「キラ・ヤマトさん、検査した結果ですが──」
「ちょっと待って。シンお願いだから、僕の代わりに聞いておいてくれない?」
「ちょっ!? 自分の体のことでしょ! なんで俺なんですか!」
「じゃ、頼むね!」
脱兎の如く走り去るキラさん。後を追いかけようとしたが、キラさんの主治医に肩をガッシリと掴まれた。
「宜しいですか。キラ・ヤマトさんの遺伝子ですが──」
ああ、なんで只の副官の俺があの人の体の事まで管理しなきゃならないんだ。
ただでさえ常識知らずのあの二人の尻拭いを何度も何度もさせられているってのに……。
「シン、そ、それで、どうだったのかな?」
「一言で言いましょうか、キラさん」
「う、うん」
「オメデトウ御座います」
「……」
「さすがはスーパーコーディネーターですね。
相手がコーディネーターだろうがなんだろうが百発百中だそうです」
「あ、あぁぁぁぁぁ」
床にくずおれる白服様。そんなにショックなのか。どんだけ嫌なんだ。
「ど、どうしよう。シン、僕はどうしたらイイ? 」
「知りませんよ。いい加減観念すればいいじゃないですか。観念して子供作ったらいい」
「嫌だよ、もう少し胸があればラクスで構わないって思うけど」
結局それかよ。
「ルナマリアみたいなスタイル抜群の奥さんがいるシンにはわからないよ」
うるさい。子供ができなくてルナの両親に『種無し』とか言われてるこっちの身にもなってみろってんだ。
……あれか? 戦闘中にポンポン割ったのがいけなかったのか?
「子供ができたら別れられなくなるじゃない?
そしたらトップとアンダーに差のないボディしか相手できないんだよ? そんなの耐えられない」
「ラクスさんにはもう検査結果伝えてますから」
「!! なんで!? ひどいよシン!!」
「しょうがないでしょ! 出口で待ち構えていたんだから!」
「そんなぁ……そうだシン! 君、オーブ出身だったよね?
だったら避妊具の取り寄せ方知ってるでしょ?」
「ハァ?」
そんなモン、プラントだろうがどこだろうが──
──ああ、出生率の極端に低いココでは売られたことも無くて、
みんなコンドーさんのコの字も知らないぐらいなんだっけ。
「そんなの通販でも何でも自分で買えばいいじゃないですか」
「駄目だよ。子供が確実に出来るってラクスは知ってるんでしょ?
避妊具を僕が買ってるって噂がたったら絶対ラクスの耳に入る。そうなったら……」
スゲー、リアルガクブル見れたよ。つーかどんな修羅場になるんだ?
「わかりましたよ。買えばいいんでしょ、買えば」
「ありがとうシン! できるだけ早く別れるようにするか、ラクスの胸を大きくする方法を見つけるから」
パーッと表情を明るくして、キラさんはブンブン手を振りながらスキップで行っちまった。
ああ、なんてめんどくさい人たちなんだ。とっとと結婚すればいいのに。
ま、だから俺も復讐できるんだけど。
「シーンーー!!」
あの会話をしたのが2月ぐらい前だったか?
朝っぱらからキラさんがすごい勢いで走ってくる。さすがスパコディ速いな。100m9秒切るかも?
「ラクスが、ラクスと、ラクスの、ラクスがお腹、お腹にーーー!」
「なに言ってるんですか、これ飲んで落ち着いてくださいよ」
「んぐ、んぐ、ブハッ! おでん缶!?」
うずら卵をひっかけてむせるキラさん。チッ、アツアツにしとけばよかった。
「で、どうしたんですか?」
「ちょっと、シン酷いよ! いや、それよりラクスが妊娠したんだよ!!」
「そうなんですか、おめでとうございます」
「めでたくないよ!」
「で、いつ生まれるんですか?」
「え? あ、いや、ちゃんと検査したわけ…じゃないから…わからない……けど?」
さっきの勢いはどこに行ったのか、キラさんの声が小さくなる。
「でも、嫌いだったはずなのに急に酸っぱい物ばっかり食べたり、
臭いが駄目だって肉を食べなくなったり……、
あと最近胸が大きくなったかってしょっちゅう聞いてくるんだよ!?」
「……つわりっぽいですね。妊娠すれば胸も大きくなるって言いますし」
「!」
「酸っぱい物って、もしかして柑橘系ですか?」
「そうだけど何で解るの……? まさか!?」
できるだけ嫌味っぽくニヤリと笑って見せる。
床にヘタリこんだキラさんが、両手をついてうなだれた。
「そんなぁ…」
「お腹が目立つ前に式を挙げてくださいね。あ、いいとこ紹介しますよ」
「……」
「なんなら今日中に予約しますけど?」
キラさん反応なし。いや、避妊してたのにとかなんとか呟いているな。
「その前にラクスさんの予定を聞いとこうかな」
「もう、どうにでもして……」
ポツリと呟いたキラさんが幽霊みたいな足取りでフラフラと家を出て行こうとする。
その眼の前に婚姻届を広げてやった。
「この際だから書いときません?」
「……」
署名・捺印。キラさん虚ろな目で書きました。今なら簡単に傭兵契約書にもサインしそうだ。
「う……」
「う?」
「うわあああああああ!!」
いきなり走りだしたキラさん。ここに来た時以上のスピードで
ストフリ置いてる宇宙港へ突っ走っていっちゃいました。多分プラントから逃げるんだろうけど。
「無理──だろうな」
俺がストフリに発信機付けてるからな。
デスティニーと違ってエネルギーダウンしないストフリの核エンジン直結だ。
ラクスさんに婚姻届と一緒に探知機を渡したら、地の果て越えて追いかけるだろう。
電波発信機と受信機なこれ以上無いってぐらいお似合いの二人だし。
死ぬまで追いかけっこしてればいい。
「オハヨ、シン」
「おはようルナ」
「いま、ヤマト隊長来てたでしょ、何だったの?」
「婚姻届だしといてくれって。あと独身最後の旅行に行くんじゃないかな」
「ふ~ん、あの二人検査で子供絶対にできないって言われてるんでしょ?」
「キラさん、ラクス議長以外だったら100%。ラクス議長だけは0%だってさ」
そう、並のコーディーはもちろん、さすがのスパコディでも電波ユンユンな歌姫だけは無理だとか。
モチロンそんな悲しい結果を女性の側に伝えるほど俺も鬼じゃない。ホントダヨ?
「それでよく結婚する気になったわね」
「哀だろ」
「うっわ、“愛”だって。クッサ」
わざとらしく鼻をつまんで見せるルナ。字が違うが訂正することもないな。
「ところでさぁ」
「なんだよ?」
「ラクス議長に伝えたあれって本当なの?」
「適当」
「だと思った。だいたいミカン類ばっかり食べて、肉やめただけで胸が大きくなったら世の中巨乳だらけよ」
あの人の場合なにやっても無駄っぽいけどな。
「ま、アスカ家にはカンケー無いですけど。それより早めに子供の名前、考えといてよね。二人ぶん」
「お、おう」
やばい、ニヤケて頬が飛んでいきそうだ。
「あ~あ、ラクス議長も婚約者のアスラン隊長と結婚してれば子供できたかもしれないのに」
「!!?」
あの電波を妊娠させられるアスランって……。