リリカルしーどS_第02話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 16:06:01

「ふぅ…」
シンは汗を拭く。
あれから一週間がたつ。
その間もフェイトとの特訓はずっと続いていた。
特訓の成果から今シンは、基本的な魔法の大半を覚え、初等の魔法では最高レベルとも言われている飛行まで自在に操れる域に達している。
この一週間で彼はずいぶんと成長したと言えよう。
見習いの魔導師が徐々にではあるが、魔導師としての階段を登りつつあるのだ。
自販機まで歩いていき、飲み物を買うとごくごくと一気に飲んでいった。
「今日の訓練はここまで。私はこれから知り合いに会いに行くんだけど…そうだ!シンも一緒に来る?ついでだから、シンのことも紹介したいと思うの」
「はぁ?」
シンは呆気に取られていた。
無くなった缶をゴミ箱に向かって投げ捨てる。
カランと小さな音を建ててゴミ箱へと吸い込まれた。
─知り合いに会うのに、俺が居て良いのかよ。
「大丈夫。会うのは昔からの友達だから。そんなこと気にしないよ」
シンのそんな感情を察したのかフェイトはフォローする。

「それじゃ行こうか」
「あっ…」
シンは強引に連れて行かれた。
─有無を言わさずかよ。
そんなことを思いながらもシンは笑う。
─こういうのも良いかもしれないな。

心のどこかでそう考えていた。

手を引っ張られながらの行動だったためにシンはずっと顔を伏せなければならなかった。
シンはよく見ていなかったがクスクスと周りの人間が笑っていたかのように感じていた。
シンのそんな気持ちを知ってた知らずかフェイトはいつも通りに歩く。
「なっなぁ…フェイトさん、手離してくれないか?」
顔を真っ赤にしながらシンは言う
「ダメ、離したらシン逃げるでしょ」
「だっ、だからって」
それ以上の抵抗は諦める。
どうせ、このままでいるならさっさとついて欲しかったからだ。

俯いたまま歩くシンと堂々と歩くフェイトの姿は対照的であった。
食堂につくと手を振るものがいた。
フェイトもシンと手を繋いでない方で振り返す。
「久しぶりやな、フェイトちゃん。そっちの子がこないだ話しておった子か?」
恥ずかしそうに俯くシンの姿を見て、クスクスと笑う。
───しゃべり方変だな。
C・E世界にもキングT@KED@のように関西弁を使うものはいたが、シンは彼とは面識もなく、当然知るはずもない。
C・Eにはすでに日本は存在しないので大阪弁を使うものなど稀なのである。
「そうだよ、この子が異世界から飛ばされてきた子」
「そっか、私は八神はやてや。よろしくな」
「よっ、よろしくお願いします。俺はシン・アスカです」
声が裏返っていた。
手を引っ張られているところを見られたという恥ずかしさが強かったからだ。
「あはは、そんなガチガチに緊張しなくてもええんよ」
はやては笑いながら言う。
「そういえば、なのはは?」
「少し遅れるとか言ってたよ。戦技教導が忙しいらしいんよ。まっ、二人とも座ってもええよ。立ってても疲れるだけやないか」
はやての言葉に甘え、シンとフェイトは席につく。
しばらく、時間がたつ。
フェイトとはやては何かを話し込んでいたが、専門的な話しのようでシンにはそれが何かは分からない。
シンは退屈そうにジュースを飲んでいた。
横目でフェイトとはやてのことを見るが真面目そうな表情で話してた。
「あっ、ごめんシン。私達だけで話し込んでいて、退屈だったでしょ?」
そんなシンの様子に気づいてフェイトは言葉をかける
「いえ、別に大丈夫です。俺のことは気にしなくても」
「そういうわけにもいかないんやで。私達もこうやって話してても結構気まずうなるんやから」
3人の間に微妙な間が生まれる。
そんな時彼女はやってくる
「ごめん、二人とも待った?あれ、その子は?」
サイドテールの女性、高町なのはであった。
「この子はシン・アスカ。こないだ言ってた私が保護した子だよ」
「へぇ、君が。よろしくねシン君」
シンの方に向かって、微笑みかけた。

「はぁ…えっと…あなたは?」
「私は高町なのはだよ。フェイトちゃんの友達」
「そうですか。それじゃよろしくお願いしますなのはさん」
そう言って軽くお辞儀をした。
それを見てなのはは満足そうに笑う。
「とりあえず、ご飯でも注文しようか。シンもお腹空いたでしょ?今日は頑張ったからね」
「…はい、結構空いてます」
魔法の訓練は体力を使うのである。
「それじゃ、シンの好きなの注文して良いよ」
「えっと…じゃ、この炎のグレイトチャーハンというのを…」
妙にインパクトのある名前だったので、最初に目についたのである。
シンはそれを注文すると、すぐに山盛りのチャーハンが運ばれてきた。
あまりの量にシンが唖然とする。
グレイトゥ!!量だけは多いぜ。
「こんなの……全部食えるのか?」
「一人用じゃないからね。そのために私達はなにも頼んでないんだから」
三人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
「じゃ、頂きます」
四人はそう言って、チャーハンを口に入れた。
「うまっ、これうまっ!」
味は予想外に、存外に良い。
色物のようなその名からは信じられないような美味であった。
それぞれ黙々と食べ進めていく。
美味しいものを食べている時には言葉などいらないのだ
「そういえば、シン君だっけ、彼の調子はどうなの?」
3分の一程度減らした時不意に声が上がる。
「うん、凄いよ。この一週間でバインドに飛行まで使いこなせるようになったから。凄い学習スピードだと思う」
「へぇ、凄いね」
はやてとなのはは、ほぼ同時にシンの方を向く。
「べっ別に大したことじゃありませんよ」
ツンデレの異名を持つシンは素直にはなれない。
恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
「それでどんくらいで使いものになりそうや」
「多分、一年もあれば、武装局員になれると思う」
「一年か…部隊が出来るまでにはもうちょいかかるかな」
「何の話です?」

ついていけないシン。
三人の顔をキョロキョロと見渡していた。
「あぁ、私が今度新しい部隊を創るんよ。それで才能のある新人を探しているんや」
「新しい部隊?」
「そや。今管理局は後手にまわることが多いんよ。それで何とか後手にまわることなく先手を打てる部隊を創ろうとしているんやで。と言ってもそれを創るのにもかなり時間かかってるんやけどな」
そう言って苦笑した。
シンは思う。
あの時オーブ軍が後手にまわらなかったらどうなっていただろう。
あの時オーブ軍が本土上陸などさせなかったらどうなっていただろう。
決まっている。
マユは死んでいるか生きているかも状態にはならなかったし、シン自身も異世界に飛ばされることはなかった。
「素晴らしい考えだと思います!俺もその意見に賛成です」
シンのその言葉にフェイトとなのはは呆気に取られていた。
そんな中自分の意見に賛同してくれたシンにはやては目を輝かせた。
テーブルから身を乗り出し、手を握る。
「そやろそやろ!」
「はい!後手に回られることで被害を被るものはいます。最初からもっと動いていれば、こんなことにはならなかったって感じている人が必ずいるはずです」
その言葉でフェイトは気づいてしまった。
シンが自分の境遇に当てはめていることに…。
シンはMSの砲撃が原因でこの世界に飛ばされてしまった。
彼は憎んでいる…後手に回ったオーブ軍を…後手に回らせてしまったオーブを。
そして、それ以上に世の中の不条理を。
「…部隊設立出来ると良いですね。俺、応援しますよ」
シンは心の底からそう言った。
この人達なら大丈夫だ、彼はそう思ったのだ。
「ほんま、ありがとな…そうや、シンも私達の部隊が出来たら入らんか!?」
「でっ、でも、俺まだ何にも出来ない見習い魔導師ですよ。」

「良いんよ、どうせ、しばらくは、出来ないんやから。…少なく見積もっても後一年はかかりそうやからなぁ、上層部がなかなか折れんのよ」
はやては、ぼやくように言った。
管理局内のこういうところも変えたい要素なのである。
「それじゃ…俺は必ず強くなります。はやてさんの部隊が出来るまでに一人前の魔導師になってみせます」
「そんなら、私も、シンが一人前になるころには部隊を創ったるわ。競争や、私が部隊わ創るのが早いか、シンが一人前になるのが早いか」
「負けませんよ」
シンは微笑むように笑う。
はやても笑い返す。
その様子をなのはとフェイトは微笑ましそうに見ていた。
「ついでだし、ご飯食べ終わったら私かシン君の魔法を見てあげようか。私はこれでも戦技教導官やっているから人に教えるのは得意なんだよ」
「はっ、はい!よろしくお願いします」
これが今までの訓練が生易しいと思えるほど厳しい訓練であることはこの時の彼は当然知らなかった。

「確か攻撃魔法以外の魔法は殆ど覚えたんだよね。それじゃ、私の攻撃を…1分間避け続けて。一回当たったら最初からやり直しで。今までフェイトちゃんから習ったことを全て駆使すれば、不可能ではないと思うよ」
「…なのはそれきつすぎ」
シンは殆ど初心者である。いかにリミッターがあるとはいえ、Sランクオーバー魔導師の攻撃を防ぎきるのは厳しいものがある。
「大丈夫ですよ。ちょっとくらいきつくないと訓練の意味ないし」
「やる気満々だね」
彼女の周りにアクセルシューターが漂う。
「いっくよ~~」
計12ものアクセルシューターがシンに向かい放たれた。
シンは飛翔してそれを避ける。
あれだけの数だ。防御してる暇はない。
目で見るが、追いきれない。
「ちぃ!」
コーディネーター特有の高い身体能力を生かして、何とか避けていく。
目の前まで迫ったアクセルシューターを体を反らすことで避けたのは流石であろう。
だが……。
「目で追ってる限りじゃこれは絶対に避けられないよ」
後ろから急接近するアクセルシューターが存在した。
即座にプロテクションを起動。アクセルシューターを防ぎきる。

だが、プロテクションを放った瞬間は動きが止まる。当然、それを見逃すほどなのはは、甘くはない。
止まったシンに向かい、残りのアクセルシューターが向かう。
プロテクションを貫いてシンの体を吹き飛ばした。いくらバリアジャケットによる防御があるとはいえ、無傷では済まない。
地面に当たるすれすれのところで体制を立て直す。
「どうする?もう止める?」
「まだまだ」
再び飛行を開始して、アクセルシューターから距離を取った。
「そうこなくっちゃ」
アクセルシューターがシンの周囲を飛び交う。動きをよく見て、一気にシューターの中から抜けた。
ワンテンポ遅れて、アクセルシューターが動き出す。
シンはしてやったりの表情になる。
だが……。
「なっ!!」
「誰がそれだけだって言った?周りをよく確かめないとダメだよ」
シンの正面付近にシューターが設置されていた。シンの動きを読んだなのはがすでに設置していたのだ。
トップスピードのシンに正面から来るアクセルシューターを防ぐ手段はなく止むを得ず、ラウンドシールドを張る。
正面のアクセルシューターは全て相殺したが、後ろから迫るそれらにまたもや吹き飛ばされる。
「……そんなのありかよ」
「有りも何も、別に私はシューターの数を増やしたりしてないから」
「くっ…やれば良いんでしょやれば!やってやるよこんちくしょう!!」
アクセルシューターの渦の中に向かっていく。
攻撃魔法を持たないシンにはアクセルシューターを破壊して、避けるという回避手段を持たない。
彼が感じられるアクセルシューターの魔力反応を読みつつ、時には細かく、時には大きく動く。高い動体視力もそれを補助していた。
だが、数が多すぎて対処仕切ることが出来ない。
いつまでたっても終わらない攻撃の雨にシンの疲労も貯まっていく。
元々シンは空間認識能力があまり高くない。

彼には避けるだけで精一杯である。周り全体を見据える余裕などなかった。
壁づたいを高速で飛んでいき、急カーブをすると曲がりきれなかったアクセルシューターが壁にぶつかりあい消滅した。だが、加速し過ぎたためそのまま壁にぶつかってしまった。
「がぁ!!」
バリアジャケットを伝い、シンの体に衝撃が走る。
「はぁはぁはぁ……」
息を整える。すでに最初から2時間が経過していた。
一方でなのははシンの体力、そして、魔力の高さに驚いていた。
この間までただの一般人であったシンがこれだけ動き続けることが出来ている。
とはいえ、いかに魔力と体力があろうともそれを生かせるだけの動きがなければ、意味がない。
シンの動きはなのはから見れば、それだけ大ざっぱであった。
「ちっ…どうすれば…」
周りを取り囲むアクセルシューター。
「こんな何にも良いとこなしでやられてたまるか!」
シンは考える。どうすれば、この状況を打破出来るだろう。
──なのはさんが放つアクセルシューターはあの人自身が完全に操っていて、自由自在に軌道を描きながら俺の体を的確に狙ってくる。
………待て。それならば、何故壁にぶつかるようなことが起こる。
完全に操られているならば、俺の後を完璧に追うことが出来るはずだ。
…つまり、あれは完全に操られているわけではない。
「……行ける」
シンは笑う。
飛行魔法を解いた。
「えっ!」
なのはは驚く。当然シンは重力の法則に従い、地面に落ちていく。
魔力がつきたのではないかと心配するが、バリアジャケットが存在することからそういうわけでもない。無論気絶したわけでもない。
落ちていくシンをアクセルシューターが追う。
地面に当たるギリギリのその刹那、シンは再び、飛行魔法をかけた。
地面ギリギリを浮かぶように抜けていった。

シンの目論見通り、アクセルシューターの多数は地面に当たり消滅する。
残ったシューターがシンを狙うがシンは最小限の動きでそれらをやり過ごす
「…やるね」
なのはは笑みを浮かべる。
「でも、まだ始まったばかりだよ」
精製されたアクセルシューターがシンに飛んでいく。
曲芸のような動きでそれらをやり過ごし、場から離れる。
当然動きを予測していたなのはは、シンが来るであろう場所にアクセルシューターをしかけたおいた。
シンは魔力を噴出して、無理やり角度を変え、完全な突入を避けた。
「凄い…」
フェイトは感嘆していた。あれだけ自由自在に飛び回ることなど並の局員では出来ない。
空を制していたシンに驚きを感じざるには得なかった。
「せやけど、ちっと遅かったな」
「えっ?」
シンは上手くアクセルシューターをやり過ごしていった。スピードに緩急をつけることで直接的な動きだけではなくなっていた。
だが、それでもなのはの方が上手だった。シンはアクセルシューターに囲まれていた。
「後ちょっと…後ちょっとなのに…」
焦りの色が見られる。なのはは時間差攻撃でシンのことを追い詰めていった。逃げ場を一カ所だけ残して、シンのことを誘導していく。
そして…彼はなのはが仕掛けた場所に行かざるを得なくなった。
前後からアクセルシューターがシンを襲う。
「プロテクション!!」
──これを耐えれば…これさえ耐えれば!!
飛行を維持する以外の全ての魔力をプロテクションの維持にかけた。
十を越えるアクセルシューターとぶつかり合っていた。プロテクションが軋みの音をあげる。ガラスのような音をたてながらプロテクションは突き破られた。
だが、アクセルシューターの方もプロテクションの干渉により限界を迎えたらしい。シンの体に届く前に消滅した。

「やった……」
シンは上を見上げる。
「何ぃ!」
そこには一発のアクセルシューターが残っていた。なのはは、全てのアクセルシューターを飛ばしてはいなかった。
「もう一分たったから、君の勝ちだよ。頑張ったねシン」
なのはは、にこにこと笑っていた。
「俺の負けですよ…。あの時全部を俺に向けてれば、俺のプロテクションを破って、アクセルシューターを届かせることが出来たはずです」
「良いんだよそこは。私がシンにさせたかったことはそういうことじゃないから。」
「じゃあ、何をさせたかったんですか?」
シンは地上に降りてなのはに向かい合う形を取った。
「あのアクセルシューターの欠点…つまり、目の前の攻撃じゃなくて全体を見据える力をシンに培って欲しかったんだ。あの動きを見る限り最後のは気づいたんでしょ?」
「はい、あれは全てをなのはさんが動かしているわけじゃなくて、微妙にオートで動いている。だから、予測が難しい動きや複雑な軌道には対応が出来ない…こうですか?」
「正解」
なのはは、満面の笑みを浮かべる。
「それにシンの飛行技術は見違えるようによくなってたよ。」
「そう…なんですか?」
「そうだよ。ねっ、フェイトちゃん、はやてちゃん?」
二人はうんうん、と頷く。
「…シンの動きは最初の頃に比べて格段に無駄がなくなっていた。やっぱり、なのはは、凄いな。私じゃこんな風に上手く教えられない。」
「そんなことないよ。私はただ、シンの実力を引き出してあげただけだから。」
「俺の実力?」
「そうだよ。シンは才能あると思う。まだまだ、荒削りだけど、これならいつか立派な魔導師になれると思う。頑張ってね。私も応援してるよ」
「はっ、はい!ありがうございます」
シンは頭を下げる。

「じゃあ、私はもう行くから。シンもフェイトちゃんも頑張ってね」
「ほな、私も戻らんと。またな」
なのはとはやては、去っていった。
「フェイトさん、あの人達…良い人ですね」
「…そうだね。私の大切な友達だから」
「じゃあ、フェイトさんにとって俺は…どんな存在ですか?」
シンの質問にフェイトは驚いた。だが、すぐに笑顔に変わった。
「そんなの決まってるじゃない。大切な家族だよ」
「…はい」
シンも笑顔で返す。
──この世界で初めて会ったのがフェイトさんで良かった。
シンは素直にそう思った。
いつか、この人に恩返しがしたい…そんな思いを抱き初めていた。