クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第115話

Last-modified: 2016-02-26 (金) 01:14:38

第115話 『俺はおまえの味方をやめない』
 
 
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背中から色んなものが抜け落ちたと、マリュー・ラミアスは思った。

長い戦いの日々だった。
前大戦、思わぬ状況下でアークエンジェルの艦長へと就任し、心の安まらない日々を過ごしてきた。
ムウには二度も死なれ、かけがえの無い仲間も多数失い、嫌な思い出ばかりがこの艦には詰まっていた。

それもこれも、アークエンジェルという艦に乗っていたせいだったとも言える。
前大戦が終わった際、アークエンジェルをさっさと廃棄していれば、戦火に怯えはするけども、それでも安穏とした日々を過ごせただろう。

ある意味で、この大天使は疫病神だった。
それでも、いざ破棄するとなると名残惜しいものがあった。

マリューは乗っているすべてのクルーを、MSデッキに集めた。
本来ならブリッジにあげるべきだが、かなりのクライン派を乗せたせいで、入りきらないのだ。

艦長としての、最後の勤めだった。
拡声器を手にとって、クルーを見回す。

「これよりアークエンジェルを爆破します。
 これは、マリュー・ラミアスが艦長として下す、最後の命令であり、バルトフェルド隊長の指揮はこれを以て完結します」

MSデッキが、ざわついた。
誰もが不安におびえた顔で、これからどうすればいいのかと大声で怒鳴っている人間も居た。

「これからのことは心配いりません。
 バルトフェルド隊長が、集められる限りの、火星の戸籍を入手しています。
 この戸籍と、いくばくかの資金を支給します。
 できれば、火星で名を変え、みな健やかに生きることを望みます」

ヒルダやミリアリアといった連中が、ICカードを机の上で並べていく。
これに、現金と金塊を用意した。
支給するのは、ICカード、現金、金塊で、金塊と現金の比率は同じぐらいだった。

金塊はどこへ行っても価値は変わらないが、現金の方が手軽と言うのもある。
バルトフェルドは負けを覚悟したときから、実に細やかな心配りで、敗戦に備えていたのだ。

負け続けの愚将だと自嘲していたが、見事な名将だったとマリューは思う。
人は逆境においてのみ、その真価が現れ、そしてバルトフェルドは敗北に臨んで見事だった。

「小型艇をアークエンジェルから打ち出します。
 ここからなら、火星へ丸一日あれば付くでしょう。
 それからは、辛いかもしれないけれど、どうにかしてみな生きてください。
 なお、地球圏へとどまることを望む人間に強制はしませんし、小型艇も貸し出します」

MSデッキに、どこかほっとした空気が流れた。
さすがにまだ戦うという人間はおらず、長く続いた兵糧攻めはクラインの戦意を奪い尽くしていた。

これで良かったのかも知れない。
なぜかそう思う。
とにかく、ひどく疲れた戦いだった。
もう無理だとわかっているが、一週間ほど旧日本のクサツへ、温泉旅行にでも行きたい気分だった。

集まった人間を並ばせて、ICカードと金銭を支給 する。
カードを渡したとき、泣き出す人間も何人かいた。
地球圏に戻って戦おうと言う人間もいるには居たが、それは片手で数えられる人数だった。

アークエンジェルに無理矢理くっつけて持ってきた、小型艇がMSデッキから発進していく。
詰め込めば、一つあたりに100人ほど乗れるはずだ。
それを、一時間おきに打ち出していく。

マリューは、最後の小型艇に乗り込む予定だった。
艦長は、最後の船員になるべきというのが、旧時代からの慣習だった。

「ミリアリアさん」
「あ、はい?」

ICカードを渡し終えて、ほっとしているミリアリアに話しかける。

「あなたはこれからどうするの?」
「あー、またフリーのジャーナリストにでも戻ろうかなと。
 地球圏に戻るのも、なんとなく嫌なので、火星で新聞社でも立ち上げようかなーと」
「でも、そこの、ね。
 おーい、その柱の影にいるキミー!」

「うひッ……!」

奇妙な声がして、ザフトの緑をまとった褐色の青年が姿を見せる。

「あー、ディアッカ!」
「あ……いやいやいやいやいや、お、お……久しぶりぃ……」

ディアッカが、蒼白に近い顔で首を振る。
そういえば、アークエンジェルに乗る際、ふったとかなんとか言っていた。

「なによ、また私のやることに口だそうって言うの?
 未練がましい男ね」
「ま、待てよミリィ!
 俺だってなぁ、好きでこんなところ来たんじゃないんだよ。
 クラウダ受領任務があって、急いでアメノミハシラまで戻らなきゃいけないんだ。
 おまえなんかの相手してるほど暇じゃないんだよ」
「ふーん。やっぱり私よりイザーク隊長の方が好きなんだ。
 このホモ!」
「な、なんだとこの野郎……!
 だいたいおまえ、人のことうざいとか未練がましいとか、そ、そのだな……!
 ええい、もう……!」

ケンカを始めた二人を見て、つい笑いが漏れる。
ここでよりを戻すのもいいし、ケンカして別れるのもいい。
このささくれた気分を、いくらかはいやしてくれた。

「ヒルダさんは、これから?」
「あ……ああ、私か」

隻眼の女傑は、眼帯に手をやって、位置を少し直した

「そうだなぁ。できればラクス様についていたいな。
 こうなってしまっては、迷惑かもしれないが。
 それでも、私はあの人をお守りすると決めたのだからな」
「そう……それも、生き方かしらね」
「私の隊から、ヘルベルトという裏切り者が出たからね。
 責任は感じている。キラだけを悪玉にしようとした私は、愚かだったよ。
 はっ、負けてそんなことに気付くとはね。
 だから、出来るだけのことはしたいんだ」
「いいんじゃないかしら。
 生きていて、遅いってことは無いはずよ」
「遅いってことは無い、か……。
 フッ、なら少し本音で話すが、結婚もしてみたいな。
 まぁ、私のようなじゃじゃ馬に、好んで乗ろうなんて物好きもいないだろうが」
「いいじゃない!
 絶対素敵よ、それ。
 いい人が見つかるわよ……!」

ヒルダの手を取る。きょとんとした顔を、彼女はしていた。

「はっ、ははっ、そうか……居たらいいな」
「居るわよぉ……。
 あー、なんか無性にお酒が飲みたくなってきたわ。
 明日のことなんか考えなくていいぐらい、たくさんの酒をね」
「良いじゃないか、呑もう」

言葉に驚いて見ると、ヒルダはにっと笑っていた。

「もう食料の備蓄なんて気にしなくていいからね。
 ありったけの、ワインやらビールやら、出して宴会と行こうじゃないか。
 ラクス様も引きこもって出てこないから、派手に騒ごうよ」
「ああ……アマノイワト、ね」
「そうさ、ラクス様は私たちの太陽だからね。
 ブリッジに人を集めて、呑もうじゃないか」

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ガロードは病室のティファについていた。
するといきなりイザークがやってきて、手を引っ張られたのだ。
妙に顔が赤く、そして酒臭い。

「な、なにすんだよオイ!」
「いいからガロード、貴様も来い!
 俺たちが不利だ!」
「はぁ?」
「こ、このまま負けるわけには……うっぷ……」

無理矢理引きつられ、アークエンジェルのブリッジに押し込まれる。

「あーはっはっはっは、楽しい〜!」
「ミリィ、戻ってきてくれ〜ううっ……」
「ちーきーしょー、ハイネのヤツぅ……あいつ、私に気があるんじゃなかったのかい……思わせぶりな態度取りやがって……!」
「……」
「だいたいデュランダルが二人居るとか、そのあたりから詐欺じゃないのよッ!」
「兄さん……」
「オルバよ……」

一言で言えば、その中はまさに地獄絵図だった。
酒瓶やらビールの空き缶やらが転がり、おつまみが散乱している。
しかもどこかで見たような人間が、がやがやと酔っぱらっていた。

「あーら、イザーク君おかえりー。
 まだいけるんでしょー?」

巨乳。確か、マリュー・ラミアスとかいう……。
それが、イザークの首に腕をからめている。異様に酒臭い

「ざ、ザフトの意地を見せてやる……ガロード、貴様から呑め!」
「ま、ま、待て待て!
 俺ァ未成年……!」
「貴様が今さら法律など気にするタマか……!
 いや、プラントならもう成人だぞ、合法だ!」

酒瓶を口の中に突っ込まれる。
喉が焼ける。むせて、鼻から酒が出た。

「あっはっはっは、噴水ふんすーい!」

ルナマリアが指さして笑ってる。

「ミリィ〜。ごめんよぉ……戻ってきてくれ〜……ううっ」

そしてディアッカが、その足にすがりついている。
おい、多分相手間違ってるぞ。

「兄さん……」
「オルバよ……」
「世界を滅ぼそうよ……」
「ああ……」

変態は2人の世界に入っている。

「……ほどほどにしておけよ、ガロード」

ジャミルは、端然とした雰囲気を崩していなかった。

「ゲホッ、ゲホッ……
 ジャミル、なんの騒ぎだこりゃあ」
「別れの宴というところかな。
 アークエンジェルは爆破するらしい
 我らにはわからんが、やはりこの艦に色々な想いがあるのだろう」
「キラとラクスはいねぇみてぇだな」

見回す。ピンク色と、白髪頭が見当たらない

「ラクスは部屋に籠もりっきりだそうだ。
 ロックをかけて、出てこないらしい」
「あー、そうなのか?
 メシとかは?」
「食べていないらしいな。
 自殺していなければいいが……」
「ざまぁねぇ……とは言えねぇな、なんか」

陽気に騒ぐアークエンジェルのクルーを見て、どこか痛々しい気分になる。
その根底にある、悲しみがよく見えるからだろうか。

これが、戦争か。
付き合ってみれば良いと思える人間たちと、家族の仇のごとく憎み殺し合わねばならない。

「アメノミハシラに、早くもどらねぇとな。
 あの偽モンが攻めてくるのはわかりきってるし」
「ああ。アークエンジェルで戻れれば早いが、小型艇だと少し遅くなる。
 まぁ、そこまで手早く偽者も動かないだろうが」
「そうなのか?」
「あれだけの大規模戦闘だ。
 軍の再編だけでも時間がかかる。
 常識よりも早く、再編を終わらせるだろうが」
「なんでだ?」
「……偽者が、デュランダルとは比べものにならぬほど、有能だからだ」

ジャミルが、そう言って酒をあおった。
この男は顔が赤くなる気配すらない。

「偽モン野郎の正体、おめーは知ってんのか、ジャミル?」
「見当はついているが……証拠が無い。
 それに正体を暴露したところで、世界が戸惑うだけだ。
 ただの薄汚い偽者として、始末してしまうのが一番良いだろう」
「そうか……。
 慌てる必要はねぇが、のんびりもしてられねぇな。
 宴会ぐらいには付き合ってやるけどよ」

クラウダを引き連れ、アメノミハシラに戻らなければならない。
アスランは、新戦力の到着を、しびれを切らして待ち望んでいるだろう。

「なぁ、ジャミル。ロアビィどうすんだ?」
「置いていくしかない。少なくともコズミックイラにいるうちは、別行動した方が賢明だ。
 例え連れて行ったとしても、アスランやユウナはいい顔をしまい」
「わかった。
 早く終わらせてぇな、こんな戦争は。
 俺もいい加減、疲れてきたぜ」

「一番、ルナマリア、彼氏居ないので脱ぎまーす!」

口笛があがっている。
なにやってんだあのアホ。

それから、アークエンジェル最後の宴は、盛り上がるだけ盛り上がった。
歌を唄い、酒に酔い、うまい物を食った。
もう敵も味方も無かった。

そして、混濁した意識の中で、眠りについた

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「あーあ、ラミアス艦長ってばおなか丸出しで。
 いけませんよ、そんなのは……男は、丸出しってのは嫌なモンなんですからね」

ロアビィは、黙ってマリューに持ってきた毛布をかけた。
同じように、眠っている連中の身体へ、毛布をかけていく。

ブリッジの中は、意地汚く眠っている連中であふれかえっている。

アークエンジェル、ブリッジの照明は落ちていた。
多分、眠るにはまぶしいからと、誰かが切ったのだろう。
非常灯の明かりが、寂しげに揺れている。

フロスト兄弟も、よく眠っていた。
真意はどうあれ、この2人もラクスのために身をなげうって戦った。
そう思いながら、毛布をかけてやる。

新しい酒瓶とつまみを少々拾い上げて、ブリッジからロアビィは出た。
輸血をしてもらったおかげで、意識ははっきりしている。
少し身体に違和感があるが、銃創もあまり痛まなかった。

死にたくはなかった。だから、生きていてほっとしている。
それでも、ミーアという単語が胸をかすめるたび、叫んで転げ回りたくなる。

「キラ、おーい!」
『……』
「開けろよ、開けなきゃ対戦車砲でもぶちこんじゃうよ!」
「はいはい……」

キラの部屋。
扉が、静かに開いた。
キラは少し憂鬱な顔つきで、ロアビィを出迎える。

遠慮せず、ずかずかと入り込んだ。
キラはやはり物憂げな顔つきで、ベッドの上に座り、窓の外に広がる宇宙を見つめている。

「生き延びちゃったって、顔してるね」
「……」
「まぁ、呑めって、キラ。
 嫌なことを忘れるために、酒はあるのさ」
「そんな気にはなれないよ」
「呑ーめーよ。でなきゃ、俺、おまえの友達やめちゃうよ?」
「……ふぅ」

キラは少し投げやりな顔で、ロアビィが差し出すコップを受け取った。
そこに日本酒を注ぐ。
匂いを嗅いだキラは、顔をしかめていた。

「一気にいけよ、うまいもんさ」

うながすと、キラは一気に飲み干した。
手を叩いて、笑う。

「いいよいいよー、いい飲みっぷりさ」

ロアビィも手酌で、同じように飲み干した。
胃の奥が、かっと熱くなる。しかし、胸の痛みはどうしようもない。

「まったく……こんな……ゲホッ」

口から垂れる酒をぬぐいながら、キラがむせる。
笑った。本当、コイツは悪い遊びをしてこなかったんだな。

「なぁ、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」
「なにをだよ……」
「おまえさんが、なにを考えてるかってことさ」
「別に、なにも考えちゃいない」
「俺はさ。もう、なにもすることなくなっちゃったからさ。
 だから、せめておまえや歌姫さんには生きていてもらって欲しいんだよ。
 せめて、『この世界』に居るうちはね」
「……」
「あ、突っ込まない?
 驚かない? この世界とか言ったのに」
「AWのことは、知ってる。
 ロアビィがそこの人間だってこともね」

キラはため息一つついて、コップを置いた。

「あー、そう。残念。まぁ、そのことは置こうよ。
 で、なにをするつもりなんだ、キラは?」
「聞いてどうするんだよ
 もう、どうしようもないことで、ロアビィだってそれはわかるはずだ」
「うるさいよ、ばかちん。
 俺はニュータイプじゃないんだ、ちゃんと言葉にしてくれ。
 で、俺に助けてくれって言ってくれよ。
 なら、俺はおまえを助けてやるし、裏切らない」
「……」
「男が、ここまで言ってるんだぜ、キラ。
 男なら、答えろよ」

するとキラが、コップを差し出してきた。
黙ってそこへ日本酒を満たす。
二回、キラはそれを飲み干した。

最強のパイロットは少し酒臭い息を吐きながら、ちょっと据わった目で、こちらを見つめてくる。

「責任を取りたいんだ、僕は」
「責任……?」

また、キラが差し出してくる。日本酒が無くなったので、ビールをついだ。

「僕は、今さらラクスが正義だったなんて言うつもりはないし、ラクスが間違っていたとも言うつもりはない。
 戦争なんてみんな正しいし、間違っている。自分だけが正しいなんてこと無い。
 でも、戦争は必ず、敗者が悪で、勝者が正義になる」
「あ-、そうだね。ホント、嫌ンなるよね」
「でも、クラインは負けた。負けたからには、悪だ。
 悪に待っているのは、酷烈な未来だと思う」
「……」

そうかもしれない。
四者同盟が勝つにしろ、ザフトが勝つにしろ、クラインは永久に悪だろう。
バルトフェルドは見事な処置をしたが、それでも戦後処理は辛いものとなるだろう。
ひょっとしたら、クラインの残党狩りがあるかもしれない。

「だからすべてが終わったら、僕は地球圏に戻って自首する。
 クラインの首謀者として、少しでも他のクラインにその累が及ばないように」
「……おまえ!」
「決めたんだ、それが僕に出来ることだって」

キラは、少し照れくさそうに笑っていた。
まるでいたずらが見つかった子供のようだった。

「どういうことか、それ、本気でわかってんの!?」
「……」
「おまえ、人間扱いされないよ!
 裁判中もひどい扱いされて、名誉も尊厳も奪われて、キラ・ヤマトの名前は永遠に悪と同じ意味になっちゃうんだよ!?
 で、最後は銃殺刑か絞首刑だ……おまえ、そんな……!」
「……」
「救われないじゃないか!
 そんなの……自殺より、自殺よりひどい終わり方だ」
「僕だって、怖いに決まってるさ!」

キラが、持っていたコップを床にたたきつけた。
ガラスの破片が、散る。重力の弱い部屋に流れて、きらきら光る。

「嫌だよ!
 こんなの……ぜったい、絶対嫌だ!
 想像するだけで逃げ出したくなる、自殺した方がマシだ!
 何度火星に逃げようって思ったか!」
「じゃあ、逃げろよ!
 別に良いだろ、生きてればいいことあるって!」
「なら、誰がラクスを救うんだッ!」
「え……」
「首謀者として僕が死ぬことで、キラとラクスはこの世から消える。
 クラインへの追求もゆるむだろう。
 そうすれば、多分、ラクスは生きていける……ひっそりとだけど、生きていける」

言葉を失った。
ただ、生きろと言っていた自分が、ひどく浅はかに思えてきた。

キラは、救うために死ぬつもりなのか。
1人だけで悩み、苦しみ、あがきながら出した男の、結論。

ただ、死ぬんじゃない
すべての責任を背負って、ただ1人の悪として、すべてを償う。
例え、人としての尊厳をすべて奪われたとしても。

ロアビィは、うつむいた。なにも見えなくなりそうだった。

「わかった。俺は、おまえを守るよ、キラ。
 おまえと歌姫さんを、死ぬまで守る」
「……付き合う必要は無い」
「おまえの言うことなんか、知ったこっちゃ無いね。
 なーに、俺は強いんだ。知ってるだろ?」
「……」
「おまえは悪だよ。もう、世界はおまえを許してくれないだろうさ。
 でも、俺はおまえの味方をやめない。
 それぐらいは許せよ、キラ」
「……」

キラが、黙ってビール瓶を差し出してきた。
意を察し、コップを差し出す。

キラがビールを注いでくる。
その手が震えていた。

黙る。
キラは、全身を震わせて泣いていた。

ロアビィは注がれたビールを飲み干し、それをコップごとキラに押しつける
同じように、ビールでそれを満たしてやった。

キラは少しだけためらうと、それに口をつけ、一気に飲み干した。