中身 氏_red eyes_第2話

Last-modified: 2009-07-20 (月) 01:51:01

自由の聖剣編2

 
 

深紅のグフは破壊した。
まだ他のMSが出てくるかもしれないが、先ずはテロリストが持っているのは珍しいあの戦艦を抑える。
そう判断してキラは愛機を疾走させる。
戦艦が正確な砲撃を放ってくるがこのMS、ストライク・フリーダムSOCOM改の
機動性を前に通用する訳がない。

 

キラ・ヤマト大佐専用MS ストライク・フリーダムSOCOM改。
ベースはストライク・フリーダムのままだが、機体各部にハードポイントを設けたことで
あらゆる作戦に対応する機体である。
現在は継戦能力が高いタイプを装備している。
その姿は初代フリーダムと酷似していて、地上戦用にドラグーンは装備していない。
代わりに砲身を短くした取り回し重視のバラエーナSを4門装備、
両肩のみならず脇にも展開するそれは圧倒的な制圧力を有す。
継戦能力の観点からクスフィアスは排除され、半永続的に戦闘能力を維持出来るMSである。

 

その世界最高峰の性能を誇る天使が、グリッグスのブリッジめがけて空を奔る。
ブリッジにビームライフルを突き付けて降伏させれば、
今回の任務である『テロリストの基地と化している町の制圧』の目的8割はクリアだ。
まるで予め予定されていたかの様に弾幕を回避すると、ブリッジにビームライフルを向ける。
後は降伏勧告をするだけ。そう思い通信をオープンチャンネルに切り換えた、その時だった。

 

『やめろぉー!!』

 

決死の叫びがコクピットに響くと同時に横殴りの衝撃がキラを襲う。
『よくもルナを!突然何なんだ、あんたはっ!』
体当たりで吹き飛ばされた機体を立て直すと、既に怒気の塊と化した黒いグフが迫ってきていた。

 

「はあぁぁぁっ!」
裂帛の気合で横に薙いだビームサーベルが虚しく空を斬る。
後退してグフの一太刀を回避したフリーダムもビームサーベルを構えた。
「あんた、キラ・ヤマトだな」
「その声は・・・シン!?」
驚きを隠せない様子のキラ。しかし、次に驚くのはシンの番だった。
「ザフトを辞めたのは知ってたけど、なんでテロリストなんかに!」
今度はフリーダムがグフに斬りかかる。シンは咄嗟にシールドを突き出した。

 

「な、何言ってんだあんたは!?俺達は只の傭兵だ!」
ビームサーベルを受けることに成功したシンだが、核動力のフリーダムとバッテリー駆動のグフでは
力比べでは圧倒的に不利だ。
シンは機体を捻らせてフリーダムのビームサーベルを受け流す。
しかし、既に下から第2撃目が迫る。
「くっ」
機体を反らせてそれを回避したシンは、左手を突き出し装備されたビームガンを連射した。
すかさずそれをビームシールドで防ぐキラ。
「じゃあテロリストに雇われたの?なんでそんなこと・・・!」
「さっきから何意味分かんない事言ってんだよ!うちも、この町も、SOCOMに狙われる謂れなんかねぇ!」
その言葉に、今まで攻撃の手を緩めなかったキラが突然機体を停止させる。
しかしそれは、戦いの終わりを示す物ではなかった。

 

「・・・本気で言ってるの、シン」

 

次にキラの口から発せられた声は地の底から響いてくる様な暗い声。
「当たり前だ。この町はちょっと情勢が不安定な只の町で、俺達は只の傭兵団だ」
「・・・そうか、君があくまで白を切るつもりなら、」

 

シンは目の前フリーダムが明らかに変わるのを感じた。外見上には何ら変化は無い。
しかし、シンの直感は的中していた。次の瞬間、フリーダムはカメラの残光を残し視界から消える。

 

「なら君は、僕が討つ!」
「うおっ!?」

 

突如上空から斬撃がシンを襲う。
紙一重でかわしたそれが、フリーダムの物と知覚する前に、蹴りによってグフは地上へ墜とされた。
地面との衝突に強か腰を打ったシンが見た物は、太陽を背に輝く天使。
その体勢に、シンの背から冷たい物が走る。
「ハイマットフルバースト!?冗談じゃねぇ!」
バーニアが地面に触れている状況で、無理矢理それを叩き起こす。
それと同時に、計7門を誇るフリーダムの火砲が火を噴いた。
「昇れー!!」
地面を削りながらバーニアを噴かすグフを熱線が追う。
しかし、削られた地面が粉塵と化し、グフを覆い隠した。
「どこに?」
体勢を解いたフリーダムが辺りを見渡す。
グフのバーニアの噴射とフルバーストを受け、加えて元々乾ききった地面から発生した土煙は
なかなか収まろうとしない。
焦れたキラが再びフリーダムにフルバースト体勢をとらせようとした、その時。
「!?」
真横からフリーダムを弾幕が襲う。かわしながら火線の先を目線追うと、
そこには先程降伏させ損ねた戦艦、グリッグスがいた。
「僕とシンから離れるのを待ってたのか。近接信管とは味な真似を!」
砲撃のタイミングの良さに、キラは舌を巻く。
今すぐあの戦艦を黙らせたかったが、下からシンが機を狙っているのは火を見るより明らかだ。
少しでも戦艦に気を向ければすかさず攻撃に転じてくる。キラはシンを過小評価していない。
一度は自分を墜としたパイロットだ。故に動けない、敵の艦長もそれを分かっていて撃ってきている。
キラは歯噛みする。今は砲撃を避け続けることしか出来ない。

 
 

「チェン、当てようと思うな、動きを封じるんだ。
 バート、他にもSOCOMがいるかも知れない、索敵を怠るな。
 マリク、操艦このまま、但し町を射線上に入れるな」
グリッグスのブリッジ、アーサーがブリッジクルー各員に指示を飛ばす。
正面モニターに映る天使は間違い無くキラ・ヤマト大佐専用フリーダム。
SOCOMに所属しているとは聞いていたが、まさか敵になるとは。
「アビー、ルナマリアの安否は?」
「無事です。乗機は戦闘不能。」
報告を聞いてアーサーはホッとする。
未だ戦闘中とはいえ、とりあえず貴重なクルーを失うことは避けられた。
「今だけは彼の不殺戦法に感謝だな。ルナマリアには悪いけど、暫く機体の中で大人しくしていて貰おう」
「艦長、どういうことでしょう?SOCOMが何故ここに?」
モニターの中で踊るフリーダムを注視したまま、比較的暇なマリクが疑問を口にする。
「分からない。この町にはテロリストの基地はおろか、連絡網も無いのは調べ済みだし、
 自衛団はあるけどMSは保有していない」

 

SOCOMと傭兵がぶつかることは殆ど無い。
彼らが派遣される地域は、自分の命第一の傭兵が毛嫌いする様な危険区域である。
具体的には、傭兵が相手どるには規模も錬度も高いテロ組織や、
政治的な観点から戦うこと自体がタブー視される勢力などだ。
要は生息域が違うのである。

 

「ラクス・クラインがキラ・ヤマトに汚れ仕事をさせるとも思えないしなぁ。
 全くどうなってるのか・・・」
アーサーの疑問に答える者はいない。
今は振り下ろされる聖剣をどう掻い潜り生き延びるかが先決だった。

 
 

(SEEDか)
土煙の中に身を潜める事に成功したシンは思案する。
急激に動きが良くなったフリーダム、その現象に彼は思い当たる節があった。

 

SEED、一部の人間が持つ進化の種。
単なる火事場の糞力という学者もいるが、シンにはよく分からない。
分かっていることは、キラ・ヤマトがそれを自由に使えること、
発動すると、MS戦において勝敗を決する程の力だということだ。

 

「機体の性能差に加えてSEEDかよ、参ったな」
シンもSEEDを持っているには持っていたが、発動のさせ方など全く分からない。
このまま町に身を隠してゲリラ戦を仕掛けるのが一番の策だ。
しかし、そんなことは出来ない。任務上は勿論だが、過去のトラウマがシンにその策をとらせなかった。
「でもまだ、策はある」

 

戦艦からの執拗な攻撃が続く、PS装甲を用いたフリーダムなら近接信管如きでダメージは受けないが、
衝撃は殺すことは出来ない。受け続ければ、パイロットが力尽きる。
そんな、精神を摩耗する機動を繰り返すキラの視界が、
ビームサーベル特有のピンク色の光を土煙の中に捉えた。
それは文字通り、暗い道に指す一筋の光だった。
「そこだっ!」
土煙の中に揺らめく光、グフのビームサーベルの光。
恐らく策が無かったのだろうシンの無謀という光に向けて、フリーダムがビームライフルを放った。
放たれたビームは寸分違わず光に向かい、土煙の中に消えた後、着弾を示す爆発を起こした。
標的を仕留めた筈のキラはしかし、それに違和感を覚える。
「おかしい。なんだ?」
爆発が小さい。
万が一を考え、残骸を確認しにフリーダムを未だ収まらぬ土煙の中に侵入させる。
「・・・これは!」
10メートルも視界を確保出来ない土煙の中。
着弾地点にあったのは、過去ビームサーベルの柄だったと思しき白い破片。
グフの黒い破片などどこにも無い。

 

(これは・・・囮!)
気付いた時には遅かった。
両手に保持していたビームライフルに、後方から二対の鞭が巻きついたと思うと、瞬く間に破壊する。
スレイヤーウィップ、グフ特有の特殊兵装である。
「しまった!」
「うおおおおおっ!」
間髪入れずに、黒いグフがビームサーベルを手に、土煙の中から躍り出る。
そのまま反応が遅れたフリーダムの羽の一枚を斬り落とし、バラエーナSを1門破壊する。
「くそっ!」
「まだまだぁ!」
反す2刀目を振り返り様にビームシールドで受けたキラは、
フリーダムにビームサーベルを起動させてグフへ振り下ろす。
すかさずそれをシールドで受けるシン。
土煙が晴れる中、超至近距離でモノアイとツインアイが交差した。

「もう一度言う。この町も、俺達も無実だ。
 でもこの町は、この地方を支配するのに都合の良い位置と地形をしている。
 大方プラントがここを欲しくて、あんたに嘘をついてるんじゃないのか?」
「なっ!?まだそんな、戯言を!」
キラは力任せにグフを吹き飛ばすと、残ったバラエーナSを起動させる。
「僕は力の無い全ての人達の剣だ。テロリストに成り下がった君の言葉に、耳を貸すつもりは無い!」
テロリストの言葉に影響されてはならない。SOCOMの軍規であり、戦場でキラが学んだことだ。
4門の火器が、吹き飛ばされて体勢が崩れたままのグフを狙う。
「この、わからず屋め」
吐き捨てて、グフを立ち直させる。
眼前のフリーダムは再びフルバーストの体勢をとっていた。この距離なら避けられる。
そう確信してグフに回避運動をとらせようとした。
しかしグフの真後ろを映すモニターにあって当たり前の、だが今はあってはならない影が映る。
グフの動きが止まった。

 

「・・・すまねぇヴィーノ、今度の修理は大掛かりになりそうだ」
そう呟いてシンがグフにとらせた体勢は不自然極まる物だ。
片膝を折り、腕を胸の前に畳む。出来るだけ機体を丸めてシールドを前に突き出す。
俗にいう防御姿勢である。
砲門が減っているとはいえ、一斉射で戦艦を轟沈させるフルバーストを、MSが防げる筈も無い。
しかし、退けない、退ける筈が無かった。フリーダムから光の束が放たれる。

 

「耐えてくれよ、俺のグフ!」

 

そして黒いグフは、ビームライフルとは比べ物にならない光の放流に飲み込まれた。