伊達と酔狂_第06話

Last-modified: 2008-02-29 (金) 23:14:54

シンの一言にその場が凍りついた。
「シン、一体何を言ってるの!?」
フェイトがシンを止めようとした時
「いいよ…僕は」
「キラ!?」
「その様子じゃ今すぐ戦えそうにないな…明日今日と同じ時間、同じ場所だ」
「分かった」
シンはそう言って一人戻っていった。
「とりあえずキラ君を医療ルームに。ザフィーラ悪いんやけど頼めるか?」
「はっ」
「すみません」
「気にするな」
ザフィーラは人型になりキラに肩を貸し医療ルームへと運んでいった。

 

「はい、治療終了っと」
そう言ってシャマルはキラの背中を叩いた。
「すいません、お手数かけて」
「そう思うならもう少し自分の体を大事にしてくださいね。なのはちゃんといいキラ君といい何で誰も私の言う事を
聞いてくれないのかしら…」
シャマルはそう言いため息を漏らし、キラはそれを聞いて苦笑した。
「でもあの4人と戦ってこれだけのダメージで済んだんですから良かったかもしれませんね?」
キラはそんなシャマルの発言に顔を青くしながら
「…ですよね?今になって冷静に考えたら凄いことしたんだなって、もう一回同じことやれって言われたら絶対無理ですよ。
それに僕一人の力じゃ到底無理でしたよ。フリーダムのおかげ、ってのも情けない話ですけどね」
そこへ今まで考え事をしていたフェイトは口を開いた。
「それよりキラ、何でシンとの一騎討ちを受けたの?」
「何故、か…」
キラは少し考え、そして
「彼が…」
「え?」
「彼が初めて僕とちゃんと向き合ってくれた、からかな?今まで彼、僕の事を故意に避けてたし極力関わろうとしなかった。
今回のは何かしら打算あっての事かも知れないけどね」
「それだけ!?」
フェイトは拍子抜けした。元々キラは突拍子の無い事をいきなり言うことがあったがそれでも一応理に適っていた。
それがたったそれだけの理由で今回の一件を了承したということにフェイトはどうしても納得出来なかった。
「それだけって…僕からしたら結構一大事だと思ったんだけどね。彼の性格からして」
「でもキラ…」
「ん?」
「もしもだよ?万が一の事態になったら?」
この時フェイトの思考はかなり危険な方に働いていた。
"シンにとってキラは仇"
今まで忘れていたがこの事実は変わりようのない事実だった。もしかしたら自分達はシンにチャンスと力を与えてしまったのではないか?
無論キラがそんな簡単にシンに負けるとは考えられない、が真剣勝負に絶対はない。番狂わせは唐突に起こるものである。
キラはフェイトの言わんという事を察した。
「うん…その時はその時だね」
「キラ!?」
「それでも僕は彼と戦うよ…」
「………」
「それにチャンスなら今までに何度もあったし、大勢の目の前でそんな暴挙に出るとは考え難いよ。大丈夫だから、ね?」
キラはそう言いフェイトを説得した。

 

「で?アンタはいつまでそこにいるんだよ」
シンはアロンダイトを素振りしながら後ろにいるなのはに言い放った。
「ん~?シンが本心を聞かせてくれるまでかな」
「…別に何だっていいだろ」
シンは少しムッとしたので素振りを止め、ぶっきらぼうに答えた。
「わたしとしてはシンとキラ君が決めたことだから文句は言わないよ、ただ今の二人の状況は良くないなって思ってね」
「別に誰とでも仲良くしなきゃいけないって事はないだろ」
「もちろんそうだけどシンはキラ君にちゃんと自分の気持ちを口で伝えた?」
病室でシンは自分の言葉を伝えようとしたらクロノが現れて何も言っていない状態だった。そしてあれからタイミングを完全に逃してしまったのであった。
「ちなみにシンはキラ君の事嫌い?」
「嫌いじゃないね、ただもの凄く気に食わないだけさ!」
(同じだけどね、それ)
後半を強調して言うシンの姿を見てなのははシンの子供っぽさに微笑んだ。
「でもわたし達の職業柄いつまでも健在とは限らないからね、お墓と仲直りしたって意味無いよ?
仲直りしろ、なんて差し出がましい事は言わないけど想いをちゃんと伝えなきゃ後悔するよ、多分」
シンは素振りを再開し
「もう用は済んだかよ?」
「シンがキラ君に勝つ為にわたしが出来るアドバイスは2つ…」
シンは再び素振りを止めなのはの方を見た。

 

そして当日――
指定された時間、場所にメンバーが集まった。といっても通常業務があるはやてやリイン、ヴィータ等は来れなかった。
二人は無言でデバイスを起動し向き合った。キラは敢えて今回の模擬戦の意図を問いたださなかった。
それと時を同じくしてシグナム、フェイトもデバイスを立ち上げた。
「どうしたの?フェイトちゃん?」
なのはは二人の行動を見て不思議に思いそれを口にした。
「一応念の為にね。杞憂であればいいんだけど、何かあってからじゃ遅いから」
「フェイトちゃんは相変わらず心配性だね」
「私、なのはだったらこの勝負絶対止めると思ったけど…大丈夫かな?」
「100%大丈夫…とは言えないけどそれ程わたしは心配してないよ、これといって確証はないけどね。
それに二人の初めての模擬戦に水をさしたくないし」
なのはの言うとおりシンとキラにとってこれは初めての模擬戦であった。各自自分のデバイスの事やキラの負傷などで機会がなかった事もあったが、
何より互いに距離を取っていたのが最大の理由であった。
シンはアロンダイトにカートリッジをリロードして構え、キラはライフルにマガジンを取り付け戦闘態勢に入った。
互いに対極的な戦闘スタイルの為間合いの取り方が勝敗の鍵となった。シンは中・遠距離で戦ったら勝率は絶望的な数字になる為
何としても接近戦に持ち込みたかった。一方キラは今回に至っては接近戦を挑まず火力の集中でシンを落としたかった。
二人はほぼ同時に動き出した。構図は至ってシンプルでシンがキラに接近を挑み、キラは後退しつつ射撃でシンの足を止めようとした。
キラの精密な射撃をシンは出来るだけ回避を試みた。キラのライフルによる通常射撃程度ではシンの防御壁を打ち抜くことは不可能だが、出来るだけ余分な魔力消費を避けたかったのであった。
(速いな…)
キラはシンの速さをある程度予測していたがシンはそれを凌駕する速さだった。狙いが定めづらくライフル射撃だけではいずれ接近を許してしまうと考えたキラは出し惜しみすることなく
ドラグーンを全基射出した。
『プロテクション』
避けるスペースが皆無な程の一斉射でシンは初めて全方位防御壁で防御体勢をとった。煙幕が晴れた瞬間シンの眼前にキラが迫っていた。
シンは咄嗟にアロンダイトでキラを薙ぎ払おうとしたがシールドにより阻まれてしまった。しかしシンはお構いなしにシールドを張ったキラごと吹き飛ばした。
チャンスとばかりに飛翔しようとした刹那、クスィフィアスによる手痛いカウンターを喰らってしまった。
「これも予測通りってか…舐めた真似しやがって」
そこでシンは昨日のなのはの言葉を思い出した。

 

(何だよ?アドバイスって)
(聞きたい?)
(…折角だから一応聞いてやるよ)
(ふふ、まず1つ目はね相手の実力をちゃんと認めるって事)
(はぁ?)
(相手を過小評価するなって事。相手の実力を認めて敬意を表することは決して恥じゃないよ?)
(…何か嫌だ)
(そうやって好き嫌いしない)

 

「ああ、認めてやってもいい。認めてやってもいいけどやっぱ無性に腹が立つ!デスティニー!」
『何か?』
「長期戦に持ち込んで向こうの体力削って戦いたいところだが俺達は燃費が悪い、ならどうする?」
『短期決戦で決めるのが上策だがだが向こうもそう簡単に勝たしてはくれないだろう。長期戦ではこちらの魔力が先に無くなるだろう』
「いちいちソリドゥス・フルゴールで防いでいたらやがてこっちの魔力が底を尽くか…だったら力でねじ伏せるまでだな。エクストリームブラストいけるな?」
『もちろん』
(アンタに効くかどうか試してやるよ!)
シンはカートリッジを消費してキラに向かって加速し始めた。
何とかシンの斬撃を受けきったキラは予想以上のパワーに素直に驚いた。
(一撃が凄く重い…ヴィータと互角くらいか?接近されたら問答無用で叩き落されるな)
キラは痺れる両手の感覚を取り戻すことに専念したがシンはそんなキラにお構いなしに突っ込んできたので急いで迎撃の体勢を取った。
しかしシンに直撃させるつもりで放った一撃は空しく彷徨い直後に背後から強烈な一撃を喰らってしまった。
間一髪フリーダムが緊急で張ったオートの防御壁で何とかダメージを最小限に軽減した。
(高速で接近して残像を残して消えオールレンジから死角を狙う…フェイトから話は聞いていたけど…なるほど厄介だな。でも…)
キラは追撃してくるシンにドラグーンによる逆撃をし再度間合いを取ろうとした。
「僕にはもう通じない」
地面ギリギリでシンはブレーキを掛け衝突を免れた。
(いける、やっぱり近づきさえすれば俺にでも勝機はある)
シンはキラに一太刀浴びせられたことに僅かな勝機を見出した。しかし同様にキラもそのことに思案を巡らせその対応策をとった。
その対応策とは先程までの弾幕からより密な弾幕で接近を許さず相手の魔力を削ることと相手を挑発し集中力と思考力を削ぐこと専念した。
しかしこの消極的な作戦がキラにとって大きな誤算になろうとは自身でも想像もつかなかった…
今まで以上に苛烈な攻撃にシンは苛立ちを覚えた。喰らったとしても致命傷にはならないが如何せん数が多くシンを腹立たせるには充分であった。
シンの性格ならキレて集中力を乱し御しやすいとキラは踏んでいた。しかしシンはその予想に反して虎視眈々と反撃のチャンスを狙っていた。

 

(2つ目のアドバイスは我慢すること)
(………)
(そんな顔しないで、シンはいっつも惜しい所でキレて自爆するパターンが多いんだよ?)
(ぐっ…)
(キレたい気持ちを抑えて抑えてここぞという時に爆発させる…シンならきっともの凄い爆発力だよ)
(本当か?すっごく胡散臭いんだけど。それよりもっと具体的にどうすれば勝てるとか教えてくれよ)
(ダ~メ、そこは自分で考えないと)

 

(デスティニー、ソリドゥス・フルゴールを前方のみに集中させてくれ)
『後背と側面ががら空きになるぞ?』
(俺の頑丈さを忘れたか?)
『…タイミングは君の好きな様に』
シンは迫りくる砲撃を器用に避け、防ぎ、チャンスを待った。

 

端から見たらキラが一方的に押し、シンは防戦一方という風に見えたがキラにとっては予想外の連発だった。
自分が負傷している期間を考慮してもシンの成長スピードは異常だった。単純なパワーならヴィータ、スピードはフェイト
防御力はなのはに匹敵とまではいかないでも各々相当なレベルだった。シン・アスカという魔道師が思った以上に強い事と
意外と強い忍耐力、この2つがキラのプランを大きく崩し、思わぬ苦戦を強いられていた。
与えたダメージ量なら自分の方が多いが致命傷ではなく、一撃で簡単に覆させられる。
ここにきてシンに対して認識を改めざるを得なかった。
”彼は強い”
至ってシンプルだがこの4文字が全てを物語っていた。
キラがあれこれ考えている最中にシンはいきなりその場で止まる、というシーンが見えた。一瞬戸惑ったが直ぐにライフルを連結し
高火力を全てシンに向けた。着弾と共に大きな爆発、辺りを爆煙が包んだ。
「!!!」
爆煙を切り裂き猪突猛進してくるシンが頭に過ぎった時さっきのはシンのブラフだと気付き咄嗟に連結していたライフルを解除
サーベルに持ち替えた瞬間、目の前までシンの接近を許してしまいっていた。
「全っ然痛くねぇ!」
『デバイスへの損傷が増大中』
と半ば強がりな発言と共にキラの顔面を魔力でコーティングした左の拳で思いっきり殴りつけ、さらにキラに切り掛かっていった。

見るとシンは多少ダメージを喰らっていたが兎も角キラに接近することが出来た。
意識が飛びそうになりながらもキラはかろうじて体勢を整え距離を取ろうとしたが
「逃がすかよ」
「くっ」
一度捕まえた相手をシンは逃がす筈もなく執拗に接近戦を挑んだ。長身のアロンダイトをリーチの短いフラッシュエッジ2本に変化させ
キラに反撃する隙と逃げる隙を与えないように戦った。こうなったら立場は一気に逆転する。シンは元々軍属で格闘術にも優れており
少なくとも年単位で学んできた。一方キラはこちらに来てザフィーラやシグナムから数ヶ月ほど学んだ程度であった。
いくらスーパーコーディネーターとはいえ積み重ねてきた経験と年月が物を言い、自身の得て不得手の事もあり接近戦ではシンの方が一枚上手だった。
案の定キラはシンの攻撃が何処に来るか分かっていても体がそれに追いつかない状態だった。

 

「形勢逆転か…」
地上で眺めていたシグナムがそう呟いた。昨日戦った4人の内シンと同じ戦法を取ったのはシグナムにヴィータの二人だけであった。
しかしヴィータはキラに追いつくだけのスピードがなかった為簡単に振り切られてしまい、シグナムは時間の関係上倒すにまでは至らなかった。
(もっともあと数分戦っていたら間違いなくシグナムや後述の二人の勝ちであったが)フェイトは性格上そこまで非情に徹しられず
なのははそんなことをせずとも圧倒的火力で落とせる自信があった為使わなかった。キラは後に圧倒的火力と固い防御からなのはの事を
「もの凄く身軽なデストロイ」と評した。なのは本人は分からないだろうがこの事は決して言わなかった…

 

「ああなるとキラ君はキツイね。接近されると選択肢は逃げるかそのまま戦うかの二択になるけど接近戦を挑むのは分が悪い、かと言って
逃げようにも出だしの瞬間的なスピードはシンの方が速いから逃げられない。戦うにしてもキラ君にシンのソリドゥス・フルゴールを打ち抜ける魔法は
至近でのロングライフルでの射撃かクスィフィアスかカリドゥスくらいだね。あの状態で使えるのはせいぜいクスィフィアス程度だけど…」

 

キラの最大の泣き所は保有魔力が実力に反して少ないことだった。そして何でもある程度こなせるキラは良く言えばオールラウンダー、
悪く言えば特化しているものが少なく器用貧乏。魔力運用とフリーダムのシステムで火力不足を補ってきたがそれでも限界があった。
逆にシンは保有スキルにムラがあり何かと弱点も多いがそれを補って余りある長所があった。
そしてなのははまさか自分のしたアドバイスがここまで効果のあるものだとは思いもしなかったし気付いてもいなかった。あくまで暗示の様なもので
シンの感情を自制出来ればと思ってのものだった。

 

キラは打開策を思案しながらシンの猛攻を受け続けた。なのはの指摘通り今のキラにシンの攻撃を捌き一撃を入れるだけの余力も無く逃げることも儘ならなかった。
(この至近距離じゃドラグーンも撃てないしクスィフィアスは詠唱に時間が…何とかしないと)
現状を打破出来る策を未だ見出せずなかったが、皮肉な事にスーパーコーディネーターである事と能力のおかげでどうにか戦っている状態だった。
しかしそれもそう長くは続かない、ことさら勝負にこだわっていた訳ではなかったがここまで来て負けるのは嫌だ、戦うからには勝ちたい。
常人では集中力が切れそうな状況をひたすら耐え続けた。
(それに気のせいかさっきより攻撃が速くなってきている)
迫りくるフラッシュエッジを受け止めがら空きのボディに蹴りを喰らい吹き飛ばされた。
(違う、僕が遅くなってきているのか)
キラは致命的な事に気付いた。昨日の疲れが完全に癒えた訳ではなく万全の状態ではなかったがそれ以上にハイペースなシンとの戦いは過酷だった。
なのは達の戦いは緩急がありキラ自身比較的戦いやすかった、しかしシンは常に全力でペース配分なんてものはなくキラとの相性は最悪だった。
飛ばされた自分に一直線で向かってくるシンを避け無防備の背中にカウンターを見舞おうとしたが
「こういう使い方もあるんだよ!」
「!?」
背中の翼を広げ深紅色の魔力光を発しキラに叩き付け、そのままキラに平行して行った。
シンはこの時ほぼ勝ちを確信していた。このまま逃がさず接近戦を挑み続ければ勝てる、それが現実のものとなろうとしていることにシンは高揚した。
そこでキラに余計な事をさせる時間的余裕を与えない為に早めに止めを刺しておこうと考えた。
(デスティニー、エクストリームブラスト。これで決める!)
『了解』
(カートリッジ消費?…来る!)
キラは残像を残しつつ斬りかかって来るシンに目もくれなかった。
(……上!)
素早く右手をライフルに持ち替え頭上に銃口を向けた。それと同時にシンがそこに現れた。
「その高速移動じゃ軌道は変えられないよね?」
高速移動ゆえ軌道が変えられず尚且つ攻撃する僅かな瞬間タイムラグが発生する。その僅かな瞬間をキラは見逃さなかった。
目の前に銃口を突き付けられたシンは咄嗟に上半身を反らせ間一髪銃撃を避けた。しかし結果的にそれはキラに間合いを取らせる時間を与えてしまった。
キラは出来るだけ遠くまで逃げ、自身が現状使える高威力の魔法を惜しげもなく詠唱し始めた。
(ここで決めなきゃ僕に勝ち目は無い)
防ぎきれなくも無いが正直シンの残りの魔力も心許ない、だからといって喰らい続ける訳にもいかず避けながら折角のチャンスを潰した事に舌打ちをした。
「卑怯だぞ!攻撃範囲外から一方的に撃つなんて!」
相手の弱点を狙うのは至極当然でありシン自身今までそうして来たのだから卑怯者呼ばわりする資格はなかった。
『焦り過ぎたな』
「人事…みたいにおっと、言うなよ!」
シンは避けながら自分のデバイスに毒づいた。
「トール・ハンマーのチャージは?」
『いつでも撃てる』
「とは言っても…うわ、当てなきゃ意味無いしな」
射撃には自信がある、しかし魔法では勝手が違う。まして相手が相手である、威力が高いが連射の出来ない一撃必殺砲を当てるのは至難の技だった。
(例え近づけたとしても避けられそうだしな、そもそもそう簡単に近づけないか。いや待てよ…)

 

「デスティニー、俺がアイツに勝っている点は何だ?」
『今この状況で聞くことか?』
「いいから言ってみろ」
『バカ力とバカみたいな保有魔力、スピード、度胸、頑丈さだけだな』
「じゃあお前とフリーダム、どっちが頑丈だと思う?」
『質問の意図が分からないのだが…』
「直ぐに分かるさ!もう一回エクストリームブラスト」
『効かないぞ』
「そんなの分かってる」
またも残像を発生させながら迫りくるシンにキラはあまり効果がないと分かっているドラグーンによる一斉射撃で足を止められたらな、程度で撃った。
(…左)
キラは何か違和感を覚えながらライフルを構えた。そこには先程と同じくシンが現れた。
しかし今度は左手にトールハンマー、右手にアロンダイトとカートリッジのマガジンを持っていた。
(…?しまった!?)
キラはシンの意図を読み取り咄嗟にシールドを張ろうと左手を差し出した。
それとほぼ同時にマガジンをキラの目の前に投げ付けそれ目掛けてトールハンマーを至近で発射した。
凄まじい魔力の暴発と言っても差し支えないほどの爆発が起こった。
シンは辛うじてボロボロになりながら浮遊していた。
『システムに深刻なダメージ…防御壁で防いだから良かったものの…』
「そう言うな、俺の方がダメージ喰らったんだ。それにあちらさんはもっと深刻だろうぜ?」
地面に着地したキラはシンの言う通り咄嗟に防いだとはいえ間に合わ筈もなくかなりのダメージを負った。
「システムダウン…今ここでのリカバリーは不可能、片方は使えないか」
残った魔力でシンを倒せる術は限られてしまった。同様にシンもマガジンを殆ど使い切ってしまい余力が無かった。

 

「…俺は」
シンが口を開いた。
「あの日、病室でアンタが俺に言った言葉、俺なりに考えた」
「……」
「確かに俺は軍人であの時は戦争をしていた。アンタの言うことは分かる、多分正論だ。
でもいつだって正論が正しいとは限らない…特に人の命に関してはな。アンタはステラを…殺した」
シンは今までとは違い、怒りではなく悲しみで語っていた。
「これだけはどうしても納得いかないし、許せない…理屈じゃないんだよ!コレは!」
「…うん、その気持ち分からなくもない」(だから僕が出来る償いは…)
「構えろよ、口で言うよりこっちの方が俺の性に合う」
時として行動は幾百の言葉よりも雄弁にものを語る、キラもシンの気持ちを汲み、空に上がり右手のフリーダムを構えた。
(ステラ…俺に力を…狙うはこの一撃。俺は絶対…)
(チャージ完了、タイミングさえ間違わなければ勝てる。いや、絶対に…)
*1
先にシンが動いた。カートリッジを消費し高速移動でキラの目の前まで加速、そして残像と共に消えた。この事はキラにとっては既に想定済みであり、
全身の神経を研ぎ澄まし攻撃に備えた。
次の瞬間キラの目には宙を舞うアロンダイトが飛び込んできた。
(なっ!)
そしていつの間にかカリドゥスをチャージしていた右手のフリーダムをシンの左手で掴まれ、右手の掌を胸に押し当てられた。
本能的に危険を察知して負傷した左手で振り払おうとしたが間に合うはずも無く
「うおぉぉぉぉ!」
咆哮しつつパルマフィオキーナによる尋常ならざる魔力を無防備のキラに叩き付けた。無論キラが耐えられる訳も無くそのままに墜落していった…

 

薄れゆく意識の中で何とか上半身を起こし上空のシンを見据えた。
(何も感じなかった…彼の気が…)
攻撃の衝撃が肺まで達し呼吸がままならずキラは表情を歪ませた。
シンはゆっくり降りてきて先程投げたアロンダイトを拾い、キラに向かって歩き出した。
それを見たフェイト達はシンを止めに行こうとしたがそれをなのはは静止した。
「なのは!」
「大丈夫…シンを信じて」
一歩ずつ近付くシンに対してキラはデバイスを手放した。しかしシンはそのままキラを素通りし、フラフラと寮の方へ歩いていった。
「僕を…討たなくて…いいのかい?」
キラは途切れ途切れになりながらもシンに声をかけた。立ち止まりこっちを向いてシンは
「アンタを討ったところでそれは過去の清算にしかならない…俺が欲しいのはそんなものじゃない。
それにアンタを討ってステラが蘇るんだったら俺はアンタを今までに10回以上は殺していたさ。
俺はアンタの考えを否定するつもりも肯定するつもりも無い、好きにしたらいいさ。俺は俺で自分の生き方や答えを探す、邪魔さえしなければ
俺もアンタを邪魔するつもりは無い。それがあの時のアンタの問いへの俺なりの答えだ」
そう言い放ちシンは歩いていった。
「ふぅ…」
キラはそのまま地面に寝転び、慌ててフェイト達は駆け寄りキラの安否を気遣った。周りがキラに何か話しかけたがなのはの言葉だけが
やけに印象に残った。
「シンにフラれちゃったね?キラ君」
模擬戦は53分47秒、シンの残量魔力は11%、キラの残量魔力は8%。まさに死闘であった。
その後キラが目を覚ましたのは医務室のベットの上でシャマルにキツイ説教を受けた。
「もう!医務室の常連になんてならないで下さいね。今日じっくり休めば明日には魔力は戻るけれどダメージの方は多少残ります。
神経の方は気休め程度ですが治療しておきました」
「ホント二日続けてスミマセン…」
続けてフェイトも
「昨日は大丈夫とか言っておいて…始めからシンに討たれるつもりだったの!?大体キラは…」
その後も延々と続く説教で気が重くなるキラであった…
やっと落ち着いてキラはベットに横になった。
「僕は彼…シンやなのは達が羨ましい」
「ん?」
「僕なんかよりずっと魔法の才能がある…」
それを聞いたなのはが急にキラの前に屈み
「てい」
キラのおでこにデコピンを放った。
「痛っ!何するのさ?」
涙目になりながらキラはおでこを摩った。
「キラ君もシンも魔法を覚えてまだ半年も経ってないんだよ?それなのに魔道ランクはAAかそろそろAAA相当、大丈夫。自信を持っていいよ。
それにまだまだ二人は伸びる、これからも頑張ろう!」

 

次の日――
早朝錬の為練習場に向かおうとしたキラはばったりシンに出会ってしまった。しばらく無言だったが切り傷や殴られて痣になっているキラの顔を見て
「ひでえツラ」
「ん……」
「へっ、ざまーみろ」
そう言い放ち練習場に向かって行った。その後二人の仲はこれといって進展もなく今まで通りでたまたま同じ職場にいる程度の関係であったが
不思議とそれでも構わないと思う二人であった。
「ハイ、二人とも今日一緒に集まってもらったのはこれからの事について話しておこうと思ってね。二人とも昨日の模擬戦でそれぞれ自分に足りないものが
見えたんじゃないかな?今までは長所を伸ばすことや基本に比重を置いてきたけどこれからは短所も補っていく段階にいくね」
「具体的には何をするんだよ?」
「中、遠距離魔法を苦手とするシンはこれからわたしと付きっ切りで戦い方と対処法を一から叩き込んであげる。キラ君はデバイスに依存しすぎ。
キラ君自身のレベルアップと本格的に接近戦を覚えてもらう為にフェイトちゃん達が手取り足取り教えてくれるから。
勿論今まで通り長所と基本も鍛えるよ?」
それを聞いたキラは恐る恐る手を上げ
「なのは?僕達も管理局の仕事があるんだけど?」
「うん、わたし達もあるよ」
「ちょっと内容が凄すぎるんじゃ…」
「そうだね、二人共これからもの凄く充実した一日を過ごせるよ♪」
「「……………」」
二人は絶句し、これからの日々を想像すると身震いした。

 

夕方、やっと今日の練習も終わりこれからシャワーを浴び書類整理をして夕食を食べてベットで泥のように眠ろうとした二人だったが
「キラ君は夜はやてちゃんの所に行ってね?」
「何でかな?」
顔を引き攣らせながらキラはなのの方に振り向いた。
「何でもはやてちゃんがキラ君はこれからの部隊で作戦立案とか後方でも活躍して欲しいとかで部隊運用の事とか色々勉強を教えてあげるんだ、
だって」
「何で僕?」
「キラ君、視野が広いしそういうの得意そうだし。ちゃんと伝えたからね」
「…はい」
一人胸を撫で下ろしていたシンに
「シン、どうせ夜は暇だろう?今私は丁度非番で暇を持て余す。ちょっと付き合え」
シグナムのお誘いがかかった。
「えっと…何するんだ?」
「勿論コレだ」
そう言いレヴァンティンをシンに見せた。
「だよな~…」
『頑張るのだな』
こうして二人は地獄の訓練と任務を着々とこなしていくのであった。

 

男はガジェットで収集した映像データに目を通していた。部屋に誰かの気配を感じて背後に振り返るともう一人の男が立っていた。
「盗み見とは感心しないな、ノックくらいして欲しいものだよ」
「生憎とノックしようにもこの部屋にドアが無かったものでね、次回からは設置して欲しいものだよ」
「ふふ…」
次々と移り変わる映像の中で彼はある人物を見て鼓動が高まった。
「ほほう…何の因果か…フフ、フフハハハハ!」
「知り合いかね?」
「そうだね…ここまでくると運命的なものさえ感じてしまうよ」
「ほう…興味深いね。彼ともう一人がイレギュラーの存在だが…計画の妨げになるとは考えにくいが今ドゥーエに調べてもらっているところだよ」
「あまり彼を舐めない方がいい?私にとっては天敵さ……次回の作戦、私も出たいのだがね?」
「賛成出来かねるね、まだ君の登場には早過ぎる。それに武装も実用レベルまで調整出来ていない」
「使えるものがあればそれだけで充分だ。ナンバーズ相手では物足りないのでね、そろそろ私の実力を測ってみたいのだよ?」
「彼ともう一人は少なくてもAランクかAAランク程度、今の君では少々荷が重い」
「相手をするのは彼一人、時間稼ぎくらいは出来るさ。それに実践データを取るのも必要だろ?」
「それはあの”3人”で事足りる」
「ふむ…」
「焦る必要はない、いずれ時が来る。ラウ・ル・クルーゼ」
「期待しているよ?Dr.スカリエッティ」
時代は本人達の意思とは関係なく最悪の方向へと加速していくのであった…

 

次回予告

 

キラ「…!これが…管理局の…」

 

次回「闇が深くなるのは…」

 


*1 勝つんだ!