別世界ver「キラ二人目 in自由 補正付き」「超高度迎撃試験 」

Last-modified: 2016-07-03 (日) 20:50:00

「キラ君、緊急事態よ!! オーブの監視衛星が、大気圏に突入しようとする
国籍不明の構造体を捕らえたわ!! すぐに迎撃して!!」
「わかりました、マリューさん!!」

 

キラは直属の上司とファーストネームで会話すると、マードックが待機状態に
しているフリーダムガンダムに、悠々と乗り込んだ。

 

「キラ=ヤマト、フリーダム――行きます!!」

 

 キラの全身を、打撃のようなGが包んだ。アークエンジェルを発進したフリーダム
ガンダムは、その有り余る推力を以って、数十トンの機体を軽やかに超高高度へと運んだ。

 

 フリーダムのモニターに、三個の目標が写る。センサーは、そのうちの一個に
NJCの反応を検知していた。――核武装の証。

 

「核を地球で使おうなんて――!! 戦争は――!! どうしてこんなことを――!!」

 

 フリーダムガンダムは、ハイマット形態で姿勢を安定させると、その全武装を
一斉に放った。モニターの中で、三個の目標が爆散する。帰還しようとしたフリーダム
の上空で、ミラージュコロイドを解いた四個目の目標が姿を表す。

 

「やめてよね――」

 

 フリーダムはくるりと振り向くと、手にしたビームライフルを放った。青い光が
電離層を貫き、最後の標的も爆散させる。

 

「――どうして、こんなところまで来てしまったのだろう」

 

 静かなフリーダムのコックピットで、キラは一人、呟いた。

 
 

 日付が変わろうかという深夜、オーブ空軍基地内のバーから、数人のパイロット
が出てきた。アルコールが入って赤くなった顔に、それぞれ満足げな表情を
浮かべ、つい先ほどまでバーで催されていた見物について語り合っている。

 

 事の発端はこうだった、翌日が非番の彼らがバーでリラックスしている
ところに、一カ月がかりの試験を終えた二人のパイロットが入ってきたのだ。
正確には、基地の名物パイロットである"またやってきた"ミゾグチ大尉が、
ムラサメ改に乗っていた"若造"キラ=ヤマト少尉を引っ張ってきた。

 

 普段から済ました態度を崩さない、美形の新人が酔っ払うところを是非見て
みたい彼らに軽くウィンクを飛ばしながら、ミゾグチはキラを端っこの席に
座らせると猛然と飲ませ始めた。「未成年ですから、お酒は――」と難色を示す
キラを「コーディネーターは15で成人扱いだって話だぜ」と端の席に座らた。

 

 先ずは試験の成功を祝って、と二人でビールを飲み干し、続いてロックを飲んだ
ことがないなんてパイロットとしてやっていけねえよ、とだましてウィスキーを
オーダーした。チェイサーをあおるキラに、これは基地のしきたりだ、飲むまで
試験は終わらねえんだとブランデーを注ぐ。顔色がどんどん赤くなり、反比例して
ろれつが怪しくなるキラに、互いのルーツに乾杯しようぜと言って焼酎を頼んだ。

 

 キラの顔色が赤に青に変転して言葉がおかしくなり、ふらふらしながら親友や
恋人の名前を絶叫し続けるにつれてバーの中のテンションは上昇を続け、ミゾグチ
とキラが飲み比べをはじめるにいたって最高潮に達した。口が軽くなったキラ自身の
手によって幼年期から今に至るまでの恥ずかしい秘密が暴露され、歓声が上がる
たび、乗りに乗ったキラが自分でグラスをあおった。 

 
 

 人の去ったバーの中には、机に突っ伏して頭から湯気を上げるキラと、最初
から最後まで飲み続け、なお涼しい顔をしているミゾグチ大尉、そしてグラス
を磨く店員の姿があった。

 

「いやあ、面白かったね。久しぶりに面白い坊主が入ってきたと思ったら、てんで
飲みに付きあわないんで、おじさんはらはらしちまったよ」
「大尉、飲ませすぎですよ」
「飲みすぎだとは言わないのかい?」
「誰も彼もが皆、大尉みたいなザルじゃないということです。ですがまあこれで、
彼もここになじむことができるでしょう。もう失う物はないですから」
「ああ、おれは坊主と楽しく飲もうとつれてきただけだぜ。でもまあ、このまま
ここに置いとくと、いろいろな物まで失ってしまいそうだから、そろそろ連れて
帰る事にするか」
「はい、大尉」

 

 顔なじみの店員は、心得たとばかりに、バケツ一坏の水をカウンターの上に置いた。
丁寧な事に氷が張ってある。ミゾグチはバケツを手に取ると、カウンターに
突っ伏したまま寝息を上げるキラの襟を少し開き、バケツの中身をキラの服の中に
流し込んだ。――一瞬の沈黙

 

「うわあああーーーーーー!!!!!!!」

 

 言葉にならない悲鳴をあげながら、キラがカウンター席から文字通り飛び上がった。
のどの奧から絶叫を迸らせつつ、背中に入った氷の塊を出そうとする。

 

「おお!! キラ少尉、目は覚めたか? 飲み足りないかもしれんが、ここはもう
店じまいだそうだ。部屋に帰るぞ」
「わああーーー!! 冷たい!! 寒いーー!!!!」
「冷めてはいるが、覚めちゃあいないなキラ少尉。――ほれ」

 

 ミゾグチ大尉はあくまで冷静に、バケツに残った氷水を今度はキラに頭から被せた、
再びキラの絶叫が響き、止む。

 

「何をするんですか!! ミゾグチ大尉!!」
「おお、正気に戻ったかい少尉。もう誰もいなくなっちまったからな、そろそろ撤退の
時期だ。いそがねえと、怖いお化けに悪戯されちまうぞ」
「それにしたって、水をかけることはないでしょう!! 心臓が止まるかと思いましたよ」
「何を言うんだ、少尉。パイロットたるもの、いつ環境の変化に曝される事になるか、
わかったもんじゃないからな。操縦席に穴が開いたときのために、こういった訓練は
大事だぞ、キラ少尉」

 

 バーを出ながら、ミゾグチは真面目くさった口調で説明した。しかしその顔は満面に
笑みを浮かべてこう言っている――まだまだだな、坊主。

 
 

 ミゾグチ大尉と別れ、キラは一人で基地内の自室へと歩いた。基地内を吹き抜ける
夜風が体を撫でるたび、背骨の奧から振るえが走って酔いが醒めていった。もやが
かかったような頭で、バーの中での自分の言動を思い直す。あやふやな記憶の中で、
すさまじい内容のジョークを絶叫していた気がする。

 

 濡れて冷え切った髪を撫でながら、キラは基地の空を見上げた。地熱と太陽光発電で
国内の一次エネルギーの殆どをまかなっているオーブでは、排気ガスが少なく夜間の
照明が節約されるため、晴天の頭上は満天の星に彩られていた。キラの視力は、夜空に
煌く光芒の中に幾つもの人工衛星と、それより遥かに巨大で遠くにあるコロニーを
見つけることができた。ぼうっとする頭で、現在の日時と向いている方角を思い出し、
そのコロニーがプラントであることに気づいた。

 

――プラント。コーディネーター達が住まう人工のふるさと、人の手による大地

 

 迎撃試験の一週間前、キラの親友と姉が交渉のために宇宙に上がったことを、キラは
思い出した。間が良いのか悪いのか、キラは試験を成功させてしまった。ザフトが開発
したという新型機の性能がいかなる物であろうとも、それらが地上に降り立つ前に迎撃
する能力がオーブにあると、証明してしまったのだ。情報はすでにある程度公開され、
ザフト、連合とも知ることとなっているはずだ。国家代表の任に就く姉は、それを交渉
材料として用いることができるはずだった。

 

「――――使わないんだろうな」

 

 独言の主語はキラの姉だった。キラは彼女――カガリ=ユラ=アスハが、根本的な
所で国家代表として適正がないと感じていた。直情的で、曲がったことの嫌いな彼女の
性格は、国家の代表としてオーブ国民の利益を追求するべきその役職に向いていない。

 

 そこのところの弱点――政治家としては致命的――を、少なくとも自分たち姉弟よりは
政治慣れしているはずの親友がサポートしてくれることを期待しながら、キラは自室の
ドアをくぐった。

 
 

 自室でシャワーを浴び、乾燥した私服に着替えると、書類の散乱する部屋の
椅子に腰掛け、酔い覚ましのミネラルウォーターを飲みながら、机に置かれた
PCの電源をいれた。一日の最後にメールチェックを行う、習慣的動作。

 

いくつかの些細な用事と、明日の予定が送られてきていた。メールを用途別
にそれぞれのフォルダに仕舞いこむと、キラは今日の日付の最後に、『T.M』の
名前を見つけた。メールを開くと、「from Tomoe=Marguerite」の一文と共に、
一通のビデオメールが添付されていた。

 

 プログラムを呼び出し、再生させる。青い空と、緑の深い農園を背景に、髪を
短く切りそろえた少女がカメラ=キラに向かって話しかけた。

 

『お久しぶりですわ――キラ。お元気ですか? こちらの天気は御覧の通り、
こんなによく晴れてますけれども、そちらには良い日差しがあるかしら?』

 

 画面の向こうからキラに向かって話しかける少女は、手に持った篭の中身
――まだ土が付いたままの野菜を、カメラのほうに掲げて見せた。

 

『今日は、育てていた野菜の収穫をしましたの。私、食べ物が土から育てられる
事は知っておりましたけれども、実際に取るのは初めてで、土の中からほら、
人参が出てくるのを見て、びっくりしてしまいましたのよ。――子供たちには
沢山笑われましたわ』

 

 すると画面の横から、幼い男の子が顔を出し、トモエねえちゃん5回もこけたん
だぜ、と付け加えた。少女が顔を赤くしながら、キラに向かった。

 

『もう!! ――私、人参を抜く時に、土に埋まっていた物ですから力を入れ過ぎ
ましたの。こんなことでは、私まだまだ知らないことばかりですわ』
『キラにーちゃん、次はいつ来るの? 早くこないと人参もジャガイモも全部
食べちゃって、キラにーちゃんにはピーマンしか残らないよ』

 
 

 さっきの男の子が、再び画面に顔を出しながら話しかけた。キラは休日の度に、
彼らに会うためにある島へ赴き、毎回十人以上の子供たちに取り囲まれ、
もみくちゃにされた。この子は特に仲が良い内の一人だった。画面の中で少女は
自分の手をカメラに近づけて見せた。指と爪の間にまで土が入り込んだ、土まみれの
手が、キラの部屋のディスプレイに映し出される。

 

『私の手、こんなに汚れてしまいました。プラントに居た頃は、絶対にこんなことは
ありませんでしたわ。――でもね、キラ……わたくし、こんな事がとても嬉しくて
ならないんですの』

 

 泥沼の戦争が多大な犠牲の後に、ようやく停戦合意を得た後、少女は背中まで
あった髪を切り、名前を変えた。今は信頼の置ける人物のもとで、隠遁生活を
送っている。

 

『キラ、今頃はどこかの空に居るんでしょうか? ここで飛行機を見つけるたびに、
皆がキラの事を思い出していますわ。カガリさんとアスランは、もうプラントに
着いたかしら? 私はここから微力ながら、マルキオさんと一緒に、皆の無事を
祈っていますわ――――』

 

 モニターから聞こえてくる、遠くの島の風の音に身を包まれながら、キラは椅子に
もたれて眠りに落ちていった。

 
 

「キラがムラサメに乗っていたら」 新人スレ旧まとめ ――シンは闇の中、夢想する。(仮)