スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第7話

Last-modified: 2012-05-17 (木) 20:16:48

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第7話「抵抗は無意味だ」

 
 

 ヴェサリウス艦橋
 クルーゼはスクリーン越しにブリーフィングをしていた。
 スクリーンの向こうはガモフのパイロット待機ルームだ。

 

「……我々はあの新造艦を今後足付きと呼ぶ。足付きには我々が取り損ねた2機のMSがある。
 アスラン、ディアッカ、ニコル、君らが持ち帰ってくれたお陰で、私の失態も首が繋がろう。そして、ミゲル。君の持ち帰った戦闘データも興味深い。
 諸君らも知っての通り、あれのOSの出来は……次元を超えている。
 連合があれほどのシステムを整備して立ち向かってくる時、……それは我々の破滅の時と言っても良い代物だ」

 

 クルーゼの言葉は、スクリーンに映る面々は勿論、艦橋のクルー全員が同意する話だった。
 彼らは鹵獲した機体のOSをハックしようと何度も試みた。
 しかし、それは全て失敗に終わり、全ては……

 

「……『抵抗は無意味だ』……ですか。馬鹿にしている」

 

 アスランの発言もまた、この場の皆が共通に認識する屈辱的ワードだった。
 とはいえ、それが嘘ではないから始末に悪い。
 ニコルも深刻な面持ちで語る。

 

「でも、確かに我々の力では及ばない高度なプロテクトがされていました。
 あのプログラムは本国の最先端の演算システムを用いても、……天文学的計算を要して解けるか……といったレベルでしょう」
「ニコル、お前は悲観的過ぎる。
 イザークぐらいカラッと熱いくらいが丁度いいんだぜ?」
「にゃ、にゃにぃにゅぐぐg」

 

 イザークは反発する途中でディアッカに口を押さえられてしまった。
 そのディアッカはクルーゼに問う。

 

「隊長、鹵獲機体、使うんですか?……機体の解析は済んでいます。
 それに、今の所使う分には問題も無いし、何よりあのOSは親切な程使いやすい。
 でも、中身は全くのブラックボックスだ」

 

 クルーゼもディアッカの言う事は理解していた。実際にシステムを触れもしたのだ。
 彼の言う通りOSはこちら側を受け入れるどころか、細かい微調整もしてくれる程至れり尽くせりだ。
 これほどのシステムを遊ばせておくのは勿体ない。だが、それだけに罠の危険性もある。

 

「……勿論、罠かもしれんな。だが、あれらを野放しでジョシュアに持ち帰らせてみたまえ。
 ……戦況は一層厳しい物となるだろう。ならば、使える物を使う他あるまい。
 我々は元々圧倒的に量を不足している。奴らに時を与えるだけで……我らは時をも敵に回すだろうよ」
「……では、使うんですね」
「その通りだ。だが、念には念を入れる。私もただしてやられてばかりでは癪だからな。
 向こうがその気ならばこちらも対応するまでだ。作戦は予定通り執り行う。出せる機体は全て使う。
 ジンには本国と掛け合ってD装備の許可を取得済みだ。これより……我々は鬼ともなろう」
「……隊長。了解しました」

 

 ディアッカはクルーゼの決意を悟った。
 それを聞いていたクルー達もまた、クルーゼの非情なる決断を受け止めていた。

 
 

 地球連合軍アークエンジェル艦橋では、ラミアス大尉が息を切らして部屋に入った。
 艦はバジルール少尉のもと発進準備が進められていた。
 彼女の遅れに入口に立っていたフラガ大尉が怒鳴る。

 

「遅いぞ!」
「すみません!状況は?」
「……ヘリオポリス外壁に攻撃、そこから数機のMSが侵入したのを、ヘリオポリスのモニターシステムから探知した。その中には鹵獲された機体も含まれている」

 

 彼女の前に話しながら現れたのはアニカ・ハンセンことセブンだ。
 彼女の隣には私も付いていた。

 

「ハンセンさん!?それにジェインウェイさんも。その情報はどうやって?」

 

 彼女の疑問は当然だろう。
 本来のアークエンジェルにはそのような情報を収集する機能は無い。

 

「我々はコンピューターシステムとサイバネティクスのスペシャリストです。
 我々の方でコロニーのシステムをハックしました。まぁ、緊急時ですから問題ないでしょ?
 さて、この出航、私もここでしばし見学させて貰いますよ。
 あと、アニカ(セブン)には整備チームに参加させて貰っても良いかしら。
 彼女の技術力は必ず役に立ちます」

 

 私は彼女の目を見据えた。
 彼女は半ば圧倒された様子で私の提案を了承した。

 

「……わ、わかりました。そのようにお願いします。大尉のモビルアーマーは?」
「ダメだ。出られん」
「では、フラガ大尉にはCICをお願いします。ミリアリアさん、艦内通信を開いて」
「はい」

 

 ラミアス大尉は艦長席のマイクを手に取ると、姿勢を正して話し始めた。

 

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスより全クルーへ告ぐ。
 本艦は再び戦闘に入る。シェルターはレベル9で警報を維持しており、我々の目標はヘリオポリスからの脱出を最優先とする。
 戦闘ではコロニーを傷つけないよう留意せよ!……先の攻撃にも耐えた皆の武運を信じる。以上」

 

 アークエンジェルが発進した。
 セブンにはまずは機関室へ向かわせた。

 

 ……彼女にはこの間にエンジンの出力効率の改善を指示している。
 連合軍が開発した機器はとてもエネルギー消費効率が悪い。
 セブンはこの効率をシステムの改良で3割の改善を見込んでいる。
 完全な整備にはシャトルを呼ぶ必要があるが、差し当たって3割の消費効率改善は十分だろう。
 言い換えればそれだけ杜撰なシステムで無駄に浪費しているとも言えるが、長い航海を想定してもエネルギーが潤沢にあって困る事はない。

 

 状況次第では何らかの策を練らねばならないが、本当に緊急の状況に陥ったならばヴォイジャーがある。
 アステロイドベルトからではあるが、ヴォイジャーには我々の行動をモニターする様に命じてある。
 その気になればこの距離ならば瞬時に到達する事が出来る。
 だが、出来ればそうならない様にしなくてはならない。
 なぜなら我々の存在を知られる事による新たなる問題の方がずっと大きいからだ。

 

 ……少なくともここは地球だ。
 地球人とは事を構えたくないものだ。

 
 

 MSハンガーでは整備員達が忙しく駆け回っていた。

 

「3番コンテナ開け!ソードストライカー装備だ!」

 

 マードック軍曹の威勢のいい声が飛ぶ。
 ハンガーの作業員達は大忙しで戦闘準備をしていた。

 

「……ソードストライカー?剣か。ビームだと穴を空けちゃうかな」

 

 キラは緊張しつつシステムを調整していた。
 そこにデュエルに乗るイチェブが話しかけてきた。

 

「キラ」
「イチェブさん」
「イチェブで良い。怖ければ無理をするな」
「うん、でも、倒さなくちゃ」
「……そうだな。だけど、ジェインウェイ社長ならこういう。生きて帰れと」
「うん」
「大丈夫だ。僕がお前を射たせはしない。全ての障害は排除する」
「……うん」

 

 ブリッジではトノムラが敵の機体を探知した。

 

「接近する熱源1。熱紋パターン、ジンです!」
「なんてこったい!拠点攻撃用の重爆撃装備だぞ!あんなもんをここで使う気かっ!?」

 

 フラガは機体情報を見て驚愕した。
 彼らの武装はとてもコロニー内での戦闘を考慮した物ではなかったからだ。
 トノムラが続けて探知した情報を読み上げる。

 

「タンネンバウム地区から更に別部隊侵入!うち、一機はX-303、イージスです!」
「ストライク、デュエル、発進させろ」

 

 バジルール少尉の命令下、二機が出撃する。
 続けて少尉は誘導弾兵器コリントスを装填しレーザー誘導で敵面前での誘爆を仕掛け、MS隊の発進を支援する。
 彼女の判断は実弾兵器がPS装甲へ与える効果が薄い事を考慮した上での目くらましだが、この判断が結果的に良かったのは彼女にも運が味方しているからだろうか。
 比較的戦えるデュエルが先行し、不慣れなストライクは母艦付近で待機する体制をとった。

 

「オロールとマシューは戦艦を!そして、ズラ!無理矢理付いてきた根性、見せてもらうぞ!」
「……あぁ、だが、俺の名前はズラじゃない。ア・ス・ラ・ン・ザ・ラ・だ!」
「なんか言ったか、知ってるぞ?……お前のお父上も隠れだってこと。
 いくら優秀にコーディネイトしても…頭は超えられない壁だったようだな」
「……俺の事は良いが、父上のことは言うな。……本人も相当気にしている」
「…………そうか。……すまない。…………ってなわけで、落ちろ!!!」

 

 彼らは散開して攻撃を回避しつつ各自アークエンジェルへの攻撃を開始した。
 しかし、その攻撃を尽くビームの正確な射撃が相殺する。

 

「でたな、化け物兵器め!」
「……抵抗は、無意味だ」

 

 イチェブのデュエルはアークエンジェル付近から相当の距離が有るにもかかわらず、正確にミサイル誘導を利用して追い込み、ビームに当てていた。
 OSのアシストもあるが、彼の場合はボーグの正確な計算能力もある。
 全ての分岐予測を一度に複数命令発行出来る彼の頭脳は、行く通りかの敵の行動予測を瞬時に立てられる。
 そして、それら全ての「敵の抵抗可能性をゼロ」にするのがボーグシステムの対応能力だ。
 勿論、本来はそれらの計算のために敵を予めスキャンする必要があるが、この時代の現行モデルのデータは既に全て取得済みである。スキャンをするまでもないのだ。

 

 イチェブの正確な精密射撃振りにキラは感心していた。
 何より彼が一番感心したことは、敵を倒すのに自分の武装だけに頼る必要は無いということだ。
 こんな簡単なことではあるが、張りつめた状況では冷静に思考を回すのは難しい。
 それだけに、イチェブという仲間が居る事がとても頼もしく思えた。
 イチェブも攻撃しながらキラの様子を伺っていた。
 彼の精神はとても弱いが、OSを書き換える等の知識や行動力は非凡な物を持っている。
 彼程の理解力があるなら、自分の行動からヒントを掴むだろうと考えていた。

 

「厄介なのはデカ物よりお前か!なら、これならどうだ!!!」

 

 ミゲルの命令でジンから次々に砲撃が走る。
 それは一見するとアークエンジェルへの攻撃に思えたが、微妙に照準がズレていた。

 

「ん」
「あぁ!?」

 

 イチェブは敵の攻撃が的外れであることを悟り、無駄な消費を避けて無理に撃ち落とさなかった。
 しかし、キラは気付き驚愕した。
 イチェブも彼の驚きを瞬時には理解出来なかったが、拙い事態になったのは悟った。
 キラの周囲を過ぎ去った弾丸は大地に着弾し大爆発を起こす。
 そして、同時に大地を急速に亀裂が走った。
 避難民達の逃げたシェルターでは悲鳴が起こり、不安が渦巻いた。

 

『警報レベルが10に移行しました。
 このシェルターは救命艇としてパージされる可能性があります。全員……』

 

 亀裂の入った地域に設置されていたシェルターが、大地の崩壊に合わせてパージされ始める。
 そのパージの動きは次々と連鎖して起こり、構造を繋いでいたバランスが崩壊し始めた。
 遠心力が渦を描く様に構造物を宇宙へと解き放って行く。

 

「ズラ!!お前何処へ行く!」

 

 ミゲルが叫ぶ。
 アスランが先行するのを見て、それが明らかに作戦と違う行動だったからだ。
 そのアスランはイージスを駆り、自慢の機動力で戦艦からの攻撃を巧みに避けてキラに迫る。
 彼は幼なじみがあのストライクに乗っているのか、実際にこの目で確かめたい頭で一杯だった。

 

「ちょ、ズラじゃない!って、くそ。
(ミゲルとの通信をカットし)キラなのか!!」
「アスラン!?」
「キラなんだな!」

 

 キラはイージスのパイロットがアスランであることに戸惑っていた。
 いや、この予想はずっと彼の頭の中にもくすぶっていたことだ。
 しかし、実際にお互いを認識をしてしまった現在では、もはや不安等は関係無かった。
 問題は幼なじみと戦わなくてはならないという残酷な現実だ。
 死にたくはないが、死なせたくもない。
 あんなに一緒だったのに、どうして違う色を纏わなければならないのだろう。
 ……本当は同じコーディネイターなのに。

 

『ズラ!手柄は貰ったぁーーーー!!!』

 

 二人が半ば放心しているその時、アスランのコックピットに通信の声が入る。
 ミゲルは二人がどういうわけか分からないが立ち止まったのを好機と捉えたのだ。
 アスランの後方から現れた彼は、サーベルを構えキラをその間合いに捉えた。

 

「ぐぅ!」

 

 警報音が鳴り響く中、キラは咄嗟に反応してそれを受け止める。
 強い衝撃と共にGが掛かるのを感じた瞬間、唐突にそれが消えた。
 デュエルのビームは、正確にミゲルの機体を貫通させていたのだ。
 ジンは頭部から垂直にビームで打ち抜かれ、爆散した。

 

「ミゲルゥウーーーーーーーーーー!!!」
「ウワアアアアアアーーーーーーーー!」

 

 ミゲル機の爆発により両機が爆風で弾かれる。
 そのままキラとアスランの両機は、大地に開いた大穴から宇宙空間へと放り出された。
 アークエンジェルの艦橋では彼らが弾き出されても何らのしようもなく絶句した。
 イチェブが残りの敵機を攻撃するが、敵のジンはコロニーコアを砲撃し破壊して離脱した。
 全てのバランスが崩れ、最早誰にもこの崩壊を止められない。

 

 ついに、ヘリオポリスは完全崩壊を始めた。

 
 

 ―つづく―

 
 

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