返す
光を反射しているカメラが、正装とあいまって、こちらに緊張を与えてくる
(うえ……)
ガロードの全身を緊張が包んできた。膝がかすかに震える
MS乗って暴れてる方がはるかに気楽だと、ガロードは思った
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シン・アスカ。ガロード・ラン。ダイダロスにてインタビュー。以下抜粋
—————まずはダイダロス基地の制圧、おめでとうございます
シン・アスカ(以下、シ)「おめでとうって、おめでとうでいいのか?」
ガロード・ラン(以下、ガ)「いや、勝ちは勝ちだしいいんじゃねぇか?」
シ「そうですね。ダイダロス基地の制圧より、俺たちはレクイエムの制圧が先決でしたから
  その目標を達成できたのはよかったと思っています」
ガ「あんなふざけたもんを放っといていいわけねぇもんな」
シ「ふざけたもんというより、人かな。ジブリール氏は大量虐殺をやった
  そして彼は二度目をやろうとした。だから、なんとか止めなきゃいけないと」
—————二隻の軍艦でよくあの要衝を落とせたものですね
ガ「いやぁ、俺ら無敵のMS乗りだから(笑)」
シ「まぁな(笑)。でもやっている時は無我夢中でしたけど、振り返るとぞっとしますね
  よくやれたなって感じで」
ガ「もう一回同じことやれって言われたら、絶対無理(笑)」
シ「キラ・ヤマトならできるかもしれないですけどね」
ガ「なんのかんの言って、最後までやばかったもんな」
シ「ザフトが攻める前に逃げる作戦だったわけですけど、大西洋連邦の参戦で状況が変わって
  難しい判断だったと思います。俺はザフトで、やっぱりザフトと戦いたくは無い
  でも連邦が友軍になった以上、守らなきゃいけない。その判断がね」
ガ「結局、サテライトキャノンの力押しになっちまったもんな」
シ「いや、あれはよく撃ってくれたよ本当に。あのまま続いていれば、いらない死者が出たのは間違いない」
—————サテライトキャノンの話題が出ました
       ガンダムダブルエックスは大量破壊兵器であり、危険極まりないという意見が多いですが、それについては?
ガ「いや、そりゃ間違ってねぇと思うよ。俺だって、最初に撃った時はマジやべぇと思ったし」
シ「『ユニウスの悪魔』」
ガ「そう呼ばれんのも無理はねぇわな。でも、銃と同じじゃねぇかと俺は思うな。持つのは危ないが、持たないのも危ない」
シ「コロニー落としの件もそうだし、DXがないとユニウスセブンは地球に落下していた
  結局、どう使うかなんですよ。兵器なんてものはね。俺はそれをコイツから教わった」
ガ「そうそう。こいつ、俺の弟子だから(笑) パシリ(笑)」
シ「おい(笑) でも、おまえはたくさんの命を救ってるからな。それは本当にすごいと思うぞ」
ガ「……」
シ「照れてるし(笑)」
—————DXを一番批判しているのは、ラクス・クラインです
       シンさんは彼女を痛烈に批判しましたが、いまお二人は彼女に関してどう思いますか?
ガ「一発ぶん殴ってやらなきゃ気がすまねぇ。これに関しては、女だからってのは抜きだ」
シ「ラクス・クラインは……とにかく、戦争をやめて欲しい。むやみやたらに敵を作るのもやめて欲しい」
ガ「俺はさ、ユウナ代表と一緒にオーブ出たんだよ。クーデターん時。その時のことが今も忘れられねぇ
  あんなことは、許したらダメだ。自分は平和の歌姫ですよってツラして、とんでもねぇぜあの女
  戦争仕掛けてるの自分じゃねぇか。マジで許せねぇ」
シ「ガロード、落ち着け」
ガ「いや、こういうことははっきり言ってやるべきなんだよ
  みんなラクスを神聖化しすぎだ。あの女はそんないいもんじゃねぇぜ
  後で聞いた話だけどよ、ユウナの親父さん、ラクスを盗人だって言って死んだらしいぜ
  俺はその通りだと思うな。けど……」
シ「……ラクス・クラインは、始末が悪いことに、『善人』だ。それもとびっきりの」
ガ「俺は小悪党だから、それだけにわかるんだな。そういうの」
(おいガロード。あんまりきわどいこと言うな。ザフトの軍人は自分のこと小悪党なんて言わないぞ)
(うっせーな。わかったよ)
—————善人ですか?
シ「はい。行動のレベルではなく、思想の話ですけど
  彼女の想いはとても綺麗で、純粋なんですね。でも、だからこそ、彼女にはいい意味でのずるさがない
  人は清濁持ってますけど、彼女は清だけを選んでしまうところがある」
ガ「心は綺麗ってことかな」
シ「その通り。でも微妙に彼女はズレてるんです。そのズレを、この放送を見ている人たちにもよく考えて欲しい
  平和をうたいながら、なぜ戦いを仕掛けるのか。民主的手段を行使せず、なぜ武力解決のみを思考するのか
  そもそも、平和的活動の根本である、『話し合い』を彼女はしません
  これはとても偏った思想ですね」
ガ「もしもDプランを止めたければ、最高評議会議長を目指せばいいってことだっけ?」
シ「そう。それが血を流さないのに一番いい方法なのは確かなはずです
  でもそういうありきたりなことさえ、彼女は言われない、やらない。ただ、『戦う』」
ガ「じゃあ、最初っから言うなって話になるよな。戦争を止めたいとか、どうとか」
シ「僕たちだって戦ってるわけですが、明確な目標がある
  ユウナ・ロマ・アスハとギルバート・デュランダルの復権。これが僕らの大義であり、戦う理由です
  それは、ラクス・クラインが掲げる『それ』より、ずっと意義のあることだと信じています」
—————両氏の復権という話が出ましたが、今後お二人はどういう形で戦うのでしょうか?
ガ「うーん。作戦行動のことは言えねぇだろ」
シ「やっぱりもう少し戦うことにはなるでしょうね。強いて言うなら、世界を平和にするため
  平和のために戦うってのは、おかしなことかもしれませんが、それでも戦わなきゃどうしようもないこともありますから
  でもそれだけじゃダメで、ナチュラルとコーディネイターの融和も考えるべきだと思います
  もっと僕たちがその問題に真剣なら、今回の戦争も起きなかったかもしれないのですから」
ガ「お互いに死ね死ねって言ったって、どうしようもなくその問題はあるもんな」
—————ギルバート氏がお二人いますが、その真偽については?
シ「議長襲撃の光景を撮影したビデオが存在しています。なによりミネルバにいる議長は本物です
  これは厳然たる事実で、ミネルバのギルバート氏は最高機密をいくつも知っておられるでしょう
  それを公開することはできませんが、議長がプラントに戻られさえすれば、事実を証明できると思います
  また、大西洋連邦大統領ジョゼフ・コープランド、オーブ首長ユウナ・ロマ・アスハ氏が議長の身分を保証しています」
ガ「会えば一発だと思うんだけどな
  つーかさ、俺やシン、タリアのおばちゃ(シンに足を踏まれる)……
  グラディス艦長がこっちにいんのが、なによりの証拠だと思うぜ」
シ「ザフト『FAITH』、ハイネ・ヴェステンフルスの存在も考慮してください。彼はデュランダル氏の側近中の側近です
  また、イザーク・ジュールの参戦も」
—————仮に偽者だとして、彼の目的はなんであると思いますか?
ガ「え……?」
シ「うーん……」
ガ「まぁ、ぶっちゃけお偉いさんになりてぇ人は、どういう手段使ってもなりたがるんじゃねーの?
  ほら、なんつったっけ? ケンセー……」
シ「権勢欲な。確かに国家の主権者になるための争いは、歴史上枚挙にいとまがない
  動機はいくらでも考えられますよ。ただ、Dプランがキーだとは思います
  それ以上は、彼が戦後に裁判を受ければ明らかになることです」
ガ「今はただ、ぶっ飛ばす。そんだけ」
—————本日はありがとうございました。最後に一言どうぞ
ガ「まぁ、あれだ。いつまでも戦争してんなよ。世界が滅びちまうぞ?」
シ「おまえが言うといろいろシャレにならないな……」
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レイは雑誌を置いた。本来なら立ち読みなど好きではないが、どうしても買う気にはなれなかったのだ
プラント首都アプリリウスの大きな本屋である
レイが読んでいる間も、くだんの雑誌は飛ぶように売れて、大量に積まれていたそれはあっという間に消えていった
(シン)
プラントをのぞく全世界に、ガロードとシンのインタビューが放送されたらしい
その内容は雑誌にも載っていて、インタビューの内容を知らないプラント市民はあわててその雑誌を買いあさったのだ
まさに時の人であり、トップスターだった
ただしそのインタビューの内容に反して、プラントは平穏である
むしろラクス・クラインクーデター未遂の衝撃の方が大きい
シンが彼女を糾弾し、ラクス自身がキラへの情愛を見せたため、いくらか幻滅が広がっているものの、
依然として平和の歌姫ラクス・クラインの名は大きかった。あそこまで行くと、信仰に近い
プラントのあちこちでも、市民が顔をあわせればラクス・クラインだった
当たり前だった。人一人、真似しようと思って簡単にできるものではない
そんなことができるのはどれほどの天才なのだ。馬鹿げた与太話だった
今、プラントにいるデュランダルこそが、唯一絶対のデュランダルである。シンはだまされているのだ
レイは本屋を出ると、公園に出て空を見上げた。人工の空であり、うっすらとコロニーの外壁が見える
すでに見慣れた光景だった。自分にふさわしい情景である。人工の空、人工の風、人工の人間
ダイダロス攻防戦以後、レイは作戦失敗の責任を負わされるものと思ったが、特にとがめられることはなかった
過程はどうあれ、レクイエムの再発射を阻止したのが評価されたらしい
ただ、一部の軍人などは露骨に嫌な顔をしていた。ギルバートの色小姓。そういう陰口も聞こえた
白服となり、若くして艦隊を任される。そのことに対する嫉妬は覚悟していたが、こうして悪意を向けられると辛いものだった
ましてや、こういう時にシンやルナマリアといった友人はいないのである
「俺は、一人か」
レイはつぶやいた。いや、ギルがいる。今はそれだけでいい
そう自分に、言い聞かせた