スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第0話

Last-modified: 2012-05-01 (火) 13:55:35

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第0話「産声」

 
 

 激しい衝撃が走る船内。しかし、それはすぐに収まった。
 この船の艦長であるキャスリーン・ジェインウェイ大佐は、前方の窓に映る無機質な空間を凝視していた。

 

「ミスター・パリス。…現在位置は」
「……予定通りの位置です」

 

 艦長の問いにパイロットであるパリスは慎重に答えた。
 その彼の言葉を補足する様に、セブンも彼女の後方から報告する。

 

「トランスワープ・ネットワークが消滅した」
「……喜ぶのは後よ。ミスター・トゥヴォック」

 

 艦長の指示に常に冷静に対応するのは、保安主任であり、この艦の兵器システムを操作するトゥヴォック少佐。
 彼の操作でトランスフェイズ魚雷が発射された。再び衝撃波が艦を襲う。
 連邦の一般的な宇宙艦の常識を遥かに超える規格外の大きさは、一つのコロニーやステーションと表現しても良いくらいのものだ。
 小型のものでも連邦最大級のギャラクシー級やソヴェリン級宇宙艦を越えるのだ。
 そんな規格外のサイズをした球形のトランスワープ艦「ボーグ・スフィア」が、遂にトランスワープチューブから出現した。
 しかし、それは現れて間もなく内部から爆発を起こして崩壊した。
 そして、その爆炎の中から一隻の艦が飛び出す。

 

「……やった」

 

 艦長は静かにそう言った。
 その言葉をクルー達は静かに受け取った。

 

 かつては連邦は勿論、銀河最大級のネットワークを持つ巨大な侵略組織として君臨した「ボーグ」。
 しかし、それもジェインウェイ提督と艦長の協力により、彼らの要のネットワークである「トランスワープ・ハブ」を破壊する事に成功した。
 しかも、彼らの女王とも言えるボーグ・クィーンを元に感染させた神経溶解ウィルスにより、同化ネットワークすらも破壊する事に成功した。
 そして、彼らは生還する。

 
 

 イントレピット級恒星間宇宙艦U.S.SヴォイジャーNCC74656は、実に7年あまりに及ぶ漂流の旅の末、ついに宇宙連邦本部のあるアルファ宇宙域に到達した。
 それは全人類未踏の地よりの生還であると同時に、宇宙歴の歴史に新たなる一歩を踏み出した軌跡ともなるであろう。
 だがその時、左サイドでコンソールを操作していたハリー・キム少尉が艦長に報告する。

 

「艦長」
「はい、ハリー」
「その、……おかしいです。座標は確かにアルファ宇宙域を示しているのですが……長距離スキャンをかけても何らの亜空間通信もキャッチできません」
「……何かの間違いじゃなくて?……セブン、あなたの方ではわかる?」
「わかった、私がやってみよう」

 

 セブンはキムのもとへ普段通りの見事な姿勢で歩いてゆく。
 彼は彼女が来るとその場を譲った。
 彼女はコンソールに触れ、ボーグプロトコルで船内システムにアクセスし調査を開始する。

 

「……確かにマルチフェイズでディープスキャンを実行したが駄目だった。
 ん、……まて、これは電子信号だ。
 パリス中尉の作成したホロマトリクスの中に酷似したものを見た事が有る。
 推測するに21~2世紀程度の短距離伝送技術のようだ。
 ……だが妙だな。所々奇妙な劣化をしている」
「奇妙な劣化?……あなたにしては曖昧な回答ね。どういうことなの」
「電子を撹乱する何らかのフィールドの干渉を受けているようだ。
 いや、まて、……艦長、艦内外で微量のクロノトンを検知。
 クロノトンの崩壊率からみて、100~300年の時間のズレが生じている可能性がある。
 だとすれば、この電子信号の劣化はその当時の物と判断できるのではないか」
「クロノトン!?……近くに船は」

 

 彼女の話に艦長は驚きを隠さなかった。
 そもそも彼女の話す「クロノトン」とは時間流に直接干渉する放射線を放出する物質で、クロノトンフィールド内は時間的位相のずれが生じ、時間流を退行させる。
 その詳しい構造や原理はまだ連邦では解明されていないが、異種族の間では既に実用している種族も存在する特殊物質。
 有害な放射線は人体が被爆すると時間的退行を起こし、存在を消滅させる可能性もある。
 この物質を使う種族がいるとすれば、それは確実に連邦より高度な技術を持つ可能性があり、艦長が安堵出来る様な話ではなかった。

 

「無い。それ以前にこのクロノトンは壊れたスフィアも干渉を受けていた様だ。
 ボーグのデータベースには、アルファ宇宙域にクロノトンを制御出来る生命体はいないはずだ。
 いや、我々を除いてだがな」
「……セブン、詳しい調査が必要ね。天体測定ラボで引き続き調査を」
「了解」

 

 セブンはブリッジを出て行った。
 ハリーが持ち場に戻りスキャンを開始すると、再び何かを発見した。

 

「艦長、この時代にも存在するはずのクリンゴンやバルカンの恒星間通信も見つかりません。
 それと、地球周辺宙域より発せられたと思われる、先程セブンが指摘した電子撹乱フィールドの干渉を受けた電子信号を幾つか感知。
 劣化していますが、修復を試みてみます。……出来ました。再生します」

 

『……僕はこの母なる星と、未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋。
 そして、人の今と未来の間に立つ者。調整者。コーディネイター』

 

 その通信は随分前に送信された物の様だが、ブリッジを騒然とさせるには十分なものだった。
 内容は発信者ジョージ・グレンによる自らの遺伝子操作の告白と、その輝かしい経歴という結果。
 そして、その方法である遺伝子操作の仕方についての詳しい技術的な資料だった。
 彼はこの情報を送る事で宇宙時代の幕開けをさせたいと願っている様だが、やり方には少々無理が有る様に感じられた。
 いやそれ以前に、この通信内容が仮に「本物」であるとすれば、少なくとも「我々」が知る歴史を辿った宇宙ではないということだ。

 

 その時、不意に産声が上がった。

 

『医療室からブリッジ。ドクターからパリス中尉。
 君に会いたがっている人物がいるぞ』
「……行った方が良いわ、トム」
「はい、艦長」

 

 溜息混じりのブリッジに、新しい命の産声は救いだった。
 トムが去った後、艦長は副長へ操舵席への移動を求めた。
 副長はそれに応じて席に着いた。

 

「……コースセット、故郷へ…と言いたい所だけど、
 まだ何が有るか分からないから、身を隠せるアステロイドベルトへ」
「はい、艦長。コースセット、アステロイドベルトへ」

 

 ヴォイジャーはゆっくりと太陽系への帰還を始めた。

 

 (つづく)

 
 

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