世界で最も危険な男! シン・アスカ

Last-modified: 2022-04-28 (木) 15:30:18

何で私、ジャーナリストになろうなんて思ったんだろ?
ヘリオポリスでは工業系のカレッジだったのに……
おまけに今、オーブは不況の真っ只中。ハッキリ言って仕事が無い。
おまけに暗い世の中、素敵な出会いを望むべくも無く、今は永遠の18歳を名乗ってる。
ちなみにキラは30歳をとっくに過ぎた。
こんな事ならディアッカを別れなきゃ良かったかな……そうすれば今頃は結婚して、公務員の妻。
この御時世じゃ魅力的な立場………
でもさ、朝から晩まで毎日毎日毎日毎日、炒飯ばっかり食ってられるか!
……そんな訳で、今の世の中、仕事なんて選んでいられない。
だから知人のコネを存分に使わせてもらう。
「シンって、あの?」
「そうだ。アイツの動向で調べてもらいたい事がある」
今回の依頼主、アンドリュー・バルトフェルド、ネオザフトの副司令は、少し疲れた表情で、私に
依頼をしてきた。
「シン・アスカ……彼が…」
それだけで、私は依頼の内容を察した。つまり、彼に反逆の気配が無いかを調べたいのだ。
シン・アスカ、ネオザフト軍の最強部隊の隊長。キラを最強の戦士だとすれば、彼は最強の軍人。
パイロットとしてだけでは無く、指揮官としても、白兵戦の兵士としても優れた軍人。
彼が掃討したゲリラやテロリストは膨大な数に上った。
そして、彼は軍人としては稀有な知名度を誇る。
その理由とは彼は、テロリストにとって最大の敵であると同時に最大の英雄でもあるからだ。
そう。シン・アスカの存在は、あまりにも危険すぎた。
彼が、その気になれば、世界は再び戦乱の世になってしまうだろう。
もう、あれから10年以上経つ。ギルバート・デュランダルのデスティニープラン……
そして、その前のエンジェルダウン作戦。
そもそもエンジェルダウン作戦とは何か? はっきり言って作戦なんて、大層なものじゃ無い。
だって馬鹿げてるでしょ? その時はウィラード隊が居たのに、ミネルバが来た途端に攻撃を止めた。
そしてミネルバの搭載MSは、その時はインパルスだけ。
つまりミネルバとインパルス対アークエンジェルとフリーダムのある意味一騎打ち。
後になって、何故そんな作戦が実行されたか議論された。
そして、ある仮説が流れた。その仮説の根拠は以下の3つ

①デスティニープランとは遺伝子で適正を調べる。
②デスティニープランを唱えたギルバート・デュランダルが作戦を命じた。
③作戦の後、シン・アスカにはデスティニーと名付けられたMSが与えられた。

つまり、シン・アスカは遺伝子適正でキラ・ヤマトを凌駕し、その確認作業がエンジェルダウン作戦。
シン・アスカこそ、デスティニープランの象徴だ……と。
むろん反論もあった。例えば、デュランダルにとってシン・アスカは単なる捨て駒で、フリーダムを
倒せなくても構わなかった。そもそも、そんな大切な存在ならキラ・ヤマトと戦わせるような危険な
真似はしない……等だ。
しかし、この仮説はラクス・クラインをトップにしたプラントに不満を持つ層に支持された。
そう。彼等はシン・アスカにキラ・ヤマトとラクス・クラインを倒して欲しいのだ。
このデスティニープランは、それを唱えたギルバート・デュランダルが死亡してしまったため、
その全容が解明されていないプランだった。
そのため、色んな憶測を生み、単なる職業紹介だと言うものもあれば、人の自由と尊厳を奪う、
恐ろしいプランだとの説もある。
そして、テロリストが支持する説が、生活を保障した管理社会である。
その内容は、当事の殲滅戦が日常と化した狂気の時代に終止符を打つべく、多少の自由を奪ってでも、
人を管理するというものだ。
つまり、遺伝子によって適した職業を決める。そして、極力不満を無くした状態で会社ごとに管理させ、
ラクス・クラインのように秘密裏にMSを作ったり出来なくして、反乱の芽を摘む。そうすれば、
デュランダルの独裁政権では戦争など起こらない。
だが、問題として、適した職業に就けるにも、ブレイク・ザ・ワールドや戦争の被害、政情の混乱で
多くの者が職を失っていたとは言え、すでに職に就いている者、とくに会社の代表などは、そんなプランを
導入されて、下っ端になりたくは無いと反対するだろう。
だから、反対者が何も言えない状況にする必要があった。そのためにロゴスを潰したんだと……
悪と決め付けられ、多くの民衆に血祭りに上げられたロゴスだが、ほとんどの企業が無関係では無い。
当然、その後の経済は混乱する。
だからこそ、次の一手、デスティニープランの導入がスムーズになるのだ。
この説のポイントは、反逆者の例にラクス・クラインの名があり、彼女の行為、MSの強奪や隠蔽、
そして製作を非難すると同時に、会社の代表とは、プランに反対したオーブとスカンジアナビア王国、
つまり、能力では無く、血統による支配者が反対した事を皮肉っていた。
そう。デスティニープランとは、犯罪者と血統が頼りの無能な輩が反対して潰したのだという主張。
ロゴス壊滅後の経済混乱で職にあぶれた者が支持するには充分な説だった。
そして、シン・アスカも職にあぶれたわけでは無いが、デュランダルへの信頼の所為か、この説を
支持する1人だった。
「そう言えば、彼の奥さんは?」
「ああ……それなんだが、まだ戻ってこん。もう1年になると言うのに……」
「まだ、戦場に?」
「ああ、娘はラクスが預かっている」
……なるほど、人質と言う訳か……私のジャーナリストの勘が、彼等の目論見を見抜いた。
ルナマリア・アスカ、現在は旧姓のホークを付けた部隊の指揮官。
そして、今では夫であるシン・アスカに次ぐ優秀な軍人と言われる。
考えてみれば彼等の別居生活には不信な点があった。コーディネイター同士が恋愛結婚で子供をなした。
その幸せは想像を絶するものがあるだろう。
コーディネイターの多くは愛する男性の子供を産む事が出来ないのだから……それなのにルナマリアは
出て行った……何故?……夫に不満があった?……いや、違う。現に彼女は離婚していない。つまり、
愛しているのだ。……ならば、愛する者の元を離れた理由とは?……簡単な事だ。それが愛する者の
望みだから。
そう。彼女は愛する男のために戦場に戻った。そして、結婚前は奇跡の赤服と揶揄される腕前だったが、
今ではネオザフト屈指の軍人……おそらく、夫が反乱の兵を挙げたとき彼の片腕として戦うために、
己を磨いている。
そして、それを見抜いたラクスさんは、彼等の子供を人質に……
ラクスさんは子供好きだが、その裏で、しっかりと計算を働かせていたのだ。
なるほど、全て分かったわ。良いわ。あんまり楽しい話では無いけど……この依頼。
「分かりました。シン・アスカの反乱の証拠……握って見せます」
「へ?……アイツ反乱するの?」
………あれ?
「え~と……違うんですか? じゃあ、依頼の内容って……」
「ああ、実はだな……う~ん、浮気調査と言うか……まあ、素行調査?」
………浮気?

外伝 ミリィズレポート 世界で最も危険な男! シン・アスカ

「あ、あの……反逆の気配があるとかじゃ?」
「さあ? 多分、大丈夫だろ」
「さ、さあ、って! 何を暢気な! 彼が反逆したら、どれだけ大変な事になるか、分かってるんですか!?」
「そりゃあ、世界は真っ二つ……まあ、アイツが反逆するとしたら、こっちを見限ったって事だし、
 こりゃあ、負けだな♪」
「笑い事じゃ無いですよ!」
「でも、大丈夫だろ。君が今言っただろ? どれだけ大変になるかってね。アイツが一番分かってる。
 そして、それで苦しむのは力を持たない弱い奴だってね」
「そ、それは……」
「アイツにとって大切なのは力を持たない弱い奴だ。現状では不満もあるだろうが、それでもアイツが
 守りたがっている力を持たない弱い奴は、戦争するよりはマシな状況だ。
 これで、もし戦争した方がマシだと思える状況になれば、アイツは起つ。
 だから、本当にネオザフトがダメだと思うんなら、いっそ潰した方が良いと思うんだったら、
 アイツは反逆すれば良い」
「ほ、本気で言ってるんですか?」
「本気だとも。ネオザフトは殲滅戦を起こさせない審判の役目を負っている。だがね、審判だって
 腐敗する可能性は充分にある。
 アイツは腐敗した審判を裁ける立場に置いてある」
「それって……」
「健全な関係だろ?」
……それって健全か?
「まあ、分かりました……ところで浮気調査って事ですけど……バルトフェルドさんが?」
「いや、依頼人はラクスだ」
………え?
「ほ、本当ですか!? じゃあ、キラから乗り換え!?」
「それだったら、キラも大喜びと思うが、残念ながらラクスはキラ一筋だ」
何か、さりげなく酷い事言った。
「だったら……」
「まあ、理由はステラの……ラクスが預ってる娘さんの名前なんだが……そうだな、君はシンの事、
 どれくらい知ってる?」
「一応の経歴と、何度か会った事があります。キラと親しくしてました」
「そうか……だったら、彼の情報を渡すためにも、少し彼の話をしよう」
「お願いします」
「アイツは、オーブで平穏に暮らしていた。ヘリオポリスが襲撃される前のお前さん等みたいにね。
 だが、いきなりオーブ解放作戦で家族を失った。その辺はお前さん等よりはハードだな」
「ええ……私は家族は無事でしたから……でも、」
「話を続ける」
私がトールのことを口にしようとする前に続きを話し始めた。
「まあ、それがアイツの根っこだ。自分と同じ悲しみを他人にさせない。弱い奴等を守るんだってね」
「守るか……キラと似てますね」
「いや。全然違うだろ?」
「でも、キラも私たちを守ろうと…」
「シンの場合は自分から決めたんだ。そこに強制は無い。喜んで守る。だから、周りも守られて感謝は
 しても、不安になったりはしない。君たちとキラの関係とは違う」
「え?」
「キラは守りたかったから守ったんじゃ無い。自分しか守れる人間が居ないから守ったんだ。嫌々ね。
 そして、周りの人間は守ってもらう事に罪悪感を感じる。そして、機嫌を取ろうとする。
 だから、アイツはおかしくなったのさ。何せ友人の女を寝取ろうが誰も責めない」
「な、何が言いたいんですか?」
「ハッキリ言ってやろうか? 君たちはキラというアークエンジェルを守る守護神にフレイって子を
 生贄に差し出したんだよ。
 その結果、ついにキラは神になった。誰にでも万人に優しくて、自分の意に沿わないものは叩き、
 そして、人を見下す……心当たりあるだろ?」
「それは……」
耳が痛かった。それ以上に心が……あの頃の2人がおかしいって分かっていても止めなかった。
2人の問題だって、自分に言い訳して……本当は怖かっただけじゃ無いのか? 
「スマンな。俺が言えた義理じゃ無い。そんなキラを利用してるのは俺だし、アイツが唯一、本気で心を
 開いてるのは、そんな自分を倒せる可能性を持ったシンだけだ・・・・・・ハッキリ言って病んでいるよな」
「そうですね……」
「脱線したな。まあ、とにかくシンは弱い奴を守るためにザフトで頑張った。我武者羅にね。
 だが、基本的にアイツが守りたいのは顔も知らない不特定多数の人間。だから、実際は守れなくても、
 辛くはあっても、本気で苦しむ事は無かった。
 だが、ある日、不特定多数の中から、絶対に守りたい個人が現れた。名前はステラ・ルーシェ」
「ステラって……娘さんの…」
「……ディオキアの海岸で溺れているところを助けたのが出会いの切欠。最初は、戦争の被害者で
 その所為で、少し頭がおかしくなった娘と思ったらしい」
「思った? じゃあ、違ったんですね?」
「ああ、全く違うわけじゃ無いがね。ある意味、戦争の最大の被害者だよ。連合の強化人間って奴は」
「強化人間?」
「ああ、ガイアのパイロットで、ロドニアで1度捕虜になった。その後、彼女が信頼する指揮官に
 返還した。……薬の効果で死にそうだったからね。もう戦場に出さないという条件を付けて」
「それって……不味いんじゃ?」
「本来なら銃殺刑ものだが、デュランダルの梃入れで無罪放免。だが……ステラは再び戦場に出た。
 デストロイに乗ってベルリンに現れた。君も知ってるだろ?」
頭がパニックになりそうだ。じゃあ、彼女を殺したのは?……それに彼女が信頼する指揮官って?
「この辺がシンの限界だ。もう、アイツも壊れるしか無かった。なにしろ、守りたい女を守れなかった。
 その上、そいつが、多くの弱い人間を虐殺して回ったんだ。
 何かに縋りたくても、上官は頼りに成らん。同僚とも壁が出来てる。唯一、デュランダルの手駒の
 レイ・ザ・バレル以外はな。
 後はやり場の無い怒りと悲しみを復讐にぶつけた。それがエンジェルダウン作戦の裏舞台。
 まあ、それでも気は晴れんよな。その上、敵を倒したら、上官に殴られる。やってられんだろ?」
「な、なんで?……その上官は、殴ったり……」
「まあ、生意気とか色々理由はあるだろうが、最大の理由は大事な親友を傷つけたからじゃないか?
 ……上官ってのはアスランのことだよ」
あ、頭が痛い……
「それで、そんなタイミングでロゴス殲滅をデュランダルは提唱した。分かるだろ? シンが戦争の
 元凶を提示されたんだ。
 例えオーブに攻め込んででもって気にもなるさ。そして、ついにデスティニープラン……」
平和を求めて足掻きもがいた少年……それがシン・アスカの素顔。
「まあ、結果は知っての通りだ。少年の夢は砕かれた。しかし、戦後、代わりに幸せを手に入れた。
 子供が出来たんだ。守れなかった少女、ステラそっくりな……」
悲しい少年時代……愛しい娘……
「ところが、それが問題でな」
「へ?」
「つまりだ。娘を可愛がりすぎた。ちなみに嫁さんは元ミネルバの同僚」
「それが何か?」
「さっき、言っただろ。何かに縋りたくても、上官は頼りに成らん。同僚とも壁が出来てる。って」
……あれ? そう言えば……
「あの……シンの奥さんのルナマリアは、その時……つまり、将来のダンナが人生のどん底を味わって
 いた時、何をしてたんですか?」
「………アスランにアタックしていた」
「………………冗談ですよね?」
「冗談じゃ無い。まあ、若気の至りって奴だし、シンも気にはしてないと思うんだが、問題は
 ルナマリアの方だ。
 彼女の気持になって考えても見ろ。ステラは守りたくて守れなかった大切な女。もう美化されてる。
 一方の自分は、そんな時、別の男にアタック中。しかも、ソイツはステラの件では終始、敵対関係。
 それで、ステラとシンの取り合いして勝てると思うか?」
「…………無理ですね。話になりません」
「だろ?」
「で、ですが、ステラと言っても、この場合は本人じゃ無く、自分の娘ですよね?」
「それだよ。俺が聞く限りでは、シンは娘を溺愛しているが、女としては見ていない……と、思う。
 それとなく探りを入れたんだが……まあ、よくは分からんが、マユ道を思い出すとか、言って、
 絶対に手を出してはならん存在だとか……」
「……よく分かりませんが……」
「スマン。僕にもさっぱりだ。だが、ルナマリアがそう思っていない事は確かだ」
「それで、彼女は?」
「ああ、娘を連れて出て行った……だがな」
「まだ、何かあるんですか?」
いい加減、泣きたくなってきた。
「ステラは父親に溺愛されて育った。そして、それを嫌がってない。むしろパパとママのどっちが好きか
 聞かれたら、例え母親の前でもパパと即答する娘だ……わかるか?」
わかる。絶対にパパに会わせろとか駄々をこねてる。
「……泣いて良いですか? ルナマリアが不憫で……」
「ああ、泣いてやってくれ、一応は娘の身を案じての家出なんだが、娘が大事なのか嫉妬の上の行動なのか、
 自分でも分からんそうだ。
 アイツ、少しノイローゼぎみでな……仕事に没頭してるのも、その所為なんだ。
 娘に会うのが辛いんだと……」
ノイローゼの人間に仕事さすな! しかも軍人なのに……でも、言えなかった。だって、涙が……

ようやく、泣き止んだ私は、コーヒーを飲んで気を落ち着けると、話を切り出した。
「で、ラクスさんは結局なにが知りたいんです?」
「ああ、ラクスが子供好きなのは知ってるよな?」
「ええ」
「で、ステラの事も可愛がってる」
「そう言えば、確か、勝手に戸籍を自分の娘にしようとしたんですよね」
「ああ、あれは大変だった……」
「ご愁傷さまです」
本当に大変だな。この人も……
「まあ、いい。とにかくラクスとしては可愛いステラの頼みだったら何でも聞いてやりたいってのが
 本音だ。それで、今のステラの望みはパパに会いたい」
「……まさか、依頼って?」
「ああ、シンが娘に手を出す可能性を調べて欲しい」
私はガックリと項垂れた。
「あ、あの……私、探偵じゃ無くジャーナリストなんですが?」
シン・アスカの反逆の兆しだったら、ジャーナリストとしても、納得の仕事だけど……
「悪いとは思ってる。だが、考えても見ろ。ネオザフトの裏幕だぞ。こんな話が外部に知られてみろ?」
ちょっと想像…………ネオザフト最強の軍人は実はロリコン!? とか、その妻の過去を暴く! とか、
こんな女がトップで良いのか? またもや公私混同のラクス・クライン!……
うん。明日からネオザフトの兵隊さん達、恥ずかしくて外を歩けない。
「頼めるのは他に思いつかない……この通りだ!」
頭を下げるバルトフェルドさん……断りたいけど、他に仕事もないし……
「分かりました。やります」
「引き受けてくれるか! 助かる。お前さんが、内部をうろついても平気なように手配しておく。
 それと、調べたい事があれば……」
説明を聞くと報酬も含め、情報の閲覧の権限など、かなり優遇してくれた。頑張ろう。
こうして私は、シン・アスカのことを調べる事になった。

私は、ネオザフトの最強部隊を取材するジャーナリストとしての立場を得た。
まあ、バルトフェルドさんから、閲覧を受け、不味い件は削除するが、その後だったら、本当に記事に
しても良いと言われたので、張り切ってる。
正直、私はシン・アスカが無謀な反逆をする可能性に対して楽観は出来なかった。
さて、アスカ隊の隊員は、基本的に他の部隊のように哨戒や基地の防衛といった任務には就いていない。
それは、部隊の特殊性、最強と謳われるこの部隊は、他の部隊に手が負えない場合に出動するため、
普段は首都アプリリウスワンに駐在している。
当然、隊長のシン・アスカも同様で、普段は部隊の訓練に時間を費やしている。
訓練は厳しい事で有名であるが、それに対する隊員の不満は驚くほど少なかった。
曰く。死ぬよりマシ。だそうだ。その事からも彼等が就く任務が、如何に危険であるかを物語っている。
実際に訓練で死にそうになって他の部隊に転属されるケースはあるが、実戦での戦死者は非常に少ない。
そのため、隊長のシン・アスカは隊員の信頼を得ている。
隊外、主に彼より年長の人間からは、かつてデュランダルの下で戦った事と、キラ達からの優遇を
嫉妬して悪く言う人間も居るが、基本的に人間関係は良好と言える。特に女性からは容貌もあって
人気が高いようだ。
さて、そろそろ本人に接触してみよう。
「おはようございます」
「え?……え~と?」
「取材の話、聞いてません?」
「ああ…たしかアークエンジェルにも乗ってた?」
「はい。ミリアリア・ハウです」
「一応、こちらも自己紹介したが良いかな? アスカ隊のシン・アスカです」
「今日から暫く、よろしくお願いします」
「こちらこそ。何か質問があったら、気軽に訊ねてください」
「ありがとうございます。では、また後ほど」
う~ん、大人の対応。確か前に聞いた話だと短気で無愛想ってことだったけど、随分と落ち着いている。
まあ、彼も30歳だし……成長しないアークエンジェル組が変なのかな?
それにしても………私は彼の容貌に吸血鬼って単語を思い浮かべた。
白い肌に赤い瞳、漆黒の髪は結構長めで……あのデュランダルを上回る、どこか妖しい雰囲気を持っている。
おまけに反逆の噂も決して消えない危険な存在。
なるほど、火遊び好きな若い女の子が騒ぐのも無理は無い。
では、彼の仕事振りをじっくりと拝見。

出勤して、まず最初に、副官であり、旗艦の艦長を兼任するアーサー・トラインと打ち合わせを行う。
「本日は、第4から第6MS小隊は、第7から第9MS小隊が帰還すると入れ替わりに、宇宙での
 機体を使っての訓練になってるけど?」
「変更無しでいいんじゃないですか? 第1から第3はシミュレーターをさせます」
「うん。で、帰ってきた連中は?」
「早めに休ませて結構ですよ。最近、新人が入ってないから楽で良いや」
「そりゃそうだ。まあ、訓練続けたいって元気な奴も居るだろうから、そういうのはそっちに廻すよ。
 じゃあ、今日はノンビリいこうか」
「そうですね」
……何? この砕けた雰囲気は? これが最強部隊? しかも副官に隊長が敬語使ってるし……
「じゃあ、俺は第1から第3の面倒を見てきます」
「はい、いってらっしゃ~い」
軽いノリで訓練に出発。これじゃあ訓練が厳しいって噂もデマかな? まあ、見学を………
「死にたいのか!」
「も、申し訳ありません!」
「死にたいなら、今のうちに死んでおけ! 戦場でそんな事をしてたら、自分だけじゃ無く、
 部隊の仲間も、守るべきはずの民間人も巻き込んで死ぬんだぞ! 今なら自分だけで済む!」
……なんか別人だ。
その後も、ハードな内容の訓練を続ける。シン・アスカ本人だけで無く、参加する隊員もレベルが高い。
もし、この部隊がシン・アスカに従って反逆したら……やはり、私はその不安を無くせなかった。
そして、ようやく訓練を終えると再び副官と明日の打ち合わせをすると帰宅になる。
「お疲れ様でした」
「ええ、明日もお願いします」
「いえ、何もお構いできずに申し訳ありませんでした」
そんな言葉を交わして別れる。
だが、私の仕事はここからが本番。重要なのは仕事振りではなく、彼のプライベートなのだから。
そんな訳で、彼の私服には発信機と盗聴マイクを仕掛けさせてもらってる。
……それにしても、この発信機と盗聴マイク凄いな……こんな小型で、高性能。さすがはネオザフトの
最新型だ……仕事終ったら、貰えないかな?

シン・アスカは、私服に着替えると、トボトボと街に出る。……トボトボ? 
何だろう? 急に哀愁漂う無力感が……その姿は人生に疲れた中年サラリーマンにしか見えない。
「たいちょ~う♪」
ん? 女? シン・アスカを呼び止める若い女性……17,8歳か?……見覚えがあると思ったら、
部下の1人だ。パイロットでは無くオペレーターだったはず。名前は……覚えてない。
何の用だろう?……まさか、ゲリラの接触!? いや、浮気現場!
……そのまま2人でレストランに入って食事を楽しんでる。
シン・アスカは優しい笑みを浮かべ、穏やかに話している。訓練時とは別人だ。
一方、女性の方は…………何と言えば良いか……そう、メロメロ。すでに落ちた女の表情。
これって浮気になるのかな?……なるか。正式に離婚してないんだし。
でも、依頼の内容は娘に手を出す可能性だから、この女性が相手だとセーフよね。
そして、食事後はホテルへ……やっぱり行った……私はルナマリアのために涙を流しながら、盗聴マイク
から聞こえる嬌声を聞いていた………ゴッドフィンガーって、何よ?
興味はあるが、今は関係ない。むしろ報告をどうするか?
すでにシン・アスカには愛人が居て、娘さんに手を出す事は無いと思います……に、なるか?
だが、この愛人?との関係が、どれ程のものかは不明。場合によっては、正式に離婚をして、この人と
再婚って可能性も?
もう少し、調査の必要があるわね。ホテルから出て行く2人を眺めながら、明日も尾行の必要ありと
判断した。
そして、翌日も副官とのヌルイ会話とハードな訓練を終えて帰宅……さて、あの女、調べたところ、
オペレーターのセリル・ユーテスって名前だったけど、今日も会うのかな?
「アスカ隊長」
来た!…………あれ? 違う女の子? たしかパイロットの……アルイエットだっけ。
なんで?……ま、まさか!?
…………その、まさかだった。その夜も私は車の中で盗聴マイクから聞こえる嬌声を聞く羽目に……
しかも、違う女。

それから、しばらく観察を続けたが………何なのよ! この女の敵は!
自分の隊だけで無く、他所の部隊の子まで……まあ、部隊内ばかりだと逆に怖いけど。
それにしても、どんなプレイをしてるのよ?
信じられない事に、彼女たちは自分がシン・アスカの恋人とは思っていない。つまり、火遊びの自覚を
持って接している。
それどころか、小隊での連携攻撃とか、パイロットとオペレーターの息を合わせるとか言いながら、
複数の女の子が同時に声をかけてくるし……ネオザフトのモラルは崩壊している。
まあ、子供が出来にくいコーディネイターに貞操とかの観念が低下するのも無理は無いと思うけど、
それにしても乱れすぎ……よって詳しい調査の必要ありと判断。
私はシン・アスカが利用するホテルに隠しカメラを仕込む事にした。
だけど、女1人でホテルに入るのも抵抗あるし……
「って、訳で……悪いとは…思うけど」
「いや、別に……構わんが、ミリィの頼みだし」
……ネオザフト軍アカデミーの校長、ディアッカ・エルスマンに付き合って貰う事にした。
元彼とホテルに入るもアレだけど、他に親しい人居ないし……ちなみにキラはアウト。
ラクスさんが怖いし、キラ本人がシン・アスカにばらしそうだし。
「さて……セット完了」
「でも、カメラセットするの、この部屋だけで良いのか?」
「一応は……空いてる限り、ここばかりだし」
「まあ、いいけど」
そして、本日は撤退して翌日、ビデオを観察を……その日の相手はアスカ隊のアルイエットと、見ない
顔が2人……3人同時!? しかも他部隊との合同演習とか言ってるけど?……まあ、内容は……
「グゥレイト! 同士討ちを始めさせやがった!」
「寸止めした上で味方を攻撃させるなんて外道よ!」
凄惨な同士討ちの光景……ディアッカは興奮してるけど、私は女同士の絡みなんて見たくない。
「それにしても、これがゴッドフィンガー……」
「あ!……この女、どっかで見たことがあると思ったら!」
「知り合い!?」
「1人はホーク隊で、もう1人はうちの生徒」
……嫁さんの部下と学生?………涙が出てきた。

彼の行動を観察してきたが、時々キラと飲みに出かける以外は、毎日違う女の子を相手に……
「ケダモノね……別の意味で危険な男だった」
でも、どう報告しよう?……まあ、問題の娘さんの貞操に関しては大丈夫な気もしてきたけど……
いや、学生相手にも躊躇しないし、可能性はゼロじゃ無い。
まあ、期限まではまだあるし、それまでに考えればいいや。
そんな、ある日、アスカ隊に出撃命令が下った。目標はL3ポイントに出没する海賊。裏で反政府
ゲリラとの繋がりがあり、その証拠を掴んだ部隊が襲われ、壊滅的な打撃を受けた。
任務内容は生き残りの捜索と救助。及び海賊の壊滅。
私は任務に同行することになった。久々の戦闘……緊張するわね。
だが……
「まあ、くつろいでいて良いですよ。到着まで時間がかかりますし」
「で、でも生き残りの捜索も?」
「そう言われてもな……一応、艦は全速で航行してますし、今から緊張してたら体持たないですよ」
まあ、それもそうだけど……この部隊は改造ミネルバ級の3隻で構成されているから船速は速い。
ちなみに10年前から戦艦に関しては、ほとんど進化は無い。それはMSも同様で、多少の改良は
されても、大幅なモデルチェンジはされてない。
だって、作る理由も余裕も無いから。世界中が貧乏だし、軍需産業なんてロゴス壊滅の後は続々と
閉鎖された。
その中でもプラントはマシだけど、すでに最高の品質を誇っている以上、新型を作って無駄な
出費なんか出す意味が無い。要するに作りたいって技術者が言っても金が無いと突っぱねられる。
まあ、そろそろ変えないと色々と不味いって意見もあるけど、今は大幅な変化なし。
「まあ、襲撃から逃れた連中は、どっかに隠れてますよ。可能性は低いけど、捕虜になってるか事も。
 逆にMSで宇宙空間を漂ってるとか、船が動けなくなって、おまけに酸素発生器が壊れたりしたら、
 それこそ急いでも間に合いません。冷たい言い方ですが、死ぬ時は死にます」
「そ、それって……」
「キラさんに言ったら落ち込みましたよ。でも事実です」
きれい事の裏に隠された冷たい現実……それを平然と受け入れ、為すべきことをする。そこには
ネオザフト最強の軍人と畏怖される男がいた。
……不思議な人……どれが本当の顔なんだろ?

ところで、出港してから意外な事実に気付いた。
シン・アスカは、基本的にブリッジに居る以外は訓練もせずに自室に篭っている。
訓練の方は戦闘前に身体を酷使しない理由もあるだろう。現に彼以外の隊員もやったとしても、
軽いシミュレーターをこなす程度。
今更、慌てて海賊対策に勤しむほど、柔な訓練をしていない自信の表れだろう。
だが問題は、出港して以来、自室に篭りはしても、1度も女と寝ていないのだ。
この艦にも彼と関係を持った女性が何人か居るのにだ。
まあ、彼はジャーナリストの私に、女性との交遊関係が知られてるとは思ってないだろうから、
私が同乗しているため我慢してる可能性もあるのだが、一応調べておきたい。
私は、それとなくシン・アスカと関係のあるパイロット、アルイエットに話を聞いてみた。
「え? 隊長が部屋に女性を呼んだりしないかですって?」
「ええ、隊長さんって素敵な人だし、貴女みたいなキレイなパイロットが居て……しかも軍艦っていう
 閉鎖空間、そういうの興味湧くでしょ?」
「はあ……でも、隊長、艦内では絶対に女性を側に近づけませんよ」
「何故? 女性が嫌いってわけでも無いでしょ?」
「う~ん、だって、軍艦ですよ。殆ど男で、しかも彼女が居ない人だって居るし……」
「え~と、つまり、隊員の嫉妬に気を使って?」
「多分……前に、そう言って断られまし…あ! 今の無し!」
「ええ、良いわ。聞かなかった事にする」
「ほ、本当ですね!?」
「約束する」
彼女を安心させながら、頭の中を整理する。まあ、ありえる話だ。基本的に艦内は多数の男が少数の女を
奪い合う世界。
でも、シン・アスカは多数の女を独占しかねないケダモノ。
だったら、部屋で何をしているのか?
さすがに軍艦では盗聴器の類は使えない。Nジャマー下で変な電波を発していたらすぐに分かる。
さて、どうする?……私はブリッジでシン・アスカを観察していた。
彼はアーサー・トラインと親しげに会話をしている。
だが、考えてみれば、このアーサー・トラインという男も危険では無いのか?
彼は、かつてミネルバで副長を務めていた男だ。
彼は決して有能との評判は聞かない。
では、現に最強部隊の副官をしているのは何故か?
やはり、疑わしいのはシン・アスカとの個人的な関係だ。
私はシン・アスカの忠誠に対する不信感は拭いきれないでいた。
「じゃあ、そうやって攻略すればいいんですね?」
「ああ、意外と見落としやすいんだよね」
え? つい自分の考えに夢中になってて聞き逃していたけど、シンがアーサーに攻略法を聞いてたらしい。
どういう事? まさか、シン・アスカより、アーサー・トラインの方が戦術家として優れているとでも?
でも資料には……まさか擬態? 無能なフリをして実は切れ者だとしたら?
そうする理由は何?……シン・アスカには真の姿を見せ、周りを騙す理由とは?
……やはり、この結論が出る。
つまり、アーサー・トラインこそ、シン・アスカが反逆する際の片腕。そして、普段は無能なフリをして
周りの目を誤魔化し、決起の時に備え裏で暗躍しているのだ。
こんな気の良さそうな顔をしてるのに、何て恐ろしい男だろう。
「それじゃあ、僕は休ませてもらうよ」
「ええ、ブリッジは俺が見てますから、ゆっくりしてて下さい」
そう言って、消えるアーサー・トライン……彼の動向を調べるか?
いや、それよりもシン・アスカの部屋を調べるチャンスでは無いか? 私の手には艦内の全てのロックを
開けれるマスターキーがバルトフェルドさんより預けられている。
……やろう。
私はブリッジを離れ、シン・アスカの私室へと向かった。
「周りに人は……よし」
カードを差込みロックを解除すると、部屋に忍び込んだ。
「意外と片付いて……これは!?」
私は、それを見た。そして、それの存在は今回の任務が終了したことを意味した。

「ドーター☆メイト……」
ラクスさんは手に持った資料を見ながら手を震わせてる。
「内容はですね。簡単に言えば子育てゲームです。ただし18禁の」
「……18禁?」
「え~と、未成年がやったらダメなゲームで……ぶっちゃげ娘とやってます」
ラクスさん、青筋が………
「え~と、これがゲームの画像です」
私は、タイトルから調べて入手したゲーム内の画像も渡した。
「………この白濁液まみれの少女……随分と幼く見えますが……おいくつですか?」
「一応は18歳以上との事ですが、どう見ても12、3歳くらいか、そこらですよね」
「ウフフフフフフフフ………」
怖っ! 笑ってるのに殺気が……
「ねえ、ラクス居る?」
キラ?……何の用なの? 今は危険が……
「あのさ、シンに頼まれたんだけど…」
おいおい!
「彼、今回の任務も頑張ったし、そろそろ娘さんに……」
あ~あ……
「今、そこまで来てるんだけど…」
「ここへ呼んできてくれます?」
「え? 何か怒ってない?」
「キラ♪ わたくし、シンを、ここへ…」
「すぐ呼ぶ! シ、シン!」
身の安全を守るためとはいえ、友を生贄に差し出す姿……でも、責める事は出来ない。私だって怖いし。
「あ、あの失礼します……その…実はですね……」
懸命に娘に会いたいと願う父の姿……でも、最悪のタイミング。
ラクスさんは立ち上がると、今まで座っていた椅子を手に取った。
……え~と、私は悪くないよね? 
シン・アスカが危険人物なのは本当なんだし……ただ反逆の不安が減った事はたしかだった。
……それ以前に、ネオザフトって組織に問題がある気がしてきた……

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