リリカルなのはSEEDSKY_01話

Last-modified: 2010-03-13 (土) 22:51:22

リリカルなのはSEEDSKY

 

フェイト編 第1章 覚醒Aパート

 

目覚めると俺は、真っ白な海に漂っていた。
柔らかなシーツの感触
白い布地が陽光に照らされていて、
眩しさに開きかけた薄眼を閉じる
おそらくはいつもと同じ平和な一日の始まり
恐らくは今日も良い天気
窓から差し込む光が、まぶたを閉じても、なお眩しい
だけど、ベッドから抜け出すにはまだ早い
――だって、聞きなれた呼び声が、まだ、俺の耳には届いていないから

 

『シン…起きて』

 

――とか、考えていると、ほら、さっそく、『あいつ』の呼ぶ声が聞こえてくる。

 

『…ほら起きなさよ。早く起きないと遅刻しちゃうわよ?』

 

そう、もう起きないと、学園の始業時間に遅れてしまう。
さっさと朝食を済ませて、今日も学園に行かなくちゃ。
退屈な授業をやり過ごせば、午後からは仲間たちとのお楽しみが待っている。
分かっていながら、俺は聞こえないふりで惰眠をむさぼる。
もう少し待てば、『あいつ』の手が、優しく俺を揺り起こしてくれるはずだから……。

 

『もぅっ……仕方ないわねぇ…』

 

ほら、『あいつ』が俺を揺り起こそうと、身をかがめる気配がする。

 

――あいつ
俺にとって、ちょっと特別な女の子。
生まれてはじめて出会った、ちょっと深い関係になれそうな女の子。
『あいつ』を思うと、胸が切なく痛んでしまう。
毎日、寮で顔を合わせ、一緒に学園に通っているのに、もっともっと、一緒の時間を過ごしたくて…。

 

………
…なのに、どうしてだろう?

 

『あいつ』の名前がどうしても頭に浮かんでこない…。

 

『シン』

 

『…シン』

 

『…シン、…シ~ン、…シン!』

 

『…シン、…シン、…シン』

 

『起きて、アスカ中尉!!』

 

「………っ!?」

 

目を開いて最初に見たものは、眼前に迫る白銀の刃だった。

 

→ ① 息を呑んで驚く
② 状況を把握する
③ とにかく反撃する

 

「何なんだよ、こいつは………!?」

 

呆然とする俺に向かって、二足歩行のロボットの腕がぐっと突き出されーー、
反射的に退くと、眼前で剣が激しく音を立ててぶつかり合った。

 

「うわっ…!!何がどうなってんだよ、いきなりっ!?」

 

尻餅をついたまま、俺は腰を動かし後ずさる。
掌が、尻が、硬いタイルの上でずるずると滑る。

 

まてよ尻餅……タイルだって!?
俺は、ベッドの上で確かに眠っていたはずだなのに!?
慌てて床に目を向けると、俺の下半身は、鋼鉄の甲冑に覆われてしまっていた。

 

「……冗談、だろ?」

 

夢に違いない。
夢とは思えないほどにリアルだけど、こんなのリアルじゃありえない。

 

「冗談だろまさか、まだ夢を見ているとか?」

 

だが呟いて顔を上げた刹那、またしても刃が繰り出される。

 

「ぐっ…!?」

 

目前で、ロボットが迫ってくる
化け物ーーーまるで三流ホラー映画に出て来そうなそれは、身体の各所を軋ませ、俺に切りかかろうとしてくる。

 

「野郎!来るんじゃねえよ!!」

 

俺はとっさに、両手を突き出した。

 

「何っ!?」

 

その俺の両手も、いつの間にか甲冑に覆われてしまっていた。
いや、これは甲冑じゃない。
装着しているわけではなかった。
金属の皮膚から直接、鈍い感触が伝わってくる。

 

「これ、俺の腕…だよな…」

 

まるで鋼鉄の肌に、神経が通っているみたいだ。
思わず息を呑もうとして、口が無いことにやっと気付く

 

「くっ………!!」

 

鋼と化した己の身体に驚き、違和感を感じながらも、その腕を振るう。
かろうじて相手の一撃は凌ぐことができた。
しかしロボットは、更に迫ってくるーー!
いよいよその剣先が鼻先に迫りーー!

 

「うわあああっ……!」

 

駄目だ防ぎきれない!!

 

「シンっ!?」

 

「何だ…?こりゃ!?」

 

轟音と共に閃光が煌めき、打ち抜かれたロボットが爆発する
続いて、俺の視野の一部が四角く切り取られ、女性の姿が映し出された。

 

「大丈夫、アスカ中尉……?」

 

この人が、あの鋼鉄の人型を操っていたのか…………?
金髪紅目、歳はおそらく、俺より歳上。
どこかで見た覚えのある顔だけど……。

 

① フェイト
→ ② 誰だっけ

 

……だめだ、どうしても彼女の名前が頭に浮かんでこない。

 

『応答がなかったから心配したんだよ。
けど無事だった見たいで安心した。』

 

「あ、ああ。おかげさまで……」

 

鋼鉄の腕が差し出される。

 

俺は深く考えず、差し出された手を握って立ち上がり――
またしても言葉を失ってしまった。

 

「おいおい……いったいなんなんだよ……これは?」

 

噴煙を上げる残骸。
地平線まで連なる、無機質な巨大建築群。
上空の漆黒の闇を裂くように、曳光弾が横切ってゆく。
そして爆発。 その光が網膜に残像を焼き付ける。
例えるならば、地獄。
いや、この光景はまるで、そう――

 

「ここは……戦場なのか……」

 

「うん。まだ戦闘区域内だよ。この位置からだと、ログアウト不能だから」

 

「………」

 

「施設内に自爆装置が仕掛けられていた模様。中尉も衝撃で、気を失ってた見たい」

 

「自爆装着?」

 

「うん。付近の味方の識別信号は無し。残ってるのは、私達だけだよ」

 

「幸い損傷は軽微。私もまだ戦えるよ。敵にも混乱が見られるようですから、この隙に脱出を――」

 

「いや……待て。待てって!ちょっと待った!!」

 

「了解(ヤー)……どうしたの、中尉?」

 

どうしてこんな所に、俺が居るのか?
聞きたい事は多すぎるけど……。

 

「ええと……まず、名前を聞かせくれないか?」

 

「名前って……?」

 

「フェイトだよ。フェイト・T・ハラオウン。階級は少尉ですよ、中尉」

 

「フェイト・T・ハラオウン……少尉?」

 

その名に、聞き覚えはあった。
しかしーー

 

「フェイト、フェイト…‥何処かで聞いたか、確かに、何処かで会った気もするんだけど」

 

必死に頭をひねるが、手掛かりは掴めない。

 

「ダメだ思い出せない……フェイト、君はいったい、誰なんだ?」

 

「どうしたの、シン?まさか……」

 

表情画面の向こうで、彼女が、はっ、と短く息を呑む。

 

「もしかして中尉、私がわからないの?」

 

「あ、ああ……。ついでにその『中尉』ってのも聞きたかった。それって、俺のことなのか?」

 

「うん……シン・アスカ中尉。あなたのことだけど……」

 

フェイトと名乗る女兵士は、不安げに俺を見つめてくる。
でも、俺は何を答えていいのか、わからない。
沈黙を単調な電子音が遮った。

 

「警報!多連装遠距離ロケット弾!回避を………間に合わない!伏せてっ!」

 

フェイトの操る鋼鉄の身体が、俺を地面に押し倒し、一拍遅れて、轟音と爆風が身を包む。

 

「っ……!?カチューシャ?」

 

パラパラと降り注ぐ土砂の雨。
爆風に身体が軋み、痛みが鉄の肌に滲んでくる。

 

迫撃? 爆撃か?
俺が攻撃されているのか?
認識と共に、俺の身体が、勝手に慄いてしまう。

 

「ううっ、くうっっ……!!」

 

迫撃。
連続して響く衝撃に、肝っ玉が縮み上がる。
だけど、その縮みあがるような感触も、かつて確かに味わった気がする。
この身体の何処かに、染み付いているのだろうか。
何とか立ち上がったが、俺の脚はおぼつ。

 

「敵が接近してくる!ひとまず、この場を離れないと!」

 

「くっ!」

 

叫んだ俺の声を、至近距離への着弾が吹き飛ばした。熱風と閃光が俺を呑もうとするーー!

 

「うわああっ……!!」

 

次の瞬間には爆炎を逃れ、俺の身体は自然と空中に低空だが滑空していた。身体が勝手に反応したみたいだった。

 

「待って、中尉!単独行動は危険すぎる!!」

 

「うわあっ、わぁあああっ……!?」

 

混乱し滑空する俺の身体は何がどうなっているかもわからずに壁へ激突する。

 

「ぐあっ!」

 

「大丈夫なの、シンっ!?」

 

「な、なんとか……」

 

まだ悪夢を見ているのだろうか、俺は。
でもこの衝撃も、感覚も、あまりにリアルすぎる。

 

「中尉……。まさか戦闘用電子体(シュミクラム)の操作方法まで、忘れてしまったの?」

 

「だから待てって!俺は単なる学園生で、中尉じゃない!それに、俺はーー」

 

「俺はシン・ヤマト、男、St.ヒルデ学園の2年生。仮想工学科の学園生で……ええと、それから………」

 

「ヤマト!?…やっぱり記憶を………『それから』、どうしましたか?」

 

「ああ、ええと、つまりだな………ちょっと待てって…あと少しだけ………」

 

友達と一緒に学生寮で暮らしていた『ような気がする』。
仲の良かった女友達が居た『ような気がする』――。

 

「……」

 

「ああっどうして思い出せないんだよ…!!クソッ、一体どうなってんだ!!」

 

何かが欠け、抜け落ちるように、どうしても記憶の連鎖が続かない。
まるで頭に霧が掛かったみたいだ。

 

「記憶の一部に一時的な混乱……生活史に錯綜があるみたいね、中尉」

 

「どういうことだよ!?」

 

「お願い……どうか落ち着いて。パニックにならないで。戦地だとままあることだから……落ち着いて」

 

彼女の真剣な表情に促されて、俺は深呼吸を一つする。
深々と息を吸い、吐き、整える。
口を持たない鋼鉄の身体のはずなのに、それで不思議と心は静かになった。

 

「フェイト、だっけ……?俺を中尉って呼んでいたよな?」

 

「うん……」

 

「俺は、本当に軍人なのか?」

 

「そうだよ、君はフリーの傭兵で電脳将校。歴戦のシュミクラム乗りなんだから」

 

「冗談…俺はついさっきまで、寮のベッドに寝ていたはずで……」

 

だけど、ベッドに入る前の事を――
いや、昨日のことさえも、何一つ思い出せない。

 

「冗談でこんな事言わないよ私。事実だよ。ここは仮想空間(ネット)の戦場……。あなたは軍人として没入(ダイブ)中……」

 

「………」

 

「中尉は施設の爆発に巻き込まれて、先程まで昏倒してたの」

 

「推測だけど……その時の衝撃で、記憶の一部に、障害が起きたと思うんだ」

 

「そんな馬鹿な……」

 

笑い飛ばしたいけど、どうしても、笑えない。
もしも、この女性ーフェイトの言うことが正しければ、俺は兵隊で、なおかつ学園生時代から今までの記憶が、消し飛んでしまってるわけで……。

 

「まるで、記憶喪失じゃないかな」

 

そう言葉に出すと、我ながら事態の重さを感じる。

 

「しっ!静かに……」

 

不意にフェイトが俺のないはずの口を抑えた。
思わず俺は息を潜める。
フェイトはついで、軽く顎を振って前方を示した。
指し示された方向には鋼鉄の虫が数機。
先程、フェイトと戦っていたのと同じ代物だ。

 

「自動戦闘兵器(ウィルス)……敵」

 

「敵…?ってことは、また襲いかかってくるのか」

 

「大丈夫、まだ私達には気付かないから。敵の知覚装置に妨害(ジャミング)を掛けたから少しの間なら安心出来る」

 

『妨害装置作動中。現在、探知妨害95%』

 

フェイトの言葉通りに鋼鉄の虫達(ウィルス)は俺達の鼻先であても無くうろうろしている。

 

『敵の受動防壁作動確認。現在、探知妨害70%』

 

「けど、本当に少しの間しか持ちそうもないな………」

 

「うん……」

 

「なあ、逃げられないかな?ほら、さっきみたいに空を飛んで……」

 

「動いた瞬間、捕捉されるよ。それに、あのタイプは速力重視の強行偵察型。走っても追い付かれるし付近の仲間に位置を知らされる」

 

「どのみち交戦は避けられないみたいだな………」

 

考えに困って、鋼に覆われた自分の身体を見下ろして見る。
鈍い輝きを放つ、硬質の躯体。
なのに、転べば痛みを感じ、恐怖に慄きもする。
だとすれば、もしもこの身体を壊されれば……。

 

『現在、探知妨害50%』

 

「クソッ息が詰まりそうだ」

 

焦りと緊張に、思わず拳を握る。
鉄の拳が軋んだ音を響かせた。

 

「……大丈夫だよ」

 

その握り締めた拳を、彼女の鋼の手が包み込む。
フェイトが、そっと息を吐き出すように囁いてくる。

 

「大丈夫だから」

 

その紅く綺麗な自分と同じ瞳が、真っ直ぐ俺を見据える。

 

「確認するよ……君の名前と学年は、覚えているね?」

 

その凛とした声を聴けば、俺の心に落ち着きが蘇る。

 

「シン・ヤマト。学園の2年生」

 

「学園生で、2年生か…」

 

「あ、ああ……そうだけど……」

 

「なら君は…中尉は戦闘用電子体(シュミクラム)の操作を知っているはず」

 

「知っているはずって、そんな!それに、そのシュミクラムってのは、一体………」

 

反論しようとして、何かが心に引っかかる。

 

――戦闘用電子(シュミクラム)

 

「あなたが忘れるはずは有り得ない。よく、身体の感覚に耳を傾けて見て下さい」

 

「感覚……?」

 

言われるまま、身体に意識を集中する。
そこで今頃になって、自身の脈動を自覚した。
微かに鳴動する、自分の中に流れるリズム。
この身体を流れるそれは、電磁パルス。

 

「確かに……わかる。思い出せる……この身体を、脈打つ感触を、俺は良く知っている」

 

知覚された電磁パルスの鼓動に導かれるようにして、頭の中で一つの言葉が形を成す。

 

「シュミクラム……戦闘用電子体……」

 

仮想空間(ネット)の法則に適応した人型戦闘兵器。
虚構の世界で殺し合うために、人が編み出した虚構の兵器。

 

「そう、私達が仮想(バーチャル)の戦場で戦うための兵器」

 

「戦場……」

 

「そう、私達は、今、電脳空間(サイバー・ベース)の戦場に居るの」

 

電脳空間(サイバー・ベース)。
ネット内に構築された、もう一つの世界。
人工知能(AI)が管理する虚像(VR)の世界。
ここは人類の英知が生み出した新天地。
『警告:探知妨害率30%を切りました』

 

機械音声(マシンボイス)が会話に割り込み、フェイトがキッと表情を引き締めた。

 

「手短に説明するよ」

 

「我々は敵陣の真っ直中で孤立状態。包囲を突破しない限り、生き延びることは出来ない」

 

フェイトの言葉が、身体に重くのし掛かる。
孤立状態で敵陣の真っ直中だ何て、最悪の状況化じゃないか。

 

「幸い、敵軍もほぼ壊滅状態。現在、戦場に展開しているのは、敗残の自動戦闘兵器(ウィルス)だけだよ」

 

「戦えるよね、中尉?」

 

フェイトは励ますように微笑んでくる。
言葉に秘めた確信がはっきりと俺に伝わってくる。

 

「……やるしかないよ」

 

もとより、選択の余地はない。

 

「了解(ヤー)。じゃあ武装を確認して見て」

 

彼女がそう言うと即座に、眼前に装備品のリストが表示された。
身体が覚えてるのか、自分にあった武装を遠距離 中距離 近距離と選択していく。
本当にこの選択で良いのか自分には、分からないがその武装に懐かしさが感じれた。
どこか見覚えのある、戦闘用の粗雑(クルード)な装備群。

 

「武装設定の完了を確認…これは!?」

 

「どうしたんだフェイト?」

 

「なんでも無いよ、(シンやっぱり貴方は覚えているよ……私が知っている最強の凄腕(ホットドガー)だよ)選択機構、遠距離センサー、オールクリア」

 

「使用武装は、敵機との距離、及び自機の移動モードにより、3種類の装備カテゴリーの中から自動的に選択される」

 

「武装はオーバーヒートしやすいから、単一の武器を連打すると危険だよ。複数の武器を効率よく使い分けて」

 

「わかった……やって見る」

 

本当に身体が覚えているのなら、出来るはずだ。

 

『妨害装置(ジャマー)解除されました。警告:敵ウィルスにより捕捉』

 

「いくよ、中尉……!
戦闘開始(オープン・コンバット)……!」


  • これからの流れはオリジナルな展開に発展するのでしょうか? 楽しみです -- ルイン? 2010-03-13 (土) 22:07:15
  • これからの流れはオリジナルな展開に発展するのでしょうか? 楽しみです -- ルイン? 2010-03-13 (土) 22:51:22