リリカルクロスSEED_第05話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 16:28:46

「うっ・・・・・く・・・・」
「お、気がついた」
キラは痛みが走るにもかかわらず勢いよく体を起こした。
「ここは!?なのはちゃんは!ジュエルシードは!」
「まぁまぁ、落ち着きな。あんた傷人なんだから」
「そんなこ・・・・・・」
声を掛けられたほうを見ると大きな犬が一匹いるだけだった。
「ん?どうしたんだい?あんたも魔導師なら使い魔くらい知らないのかい?」
「え?あ・・・・いや、魔法のこと知ったのもついこの間だったし・・・・」
犬の会話に驚き正直に答えてしまうキラ。
キラは周りを見渡すとここがどうやらマンションの一室だと理解できた。
「あの・・・・僕は一体・・・・」
使い魔と名乗った犬に聞こうと思ったとき別方向から声がした。
「私がここまで運んだからです」
聞いた事のある声、いや気絶する前に聞いた声だった。
「君は!」
キラの目の前には先の戦闘で戦った女の子が立っていた。
すぐにストライクを呼ぼうと思ったが、自分の手元にストライクはなかった。
「あなたのデバイスは預からせてもらっています」
「・・・・・・・何でかな?」
「あなたがロストロギア・・・・ジュエルシードの障害になるからです」
フェイトは自分でも何故彼を助けてしまっていたのか分からなかった。
だから一番自然そうな選択をし、答えた。
「そういうわけで君はここで大人しくしておいてもらうってわけ」
「・・・・・・・・」
キラはそのまま押し黙ってしまった。
「それじゃあ、アルフ。私は少し出てくるね」
「大丈夫かい?」
「うん、アルフはその人を見張っておいて」
「分かった、いってらっしゃい」
そういうとフェイトは部屋から出て行ってしまった。
「あの・・・・・・」
今まで黙っていたキラが口を開いた。
「ん?」
「なのはちゃ・・・・・お世話になっているところに電話していいですか?」
ここでなのはの家に電話すると言うのは難しい、別の言い方で言うことにしておくことにした。
「う~ん」
アルフは少し唸ったが、やがて部屋の外に出るとすぐに戻ってきた。
「余計なことは喋らないよう、見張らせてもらうよ」
「ありがとう」
キラは礼を言うとなのはの家に掛けた。
 
『はい、高町ですが・・・・』
電話には桃子さんが出たようだ。
「あ、キラです」
『キラ君!?今どこにいるの?皆心配しているのよ?』
「すいません・・・・・でも、僕は大丈夫です」
『今、なのはたちが外で探してるの』
「えっと、実は・・・・・」
キラはあらかじめ決めておいた話を使うことにした。
自分はなのはと別れた後、記憶が少し戻った。
そして、その記憶を頼りに飛び出してしまったということにした。
『本当に・・・・大丈夫なの?』
「はい、今は知り合いのところにお世話になっていますから、心配しないでください」
心配を掛けた上に嘘を言っている自分が辛かった。
 
「はい・・・・それじゃ、また落ち着いたら電話します」
電話を切るとキラはため息をつき、俯いてしまった。
「もういいかい?」
「はい、ありがとう・・・・ございました」
キラはアルフに電話を渡すと枕に顔を埋める。
アルフは電話を直すため部屋の外に出ると直ぐに部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「ごめんなさい・・・ひっく・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい、ごめんなさい」
アルフはキラが泣き止むまでは部屋に入らなかった。
 
「温泉・・・・ですか?」
「そ、ジュエルシードの反応が近いから行ってくるの」
キラはここ数日でアルフと言葉を交わす内に仲良くなっていた。
フェイトとはあまり喋る機会がなかった。
当初は頑なに二人と関わりを持とうとしなかったキラだが、ある夜一人で泣いているとアルフが来て慰めてくれたのだ。
自分を監禁している相手を慰めるのはどうかと思ったが、彼女たちの事情も少しは理解すべきではないかと考えることにした。
そして、彼女たちがなんのためにジュエルシードを集めているのかが分かれば、なのはとフェイトが戦わないように出来ると考えたのだった。
それからキラは少し二人と打ち解けるようになった。
今のアルフは女性の姿をしている。
最初アルフが人間の姿になったときはさすがのキラも驚いて目を丸くし、それをアルフが大笑いをしていたりした。
この時ばかりはフェイトも口の端を少し持ち上げたようにキラには見えた。
「でも、フェイトちゃんもアルフさんもいなくなると・・・・・」
「大丈夫、部屋から出られないように障壁張っていくから」
「いや、そこは僕が心配するところじゃなくて期待するところですよ」
キラはそんなアルフを見てため息をついた。
「気をつけてね、いってらっしゃい」
「いってきます」
「キラ~、お土産期待しててね~」
そういうとドアが閉じられると同時に障壁が張られたのがストライクを持たないキラにも分かった。
どうやら電話も通じないようにされている。
多分、フェイトのことだ、抜けたところなどないだろうと判断したキラは部屋に戻ろうとした。
するとリビングに写真が飾ってあるのに気付き、それを手に取ってみる。
そこにはフェイトの子供の頃と思わせる子供とその母親のような女性だった。
「母親か・・・・」
オーブでは両親に会うことなく、戦場に戻ってしまったキラにとってはとても懐かしいものだった。
 
「ただいま」
「キラ~、ただいま~」
「あ、おかえり。フェイトちゃん、アルフさん」
キラは二人を迎え入れるとリビングに通した。
「一応、暇だったから晩御飯作ってみたんだけど・・・・どうかな?」
テーブルの上にはロールキャベツなどが置かれていた。
「うは~、これってキラの手作り?おいしそうじゃない」
「うん、アルフさんよりはうまくないと思うけど」
アルフはロールキャベツの一つを口に含むと笑顔になった。
「うん♪おいしいじゃない、キラすごいのね~」
「そんな、僕が作れるのってこれぐらいだから・・・・・」
素直に褒めてくれるアルフに照れてしまうキラだった。
「ごめんなさい・・・・私、食欲ないから」
そんな中、フェイトは自分の部屋に戻ろうとキラに背中を向けるとその背中に傷があることにキラは気付いた。
「ちょ、ちょっとフェイトちゃん。背中」
「大丈夫だから」
そう言って戻ろうとするフェイトの肩をキラは強引に掴むとそのままソファに座らせた。
「だから・・・・・大丈・・・」
「じっとしてろ!」
キラの怒った顔を見たのは初めてだったため、フェイトは驚いてしまった。
救急箱を持ってきたキラはすぐにフェイトの治療を始めた。
「痛いけど我慢してね」
「っ!?」
「痛いよね、でもねフェイトちゃんアルフさんや僕も君の傷を見ると心が痛いんだ。それを分かって・・・・ね?」
そう言われフェイトは何も言わず、キラに治療を任せた。
アルフはそんな二人を優しそうに見ていた。
フェイトが部屋に戻り、少し経った後キラが部屋に入ってきて「少しでも食べないと体力が持たないよ」といいロールキャベツの皿を置いていった。
フェイトはそれを少しだけ食べた。
それはとても温かくて、懐かしさを感じさせるような味だった。
 
「それで何があったの?」
フェイトが寝たことを確認して、リビングでくつろぐアルフにキラは話しかけていた。
「さぁね、あの白い子と戦ったからかもね」
「!?・・・・なのはちゃんとまた戦ったの?」
「仕方ないだろ、お互いがジュエルシードを集めるもの同士。会ってそれを取り合うのは当たり前さ」
「それで・・・・なのはちゃんは?」
フェイトの無事は分かるがなのはのことは分からない、フェイトの様子を見るに勝ったようだ。だから、余計に心配してしまう。
「大丈夫だよ、無傷さ」
「そうか」
キラは安堵のため息をつくが直ぐに表情を強張らせる。
「何であんな小さな子たちが戦いあわなければならないんだ。君たちの目的は何なんだ」
「・・・・・・・・それはキラには関係ないことだよ」
アルフは何も言わず、そのままフェイトのところに行ってしまった。
 
「ん~♪こっちの世界の食事もなかなか悪くないよね~」
そう言いながらドッグフードをおいしそうに食べるアルフ。
昨日の会話はなかったように振舞っているためキラは昨日のことをもう一度聞く気にはなれなかった。
「せ・・・・せめて犬状態で食べてくれないかな?」
人間状態でドッグフードを食べている隣で食事をしているキラはげんなりしていた。
「そう言われてもね~」
そう言いながら食べることをやめないアルフにため息をついてキラは降参した。
「さてと、うちのお姫様はっと」
そう言いながらドッグフードを持って上のほうに向かうアルフ。
キラはアルフが食べた後を片付けることにした。
「あ~、また食べてない」そんなアルフの声が聞こえ心配そうに見上げるキラだったが、アルフにまかせることにした。
 
「それじゃあ・・・・いってきます」
「うん、気をつけてね」
このやり取りでフェイトたちを送り出すのも何回目だろうかとキラは思った。
「アルフさん」
「大丈夫、フェイトには私が付いてるんだから」
そう答えると二人は出て行ってしまった。障壁が張られたが、もう気にすることもなくなってきた。この生活に慣れてしまっている。窓から外を見る、夕焼けがとても綺麗だった。
「なのはちゃん・・・フェイトちゃん、どうか無事で・・・・」
キラは二人の身を案じずにいられなかった。
そして、二人に何も出来ない自分がとても悔しかった。