リリカルクロスSEEDW_第02話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 08:45:26

キラの突然の言葉に誰もが驚いている。
『キラさん、あの男の人を知っているの?』
リンディの言葉はキラには届いていないようだった、ただそのモニターを目を大きく開いて見ているだけだった。
キラの体が震えていた、何かに怯えるような目をしていた。
「キラ・ヤマト!」
リインフォースがキラの肩を揺さぶり、キラの目の焦点が戻るとハッとしてリインフォースを見る。
「あの男の人を知ってるん?キラ君」
はやてがもう一度キラに問いかける。
キラはその質問に目を伏せてしまい、言おうか迷っているようだった。
「あの人は・・・・・僕の世界の人だ」
「え?キラ君の世界の人なんですか?」
シャマルの問いにキラは黙って頷く、そしてキラは手を強く握り締める。
「そして・・・・・・僕が殺した人だ」
その場にいた全員がキラの言葉が信じられなかった。
キラの世界のことは全員が知っている。キラがモビルスーツというものに乗り、戦って人を殺したということも。
しかし、今のキラの言葉からそれが本当であることが伝わってくる。
「僕は人を殺してる・・・・・たくさんの人を・・・・ね」
「でも・・・違うやろ?」
はやては静かにキラに言葉を返す。
「キラは何のために戦ったん?人殺すため?違うやろ、守って人を生かすためや」
「うん、僕もそう思って戦った。その罪も背負おうと思ってる」
その言葉にキラの目から一筋の涙が伝う。
「そんなこと出来るん?キラ君、優しすぎるから壊れてしまいそうで怖いんよ」
「大丈夫だよ」
キラは笑うが、その笑みには力がない。やはりキラも不安なのだということが直ぐに分かる。
彼が1人ぼっちでも平気だと笑っている姿が昔の自分と重なっていた。
それを見たはやてはそっとキラの手を握る。
「はやてちゃん?」
「私も、リインフォースたちもなのはちゃんもフェイトちゃんも、皆キラ君に救われた」
そして、キラにはやては笑いかける。
「今度は私らがキラ君を助ける番や」
「そうですね」
リインフォースがはやての言葉に頷く。
「キラ君が不安で押しつぶされそうになったら私らが助けたる、笑わせたる。だから、安心してええんよ」
「あ・・・・」
その言葉を聞き、キラの目から涙がこぼれた。
ずっと不安だった。自分1人でこの罪を背負い生き続けていくことが出来るのかを。
しかし、はやてたちの言葉を聞いてキラは思った。
皆がいてくれれば自分は大丈夫なのかもしれない・・・・・と。

 

キラが落ち着きを取り戻したところでリンディが話し再開した。
『彼もキラさんと一緒でこの世界に来ていたと考えるのが妥当ね』
「そうかもしれません」
『そして、彼とは因縁があるといったところかしら』
「・・・・・・はい」
キラはリンディの言葉にしっかりと頷いた。
『どういった因縁かは聞きませんが、あなたはあの人と戦えますか?』
リンディはキラとキラをあそこまで不安定にさせた人物と戦わせるのを躊躇っていた。
「はい、多分・・・・・大丈夫だと思います。それに僕がやらないといけないのかもしれない」
『分かりました、では各人準備をしてください。転送可能距離がもう少しです』

 

キラはモニターでなのはとクルーゼの戦いを見つめている。
もし彼が本物のクルーゼならば魔法は殺傷設定になっているだろう。
そして、自分と同じように彼のデバイスはおそらく・・・・・・。
「もしそうだとしたら・・・・・・この事をなのはちゃんに伝えておかないと!」
キラはリンディに念話を送る。
(リンディさん、なのはちゃんに連絡を!)
(どうしたの、キラさん)
(彼の背中に付いている装備は危険なんです、注意を!)
(分かりました)

 

『そういうわけよ、なのはさん。彼の背中の装備には注意して』
「注意って?」
『もしキラさんの予想が当たっているならそれは・・・・・』
間合いを取っているとクルーゼは時間を確認する。
「ふむ、少し長居をしすぎたか」
クルーゼが指を鳴らす。
『Dragoon System. Standby.』
背中に付いていた小型砲台が離れ、クルーゼの周りを飛び回る。
「つまり・・・・・・」
『そういうことみたいね』
クルーゼがすっと腕を上に挙げ、そして下ろした。
「!?」
その瞬間、小型の砲台・ドラグーンが一気に飛び出しなのはの周りをトリッキーに飛び回る。
「それなら!」
『Accel Shooter.』
なのははピンクの魔方陣を展開すると一気に12発の魔力弾を生成し、発射する。
しかし、ドラグーンとアクセルシューターの違いはドラグーンは相手にぶつかるのではなく射撃による攻撃。
数はドラグーンが11、アクセルシューターが12、数では少しは有利のはずだが・・・・。
ドラグーンの砲門の総勢は43、圧倒的に不利だった。
しかし、なのははドラグーンの砲撃を防御魔法で守りきりどうにか耐えていた。
「これは中々しぶといな・・・・・だが・・・・・」
ドラグーンがさらに早くなりアクセルシューターを撃ち落していく。
「え!?」
「残念だが終了だ」
ドラグーンがなのはを囲み、逃げ場をなくす。
『Target lock. Fire.』
ドラグーンから魔力が放たれる。なのはは防御魔法を展開、爆発が起きた。
「きゃーーーーーーっ!!」

 

なのははドラグーンの一斉放射に耐え切れず吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
防御障壁が破られ、突き破ってきた魔力は直撃はなかったもののなのはの体に傷をつけた。
なのはの服が血に染まっていく。
「終わりだ」
クルーゼはライフルをなのはの額に押し当てた。
なのははクルーゼの姿が霞んで良く見えない、だが自分の身が危険なことを本能が教える。
(体が動かない・・・・・もう・・・だめなのかな)
なのはが諦めかけたその時だった。
ライフルが蒼い魔力弾によって破壊される。
「何っ!?」
クルーゼは瞬間的に敵が上から高速で向かってくるのを感じ取る。
すぐに魔力刃を出し、上からの敵の魔力刃を受け止める。
「ラウ・ル・クルーゼ!!」
「また君か・・・・・キラ・ヤマト!」
SEEDを発動させたキラはクルーゼは上に飛び、魔力刃で空中戦を繰り広げる。
「あなたは、またここでも同じようなことを!!」
「ふ、それは私も同じことだよ。キラ・ヤマト」
蒼とグレーの光が高速で交わり、火花を上げていく。だが、アッシュを抱えているクルーゼのほうが不利である。
「ふむ、ここは早々に退かせてもらう」
「逃がすと思っているのか!!」
向かってくるキラではなくクルーゼはドラグーンを飛ばす、なのはの下へと。
「しまった!」
キラはすぐになのはの下に飛びながら、ライフルでドラグーンをどうにか落とそうとする。
「!?」
キラはすぐに後ろからのクルーゼの魔力弾を感じ取り、回避する。
(間に合え・・・・間に合え・・・・間に合え!!)
フレイのことがフラッシュバックする。
(もう・・・・・あんな思いをするのは!!)
キラはシールドを倒れているなのはの上で構え、どうにか攻撃を防ぐ。
しかし、一つのドラグーンがキラの後ろに近づいていた。
それにキラが気が付いたのは、十分な射程距離を取られた時だった。
「しまっ・・・・やめろーーーー!!」
ドラグーンの魔力弾が発射されるのがスローに見えた。
「ラケーテン・・・・・ハンマーーーー!!」
次の瞬間、ドラグーンはグラーフアイゼンによって打ち砕かれていた。
「ヴィータちゃん!」
「ったく、しっかりしろよな。キラ」
グラーフアイゼンを肩に乗せたヴィータが後ろにいた。
「増援か・・・・・しかし、遅かったね」
クルーゼの足元にはもう転送の魔方陣が展開されていた。
「待て!クルーゼ!!」
「いずれ、また会おう。キラ・ヤマト」
キラが放った魔力弾は転送していなくなったラウのいた空間を虚しく通り過ぎていった。
「くそっ」
空を見ながらキラは唇を噛み締める。少し体がだるい感じがした、いきなり全力でクルーゼと戦って精神的にも辛かったからだと判断した。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
フェイトは肩で息をしていた、攻撃が当たらないのだ。
相手は甲冑を着けているはずなのにそれを感じさせず、フェイトと同じように動くのだ。
魔法はフェイトと同じくらいだろうか。
「いい加減に!!」
『Plasma Smasher.』
フェイトは片手を甲冑に向けると電光を伴う純粋魔力攻撃を行われる。
甲冑は防御魔法を展開し、魔法が直撃して大きな爆発が起きる。
「全力で撃った・・・・これでだめなら・・・・・・」
煙が晴れるとそこには無傷の姿の甲冑がいた。周りにはいくつもの魔方陣が展開されそこから雷の矢が現れる。
「プラズマランサー!?」
その光景に驚いてしまい、反応が遅れる。
「・・・・・」
雷の矢が一瞬にして飛び出してくる、フェイトはどうにか回避する。
しかし、まだこの技が終わらないことも知っている。
『Turn.』
甲冑のデバイスの発言により雷の矢が方向転換してフェイトへと向かう。
(速いっ!)
ターンしてきた矢のスピードが一気に速さを増したのだ。しかも、タイミングをずらしてきた。
(避けきれない)
フェイトは直撃を覚悟した時だった。
「穿て、ブラッディダガー」
血の色をした実体化したいくつもの短剣が雷の矢にぶつかり、全てを相殺した。
「無事か?」
「リインフォース」
フェイトの横にはリインフォースがいつの間にか立っていた。
「・・・・・」
甲冑はリインフォースの登場に動じる様子はなかった。
すぐにデバイスを構え、足元に魔方陣を展開する。
『Photon Lancer Phalanx Shift.』
一瞬にして、いくつもの青紫の雷の魔力の塊が甲冑の周りに生成される。
「くっ、フォトンランサージェノサイドシフト」
銀色の雷の塊が同じように生成される。
次の瞬間には周りを大きな爆発が起きていた、爆煙により辺りが見えない。
リインフォースはフェイトを抱え、煙から外に飛び出す。
「やつは・・・・・」
辺りを見回すが、見当たらない。煙が晴れてもそこに甲冑の姿はなかった。
「逃げた・・・・か」
「テスタロッサ、リインフォース」
シグナムが2人のところに飛んできていた。
「すまない、時間が掛かった」
「いや、テスタロッサも怪我はそこまでひどくはない。敵は撤退したようだ」
「あの・・・・・なのはは?」
フェイトは今まで気掛かりだった事を2人に聞いた。
「彼女にはキラが援護に向かった、大丈夫だ」
「そう・・・・ですか」
フェイトはそれに安心したのか気を失ってしまった。

 

「ごめんね、なのはちゃん」
「だからもういいってば、キラくん」
キラはなのはの病室に着くと謝ってばかりだった。
「でも、僕も任務に行ってたら・・・・」
「それもう3回目やで、キラ君」
「あぅ・・・・・」
はやてのツッコミにさすがにキラは謝るのをやめた。
「それで怪我の具合はどうなんだ、なのは」
ヴィータがベッドの横からなのはに聞いてくる。
「一週間は戦っちゃ駄目だって言われちゃった。普通に生活する分には支障はないって」
「やっぱり僕が・・・・・痛い痛い痛いってばヴィータちゃん!」
「うるせー、男ならどーんと構えてろ。そんで次は絶対俺が守ってやるとか言え!」
ヴィータはキラの足を踏みつけながら檄を飛ばす。
「えぇ!?ちょ・・・・・そんな恥ずかしいセリフ言えないってば!」
「待て、ヴィータ。それならばテスタロッサも言ってもらう権利があるぞ」
その声にキラは驚いて振り向くと、シグナムやフェイト、リインフォースなど他のメンバーが全員いた。
「ちょ・・・・シグナムさん!何を言ってるんですか!言えませんよ、そんな事!」
「しかし、私の時にはそれらしいを言っていたが?」
シグナムの隣にいたリインフォースが面白そうにそんなことを言った。
「そ、それは何ていうかあの会話の雰囲気で自然に出てきたんです!今は無理です」
「意気地なしだな、キラ」
「うぅ・・・・何で僕がこんな目に・・・・大体何でユーノ君やクロノ君には聞かないんですか!」
「あのな、キラ。一番守って欲しいって思うやつがやるべきなんだよ」
ヴィータはキラの肩に手に当てやれやれと首を振りながら言った。
「ちょ、ちょっとヴィータちゃん。何言ってるの!」
「そ、そうだよ」
なのはとフェイトは頬を染めてしまっている。
「じゃあ、言って欲しくないのか?」
「「・・・・・・」」
「ほら見ろ。さぁ、キラ。さっさと言いやがれ」
なのはとフェイトが何だか期待しているような目をしているのを見ながらキラは思った。
(やっぱりここって女の子が強い、いろんな意味で)
キラはため息を付きながら作りかけのロールキャベツをどうしようかも考えていた。