クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第104話

Last-modified: 2016-02-26 (金) 00:58:24

第104話 『ガロード・ランは従わない』
 
 
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「滅びか」

話し終えた後、ブルーノは疲れたような顔でつぶやいていた
話したジャミルも、かなりの気力を使ったせいで、全身が汗で濡れている
自分にとって、AWが滅びた時の話をするのは、身を削るようなものだった
あの記憶は、思い出すのさえ苦痛なのだ。まして語るとなると、心の奥底をえぐられるような感覚を覚えねばならない

ジョージの話を聞く代価は、AWのことを事細かに語ることだった。
なぜ、滅びたのか。なぜ滅びねばならなかったのか

「サテライトキャノンなど、きっかけにすぎんな。仮にその時貴様が撃たずとも、なにか別のことで世界は滅びていただろう」
「……慰められたくはありません。これは私の罪だ」
「馬鹿を言うな。貴様を慰めてなんの意味がある、ジャミル・ニート
 私は色々と考えることがあるだけだ」
「そうですか」
「商売の基本はな、人の多いところでやることだ。
 食堂などでもそうだろう。やはり、人通りの多いところで店を出すのと、裏通りに出すのとではまるで客の入りが違う」

ブルーノがなにを言おうとしているのか、ちょっとジャミルははかりかねた
まさか商売のレクチャーをしようというわけでもないだろう

「人の多いところ、ですか」
「細かい理屈は抜きにすれば、人は多いに越したことはないのだ
 そして人は金を使って生きねばならん。
 動く金が大きければ大きいほど、商人は潤う。国もな」
「……」
「私は金が好きだ。権力も好きだ。隠居した気分でいたが、根っこの欲望は変えられん」

ジャミルは思わず苦笑した。人の多くは無欲に見せかけるが、誰だって、多かれ少なかれ金や権力は好きだろう
それをあっさりと言い切ってしまうこの老人に、親しみのようなものを覚えた

「表に出られるおつもりですか?」
「勝手に決めるな。最後のことは私が決める。そして私が動くのは、すべて私の欲望のためだ
 覚えておけよ、ジャミル・ニート。
 私が動き出したら、血が流れずにはすまんぞ。理不尽もあふれる」
「面白い。己の欲望のため、人々の痛みを平然と喰らい尽くす。
 あなたはつま先から髪の毛一本一本にいたるまで、俗物だ」
「ふん」
「しかし、そういう人間でなくば、アズラエル財閥を動かすことはできないのでしょうね」
「貴様の方はつまらんな、ジャミル・ニート。
 世界を滅ぼすようなことをしたなら、世界を握ってやるぐらいの気持ちは持つべきだ
 それこそが、殺してしまった人間へのつぐないになろう
 ニュータイプを保護するためだけに生きるなど、狭すぎる考え方だぞ」

それは、自覚していた。ニュータイプを保護し続けたところで、世界をどうこうできるわけではない
ある意味でこんなことは、ただの自己満足なのだ

自分は、ニュータイプというものにとらわれ過ぎている。それがジャミルという男の、限界かもしれない
ブルーノの言うとおり、地球軍に入って、その中で権力を握っていく……ということもやるべきなのかもしれないのだ

怖いと感じるものが無い。いつでも命は捨てられる。しかし、無駄に死にたくも無い
なにをすべきなのか、早く決めすぎたのだろうか

目を閉じれば、いつでも思い出せる
半壊したGX。死んだ友のGファルコンにつかまり、命からがら降り立った地球。
そう、滅びてしまった地球の大地。自分が滅ぼした地球の大地
血の涙を流して、叫び、自分を殺そうとして殺しきれなかったあの頃。
あの、愚か過ぎた少年時代をつぐなうには、どうしたらよかったのだろうか。

ブルーノとの会話を終え、ジャミルはホテルから出た。
殺気は、痛いほど体を刺してくる。ああいう会話をした後でも、平然とブルーノは自分に刺客を送ってきかねない
これからは用心を重ねる必要があるだろう
アズラエル財閥、急所中の急所を、自分は握っているのだ

思えば、シンは見事だった。
ブルーノ・アズラエルに着眼したデュランダルもさすがだが、あの老人を引っ張ってくるのはシンにしかできなかっただろう
理屈ではなく、人の純粋さが、あれほどの男を動かす。そういうこともある

ブルーノは気力をよみがえらせつつある。気力が戻れば、この世界でもっとも恐ろしい男の一人が、再び表舞台に立つことになる
そうなれば、どうなるかはわからない。だが、悪い風には転ばない気がする
口ではどうのと言っても、ブルーノはシンを買っている。いや、息子のように愛していると言ってもいい
溺愛する息子を、悲しませるような真似をするとは思えないのだ

不意に、携帯電話が鳴った。ゆっくりとそれを取る

「私だが」
『おう、ジャミル。なにしてんだ?』
「野暮用だ。それよりもどうした、ウィッツ?」

電話の相手は、エアマスターのウィッツ・スーである
ジャミル同様、新生オーブ軍で臨時のMS教官をやっているはずだった

『ちょっと聞きてぇんだけどよ』
「む?」
『俺のエアマスター、訓練用MSの格納庫にねぇんだけど、ヤタガラスかミネルバに移動したのか?』
「いや、私は知らないが」
『そうか……。おっかしーな。まぁ、とりあえずこっちで確認取って見るけどな』
「しっかりしろ。盗まれでもしたら、恥だぞ」
『そりゃねぇだろ。ロックはかけてるし、第一こっちの人間にAWのMSが動かせるわけねぇじゃねぇか』
「それはそうだがな」
『まぁ、こっちで確認してみらぁ』

それっきりで、ウィッツは電話を切った。
その時、ジャミルの頭にふとひらめくものがあった

一つ、ため息をつく。エアマスターがどうなったか、すぐにわかってしまったからだ

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オーブ国防総省にある、執務室である
仕事は、山積みである。それでもアスランは、書類にはすべて目を通した

オーブ軍の再編は、自分の双肩にかかっている。
総司令として、人事をすべて決定してしまわなければならない
奪還後のオーブ軍は、人事のあちこちが虫食いのように穴が開いていて、それを埋めることからまず始めねばならなかった
師団長がいるのに、兵がいない。あるいは、所属の決まっていない部隊があちこちにいる
かなりひどい状況になっているのだ

人事の選考は、能力と経歴、そしてオーブへの忠誠の三つで考えるようにしていた
それでも絶対的な人材不足であり、戦力不足である
タカマガハラをすべてオーブに吸収させたとしても、戦前のオーブ軍戦力に比べると30%にも満たない

育てていくしかなかった。1年、2年では無理だろう。しかし、10年もすれば人は育っていくはずだ
それを信じて、地道に一つ一つやっていくしかない。アスランはその覚悟を決めた

迷っている。オーブの未来を考えれば考えるほど、自分は死ねない。
しかし、どうしてもニコルとの決着はつけておきたかった。できればキラともケリをつけたい
だが決着をつけるとなると、どうしても自分の命を捨ててかからなければならなくなる

迷いは消えなかった。総大将が前線に立って、士気をあげる
そういう例は歴史上にもあまたあるが、しかしニコルのことは自分のワガママにすぎないのではないかとも思う
本当にオーブのことを思うなら、ニコルがどれだけ挑発して来ようが、後方で指揮に専念すべきなのだ

「お疲れ様です、艦長。いえ、中将」

メイリンが、そっと日本茶を差し入れてきた。緑茶のいい匂いが、鼻をつく

「お湯でいいぞ、メイリン。茶も高いだろう。こんなことで経費をかけたくはない」
「お茶はストレスを緩和するそうですよ。
 オーブ軍の総司令を務められる方のストレスを緩和する。経費をかけてもいいことだと思います」
「そうかな」

それ以上は言わず、アスランはお茶を飲んだ。
味よりも、匂いが、脳を休ませてくれているような気がする

よく考えれば、茶の経費などたかがしれたものだ
そういうことまで気にしてしまうほど、オーブの財政は悪化している
ユウナやミナが懸命に建て直しをはかっているが、ちょっとやそっとでどうにかできる赤字ではないのだ

「本気なのか、メイリン」
「なにがでしょうか?」

メイリンが、微笑している。

「オーブ国籍を取得するとか聞いたが」
「だって、艦長はオーブ国籍なのでしょう? ならば当たり前じゃないですか」
「俺は君と結婚するつもりはないぞ」

ひどいことを言っているが、メイリンは顔色を変えない

「中将のおそばで役に立てれば、それでいいですよ」
「……君は怖いな」
「はい?」
「いや、別に、なにも」

ごまかすように、茶をすすった。
軽い気分でメイリンに手を出したのは事実だが、いつのまにか彼女に全身をしっかりとつかまれている
そんな錯覚さえ近頃は覚える

酒と女と博打には、気をつけろ。
使い古された教訓が、アスランの身にこたえる。

書類を整理し、ひとまず人事のメドをつけた。
メイリンが、ユウナへ連絡すると、オーブにある料亭に来るようにと言われた
オーブ奪還後、こういうのは、珍しくなくなっている。
オーブ宮殿では話せないことも多いのだ

書類をつかんで、外に出た。書類もパソコンに入れてしまえば楽だが、まだ避けておく
どれだけ文明が進もうと、紙の書類は便利だった。紙なら、奪われない限り内容はわからない
しかし、パソコンなどで電子化してしまうと、いくらでも盗める

「よう、アスラン」
「ハイネ……」

オーブ国防総省の受付あたりで、見知った顔が出てきた
オレンジ色の髪をした、一見軽薄そうな男。

「本当は、国防総省の中に入れて欲しかったんだがな。プラントの人間は通せないとよ」
「それはそうだろう」
「アスラン。おまえはプラントの人間じゃなくなったんだな、本当に」

少し、不機嫌そうにハイネが言う。ばつが悪くなって、アスランは視線をそらした

「俺にも俺の事情がある。別に理解してもらおうなんて思わないし、恨むなら勝手にしてくれ」
「あのな、アスラン。文句ぐらい言わせろよ。だいたいおまえ、ザフトをなんだと思ってるんだ?」
「別に言い訳はしない。コウモリと、言うなら言え」

ハイネが、あきらめたようにため息をついた

「まぁ、こうなるとは思ってたけどな。おまえは最初からオーブのために戦っていたよ、アスラン」
「……そうだな。
 ハイネ、おまえのようにプラントのためにずっと戦ってきたような人間からすれば、俺ほどいい加減な人間はいないだろう」
「最初はザフト、クライン派、オーブ、またザフト、そんでタカマガハラ……最後はオーブ総司令か。出世したな」
「嫌味か?」
「だから、嫌味ぐらい言わせろって」

初めて、ハイネが笑った
しかしこの男も、いずれ同じようなものを背負わなければならないはずだ

「ハイネ。おまえ、プラントを奪還したらどうする?」
「俺か? さてな。弾き語りでもやりたいけどな」
「おまえが、ザフト全軍を統括することになるんじゃないか?」

言われて、ハイネはちょっと頭を押さえるような仕草をした

「勘弁してくれよ、アスラン。俺は小部隊率いて敵に突っ込むのが性にあってるぜ
 総司令なんぞ、考えただけで頭痛と悪寒が同時に襲ってくる」
「しかし、おまえしかいないだろ」
「まぁ、そうだな」

また、ハイネが笑った。心のどこかで、覚悟はできているのかもしれない
能力、人格、戦績を考えれば、この男しかザフト全軍を統括できないのだ
シンは名は売れているが未熟すぎるし、タリアは能力はあるが弱さもある。
人としては当たり前のことかもしれないが、タリアは息子のことが気になって、ミネルバを動かせなかったということもあるのだ

ハイネは、その点、非情さも十分に持っている。そしてある種の非情は、上に立つ人間には必要だった

「アスラン。いつか、俺とおまえが軍を率いてぶつかる。そういう時が来るのかな」
「先のことは考えられないな。今の俺は、目の前のことをどうにかする。それしかできない」
「俺は戦いたくないぜ、おまえと。
 おまえのジャスティス、自分の命なんかいらないって感じの戦い方をするからな」
「おまえとは戦わないさ。そういう風に、努力していけばいい
 俺は戦争が嫌いだ」
「俺は嫌いじゃないけどな。MSで戦っていると、全身の血が熱くなる。
 まぁ、それでも戦争なんぞしないにこしたことはないか」

ハイネがそんな本音をぶつけてくる

少し前まで、この男に気圧されるよなうらやましく思うような気持ちがあった
デュランダルに、すべてを預けてしまう。能力も、信念も、命も。
その割り切りがまぶしくもあったが、今はそういう感情がアスランの中から消えていた

自分もまた、生きている。しっかりと生きている
そう思えるようになってきているのだ

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オーブにある、料亭だった。和室の中にユウナは座っている
そこからは、カグヤ島にあるマスドライバー施設が見えた

料亭とは、旧世紀の日本にあった高級飲食店のことで、個室で食べ物を味わうことが出来る
他にも、金を払えば芸妓のもてなしを受けることもできたが、今のユウナにはそんなことをしている余裕も無かった

仲居が料理を運び、ふすまを閉めて去っていく

「お茶漬けか。またか」

ユウナの前で、ロンド・ミナ・サハクがため息をついている
二人は大きな卓をはさんで、向かい合っていた。二人の前には、お茶漬けが一つ、置いてある

「金が無いんだよ、ミナ。今は、懐石料理を食べる金も節約したい」
「情けない。私は今ほど情けないと思うことはないぞ
 どうして料亭まで来て、茶漬け一杯しか注文してはいかんのだ
 おまえはコーヒー一杯で閉店まで粘る、喫茶店の客か、ユウナ・ロマ」
「無いものはしょうがない」
「はぁぁぁ……。せっかく地上にいるのだ、はもを梅肉で食べたいぞ」
「……変な贅沢知ってるね」

ユウナはそれ以上かまわず、茶漬けに手をつけた。
鮭が混ぜ合わされていて、うまい。しかしかすかな悲しさはあった
セイラン家がしっかりして、父が生きていた頃は、芸妓の三味線を聴きながら懐石料理のフルコースを味わうことなど簡単にできたことなのだ

「難民のことだが」

あっという間にミナは、茶漬けをたいらげ、話し始めた

「サイ・アーガイルかい?
 入閣を要請したけど、断られちゃったな」
「いや、あれだけではなく、難民全体のことだ。
 国庫が破綻しかけている以上、いつまでも抱えていることはできんぞ」
「それについては、ちょっと考えがある。
 他になにかあるかい、ミナ?」
「黒海で降伏させた連合軍人たちは、どうする?
 刑務所を壊されたときに、暴れまわった人間も少なくない」
「国に帰すよ。暴れまわった人間は、罪状をつけて返す。それらをどう扱うかは、相手の国に任せるさ
 今は刑務所にいろいろ閉じ込めておく余裕も無い」
「しかし、タカマガハラにいるだろう、一人。連合軍人が。あれはどうするのだ?」

イアン・リーのことか。アスランがMSで出ることが多いので、ヤタガラスの艦長に近い立場にいる
いま、彼を外すことはできなかった。オーブ全軍見回しても、イアンほどの能力を持った人間となると、ジャミルぐらいになる

「ミナ。タカマガハラは独立部隊だ。別に連合軍人でも構わないさ
 彼が希望するなら、いつまでもいてもらったらいい」
「それなら、捕虜の連合軍人たちから、タカマガハラへの出向を希望させてみてはどうだ?
 それで、タカマガハラのオーブ軍人を、オーブに戻す。それぐらいはやってもよかろう」
「いいね。ただ、軍規は絶対に守ってもらう。裏切りは許さない。 
 外人部隊になるなら、引き締めは必要だね
 ただ、一定の期間を務めれば、オーブの国籍を与える。旧世紀の、フランス外人部隊を参考にするかな」

昔ほど、ためらわずに物事を決めることができる。
それが別に不思議とも思わない。今なら、あれこれうろたえることもなく、物事に当たることができるだろう

オーブクーデター以後の道のりは、苦難の連続だった。
しかし、なにかを苦難の中で失い続けてきたわけではなく、しっかりと得たものもあったのだ
いい例が、彼女だ。クーデター前なら、どれだけ頼んでも、オーブの閣僚に参加してなどくれなかっただろう

「なんだ、ユウナ・ロマ?」

見つめていたので、不審そうな目でミナがこちらをにらんできた

「いや、美人だなと思ってさ」
「当たり前だ。私はコーディネイターだ。美しくあるよう、作られている」
「コーディネイター、か。僕の意見ではあるけど、やっぱりいけないことだな、コーディネイターは」
「それが普通の意見だろう。コーディネイターはどうしてもいびつだ
 だからといって、コーディネイター根絶論など受け入れられるわけもないがな」

難しい話だった。
今はオーブの再建にしか頭を向けられないが、コーディネイターとナチュラルの対立はこれからも続くだろう

シンがどうにかするのだろうか。本当にどうにかできたら、あの少年は不朽の英雄となるだろう
そうなれば、ラクス・クラインの名前なぞ、その前にはかすんでしまうだろう

できるのなら、やってみろ。力は貸してやる。

ユウナの中に、そういう気分はある

「遅くなりました、ユウナ代表」

料亭の個室、ふすまを開けてアスランが入ってきた

「ほう、アスラン・ザラ。サマになってきたではないか、中将の階級章が」

ミナがからかうような声をあげる
苦笑しながら、書類を抱えてアスランは座り込んだ

「これが新生オーブ軍の人事案です。目を通してください」
「いや、目を通す必要は無い。認可だけ出そう」

ユウナは、渡された書類をちょっと見ただけで、言った

「確認ぐらいはされた方が……」
「君に軍は任せている。僕はそれについてあれこれ言うつもりは無い
 認可は出すが、いちいち許可を求める必要は無い」
「……わかりました」

アスランの強引な起用について、オーブ内部で反発が無いわけではなかった
第一、他国人でしかもパトリック・ザラの御曹司なのだ

ただ、反発している人間は、例外なく次の一言で黙る

おまえたちはオーブのために、アスランほど戦ったのか

「楽はさせてくれよ、アスラン? 本音を言えばね、軍に目を向けている余裕は無いんだ
 君が軍を立て直してくれよ」
「軍を私物化しろと言っているようなものですよ、代表」
「それぐらいやらないと、今のオーブは立て直せないさ
 悪名は、君と僕で背負っていこうじゃないか。どうせ僕は嫌われてるしね」

これからも、立て直すために強引なことをやらなければならないだろう
独裁に近いことも必要になってくる
そのために、いちいち汚名を恐れていては、なにもできなくなる

本当の覚悟を、決めてしまうことだ。本当に覚悟を決めることができれば、なにも怖くは無くなる
昔はそれができなかった。些細な中傷に、傷ついたりもしたものだ。

「おい、あれはなんだ」

唐突に、ミナが声をあげ、部屋の外を指差す
ユウナがそちらに視線を向けると、カグヤ島のマスドライバーがあった

「あれって……なにか見えるかい?」

ユウナにはよくわからない。なにもおかしなことはないように見える
しかし、次にアスランが大きく目を見開いた

「エアマスター……」
「え?」
「エアマスターが、マスドライバーに乗せられてるんですよ!」

アスランは叫び、急いで携帯を取り出し、どこかに連絡を取っている

「カグヤ島管制! 応答しろ! おい、どこの誰が……は?
 バカな! そんな命令は出してない……すぐやめさせ……あ」

今度はユウナにもはっきり見えた。エアマスターが、マスドライバーから打ち出されていく
打ち出され、宇宙に飛び出していく

「Gファルコンって、合体できるの、DXだけじゃなかったんだねぇ……」

ユウナがようやくしぼり出した一言が、それだった
まぁ、ティファがさらわれた時点で、予想しとくべきだった

「あんっのバカが! 本当に悪魔だ、あいつは! 軍をなんだと思ってるんだ!
 これで和平交渉がぶち壊しになったらどうする!」

アスランがいらだったように叫び、携帯電話の通話を打ち切った

「落ち着け、アスラン」
「落ち着いてられますか、ロンド・ミナ! ああ、もう! 
 営倉にずっと閉じ込めとけばよかった!」

エアマスターと、Gファルコンが合体していた
それだけで、かなりの推進力が得られるだろう。
なら、マスドライバーで打ち出されれば、宇宙に行くのは難しいことではないはずだ

あれに誰が乗っていて、どこに向かったのか。簡単に、わかりすぎるほど、わかる

「一応考えてるんだよ、アスラン」
「どういうことですか、代表?」
「DXに乗っていかなかった」
「……」

クライン派の本拠地に、DXで乗り込めば、それこそ大騒ぎになるだろう
戦力を考えれば、DXの方がいいだろうが、それをやらなかったのは彼なりの配慮なのだ

「いいんじゃない?
 もともと、オーブの恩人だし、軍規で縛れる子でもない」

アスランはまだ不満そうだが、あきらめはついたようだ
ため息を一つついて、席に座った

「ガロード・ランは従わない。もうとっくにわかっていたことだけどね」

ユウナは笑った。どこか、痛快である
あの少年を見ていると、国だの政治だの、考えている自分がひどく小さなものに思えてくる

ガロードは、オーブの恩人である。ユウナはそのことを忘れるつもりは無かった