伊達と酔狂_第09話

Last-modified: 2008-08-08 (金) 23:06:33

「ドクター、ドゥーエ姉様から定時報告が届いてますが~」
「ああ、ありがとう。さっそく目を通させてもらうよ」

 

スカリエッティはドゥーエからの報告に目を通していると
気になる箇所を見つけた。
微笑を漏らし口の端を少し吊り上げた。

 

「クアットロ、すまないがクルーゼを呼んできてくれないか」
「はぁ~い」

 

「一体何かね?私に用事とは」
「君のとって吉報かどうかは分からないが例の彼、
キラ・ヤマト。どうやら管理局相手に何かしらアクション
を起こしているようだよ?」

 

その報告を聞いたクルーゼは口元を緩ませた。
「そうかい…。しかし一体何をしているかは分からないのかね?」

 

スカリエッティは諸手を挙げて首を振って見せ
「残念ながら痕跡が一切見つけられなくてね、だが何か
しているのは確かさ。それが君の思惑通りかは知らないが…」

 

クルーゼは暫く考えた後に
「そのドゥーエのISはこちらから指定したように
変装出来るのかい?例えば年齢や髪の色等」

 

そんなクルーゼの質問に対してスカリエッティは
「君は私を誰だと思っているのだい?そんなこと造作も無いよ」
「なら私の指定通りに彼に近付いて欲しいのだが…」
「ハニートラップかい?」
「当たらずとも遠からずかな。彼はある少女に
ちょっとしたトラウマを抱えている筈だから…
彼には少し堕ちてもらおうと思ってね」

 

そこへ今まで会話を聞くだけであったクアットロが
「なるほど~、つまりドゥーエ姉様は彼を監視しつつ精神的嫌がらせをするわけですね?」
クアットロはニタリとクルーゼに笑いかけ、クルーゼも同様に口元を緩ませ
「その表現は少し露骨過ぎるね、最善の手を尽くすと言っておこう。
それに彼女の存在は後々保険になる筈さ」

 

「だったらさっさっと近付いてドゥーエ姉様が誘拐すれば手間も掛からず楽なのでは~?」

 

クアットロの疑問に対してスカリエッティは
「私もそれを考えた、が計画の為に彼との実戦データがどうしても欲しいのだよ。
手っ取り早く入手する為にはまだ彼には向こう側にいてもらわないと困る。
だから今は泳がせておくよ、いつでも彼を好きなように出来るのだから…
しかし彼の…まさか今になって"アレ"を見ることが出来るとはね」

 

「ではドゥーエ姉様にはそのようにお伝えしておきます」
「ああ、頼むよ」
「それとラウ・ル・クルーゼ」
「何かね?」
クアットロは去り際にクルリとクルーゼの方に向き
「あなたみたいな考え方、嫌いじゃないですわ?」
「君にそう言ってもらえるとは光栄だね」
そう言い互いに笑みを浮かべながらその場から去って行った…

 

5月、朝早くから6人の訓練は開始された。特に新人4人は訓練開始から2週間が
経ったが未だに第一段階であった。それでも内容はシンやキラに比べれば
楽なものもだがかなりハードな内容であった。
しかも幸か不幸か未だに本出動が無く一日の大半を訓練に捧げられ
確実に実力を蓄えていった。

 

「じゃ、今朝はここまで。一旦集合しよう」
「「「「ハイ!」」」」
バリアジャケットを解除し、地上に降りたなのはの許にシンとキラも姿を現した。
「お疲れ様二人とも、その調子じゃ今回も派手にやられたみたいだね?」
ボロボロな二人の姿を見て笑いながらそう言った。
「アハハ…」
「まあな…」
乾いた笑いのキラと疲れきったシンは短くそう答えた。
「それに4人はチーム戦にだいぶ慣れてきたね」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「ティアナの指揮も筋が通るようになってきたよ。指揮官訓練受けてみる?」
いきなりの話でティアナは少し戸惑いながら
「い、いやあの。戦闘訓練だけでいっぱいいっぱいです」
「きゅ~、くきゅる?」
フリードが何かに気付いたらしく声をあげた。
「ん?フリードどうしたの?」
続いてエリオも
「何か焦げ臭いような…」
「ああ!スバル、アンタのローラー」
当のスバルは何の事か分からず
「へ?」
と足元を見てみると…
「うわ!やば!アッチャ~」
自作ローラーが煙を上げていた。
「しまった~。無茶させちゃった~」
「オーバーヒートかな?あとでメンテスタッフに見てもらおう?」
「はい…」
なのははそのままティアナに向き
「ティアナのアンカーガンも結構厳しい?」
「あ、はい。騙し騙しです」
シンは密かにニヤリと笑いながら
「どうせ使い手がメチャクチャな使い方だったんだろう、可哀想に」
「聞こえているわよ、アンタ」
『ならば私もその可哀想なデバイスに分類されるのだろうな』
急にデスティニーが二人の会話に割って入ってきた。
「どういう意味だよそれは?」
『言葉通りの意味だが?』
それを聞いたティアナはここぞとばかりに嫌味ったらしく
「アンタのデバイスも中々自分のパートナーについて分かっているわね」
「ぐっ!」
二人の子供じみた口喧嘩になのはは
「…二人共そろそろいいかな?」
表情はにっこりとしていたが声からはいつもと違う
"何か"を感じ取った二人は大人しく
「「はい…」」
「コホン…皆訓練にも慣れてきたしそろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかな?」
「新…デバイス?」

 

なのはと6人は隊舎に戻ろうとしたその時、一台の車が停まった。
「フェイトさん、八神部隊長」
「凄~い、これフェイト隊長の車だったんですか?」
スバルが瞳を輝かせている時、シンは一人ぼそりとで
「俺もそろそろこっちでバイク欲しいな…」
隣にいたティアナはそれを聞き逃さず念話で
(何アンタ、バイクに興味あるの?)
(ああ、まあな。こっちの世界に来てから給料をコツコツ貯めてそろそろ一台買える位の額は
貯まったんだけど何にしようかまだ具体的に決めてなくてな)
"こっちの世界"という発言を受けティアナはシンが別次元の人間であったことを思い出した。
別段シンの事に興味がなかった為詳しく聞かなかったがそれだけは知っていた。
(へぇ~。何ならあたしが選んであげようか?)
ティアナの提案を聞いたシンは怪訝そうな顔で
(お前が?事故車とか買わされそうだから遠慮するわ)
ティアナはワナワナと怒りながら
(人が善意で言ってやってるのにアンタは…)
「ほんならな~」
はやての一言でシンとティアナは慌てて敬礼をした。
そのまま6人は着替えてロビーに集合し、シャーリーの許へと向かった。

 

「わぁぁ、これが…」
「あたし達の新デバイス…ですか?」
各々の前にある自分達の新デバイスに心を躍らせた。
「そうで~す。設計主任は私。協力、なのはさん、フェイトさん、レイジングハートさんと
リイン曹長」
シャーリーが嬉々と説明をし始めた。
「はぁ…」
「ストラーダとケリュケイオンは変化無し…かな?」
「うん、そうなのかな?」
「違いま~す」
リインⅡがそう言いながらエリオ達の頭上に現れ4人に説明し始めた。

 

シンとキラは何か自分達だけ取り残されたような気分になったが
互いに会話するという事はなかった。
「ちょっとシン君いいかな?」
そんな中シンだけがシャーリーに呼び出され彼女の所へと行った。
「デスティニー用に調整された新しいプログラムが送られて来てね…」
「それって例の射撃用のか?」
従来はほぼ素人のシンへの負担を減らす為に自身の適正から接近戦重視であったが
今回のデスティニーのパワーアップにより待望の射撃魔法もデバイスの恩恵を
受ける事が出来るようになったのであった。
「うん、だからちょっとデバイス貸してね?すぐ終わるから」
シンは胸元に仕舞っておいたデスティニーをシャーリーに手渡した。
「それにしても大分時間が掛かったんだな…何ヶ月も前に頼んだのに」
「この子はちょっと特別でね…些細な変化でガラッと変わっちゃうから調整が難しくて…
それにまだ問題も山積みだし、フレーム強度とか」
「気難しいからなコイツ、ってお前シャーリーやマリーさんにも手を焼かせてるのかよ」
『…』
「相手がなのはさんとかだと大人しいけどね」
何かを含んだ様子で笑いながらもしなやかな五指でコンソールを操るシャーリーを余所に
シンは自分の愛機であるデバイスに
「お前でも苦手なものがあるんだな…」
『放っておけ』
(デスティニーの人格はシン君に由るところが大きいんだけどね)
一人ほくそ笑むシャーリーであった…

 

それからなのはを加え機能説明及び能力限定の説明を行った。
そして"その時"は急に訪れた。耳障りなアラームが隊舎に響き渡った。
「このアラートって」
「一級警戒態勢…」
「グリフィス君!」
なのははそれに微塵も動じることなくまず己の職務に専念した。
「はい、教会本部から出動要請です」
そしてすぐに隣のモニターにはやてからの通信があった。
「なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君。こちらはやて」
はやてから今回の件について詳細な説明がなされた。
そして一通り指示が出された後に
「キラ君にシンはなのはちゃんとフェイトちゃんの指示にしたがってな!」
「うん」「ああ!」
「ほんなら機動六課フォワード部隊…出動!」
「「「「「はい!」」」」」

 

「シャーリー!デスティニーは?」
「読み込み完了したけどいきなりぶっつけ本番じゃ使い物にならないよ?テストもまだ済んでないしじっくり調整しないと駄目だし
それにまだ使え…」
「大丈夫だ、悔しいけど俺の射撃魔法なんてまだまだ実戦レベルじゃないから大差ない!」
そんな言葉を受け呆気にとられてるシャーリーからデスティニーを奪い去る形でシンは駆け出した。
「そうじゃなくて…って、もう!無茶して壊したりでもしたら許さないからね~!」
シンはそのまま手を振り走って行った。

 

全員ヘリに乗り込みその巨躯を大空へと舞い上がらせた。
「新デバイスでぶっつけ本番になっちゃたけど、練習通りで大丈夫だからね?」
「はい!」
「頑張ります!」
「エリオとキャロ、それにフリードもしっかりですよ」
ちっちゃい上司ことリインⅡもこの時ばかりは新人隊員達から見ても頼れる存在であった。
「はい!」
「ハイ!」
「きゅ~」
「危ない時はわたしやフェイト隊長、リイン。それにキラ君やシンがちゃんとフォローするから」
ふっ、となのはは表情を和らげ
「おっかなビックリじゃなくって思いっきりやってみよう」
「「「「ハイ!」」」」
「うん」

 

なのはは緊張気味な最年少コンビの表情を窺った。
「大丈夫?」
エリオはキャロに問い掛けキャロも無理に笑顔を作り
「あ、ごめんなさい。大丈夫」
次の瞬間シンは二人の頭を優しく撫でた。
「大丈夫、二人には俺がいるから」
「シンさん…」
「危なくなったらすぐに俺を呼べよ?」
「大丈夫ですよ。いつまでも子供じゃないんですから」
エリオは笑って見せた。
「おっ、コイツ。言ったな」
シンはエリオを頭を軽く小突き笑いあった。

 

自分の新デバイスを見つめるティアナとスバルにはキラが
「大丈夫?二人共」
ティアナは急に声を掛けられことに驚いて
「ハッ、ハイ!」
若干裏声気味な声を出してしまい顔を真っ赤に染めた。
「あはは…あんまり緊張するのとか柄じゃないんですけどね…」
口ではそう言いつつもスバルには何処か余裕のようなものを感じるキラであった。
「なのは隊長から教わった事の7~8割を発揮すれば大丈夫、二人なら出来るから。ね?」
何の確証もないが不思議とその言葉に勇気を分けて貰った二人であった。

 

なのははそんなシンとキラを見て本来自分がそうすべきなのだろうと思いつつも
二人に感謝した。
そして目的地へ向かう最中ロングアーチから通信でガジェットの大群が現れたとの報告を受けた。
「ヴァイス君、わたしも出るよ。フェイト隊長と…」
なのはは後ろに振り向き少し考え
「あとキラ君の三人で空を抑える」
「ウッス、なのはさん。お願いします」

 

ヴァイスはヘリのメインハッチを開け、なのはとキラが飛べるようにした。
「じゃ、ちょっと出てくるけど皆も頑張ってズバッとやっつけちゃおう」
「「「ハイ」」」
「はい」
一人遅れたキャロになのはは
「キャロ、大丈夫そんなに緊張しなくても」
なのははキャロの頬を優しく包み
「離れてても通信でつながってる、一人じゃないから。
ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる
優しくて強い力なんだから、ね?それに…」
なのははシンの肩に手をポンと置いて
「頼れるお兄さんもいるし」
そしてなのははシンを真っ直ぐ見据えて
「シン、皆の事を頼んだよ」
シンは今までなのはに頼られる事はなんて一切なかった。それが急に新人4人を任せられたのである。
しかしその事に怖気付くことなく不思議と笑みさえ浮かんだ。
「ああ、任せておけ」
「うん、任せた」
二人は拳をぶつけ合い、そのままなのははハッチへと向かった。

 

「キラ君、行ける?」
「いつでも」
そう短く答え、二人して一気に飛び降りた。

 

『Standby, ready.』
「レイジングハート、セートアップ!」

 

「フリーダム、起動!」

 

バリアジャケットを身に纏い空を駆けて行った。

 

二人は敵との予想遭遇ポイントに向かう途中で
「随分と思い切った采配だね、なのは。僕も向こうに残ると思ったのに」
「そう?シンにとっては良い経験になると思うけど?
それにシンなら大丈夫、ちゃんと出来るから。心配なら今から戻る?」
自信あり気に話すなのはにつられてキラも
「冗談。アンタは邪魔だ、って言われて殴られるのが目に見えてるよ。
それになのはの言うとおり実力は折り紙付きだしね。とりあえず僕等は目の前の目標を」
「うん」

 

途中フェイトと合流し、万全な迎撃体制を取った。
「同じ空は久しぶりだね、フェイトちゃん」
「うん、なのは。キラも模擬戦以外では久しぶりだね」
「あの事故以来かな?」
キラが負傷した事故以来故意にではなく偶然が重なって
同じ任務に就く事はなかった。
(もう…あの時の僕とは違う)
「さっさとここを制圧して向こうの援護を」
「「うん!」」
三人は散開してガジェットの群れへと各々向かった。

 

キラは迫り来る光線を縫う様に避けなのは達に負けじとガジェットを屠っていった。
撃ち、切り裂き、貫き、破壊するその姿はさながら舞を舞うような華麗な動きだった。
無駄な動きを一切排除したキラらしいと言えばキラらしい戦い方であった。
(本人曰く疲れるから極力無駄な動きをしたくないらしく
それを聞いたなのはに体力不足を指摘され基礎メニューが増えた)

 

その一方、レリック回収の担当になった新人達とシンはリインⅡから作戦内容の説明を受け
各々降下準備に取り掛かっていた。

 

「よお、お前等でも緊張ってするんだな」

 

先程のなのは達のおかげで多少硬さが取れて
程よい精神状態であった。

 

「ア、アハハハ…」
「あたしはアンタやスバルと違って繊細なのよ」
「な、俺だって…」
それを聞いた瞬間ティアナはニンマリとした表情でシンの顔を覗き込んだ。

 

「へぇ~、アンタでも緊張とかするんだ?どういった風の吹き回し?」
「緊張って訳じゃないけど六課で初めての出動だしな。
それになのはにああ言われちゃあ…」
「ふ~ん」
「どうでもいいって顔だな、オイ」
「ん、まあね」

 

自分で聞いておきながらティアナにとってはどうでもいい事で、既に明後日の方向を
向いていた。

 

「エリオとキャロもあんまり無茶するなよ?って俺は偉そうに言える立場じゃないけどな」
こくんと頷く二人の頭をワシャワシャと撫で回した。
「それでも危なくなって誰にも頼れなくなったらな、叫べ」
「「叫…ぶ?」」

 

二人して同じ方向に首を傾げる様はなんとも微笑ましい状況であったが
生憎時間が迫っていた。

 

「ああ、最も心に鳴り響くものは声だ。何だっていい、思いっきし叫べ。
そうすりゃ心を揺さぶって不思議と勇気も沸いて来る」
「勇気…」

 

ぽつんと声を漏らすキャロであったがその声は誰の耳にも入らなかった。

 

『そろそろ降下ポイントだぞ、心の準備はいいか?』
ヴァイスからの通信で各々立ち上がった。

 

『それよりもシン、お前もやるようになったじゃねえか。
ちゃんと周りに声をかける気配りが出来る様になったとはねぇ』
ヴァイスからシンだけに通信が送られて来た。
『へ?…まあ…はぁ』
何のことかさっぱりなシンはとりあえず曖昧な返事をしておいた。
『…そうだよな。お前さんはそういう奴だよな。
いやなに、そういう事も必要ってこった。覚えておきな。
んで、さっきの話誰から聞いたんだ?なかなかいい事言うじゃねえか』
スバル達は先に降下を始め、残るエリオとキャロも手を繋いで一緒に飛び降りた。

 

『さっきの?ああ、アレ。どっかの誰かから聞いたことあるような無いような…』
『まさかお前、デタラメを教えたのか?』
『気の持ちようってやつさ。昔なのはに似たようなことされたし』
『嬢ちゃん達、純情弄ばれて可哀想に…っと、お前さんが最後だな、気ぃ付けて言って来い』
シンは勢い良くヘリから飛び降り声高らかに
「デスティニー起動!」
しかし一向に起動する気配は無く、徐々に高度が落ちてきて谷底へ紐無しバンジージャンプコースかと
思われた時にやっと起動し、大急ぎでブレーキし列車に降り立った。

 

「…オイ、デスティニー。そんな陰湿な嫌がらせは止めてくれ。やるなら堂々と…」
『私は何もしていない。どうやらプログラムに支障を来たしている様だ』
「マジかよ。ん?そういや出動前にシャーリーが何か言ってたな。たしかまだ…何て言ってたっけ?」

 

「アンタ、何楽しそうな事してんの?」
後ろからティアナとスバルが怪訝そうな表情で声をかけてきた。
今更ちょっとトラブルあって戦えません、とは言える筈も無く真顔で
「気にするな、俺は気にしない」
「はぁ…」
と心腹の友の口調で語り、若干引かれたが内心
(ヤバイ…マジでどうすっかなコレ?)
考えが纏まらない中けたたましい音と衝撃が3人を襲う。次の瞬間列車の天井が突き破られ
ガジェット達の一斉攻撃が三人を襲った。
「ここはあたし達に任せてシンはエリオとキャロのサポートに!行くよティア!」
スバルの言うとおりこの二人なら心配もなくこの場を任せられる。
エリオとキャロの二人も恐らく心配要らないが心情としては不安で、傍にいた方が
気が楽かもしれない。そう思ったシンは一切後ろを振り向かず二人のいる車両を目指した。

 

『シン君、聞こえる?』
『ああ、どうしたシャーリー?』
フラフラと不安定な飛行をするシンにシャーリーから通信が入った。
内容は敵の新型が現れた、しかもエリオとキャロの所に。
『こっちに来て正解だったな、これより排除に取り掛かる。それよりシャーリー、デスティニーなんだけど…』
『勝手に持っていった人の事なんて知 り ま せ ん !』
ブツリと一方的に通信を切られてしまい風鳴り。

 

「ご機嫌取りが大変そうだなこりゃ…そう言えば」
シンは今になって腰にマウントされているライフルに気が付いた。
そしてそれを手にとってしみじみと眺め
「今になってこの感覚が懐かしいとはな、平和ボケでもしたかな。
でもこの場合は良い事、か」

 

感慨に浸っていると無粋にもガジェットの攻撃がシンの体を掠った。
「ったく…お客さんがゾロゾロと。悪いけど今日は相手してやってる暇ないんでね」
ライフルを戻し背中のアロンダイト片手にその場をさっさと切り抜け二人との合流を急いだ。

 

ようやく合流予定ポイント付近に近付いた時シンは車両から投げ飛ばされるエリオを目視した。
「エリオ!!!くっ、デスティニー!ブースト全開だ!急げ!」
『今の状態では満足いく速度が出せるか微妙だ。それに距離が離れている。危険すぎる』
「大丈夫!俺がサポートする」
「シンさん!エリオく~ん!」
遠くでキャロの声が聞こえたが今はそんなこと気にしてる余裕は無かった。

 

背中の深紅の翼を広げ爆発的なまでの加速でエリオにドンドン近付いていく。
「エリオー!!!」
が途中から変化に気付いた。自分も落ちている、と。
「馬鹿デバイス!この大事な時に!いくら俺がサポートしたってお前のサポート無いと
俺はまだ一人じゃ飛べないんだよ!」
だが何とかエリオを抱き抱えることに成功した。
「何とかエリオだけでも…ってキャロ!」
気付かなかったがいつの間にかキャロも飛び降りていた。

 

      ――守りたい…優しい人を、温かい人を

 

      ――私に笑い掛けてくれる人達を、私に勇気を与えてくれる人達を

 

      ――自分の力で…

 

                 「守りたい!!!」
「シンさぁぁん!」

 

キャロは咆哮と共にシンに手を差し出し、シンもキャロに手を伸ばし掴んだ。

 

『Drive ignition』
その瞬間落下速度が低下し、辺りが優しい光に包まれた。

 

「フリード、不自由な思いをさせててゴメン。私ちゃんと制御するから…いくよ!竜魂召喚!」
より一層眩い光と共に環状魔法陣が形成され、キャロは詠唱を開始した。

 

「蒼穹を奔る白き閃光。我が翼となり、天を翔けよ…」
一体何が起こっているのか分からないシンと意識を取り戻したエリオは
ただただその光景を見ているだけしかなかった。

 

「来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」
先程のキャロの咆哮とは比べ物にならない雄叫びがシンとエリオを襲い、身が竦んだ。

 

だが気が付いたら白い竜の背中に三人はいた。
キャロはエリオを慈しむ様に抱き抱え、シンは振り落とされないようにしがみ付いていた。

 

エリオとキャロが初々しい反応をし合っていたが今はそれ所じゃ無く、野暮だがシンは間に割って入った。

 

「キャロ…」
「あっ!シンさん、ありがとうございました!」
そう言ってシンの両手を握り返すキャロにシンは何の事だかさっぱり分からず
「ヘ?…ドウイタシマシテ」
助けられたのは自分で感謝するのはむしろ自分の方であった。
「シンさんの言葉が、私に勇気を与えてくれたんです」
「あっ…」
シンはキャロの言わんとしている事に気が付いた。まさか自分の言葉にここまでの
効果があったとは嬉しい誤算であった。
「そっか、でも確かに俺にも届いたよ。キャロの勇気」
そう言って満遍の笑みになるキャロの頭を右手で撫で上げるシンは左手で
気になるソレを指差した。
「んで、コレは?」
「この子はフリードです」
「フリードって…チビ助!?ハハ、お、大きくなったな…」

 

自分の理解の範疇を超えた事実にシンは笑うしかなかった。

 

「シンさん!先ずはあの新型を…」
エリオは既に戦闘態勢を取っていた。
「AMFの範囲がもの凄く広くて装甲が硬いんです」
キャロも同じくやる気満々であった。
二人のそんな姿勢にシンも発奮し身を引き締めた。

 

「あの装甲形状は砲撃じゃ抜き辛いよ。僕とストラーダとシンさんとデスティニーでやる。
それでいいですよね?シンさん」
エリオの一言一言にシンは感心させられた。
「ああ、次はエリオが頑張る番だな。俺がお前の道を開けてやる。キャロはサポートを頼む」

 

「はい。我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を」
『Enchanted Field Invalid』
「猛きその身に、力を与える祈りの光を」
『Boost Up. Strike Power』
「いくよエリオ君、シンさん」
「了解、キャロ」「ああ、いつでも」

 

共に駆け、フリードの背から飛び降りた二人はキャロからのブースト魔法を受けガジェットへと
向かったが、途中アームケーブルと腕が二人に襲ってきたが

 

「邪魔なんだよ!コイツ!」
それらを事無げに全てシンがぶった切り、新型ガジェットの懐まで一気に間合いを詰め
アロンダイトでガジェット本体をそのまま串刺し
「エリオ!!!これで!」
シンは串刺しのままガジェットを持ち上げエリオの方に投げつけた
ピキッ
その最中何か嫌な音をシンは耳にした。

 

「一閃必中!」
カートリッジ2発を消費し、飛んでくるガジェットに向かい加速。そして
「でぇぇぇぇりゃぁぁぁ!
硬度を誇るガジェットを真っ二つにし、二人を爆煙が覆った。

 

「やった!」
キャロは一人安堵の言葉を吐き、表情を緩ませた。

 

無事レリックも回収し、列車を停め一同は初任務を終えた。

 

事後処理中シンはフェイトに手招きされた。
開口一番フェイトは
「エリオとキャロ…その、大丈夫だったかな?」
であった。あまりの過保護っぷりにシンは呆れ返った。
てっきり労いの言葉かとばかり思っていたので
思いっきり肩透かしを喰らう形であった。
「大丈夫だったよ。つーか俺にとっては驚きの連発だったよ。
キャロはこの一ヶ月ちょいしか見てないけど凄く成長したよ。心身共にな。
エリオとはそこそこ長い付き合いだけどアイツも立派な男になった。
アンタから巣立つ日も近いんじゃないか?」
「私としては嬉しいような寂しいような…」
こいつは絶対子煩悩になるな、とクックと笑っていると
「お~い!シ~ン。シャーリーさんが呼んで…」
「シン君!ち ょ っ と」

 

スバルの後ろから鬼のような形相のシャーリーが現れた。
「あっ、ヤッベ」
シンはそのままフェイトの後ろに隠れた。
「フフフ、大急ぎでデスティニーを検査したんだ。
そしたらホラ?フレームに大きなヒビが」

 

(そういえば最後の一撃の時何か変な音が…)
「それにシステムもエラーだらけ…元々馬鹿がつくほど無駄に大量の魔力保有の
シン君がブースト魔法受けたらデバイスにどれだけの負担が掛かるか…」
何気に酷い事を言われっぱなしのシンではあったが
「わりぃ…やっちまった」
謝った。明らかに自分に非があったので言い訳など一切せずに
「素直でよろしい。はぁ…これ直せるかなぁ」
「そんなに悪いの?シャーリー」
そう聞いたのはシンを後ろに匿ったままのフェイトであった。
「はい、取り合えず頑張ってみますけど…何処まで出来るか」
「マジかよ…」
「大体それもこれもシン君が――」
結局その後もネチネチと説教を受ける事になるシンであった。