シンとヤマトの神隠し劇場版 第02話

Last-modified: 2022-05-29 (日) 21:58:49

AM3:28
なのはは目を醒ました。
体を起こそうとするが、全身に走る痛みがなのはに動くなと警告する。
痛みを我慢したせいか、冷や汗が額に滲んだ。
「う…ん…。」
声がしたので頭を動かして横をみると、ヴィヴィオがなのはの手を握り眠っていた。
布団をかけてやろうと思ったが、体をろくに動かすことができない。
それに少しイラついた。
天井を見つめるなのは。月が出ていないせいか、室内にはほとんど光がない。
不安が加速する。
(まさか、歩けなくなるなんてことはないよね?)
なのはは足に力を入れてみた。
「ん……。」
ちゃんと痛みがあり、布団が持ち上がった。
ほぅっと盛大に息を吐く。
なのはは安堵し、再び眠りに落ちた。

11月02日 AM9:00
「なのは?」
ドアの向こうから病室に響きわたる声。声から察するにフェイトだろう。
なのははベッドに座って教科書を眺めているヴィヴィオの髪をいじりながら返事をする。
「フェイトちゃん、どうぞ~!」
入ってきたのはフェイト、シン、アスランの三人だった。
「もう起きて大丈夫なの?」
折り畳み式の椅子を開き、座るフェイトに頷くなのは。
「じゃあ、その花、俺が生けて来ますね。」
アスランは花瓶と、フェイトが持ってきた花束を持って、病室に入ってきたばかりだというのにそそくさと再び外へと出ていった。
「アスラン……、気にしてるのかな?」
なのはは音を立てスライドし、閉じられていくドアを見ながら呟いた。
JS事件でその犯罪の一部に手をかしていた犯罪者。
もちろん、本人には明確な悪意などがあったわけではなく、心神喪失という理由で管理局に協力することを条件に早いうちに釈放された。
「すぐにってわけには行かないんでしょうよ。あの人も……。」
持ってきた果物のなかから林檎を選び、果物ナイフで皮を向きながらシンが答える。
「自分の意思じゃないにしてもあんなことになったんだし……。」
シャリシャリと綺麗に果物ナイフの刃が林檎の皮を裂いていく。
「そうだね…、すぐにってわけにはいかないよね。」
フェイトがそう返し、なのはも納得したようで、シンが綺麗にカットした林檎を摘んだ。
もちろん、ヴィヴィオもだ。
その林檎はとてもみずみずしくておいしかった。

孤児院施設屋上。
キラは一人そこにいた。
一望できる風景は高層ビル、マンション、入り来んだ道路。
C.E.の風景とはまた違った発展した都市の姿が広がっていた。
外は体をすっかり冷やしてしまうほど寒いが、この季節、室内特有のムワッとした空気に耐えきれず出てきたのだ。
深呼吸すると冷たい、けれども新鮮な空気が入り込んでくる。
「風邪ひくよ?」
背後からかけられた声に振り向けば私服姿のはやてが立っていた。
「はやて…どうしたの?その格好?」
キラの驚いた表情を見てはやては頬を膨らませた。
「もっと他に言い方あると思うんやけどね?」
暫くの間をおいて
「え~と…似合ってるよ、はやて…。」
「ほんとにぃ~?ちゃんとそう思うて言うてくれてるんか?」
疑いの眼差しを、口には笑みを浮かべキラの正面まで近付いてくる。
「う、うん…。似合ってる…似合ってるよ。」
「そうかそうか。ところで、キラ君今日は休みなんやろ?」
キラが面倒を見ている子どもたちはエリオやキャロのいる自然保護区へと一泊二日の旅行に行っている。
付き添いはべつの人だ。というけで、今日、キラは久しぶりの休みだった。
「特に予定はないけど…、はやてもその格好だと今日は休み?」
「うん、たまには休めって上の人が一日やけど、休みをくれたんよ。」
「そう…。」
「そんでな、もしよかったらこれからなのはちゃんのお見舞いついでに遊びにいかん?」
「うん、いいよ。丁度、なのはのことは気になってたから…。」

人混みの中を歩くはやてとキラ。
なのはが入院しているのはあの場所から一番近かったミッドチルダ西部の病院だ。
なので、中央にいるキラとはやてはレールウェイを使って病院へ向かおうとしている。
「はい、キラ君、切符。」
「ありがとう、ところではやてはもう朝御飯食べたの?
僕は食べてないんだけど…。」
切符を受取りながらキラ。
「ううん、まだやけど…。」
「じゃあ先に乗って待っててね!」
キラははやてに背を向け人混みに姿を消した。

列車のコンパートメント。
はやてとキラは向かい合って座り、会話しながら駅弁にしたづつみをうっていた。
流れて行く風景。
とは言っても、田園風景や緑などではなく、幾つもの高層ビルが見えるだけだ。
「はやてがどうかはしらないけど、僕はこう言うのは初めてだ…。」
「そうなんか?
残念やねぇ、これが私の出身世界やったら少しは綺麗な景色がみれたかもしれんなぁ…。」
タタン、タタンと一定の間隔でリズムを刻む列車。
ボトルのキャップを外し、はやてはお茶を一口含んだ。
「ところで、なのはを撃墜した相手については何かわかったの?」
「う~ん…まだ詳しいことは判ってへんけど、北部の管理施設を破壊、なのはちゃんの撃墜をしたのは三人組の男。
それから、新型のガジェットとみられる正体不明の魔導機械が数十体。」
「正体不明?」
ボトルのキャップを閉め、頷くはやて。
「うん、詳細についてはまだよく分かってへんけど…。」
空間モニターを展開しようとはやてが空間を手でなぜようとした瞬間。
激しい揺れと、金属の擦れあう不快で甲高い音がキラとはやてを襲った。
室内が赤い非常灯で照らされ、エマージェンシーと文字が写っていた。
「一体…何?」
はやては打ち付けた額を手で押さえ、顔をあげると目の前にキラの顔があった。
「大丈夫?はやて…。」
「…うん…。」
コンパートメントの外が想像しくなり、係員が落ち着くように呼び掛けている。
「ちょっと、僕聞いてくるから、はやてはここで待ってて。」
「ううん、私も行くよ。」
二人はコンパートメントと通路をしきる扉を開け、係員のもとへと向かった。

管理局地上東部管轄施設周辺市街地。
「レイ!」
「分かっている!!レジェンド!!!」
『DRAGOON』
十の灰色の光がレイが両手に持つ円筒状の口から放たれる。
甲殻類と半人半虫を彷彿とさせる二種類のガジェット。さらに旧ガジェットⅠからⅣ型までが突如として現れ、管理局施設にむかって攻撃を開始してきていた。
その対処に終われるスバルとレイ。

張られた結界も特殊なもので、AMFを用いた結界。
市街地の人々は管理局員が現在避難させている。
レイとスバル他、航空部隊、地上部隊が事態の対処に当たっている。
また、先程応援を要請した際にフェイト、シン、アスランも合流してくれるとのことだ。
「フェイトさん、シン、アスランさんが来るまでに何とか民間人の避難だけでも…」
スバルが振り抜く拳がガジェット一型を粉砕する。
地上部隊のサポートへ向かうレイの前に立ち塞がる新型ガジェット。
レイはその形に見覚えがあった。

管理局地上西部管轄周辺市街地。
「キラくんは係員の方々と一緒に乗客の避難をサポート。
空の三人は私が押さえる!」
はやてはコートを脱ぎ、近くのコンパートメントへと投げ入れた。
市街地上空に突如として現れた三人の魔導士。
管理局の建物を次々と攻撃し、管轄の部隊が市民の避難と防衛に対処。
しかし、三人の魔導士は包囲網を容易く打ち破り、五十はいたであろう航空魔導士は半分にまでその人数を減らしていた。
「待って!」
列車の乗車口からでようとするはやてをキラが引き留めた。
「僕が行くよ…。」
「ッ!?」
「代わりに、はやてが地上本部に連絡を取って。
その方が効率もいいはずだから…。
はやては後から応援部隊と一緒に来た方がいい。
だから、フリーダムを僕に……。」
差し出されるキラの手。一瞬、はやては戸惑う。
渡していいのだろうか。
また、キラを撃たねばならなくなるという事態が起こらないとも限らない。
「でも……。」
「僕は、大丈夫だよ。」
そっとはやての手を引っ張るキラ。それから優しく、はやてを抱き締めた。
「もうあんなことにはならないし、ならせはしない。
だから、僕のデバイスを返して……。」
キラが腕をほどくと、はやてはポケットから蒼い翼の形をしたキーホルダーを取り出した。
「私は心配性のお節介やね…。」
キラは首を振る。
「ありがとう。」それから「はやて、指示は?」キラははやてに指示を仰ぐ。
「現状、むやみに戦うわけにもいかん。AMFを用いた結界も広範囲に張られとる。
せやから、キラくんは一般市民の避難が終わるまであの三人を引き付けて。」
了解、キラはそう返事を返すと列車から外へでて駆け出した。

地響きに次いで爆音。崩落する建物の瓦礫。
大衆はパニック襲われ、局員の誘導もままならない状況。
航空部隊が主力とみられる魔導士に攻撃をしかけるもそれを容易にかわし、そして次の瞬間には反撃。
次々と撃墜されていった。
「お前で終わりィ♪」
赤い髪の少年、クロトが場に不似合いな笑みを浮かべ
『Zorn』
漆黒の魔法陣を展開する。
しかし最後の一人となった航空魔導士は目の前のクロトの醜悪に歪んだ顔に思考を奪われ、微動だにできなかった。
形成されゆく魔力スフィア。
やがてそれは大きさを増し、魔力の粒子が飛び散り、放たれんとした刹那
『High Energy Long-range Canonn』
蒼い閃光がクロトを吹き飛ばした。
クロトは公園の噴水の中へ盛大に突っ込み、派手に水しぶきをまいあげる。
「クロト!!!」
「ッ!?」
オルガが叫び、シャニは奔流が放たれた方向へと視線を向けた。
視線の先には紺のインナー、白に青と金のラインが入ったロングコートを風にはためかせ、左右各五枚、計十枚の翼を持つシルエット。
両の手に握られたコートと同じく白に青のラインの入ったフレームを持つ銃。
その少年、キラ・ヤマトの姿があった。
「ふん、面白そうじゃん?」
「よくもクロトを!!」
不適に笑うシャニと同胞をやられたことに腹をたてるオルガ。
『キラ君!まだ地上には人がおる。せやから避難が完了するまでその三人を引き付けて!
人的被害はなるべく抑えたい。できるか?』
「出来るだけやってみる。」
はやてとの通信を終えたと同時、怒声が響いた。
「てんめェェェェ!!抹殺!!!」
『Mjorrnir』
キュボゥッ!!!
と路面にタイヤが擦れるような音をたて発射される魔力の鎖でつながる破砕球。
キラは放たれたそれを飛翔魔法をコントロール。
やや後退しかわした。
「(……何だ?どういうことなんだ?)」
瞬きした一瞬にフラッシュバックする記憶。
今の攻撃、キラには見覚えがあった。
「きゃぁあああ!!!」
上がる悲鳴。
キラが視線をやると管理局の救護班がシャニに襲われているところだった。
「ちっ!!」
蒼い光が弾け、一直線に矢のごとくシャニへと向かい、その背後から漆黒の閃光、コバルトブルーが続いた。

救護班に向け鎌を構えているシャニ。冷たい鉄の刃が太陽光を反射し、鋭く光る。
『Warnning!』
フォビドゥンが警戒を促す。
『サーベルモード』
フリーダムの銃口から溢れ出す蒼い魔力が刃を形成。左のフリーダムで縦一閃を見舞う。
シャニが跳躍、フリーダムの刃は地面を叩き割った。
『Eckzahn』
空へと逃げながら鎌の尖端をキラへと向ける。
弾け跳ぶ薬莢。尖端の両脇に展開されるカーキ色の魔法陣。
二発一組で放たれたそれは一直線にキラを狙う。
キラは刹那の判断で跳躍してかわし、カートリッジを消費。救護班と着弾点の間に障壁を張った。
「てめぇぇ、シャニ!!!どこ狙ってんだ!!!」
怒声と共に爆煙から姿を現したオルガとクロト。
キラを中心に正面にシャニ、背後にオルガとクロトという配置。
「おもしれぇよ、お前!」
コバルトブルーのバリアジャケット纏ったオルガが笑った。

管理局地上東部管轄施設周辺市街地。
「スバル!」
レイが名を叫ぶ。
「了解!!」
散開する十の灰色の魔力光。一つ一つの魔力スフィアに発射体リング、機動用環状魔法陣、散弾リングの付属したスフィアが複数のザムザザー、ゲルズゲーを同時に狙う。
ゲルズゲーの正面に展開されるAMS(アンチ・マギリンク・シールド)。
数多の奔流を容易く防ぎきる。
キィィンッ!!!
鋭い音が響き、一本の青い光の道がゲルズゲーの背後に突き刺さった。
「リボルバァァアア!!シュートォ!!!」
不可視の衝撃波がゲルズゲーを破壊。同じ様にしてザムザザーをも破壊する。
「AMFを範囲は狭いけど高濃度で展開するなんて…はぁ…見たこともない。」
AMS、レイとスバルがそう呼んでいるのだが、相当厄介な代物だった。
JS事件時のものとは違い、高濃度に圧縮され、フィールドではなく盾として存在しているため力で強引に撃ち落とせない。せめてもの救いは発生面が狭いこと。
『Warnning!』/『Caution!』
スバルの視界の隅に入る水色。
「スバル!!」
レイがスバルを突き飛ばす。
「シールド!!!」
レイの右腕の鉄甲から波状に噴射される灰色の障壁。
「そーいうの!」
右腕が跳ね上がり、障壁があらぬ方向へと展開される。灰色の光が晴れ、見えたのは水色のバリアジャケットに身を包んだ少年、アウル・ニーダ。
腹部に二度走る衝撃。
「ぐ…あ…。」
蹴りだと判断するのに数瞬の時間を要し、くの字に折れ曲がるレイの体。
「格好悪ィってんじゃねぇ!!」
『カリドゥス』
バランスを崩したまま障壁を張るレイ。
しかし、踏ん張ることは出来ず、吹き飛ばされていった。

「レイ!!」
スバルが叫ぶ。しかし
『ウィングロード!!!』
マッハキャリバーが勝手に魔法を発動。移動を開始する。
「マッハキャリバー!!どうし……。」
地上から高い高層ビルを四足の漆黒の獣がビルからビルへ跳び移りながらやってくる。
「ッ!?違う、獣じゃない!人間!?」
ウィングロードに直立で降り立つ漆黒のバリアジャケットに身を包んだ金髪の少女、ステラ・ルーシェ。
『グリフォン』
彼女の両手の鉄甲から発生する黒い魔力刃。
各四本ずつ、計八本。スバルに切りかかるステラ。
「プロテクション!!」
プロテクションで防ぐスバル。
「スバル!!!」
横合いから今しがた現場に到着したフェイトが手を出そうとするが
「させるかよ!!」
『カリドゥス』
「ッ!?」
間に割って入ろうとしたフェイトは後退を余儀なくされる。
深い緑のバリアジャケットに身を包んだ少年、スティング・オークレー。

「何だ、コイツ!!!」
シンのバリアジャケットがパージされた。
目の前のケバい女の生成した何かが当たった瞬間、シールドを貫通。バリアジャケットに直撃、爆破された。
口の端をつり上げた女、ミューディー・ホルクロフト。
「何をやっているんだ!シン。」
アスランの声。
「あんたこそ、目の前の敵に集中しろ!!!」
「言われなくても!ちぃっ!!」
『セイバーモード』
バリアジャケットが朱色に変わり、防御力を犠牲に機動性、スピードを一気に引き上げる。
連続して放たれるシルバーの閃光をかいくぐり、
『アムフォルタス』
二本の巨大な奔流を放つ。だが、銀髪に漆黒のバリアジャケットを纏った男。スウェン・カル・バヤンは容易にそれらをかわし、両手に持つティアナのクロスミラージュに似ている銃で反撃。
『シールド』
ジャスティスから瞬時に展開される障壁がそれらを防いだ。

管理局地上西部管轄施設周辺市街地上空。
「落ちろぉぉぉお!!!」
『トーデスブロック』
二発同時に放たれるコバルトブルーの奔流。
キラはそれら二本の奔流を中心に円を描くようにして回避する。
「俺たちを殺ろうってのはどいつだよ!」
『Hresvergr』
湾曲する砲撃。
キラは側宙してかわす。
「逃げてんじゃねぇぞ、てめぇぇえ!!撃滅!!!」
小型の魔力弾を何発も連射してくるクロト。キラは一定の距離を取り、回避行動を取る。
先程からキラは逃げの一手、反撃はごくたまに、それは決まって三人が攻撃対象をキラ以外に変えたときだ。
オルガ、クロト、シャニの三人はそれがキラの余裕だと今は思っている。
だが実際はそうではない。
キラにははやてによるいくつかの制約があった。
まず反撃は極力避けること、しかし、逃げには徹せず相手を引き付ける。
攻撃を回避するときは背後に建物があるときはシールド防御で対応。
これによりキラはオルガ、クロト、シャニ、三人よりも高い位置にいることが条件とされる。
低い位置で戦うことになればキラはその攻撃全てをシールド防御しなければならなくなってしまうからだ。
「…ぐっ!」
表情には出さないが、キラは相当な焦りを感じていた。
破砕球がキラの頬を霞める。
「こいつ!!!」
『サーベルモード』
クロトへと一閃を叩き込もうと加速するキラ。
「うっひょ~、早いねぇ~。でもね!殺られるより殺る方がマシってねぇ!!!」『Zorn』
『シールド』
キラを爆煙が包み込んだ。
「くっそ……。(はやて、そろそろ限界だ!応援部隊は?避難はまだ?)」
トーデスブロックを後退して避け、フレスベルグを上昇してかわし、破砕球をサーベルで弾く。
青空、雲、シャニ、高層ビル、走るカーキ、コバルトブルー二色の閃光、クロト、地上、破砕球、オルガ。
めまぐるしくも飛ぶように視界を流れていく景色と現状。
激突するサーベルと鎌、キラを狙うスキュラをかわし、背後のクロトに蹴りを放つ。
「(避難完了、えぇよ、キラ君!!!ヴィータがもうすぐ駆け付ける!それまで持ち堪えて!!)」
「フリーダム!!!!」
オルガのトーデスブロック二発をサーベルで切り裂き、
『DRAGOON』
「当たれぇぇええ!!!」
十枚の翼が一斉に射出された。