セカンドシリーズ起動編

Last-modified: 2016-11-18 (金) 23:19:59

 ステラがガイアのコックピットに潜り込むのを見届けてから、スティングは    
漸くライフルを捨てて格納庫に残された最後のモビルスーツ"カオス"に乗り込んだ。
自分達が入ってきた入り口とは別のゲートから完全武装の戦闘員達が入ってくるのを
眺めつつ、ハッチを閉ざす。
本当にのんきな物だ、全ての段階で彼らの対応が後手に回ってくれたおかげで、
自分たちは全くの無傷でモビルスーツまでたどり着く事が出来てしまった。

 

「アウルの言った通り、これがラボの訓練だったら全員廃棄処分だな。
本当に、鈍間とは仕事をしたく無いもんだ」

 

 現在のところ例え装甲がフェイズシフトを展開していないとしても、
モビルスーツを完全に撃破出来る個人用火気は存在しない。
三人がいまだ生身であれば十分に勝算があったであろう戦闘員たちは、
立ち上がりつつある鋼鉄の巨体を為す術も無く只見守るしかなかった。

 

「さてと、後はこいつらを持って帰るだけなんだが。
まさか正面玄関から帰らせてくれはしないだろうよ」

 

 スティングは自分の機体を起動させ状態を確認しながら、同時にガイアとアビスの
状態をもデータリンクを通してチェックしていた。
パイロット訓練所の教官がもし見ていたら、諸手を挙げて降参するであろう程に
滑らかな動作で起動準備を進め、一番最後に機体に乗り込んでいながら全ての作業を
終了したのが一番早かったというのは、リーダーの面目躍如といったところである。

 

 スティングは機体の各種状態をチェックし終えて、思わず舌打ちの音を漏らした。
まさか完全武装状態で格納庫に待機させてあると思うほど阿呆ではなかったが、
カオスもガイアも武装はテスト用で攻撃力は皆無に近く、宇宙用のマニューバー試験も
しばらくないのか推進剤は一吹かしすれば空になり、バッテリーはといえば、
長持ちして再充電が簡単な民間製のテスト用だった、代わりに容量が小さいのだ。
特にアビスの状態が悪い。

 
 

「おい、スティング!! この機体推進剤が殆ど入ってねーし、バッテリーの
残量も空っぽ寸前だ!! あの野郎直前ぎりぎりまで動かしてやがったんだな。
とにかくこれじゃあ戦闘は無理だぜ、装甲張って走っただけで息があがっちまう」
「ああ、こっちでも確認してる。とにかくフェイズシフトは張るな。
バッテリーを補給する事が出来ないようなら、そのまま下に行って外に出ろ。
撹乱は俺とステラでこなす。
とにかく外に出ておいて、タイミングを合わせてプラントから離れるんだ。
方向さえあっていれば、ネオが回収してくれる、とにかく戦闘するな。
聞いてるな、ステラ!! アウルが駄目だ。二人でかき回す!!」
「うん、わかった。アウル気をつけてね」

 

 スティングは武装が整っていない状況は覚悟していたが、アビスのバッテリー
の問題はそれ以上に行動を制限した。

 

「ちっ!! 上にプラントの議長かどこかの国のお姫様でもいれば、人質にとって
悠々外に出られるってのによ。期待するだけ無駄だが」
「へへっ!! あんたが無い物ねだりだなんて珍しいよな、スティング」
「うるせえ、元々足りない物だらけだから、何か一つ欲しがる度に無い物ねだりになるんだよ。
普段はアウルみたいに欲しがらないだけだ。
軽口叩いてないで聞け、お前の状況が一番やばいんだよ。敵に会えばすぐにアウトだ。
とにかくお前は早めにずらかれ。推進剤もない潜水機がここにいたって無駄だ」
「オッケイ、今回は楽をさせてもらうよ、それじゃあな」

 

 そう言うとアウルを乗せたアビスは下――地の底の宇宙へ繋がる方向へと細心の注意を
払いながら歩いていった。
スティングが操縦するカオスとステラが駆るガイアは全く逆の方向、即ち人工の大地の
地表へと、こちらはやや余裕のある足取りで進んで行った。

 
 

 外を目指して地下へ進むという地球上では絶対に出来ない経験をしながらも、
アウルは鼻歌を歌うぐらい余裕だった。
可能な限りに無駄の無くバッテリーを温存できる動き方をさせるなど、
アウルにとっては朝飯前の事だった。
アビスの足の裏を通して床のワックスの掛かり具合が分かるほどだ。
そしてアビスを歩かせながらアウルは手元のコンソールを操作して、
アビスの固定装備を次々と排除し始めた。

 

「ええっと先ずは肩の中に復列ビーム砲、どうせ撃つ事なんて出来ないから要らないや。
次にCIWSの機銃弾これも要らない、敵に会ったらアウトだっての。
それから装甲、一発だって防げやしないからこれも手のところ以外、外しちまおう。
なんだかとってもすっきりした気分だな、ラボのモビルスーツでこんな事やったら、
即行で廃棄処分確定!! ホルマリン漬け決定!! だもんな」

 

 軽い口調で様々な装備を切り捨てながら、機体の爆発ボルトを作動させて武器も装甲も
排除してしまう。
もしアビスを追う者がいたならば、その逃走経路に点々と残された装備をたどる事で
簡単に付いて行く事が出来たであろう。

 

 だが、あれ程気をつけなければならなかった外敵は、アビスの前方からやって来た。
丸い頭部と肩、光るモノアイを持つその巨人は、ザフトの新型量産機であるザクである。
一つ目の巨人、正確にはそのパイロットであるコーディネーターはそれを目にした瞬間、
自分の目を疑い次の瞬間それが錯覚ではないと分かると唖然とした。
侵入者に奪われた最新鋭のモビルスーツを奪還するべく、外壁部の待機位置から
急に呼び出された彼が目にしたものは、外部装甲を殆ど取り外して歩く巨人の姿だったからだ。
それを見た人が思い浮かぶであろうイメージは即ち、モビルスーツのミイラ。
手にしたビームライフルを向ける事も警告を発する事も忘れてしまった一瞬が過ぎる。
そしてアウルにとってはその一瞬で十分だった、
勝負を分けるのは何時も、機体の認識に手間取る程度の僅かな時間でしかない。

 

「こんにちは、おじゃましてるよーー」

 

 ザクのパイロットが手にしたビームライフルを構えさせる暇も無く、
アウルは皮の無いアビスを歩み寄らせると、右腕を少し上げさせ、ここだけは残しておいた
手先の部分の装甲にエネルギーを供給しフェイズシフトを発動、同時に間接をロックする。
実にたったこれだけの動作で、アビスは全重量を込めた突きをザクのコックピット部分に
叩き込んでいた。パイロットは痛みを感じるまもなく死亡した事だろう。
動力が停止したザクがビームライフルを手放し、それをアビスが受け取る。

 

「ごめんねー、無駄が無くってさ。とりあえずバッテリーの心配は要らなくなった。
ありがとーさん!!」

 

 型番の新しいモビルスーツはほぼ例外なく手にした武器と本体の間で電力をやり取りできる。
そして新しいタイプの武器は間違いなく武器本体にも電力が蓄えられている。
奪い取ったビームライフルからアビスのバッテリーに電力を供給させたアウルは、
宇宙の側へ繋がる気密ハッチの内側へと、アビスを滑り込ませた。

 
 

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