スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
第3話「G.U.N.D.A.M」
コンソールのスイッチを押す。
薄暗いコックピットがモニターの光で照らされる。
「システム起動」
しばしのリードタイムを待ち、システムが起ち上がった。
起動画面が表示され、そこには頭文字の部分が赤く塗られて一つの単語になっていた。
「……GUNDAM」
彼の呟きに呼応したわけではないが、システムが語りかける。
その声は機械的な特徴はあるが、女性のものだ。
『ようこそ、Globe Union New Droid Attack Motion-controllerへ。
私の事は、ガンダムとお呼びください。
システムのセットアップを開始します。
認証を開始……生体認証イチェブ・オドンネルを確認。
システムの最適化まで暫くお待ち下さい。その間、このシステムについてガイドします』
システムはガイド用プログラムを表示した。
画面下部にはセットアップの進捗状況を示すバーが出ており、パーセンテージでも進み具合を確認出来る。
イチェブは既にこのガイドを幾度か見ているが、最初の儀式の様なものなのでそのまま再生するのに任せた。
Globe Union New Droid Attack Motion-controller……「地球連合の新しいアンドロイド用攻撃モーションコントローラ」と書き換えたのはセブンだ。
彼女からすれば連合のシステムがその名とかけ離れた内容だったこともあるのだろう。
『なお、このガイドは本システムのボイスコントロールではなく、録音を再生しています。
実際のボイスコントロールとは違う事を予めご了承下さい。
まずは、ドロイドコントロールはシステムのMotionモードを設定出来ます。
X-102デュエルは近接戦闘モード「ファイティング」、射撃戦闘モード「シューティング」の、2種類の戦闘モード。ロー、ミドル、ハイ、3種のエネルギー管理モードが選べます』
ガイドの通りこの内容は録音だが、言語サブルーティンを強化すれば滑らかに話す事は可能だ。
しかし、あえてそうしなかったのは、この時代のシステムの性能に合わせて必要最低限に留めた結果だ。
何より連合の機体はエネルギー管理にシビアでなくては運用が難しいため、エネルギーセービングにはかなり力を入れられた。しかし、ただ省エネなだけでは芸が無いこともあり、3段階の切り替えでパフォーマンスを操作し、全ての動きをそのモードに合わせた形で最適化している。
また、2種の戦闘モードは命中精度管理を徹底し、無駄な攻撃をさせない事でエネルギーを温存する意味合いもある。
『通常はオートマティックに設定されていますが、状況に応じてマニュアルでの駆動が可能です。
本システムはあなたの行動を学習し、あなたの行動パターンに合わせて最適化します。
また、行動を予めインプットし、私とあなたが分業することも可能です。
コマンドの設定は通常入力の他、私との会話でも行う事ができます』
我々がボイスコントロールを導入する事にしたのは、このOSが我々のGUNDAMであることと無関係ではない。
伊達に「Droid」の言葉が入っているわけではないのだ。
我々はこのOSを入れる事で、大尉の言う「魂」を入れるに等しい結果を作り出す。
単なるマシーンとしてのMSではなく、いわば「相棒」とでも呼べる様な存在になれば良い。
モビルスーツは戦場に立てば兵士の相棒なのだ。…という講釈を垂れたのはトムだったが、セブンはその話をいたく気に入ったらしく、彼女に褒められるトムを見てベラナも気を良くし、普段は滅多に見られない彼女らの息の合った共同作業となった。
……トムもたまには良い事を言うものだと言っては、彼に失礼だろうか?
『……システム、の、セットアップが完了しました。
現在、デュエル、は、バッテリー、100%、フルセット、の、装備、を、装着しています。
装備、の、サブバッテリー、により、通常駆動余力、は、40%増加します。
コンバットモーション、は、ファイティングに設定。エネルギー管理、は、オートマティックです』
「……GUNDAM。行動を開始する」
イチェブは操縦桿を握り機体を動かし始めた。
すると、仰向けに横になっていた機体がゆっくりと上体を起こしはじめる。
「……すごい、どうなっているんですか。
あんなに滑らかに起き上がるなんて……」
ラミアス大尉が目を丸くして驚いている。
だが、その声からは興奮も伺える。
彼女からすれば開発に関わってきただけに、この機体が「滑らかに」動く事自体が大きな事件なのだ。
無理も無い。
我々が始めて彼らのシステムをハックした時も、……そのあまりの出来の悪さに失笑したほど。
彼女にとってもそれは同じで、そのイメージが良い意味で裏切られたのだ。
ただ起き上がるだけですら「人間らしく」滑らかな挙動を目指した結果、見た目にも無理が無いだけでなく、ボディへの負担も軽減されている。
興奮しない方がおかしいというものだろう。
イチェブはゆっくりと立ち上がらせると、デュエルで体操をする様に両腕を上げ、深呼吸をする様に下げて行く。そして、緩やかに屈伸をして腕を振り、足を片方ずつ上げながらバランスをとるなど、徐々に高度な動きをさせてみせた。
「……えぇ、あぁあ…何が、どうしたらこんなになるんです」
ラミアス大尉がセブンに詰め寄るが、その時工場外部で爆発音がした。
大きな爆音と共に揺れが周囲を伝い、それがただ事ではない事を私達へ教える。
ラミアス大尉は先程までの表情が嘘であったかの様にキリッと真面目な顔に変わると、私に一言失礼と告げて周囲に指示を出し始めた。
私はセブンにシャトルのトゥヴォックへ繋ぐ様に促す。
この日の為にセブンとイチェブには、インプラントを通したシャトルとの通信機能を持たせていた。
これによりセブンはサイバネティック・インプラントを通して、外部との通信を会話無しで行う事が出来る。
この場は彼女を通して話す方が何かと都合が良い。
(セブンよりシャトル・アーチャー。何が起きている?)
(シャトル・アーチャーよりトゥヴォック。2機のMSが侵入した。
その他に工場区画に何者かが侵入した模様。
連合のサインは無いため、ザフトの攻撃と思われる。
基地周囲生命反応内に特異な遺伝子配列を持つ者が十数名いるが、外部区画より侵入している者はそのうちの数名だろう。
そちらへ向かっている。転送タイミングを言ってくれ)
(待て、今はまずい。艦長に報告する。別命有るまで待機してくれ)
(了解)
「艦長、侵入者は数名のザフト。こちらが目的だろう。
転送タイミングを任せると言っている」
「トゥボックには待機してもらって。
私達がここで動くのは拙いわ。今は流れに任せましょう」
「分かった。既に待機する様に伝えている」
セブンの言葉に私は思わず目を丸くした。だが、こういう成長こそ私は嬉しい。
私達はとりあえずこの場を避難する算段をつける必要がある。
しかし、この場を動くのはなかなか難しい。
まだテストすら終わっていない機体をそのまま渡しては、連合の分が悪いのは間違いないだろう。
ならば、先に全てのMSにシステムをインストールしてしまう事にした。
私はラミアス大尉にロムスティックを渡すと、全ての機体に基地システムから同時にインストールさせた。
これで何とか機体の制御は我々の方で行える。
仮にこのうちのいずれかが奪われる様な事があったとしても、我々の手の中にカードを収めておく事ができる。
彼らが如何に自然に存在するより高度な行動が出来るとしても、それらは同じ条件が与えられた場合での話であり、全く違う条件に適応するのはそう簡単には行かないものだ。
ならば、我々が出来る事はそうした条件を与えることだ。
「セブン、イチェブにはそのままMS内で待機し、場合によってはそれを動かして交戦する可能性がある事を知らせて。
私達も白兵戦の用意をするわ」
私はラミアス大尉に掛け合ったが、さすがに軍の施設内での戦闘といえど、民間人への武装の所持は許可されなかった。
これは仕方ないと考え、フェイザーを麻痺にセットして構えることにした。
ラミアス大尉は私の手に持つものを見て怪訝な顔をした。
「あの、それは何ですか?」
「護身用のスタンガンです」
「え、そんなものを!?」
「万が一の備えは必要でしょ。か弱いレディには。フフ、大丈夫。
ちょっと派手な視覚効果が売りの我が社の試作品です。
上手く使えれば軍に売り込む事も考えてまして。ただ、飽くまで試作品ですから」
「はぁ」
「大尉、頼りにしてますわ」
「え、えぇ」
大尉の困惑した表情が印象的だったが、とりあえずこの場はこれで用意はできた。
侵入者は少数だがなかなか捕まる気配は見えない。
かなりの手練が侵入しているのだろう。
こういうシチュエーションを嫌いじゃない自分がいる。
来た。
大きな爆発で建物が揺れ、視界の前方で爆風が吹き荒れ煙に覆われた。
幾人かの悲鳴が聞こえるが、ラミアス大尉が檄を飛ばしている声もする。
私は研ぎすまして侵入者を探る。その時、上の方で声がした。
「……やっぱり……地球軍の新型機動兵器。
……うっ……お父様の裏切り者ぉ!」
上を見上げると若い女の声。
となりには少年の姿も見える。
何故こんなところへ。
「……子供!?」
案の定、ラミアス大尉も驚いていた。
無理も無い。軍の施設内にいる子供は不自然だろう。
その時爆発が起こり、二階の梁の一部が崩壊し少年達の近くに落下した。
少年は少女を庇って避けると、その足でそのままどこかへ姿を消した。
その間、ラミアス大尉は兵士達に機体を動かす様促している。
「ハマダ!ブライアン!早く起動させるんだ!」
二人の兵士が走って向かった。
周囲からは機銃を使う音が聴こえる。
彼らを援護してやりたいが、フェイザーを見せるのは極力避けたい。
この場はひたすら彼らの無事を祈る他無かった。
大尉は的確に銃を発砲して相手を牽制し、二人の兵士を援護している。
彼女の射撃の腕は一流と言って差し支えないだろう。
援護された兵士達も心強いに違いない。
その時、
「あ!?危ない後ろ!」
「さっきの子、まだ……!」
少年の呼びかけに大尉は自分を狙うザフト兵の姿を認めた。
彼女は素早く身を逸らして躱すと、躱し様にザフト兵を撃ち殺した。
そして、上方の少年に言う。
「来い!」
「左ブロックのシェルターに行きます!お構いなく!」
「あそこはもうドアしかない!」
「え!?うわぁ。」
爆発で壁面が破壊され、構造物が落下した。
少年はそれを見事な程軽やかに避けた。
その動きは半ば人間離れしたとでも言うべきか。
階下の状況にどうしたら良いか迷っている少年に対し、大尉は声を掛ける。
「こっちへ!」
「あっ」
少年の声は勿論、その表情で彼の言わんとすることを察知した彼女は、銃口と共に背後を振り向いた。
そこには赤色の服を来た侵入者が大尉目掛けて構えていた。
だが、彼女はそれを確認した瞬間には引き金を引いていた。
相手が撃ってくる前に正確な射撃で返り討ちにしたのだ。
それを見た後方の赤服の侵入者が叫び声を上げて走り銃を撃ってくる。
「ラスティーーーー!うぉぉぉおおおおおお!!!」
「がぁあああ!!!」
彼の銃撃はMSに乗り込もうとしていたハマダを撃ち抜いていた。
彼の悲鳴に思わず大尉が叫ぶが、
「ハマダ!?!ぅわああ!!」
不意の攻撃に対応が間に合わず彼女も腕を撃ち抜かれる。
そこに先程促されて降りてきた少年が駆けつけた。
だが、彼は何故か敵を前に呆然と立ち尽くした。
いや、彼だけではない。
侵入者もまたそこに立ち止まっていた。
「……アス……ラン」
「……キラ」
-つづく-