ザ・グレイトバトルDESTINY
Inter rude1
極めて近く、限りなく遠い世界にて
“旧”地球連合軍特別任務実行部隊『シャドウミラー』本拠地・ヘブンズベースにて―――
『隊長!! バリソン小隊との通信が途絶しました!』
「もう突破されたのか!?」
『はい。あの自由と正義によって』
『しょうがないわね。あの二人じゃ相手が悪いもの』
「レモンか、首尾はどうだ?」
頭部が特徴的な機体に乗った男がレモンと呼ばれた者が乗っているであろう起動兵器に向かって声を上げた。
『あとは奪還した最後の機体、つまり貴方のソウルゲインと私達、後は保護したエクサランスの開発メンバーを残すのみよ』
「ヴィンデル達は無事に向こう側へたどり着いたのか?」
『それは行ってみてのお楽しみ』
「………この作戦はあまりにも分の悪い賭けだ」
『何を今さら。私、向こう側へ行くことを結構楽しみにしているのよ?』
「………最後になるが、無事か?」
『………ソードブレイカーやハルバートランチャーを破壊されたことを除いたら何とか、ね………幾ら平和ボケしていたとは言え歌姫の騎士団を甘く見すぎていたわ。それにアシュセイヴァーやラーズアングリフの量産型まで奪われる始末………どうなってるのかしらね?』
「神様がいるとしたら、好きな奴には過剰ともいえるような加護を与えるくせに嫌いな奴をとことんまで貶める気なのだろうよ。俺たちは神様とやらに嫌われたようだな………ちっ」
若い男は眼前に新たなる敵を見据えると舌打ちをした。眼前には騎士団所属の機体が所狭しと並び、彼らを包囲する。
「援軍か。レモン、お前は次元転移装置を使ってヴィンデルたちの後を追え」
『でも、アクセル………あなたのソウルゲインも無傷じゃないわ!!』
「気にするな。こいつには再生機能があるし、所詮Wシリーズと同じ人形………いや人間である事を止めた以上、元から人形だった奴らと比べる事すらおこがましい粗悪品。そいつらが束になったところで俺の敵じゃない」
『………』
レモンが黙考している間も敵機が迫る。今のレモンでは雑魚はよくても“奴ら”が現れた時点でどうなるか………
その時、“何か”が彼らを抉る。それを見た瞬間、アクセルは目つきを鋭くさせた。
「レモン!!」
『判ったわアクセル………じゃあ、先に行くわね』
そう言ってレモンの機体も姿を消す。
その直後、姿を現すのは流線型の、それでいて『テメエ、ステルス性なめとんのか』といわんばかりにショッキングピンクの色彩を持った戦艦………
あれこそが宇宙戦用艦であるエターナルに代わる『歌姫の騎士団』の旗艦………フォーエヴァーだった。
『直ちに無意味な戦いをお止めなさい』
己が頭に染み渡るような声。自分の全てが書き換えられそうになる声。
「その声………奴らか!!」
アクセルは忌々しげに目つきを鋭くさせ、歯軋りを立てる。
『あなた達は何故戦うのです? どうして世界の平和を乱そうと言うのですか?』
「俺たちはお前に従う気はなくなっただけさ」
『ソウルゲイン、アシュセイヴァー、ラーズアングリフ、ヴァイサーガ、アンジェルグ、そしてエクサランス………それらは私たちが世界の平和の為に使います。どうか私たちに渡してください』
「少なくともソウルゲインは元々から俺たちの機体だ。それにエクサランスは俺たちのものじゃない以上決定権はない」
『世界は私のもの、私は世界のもの。私たちは世界の平和の為に戦っているのです』
『何が世界の平和よ!! 要するにあんた達の言うことに従わない奴は死んでもいいって言うわけでしょ!? 大体あんた達がやったこと、忘れたなんていわせないわよ!!』
途中で彼らの襲撃から保護したエクサランス開発メンバーの一人、一号機のテストパイロット・フィオナ=グレーデンが声を上げる。
『フィオナ、落ち着け!!』
『ラウル………!! あんたは悔しくないの!? あいつらが戦艦の動力を打ち抜いたおかげで動けなくなって………』
『冷静になるんだ!! 俺かお前、どちらかが奴らに捕まったらエクサランスも時流エンジンも本当の意味で戦闘兵器になってしまうんだぞ!!』
フィオナに対してラウルが嗜める。しかし、一方で―――
『そうですか………貴方方はシャドウミラーの方々に騙されているのですね、残念ですわ』
するとフォーエヴァーから数機の機体が姿を現す。
モノアイを持ったMS、ガンダムフェイスを持ったMS、ゴーグルのような物を搭載したMS。
更には数こそは少ないものの、レモンの機体に酷似した緑色の機体や、砲台を持った緑色の機体も姿を現す。
「アシュブレード………ランドグリーズ………」
そして………
『戦闘はやめてください!! 僕たちは戦ってはいけないんです!!』
『そうだ!! キラのいうとおりだ!!』
『理念の敵であるお前たちに勝ち目はない、もう降伏しろ!!』
真紅の身体を持ったMSと黄金の身体を持つMS………
そして黒い身体に青い翼を持ったMS
CEが誇る三機のMSが彼らの眼前に立ちはだかった。
『フリーダム、ジャスティス、アカツキ………またあいつらが………』
『父さんたちの………みんなの、ミネルバの仇!!』
「歌姫が持つ二対の剣にいかなる攻撃を跳ね返す鎧………最悪の面子がそろったか!!」
アクセルの呻きと同時に大勢の機体が一斉に襲い掛かってきた。
自分のソウルゲインにラウルとフィオナのエクサランス、後は一般兵のゲシュペンストに、戦車であるフュルギア、戦闘機であるソルブレッサ、多勢に無勢。
フリーダムの攻撃で、味方が次々と落とされる。コクピットだけは狙わずに、だ。
だが中には味方機同士がぶつかり合い、爆散する機体やフリーダムの仲間によって倒される機体がある。
ひどい物になると本来ゲシュペンストに向けられるはずの攻撃の流れ弾を受けて墜落したりするソルブレッサや、ゲシュペンストに押しつぶされるフュルギアまで出る始末。
これがCEの聖剣伝説の真実だ。何が邪悪な意思だけを切り裂く魔法剣だ。ただの子供の玩具ではないか。
だが、流石にCEの誇る三大MS。
「くっ!! 回復が追いつかない!!」
『弾切れだ………フィオナ、大丈夫か!?』
『エネルギーがまずいわ………』
『隊長!! ここは危険です!! 下がって!!』
一進一退の攻防が続く。いや、敵は続々と増援を呼び寄せて一向に減らない上、あの三機はいまだ実在。
「こうなったら………」
そんな中―――
フリーダムの攻撃がエクサランスを抉り続ける。
そして―――
『きゃあぁぁぁぁ!!』
ラウル機を流れ弾から庇ったフィオナ機が吹き飛ばされ、地面に横たわった。
『フィオナ!! 応答しろ、フィオナ!!』
「ラウル、よそ見するな!!」
そんな中、フリーダムの攻撃の流れ弾が自分の足元を抉り、前のめりになる。
その眼前にはジャスティス。ファトゥムというリフターを分離させ、自分に向けて襲わせる。
『隊長!!』
しかし、それを庇った男がいた。
男は自分の変わりにファトゥムに切り裂かれ、爆散した。
「マルティン………!!」
徐々に減っていく仲間、徐々に増えていく敵。
そんな中―――
フォーエヴァーのブリッジが突然爆発する。
そして眼前に姿を現すは、異形の存在―――
『なんだ、あれは………』
―――これはあなたの誤り。あなたの間違い―――
『た、隊長!! フォーエヴァーとエクサランス一号機からエネルギーが広がってます!!』
「くっ!! 総員退避しろ!!」
『フィオナ!!』
シャドウミラー隊は一同騒然となる。ラウルはフィオナに起こった異変を見て愕然となったようだが。
『ラージ!! 一号機のシステムカットを!!』
『既にやってますよ!! ですが受け付けないんです!!』
一方、歌姫の騎士団は象徴であった歌姫が乗っていたフォーエヴァーが轟沈した影響か騒然となっている。
『うわぁぁぁぁ!! 逃げろぉぉぉぉ!!』
『ラクス、ラクスぅ………』
『お前たち!! オーブの理念はどうなった!! どうして逃げようとするんだ!!』
『キラ!! 早く逃げるぞ!!』
あっちはあっちでひどい有様だ。立ち尽くすもの、逃げようとする仲間達に銃弾を浴びせるもの。呆然となった者を説得するもの。
『お前たちが!! ラクスを!!』
再び砲火を放つフリーダム。しかしあの異形には微塵も効かない。そしてフリーダムもジャスティスもアカツキも異形の攻撃によって落とされた。
『時流エンジン出力120%、150%、………200%………300%………なおも上昇………馬鹿な、エンジン自体がもつはずが………』
フィオナ機のエクサランスから放たれる光に飲まれる。
『おにい、ちゃん………』
そしてフィオナ機が消滅する。ゲシュペンストも、ラウル機も、フュルギアもソルブレッサもだ。
「くそっ!! レモンの元へ―――」
そこへコクピット付近を抉られる感覚を覚えた。自分の眼前にいたのは―――
蒼い、されど紅い眼を持った重装甲の存在―――
ゲシュペンストMk-Ⅲ。そしてそれを操るのは―――
「ベーオ、ウルフ………!!」
『………噛み砕かれろ』
その声を最後に、自分もエクサランスが放った光に飲み込まれた―――
CE78―――
歌姫の騎士団が齎した平和を乱そうとした戦闘集団・シャドウミラーの反乱は終わりを遂げた。
ヘブンズベースにあったシャドウミラーの本拠地は謎の爆発によって消滅。
歌姫の騎士団も謎の爆発に巻き込まれ、全てが消滅した。
その結果、歌姫の騎士団は消滅。オーブもまたアスハが途絶えた以上滅びを迎えた。
そして世界は再び戦争が始まり―――
誰一人として戦争を止めようとする者は現れず、ナチュラル、コーディネーター、宇宙地球問わず生命全てが滅ぶと言う末路を遂げる事になった。
「う………レモ………ン………」
男は目覚める。
腹部に傷を負い、生きているのが奇跡と言わんばかりの傷だった。
「くっ………」
眼を覚ましハッチを開けると、眼前は森が一層と茂っていた。
そして、周囲には男と女がいた。
男は浅黒い肌に人懐っこそうな顔。女は金髪に肌が白い。
「おっ、眼を覚ましたみたいだな。ココは南米の熱帯雨林、お前は誰だ? どうしてココに?」
「俺が………誰かって………? 俺は………」
そう言って表情を強張らせる。理由は―――
「俺は………誰だ? どうしてこんなところに………?」
「ふざけてるの?」
「ふざけてるなら、もっと気の利いたことを言っているよ」
「じゃあ、アンタ。まさか………」
女の声に対して自分は首を横に振った。
「くそ………思い出せない………記憶喪失と言う奴らしい………」
「マジかよ!?」
男の唖然とした声に対し、女は小さく息をついた。
「あたしの名前はジェーン、ジェーン=ヒューストンだ。『白鯨』って聞いたこと無いかい?」
「俺の名はエドワード=ハレルソン。通称『切り裂きエド』ヨロシクな」
「『白鯨』に『切り裂きエド』………思い出せない」
エドワードとジェーンは自分の答えに対して転びかけた。
「で、あんたの名前は?」
「………キミのような美女がキスしたら思い出せるかもな………」
「とびっきりの悪夢を見させてやるぜ」
「………って冗談冗談!!」
だからエドワードさん、そんな物騒なものをしまってください。
マスクメロンで頭部を殴られたら死にかねません。
いや、埋もれるんなら男として本望ですけど。
(………?)
何か思い出しそうだ。しかし、今は命に危険がかかってきている。
「自分が誰なのか判らないって言うのは、本当だけどね」
「なあジェーン、こいつ放っておいてもいいんじゃねえのか?」
「そうもいくか。このMS………か? その事もあるわけだし」
すると女は男の耳で何かぼそぼそと呟いた。
(それに、例のアズラエル秘蔵の新型MSかも知れないぞ)
(MSかアレ?)
「………ちょっと待ってくれ。そうだ………アクセル」
「それがあんたの名前かい?」
「ああ。俺の名はアクセル。アクセル=アルマーだ」
時にCE71年―――
後に南米の英雄と言われる―――『あちら側』では独立戦争中、連合軍が放った毒ガス攻撃の犠牲となった―――エドワード=ハレルソンと、『あちら側』からの異邦人・アクセル=アルマーとの最初の出会いだった。