勇敢_第09話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:40:19

スカリエッティのラボ

 

:訓練室

 

辺りが薄暗いという事を除けば、管理局で使われている物と変わりない訓練室に、三人の人物がいた。
その内二人は戦っており、残りの一人は二人の戦いと、展開されている端末を交互に見ながら、キーボードをかなり速い速度で捜査していた。
訓練室で戦っている一人、ノーヴェが固有能力『エアライナー』で空中に光の道を作り、走り抜ける。そして
「でりゃあああ!!!」
気合と共に飛び降り、脚につけた固有武装『ジェットエッジ』のスピナーを回転させ、戦っている相手ウェンディ目掛けて蹴りを放つ。
ウェンディは射撃で牽制しようとするが、その考えをすぐに捨て固有武装『ライディングボード』を構え、防御態勢を取り衝撃に備える。
その直後、ノーヴェの蹴りがライディングボードに直撃し、金属が激しくぶつかりあう音が訓練室に響く。
「くそ・・・・・・硬てぇ・・・・・」
ライディングボードを粉砕する勢いで放った蹴りが押しとどめられている事に、苦々しく呟くノーヴェ。
一方、ノーヴェの蹴りを防いでいるウェンディはライディングボードを持つ手に力を入れ、
「うおりゃあ!!」
ライディングボードをおもっきり横に払い、ノーヴェを吹き飛ばす。
ウェンディはすぐに盾を構えなおし、吹き飛び、空中浮遊しているノーヴェ目掛け直射弾を放つ。
だがノーヴェも黙って喰らう筈も無く、空中で体を捻り、すぐにエアライナーを展開、空を走りぬけ直射弾をかわすが、
「そうは問屋がおろさないッス!!」
ニヤつきながら続けて誘導弾を放つ。
「げっ!切り替え早!!」
砲撃の切り替えの早さに驚きつつも、エアライナーで作った道で空中を駆け抜けながガンナックルで正確に狙い撃ち、どうにか全部を破壊するが
「・・・・・・ノーヴェの負けだね」
キーボードを捜査している少年、ヴェイアが呟く。その直後、設置弾に囲まれ悔しそうに負けを認めるノーヴェの声が訓練室にこだました。

 

「あ~くそ~!!」
悔しそうに呟くノーヴェと
「いや~勝った勝ったっス~」
ライディングボードを掲げ、笑顔で喜ぶウェンディ。そんな二人の所にヴェイアが近づいてくる。
「二人とも、ご苦労様、今日の訓練はお終いだからゆっくり休んでね。ウェンディ、ライディングボードを借りるよ」
そう言い、ライディングボードの裏の開閉部分を開け、端末と接続し、調整を開始する。
「また調整するんスか?もう十分だとおもうんスけど?」
ヴェイアの行動に疑問を感じるウェンディ。ウェンディからして見れば、ライディングボードの調整は十分な物であった。
特に、射撃系統の切り替えの速さはロールアウト時とは比べ物にならないくらいにスムーズに行う事ができ、
先ほどの戦闘の様な早期切り替え使用が可能なレベルまでになっている。
「うん、実用的にはね。だけど皆の固有武装はそれぞれの戦闘パターンにあわせた調整を行うことで、結果的には
皆に勝利を、そしてみんなを守ってくれる。特にウェンディの固有武装は複合的なところがあるからね、しっかりしないと」
端末を操作しながら答えるヴェイア。
「だけどウェンディはスゴイね。複合武装って便利な反面、扱いはとても難しいんだ。それを軽々使いこなせるなんて」
「いや~、ヴェイアの調整のおかげっスよ~」
褒められた事に照れ笑いを浮かべるウェンディ。

 

「だっけどヴェイアはすごいよ。PS装甲だっけ?ライディングボードに使われてる装甲。ぶち壊す勢いで蹴ったんだけどビクともしなかった。
考えたのはヴェイアなんだろ?」
色が変化したライディングボードの表面を軽く叩きながら尋ねるノーヴェ。
「ちがうよ。僕は『こういう装甲があった』ってことをドクターに話しただけ。むしろ説明だけで作っちゃう所か、
弱点まで改善した物を作ったドクターのほうがすごいよ」
「なんだ?弱点って?」
「PS装甲は実体弾なんかの物理的攻撃には驚異的な防御力を誇るけど、エネルギー兵器などには特に大した防御力を持っていないんだ。
この世界では魔力による攻撃が一般的だから僕の世界で作られたPS装甲では防ぎきれない、ドクターはその問題を改善したんだ。どうやったかは分からないけどね」
途中で端末の操作を止め、ノーヴェを見据えながら答える。
「ここで問題、実はもう一つ弱点があったんだけど、何だかわかるかな?」
急に出されたヴェイアの問題に考え込む二人
「ヒント、これはPS装甲だけじゃなくて全ての装甲に共通する事。そして、この弱点が改善されなかったらライディングボードは壊れてたかも知れない事」
さらに考え込む二人。腕を組み、一生懸命考え込む二人に笑みがこぼれるヴェイア
「はい、時間切れ。さっきも言ったけど、PS装甲は物理的攻撃には驚異的な防御力を誇るけれど、
着弾時の衝撃までは無効化する事は出来ない。これは防御魔法でも言える事だね。」
待機状態のため、今はメタリックグレイの色に染まっているライディングボードを見据えるヴェイア
「むしろ防御力が高い分、通常装甲なら壊れて吸収・拡散させる衝撃をそのまま通してしまうから内部の構造や、防御している
ウェンディにも大きな衝撃が加わってしまうんだ。その結果、ライディングボードに異常が発生してしまう事があるかもしれないし
ウェンディにも少なからずダメージを与えてしまう」

 

ちなみに、このPS装甲の弱点を突いた武器がカナード達の世界で開発されたMSに搭載されている。『開発破砕球「ミョルニル」』 である。
エネルギーを喰うという問題もあったが、彼女達の動力からしてみれば、まったくと言って良いほど問題にはならず弱点としては加算されなかった。

 

「ドクターはそこも改善したんだ。ホント、どうやったかは知らないけれど。現にノーヴェの蹴りを防いだ時に衝撃とか伝わってきた?」
「そういえば・・・・・全然」
先ほどの戦闘を思い出しながら答えるウェンディ。
「だけど、ここまで万全なら正に無敵じゃん?」
ヴェイアの話しを聞いたノーヴェが思ったことを尋ねる。だがヴェイアはノーヴェの質問にかぶりを振る。
「そうでもないよ。『驚異的な防御力』を誇るけど『完全』じゃないし、実体盾だから防げる部分も限られてる。
僕からしてみれば『絶対無敵』や『絶対大丈夫』という事はあるとは思えないんだ」
「これで良し」と言い、端末の操作を終え、片付けに入るヴェイア
「だけど、皆の固有武装を少しでも皆の癖や戦闘パターンに合わせて『絶対無敵』は無理でも『絶対大丈夫』に少しでも近づけるようにするのが、僕の仕事かな?」
ライディングボードの裏の開閉部分を閉じ、ウェンディに返す。
「さて、これでライディングボードの調整は完了。ノーヴェのジェットエッジも外装をPS装甲にするから、後でドクターの所に行ってね」

 

ちなみに、彼女達の基礎フレームにもPS装甲を使うという提案が出たが、それを実行すると恐ろしく時間がかかってしまうので保留となっている。

 

「わかった。で、ヴェイアはこれからどうするんだ?ああ、セッテ達の教育か・・・・・体、大丈夫か?」
ここ最近、ヴェイアが休んでいる所を見ない事に、心配をするノーヴェ。ウェンディも同じ気持ちなのか、表情を曇らせる
「心配してくれてありがとう。でも僕は基礎教育だけだから、戦闘(プシュー)に関してはトーレさんが担当してくれるし」
「まぁ、トーレ姉は一種の堅物バトルマニアだからな~、基礎教育は無理だろ~」
「そうっすねぇ~、それは同感ッス!」
「「ハハハハハハハハハハハ」」
二人は声をそろえて笑う。だが、ヴェイアは顔を引きつらせ二人の後ろを指差す。

 
 

何かと思い、二人は笑いながら後ろを向くと、そこにはトーレが腕を組んで仁王立ちしていた。とびっきりの笑顔で。
その姿に顔を引きつらせ固まる二人
「(ヴェ・・ヴェヴェヴェヴェイア!なんでトーレ姉がきたこと言わなかったんスかぁ!!!)」
ウェンディが念話で抗議をするが
「(いや・・・僕が喋っている時に扉の開閉音はしたでしょ。『プシュー』って)」
そういえばそんな音もしたなぁと思いつつ、今はこの状況を打破する事を考えるが
「二人の考えはよくわかった・・・・・・これから親睦を深めるために実戦さながらの訓練を行なおうか」
二人の肩を握りつぶすかのようにガッシリと掴むトーレからは逃げる事は出来なかった。
「ぼ・・・僕はそろそろ行きますね」
「ああ、3人とも準備は出来ているぞ。それとこれがおわったら休め、命令だ」
そう言い、笑顔でヴェイアを見送るトーレ、ヴェイアは捕まっている二人の助けを求める視線に絶えながら、
「わ・・わかりました。二人とも・・・がんばって・・・ね」
そそくさと訓練室を後にした。

 
 

機動六課隊舎

 

:訓練場

 

ウェンディとノーヴェがトーレにこってり絞られている頃、機動六課ではギンガを含めたフォワード組の午前の訓練が終わり
今は隊長組が訓練室を使用していた。陸専用空間シュミレーターにより、森林にセットされた空間で
「おりゃああああ!!」
「はぁあああああ!!」
気合と共にぶつかり合うヴィータとカナード、上空で数回の激突をした二人は一度、互いに距離をあける。
地上ではそんな二人の戦闘の様子を端末を捜査しながらリインフォースが見ていた。
「アイゼン!フォルムツヴァイ!」『Explosion』
ヴィータはグラーフアイゼンをラケーテンフォルムに変形させ、ジェット噴射により自身を回転させる。そして
「ラケーテン、ハンマァァァァァー!!」
カナード目掛けて突撃を開始する。
回転しながら迫ってくるヴィータにカナードはザスタバ・スティグマトを放つが、ヴィータはその攻撃を物ともせずに突撃してくる。
「うおりゃあああ!!!」
至近距離まで近づいたヴィータは、カナード目掛けてグラーフアイゼンを叩きつける。だが、カナードも黙って喰らう筈も無く
「アルミューレ・リュミエール展開!」
アルミューレ・リュミエールを展開し、ラケーテンハンマーを防ぐ。双方の盾と矛がぶつかり、激しい音と光が辺りを襲う。
「くっ・・・・また・・・硬くなった・・・・な・・」
さらに硬くなった事に苦々しく呟きながらも、アルミューレ・リュミエールを叩き割ろうとするヴィータ。
だが次の瞬間、ヴィータが見たのはアルミューレ・リュミエールごしにザスタバ・スティグマトを構えるカナードの姿だった、そして、

 

                    ガガガガガガガ

 

ヴィータの体をザスタバ・スティグマトの魔力弾が直撃し、ヴィータを吹き飛ばした。
吹き飛んだヴィータに接近し、カナードはザスタバ・スティグマトに搭載されているロムテクニカを振り下ろすが、
「っ・・・なろぉ!!」
ギリギリで防御魔法を張り、どうにかダメージを軽減させたヴィータはすぐに態勢を立て直し、
ロムテクニカの斬撃をグラーフアイゼンで防ぐ。鍔迫り合いとなり、火花が激しく散る。

 

「ったく・・・あんだけ防御力があるのに、内部からの攻撃は素通りするなんて・・・・インチキだぞ!」
「フッ、そう言うな、展開範囲が狭い事と魔力をやたら喰うというデメリットがある。だがさすがだな、瞬時に防御魔法を張って中和させるとは」
そう言い、カナードはヴィータとの鍔迫り合いを解き、大きく間合いを取り互いに次の攻撃に備える。
「だったら・・・そのアルミ何とか諸共、叩き壊してやる!」
ヴィータはカートリッジをロードし、ラケーテンフォルムからギガントフォルムに変形させる。
「アイゼンの方が壊れないように気をつけるのだな。それと、いい加減名前を覚えろ!!」
突っ込みながらも両腕にロムテクニカを構えるカナード。
互いを見据えた後、二人とも獰猛に微笑む。そしてその直後、上空での激突が再開された。

 

「だっけど、アルューレ・リュメエールを武器として使用するなんてなぁ~」
訓練が終わり、遅めの昼食を取るために食堂に向うカナード達。
ヴィータは今回の訓練でカナードが使用した技について話し出した。
「ああ、アルミューレ・リュミエールの強度は知っての通りだ。硬い盾も研ぎ澄ませば強固な刃になる。
お前やシグナムのような接近戦を得意とする相手対策の技だ。それと・・・・・いや、もういい」
名前の間違いを突っ込もうとしたが、途中で諦める。
「確かに、ロムテクニカはナイフサイズで小回りが聞くし魔力を圧縮している分頑丈だ。だがリーチに問題がある、それを改善するための技か?」
今回の訓練を見学してたリンフォースが尋ねる。
「ああ、だが結果的にアルミューレ・リュミエールを使用する技だ。魔力消費に関してはどうにもならん。
だから斬る瞬間にだけ展開させる様にしている。結果的には、まだ上手くいっていないがな」
アルミューレ・リュミエールによる斬撃は、結果的にはアルミューレ・リュミエールを使用してるため、魔力消費が大きい。
それを改善するために、相手を斬る瞬間に展開し、斬り終わった瞬間に解除するという方法を取っていた。
この方法なら展開時間を最小限に抑え、魔力消費も抑える事が出来るが、未だに上手くいかず、
今回の模擬戦では、その隙をヴィータに突かれ、カナードはアイゼンの直撃を受ける事となった。
「まっ、訓練なら暇な時に付き合ってやるぜ、だけど今回はアタシの勝ちだから昼飯おごりな。無論デザート付きで」
「約束だから仕方が無い、リインフォースもどうだ?まだ食べていないのだろう。付き合ってくれた礼だ」
「そうか?なら甘えよう・・・・・デザート付きでいいか?」
控えめに聞くリインフォースに笑いながらOKをし、3人は食堂に向った。

 
 

機動六課デバイス整備室

 

お昼を少し過ぎた頃、カナードはハイペリオンに関しての相談を六課に滞在することとなったマリーにするため、デバイス整備室を訪れた。
室内に入った所、マリーの姿は見当たらず、データーの整理をしていたシャーリーに居場所を尋ねるカナード。
「出かけたのか?」
「うん、スバルとギンガを連れてクラナガンの医療センターに。何?ハイペリオンのこと?私じゃ不満なの~?」
ジト目でカナードを睨むシャーリー。マリーほどではないとはいえ、整備は勿論、デバイス関係の事には自身があるシャーリーは少しカチンときていた。
「まぁ、確かにあいつにハイペリオンを見てもらうために訪れたのは確かだ。だが、
俺は腕に信頼が置ける奴にしかデバイスのメンテナンスなどは任せない。今のところはマリーとお前だけだ」
遠まわしに褒められた事に、自然と顔がにやけるシャーリー
「クラナガンの医療センターか・・・・・・分かった、俺から出向こう」
「急ぎの用?マリーさん達ならあと3時間位したら帰ってくると思うけど?」
「ああ、確かめたい事があるのでな。今日は午後から町に出ようかと思っていた所だ、丁度いい」
そう言い「お土産よろしくねぇ~」というシャーリーの見送りの声を聞き流し、クラナガンの医療センターへ向った。

 

ここでカナードは偶然知る事となる。スバルとギンガの体のことを

 
 

数時間後

 

医療センターの駐車場の中を歩くカナードとマリー、スバルとギンガは買い物があるらしく先に医療センターを後にしていた。
二人とも車に乗り、スバルとギンガとの待ち合わせ場所に向う。
「だけど・・・二人の体のことを知っても、あまり驚かなかったね」
車を運転しているマリーが助手席で腕を組みながら座っているカナードに尋ねる
「ああ・・・・ギンガはともかく、スバルに関しては唯の人間ではないと思っていた」
「えっ、どうして?」
マリーの問いかけに、カナードは数秒間を置き、答え始める。
「以前、あいつが高町に憧れを抱いている理由をランスターに聞いた事がある、まぁ、正直唯の暇つぶしだったのだがな。
4年前に起きた大規模な空港火災で取り残された所を助けてもらったのがきっかけだそうじゃないか?」
カナードの問いにマリーは頷き答える。
「ストレートな質問だが、なんでスバルは生きていた?」
「えっ?」
「気になった後で調べてみたんだが、火災の規模は空港を包むほどの規模だった。救助に関しても消防隊の防護服では中に突入する事すらできなかったらしい。
高町達魔道師がいなかったら、かなりの人数が死んでいただろう」
「うん。カナードの言う通りだよ」
「そんな中、スバルは炎上が激しかった中央部分に取り残されていたと聞いた。当時のあいつは子供で、魔法さえ使えなかったそうじゃないか
消防隊の防護服でも危険な熱量に、どうして絶えられた?」
カナードの問いにハッとするマリー
「ギンガならまだ納得がいく。あいつは陸士候補生だったらしいからな、自分で防御魔法を使って耐えることも出来た筈だ。
だが、スバルはそれが出来ない。ここの魔法は『技術』として定着されているから、魔力はあっても基礎も知らない奴が
いきなり魔法を使えるとは思えん。デバイスを持っていたのなら別だがな・・・・・そうなると可能性は絞られてくる」

 

実際、昔のなのはやはやて、カナードやプレアも基礎は知らなかったが、デバイスのサポートがあったため、魔法が使えている。

 

カナードが話し終わった後、車内は沈黙に包まれる。数秒後、その沈黙をカナードが破った。
「だが、あいつらはすごいな・・・・・俺が否定して、拒絶した生き方を普通にしている・・・・」
話し終わった後、急に欠伸をする。
「何?寝不足?」
マリーは微笑みながら尋ねる
「ああ・・・・そんな所だ。悪いが六課に着いたら起こしてくれ、それと例の件、無茶だと思うが試してくれ」
そう言い、目を閉じるカナード
「わかったわ、おやすみ」

 

数分後、待ち合わせ場所に着いたマリーはスバル達を乗せ、機動六課隊舎に向うため車を走らせた。
「あっ、マリーさんにカナード、チョコポット食べます?」
先ほど買ってきたお菓子を二人に勧めるスバル
「あっ、ありがとう。信号が赤になったら貰うね。カナードは寝てるから後のほうがいいかな」
その直後信号が赤になり、チョコポットを食べるマリー。その光景を微笑ましく見つめるギンガ。
「だけど、カナード驚きませんでしたね、私達の体のことを知っても」
スバルがマリーにチョコポットを渡したついでに、助手席で眠っているカナードを見据えながら尋ねる
「うん、私もそう思う。体のことを知っても『そうか』だけだったし、その後『お前達はすごいな』って言ったけど・・・」
「私達の体の事か『すごい』ってことかな?」
ナカジマ姉妹がカナードの言葉に疑問を抱いている姿をバックミラー越しに見たマリーは、カナードの言葉の意味を話し出す。

 

先ずはあまり驚かなかった理由を話し、その内容に納得をするナカジマ姉妹。そして
「『お前達はすごいな』って言葉の意味だけど・・・・・これは・・・カナードの過去に関係してるの・・・・」
「カナードの・・・・・過去ですか?」
ギンガはスバルを見るが、スバルも知らないのか頭を振る
「そっか・・・・はやてちゃんは話してないんだね・・・・でも良いかな・・・話しても・・・・聞きたい?」
マリーが静かに二人に問いかける。その直後、沈黙が車内を支配する。
「・・・・・聞きたいです」
沈黙をギンガが破った
「正直、カナードの過去に触れても良いのか・・・・抵抗はあります。でも、カナードの言葉の意味を知りたいです」
「私も、ギン姉と同じで、カナードの言葉の意味を知りたいです」
ナカジマ姉妹はしっかりと自分の意思を答えた。
「わかった、じゃあ・・・・話すね。先ずはカナードが異世界の人間ということは知ってるよね?」
マリーの問いに頷く二人
「じゃあ、どんな世界だか知ってる?」
「そういえば・・・どんな世界かは聞いた事が・・・・・・」
スバルの呟きに、ギンガも頷く。
「カナードの世界はね、戦争をしていたんだ・・・・・・普通の人間『ナチュラル』と遺伝子を操作して生まれた人間『コーディネーター』で」
「遺伝子を・・操作ですか?」
「うん、遺伝子を操作する事で容姿や・身体能力、頭脳が高い人間が生まれる事ができるの。男女の識別は勿論、
肌や瞳の色を変えることも出来る。『非人道的だ』という意見もあったんだけどね・・・親は優秀な子供、自分の好みの子供を求めたんだ。
でも、中には遺伝的な病気をなくすために、子供には丈夫で健康に生きていてほしい、そんな願いを込めてコーディネーターにした人もいるよ」
信号が青になり、車を走らせる。
「カナードはコーディネーターなんだ。だけど、人間の母親から生まれたんじゃない、人工子宮を用いて人工的に生み出されたんだよ」
マリーの言葉に驚く二人。
「『最高のコーディネイター』を生み出すために、向こうの世界の研究者達によってコーディネートして生まれたのがカナード。
だけど『先天的能力が理想レベルに達していなかった』という理由で失敗作扱いされて・・・・人体実験とか・・・色々・・・・」
マリーは途中から言葉を発するのを止め、黙ってしまう。
「・・・・酷い・・・・」
ギンガが拳を握り締め、声を絞り出すように呟く。
「そんなの・・・酷すぎますよ!!カナードには・・・・なんの罪も無いじゃないですか!!そんな、大人の身勝手で!!(スバル!」
スバルは感情に任せて叫ぶが、ギンガがそれを止める。
「あっ・・・ごめんなさい・・・・私・・・・」
「ううん、スバルの気持ちは当然だよ・・・・・・続けるけど、良いかな?」
マリーの問いかけに二人は小さく頷く
「そして何年かが過ぎて、カナードはこんな考えを持つようになったんだ。『最高のコーディネイターを倒せば、自分が最高のコーディネイターになれる』って
そのために、彼は自分を鍛えて、実験にも耐えて。兵士として戦うようになってからも戦って、戦って・・・・・そして同時にこう思うようにもなったんだ。
『失敗作の自分の能力は戦う事にしか、生かす事が出来ない』って。正直そんな考えは間違ってるよね、現に本人は今はそんな考えを捨ててる。だけど私は思うんだ。
この間違った考えは、当時のカナードが考えた生きる目的じゃないかって」
マリーの言葉に納得する二人。特にスバルはカナードの過去が最近聞いたエリオの過去と似ている事に気がついた。だが、エリオにはフェイトさんがいたが、
当時のカナードには彼を優しく包んでくれる人はいなかった。そんな中で生きていくには『生きる目的』を見つけなければ無理なのではないか。
「だけどね、そんな考えは間違ってるって、必死になってカナードを説得した子がいたんだ」
そう言い、再び信号が赤になった所を見計らって車内の端末を操作し、ある少年の顔を映し出す。
「プレア・レヴェリー君。カナードと同じ世界の出身の子だよ。歳はエリオやキャロと同じ位だね」
映し出されたプレアの写真を見る二人

 

「なんか・・・・とても優しそうな子ですね」
スバルが第一印象を言い、ギンガも同意見なのか頷く。
「プレア君はね、カナードの考えや生き方を否定したんだ。『戦うために生まれたわけじゃない』『誰もが何かを決められて生まれたりはしない』って。
だけどカナードも自分の考えを捨て切れなかった。だから二人は戦った。プレア君は自分の思いを伝えるために、カナードは勝利し、自分の考えを確固たる物にするために」
「それで・・・どうなったんですか」
「結果的にはプレア君が勝ったみたい。だけどね、決着が付いた直後、事故が起きて二人はこちらの世界に飛ばされたんだ。なぜ魔法が存在しない世界で次元転送
が起きたのか、原因は未だに分からないけれど。そしてカナードは当時の八神部隊長の所に、プレア君はアースラに転送されたんだ、十年前の出来事だよ」
信号が青になり、車を右折させる。
「はやてちゃん達が大きく関わった『闇の書事件』が起きたのはそれからすぐかな?関係者の所にいた二人はその事件に大きく関わった、最初は敵対して、
最後には協力して、結果は無事に解決。リインフォースさんが今生きてるのも二人のおかげだね」
「えっ、それって・・・・どういうことですか?」
「リインフォースさんは闇の書の管制人格だったんだよ。だから遠からず暴走して、はやてちゃんを苦しめることを知っていた。だから自ら消滅しよとした。
それをカナードが止めて、プレア君が説得したんだ。だけど聞いた話だけどカナードの止め方がすごくてね、攻撃魔法でリインフォースさんを吹飛ばして
無理矢理止めたんだって」
その方法に唖然とするギンガ、だがスバルは妙に納得していた。

 

ティアナのクロスミラージュの第2形態『ダガーモード』の実戦訓練はカナードが担当している。実際、ナイフのような短剣での戦闘は
シグナムよりカナードの方が慣れており、シグナムも認めている事からカナードが担当する事となったのだが、
いざ訓練風景を見てみると、顔面パンチをするわ、わき腹に蹴りを放つわ、容赦なく斬りつけて服をボロボロにするわ・・・・・遠慮が全く無かった。
だが、ティアナ自身は実戦さながらで、遠慮なく戦ってくれるカナードの訓練メニューには満足しているらしく、今でも続けている。

 

「暴走に関しても、プレア君が解決手段を持っていて、シグナムさん達のような守護騎士として生きていく事が出来る様になったんだ。だけど
リインフォースさんは消滅を望んだ、『主を殺めることしか出来なかった自分が生きながらえるなど』って、そんな彼女にプレア君はこう言ったんだ。
『王道ではない生き方をしてみてはどうですか』って」
「王道ではない・・・・・生き方?」
「『道なんて自分で選ぶもの。王道ばかりが道じゃない』管制人格という本来の生き方じゃなくて、一人の女性、はやてちゃんの家族としての
王道ではない生き方をしてみてはどうかって、カナードが二人を凄いっていったのは、二人が王道ではない生き方をしているからだよ」
「私達が・・・ですか?」
確認するようにギンガが尋ねる。
「戦うために生まれた戦闘機人という生き方じゃなくて、普通の女の子として生きてる事、運命に縛られない生き方をしている
そんな、自分には真似出来なかった生き方をしている二人を凄いと思ったんだね、カナードは」
マリーは話をいったん区切る。再び沈黙が車内を支配する。
「でも・・・・」
その沈黙をスバルが破った
「私達が王道ではない生き方が出来たのは、お父さんやお母さんがいてくれたからです」
スバルの言葉にギンガもしっかりと頷き
「スバルの言う通りです。父さんや母さんは私達を人間として、自分達の娘として育ててくれた。だから、今の私達がいます」
自分の素直な気持ちを言った。

 

マリーが運転する車が、機動六課に近づいた頃
「あの、そういえばプレアく・・・プレアさんは今はどうしてるんですか?十年経ってますから今はなのはさん達と同じ歳?」
プレアの話を聞き、一度は会って見たいと思いマリーに尋ねるスバル。だがマリーは沈黙する。そして
「プレア君はね・・・・・・・亡くなったの」
マリーの言葉に声を失う二人

 

「プレア君もね・・・・普通の人間じゃなかったんだ・・・・クローンだったんだよ。さっきも言ったよね、カナードの世界は戦争をしているって。
彼はある兵器を運用するために、それを使える人物のクローンとして作られたんだ」
マリーは一旦区切るが、二人が黙っているため、話しを続ける
「だけど、プレア君は自分の意思で定められた生き方を、兵器としての生き方を否定した。そして『平和に暮らしたい』『人々の平和な生活を守りたい』
そんな生き方を選んだ。『アストレイ』・・・・・本来の生き方ではない、王道ではない生き方を」
「凄いですね・・・・プレア君は」
ギンガが素直な感想を呟いた。
「だけどね・・・・・・運命って・・・残酷だよね・・・・・・」
マリーは声を絞り出すように話し始める
「プレア君のクローニングは・・・・・不完全だったんだ。だから細胞の崩壊が、とても早くてね。
この世界に来た時に形成されたリンカーコアの魔力によって防いでいたんだけど・・・限界があった」
車内は鎮まり返り、対向車線を走る車の音が車内に響く
「そして・・・・こちらの世界に来て二ヶ月も経たない内に・・・プレア君は息を引き取った・・・・カナードとリンディ提督、ヴィータちゃんが最期を看取って」
「そんな・・・そんなことって・・・・・あんまり・・だよ・・・」
スバルが声を絞り出すように呟く。そんなスバルの肩を抱き寄せるギンガ
「その後、カナードは一度自分の世界に帰ったんだ。プレア君が成し遂げられなかったことを、自分がするために。
そして帰ってきた。だけど、カナードは4ヶ月しか自分の世界にいなかったんだけど、こちらでは10年も経っていたんだ」
「えっ?10年ですか?他次元間での時間の経過は変わらない筈なのに・・・」
『信じられない』と言いたそうな顔をするギンガ
「以前、帰ってきてから直にハイペリオンの整備を頼まれたんだ。その時にね、カナードはこう言ったんだ。
『10年経っても、普通に家族として自分に接してくれるはやて達に会えて、本当に良かった』ってね」

 

数分後、車は機動六課に到着しようとしていた。
「さて、そろそろカナードをおこさ(起きてるわ・・・・・馬鹿者が」
突然のカナードの声に驚く三人
「え・・え~っと・・・いつから?」
マリーが控えめに尋ねる
「ほぼ全部聞いていた。隣でベラベラと喋られては寝られん」
カナードは目を開け、窓から見える景色を見ながら言い放った。
「カナード・・・あの・・・その・・・」
何を言っていいのか分からず、言葉を詰まられるスバル
「まぁ、マリーが話さなくても俺から話そうと思っていた。だが、一つだけ約束しろ」
そう言い、後ろを向き、二人を見据えるカナード
「マリーが最後に言った言葉、あれだけは誰にも言わないでくれ。特にはやて達には」
「えっ・・どうして?」
素直に疑問を口にするスバル、だがギンガは意味を理解したのか納得した顔をする
「・・・・・聞くな!分かったな!!」
そう言い前を向くカナードと必死になって笑いを堪えるマリーとギンガ、スバルは未だに理解が出来ず、考えていた。
「あのねスバル、カナードは皆に聞かれるのが恥ずかし(黙れといっている!!」
答えを教えようとするギンガをカナードが大声で遮る。
そんな態度をとるカナードに我慢できず笑ってしまうマリーとギンガ、二人の笑い声が車内にこだました。

 
 

スカリエッティのラボ

 

:ヴェイアの部屋

 

「う・・・ん・・・・」
スカリエッティに宛がわれた部屋で目を覚ますヴェイア。大きく伸びをし、こり固まった筋肉を解す。
「時間は・・・・よく寝たなぁ・・・・・・」
自分の睡眠時間に感心した後、のどの渇きを覚えたヴェイアは備え付けの冷蔵庫からスポーツドリンクを出し、飲み始める。
飲み終えたスポーツドリンクを冷蔵庫にしまった時、来客を告げるブザーが鳴る
「はい?どうぞ」
そう言い、ドアの方を向くヴェイア、するとそこにはディエチが立っていた。
「あっ、ヴェイア。やっと起きたんだ?」
「うん、さっきね。もしかして何度か尋ねてきた?だったら悪い事したな・・・・」
申し訳なさそうな顔をするヴェイアにディエチは慌てて手を振る
「何言ってるの、ここの所、ヴェイアは忙しかったんだから休まないと」
ディエチの気遣いに笑顔でお礼を言うヴェイア
「それで、どうしたの?」
「ああ、ドクターが話しがあるって。寝てたら起こす必要は無いって言ってたけど」
「ドクターが?わかった、すぐ行くよ」
そう言い、着替えるために上着を脱ぐヴェイア、だが途中で手を止め、ディエチの方を向く
「あの・・・・・・恥かしいな・・・・・」
控えめに抗議するヴェイアにディエチは顔を真っ赤にして部屋から出て行った。

 

「待っていたよ、ヴェイア」
ヴェイアを迎えるスカリエッティ、側にはスカリエッティの秘書の役割をしてるウーノがおり、同じくヴェイアを迎えた。
「あの?話というのは?」
早速本題を聞くヴェイア
「ああ・・・・ウーノ、ヴェイアにあれを」
スカリエッティの言葉に頷き、ウーノがヴェイアにある物を渡す
「これは・・・・キャッシュカード?」
「端末に挿して確認してみて」
ウーノに言われた通り確認をしてみる、すると、一生遊んで暮らせるような金額が表示された。
「あの・・・・これって?」
戸惑うヴェイアに、スカリエッティが説明を開始する。
「我々がこれから行なう事は、知っているよね?」
「ええ、管理局地上本部と、機動六課を襲撃するんですよね」
確認するように答えるヴェイア。
「そうだよ、そしてスポンサーである評議会の連中とも縁を切る。結果、私達の目的を成功させても、我々は悪人扱いになってしまうだろう」
淡々と話すスカリエッティにウーノは悲しそうな表情をする。
「だが、君は別だ。君には私は勿論、姉妹達が世話になった、だかこれ以上関わる必要は無いよ。
このお金は感謝の気持ちと思って受け取って欲しい。君まで悪人になる必要は無い」
話しが終わり、沈黙が支配する。
「・・・・・ふざけないで・・・・・ください」
その沈黙をヴェイアが破った。

 

「僕は、貴方のことを知ってしまった。もし、管理局が発表しているような人物でしたら、協力なんかしませんでした。
ですが、真実は違った。だから僕は協力しています。」
そう言い、スカリエッティを真っ直ぐ見据える
「僕は大怪我をしている所を貴方達に助けられました。正直、最初は恩返しのつもりで貴方達に協力していました。
ですけど、貴方の本当の気持ちを、目的を知ってからは、自分の意思で貴方に協力をしてきました」
そして今度はウーノを真っ直ぐに見据える
「それに、ウーノさん達ナンバーズの皆さんとの生活はとても有意義でした。僕には家族がいませんでしたから、お姉さんや妹が出来たみたいでとても嬉しかったです」
ヴェイアの言葉にウーノは驚くが、すぐに微笑みヴェイアを見据えた。
「ですから、お願いです。僕も協力させてください。貴方の目的を実現するために、ナンバーズの皆さんの様に、僕の力を使ってください!お願いします!!」
ヴェイアは深々と頭を下げた。
「・・・・馬鹿だね・・・・・君は・・・・」
スカリエッティが小さく呟き、ヴェイアを見据える。
「・・・本当に・・・・・馬鹿だよ・・・・・だけど・・・・・・私はとても嬉しい。人に心から感謝をするのは姉妹を除けば君が始めてだ。
ありがとう。これからもよろしく頼むよ、ヴェイア」
嬉しそうに、微笑みながら答えた。

 

「ヴェイアには・・・・・感謝しないといけませね」
ヴェイアが退室した室内でウーノはスカリエッティに尋ねた
「ああ、彼には勿論、君達姉妹やルーテシア達にもだよ」
そう言い、椅子の背もたれに体を預け、体の力を抜く。
「・・・・・君や姉妹には話していなかったね」
呟く様に、話し出すスカリエッティ
「前に一度、任務中のドゥーエを呼び出して全員をメンテナンスしたことがあっただろう。
あれはね、君たちの体に私の記憶を受け継いたクローンを仕込む筈だったんだよ」
スカリエッティの話の内容に、ウーノが頷く
「ええ、私達ナンバーズの隠された役割として、私やドゥーエのような初期稼動組は存しております」
「実はね、その作業はやっていないんだ」
スカリエッティの発言に驚くウーノ
「ヴェイアに止められたよ、右ストレートを喰らってね。よくよく考えてみたら愚かな事を行なおうとしたものだ。
君達を一つの道具として使用しようとしたんだからね。彼が言っていたよ『彼女達も女性です!彼女達が愛した相手の子供を生ませてください』ってね」
「ヴェイアが・・・・」
「だからウーノ、私は絶対に捕まらない。目的を達成させるまでは、絶対だ!だから改めて頼む、力を・・・貸してくれないか」
ウーノを見据え、尋ねるスカリエッティ
「勿論です。ですが、一つお願いがあります」
そう言い、スカリエッティに近づくウーノ
「私は・・・ドクターのクローンではなく、ドクターの子供を望みます。ですから・・・・私を・・・愛して・・・ください」
二人以外、誰もいない部屋で、二つの影が一つに重なった。