リリカルしーどS_第07話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 16:10:50

あれから少しの間互いの近況について語った。
シンは部隊でのこと、はやては部隊設立にかけてのこと、そのことについて触る程度に語り合った。
機動六課ははやて曰く、「裏技」を使い集めた部隊であるらしい。
長時間話していられるほどお互い暇でもなかった。
適当なところで切り上げるとシンは会釈をし、部屋から出た。
外には壁にもたれながら立っているスバルとティアナがいた。
シンのことを待っていたのである。
何か話し合っているようだが、シンの位置からでは聞くことは出来なかった。
「あっ、シン」
シンに向け手を振るスバル。
ティアナは、シンのことを見るだけで特に何も行動を起こさない。
二人はシンに近づいていく。
「何話してたんですか?」
「いや、部隊分けについて。どうやら、俺はライトニング小隊とやらに入るらしい」
「ライトニングかぁ…私達と違うね」
そう言ってスバルはため息をつく。
彼女達はスターズ小隊…つまり、なのはが率いる部隊の隊員だった。
「そういえば、俺の部隊には誰がいるんだ?」
「あっ、えっと…」
「フェイト隊長にシグナム副隊長、それにエリオとキャロよ」
言葉に詰まったスバルの代わりにティアナが答える。
「エリオがいるのか…」
エリオは当然よく知っていた。
シンとしてはそれを聞いて嬉しくなる。
もともとシンはフェイトを手助けするために機動六課に入った。
だが、それだけではない。
まだ幼いエリオを守るのも彼の目的だった。
2つの目的が一辺に果たせるのは彼としては喜ばしい限りであった。
偶然か故意か…シンには分かりかねることであったが、心の中ではやてに感謝をする。
「へぇ、エリオと知り合いなんだ」
「まあな…以前フェイト隊長に世話になってる時があって…その時一緒に暮らしてたことがあったんだよ」

「へぇ、それじゃシンにとってエリオは弟みたいなもんなんだね」
「そうだな。あいつは俺にとって弟も同然だ」
そう、弟なのだ。
マユと同じくらい…いや、マユよりも幼い彼のことは守らなければならなかった。
それは兄として、家族として…。
彼にとってエリオを救うことはマユに対する贖罪でもあったのだ。
幼い妹を守れなかった自分に対する贖罪。
「ねえ、あんたは何でフェイト隊長に保護されていたの?」
今まで黙っていたティアナがふと口を開く。
シンは黙り込んでしまった。
今まで温和な笑みを浮かべていたシンだったが、今は他人を威圧するような厳しい表情を浮かべていた。
シンも会ったばかりの人間にそんな大事なことを話すつもりはなかった。
二人のことを信用してないわけではないが、それとこれとは別問題だ。
「ごめんシン…」
シンの心境の変化を感じ取ったティアナは頭を下げる。
「いや、良いんだ。そんなに気にするな」
空気を悪くしてしまったことを恥じたためかばつの悪そうな表情になる。
「そっ、そうだ!今から施設の案内をするよ」
ポンと拳を叩く。
空気をこれ以上悪くしないようにニコニコと笑っていた。
「…そうだな。案内頼めるか?」
シンの表情が少し明るくなる。
「任された。行こうティア、シン!」
そう言って先導していく。
ティアナは渋々と、シンは二人を見ながらついていった。
「それでここが…」
一方的に話していくスバルの話をシンは聞いていた。
正直なところ、シンはあまり施設については興味はなかった。
とはいえ、流すのも失礼だろうと思い、熱心にとまではいかないが話は聞きはしていた。
ティアナはやれやれといった仕草をする。
「スバルそこ違う」
「えっ、そうだっけ?」
「そうよ。あんたはそんなこともまだ覚えてないの?」
説教を始めるティアナ。
スバルは少しオーバーとも言えるリアクションを取っていた。
そんな二人を見てシンは思わず微笑む。
シンから見たら、二人はベストパートナーのように見えた。
それは羨ましくもある。

フェイトやエリオはパートナーではなく、家族だ。この世界にそこまで仲の良いものはいないからだ。
「助けてシン~~」
そう言って、スバルはシンの腕にしがみつく。
弾力のある何かが、シンの腕に当たる。
「どうしたのシン?」
シンの表情が真っ赤になっているのを不思議そうに眺める。
「いっ、いや、何でもない」
「ったく、とんだラッキースケベね」
デレデレと頬を赤くするシンを一瞥しながらティアナは言う。
「なっ!どういうことだよ!」
シンはラッキースケベという言葉に強い反応を見せる。
ティアナは肩を竦めてみせて…
「あら、自覚あるの」
そう言い放った。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
スバルは不思議そうに尋ねた。
いまだに、シンの腕に引っ付いている。
「きっ気にするな。俺は気にしていない。それよりも案内の続き頼む」
そう言うと、スバルはシンから離れた。
ティアナはニヤニヤとしながらシンを見ていた。
「それじゃ先に進もう」
そう言って、手を振り上げた。
シンもティアナも無反応だった。
スバルの案内は続く。間違えるたびにティアナからすぐに訂正が入った。
そんなこんなで施設を回った。
「ここが私達の寮。シンもここに泊まることになるよ」
シンは自分が持っているトランクを一瞥した。
意識していなかったが、意外に重い。
「で、俺の部屋は?」
「あっ、聞き忘れた…。ごめん、ちょっと聞いてくる」
そう言い残すとスバルはどこかにかけていった。
残されるシンとティアナ。
「シン?」
「何だ」
じと目でティアナを見る。
「何でもない」
「そうか」
会話はそれっきりだった。シンは寮の方をずっと見ていた。
「あっ、ティアナさん」
ピンク髪の少女が寮から出てきた。
子供だった。
シンが見たところエリオと同じくらいの。
「えっと、この人は誰ですか?」シンの方を見て少女は言う。
「ああ、こいつは…」
「シンさん!?」
そう声を上げたのは別の誰かだった。
シンが声の聞こえた方向を向くと赤髪の少年の姿が写る。
シンのよく知っている少年だった。

「エリオか!」
「シンさん…どうしてここに?」
「フェイトさんから聞いてなかったのか?俺はこの部隊に入ったんだよ」
「全然聞いてませんよそんなこと」
フェイトはエリオをびっくりさせるために意図的に隠していた。
その目論見通り、エリオはシンがいることに驚いていた。
「あの…こちらの方は?」
「あっ、この人はシン・アスカさんです。以前僕と一緒にフェイトさんに保護されていた方です」
シンの代わりにエリオが説明する。
「シン・アスカさんですか。私はキャロ・ル・ルシエです。よろしくお願いします」
そう言って可愛らしく頭を下げた。
シンはそれを見て複雑な気持ちになる。
キャロ…先ほどティアナが言っていたもう一人のメンバーだった。
エリオだけでなく、小さな女の子がこの部隊にいる。
マユとは似ても似つかないが、それでもマユの姿を重ねずにはいられなかった。
「…ああ、よろしくキャロ」
「シン・アスカさんもフェイトさんの保護下にあったんですか、私と同じですね」
そう言って微笑んだ。
シンの頭にフェイトの姿がよぎった。
もう一人保護する人が増えた…以前フェイトはそう言っていたのである。
また、一人保護の対象が増えた。
彼女のことは全くといって良いほど知らないが、フェイトに保護されているということはすなわち何らかの訳があるということだ。
シンにもエリオにも理由があった。
そして、彼女にも…。
──いや、違う。
シンは心の中で否定した。
訳有りだから助けるんじゃない。困っているから助けるんじゃない。
子供を守る…それだけなのだ。
それ以上の理由は要らない。それだけでシンには十分過ぎた。
「ああ、よろしくキャロ」
シンは微笑むように笑った。
「おーい、みんな~~」
駆け寄ってくる声がする。スバルだった。
手を振り返す年少組。腕を組みながらそれを見るシンとティアナ。
スバルから部屋の番号を聞いたシンは荷物を置いた。
部屋はエリオと同じだった。恐らく誰かの配慮があったのだろう。

部屋を出ると再び4人の方に向かっていった。
交流を深めるために5人で行動することになったのである。
そんな様子を上から見ているもの達がいた。
「あれがシン・アスカか…もうとけ込めているようだな」
そう言って見下ろすのは烈火の騎士シグナム。
その横にはフェイトが立っていた。
「そうだね。シンが溶け込めてるようで安心したよ」
「しかし、良いのか?お前の家族は全員この部隊に集めてしまって…特にあの二人なんてまだ子供じゃないか」
「そうだね…本当なら私はあの3人にはもっと平和な世界にいて欲しいけど…その3人が自ら目指した道を否定する権利は私にはないから」
そう言って眩しそうに空を仰ぐ。
「まあ、お前がそう言うのなら何も言うまい。私はシンとやらの実力が気になる。あの若さで副隊長を勤めていたというのはな」
「そう言えば、シグナムも元々は航空部隊の副隊長なんだっけ」
「ああ、そうだ。首都防衛隊の副隊長を新人ながら勤めていた。その実力がどれほどか…明日が楽しみだよ」
くつくつと笑いながらシグナムはシン達を見る。
フェイトはそんなシグナムをどこか不安そうに見ていた。

シン達は外に集まっていた。
今日から訓練が始まる。
メガネの女性がシン達から集めていたデバイスを手渡しで返す。
「今渡したデバイスには記録チップが入ってるから大切にするんだよ。それからメカニックのシャーリーから一言」
なのはがそう言うとメガネの女性が前に出る。
「私はメカニックデザイナーのシャリオ・フェニーノ一等陸師、シャーリーって呼んでね」
「それじゃ始めよっか」
「始めるって…どこでですか?」
ティアナが手を上げて尋ねる。
当然の疑問だった。
周りにあるのは海と施設だけで、訓練するスペースなどない。
誰が見ても訓練所には見えなかった。
辺りの海を使うとしてもシンのように空を飛べるなら問題はないが、陸師であるティアナ達には無理な話だった。
「心配ないよ。シャーリー」
なのはがそう言うとはーい、と元気よく声をあげる。

手慣れた作業でコンソールを弄っていくといきなり、景色が廃墟と化したビル群に変わった。
その変容に驚く一同。
似たようなシュミレーターを体験したことのあるシンでさえ驚いていた。
それ程までにビル群がリアルだったのである。
「機動六課自慢の訓練ベース。なのはさん完全監修の空間シュミレーター」
自慢気にシャーリーは言う。
「それじゃ早速始めようか。シンもいるし、軽く15体で」
「動作レベルC、攻撃精度Dってところかな」
15個の魔法陣が発生する。
『最近よく出現してる自立行動型魔導機械ガジェット・ドローン。どんな能力を持ってるかは自分の肌で確かめてね。それじゃスタート』
なのはの通信が終わると同時にガジェット・ドローンが動き出した。
「始まったな」
上から見つめるのはシグナムとヴィータだ。
「お前は教える方に加わらないのか?」
「あの5人はまだまだひよっこだ。あたしがが教導を手伝うのはもうちょい先だ」
「そうか…」
それにだ、とヴィータが付け加える。
「あたしが空でなのはを守ってやらなければならないからな」
「頼んだぞ」
それっきりで会話は途切れる。
シン達に意識を集中させていた。こいつらは…とシンは思った。
以前戦ったことのある相手だった。
「そういえば、こいつらのことフェイトさんの資料で見たな」
空にプカプカ浮きながら辺りを見渡す。
見ると、スバルが全速力で追っていた。
ローラーの回転音とともに拳を突き出す。空気を切り裂く音とともに衝撃波のようなものが駆けた。
スバルお得意のシューティングアーツだ。
ショートレンジでは爆発的に力を発揮する戦闘技法である。
が、全力で放ったそれは空を切った。
「うわっ!何こいつらはやっ!」
不気味に光を放つガジェットのアイ。
すぐに近づいていくエリオ。
エリオに対し、砲撃を放つが、エリオは左右に振りながらそれらをかわす。
接近し、ストラーダ…槍型のデバイスを振り回すが、ひらりとかわされた。
当たらない。
埒が明かないとばかりにティアナがアンカーガンを構える。

「ちびっこ!補助をお願い!」
「はい!」
『ブーストアップ・バーストパワー』
キャロのデバイス、ケリュケイオンから放たれた光がティアナのアンカーガンを包み込む。
魔力が増大する。ティアナは狙いを絞り底上げされた魔力弾を放つ。
が、ガジェットに当たるか当たらないかというところで魔力弾は雲散する。
呆然とするティアナ。
「バリア?」
「違う。AMF…フィールドだ」
『そう…AMF、このアンチマギリングフィールドにはちょっと厄介な特性があるの。普通の魔法では通用しないし』
ティアナの発言をすぐに否定するシン。
そして、その後間髪入れずになのはからの通信が入る。
何か暗喩を込めた言い方だった。
「この!」
スバルはウィングロードを展開する。
スバルの移動技法であるこの技。空中に足場を作りそれを伝うことが出来る。
空戦魔導師ではないスバルが、空にいる敵と戦うための手段だった。
勿論目指すのはガジェット。
「スバル!」
「えっ?うわっ!」
AMFが広域展開され、ウィングロードが途切れる。
そのまま、ビルに激突…するかと思われたが、シンがネットを張ったことで衝撃は吸収された。
「何やってんだよ」
呆れたように言うシン。
「ごめん…ありがとう…」
「次からは気をつけろよ。良いか、ちゃんと見てろよ。こいつらはこうやって倒すんだ」
そう言って飛翔するシン。
右手にはヴァジュラが握られており、一閃した。
高密度の魔力で守られているヴァジュラはAMFを難なく突破する。
そのまま、斬撃がガジェットの胴体を両断した。
遅れて起こる爆発。
唖然としている一同を後目にシンは別のガジェットに接近する。
ガジェットから砲撃が来るが、特に苦もなくかわしていく。
コーディネーター特有の類い希なる身体能力を魔力で底上げした状態で後ろ蹴りを穿つ。槍の一閃を思わせるようなそれはボディーを破損させ、部品をばらまかせながら爆発させた。
シンの周りに精製されるフォトンスフィア…その数は8。
それら全てが一体のガジェットに向かう。当然、AMFで無力化される。
だが、AMFを張ったことで動きが一瞬止まった。

その隙を見逃すほどシンは甘くない。
いつの間にかに握られていた2本の大剣のうち片方を投げた。バリアジャケットも白と青を基調としていたものから真紅のものに変わっていた。
巨大質量によりその身を貫かれる。
「つよ……」
自分達があれだけ苦戦していたガジェットをゴミのように片付けていくシンに唖然とするスバル。
「地力が違いすぎるわね…あれが空師…」
空師は陸師よりも優秀な場合が多い。
ティアナはそのことにコンプレックスを抱いていた。
キャロとエリオはぼーっとシンを眺めていた。
『ストップシン!!』
なのはからの通信に動きを止めるシン。
些か不服そうな顔つきだった。
『それ以上やると4人の分が無くなっちゃう。シンは大人しくそこで見ていて』
「…了解」
地面に降りるシン。
『それじゃ再開して』
残ったガジェット達はシンを無視したように動く。
「…とにかく、コメント出来るのはあいつらの動きをちゃんと見ろ。所詮機械だ。ランダムのように見えて決まった動きしかしない」
シンのアドバイスを聞いていたか聞いてないかは分かりようがないが、スバル達は動き始めた。
ただ、シンの動きに火をつけられたのは間違いない。
特にティアナはその傾向が強かった。
なのは達が見守る中…反撃が始まる。